大陸魔法協会の北部支部。
一級魔法使い試験以降、ゼーリエは中央諸国聖都シュトラールに戻らなかった。何時でも戻れる為、後回しにしている。エルフは、時間が有り余っており、何事も後回しにできる。10年でも100年でもエルフにとっては、些細な時間だ。
ゼーリエは、大陸魔法協会で象徴的な存在。雑務的な事は全て彼女の弟子達が対応する。やる事と言えば、弟子達への対応と近隣を荒らす魔族掃除程度だ。
そんな姿を何十年と見てきた彼女の部下達。だが、最近になりゼーリエが普通の服を着るという衝撃的な変化があった。今までは、下着のようなペラペラな服だったので目のやり場に困る若い連中がおり、この変化に良い意味でも悪い意味でも泣いた連中がいる。
ゼーリエの日常は、魔法の研鑽。弟子達に分け与えた魔法を再取得する事にも余念が無い。後は、希に来る問題への対応。ゼーリエの元にまで届く問題など、余程の事だ。大凡は、大陸魔法協会に所属する魔法使いや彼女の弟子で片が付く。
今日は、そんな希にある問題がゼーリエの元にやってきた。秘書官の一人が、困った顔をしてゼーリエの元に持ってきた一通の手紙。王侯貴族であろうともゼーリエを動かす事は至難。それ程までに実力と権力がある。
「手紙?それを私に持ってきてどうする。誰からだ? 紙切れ一枚で私を動かせるとでも思っているのか」
「その……レルネン様やゲナウ様にもお見せしたのですが、手に余るとの事でした。ゼーリエ様にご判断をして頂きたいと」
レルネンの手に余る。それは興味深いとゼーリエは思った。弟子達の中で上澄みである最初の一級魔法使い。フリーレンにも一撃食らわせる狂犬が困る内容とは何なのか。
「興味がわいた。見せろ」
ゼーリエに手紙を渡した秘書官が退室した。
手紙には、子供の字でゼーリエお姉ちゃんへと書かれている。その宛名を見ただけで、誰が書いたのか一発で分かってしまうゼーリエ。他の者達が対応に困るのも当然だ。中身も検分できないし、無かった事にもできない。
「だから、敬え。様を付けろ様を。ボンドルドの奴は子供の教育もできんのか」
ゼーリエの人生において、同族の子供から手紙なんて貰った経験はない。たった50年程度しか生きていない子供からの手紙を無碍にしない、それが大人だ。だが、問題はその手紙の内容だった。
古エルフ語で書かれている。しかも、字が汚い。
【ゼーリエお姉ちゃんへ
プルシュカ達は、今は北部高原にいます。
凄く強い魔物が沢山いたんだけど、プルシュカ達の手に掛かればイチコロよ!! ここまで来るのは、本当に大変だったんだからね。
それとね。フリーレンお姉ちゃんが借金を隠してて、危なく鉱山労働者になるところだったんだよ。借りた物は返さないなんて泥棒の始まりだと思わない?色々とお話して解放されたけど、お金の管理はゼーリエお姉ちゃんもしっかりしないと駄目だからね。
他にもドワーフのおじさんが皇帝酒っていう昔のお酒を見つけたんだ。ママの可能性があるミルアルデってエルフが残した物みたい。折角見つけた皇帝酒が痛んでたのよ。でも、ドワーフのおじさんが「大丈夫、みんなにも振る舞ったさ!」とか言って、パパが大慌てで楽しかったな~、お腹は痛かったけど。
ゼーリエちゃん……じゃなかった。ゼーリエお姉ちゃんの方は、元気ですか?お洋服は、しっかり着てますか?お洗濯は毎日する事。フェルンお姉ちゃんがお洗濯の魔法を貰ってきたからってサボったら駄目だからね。旅の帰りに、プルシュカが抜き打ちチェックにいきます!! もし、お洗濯をサボっていたら、フリーレンお姉ちゃんも一緒につれて服飾店でお揃いの服で写真を撮るよ。絶対に可愛い。
後、ついにフリーレンお姉ちゃんよりおっぱいが大きくなりました。やっぱり、ペチャパイ遺伝子は駄目だよね。次の目標は、ゼーリエお姉ちゃん。私に負けたら、ゼーリエちゃんって呼ぶね。
絶対に、絶対にお返事ください。】
ゼーリエの脳が理解を拒み始めた。
孫弟子が借金。ミリアルデに皇帝酒。母親がミリアルデ説。服の抜き打ちチェック。フリーレンの胸のサイズがプルシュカに負けた。
脳に過剰な情報を押しつけて相手の思考を止める魔法でも使われたかと錯覚しそうなゼーリエ。その時、ゼーリエはある魔法を閃いた。これは新魔法のヒントになる。
「フリーレン。お前は、やっぱり駄目だ。まるで成長していない。いい加減腹をくくれ。言い出すタイミングが遅ければ遅いほど言えなくなる事が分からないのか。孫弟子達は、揃いも揃ってバカしかいない」
ゼーリエが重い腰を上げた。
子供の思いに応える為、便箋を求めて街へと足を運ぶ。お供の一級魔法使いは、何事かと思ったが、可愛らしい便箋を購入した師を見て、尊死しかけた。
その姿を見た一級魔法使いは、この事を弟子達のネットワークで皆に伝える。それを聞いたメトーデの忠誠心は天元突破していた。その瞬間にその場に居なかった事を後悔し、三日三晩泣き叫ぶ狂気じみた様子にゼーリエすらドン引きさせる。
その日の夜からゼーリエは、洗濯の魔法の再取得に向けて魔道書と向き合う。誰が、エルフ三人同じ服で写真など撮るかと気合いが入る。
しかし、真の敵は彼女の側にいた。メトーデは、次にプルシュカが来た際に意図的に洗濯していない服を着せるつもりで今から計画を立てる。ゼーリエとフリーレンとプルシュカが三人同じ服を着た写真が喉から手が出るほど欲しい彼女……ある意味ボンドルドより狂気に満ちている。
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女神の石碑編another(原作世界線)