黎明のフリーレン   作:新グロモント

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閑話:過去編(50数年前、居候フリーレン)④

 ボンドルドは、一ヶ月の時間をかけて冷静さを取り戻していた。

 

 落ち着いたところで二人は、身だしなみを整えて客間で向き合って座る。ボンドルドは、なぜフリーレンが不機嫌なのか、あまり理解していなかった。だが、心当たりが無いかと言えば嘘だ。出来る事は、全てやりきったのだから色々とあるだろうなとは思っている。

 

「申し訳ありませんでした、フリーレンさん。やはり、一瞬でした。この一ヶ月、思い起こせば本当に一瞬…………おや、どうされました?」

 

「子作りっていったよ。なんで、こんな事をしたの。怒るよ」

 

 この一ヶ月何度も、止めてと言われたがそういうプレイの一環だとしか思っていなかった。事実、1000年間鍛え上げた人類の叡智は、エルフにも勝る。この手の分野でボンドルドを上回る事は、あのゼーリエでも無理だ。経験値的な問題で。

 

「本当に、お気に召しませんでしたか?その割には……いいえ、何でもありません。杖をしまってください。必要な事です。エルフという種は、絶滅危惧種。私も長い人生の中で、エルフの子供を見た事がありません。だから、子作りにおいても今回のデータは後世に残すべき大事な物だと思います。そこは、ご理解頂けますよね?」

 

「…まぁ、それはそうだ。私も自分より若い子を見た事はない。でも、子供はキスしたら出来るんでしょ。人間も同じで、キャベツ畑に産まれるとか、コウノトリが運んでくる。あ、あんな凄い事する必要なんてなかった」

 

 ボンドルドは、フリーレンが何を言っているのか理解できない。子供がキャベツ畑で取れる?コウノトリが運んでくる? 何処の世界の常識かと疑う。そんな世界があってたまるかと。

 

 キスした翌日に、キャベツ畑で子供が産まれるシーンなどシュール過ぎる。それこそ、ヤバイ世界だ。それが現実なら、魔族は人類の村など襲わないだろう。幾らでも人間が食える。

 

「キャベツ畑で子供が産まれる!? コウノトリが運んでくる!? 実に、愉快な世界です。魔法がある世界なのですから、無いと言い切れないのが恐ろしい。フリーレンさんが外で恥をかかない為にも真実を教えます。子供は、女性のお腹から産まれます」

 

「えっ!? お腹から、赤ちゃんが……。嘘でしょ!? 」

 

 フリーレンの顔が真っ青になる。

 

 自分の身体からあんな大きいものがどうやって産まれると。フリーレンが考えられた方法は三種類だ。

 

 パターンA:口から出てくる。ピッコロ大魔王的な出産方法

 パターンB:腹を割って出てくる。エイリアン的な出産方法

 パターンC:股から出てくる。哺乳類的な出産方法

 

 サイズ的な問題で不可能と考えから必然的にパターンBだと考えたのが彼女の結論だった。世の中、回復魔法という便利な物がある。一つの街に僧侶が一人は居ることから、破裂した後に回復させていたのだろうと推測を立てた。

 

 産後に子供と母胎が死ぬ可能性があるという話をフリーレンは思い出し、戦々恐々する。

 

「本当です。私は、フリーレンさんに嘘はつきません。人間は、この方法で出産して増えています。エルフの方については、資料すら残っていないので分かりませんが肉体構造から考えるに同じです。後世の為にも、貴方の身体で記録を残しましょう。共同研究です……お嫌ですか?」

 

「必要な事か、エルフの数が居ないからな。でも、無理矢理したら、ねじ切るよ」

 

 ボンドルドは、無理矢理でなければよいのかと、誘い受けされたと思ったが賢者であったので助かった。

 

 この一ヶ月で切り札を使わなかったのに、今それをいいますかと思うばかりだ。

 

「勿論。私は、フリーレンさんの味方です。昔も、今も、これからも。色々と不安はあるでしょう。しかし、私がサポートしますので安心してください。これでも、出産や子育ての全ての経験があります」

 

「そっか……うん?出産? それって、今の話の流れじゃ女性しか」

 

 なぜ、男性であるボンドルドが女性しか経験する事が無い出産を知っているのか。男性が産めるなら、男性に頼みたいとすらフリーレンは思っていた。

 

「今は、多様性が重要視される時代です。戦士は男性、魔法使いは女性などといった固定観念はよくありません。男性で出産経験がある人が居ても不思議じゃありません。人間、やれば出来ない事なんて少ない。ここに実例が居ますので、間違い有りません」

 

「そっか、やれば出来る。いい言葉だね。また、一つ人間を知れた。じゃあ、ボンドルドが代わりに産んでよ。私、お腹裂かれたくないから。ボンドルドは耐久力あるし、腹が割けた程度じゃしなないし、回復魔法もある適任だ。データを取るために協力は惜しまないよ」

 

 フリーレンの発言に、ボンドルドの脳内で天使と悪魔が戦っていた。

 

 この無知なエルフを騙すのは簡単だ。口車に乗せれば後数年くらいは淫靡な生活を送れる。と悪魔が囁く。

 

 信頼を得るのは大変だが、失うのは一瞬だ。正しい性教育をするべきだ。今まで、性被害が無く無事であった事の方が奇跡。ここで、一人の男として、愛する女性のために正しい事をしてこそ男です。貴方は、誰ですか?ボンドルドでしょう?ならば、答えは決まっています。と天使が囁く。

 

「私とした事が危うく目先の利益を優先するところでした。フリーレンさん、貴方にはこれから数日間、正しい性教育をします。このまま一人旅を続けると、何時か大変な事になりそうで気が気でありません」

 

「私、お姉さんだよ。今更そんな事しなくても大丈夫」

 

 ボンドルドが、アンブラハンズ♀達を呼んだ。このあまりにも酷い性知識を正す必要がある。世の中、性病とかもあって大変なのだからそう言う知識も覚えて貰わないといけない。

 

 ボンドルドが教えても変わらないのだが、アンブラハンズの正体を知らない為、同性である者達に役目を託した。フリーレンは、両脇を抱えられて別室に連れて行かれる。飛行魔法より大切な物があることを教えるため、皆が心を鬼にする。

 

 手の掛かる娘を育てている気分になるボンドルドだが……その娘に手を出した時点で重罪だ。

 

………

……

 

 それからしばらくの月日が流れた。

 

 夕食を前に、フリーレンの手が止まる。彼女の要望通りの食事が並んでいるのに、食事が進んでいない。

 

「おやおやおや、どうされました?」

 

「ボンドルド。昨日重くなってなかった?」

 

 昨晩(意味深)の事を思い出すボンドルド。少しお腹の膨らみがあり興奮した記憶があるが…その分を差し引けば、何時も通りだと思っていた。

 

「何時も通りです。妊娠二ヶ月目のお腹の子の分は誤差です。後で、保湿クリームとオーガニックオイルのマッサージも準備します。妊娠線が残ってしまうと、綺麗な身体を損ないます」

 

「これ、本当に大丈夫なの?」

 

 日々の健康状態をしっかり記録に残しつつ、フリーレンは自らの身体の異変や感じた事なども記録に残す。後世の為に、エルフの為にと。彼女としても、イドフロントで色々研究できるし、衣食住が整っているし、お腹の事を除けば悪くないと感じている。

 

………

……

 

 更に月日が流れ、ボンドルドは嫌な予感がした。

 

 フリーレンがお腹の子に対して、愛情という物を感じていない可能性だ。これにはボンドルドにも原因がある。共同研究と謳ってしまった事が彼女の逃げ口となっていた。

 

 しかし、悪阻も酷くなり、今のフリーレンに愛情云々を言える雰囲気ではない。せめて、産まれてきた我が子を見て気持ちを改めてくれる事を祈るばかりだった。この段階まできたら、ボンドルドに出来る事は少ない。

 

「フリーレンさん、子供には親が必要だと思いますか?」

 

「どうだろう。私は一人の方が長かったから、別にいなくても何とかなるんじゃない。今は平和な時代だから。うん? どうしたの、ボンドルド。お腹に手なんて当てて」

 

「……いいえ、ただ触りたくなっただけです。来月には、出産が控えております。夜更かしは程ほどにしてください」

 

 ボンドルドは、フリーレンの部屋を出た。

 

………

……

 

 フリーレンは、その日、魔王討伐より酷い苦しみと疲労を味わった。事前に、鼻からスイカが出る痛みと聞いていたが、言い得て妙な例えだと感じている。

 

 この世に生を受けた新しいエルフ。

 

 フリーレンの横には清潔な布にくるまれた小さな赤子。フリーレンの手を握るボンドルドが、少しずつ回復魔法を使い体調整えているお陰で一般的な初産にしては負担は少ない。

 

「よく頑張りました、フリーレンさん。貴方がエルフの歴史を変えました。ありがとうございます」

 

「……あんまり、可愛くない。それより、疲れたから暫く寝る」

 

 

 その日から、フリーレンは徐々にストレスを感じる。初めての育児でよくある育児ノイローゼ。

 

 好きだった事に時間が割けず、夜泣きに対応、削られる睡眠時間。敏感な赤子は、母親の雰囲気を察して徐々にアンブラハンズの方に懐き始めた。それが、何より許せなかった。こんなに頑張っているのに思い通りにならない。

 

 いつしか、彼女は限界を迎える。

 

 娘の二歳の誕生日を目前に、フリーレンはイドフロントを出る決意をした。どうせ、自分が居なくても娘は育つ。

 

「止めないの? ボンドルド。娘を置いて出て行くんだよ」

 

「フリーレンさん、初めての事ばかりで大変だった事は理解しています。娘に愛情を抱いて頂きたいと思い、任せすぎました。そんな私に、貴方の行動を止める権利はない。ですが、これだけは覚えておいてください。ここは、貴方の家で、娘が待つ場所です。私達は、何時でも貴方の帰りを待っております」

 

 フリーレンには、まだ子育ては早かった。これは、ボンドルドのミスだ。

 

 研究者としては立派な資料を残したが、母親としては落第点だ。だが、失敗から学ぶ事は多い。ボンドルドは、それに期待した。

 

「……気持ちの整理が出来たら、いつか帰ってくる。後、コレを子供に渡しておいて。中には、皆で撮った写真が入ってる。かなり気合いを入れた封印魔法で開かないようにしている。子供が開けられるようになったら向き合うから」

 

「手間が掛かる大きな子供です。分かりました。私から渡しておきましょう」

 

 ロケットペンダントを受け取ったボンドルド。

 

 ボンドルドとアンブラハンズ達に見送られ、フリーレンは中央諸国を巡る旅へと戻る。

 




ヨシ!!
これで、辻褄も多少あったはずだ。
細かい事はいいんですというお気持ちでお願いします。



この投稿で53話目だと思うと、頑張ったと自画自賛してしまった。
新刊はよ!

次は、閑話(ゼーリエとプルシュカの文通) の予定です。

本作品の今後の展開について、アンケートのご協力のお願い。どんな話で続けようか、読者様のご希望を窺えればと思っています。

  • 女神の石碑編normal ※週刊誌+独自
  • 女神の石碑編another(原作世界線)
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