魔王軍にとって、人類との戦争は過渡期を迎えていた。僅か数年足らずで人類側からの総攻撃で前線が押し上げられる。圧勝ムードだった魔王軍が、見る影も無くなりつつある。これには、魔王軍に参加した者達からすれば面白くない。
南の勇者によって、魔王の腹心である全知のシュラハト、七崩賢3名が討ち取られた。だが、南の勇者を殺す事に成功。死ぬ前も死んだ後も魔王軍に大きな傷を残した男だ。この勇者が戦場に、黎明卿ボンドルドなんて化け物を連れ出したお陰で、魔王軍の被害は甚大となる。南の勇者が後一歩動くのが遅かったら、全知のシュラハトがボンドルドに取引を持ち出していた。まさに、彼のファインプレーだ。
黎明卿ボンドルドによって、七崩賢の断頭台のアウラがPTSDで長期療養が必要な身になる。黎明卿ボンドルドと彼が率いるアンブラハンズ達が原因で、魔王軍が失った拠点は50個を超える。七崩賢こそは倒されなかったが、大魔族と呼ばれる者達が幾人も殺された。魔王軍全体で考えれば、この連中の手で殺された魔族や魔物は万に届く。
勇者ヒンメルPTによって、腐敗の賢老クヴァールが封印処理。各地のダンジョンに隠れ潜んでいた魔物や物流網を狙った潜入部隊が多数潰された。国軍や黎明卿、多数の勇者PTが見逃していた魔王軍尖兵を重箱の隅をつつくかの如く虱潰しで殺している。更に、七崩賢の不死なるベーゼも倒された。
他にも魔王軍と戦う国軍や勇者PTはあるが、特に注目を集めたのがこういった連中だった。魔王軍の勢力圏が徐々に減り続ける程、人類圏の各国が過剰なまでに戦力を送り込んでくる。戦後の領地獲得に向けて、かつて無いほどのやる気を見せ始めた。既に一部の人類国家は、戦後すら視野に入れ始めた。
この状況を打開する為、魔王軍とて無策で動いたわけではない。対黎明卿に大魔族を何人も差し向けたが全て帰らぬ者となる。大魔族と呼ばれる者達が使う魔法は、簡単に対処はできない。それなのに、その全てを乗り切った事に誰もが驚愕する。
魔王軍のこれからを悩む奇跡のグラオザームの元に、部下の死亡と興味深い情報が届いた。
「ツォルトの魔法が正面から粉砕された? フリーレンと行動を共にする黎明卿の戦力?」
グラオザームは、魔法の相性を考慮してツォルトを勇者ヒンメルPTと戦わせるため送り込んだ。最悪、相打ちには持ち込める算段だった。しかし、彼の手元に届いた報告書では、転移した崖を魔法で対処され部下も殺されたという内容。ツォルトが情報すら持ち帰れない事に疑問が生じる。空間転移といった類い希なる魔法だ。逃げに転じれば、追いつける者など魔王軍でも居ないに等しい。
現代の人類側の魔法で崖すら貫通出来るのは、黎明卿の貫通魔法くらいだ。さらに、報告書をめくると、地面に焦げた穴があり魔力の残滓から黎明卿の貫通魔法の可能性が高いとある。
「先日感じた時空干渉。黎明卿の貫通魔法の痕跡。同行するアンブラハンズ。黎明卿の生存が確認出来たのは、約1000年前。当時からエルフの影がちらついていた。奴の拠点に出入りする銀髪エルフを見たという証言もある。奴を人間と考えた場合無理があるが……中身がエルフなら線は繋がる」
質量のある分身を作る魔法も存在している。
グラオザームは、仮説を立てた。黎明卿とアンブラハンズはフリーレンの分身魔法によるダミー。魔力の大半をダミー達に分け与えて、最前線で戦わせている。
更に魔族を追い込むため、未来で革新的な技術を手に入れたフリーレンが女神様の魔法を使って過去に来た。そのタイミングで分身の魔法で新しいアンブラハンズを作る。新しいアンブラハンズが前線にいる黎明卿と合流の機会を狙っている。
グラオザームの手元にある黎明卿に関する報告書には、アンブラハンズ達の数が減り始めたとあった。当初は、少しずつだが数が減らせたかと思っていたが、未来からの情報を持つアンブラハンズとの合流が狙いだったかと誤解してしまう。
「推論に穴はあるだろう。黎明卿の異常な戦闘力やアンブラハンズ達の連携、魔法習熟度を考えれば中身が全てフリーレンであれば不思議な事では無い。1000年生きているエルフだ。真面目に鍛えていれば能力は大魔族を超える。あの趣味の悪い仮面ばかりに注目してしまう事こそ、罠だ。アレは中身に注目が行かないようにするためか。くたばれ、
正常な思考をすれば、同じ時代に魔王軍を本気で殲滅出来そうな化け物が何人もいるのがおかしい。だから、グラオザームはフリーレンが未来からの知識を逆輸入して、魔族……ひいては魔王にメタを張る予定と結論づけた。
何時どのタイミングでフリーレンが未来に帰るかわからないが、重要な情報を未来から持ち込んだと考えているグラオザーム。それが広まる前に殺して、それを奪わなければならない。
グラオザームは、魔王にこの件を纏めて報告し直ぐに大魔族を派遣してトドメを刺す事を決意。合流を妨害するため、最前線にいる黎明卿達の動きも止める必要がある。少なくなっている戦力を捻出してでも、大部隊を死地に送り込む。
◇◇◇
魔王軍がフリーレンを潰すために色々と準備をしているなど、想像もしていない勇者ヒンメルPT。そのとばっちりを受けるボンドルドも涙目だ。
彼等が到着した場所は、統一帝国時代に廃棄された街。そこには、大きな聖堂があり古い時代の書物が残っている。リメイヨが集めた情報で一番可能性が高い場所だった。統一帝国時代は、フランメがいた全盛期であり色々な研究が盛んであった。その中には女神様の魔法も含まれる。
「フリーレン。魔力探知の結果は?」
「する必要無いでしょ。鐘楼の所。皇獄竜だ」
ヒンメルも竜の存在は目視できていた。だが、他に隠れ潜む魔物が居ないかが気になっている。竜なら何度も倒してきた勇者ヒンメルPTでも、皇獄竜は倒した経験がない。
「北部高原に生息する最強の竜種か」
「この町一帯が縄張りなんだろうね。そのお陰で魔力探知の範囲内には他の魔物一匹たりともいない。不安ならもっと精査するけど、これ以上は皇獄竜に逆探知され――いや、もう遅いか」
皇獄竜が大きな口をあけて、ヒンメル達に照準を合わせている。数キロ先にいる目標を正確に攻撃できる。強固な防御魔法で無ければ消し炭になる。
『フリーレン様、お任せしても?』
「私が対処する。でも、忘れてね」
フリーレンが仲間を守るように展開した防御魔法。人類の叡智で開発された美しく、扱いやすく、革新的な構築式を見たリメイヨ。一定以上の知識がある人なら、模倣できると確信した。人類が使う事に最適化されすぎており、便利な反面、コピーされやすい。
人類の魔法に詳しく、人類をよく学んでいる魔族がいたらの話だ。だが、そのような奇特な魔族は居ないに等しい。
皇獄竜のブレスの直撃を防ぎきるフリーレン。直撃したのに無事な事に皇獄竜のプライドがズタズタにされる。無駄にプライドが高い皇獄竜は、全力をもってフリーレン達を潰しにきた。
「アイゼンは前方で敵を引きつけろ。僕とフリーレンは側面から叩く。ハイターは、後方支援だ。リメイヨさんは、例の貫通魔法で皇獄竜の身体を狙ってくれ。でかい的だ、外さないだろう」
バグだらけのPTで一戦力扱いは止めて欲しいと思うリメイヨ。
多分、魔王軍内部ではこのような状況。
早く、大魔族達とお会いしたい。
ソリテールさん、貴方の未来?贖罪の旅をしていますよ。