黎明のフリーレン   作:新グロモント

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55:努力不足

 フリーレンを未来に送り返すため、女神の石碑があった場所に向かっているヒンメル一行。元の場所に戻る際に、リメイヨは嫌な予感がしていた。フリーレンがこのようなイベントを起こして無事に帰れるのかと。

 

 リメイヨの知識では、既に知らない原作の領域。一つ言える事は、過去に来たフリーレンがこの程度の困難で素直に帰れるなどありえない。行く先々で呪われたレベルで問題にぶつかるのがフリーレンだ。

 

 過去に来て何もなさずに未来に帰るなど、女神様が許すはずが無い。それなら最初から来ない。過去に来るだけの意味を成し遂げる必要があると考えていた。

 

『フリーレン様。私と会う前に戦ったのは、残影のツァルトのみで正しいですか』

 

「そうだよ。転移魔法を使う強敵だった。七崩賢の奇跡のグラオザームの部下って言ってた」

 

 フリーレンが言う強敵が本当に強敵だったのかと、リメイヨは考えた。七崩賢の直属配下なら強いだろう。だが、女神様の魔法を使って過去に来てたったそれだけで未来に帰れるなど、甘い。それが、リメイヨの答えだ。

 

「何か気になる事でもあるかい。リメイヨさん」

 

『ヒンメル様。フリーレン様が女神様の魔法で過去に来た。その成果が、残影のツァルトだけでは割に合わない。ほぼ間違いなく想定外の魔族と戦う事になる。現状戦力でもギリギリの敵がくる前提で臨戦態勢をお願いする』

 

 ヒンメル達は、そこまで警戒する程の事かと笑っている。今までの旅でも多少のトラブルこそあったが、街を一つ移動する度に厄介ごとに巻き込まれた事など滅多にない。

 

 しかし、未来から来たフリーレンだけは、あり得るかも知れないと納得する。

 

「リメイヨが正しい。詳細は言えないが、私は未来で街を一つ移動する度に様々な問題に遭遇した。何もなかった事の方が少ない。過去に来て、残影のツァルト以外にまともな敵に出会っていないのはおかしい」

 

「フリーレンは、未来で不幸の星のもとで旅でもしているんですか。一度、教会でお清めをして貰った方が良いですね」

 

 ハイターが笑いながら隠密魔法で魔力を遮断した。魔族は魔力探知を使って対象を探す。魔力の気配を消すという行為は役に立つ。勿論、その間にコチラが魔法を使わない事が前提だ。

 

『ありがとうございます、ハイター様。ヒンメル様とアイゼン様も少しでも違和感があれば、気配の方を叩き切って下さい。フリーレン様は、相手に解析されず確実に一撃で殺せる魔法などはありますか?この際、未来の魔法で構いません。その為に、貴方が未来から来ている』

 

「あるけど、本当に使ってもいいのかな~」

 

『構いません、私が責任を取ります』

 

「本家より射程が短いけど精々20m圏内なら確実に殺してみせるよ。後、バレないようにね。この魔法を使った魔族の倒し方を考案したんだけど、使っちゃ駄目って言われてたから良かった」

 

 リメイヨは、フリーレンの実力を評価していたが、それでも足りなかったと後で理解する事になる。未来で、ボンドルドが使用を止めたあの魔法。それを彼女が使う気だ。

 

 元々、魔族を効率よく殺す為ならば手段を選ばないフリーレン。だが、魔族を殺す為に自分が討伐対象になりPTメンバーに迷惑を掛ける可能性があるから自重していたが、その楔が解かれた。

 

………

……

 

 フリーレン一行は、女神の石碑近くまで何事も無く辿り着く。実際は、その裏でソリテール達が必死でフリーレン達を探していた。

 

 ハイターが使った隠密魔法は完璧に魔力を遮断しており、魔族達に不安を与えている。すれ違いで未来に帰ってしまったのかなど、グラオザームは悩まされていた。道中で発見が困難になった魔族達は、女神の石碑前で待つことにする。

 

 フリーレンの目標地点がそこなのだから、隠れていても最終的にはそこで見つけられるという方法だ。しかし、先手はフリーレン達に取られるデメリットを魔族達は抱えてしまった。ヒンメル一行は、遠くの物陰から女神の石碑前にいる魔族を発見し、今は隠れている。

 

「どうだ、フリーレン。アイツの素性は分かるか?」

 

「血塗られし軍神リヴァーレ。大魔族最強の戦士と言われている」

 

 ヒンメルは、確かに強そうだと納得した。先日倒した残影のツァルトなど前座に過ぎなかった。決して油断出来ない相手。フリーレンを未来に返す為のキーは、リメイヨがあの石碑に触れて未来から情報を持ってくる必要がある。

 

 大魔族一人相手なら、楽では無いが勝てない相手じゃ無い。そのように考えてしまっていた。

 

『待たれよ、ヒンメル様。大魔族相手に正面から挑む必要は無い。先手のアドバンテージを活かすべきだ。それに、相手が一人と決まったわけでは無い』

 

「そうそう、油断大敵だヒンメル。だが、相手が悪いな……リヴァーレだと、枢機に還す光(スパラグモス)を見てから避けれるだろう。勘でも」

 

 物理を極めた魔族。魔法を当たらなければどうと言う事は無いをリアルでやってのける存在は極めて厄介だ。下手な魔法だと鍛えた肉体だけで無効化する。アイゼンと良い勝負だ。

 

「俺がアイツを止める。その間に、リメイヨが帰還の魔法名を持ってきてくれ。他の敵も隠れている前提で動けばいいだろう。どのみち、動かなければ始まらない」

 

「アイゼンの言うとおりだ。僕達でフリーレンとリメイヨさんの道は作るよ」

 

 自信を持って道を作るというヒンメル達を信じる事にしたリメイヨ。勇者ヒンメルが言うのだから、必ず道は出来ると。全員が開始の合図を待つ。初手の一撃で相手を殺せればラッキーショットだ。

 

 リメイヨが狙いを定める。

 

枢機に還す光(スパラグモス)

 

 木々を貫通し、リヴァーレの胴体を狙った攻撃魔法。だが、リヴァーレの反応速度の方が早かった。光が見えた瞬間に横に飛んで躱す。身体能力だけで回避された事はなかったから、リメイヨも初めての経験だ。

 

「俺に魔法を回避させたのは、二世紀ぶりだ。さぁ、俺と踊ろう」

 

 リヴァーレが見失うほどの速度で接近してくる。前衛職でもその速度に対応できる人物は殆どいない。人類の上澄みだけだ。

 

「じゃあ、これで死んで。万物を金に変える魔法(デイーアゴルゼ)

 

 フリーレンが殴り掛かろうとしてきたリヴァーレの拳を金に変えた。自慢の肉体でも金に変えられる事は想定していなかったので効果抜群。無防備に近付いてきたお陰で、拳だけで無く右腕一本を金へと変えられてしまう。

 

「ちっ!! これは、マハトの……いいや、違うな。指が曲げられた。金か」

 

 リヴァーレは舌打ちして、金が浸食してくる右腕を自ら切り落とす。強引にフリーレンの射程範囲外へと避難する。咄嗟の判断力は素晴らしい。あと少しフリーレンの射程内にいたら、全身が金に変えられていた。

 

 パチンとフリーレンが指を鳴らすと金が消える。

 

「今ので殺しきれないなんて、これだから魔族は嫌だね」

 

 マハトの類似魔法をフリーレンが使うとなれば、魔族側視点では冗談ではなかった。そんな魔法まで過去に伝達されたら、魔族滅亡の危機だ。ここで、フリーレンを殺しきらねばならない。

 

 リヴァーレは、単騎で無かった事を幸運に感じる。フリーレンがどのような経緯でマハトの類似魔法が使えたとしても、相性最悪の奇跡のグラオザームがいる。勝利は揺るがない。

 

「貴方も仕事はしてください。魔王様に怒られますよ」

 

 上空から無数の剣が降り注ぐ。狙いは雑で、見てからでも避けられる。

 

 フリーレンは、その魔法を知らない。未来のソリテールとの戦いにおいて、フリーレンは遠距離狙撃しかしていない。その為、もう一人誰かが隠れているとしか分からなかった。

 

 大魔族が二人。確かに、普通の勇者PTに差し向けるには十分な戦力だ。フリーレンですら、二人と思い込む。その事に全くの違和感がなかった。その瞬間までは…。

 

「今回は特別でね、もう一人来ている」

 

 キザな台詞を言われて初めて存在に気が付いたフリーレン達。通り過ぎた筈の場所に一人の魔族が立っている。

 

 三人目の大魔族…奇跡のグラオザーム。

 

 フリーレンは、グラオザームの魔法を知っていた。だからこそ、その危険性を理解している。フリーレンの精神防御すら貫通して幻覚に落とす魔法。

 

「しまっ……」

 

楽園へと導く魔法(アンシレーシエ)。誰も、私の魔法からは……」

 

 対象を深い幻覚へと落とす精神魔法。その魔法の中では究極に位置する。完璧に決まったはずのグラオザームの魔法。認識できなければ防げない。だが、確実に魔法を行使したはずなのに、リメイヨだけ何もなかったかのように走り続けていた。

 

 リメイヨは、女神の石碑の目の前まで近付いた。女神の石碑に手を触れる直前。

 

『何を驚く』

 

「ありえない。お前は確実に私の魔法で幻覚に堕ちたはず」

 

 人間に破られる事がないはずの絶対的な精神魔法。だが、人間を甘く見ている。

 

『人が手に入れられない望む未来を見せる魔法。私に言わせれば、当人の努力不足。愛が足りていない。未来の私が証明した』

 

「お前には手に入らなかった望む未来が無いとでもいうのか!!」

 

 愛とか努力なんて、生易しいもので破られてたまるかとグラオザームは激高する。

 

『無い。それを今から証明する……後は、頼みました。未来の私』

 

 リメイヨが女神の石碑に触れる。




"万物を黄金に変える魔法"の劣化版なので"万物を金に変える魔法"と暫定にしております。
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