アウラは、先ほどまで天国だと思っていた場所が地獄より遙かに深い場所にある地と理解する。このような未来が待っているなら、魔王軍になど参加しなかったと後悔の念にかられている。
藁にもすがる思いでヒンメルにすがりつくアウラ。その様子は、過去の傲慢なメスガキ臭がどこにもない。哀れな魔族に成り下がっていた。だが、勇者ヒンメルは魔王討伐をした歴戦の猛者。命乞いをする魔族など掃いて捨てるほど見てきた。僅かな同情心が原因で罪も無い村人を死に追いやった事もある。
「アウラ、僕は魔族の言葉を信じない。魔族は、人の言葉を喋る獣だ。それは、魔王軍との戦争で身をもって体験した」
「待って、待ってヒンメル!! 私達は、知らない仲じゃないわよね。そうよ、貴方は私を傷物にした責任があるのよ。責任が、貴方の太い剣でズバーーってやられて血が出たんだから。これは、もう責任を取って然るべきじゃない」
自分でも何を言っているか理解していないアウラ。だが、生き残るならばなんでもいい。嘘でもいいから、助けてくれるという言葉をヒンメルから聞きたかった。
ガチャリとヒンメル宅の扉が開いた。
そして、漆黒の服に身を包んだ悪魔……みたいな聖人ボンドルドが現れる。両手を広げて優しくアウラを向かい入れる準備をしていた。ヒンメルが拒絶し、ボンドルドが受け入れる。この状況に、アウラの精神は崩壊寸前だ。
ピシピシとアウラの身体に亀裂が広がる。
「アウラ。君が善行を積んでこの場に来たのは理解できる。だけど、僕は勇者だ。人の味方であって魔族の味方ではないんだよ。ボンドルドさんは、魔族の保護にも力を入れているし、頼るなら普通はアッチじゃない」
「なんで、そんな酷い事を言うの!! ヒンメルは、ボンドルドの正体を知らないのよ。あいつは、魔族なんかよりよっぽど化け物なのよ。アレに比べたら、魔族なんて可愛いものなんだから。ほら、年寄り一人の生活は辛いでしょ。私が面倒を見てあげるから。ねぇねぇ、いいでしょ。一言、助けるっていってよ、ヒンメル」
ヒンメルが知る魔族とは、ここまで感情豊かだっただろうか。アウラが特別なのだろうか。流石のヒンメルも涙を流し、漏らしながら、足にすがりついて、必死に懇願するアウラを振り払うのは心苦しかった。
なんだかんだでお茶を煎れてくれた。
男とは単純であり、可愛い女の子の頼みを断れない。魔族に対しての感情も年を重ねるほど落ち着いてしまっていた。孫娘みたいな容姿のアウラに対して、庇護欲が働いてしまう。魔族とは、本当に良くできた種族だ。
「モテモテですね、ヒンメルさん。しかし、私はアウラさんにそこまで嫌われているとは思いませんでした。私は、アウラさんにそこまでの事をしていませんよ。彼女が恐れているのは、61代目でしょう」
61代目という言葉にアウラが反応した。何を言っていると。考えたくもない予想をしてしまうアウラ。絶対にあり得てはいけない想像。
「アウラ。失礼じゃよ。ボンドルドさんは、善意で管理運営もしている立派な人。皆が平穏に暮らせるように色々と手配もしてくれとる。この家だって、ボンドルドさん
「ねねねねぇ、ヒンメル。今、私の聞き間違いじゃなかったら、ボンドルド
アウラの魂に亀裂が広がる。
だが、魂に刻まれた命令が彼女を長生きさせようと必死に抵抗を始めた。ボンドルドを受け入れさせようと魂が弄られていく。この状況を否定して発狂したい魂とこの状況に適用しようとする魂に刻まれた命令が戦っている。
「おかしな事を言うね、アウラ。ボンドルドさん達なら、窓から沢山覗いているじゃないか」
「いややぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……っ」
窓に無数の紫サイリウムを確認したアウラがボロボロに崩れてしまった。魂の負荷が限界を超えてしまい、形を保てなくなる。
「おやおやおや、これは興味深い。死後の世界でもこのような現象が起こるとは。アウラさん、私は女神様の敬虔な信徒。貴方を必ず救ってみせます」
「悪いとは思うが、アウラに殺された人がいる以上、僕がおいそれと君を助けるわけにはいかない。例え、ここが天国であっても。全ての罪を償ったらまたおいで。その時は僕がお茶をご馳走するよ」
………
……
…
天国で死を体験するというアウラ。
うっすらとした意識で彼女が感じたのは人のぬくもりだった。魂に触れられる感覚。少しずつ、少しずつだが魂の形が復元されていく。
「崩れた魂を繋ぎ合わせるのは、難しいですね。大丈夫ですよ、アウラさん。もう少しです」
………
……
…
男性の優しい声が聞こえると感じたアウラ。
魂同士の触れあいだからこそ分かる。男性が親身になってくれている事が。何度も大丈夫、もう少しだからと励ましの声が聞こえた。
「貴方が、目覚めるまでに必ず元に戻してみせます。聞こえますか、小鳥のさえずりが」
………
……
…
優しく髪を梳かされ三つ編みにされていると感じるアウラ。
女性の髪に触るなんて許されない事だが、アウラはうっすらする意識の中、それを受け入れた。彼女は、長い悪夢を見ていたに違いないと思い込む。きっと、目覚めれば素敵な出会いがと思ってしまった。
「今日も綺麗です。貴方が目覚めて寂しくないように側で毎日お待ちしております」
………
……
…
少しだが、手足が動かせるようになったアウラ。
だが、それだけだ。眼も口も動かせない。近くに男性がいる事だけは分かった。
「アウラさん、動けるようになったんですね。もし、私の声が聞こえておりましたら手を握り返してください」
少しだけ頑張ってアウラは、その手を握り返した。その優しいぬくもりを彼女は忘れる事はない。人の優しさに触れた彼女は、眼から涙が流れるのを感じた。
………
……
…
それから、半年後アウラは、遂に眼を覚ました。
ベッドにいる事を確認し、両手を確認する。綺麗な手でどこにもヒビ一つ無い。やはり、アレは夢だったと安堵した。生きているってこれほどまでに素晴らしい事だと実感するアウラ。
アウラが寝ているベッドの横には一人の男性が驚いた顔をしていた。その男性は、赤髪の優男。風貌は、歴戦の戦士となったシュタルクを感じさせる。
「アウラさん、目が覚めましたか」
「えぇ、ちょっと混乱しているんだけど……貴方よね。私にずっと話し掛けてくれたの」
これが、死後の世界。彼女の防衛本能が、ヒンメルとの出会いを記憶の奥底に封印した。今からが、彼女にとっての初めての死後の世界。
「そうです。貴方がここに来てから約1年。ずーっと、隣におりました」
「ありがとう。……あんた、名前は?七崩賢のアウラ様が覚えてあげるわ」
男性が少し悲しい顔をするのをみてアウラは疑問に思った。もしかして、不味いことを聞いてしまったのかと。一年近く面倒を見てくれた男性の名前を知らないとか、流石に恥ずかしいレベル。
だが、アウラには目の前の男性が誰なのか分からなかった。
「あれほど一緒に過ごしたというのに、忘れられてしまうとは」
「そりゃ、一年近く世話になっていたみたいだけど。意識が薄かったから仕方ないじゃない。いいから、さっさと自己紹介しなさいよ」
人を外見でしか判断していない魔族。それは、必ず痛い眼を見ることになる。
「我々、個々に本名はありません。強いて言うなら61代目とお呼びください」
「61代目………うっ」
アウラの記憶の奥底に厳重に封印された記憶。それが外部からこじ開けられそうになる。少しずつ漏れ出す、ヒンメルに売られた彼女の記憶。
「貴方には、こういった方が宜しいでしょうか。ボ…」
アウラは、理解した。魔族なんて人間に比べたら可愛い存在だ。人間の
最愛のアウラ編はお終いです。
次からは、本編予定。
フェルン*シュタルクもどこかでやります。
(I)「いいですか、シュタルクさん。女性が、止めて、無理とか否定的な言葉を発しても決して止めてはいけません。それは、プレイの一環です。そこで止めたら、最後……貴方は女性に恥をかかせた罪でフェルンさんに殺されます」
とか、教えております。