幸せにしてあげなければいけない。
唐介様の感想からアイディアを頂きました。
叶わぬ恋の物語。
魔王軍と人類の戦争が佳境を迎える最中、戦場で二人は出会った。魔族の少女の任務は、敵地に潜入して、囚われた仲間を救い出し、情報を集めるもの。非常に危険が伴う任務だ。
人類の拠点に単身で乗り込んだ彼女は勇敢にも、仲間が捕らえられている場所に辿り着く。そこでは、仲間の魔族達が捕虜として丁重な扱いを受けていた事に彼女は衝撃を受けた。敵対している魔族を殺さずに保護しているなど、信じられない光景だ。
彼女は、そこで一人の人間の男性に出会った。それが、彼女の運命を分けた。
敵対心があった彼女だが、男性は優しく彼女を受け入れた。魔族の方と会話をしたいという彼の真摯な思いに彼女も少なからず心を動かされる。魔族の仲間を丁重に扱ってくれた恩返しにと、少し位ならと話を聞く。
その日から彼女の少しずつ人間の男性を理解する日々が始まった。人間の男性は、魔族相手だというのに腹を割って色々と話をしてくれた。今の戦況は、望ましくない。人類と魔族はわかり合える。お互いをよく知るべきだと。
きれい事だと思う魔族の少女だったが、仲間を少しずつ解放する男性の計らいから徐々に打ち解けていく。人間の男性は、魔族の少女と打ち解けるべく努力した。天気の話、魔法の話、魔族の話、料理の話と魔族の少女の反応を見ながら話を選ぶ。
月日が流れ、魔族の少女と人間の男性の手足が触れあう。魔族の少女の人には言えない様な声が逢瀬を繰り返す地下室で響き渡った。魔族の少女が座る場所には、大人の汁が飛び散り激しい行為の跡が残る。
人間の男性は、そんな魔族の少女を見て美しいと褒める。魔族の少女は、人間の愛を初めて知った。その日から魔族の少女は人間の男性との愛を育む。人間の男性から化粧をして貰ったり、衣服を可愛く繕って貰ったり、知らない世界を教えられた。
だが、今は魔族と人間の戦争中だ。
魔族の少女は、魔王軍所属。人間の男性は、何処にでもいる一般人。その二人が結ばれるは、許されない。お互い生きる時間も種族も違う二人の愛の時間が引き裂かれたのは、二人が出会って99日目の事だった。
別れの日、魔族の少女と人間の男性は涙の別れをした。そして、必ずまた会うと神に誓う。魔族の少女は、その日から人間の男性を忘れた事はなかった。
人間の愛を知った魔族の少女。後世で、彼女の事は『最愛のアウラ』と呼ばれる。
◇◇◇
その地に導かれるのは女神様より選ばれた偉人達だ。死後に来る世界で有るため、死亡した年齢が基準となる。時代的な事柄、この地にいる者達の殆どが戦死であり肉体年齢は全盛期。
大事な事だが、男が多い。ここの人口比率で考えれば99%が男だ。だから、老衰したフランメですら若い女性に分類される。この事を本人の前で言ったら、半殺しだ。半殺しで済むのは、ここでは魔力が無く魂だけであるからだ。魔法が使えたら、抹殺されていただろう。
この何もない唯の空間を天国と呼べる地かと言われれば微妙だ。魔法の研鑽もつめない。ただ、偉人達が溜まる老人ホーム。勿論、過去の歴史を知れるという点で言えば素晴らしい場所だが、退屈な所だ。
現住人達にとっては、新しく来る偉人が持ってくる最新の世界情勢だけが楽しみ。その楽しみを一手に担っているのがボンドルドという存在だった。1000年近く前から定期的にこの場にやってくる存在で、男だったり女だったりする。大事な事だが、若い女性はここでは大人気だ。ボンドルド♀が来たときには、大騒ぎになったレベル。
女神様に選ばれる偉人は、今まで魔族は居なかった。だが、それも今日までだ。この地に新しく招待された魔族の女性……
彼女は、魔王軍と人類との戦争で多大な功績を残す。最新の人類史には、人間との禁断の愛を育んだと言われ後世に名を残した。
大魔族の情報を人類側に提供しただけで無く、その身を対魔族の研究に捧げた。魔王の腹心であった全知のシュラハトの命令にも背き、南の勇者との戦闘を拒否。その後、数十年に渡り、彼女の配下と共に身を潜めた。一時期反抗期で人間の街を攻めるという気が狂った行為をしたが、ボンドルドと再会し改心する。あの魔族絶対殺すウーマンのフリーレンすら改心を認め、旅に同行させた。その際、魂の存在をフリーレンに見せ、彼女の研究にも貢献。
アウラの贖罪の旅では、各地の魔物や魔族討伐に協力。更には、
敵を騙すには味方から。まさに、それを体現した彼女の功績は、
………
……
…
何も見えない地獄の苦しみから解放されたアウラ。
彼女が意識を取り戻して見たのは、美しい空と木々。聞こえてくる小鳥のさえずりだった。箱入り娘にされて以来、見ることすら叶わなかった光景。知らず知らずに彼女の頬には涙が流れ落ちていた。
「私、生きてる」
アウラは、自らの状況を確認した。手、足、腹といった、ボンドルドの手で不必要だと判断されて、除去された物が戻っている。五体満足でいる事こそ史上の喜びである事を噛みしめていた。
生きている喜びが強すぎて、彼女は現状を正しく理解出来ていない。だが、それも仕方が無い。近くで流れる川で顔を確認したアウラは、再び泣いていた。バラバラにされた角、歯、鼻が全て揃っている。
「はは。やっぱり、悪い夢だったんだわ」
ボンドルドと出会ってからの100年足らずの時間。アウラは、悪夢だと思い込む。魔族にとって、100年などたった100年だ。一時の悪い夢でもおかしくないと。そのように思い込まないと彼女の精神が崩壊しそうだった。
彼女が歩みを進めると人間の老人と出会う。
「あら、人間がいるじゃない。いいわ、その老人。ここがどこだか教えたら、命だけは助けてあげるわ」
「……懐かしいの~。アウラじゃないか。ほら、覚えておらんか。勇者ヒンメルじゃよ」
アウラは、老人が何を言っているのか考える間があった。勇者ヒンメルと言えば、自身に手傷を負わせた勇者だ。そのPTにいたフリーレンという奴のせいで…と考えた瞬間、吐き気を催した。
アウラは、老人をよく観察した。確かに、面影があった。
「ヒンメル……老いぼれているじゃない」
「君も言い方酷くない?」
最愛のアウラ。死後の世界で思わぬ人物と再会する。彼女の安住の地は何処にあるのだろうか。
約束した彼とも再会を果たさないといけませんよね。