女神の石碑に触れたフリーレンが、困惑した顔をしている。左右を見渡し、衣服を確認し、壊れた石碑をペチペチと触っている。その奇っ怪な行動に何の意味があるのだろうかと、フェルン達も疑問に思っていた。
「ママからのお手紙~、ふふふ。天脈竜のお手紙見てくれたみたい。まったく、それなら顔を見せてくれてもいいのにね~」
凄く上機嫌なプルシュカ。フリーレンは更に困惑した。まるで、数十年の眠りから覚めた病人みたいな雰囲気だ。
だが、フリーレンにとって救いだったのは、その場にボンドルドがいる事だ。彼の元に歩いて行き、ペチペチと触って触感を確認する。そして、コレが現実である事を理解した。だが、現実的にありえるのだろうかと思うこの現象。
周囲に挙動不審を悟られないように、精一杯頑張った。
「どうしましたか、フリーレンさん。先ほどから少しおかしいですよ」
「あ、うん。そうだね……ねぇ、ボンドルド。今って、いつなのかな」
ボンドルド以外が誰なのか分からないフリーレン。彼女は、ここが未来である可能性を察していた。過去ならば、石碑が壊れているのはおかしい。更には、知らない人物が沢山いるのもおかしい。
「フリーレン様、今がいつって……ボケですか」
「フェルン止めとけって、フリーレンをババァ扱いするとカウントが伸びるぞ」
何も言い返さないフリーレン。
いつもなら、カウントが増えるこの状況。余程切羽詰まっているのだろうとボンドルドは察した。ボンドルドは、今がいつなのか聞かれた時点である程度の予想は立てていた。
「フリーレンさん、奥で話しましょう。少し、フリーレンさんと大事な話をしてきますので、皆さんはここにいてください」
「えぇ~、パパいっちゃうの?プルシュカも付いて行ってあげようか?フリーレンお姉ちゃんがなんだか変な様子だし」
プルシュカは、察しが良い。旅をする仲間のメンタルなどをしっかりと配慮して行動している。フリーレンの不調にも気が付いたのがその証拠だ。
フリーレンは、エルフの幼女がパパと呼ぶ人物がボンドルドである事に驚く。そして思わず、反射的に思ったことを口にしてしまった。
「ボンドルドって結婚したんだ。相手は、もしかしてゼーリエ?それともミリアルデかな?どちらにしてもおめでとう」
「「…」」
その答えに、フェルンとシュタルクもこの状況がおかしいと気が付いた。二人ともプルシュカの母親が誰なのかは何となく察している。だが、公然の秘密という感じだったので口にしない方針にしていた。
「そっか、ゼーリエお姉ちゃんがゼーリエママって可能性もあったのね。ゼーリエママか……なんか、凄く嫌がりそうな顔が浮かんだわ。早速、ゼーリエママ様って宛名でお手紙書いちゃおう」
「なんだ、プルシュカは自分の母親が誰なのか知らないのか」
一刻も早くフリーレンを連れ出さないと大変な事になると察したボンドルド。早く話を切り上げさせたいが、既に時遅し。
「ママは、自分の力で見つけなさいってパパに言われているわ。手がかりは、このペンダント!! 中身には、赤ちゃんの頃にママと一緒に撮った写真が入っているのよ。この封印魔法がなかなか難しくて……まだ解析が1割程度しか終わってないけど、いつか解いてやるわ」
「ふーーん、凄く強度のある封印魔法だ。並の魔法使いじゃ一生解けない程の。でも、この構築式の組み方は……」
そこまでだと、ボンドルドが無理矢理割り込んだ。フリーレンを担ぎ上げて離れた場所に行く。プルシュカもエルフで有り地獄耳だ。声が聞こえないように配慮する必要があった。
………
……
…
ボンドルドは、切り株にフリーレンを座らせた。
「フリーレンさん、あまり未来を掻き回さないでください」
「……よく分かったね、私が過去から来たって。それなら話が早い」
過去から来たなら過去に帰りたい。そう思っているに違いないと考えたボンドルド。だが、現実を突きつけられる結果になる。
「過去に帰りたいんですね」
「未来の魔法を教えて」
フリーレンの答えを聞いて一瞬ボンドルドは本気かと正気を疑った。未来の魔法を過去に持ち帰ろうとしているフリーレン。悪びれもせずにだ。それがどれほど未来に影響するか考えているのだろうか。
「私としては、直ぐにでも記憶を消して過去に返したいのですが」
「ボンドルド、考えてみろ。私が何時過去に帰っても、着く時間軸は同じだ。だったら、未来で情報を沢山仕入れて帰った方が為になると思わないか」
その答えに一理あると思ってしまったボンドルド。
たしかに、未来に来た以上、いつ帰っても帰る時間は同じ。だったら、未来で沢山の情報を仕入れてから持ち帰れば、魔王討伐が楽になる。だが、その時点で未来は分岐するだろう。
人類全体を考えたら、それは一つの選択肢だ。だが、この時代のフリーレンは恐らく過去に居ると考えるボンドルドとしてはその道は取れない。
「フリーレンさん、それは出来ない相談です。私は、過去も現在も未来も貴方の味方であるとこの時代のフリーレンさんに誓いを立てました。貴方が、この場で見た事は必ず過去に影響する。だから、ここで見た記憶を消させて欲しい」
「………それは誰のため?」
頭を下げて頼むボンドルドにフリーレンも悪いと思い始めた。確かに過去改変に繋がる可能性がある。
「フリーレンさんとプルシュカの為です。私は、フリーレンさんに二度も娘を捨てさせる選択肢は取れません。プルシュカは、貴方と私の娘です。どうか、娘を悲しませる未来を選ばないで欲しい」
「私って、あのプルシュカって子を一度捨てたの?」
フリーレンが先ほど見たエルフの子供を思い出した。元気で可愛らしい子供だった。魔力総量も悪くなく、将来が楽しみだと言える子だ。その子供を捨てたのが自分である事へのショックと、ボンドルドとそのような関係になった未来がある事に驚く。
「えぇ。産まれて間もない頃、名付ける事もせずに…」
「控えめに言って最低じゃない。…分かった。一つだけ答えてくれたら受け入れてあげる」
フリーレンは、ボンドルドの言葉に嘘が無い事は分かっていた。
プルシュカが持っているロケットペンダントの封印魔法。あれは、不死なるベーゼの結界魔法を模倣した物。それを使って封印処理を行える人物など答えは決まっていた。
「消せる時間にタイムリミットがあるので手短にお願いします。当然、答えも纏めて記憶を消します」
「ボンドルドって私の事を好きだったの?」
「えぇ、1000年前に出会ったときから一目惚れでした。ですから、私はこれより過去にフリーレンさんを助けに行きます」
「いつもありがとうね。未来の私の事をお願い」
精神魔法の防御を解いたフリーレンに対して、"
過去のフリーレンがここに居るということは、未来のフリーレンが帰ってくるには何かのキーが足りていない事を意味している。それを誰かが過去に届ける必要があるとボンドルドは推測する。それが出来るのが誰かと言えば、何時の時代でも同じ人物が各地方に沢山いるボンドルドだけだ。
「パパ、お帰り~!! あれ?フリーレンお姉ちゃんが寝ちゃったの?」
「えぇ。フェルンさん、シュタルクさん、プルシュカ、私は少し過去に行ってフリーレンさんを連れて帰ってきます。後、フリーレンさんの身体の一部は石碑に触れるようにしておいて下さい」
状況を説明するとフェルン達も一緒に過去に戻ると言い出したが、意識だけ飛ばすタイムリープなのでその時代に生きていない人には無理だと伝えた。
「ボンドルド様、フリーレン様の事をお願いします」
「頼んだぜ、ボンドルドさん。その間は俺達が何があっても守り切るから」
「パパ!! 行ってらっしゃい」
皆の信頼を受け取り、ボンドルドは過去へと旅立つ。
ボンドルドには絶対の自信があった。愛する女性がピンチの時に近くに居ないなどあり得ない。必ず、誰かがそばにいて、未来の自分を待っていると。
ボンドルドの手が女神の石碑に触れる。そして、刻まれた文字を読んだ。
「今、迎えに行きます。フィアラトール」
ちょっとだけ、休ませて下さい。
ネタが無いのとか色々理由はありますが、作者の充電期間!!
フェルン*シュタルクの閑話でも少しずつ準備しておきますので。