貴重なエルフ男性であるクラフトと分かれたフリーレン一行は、剣の里に寄り道をする事にしていた。ここには、嘗て勇者ヒンメルのPTが訪れており、半世紀後に再度訪れて魔物を処理するという約束がされている。
しかし、今現在80年が経過しており、30年もオーバーしていた。
そんなエルフの時間感覚のおかげで、剣の里の里長から、おしかりを受ける事になる。時間を守らないのは駄目な典型だ。
「フリーレンお姉ちゃん、時間を守らないのは最低だよ。そりゃ、エルフの時間感覚は、少しずれているのは分かっているけど、人にとって時間は有限なんだからね」
「そうですよ、フリーレン様。プルシュカちゃんを少しは見習ってください」
時間は有限。その事をフリーレンは身をもって知った。
自分より遙かに年下のプルシュカの方が時間感覚が人間に近い。これも教育の賜である。フリーレンの時間感覚がおかしい事にはボンドルドという例外がいる事も起因している。1000年の幼なじみの人間なんて、感覚がバグるのは当然だ。
「いや~、私は80年後でも大丈夫だと思っていたんだよ。勇者の剣を代々守っていた里の連中なら自衛くらい余裕だろうと」
「早く魔物を討伐して急ごうぜ。勇者の剣なんて、もう無いんだからさ」
シュタルクは、剣の里に勇者の剣を安置されていたことを知っているレベルでは博識であった。だが、世間の情報が全て正しいとは限らない。
………
……
…
長年生きた魔族を処理できるレベルのフリーレンPTにとって、山岳地に巣を張っている魔物など取るに足らぬ存在。主と言われるレベルの魔物ですら、シュタルク一人でおつりが来る。
ボンドルドは、シュタルクの常識離れした肉体に注目していた。あれはあれで、一種の特異点であると。
「パパ、見て見て!!勇者の剣があるよ」
「本当ですね。しかし、聞いた話では勇者ヒンメルが……。偽物でもなさそうですが、どういうことですか、フリーレンさん」
勇者の剣は、魔王を討伐した勇者ヒンメルが使ったとされている。だが、本物が現在も残っている事から、世間に流布されている話とは整合性が合わない。
「ヒンメルは、この剣を抜けなかったんだ。そして、ヒンメルは成し遂げたんだ。あんな剣が無くたって世界を救って見せた。本物の勇者だよ」
魔王相手に伝説の武器なしで勝利を収めるとは、バグPTだとボンドルドは思った。その後、フリーレンの口から勇者ヒンメルの歴史に泥を塗るわけにはいかないので、勇者の剣で魔王討伐を成し遂げたというカバーストーリーが広まったとバラされる。
「マジかよ。じゃあ、俺が試してみてもいいか?」
「構わないと思うよ。どうせ抜けないよ」
シュタルクが勇者の剣を引き抜こうと力を込めた。このPTの中で一番力があるシュタルクが抜けないのならば、本当に条件が必要だと言う事だ。
結果は、当然ビクともしなかった。
「パパ~、プルシュカも試してみたい。持ち上げて持ち上げて」
「はいはい」
ここまで来たのだから一度は勇者の剣が抜けるか試したいのが子供心だ。だが、プルシュカの身長では剣の柄まで手が届かない。ボンドルドがプルシュカを持ち上げた。そのまま、プルシュカが剣の柄を握る。
残念ながら動かない。
「ほらね、そう言うことだ。あの剣は、誰にも抜けない。また、半世紀後に見に来るよ。ほら、プルシュカも早く街に戻るよ。ここは、寒いんだ」
伝説は伝説。抜けない剣への興味は薄れたフリーレン一行は、勇者の剣が安置されている場所を後にした。
「使った後は掃除しないと駄目ではありませんか。触ると少し揺れてしまいます。やはり、シュタルクさんの馬鹿力が原因ですか。剣と台座を少し補強しておきます」
最後尾のボンドルドは、ハンカチを取り出して握った箇所をアルコール消毒する。
………
……
…
北側諸国アペティート地方に向かう途中、プルシュカが靴下を編んでいた。その様子にフェルンが、会話のネタに何で編んでいるかを尋ねる。
「シュタルクの誕生日だからね。こういうことは、お金より気持ちがこもった品がいいのよ。これから行く場所は寒いだろうから、皆の分も一緒に作ってあげるからね」
「――えっ!? シュタルク様の誕生日?」
フェルンは、自分がシュタルクの誕生日を覚えていないのか、知らなかったのかどちらであるか考えた。結論、知らなかった。
「プルシュカは、靴下を用意したのね。私は、これだよ。じゃーーーん、服だけ溶ける薬。ボンドルドは、斧のメンテナンスキットって言っていたかな。あ、誕生日は今日だよ」
「ど、どうしてそれを教えてくれないんですか。今から何か用意なんて出来ませんよ」
フェルンとて、仲間の誕生日くらいは祝ってあげたいと普通に思っている。だから、皆知っているなら一言くらい教えてくれても良いのではないかと言うのが彼女の言い分だ。
今から何を準備すべきか。
とりあえず、フェルンはフリーレンがプレゼント予定の服だけ溶かす薬を持ち主に掛けて処分する。
「駄目だよ、フリーレンお姉ちゃん。そう言う薬は、好きな人同士で使うべきだってパパが言ってたよ。………プルシュカの服を貸そうか?そのままじゃ、風邪引くよ」
「小さくて着られないよ。そんな子供用のちっさいの」
「着られるよ」
プルシュカが目測する限りでは、問題無く着られると判断できる。だが、それでは何か負けた気分になるフリーレン。
「無理」
「大丈夫。だって、フリーレンお姉ちゃん、ちっさいもん」
無言で杖を取り出す、フリーレン。
「どうやら、少しお灸を据える必要がありそうだね。表に出ようか」
「その格好で、お外に出たら風邪引くよ」
ニヤニヤするプルシュカ。
再び杖をしまったフリーレン。元勇者PTの実力で子供を分からせるときが来た。20分以上に及ぶキャットファイトの結果、宿主からいい加減にしろと怒鳴られて試合終了となる。後から、保護者という立場でボンドルドとフェルンが頭を下げて、その場を収めた。
この旅路の中、確実にフリーレンの情緒が育っていることを嬉しく思うボンドルド。
その日の夕食、みなで特大のハンバーグを食べながらフリーレンとプルシュカの喧嘩の原因が笑い話のネタとして、その場を盛り上げた。双方とも、相手が悪いという子供みたいな言い訳をする。
ネタが尽きてしまったので、どのようなお話を知りたいか読者様にお伺いできればと思っています。全て何話程度やるかも全く未定です。
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過去編(1000年前、初代ボンドルド)
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過去編(人類防衛ライン戦)
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過去編(50数年前、居候フリーレン)
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閑話(ゼーリエとプルシュカの文通)
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閑話(プルシュカと女神の魔法)
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バカか、全部やれ