黎明のフリーレン   作:新グロモント

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64:プルシュカ

 向き合う時が想像より早く来てしまったフリーレン。エルフは、何事も先延ばしに出来るのが悪い癖だ。50年でも100年でも300年でも彼女達にとっては、大差が無い。時間で解決させる手が往々にして取られている。

 

 だが、それが実の娘にも通じるかと言えば無理がある。

 

 フリーレンの置かれている状況は、彼女にとっては魔王と対峙した時に匹敵する緊張感。一手間違えば大惨事になる。

 

 プルシュカは両手でフリーレンの手を握り徐々に彼女を自分の方に引きずり込む。フリーレンをフォローしてくれるボンドルドは、親子水入らずで話し合いをしなさいと退室済み。フェルンは、搾り取り中であり最低数日は助けは来ない。

 

 人の心が分かり始めた初心者がいきなり難易度が高いクエストに挑む事になった。

 

「ママ。プルシュカ、いい子にしてたんだよ。どうして……どうして、プルシュカを置いて出て行ったの」

 

「――分からなかった。子供とどう接したら良いか。ごめんよ、プルシュカ」

 

 プルシュカの頭を抱き寄せるフリーレン。

 

 母親の胸に顔を埋めるプルシュカは、不思議と落ち着いてきた。涙でフリーレンの寝間着がグチョグチョになる。優しく娘の頭をなでて落ち着かせていた。

 

「お誕生日もクリスマスもママから何か贈り物があるかもって待ってた。でも、何十年も何もくれなかった。パパとみんなしか祝ってくれなかった」

 

「―――正直に言うね、プルシュカ。イドフロントでプルシュカに会うまで、娘の事を忘れていたんだ。言い訳はしない」

 

 プルシュカの爪がフリーレンの肉に食い込む。

 

 育児放棄して、娘を捨てて、再び出会うまで数十年忘れてましたなんて言われればプルシュカも恨み言の一つも言いたくなる。思わず力が入り、母親を傷つけてしまった。フリーレンの衣服に血が滲む。

 

「なんでよ。なんで、そんな事を言うのママ。プルシュカが悪い子だったからなの? ママはプルシュカにペンダントを残してくれてたじゃない。プルシュカは、ずっといつかママに会えると思って頑張ってたんだよ。酷いよ、あんまりだよ」

 

「ごめんよ、ごめん、プルシュカ。いつか自分から言い出そうとしてたんだ。でも、恐かった。今更、どのツラして母親なんて言えば良いんだ。私は、プルシュカの事を一度捨てたんだ」

 

 フリーレンが涙を流す。

 

 娘の眼前で恥も外聞もなかった。捨てたはずの娘が、今目の前で自分の事をママと呼んでくれている。それがどれだけ奇跡的な事なのか、今のフリーレンなら分かる。

 

「そんなの何時でも言い出す機会があったじゃない。ママのヘタレ、おたんこなす、ぺちゃぱい。プルシュカはね、そんな事でママの事を嫌いになんてならない。見損なわないでよ、ママ」

 

「そんなの分からないじゃない。私は、嫌だったんだ。この関係性が壊れてしまう事が。プルシュカと旅をしていて本当に楽しかった。今まで失った時間を取り戻せているような気すらしていた。でも、私が母親だと名乗り出た時点でそれが終わってしまうと。恐かった。恐くて恐くてたまらないんだ」

 

 居心地の良い時間を守りたいと思ってしまったフリーレン。一昔前なら誰に嫌われようとも気にしなかった。だが、プルシュカに嫌われたくないという思いを抱いて居た。

 

「ママ……プルシュカを見て。しっかりと。プルシュカはね、パパとママの子供なんだよ。プルシュカは、過去も現在も未来もママの味方。プルシュカだって、バカじゃ無いんだから。ママがにぶちんなのは十分旅の中で分かった。だから、謝るんじゃ無くてプルシュカを褒めて、ママ」

 

「そうだね。そうだった……よくやった、プルシュカ。本当に凄いよ。流石は、私の娘だ。私が思っていたより何年も早くあの封印魔法を解いたんだ」

 

 プルシュカに抱き寄せられ、娘の胸の中で泣きながら褒める母親フリーレン。

 

「ママ、プルシュカの事を愛してる?」

 

「愛している」

 

「ママ、パパの事を愛している?」

 

「愛している」

 

 プルシュカに頭を撫でられるフリーレン。いつの間にか立場が逆転していた。プルシュカの胸元もフリーレンの涙と鼻水でグチョグチョだった。

 

「プルシュカはね。パパもママも愛してる。だから、プルシュカは許してあげます。ヘタレなママが正直になれたから。もっと、勉強しないとだめだからね。プルシュカがママの事をいっぱい褒めて伸ばしてあげるから」

 

「うん、ありがとう。プルシュカ」

 

 母親と娘が同じベッドで泣きながら思いを語る。

 

 お互いまだまだ話し足りない。語り足りない。母の軌跡を知る娘。娘の軌跡を知る母親。双方が納得いくまで今までの事を話し合った。

 

………

……

 

 いつしか二人は、泣き疲れて眠りに落ちる。

 

 色々と吐き出してスッキリした二人の寝顔は実に幸せそうだった。ボンドルドは、そっと部屋に戻り二人に毛布を掛ける。そして、プルシュカの爪痕部分が残らぬように回復魔法を施す。

 

「お疲れ様です、フリーレンさん。言ったでしょう。プルシュカは、良い子に育ちましたって。プルシュカ、フリーレンさんを受け入れてくれてありがとうございます。私も二人の事を愛しておりますよ」

 

 フリーレンとプルシュカの二人を優しく撫でるボンドルド。

 

 むふ~と笑顔になるフリーレンとプルシュカ。本当によく似た二人だった。

 




フリーレンの旅も終盤。

オレオールでお待ちのヒンメル様も暇をしているでしょう。

プ「勇者を倒せば、プルシュカが新しい勇者なんだから。プルシュカのママは、フリーレンなんだから。"ヒンメルの脳を破壊する魔法(ゾルトラーク)"」
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