黎明のフリーレン   作:新グロモント

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58:フリーレンの夢

 香ばしい匂いと心地よい温もりを肌で感じるフリーレン。

 

 思わず、抱きしめたくなるような柔らかさに顔を埋める。ドクンドクンとなる心音が心地よく、更に眠りに誘われてしまう。無防備な姿を見せながらベッドで二度寝を決め込む彼女。

 

「ママ、朝だよ。パパが皆で朝食を食べるからって」

 

「ね、眠い。プルシュカ、私は昨日も遅くまで魔道書を…」

 

 起こしに来たプルシュカをベッドの中に連れ込んで抱き枕にしていた。寒いからといってプルシュカを獣化までさせて、ぬくぬくとしている。これでは、どちらが子供か分からない。よく姉妹と勘違いされるが親子だ。当然、フリーレンが母親。

 

 その様子を見かねた者がその場にはもう一人居た。絶命危惧種のエルフであり、フリーレンの師の師。

 

「プルシュカ、寝てる奴なんか放っておけ。それより、朝食を食べるぞ。フリーレンには残り物でも食わせておけ」

 

「…………は? 何で居るの?」

 

 フリーレンの自室前には、ゼーリエが呆れた顔をしていた。

 

 ぬくぬくの抱き枕だったプルシュカがフリーレンの腕の中からスルリと抜けていった。そのまま、ゼーリエに抱きついて尻尾まで振っている。その懐きように少しイラッとするフリーレン。

 

「はーい。ゼーリエお姉ちゃん」

 

「様を付けろと何時も言っているだろう」

 

「ゼーリエお姉ちゃん様!!」

 

「安心しろ、フリーレンの分まで食べてやる。今日は、プルシュカが朝食を作ったのだろう」

 

 完全に目が覚めたフリーレン。

 

 例えゼーリエであろうともそのポジションを取るならば、やりあう気はあるフリーレン。ベッドから起き上がり、早々に身支度を調えて食堂へと向かう。その際は、プルシュカの手をしっかりと握りゼーリエに取られないようにガードを忘れない。

 

 人の娘に手を出すような輩には容赦する必要はない。

 

 食堂に着けば、何食わぬ様子のボンドルドが着座して待っていた。四人掛けのテーブルに全員が着席する。ボンドルド以外エルフの女性というこの割合は凄まじい。ボンドルドの横にはゼーリエが座っておりその対面にフリーレンとプルシュカ。コレでは、完全にフリーレンとプルシュカが姉妹にも見える。

 

「おはようございます、フリーレンさん。本日は、早起きしてくださいとお願いしておりましたのに」

 

「仕方ないでしょ。面白い魔道書を渡すボンドルドが悪い。で……なんで、ゼーリエまでここにいるの?」

 

 面倒見が良いゼーリエ。

 

「さぁ、何でだと思う?」

 

「言っておくけど、プルシュカはあげないからね」

 

 プルシュカに対して無駄に甘い事をフリーレンは知っていた。プルシュカも近所の駄菓子をくれる優しいお姉さん的な感じで慕っている。だが、実年齢はお姉さんとかいう次元じゃない。

 

「むふ~、ママは今日が何の日かまだ分からないの?本当に?ゼーリエお姉ちゃんは、お祝いに来てくれたんだよ。はい、ママ。あ~~ん」

 

「もぐもぐ、お祝い?何の日だっけ?」

 

 プルシュカに食事介護されるフリーレン。

 

 衣食住をボンドルドとプルシュカに助けられるフリーレン。これが、あの魔王を討伐した勇者PTの魔法使い。彼女の銅像が各地にあり、一般攻撃魔法開発にも多大な貢献をし、魔族から黎明のフリーレンと恐れられている者の真の姿。

 

「フリーレンさん。お誕生日おめでとうございます」

 

「ママ!! 誕生日おめでとう。でも、お寝坊さんは駄目だよ。折角プルシュカがご飯作ったのに」

 

「孫弟子を偶には祝ってやるのもいいだろう。おめでとう。そして魔王討伐よく頑張った」

 

 人から褒められる経験、人から祝われる経験というのは、年を重ねるごとに少なくなる。

 

 生きた年齢は別として、フリーレンはエルフとしてはまだ若い。若い頃には、そういう経験が大事だ。長寿種のエルフである故に、彼女を知る者達は殆どいない。知り合いから褒めて貰えるというのはとても貴重な経験。

 

「あ、ありがとう。ボンドルド、プルシュカ……それにゼーリエも」

 

 照れくさそうな顔をするフリーレン。

 

「ふっふっふ。実は、今日のためにプルシュカがママに誕生日ケーキを用意したのよ。なんと、年の数(・・・)だけ蝋燭を立てるのに苦労したんだから」

 

「おぃ、待て。今、年の数だけと言わなかったか。私の年齢をなんで知っている」

 

 アンブラハンズが運んでくる超特大のケーキ。結婚式のウエディングケーキですらここまでのサイズにはならないだろう。だが、それよりも目に付くのは、恐ろしい蝋燭の数だ。ケーキと蝋燭のどちらが本体なのか分からない。

 

「あぁ、それはプルシュカに"母親の年齢が分かる魔法"をくれてやった。喜べ、フリーレン。一級魔法使いでもない奴に魔法をやるのは滅多に無い事だからな。それと、フリーレンにはコレをくれてやる。プルシュカに感謝しろ」

 

「ゼーリエ様も素直じゃありませんね。私からはコチラを」

 

 ゼーリエ直筆の新しい魔道書。"鼻からスイカが出る痛みを追体験させる魔法"という伝説級の魔法が手渡された。

 

 ボンドルド直筆の新しい魔道書。"トイレ中になぜか小鳥のさえずりと水音がする魔法"という伝説級の魔法が手渡された。

 

「ありがとうゼーリエ。ありがとうボンドルド」

 

「実は、プルシュカが作った初めての魔道書がここに有ります!パパとゼーリエお姉ちゃんの協力の元で作ったのよ。ママにお誕生日のプレゼントとしてあげちゃいます」

 

 この段階でフリーレンの目元に涙が溢れそうになっていた。

 

 幸せな誕生日。こんな経験は何時ぶりだろうか。ゼーリエとの仲が改善し、家族から祝われてプレゼントまである。この幸せが何時までも続けばいいと思ってしまう。魔族殲滅や魔王討伐などフリーレンは頑張ってきた。それが報われても誰も文句は言わない。

 

「プルシュカは、どんな魔法を作ったのかな……"赤ちゃんの気持ちが分かる魔法"」

 

「そうだよ!! だって、ママはずっと一緒にいて(・・・・・・・・)大変だったんでしょ。この魔法があれば、パパもママも子育てが楽になるかなって」

 

 違和感を覚えるフリーレン。

 

「……ずっと一緒にいたんだ私」

 

「ママどうしたの?そうだよ、ずっと一緒だったじゃん。毎年、誕生日会もやってたでしょ。プルシュカの名前だって、ママがお花が好きだったからママが付けてくれたって聞いたよ。プルシュカって夜明けの花って意味なんでしょ。プルシュカとっても好きだよ」

 

 魔族絶対殺すウーマン。

 

 この状況を作り上げた魔族に人の心とかないのかとフリーレンは本気で思った。人様の古傷を錆び付いたナイフでえぐるような行為。一見、平和そうに思える理想的な光景だが、それはフリーレンにとっては触れてはならない部分だった。

 

 二歳になる前に育児放棄をして旅にでたフリーレンには、毎年娘と誕生日を祝った経験もない。名前すら付けなかった。

 

 フリーレンがあの時に捨てなければ実現出来たかも知れない一つの未来。今現在、その関係を復元に向けて努力している最中に見せ付けられては、怒りを通り越して逆に冷静になるというもの。

 

「プルシュカ、愛しているよ。だからこそ、私は行かないといけない」

 

「そっか、そっか。なら、仕方ないね!! ママ、プルシュカの事を大事にしないと駄目だよ。そうしないと、ゼーリエママ様が誕生しちゃうんだから」

 

 フリーレンがプルシュカを抱きしめて別れを告げる。彼女は、この状況が夢であると正しく把握した。何故ここに居るかも。

 

「おやおやおや、私の事は愛してくれないのですか?」

 

「愛してるよ。現実では言わないからね。それに、愛してなかったら子供なんて作らない」

 

 嘘偽りは無い。この旅で色々と思い直す事があり、改めて自分の感情を理解していた。

 

「私には愛しているなんて言うなよ」

 

「言わないよ。だけど、ありがとうゼーリエ」

 

 フリーレンは、ゼーリエに感謝を伝えた。フランメの死後に一応何かと気をかけてくれていた事に今更ながら気が付いた彼女。

 

「奇跡のグラオザーム。お前の精神魔法は確かに心に効いたよ……悪い意味でね。本当に許せない。家族をだしに使う魔族のやり方が。母親を舐めるな」

 

 目が覚めたフリーレンを見た瞬間、グラオザームは悟るだろう。母親の前で愛する家族を弄び古傷をえぐった罪の重さを。グラオザームは、三人目の阿修羅を覚醒させた。

 




多分、こんな感じかなと!

阿修羅を量産したグラオザームさん。
これって、実はボンドルドが未来から来なくても解決出来たんじゃ無いかと思い始めた。現地の人材だけで殺し尽くすでしょ…。

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