黎明のフリーレン   作:新グロモント

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閑話:最愛のアウラ②

 老いぼれた勇者ヒンメルとの出会い、アウラにとって好機だった。ここであったが100年目。積年の恨みをここで果たそうと思っている。大魔族として鍛え上げた彼女の魔力に勇者ヒンメルは勝てない。

 

 服従させる魔法(アゼリューゼ)を発動させようとしたが、何も起こらなかった。それどころか、自分自身に魔力の欠片も無い事を今になって理解する。魔力が無い状態で老いぼれた勇者ヒンメルに勝てるかアウラは考えた。

 

 どう見ても負けるはずがない。杖をついている人間の老人に負けるような魔族はいない。だが、目の前に居るのは貴重な情報源でもあるので、アウラは一時的に見逃す事にした。いつでも殺せるなら情報を吐かせてからでもいいと。

 

「老いぼれは事実でしょ。それにしても、見る影も無いわね」

 

「エルフや魔族と一緒にしないで欲しい。しかし、アウラがここに来るなんてね。死ぬ前に一体どれだけの徳を積んだことやら。知らぬ仲でもないし、お茶くらいはご馳走しよう。お主はここがどこだか知らないんだろう。先人として、教えるのも住人の勤めだ」

 

 素直に教えてくれるならそれでいい。アウラは、ヒンメルの誘いに乗ることにする。アウラの予想では、死後の国だ。ヒンメルが死んだのを確認してから魔族達は動き始めた。それは、間違いない。

 

 素晴らしい天気の中をヒンメルに先導され歩く。ただ、それだけの事でアウラは涙が止まらなかった。この日常がどれだけ素晴らしいものか。失ってからで無ければ分からない物がある。

 

………

……

 

 ヒンメル宅にまで案内されたアウラ。そこは、質素な木造コテージのような場所で良い雰囲気。庭では家庭菜園もされている。段々、本当に死後の世界なのか怪しく感じてきた。死んでも食事を必要とするのか。魂に関わる魔法を使うアウラは、この衝撃的な光景に頭を悩ます。

 

「ヒンメル。魂になってまで食事を必要とするのはおかしいわ。なんで、死んでまで食事が必要なの!? 家庭菜園!? どうやって物に触っているの?」

 

「なんでって…さぁ、僕には分からないな。でも、アウラもできるんじゃない。だって、地面に足をついている。そのあたりは、魔法使いの専門家にでも聞いてくれ。必要なら紹介するよ」

 

 地に足がついている。水に顔が写る。光を感じる。音が聞こえる。などなど、生前と同じレベルの状態にアウラが更に混乱する。死後の世界とは、ここまでリアルを再現する必要があるのか。

 

 ここを理解すれば、自身の魔法は更に高みを目指せるのでは無いかと魔法使いならではの思考を始める。

 

「あーー、えーーーと、茶葉はどこじゃったかな」

 

「全く、そこに座ってなさい。大体、この手の台所でティーセットが仕舞ってるのなんてここくらいでしょ。……ほら、あった。火も危ないから私がやるから、あんたは座ってなさい。どんくさいんだから」

 

 ノロノロと動く老人にアウラが痺れを切らした。

 

 手際よくお茶を用意するアウラ。さり気なく、戸棚からお菓子まで持ちだして皿に並べる。人間を模した姿だけでなく、ここまで模倣するのかとフリーレンがいたら言っただろう。フリーレンより断然手際が良く、お茶も器を温めてから煎れるといった細かい気配りが出来ていた。

 

「感謝しなさい、ヒンメル。私が煎れたお茶が飲めるなんて滅多にないんだから」

 

「……これ、毒とか入ってないよね?」

 

 魔族は、魔王が人間との共存を望むようになってから人類の事を学んで居る。特に衣服などが良い例だ。人間は見た目で人を判断する。身なりの良い格好や小綺麗にしているだけで人は躊躇する。

 

 他にも礼儀作法にも大魔族には厳しい課題があった。七崩賢として、大魔族に恥じない礼儀作法を習得しているアウラにとって、お茶を煎れることなど容易い。

 

「入ってないわよ!! 失礼ね」

 

「冗談じゃよ……うまい」

 

 思わず勝ち誇った顔をするアウラ。アウラの衣食住の生活レベルは、彼女の怨敵であるフリーレンの何倍も優れている。魔力勝負でなく、礼儀作法や家庭科レベルを競う勝負が魔法ならフリーレンは惨敗していた事は疑いようがない。

 

 ヒンメルがお茶をのみ一息いれる。

 

 誰かが煎れてくれたお茶を飲むのは久しぶりで感傷に浸っていた。若いときならいざ知らず、年老いてきたヒンメルに優しくしてくれる女性は多くは無かった。魔王を討伐した英雄であったヒンメルだが、王侯貴族の妻を誰も娶らなかった事で国からは目の上のたんこぶに思われていた。魔王を倒した勇者の血が取り込めないのなら、飼い殺しだ。エルフやドワーフと言った長命種が彼のPTに居なければ、どこかで抹殺されていただろう。

 

 といった、内容の話をヒンメルがぼやいた。魔族社会からすれば、下克上など不思議ではないので、人間社会も大変だなと言った程度のアウラの感想。

 

「こっちとしては、有り難い限りよ。ヒンメルの子供が生きていたら、魔族が事を起こせなかったからね。……あれ?ヒンメル。あんた本当に子供居なかったの?」

 

「いないよ。僕は、こうみえて一途なんだ。それにしても、僕が死んでから事を起こすなんて魔族も酷いことをするね。よくそんな事をして、ここに来られたね」

 

 アウラは、詰められる前にであった幼女のエルフを思い出した。

 

 フリーレンと一緒に旅をしているエルフの幼女。これだけで、誰の子供であるかなど状況証拠だけで分かる。アウラですらエルフを見た事などフリーレンとプルシュカしかいない。大魔族より数が少ないエルフ。その子供が一人旅などありえない。近くに親が居るに決まっている。

 

「あっ。そうね。本当になんで私がこんな場所に来たのかしらね。で、ここ何処よ」

 

魂の眠る地(オレオール)と言われる場所らしい。現魔王城のご近所らしいよ」

 

 アウラは、プルシュカの父親がハイターかアイゼンである可能性だと考えた。PT内でそういった関係になる話は、魔族達の情報収集でも分かっている。

 

 そして、それを利用して幾つものPTを破滅に追い込む役目を背負った魔族女もいた。痴情のもつれでPTを壊す魔族。それ専門の魔族は、魔力は低いがその戦果は華々しい物だ。

 

「あの近所にこんな場所は無いはずなんだけど。……まぁ、いいわ。危険が無いみたいだし、大魔族であり七崩賢であるアウラ様をエスコートさせてあげる」

 

「嫌じゃよ。年寄りなんだから。どうしてもというなら、代わりの人にお願いするよ。もうすぐ、彼も来るしアウラの事を紹介する」

 

 アウラの直感が働いた。身体の震えが止まらない。心臓の音がドクドクとハッキリ聞こえ、呼吸が激しくなった。死んでもなお刻み込まれた恐怖は、魂にまで傷跡を残す。

 

 居るはずのない存在に怯えるアウラ。今すぐにでも押し入れに隠れて嵐が過ぎるのを待ちたいと思った。だが、またまた要らぬ好奇心が働いてしまう。ヒンメル宅に近付いてくる足音。その持ち主が誰なのか、窓からそーーと覗いてしまった。

 

 そして、眼が…いいや、紫のサイリウムとガラス越しに対面してしまう。

 

 怪しい光。アウラに強烈なフラッシュバックが襲う。生きたまま解剖され箱詰めにされる。死なずに魔力だけを延々と吸われ続け、苦しくて叫ぶ事すら許されない日々。

 

「おやおやおや、アウラさんではありませんか。おはようございます。私より先にヒンメルさんにご挨拶とはつれないですね。ですが、こうして貴方と再び会えたのも女神様のお導きでしょう。貴方から約束を守って会いに来てくれるなんて嬉しいです」

 

「た、助けて。ヒンメル!! お願いよ、貴方勇者なんでしょ。ねぇ、お願い何でもするから(・・・・・・・)!!」

 

 ピシピシと音を立てて、アウラに亀裂が走る。魂に刻まれた恐怖が彼女を崩壊させようとしている。だが、壊れない。彼女は、生前にフリーレンよりある命令を受けている。魂に対して刻まれた命令……『アウラ、長生きしろ。』と。

 

 恥も外聞も無いアウラが、泣き叫びヒンメルの足にすがりついた。床には大きな水溜まりまで出来ている。先ほどまでの優雅さが微塵も感じられないアウラにヒンメルも困惑する。だが、勇者ヒンメル。困っている人には分け隔て無く対応する真の勇者だ。

 

 




明日はリアルの都合で、執筆できないのでお休みです。
アウラさんの話は後1話か2話程度です。
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