黎明のフリーレン   作:新グロモント

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60:チェスト

 ボンドルドは、治癒されながらグラオザームの末路を観戦していた。

 

 グラオザームの本体を特定できなかった為、誤チェストをしてしまった彼。初代の生まれ故郷では、誤チェストしたら切腹までがセット。それは、魔族に情報を抜かれないためと一撃で屠る覚悟を付けるための風習。それで生き残ってこそ、強者生存の社会が出来上がる。

 

「ヒンメル様。物理現象には必ず実態が伴います。この世に存在しない魔族などいません」

 

「リメイヨさん、アドバイス感謝する。つまり、こうすれば良いんだろう」

 

 グラオザームの幻影が有る限り本体を直接的に攻撃するのは難しい。だが、実態は存在している。剣を持ち、ボンドルドの肉体を貫く事をやったのだから。

 

 その答えからヒンメルが導き出したのは、眼前に広がる全てを鏖殺する事だ。単体攻撃からMAP攻撃に切り替える。回避出来る場所が無い程の攻撃をすれば必ず当たる理論。

 

 ヒンメルの心の内を察したフリーレンとハイター。

 

 フリーレンは、ヒンメルの手が届かない場所を潰す。その為、未来でボンドルドから教わった結界魔法――アビス結界を活用する。この時代においては、ボンドルドしか使わない結界魔法。数年後には、世間一般にも広く普及するのだが今現在は革新的な技術だ。

 

 ハイターは、この周辺一帯を囲む程の大きな結界を作る。外部からの侵入を拒まず、内部からは出にくくする条件付きの結界。大魔族でも簡単に抜ける事は難しい。結界の内部から出ようとする者がいれば、ハイターが察知出来るため、そこに攻撃を集中する使い方になる。

 

「良いアイディアだ、ハイター。私は、蠅をたたき落とす――アビス結界!!これで、魔族は飛行魔法が使えない」

 

「逃げ場を無くしましょう。私の魔力でも、この大規模の結界魔法は2時間が限界です。後は、分かりますね」

 

「ハイターも優しいな。……徐々に、結界を縮めていけ」

 

 ヒンメルの一言でハイターは、納得した。一度、囲んでしまえば、そのサイズを維持する必要は何処にも無い。徐々に狭めていき、ヒンメルが殺しやすい状況を作る事が僧侶の仕事だ。

 

 陸と空の逃げ場を失ったグラオザーム。

 

 グラオザームは、チラリとリヴァーレを見た。だが、彼は彼で忙しい。フリーレンの魔法で片腕を失ったのに、人類最高の戦士であるアイゼンと一騎打ちをする事になった。万全な状態であれば、リヴァーレが優勢だろうが厳しい戦いをしている。

 

 リヴァーレとしては、さっさとヒンメル達を殺して手伝いに来いと言いたい側だ。それなのに、なぜか勇者PTが全員強化されているこの状況に唖然としている。七崩賢として、その程度の仕事も出来ないのかと。実は、人類側に魔族を売って戦後の生存を約束して貰っている裏切り者ではないかと思えるレベルの惨状だ。

 

「まずは一振り」

 

 勇者の剣が横に振られる。

 

 誰も振ったのが見えないレベル。ヒンメルを起点とした見えない斬撃が扇状にある全ての物質を切断し、ソニックブームによる衝撃波で全てを吹き飛ばす。勇者ヒンメルが肉体のリミッターを解除したからこそ出来る芸当。

 

「ヒンメル。今のは外れた。魔力探知だと、あそこ辺りに居そうだ」

 

「なるほど、この魔族は隠れるのが上手い魔族なのか。実に、悪い魔族だ。フリーレンの言葉を借りるが、良い魔族は死んだ魔族だけだ」

 

「ヒンメル~。いつまで遊んで居るんですか。私がリメイヨさんの治療を終えるまでに殺さないと。私が何をしでかすか分かりませんよ」

 

 ハイターの手によって、治療の6割を終えているボンドルド。

 

 殺意に目覚めた勇者達の戦い方が効率化された事に驚きだ。実に無駄が無い。この方法ならば、大魔族を一人一人隔離して殺せるだろう。今後の参考にさせて貰おうと思っていた。

 

 ただ、この方法の場合大事なのは戦士としての力量。未来の世界でシュタルクが殺意に目覚めたヒンメルと同等になれるかと言えば無理だろうなとも感じていた。

 

「はっはっは、それは恐いな。だが、ハイター……逃げ惑う魔族を狩るのも偶には良いだろう。次は、二振りだ。何振りで避けられなくなるか楽しみだ。フリーレンは、万が一に備えて、私達に近付く者を金にする魔法を使ってくれ」

 

「分かった。ボ……リメイヨ(ボンドルド)が責任を取ってくれると言ったから万物を金に変える魔法(デイーアゴルゼ)を使う。後で、色々と話があるからねリメイヨ。覚悟しておいてね」

 

 ボンドルドは、一瞬耳を疑った。

 

 あの禁術を解禁しており、リメイヨが責任を取る事になっている。おまけに、なぜか、中身が同一人物だともバレている事に。

 

 環境破壊兵器ヒンメルの誕生により、確実に窮地に追い込まれているグラオザーム。勇者達の認識に干渉して色々と誤魔化しているが、限界が来ている。フリーレンの防護魔法のお陰で通りが悪い事に加え、逃げ場が失われていく。

 

………

……

 

 ヒンメルの四振り。

 

「ほら、掠ったぞ。今度はどうだフリーレン」

 

「実に良い感じだ。グラオザームの魔素を把握した。これで防護魔法を更に強化し、探知魔法の精度も上がった。次は、私が魔法を撃つ辺りを狙って。裁きの光を放つ魔法(カタストラーヴィア)

 

 デンケンが多用する魔法を使うフリーレン。小規模な爆発を起こして、粉塵を発生させる。グラオザームが逃げる際には、どうしても物理現象が伴う。その塵の動きにヒンメルが狙いを定めた。

 

「ヒンメル。時間切れです。ここからは私の番です。貴方は十分楽しんだでしょう。…剣を貸してください」

 

 ハイターがヒンメルから勇者の剣を借り受ける。

 

 ヒンメルとハイターの出身地は同じ。それは中央諸国にある村だ。そこは、1000年前に薩摩的な剣術を教えていた歴史がある場所。ハイターは勇者ヒンメルの背に追いつくため、努力もしていた。だが、免許皆伝に辿り着く事はできていない。

 

 しかし、僧侶として人類最高峰の彼ならばそれを補うには十分な方法がある。

 

「えっ!? ハイターって剣が使えたの?」

 

「あれ?フリーレンには、教えていませんでしたっけ。私は、剣術の才能はからきしでしたよ……でも、一撃くらいは振れます。このようにね―――チェストォオオッツ!!」

 

 女神様の魔法を使っての身体強化――魔力の消費量に応じて身体能力が跳ね上がる。大魔族レベルのハイターがそれを使えば、瞬間火力は凄まじい。

 

 ハイターには自信があった。ヒンメルが追い込んだ事により逃げ場が失われ、フリーレンの探知魔法と防護魔法により、大凡の位置が特定されている。跳ね上がった身体能力でグラオザームが逃げる際の物理現象を捉えていた。

 

 勇者ヒンメルばかりに集中していたグラオザームは、ハイターからの攻撃を想定しておらず一瞬反応が遅れたことが致命傷になる。頭部から股に掛けて一刀両断されるグラオザーム。

 

「まさか、勇者でなく僧侶にやられるとは」

 

「まだ、しゃべれるんですか。女神様は仰っています……私の魔法でトドメを刺してくれと。女神の三槍、女神の三槍、女神の三槍……」

 

 死にかけのグラオザームに近距離から女神の三槍を打ち続けるハイター。真っ二つにされ、身体を穴ぼこにされては生存不可能。女神様に七崩賢の命を捧げたハイターの脳裏に、啓示がなされた。それは、遠い未来に女神の石碑を解読するのに役に立つ暗号表だ。

 

 ハイターは限界を超えた肉体の酷使で倒れこむ。筋肉が幾つも切れており、骨も砕ける。維持していた結界も消えてしまう始末。回復魔法を使わなければ、危険な状態だ。

 

「無理をしました。治療をしてもらえませんか」

 

「相変わらず見事なチェストだったよ。でも、無茶しやがって……リメイヨさん、病み上がりで悪いけどお願いできるかい」

 

「勿論。ですが、アイゼンさんの方は助けに行かないのですか?」

 

 ボンドルドは、回復魔法でハイターの治療を始めた。

 

 その間もアイゼンが必死に戦っている事が気になっていた。ヒンメルもハイターもフリーレンも何故かグラオザームを目の敵にしており、リヴァーレが完全に忘れられた存在になる。

 

「うわぁ~、ヒンメルもハイターもあの村の出身だったんだ。少し引く。それより、アイゼンだね。助けにいこうか、ヒンメル」

 

「そうだね。僕は、まだ魔族を斬り足りないから丁度いい」

 

 一対一でも勝負がつかないアイゼンとリヴァーレの戦い。それなのに、殺意に目覚めたヒンメルとフリーレンが参戦されては勝機など残るはずも無い。戦場での長生きなど考えないはずのリヴァーレだが、死ぬと分かりきった戦いはしないのが戦士であった。

 

 魔族最強の戦士が力の全てを逃亡に使えば、追いつける者は誰も居ない。戦略的撤退を見せた彼の背を見送るしかないアイゼンは何故か釈然としなかった。

 




フ「切腹しろ、リメイヨ(ボンドルド)
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