黎明のフリーレン   作:新グロモント

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51:勇者の剣

 勇者ヒンメル一行は、開拓村で鍛冶屋をやっているキーゼルというドワーフの元を訪れていた。ドワーフにしては、珍しく老年ではなく中年といった感じの男性。どこにいっても女性ドワーフに会うことが出来ない。

 

 存在はするはずなのに、ボンドルドは1000年間女性ドワーフを見た事がなかった。その為、ドワーフは単為生殖の可能性があるとすら思い始めていた。リメイヨは、アイゼンに母親が居るか聞いたが、既に故人だと回答される。フリーレンですら、女性ドワーフを見た事がない。

 

 エルフより貴重な女性ドワーフを保護しなければならない。

 

 キーゼルは、偏屈なドワーフではなく話の分かる人物。しっかりと挨拶をすれば、勇者ヒンメル一行を受け入れてくれた。魔王軍と戦っている者達の情報もしっており話はスムーズに進む。

 

「断頭台のアウラの軍勢を退け、不死なるベーゼをも討ち取った。救われた地方は数知れず。その武勇は、この村で知らぬ者はいない。勇者の中の勇者だと言う者もいる」

 

「それほどでもないけどね」

 

 褒められたヒンメルが調子にのる。調子に乗れるほどの武勇である事は間違いない。数ある勇者の中でもこれほどまでに戦果を叩き出している勇者は、滅多にいない。

 

 キーゼルの視線がリメイヨに背負われているフリーレンに向いた。

 

「しかし、あの黎明卿がこんな小さなエルフの子供だとは思わなかったがな。あんた達の話も聞こえてくるぞ。魔族拠点を攻略した数は、50を超えたとか。魔族を血祭りに上げ、その血で入浴しているなんてのも……」

 

『フリーレン様、どうやら貴方の事を卿と勘違いされている。失礼、キーゼル殿。私は個人的な都合で勇者ヒンメルPTに助力している。黎明卿とアンブラハンズは、勇者ヒンメルPTとは何の関係もない』

 

 キーゼルは、察した。これは、秘密の事だと。狂気の集団である黎明卿とアンブラハンズ。その一人に背負われている人物が無関係で有るはずが無い。魔族を欺くための壮大な作戦であると。

 

 見なかった事にするとキーゼルは決めた。

 

「ボンドルドと誤解されるなんて心外だな。私は女だ。ところで、女神の石碑のことについて知りたいんだけど」

 

「女神の石碑…残念だがわからないな。だが、儂が昔住んでいた村の村長の家に女神に関する文献がいくつかあったはずだ。今でも残っているかもしれん」

 

 女神様の導きだと全員が感じ取った。

 

 キーゼルから村の正確な情報を聞き、向かおうとした矢先。ヒンメルが携えている勇者の剣をキーゼルが注目した。勇者の剣というだけで、ただの偽物。本物は今も、剣の里に安置されている。

 

「勇者の剣を一目拝みたい……やはり、そうか」

 

「あぁ、その剣は偽物で…」

 

 一瞬躊躇したが、ヒンメルは快く剣を渡した。見る者が見れば偽物だと分かる。だが、それの何が問題だというのか。南の勇者だって、勇者の剣は持っていなかった。市販されている剣で魔王軍をなぎ払っていた。

 

 大事なのは剣の性能ではない。使う人物の性能で有ることは明白。魔法もそれに準ずる。使う者の技量で大きくその威力も範囲も変わる。つまり、そう言うことだ。

 

「知っている。懐かしいものだな。ずっと昔、鍛冶屋を始めたばかりのころに帝都の商人に頼まれて作った物だ」

 

 ヒンメルの剣を作ったキーゼル。これは、保護確定だとリメイヨは考えた。これだけ雑に使っても刃毀れしない不壊の剣。破壊不可能といわれた不死なるベーゼの結界魔法を殴っても折れなかった。

 

 彼には、その高い技術をイドフロントで是非振るって欲しい。科学の発展の為にも、こう言う職人は必要になる。

 

 更に、キーゼルの凄いところは、勇者ヒンメルの剣より優れた物を幾つも作っていることだ。アレが最高傑作ではなく、初期の頃の作品。

 

 勇者ヒンメルとキーゼルの感動の話など、リメイヨの頭には何も入っていなかった。どのようにして彼をイドフロントに招待して、我々の力になってもらうか考えている。

 

………

……

 

 ヒンメルの剣を研ぎ直しているキーゼル。彼の仕事を見守るヒンメル達だが、リメイヨはこのタイミングで話しかける。

 

『キーゼル殿。貴方の卓越した鍛冶技術を我々の為に使って頂けないだろうか。ここは、前線にも近い。高度な技術を持つ貴方は、後方で支援に回るべきだ』

 

「なんだ、スカウトか。はっはっは、あのアンブラハンズにそこまで言われるとは、鍛冶屋として成長したって事だな。オレを専属で雇いたかったら一ヶ月シュトラール金貨10枚は出す事だな」

 

 シュトラール金貨10枚の価値は、一年間三食おやつ付きで暮らせる大金。当然、キーゼルとしてはふっかけた金額だ。一年間真面目に働いてもシュトラール金貨10枚に届かない。剣なんて、毎日売れるような品じゃないので、彼の生活は家庭菜園をしながら、村で壊れた調理器具の修理で稼いでいる。

 

『承知した。即金でシュトラール金貨300枚を渡そう。残りは、職場に着いてから、貴方の生涯を全て賄える金額を渡す。契約は成立した』

 

「マジかよ。冗談……は、通じないよな」

 

 リメイヨは、物資購入資金の大半をキーゼル一人に費やした。だが、その判断は正しい。キーゼルは、ボンドルドとアンブラハンズ達が使う装備品を作る専任となる。彼が生涯通して作る最高傑作が、紫サイリウムの仮面になるとはこの時誰も思っていなかった。

 

 勇者ヒンメルの剣を研ぎ終えたキーゼルは、引っ越しの準備を始めた。悪い生活では無かったが、ここ以上に自分を必要としてくれている場所に大金で雇われるのも悪くないとキーゼルは思っていた。

 

 彼が作る器具の中には、対魔族拷問用の針なども多数含まれている。後世で、魔族を一番間接的に殺したドワーフとして、彼は天国にいける。

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