黎明のフリーレン   作:新グロモント

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独自設定とか改変になりますので、原作大好きな方はお許しを。


56:ヒンメルの夢

 白いタキシードに身を包んだヒンメル。少しウトウトしており、近くに居たハイターから声を掛けられて我を取り戻す。このような大事だというのに、緊張感が抜けたせいで気を抜きすぎていた。

 

 本日は、魔王討伐後に何やかんやで色々あり、ヒンメルとフリーレンの結婚式当日。ここまでこぎ着けるのには苦労をした。あのフリーレンだ。人の心を理解させる為に、あの手この手で数年(・・)もかかってしまった。

 

「本当に大丈夫ですか?」

 

「緊張するのも無理は無いな」

 

 ハイターとアイゼンは、ヒンメルが緊張のあまりに固まっていると勘違いする。だが、ヒンメルはまだ夢見心地で少し意識が朦朧としている。

 

「さあ、花嫁を待たせるのは良くないですよ」

 

「花嫁?」

 

 ハイターに連れられて、控え室の扉から出ると花嫁衣装に身を包んだフリーレンが待っていた。思わず目を見開くヒンメル。その美しさに目を奪われる。彼が望む理想がそこにはあった。

 

………

……

 

 ヒンメルとフリーレンの結婚式。教会の威信を懸けての式典だが、参列者はごく僅か。これは、勇者ヒンメルが望んだ事である。新郎側は、ハイター、アイゼン。新婦側は、リメイヨ。勇者PTに深く関わりがある者達だけでの慎ましい物だ。

 

 神父役には、フリーレンの幼馴染みにして教会最高権力者の一人であるボンドルドが担当する。あの紫のサイリウムが見守る教会に攻めてくるバカ者は、人類側にも魔族側にもいない。ちなみに、ハイターからの推薦。

 

 人類で一番長く聖典に触れ、女神様に願いを捧げてきた信徒。彼に祝われて破綻した者は居ないと言われる大人気の聖職者だ。逆に言えば、そのような人物の前で誓った約束が破られるなど、何が起こるか分からないという反面もある。

 

「新郎ヒンメル。あなたはここに居るフリーレンを病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しい時も、妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」

 

「誓います」

 

 神父ボンドルドの言葉にヒンメルは力強く答えた。どのような事が有ろうとフリーレンを愛する気持ちは変わらない。人間である自分が寿命で先に死ぬ事になろうとも愛は不滅。

 

「新婦フリーレン。あなたはここに居るヒンメルを病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しい時も、妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」

 

「誓います」

 

 フリーレンも優しい声で誓うと宣言する。

 

 これにて、二人は女神様の祝福の元で夫婦になる。

 

 ヒンメルの夢が叶った瞬間だ。彼は、幼い頃に出会ったエルフに一目惚れをし、この場まで漕ぎ着けた。魔王討伐の旅にでて、彼女を誘い、様々な冒険を繰り広げた。道中色々な問題に見舞われたのは言うまでも無い。

 

 今でこそ笑い合える。

 

「さぁ、誓いのキスを」

 

 神父ボンドルドが結婚式の締めを促した。

 

「フリーレン。本当に色々な事があった。魔王討伐して、数年は長かった。……す、数年?」

 

「ヒンメル。どうしたの」

 

 ヒンメルの脳裏に何かが引っかかる。魔王討伐したのは良い。だが、それから数年後に結婚式。男ヒンメルは、やると言ったからにはやる男だ。人生の全てを彼女に捧げた。自らのなすべき事を……それを思い出す。

 

「おやおやおや、どうなされましたヒンメルさん。新婦の方がお待ちですよ」

 

「あぁ、済まない。少し思い出した事があってね。そうだな、これは都合が良すぎる」

 

 人の夢と書いて儚い。

 

 この瞬間、ヒンメルはコレが夢だと気が付いた。彼は、魔王討伐後にフリーレンを未来に帰す為、残りの人生を捧げると決意した。それなのに、フリーレンと結婚式を挙げて一緒になるなどあり得ない。

 

 それでは未来が成立しない。

 

 望んだ未来を夢として見せられていると、徐々にヒンメルが思い出し始める。このような芸当が出来るのは、彼が出会った魔族で奇跡のグラオザームのみ。今この瞬間も魔族の手の内にある。

 

 そして、この状況に囚われる時間が長い程、フリーレンに危険が及んで居ると。

 

「大丈夫、ヒンメル?」

 

「心配してくれるのか、フリーレン。君の花嫁姿は本当に綺麗だ。だが、それも見納めだな」

 

 ヒンメルは身を翻した。

 

 自分が居る場所はここではない。彼は、この未来が欲しかったが理解した上で捨てた。

 

「奇跡のグラオザーム。魔族である君に感謝する事になるとは、夢にも思わなかった。――ありがとう。だが、魔族であるお前には分からないだろう。僕は、勇者だ。魔王を討伐する勇者だ!! 童貞すら守れない男が、魔王討伐なんて出来るはずないだろう」

 

 その言葉に、頷くハイターと神父ボンドルド。

 

 アイゼンだけが、一緒にするなという顔をしている。

 

「素晴らしい。それでこそ勇者ヒンメル」

 

「何か釈然としませんが、ありがとうボンドルドさん。童貞の純情を弄んだ魔族をぶっ殺しに行ってくる。夢の中まで迷惑を掛けて済まなかった皆」

 

 集まってくれた参列者に頭を下げるヒンメル。

 

「そっか、行ってらっしゃい。ヒンメル」

 

「行ってくるよ、フリーレン。僕が君の未来を必ず守る。だから、未来で幸せになれ」

 

 奇跡のグラオザームの魔法から覚める方法は、外部から起こせば簡単だ。だが、自力で夢から目覚める方法は中々難しい。そもそも、夢と認識できない者が殆どだ。夢と気が付いても覚める方法が問題となる。

 

 ヒンメルは自らの頭部に両手を当て、首をぐるりと回転させ自害する。その行動にためらいはない。

 

 夢から覚める方法を力業で実現する。悪い夢が覚めるタイミングなど死ぬ瞬間である事を彼は知っている。

 

 目が覚めたヒンメルを見た瞬間、グラオザームは悟るだろう。男の純情、童貞の純情を弄ばれ復讐に燃えた勇者を。その彼は阿修羅をも凌駕する。

 




次は、ハイター。そして、フリーレンの夢をやろうかと思っています。
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