過去に精神だけが移動してきたボンドルド。
彼は、目の前に広がる光景に戸惑う。奇跡のグラオザームが激高しており、ソリテールの剣の魔法があり、ヒンメル達とフリーレンが倒れており、アイゼンが血塗られし軍神リヴァーレと戦っている。
ボンドルドとて、この状況を瞬時に整理するのは難しい。だが、やる事は決まっている。フリーレンが倒れている。彼女を救う事こそ、ボンドルドがこの場に居る意味だ。
「おやおやおや……おや?」
ボンドルドは、声が高い事に気が付く。過去のボンドルドの記憶には、女神の石碑に触れた記憶はなかった。だから、アンブラハンズの誰かだとは想定はしていたが、女性体であるとは少し予想が外れた。
衣服を確認し、紫のサイリウムの形状から肉体がリメイヨだと判明。80年前のリメイヨ……その時代のボンドルドのスペアである死装束。これは、運が良いとボンドルドは考えている。当時のNo.3の肉体だ。
「今のは時空干渉。貴様も未来から来た存在か」
「魔王軍は、それを把握できるのですね。色々とお話を伺いたいのですが、そうもいきません。そこに横たわっているフリーレンさんに何かされたのは貴方ですか?奇跡のグラオザームさん」
ボンドルドは、話を引き延ばしていた。
男性であった頃の肉体とは異なり女性の肉体。女性であった経験もあるが、その肉体誤差を把握し慣れるまで多少の時間は掛かる。過去最高の出来である南の勇者の血筋であった肉体と比べると身体能力は半分。魔力に至っては1/15程度。一流の魔法使いレベルだが、大魔族相手には厳しい。
「フリーレン、お前は何度過去に干渉すれば気が済む」
「………」
グラオザームが何を言っているのかボンドルドでも理解不能。
アンブラハンズの何処にフリーレン要素があるのか、一度問いただしてみたい。だが、想像の斜め上の勘違いをしているのならば乗るのが定石である。
「これで確定した。女神の魔法とて限界はある。同一人物でなければ、過去と未来は行き来出来ない。貴様は、何時の未来からきたフリーレンだ」
「120年後の未来から」
適当な嘘をつくボンドルド。
しかし、グラオザームには効果抜群だ。黎明卿やアンブラハンズの中身をフリーレンだと考えている者にとっては、状況証拠を事実に格上げするには十分な物だった。
「未来からの戦力流入を防ぐ必要がある。過去を消せばお前等も消えるのは道理だろう」
「なるほど、分かりました。魔族が想像以上にバカだったと言う事が」
ボンドルドは、そこら辺に落ちているソリテールの剣を拾った。残魔力から考えるに、大技を多用できない。大魔族が三人もいるのだからある程度の残魔力コントロールは必要になる。
ソリテールの剣に込められた魔法に自らの魔法で上書きを施した。ソリテールの魔法は、ボンドルドも既に見ている。彼女を背負って旅をしており魔力の波長を理解していた。その為、剣の所有権を上書きする事は難しくない。
隠れて援護しているソリテールとしては、人様の魔法を奪うとか出来るんだと、感心していた。1000年生きたエルフの魔法使い。魔法に対しての知見は七崩賢を上回る可能性があると理解する。
どんどん、誤解が進んでいく。
その情報が未来では魔王軍に持ち帰られて、魔族内部では歴史上最も魔族を殺した化け物にノミネートされる。
「120年後。ならば、お前の記憶を頂こう」
「チェストーーー!!」
初代ボンドルドは、故郷が薩摩的な場所だった。魔法が発展していない時代に、対魔族で生き残る方法は一つだけ。やられる前にやる!! その村出身の全員は、示現流の免許皆伝を修めているような集団だった。
初手の一撃をもって全てを殺す。
ボンドルドは、そこに魔法を加味する。魔法とは、リスクを取ることでその威力を増大させる。
"限界を超えた一撃を出す代わりに両腕の骨が砕け散る魔法"
"相手の背後を絶対に取るが両足の骨が砕け散る魔法"
"体感時間を3倍に伸ばす代わりに片肺が潰れる魔法"
この一撃に限れば、ボンドルドは勇者ヒンメルの本気の一撃を上回る。ボンドルドが模倣したのは、南の勇者の動き。南の勇者の通常攻撃は、これらの魔法を使ったボンドルドの攻撃に匹敵する。
グラオザームであってもボンドルドが目の前から消えたようにしか思えない速度。ズドンと地面を深く切り裂いた音がした瞬間、グラオザームは初めて自分が斬られた事に気が付いた。
しかし、左肩から右脇まで綺麗に切断したはずだったが、グラオザームは何食わぬ顔をしている。ボンドルドも切った手応えを感じていない。
「剣を持った時点で予想はしていた。どのような攻撃でも当たらなければどうと言う事は無い。貴様が切ったのは幻影だ」
決して人に素顔を晒さないグラオザーム。ボンドルドは、その姿が偽物であると気がつけなかった。その結果、無駄に魔法を使い。両手両足を駄目にした。回復魔法で即座に直しているが、少し遅い。回復を待ってくれるほど、敵も優しくはない。
グラオザームが手に持った剣でボンドルドの胸を貫く。真っ赤な血が飛び散り、倒れているヒンメル、ハイター、フリーレンに降りかかった。
………
……
…
頬が濡れる感覚で目が覚めたヒンメル。彼の目の前にグラオザームに胸を貫かれたリメイヨが映り込む。両手両足もあらぬ方向に曲がっており、胸まで貫かれる彼女。
たった一人で自分達を守ってくれたのかと勘違いする。重傷になっても自分達を守る為、命を賭けたと。
「グラオザーム、お前は存在してはいけない生き物だ」
倒れるリメイヨを支え、剣を握りしめたヒンメル。リメイヨにまだ息がある事を確認し、直ぐにハイターに預けようとした。たたき起こそうとしたヒンメルだったが……彼もまた息をのんだ。
殺意に目覚めた勇者ヒンメル。
「ヒンメル。私は、リメイヨさんを治療します。目障りな魔族を殺しておいてください。しくじれば、私がヒンメルを殺しますよ」
笑顔のハイター。笑顔とは本来攻撃的なものであり獣が牙をむく行為が原点である。大魔族並の魔力があるハイターがいう凄みは違った。グラオザームも威圧されるほどだ。
殺意に目覚めた僧侶ハイター。
「ヒンメル、ハイター。グラオザームの魔法に対抗する防護魔法を仮だが作った。……うん、なにリメイヨ。ハイターが治療中とはいえ、あまり喋ったら駄目だよ」
グラオザームにゴミ以下を見るような目を見せるフリーレン。
リメイヨの口元に耳を近づけて、彼女の言葉を聞き取る。
「フィアラトール。私は、過去も現在も未来も貴方の味方です」
未来への帰還の呪文を伝えられたフリーレン。だが、リメイヨの最後の言葉で気が付いた。その言葉は、ボンドルドがよく使う物だと。
「ハイター………リメイヨには、聞きたい事ができた。絶対に殺させるな」
「言われなくても」
殺意に目覚めた魔法使いフリーレン。
殺意マシマシの三人を見たグラオザームは困惑していた。絶対的な自信がある魔法が簡単に打ち破られた。短時間で目覚められたのは、初めての事だ。このような事態にならないためにも早々に首を落としたかったが、失敗している。
いつの間にかソリテールの支援は消えていた。彼女は、殺意に目覚めた勇者達を見た瞬間にこの場を離脱している。生き延びることに関しては、彼女は魔族の中でも随一かも知れない。
ヒンメルが握る勇者の剣は、今日も魔族の血を求めている。
ハイターが持つ聖典は、今日も魔族の苦しみを求めている。
フリーレンが握る杖は、今日も魔族の魔素を求めている。
彼等を同時に相手にすることになるグラオザームに未来はあるのだろうか。