魔王城……80年前には、勇者ヒンメル一行に攻め入られて魔王が討たれた場所だ。本来人類側としては、魔族の象徴的な場所である城を潰したかった。だが、戦後にその余裕はない。
魔王討伐された後、生き残ってる七崩賢や大魔族達が存命で戦力捻出ができなかった。また、魔王討伐された報告により各国が戦後処理に走ったからだ。取り戻した領土を実効支配する為にも北方に戦力を集中させるわけにはいかない。国境とは武力で決める物だと国家が色々とやらかしていた。
そういった事情があり、魔王城は戦後も魔族が支配している。
それも今日まで。フェルンが三日三晩、スナイプし続けたお陰で魔王城にいた戦力が大幅に削られた。中堅所の魔族であっても、高圧縮ゾルトラークで脳天ぶち抜かれては即死だ。
その後は、フリーレン一行が魔王城に潜入する。ボンドルドの隠密魔法で、魔族の魔力探知から隠れる。そうなれば、魔力無しで近接戦闘ができるシュタルクとボンドルドの独壇場だ。接敵した魔族を闇討ち、そしてこっそりと魔王城のお宝を集める。
「流石は、魔王城だ。魔道書の蔵書がこんなにあるとは……本当は、杖を見つけたら消し飛ばそうかと思ったが、気が変わった」
「ママ、アッチに宝箱があったよ」
フリーレンがよしきたと喜んでいた。だが、フェルンが手のかかるエルフの二人を頑張って抑える。
「駄目でございます、フリーレン様、プルシュカちゃん。魔王城になんで宝箱があるんです。普通に考えて罠でございます。宝を宝箱にしまっておくなんて盗んで下さいって言っているような物じゃありませんか」
「夢が無いねフェルンは。もしあの宝箱の中身に魔王の杖があったらどうするんだ。私は1%でも可能性があれば開ける」
「大丈夫よ。プルシュカは運がいいんだから」
この親子を止めることは出来ないと察したフェルンは諦めた。
ボンドルドの方をちらりと見るが、好きにさせてあげてくれと言う達観した姿勢。フェルンは、見守るのも親の役目かと理解する。フェルンは、親としてどういう風に子育てをすれば良いかボンドルドから学ぼうとしていた。
フェルンが知る限り、ボンドルドは理想的な親の像だ。
「「暗いよ~。暗いよ~」」
ミミックに食われ掛けるエルフの二人。
だが、このミミックはただのミミックでは無い。魔王城内に警報音が響く。フリーレン一行が北上している情報は魔族達も知っていた。そして、宝箱に無駄に引っかかる特性も知られている。
そして用意されたのが、対フリーレン専用のミミック警報システムだった。
「これでは、隠密行動の意味が無くなりましたね」
「おぃ、どうすんだよ。幾ら俺達でも魔王城にいる魔族全員となんて……や、やれる?」
シュタルクは、今までの旅路を思い出した。
七崩賢やその直属の部下達以外は、ほぼ全てゾルトラークでワンパンしているようなPTだ。ちょっと強い魔物だって、シュタルクの強攻撃で死ぬ。チャージゾルトラークを使えば、直線上の敵は全て死ぬ。心配になる魔力ですら大魔族の外部タンクが多数有る状況だ。
「じゃあ、問題無いね。魔王城にある物は、全部持ち帰るから外で戦おう。ここじゃ狭い」
「そうですね、城が倒壊したら杖を探す所じゃありません」
フリーレン一行が魔王城の中庭へと出る。彼等を見つけた魔族や魔物がゾロゾロとやってきた。
………
……
…
一般攻撃魔法を極めたフェルン。
超長距離射撃で無く、中距離戦においてもその才能を開花させている。マルチロックオンして追尾する高圧縮ゾルトラークだ。一撃で何人もの魔族を貫き殺し尽くす。防御魔法には、大魔族カートリッジが活用されている。
防御魔法の弱点である物理攻撃については、彼女をサポートするシュタルクがいる。運良く一般攻撃魔法をかいくぐれた魔族がいても、シュタルクを一瞬で突破出来ない場合には、ゾルトラークで蜂の巣にされる。
「シュタルク様、守りはお任せします」
「任せておけ、フェルン。なるべく強そうな奴は倒しておいてくれよ」
まるでどこぞの世界のバルテウスみたいな堅牢な防御と頭がおかしいレベルの攻撃を繰り出すフェルン。魔族達は人間を甘く見ていたことを後悔する。100年も生きていない人間に魔族や魔物が蹴散らされる。
一皮剥けたシュタルク。
どんな怪我も傷も一晩寝れば回復する男。彼の肉体は、対物ライフルの直撃でも少し血が出る程度。人類最高峰の肉体を持つ彼が振るう斧は魔族の杖ごと真っ二つにする。魔力が小さい人間だと思って侮るバカが多く、シュタルクに真っ二つにされた魔族は数多い。
「だから、ちっさとか言うな!! 魔力の事だよな? 魔力の!? そうだと言ってくれよ。聞いてくれよ、フェルン。今、殺した魔族が死に際にこんな小さな奴にとか言って死んでいったんだぞ。違うよな、俺の小さくないよな? フェルンならわか……えっ、なんでコッチにゾルトラークが向いているの?」
「シュタルク様。私が手を滑らせるような事を言うと怒りますよ」
人類最高峰の肉体。過去に彼女がちっさと言ったのは戦闘態勢を取れていなかったからだ。
黎明卿ボンドルド。
80年前の魔王軍と人類との戦争において、魔族に対して非道の限りを尽くした悪魔的な存在。その男が再び魔王城に現れたことで一部の魔族達は、逃げる事すら視野に入れていた。判断が速い奴は既に逃げ出していた。最北端の地であるエンデにすら安住の地はないと嘆くばかりだ。
「投降は無意味です。最後の抵抗をしてください」
大魔族のカートリッジを数本積んでいるボンドルド。その全力の魔力量を見た魔族達は絶望する。魔力こそ絶対な世界に生きている魔族達は己が研鑽を積んだ魔法がアレに通じる事は無いと察する。
「今更、何をしに来たんだ黎明卿ボンドルド。ここにはお前が望むような物なんてないはずだ」
「魔族の方は面白い事を言います。魔族が人間を殺すように、人間も魔族を殺す。それだけでは、ありませんか。今回に限っては魔王が使っていた杖の回収が狙いです。素直に差し出してくれたなら、保護してさしあげます」
魔王が使っていた杖は、魔王城の宝物庫で厳重保管されていた。ただ、それは魔族達にとっても大切な品だった。象徴的な物であり、それを人間側に譲渡するなど考えられない。
フリーレン一行の戦力は異常だ。一国を落とせるレベルの戦力があった魔族達が、消し飛ばされる。
「魔王様が使っていた杖を渡せば、我々皆を保護してくれるのだな。宝物庫の封印を解くのに三日は掛かる。我々魔族でなければ決して解けぬ封印魔法だ。それまでの間は……」
「杖がこの城にあるなら魔族達を根絶やしにして、ゆっくり探します」
言葉とは便利なものだと思いつつ、ボンドルドは魔族の殲滅を始める。獣化したボンドルドを前に魔族は彼の事を化け物と罵った。
新たなる大魔王(笑)兼勇者予定のプルシュカ。
嘗ての魔王が使っていた杖以外を全て揃えたその姿は、一瞬魔王と見間違う程だ。小さい事を除けば、さまになっていた。
「ママ得意の極太ゾルトラーーーク!」
カートリッジから魔力を吸い上げて利用されたゾルトラーク。数百メートル先にまで届くゾルトラークがプルシュカから扇状に放出される。それに触れた魔族や魔物は綺麗さっぱりこの世から消滅する。
フェルンと違い精密射撃など考えない雑な方法。魔力量が多くないとできないこの芸当だが、広範囲殲滅には役に立つ。
上空に逃げた魔族は、プルシュカが魔力を飛ばして切断する。
黎明のフリーレン。
南の勇者が討伐した以外の全ての七崩賢の死に関わったとされる魔族の死神。魔力量が抑制されており、この場に集まった魔族達からは、狙い目だと思われていた。
だが、彼女はフリーレンだ。魔法に対する知見や解析能力は異常。それは、あのゼーリエすら認めるレベル。一度、身を以て味わえば同じ手は通じないと言っても差し支えない。何処の黄金騎士かと勘違いされそうだ。
「魔族は、数だけは多い。はぁ~、魂レベルで服従させる事は出来なかった。アウラは、凄い魔法使いだった。私は、これが精一杯だ……<自害しろ>」
フリーレンより魔力が、低い声が届く範囲にいる魔族や魔物が自害した。アウラの魔法を解析して作ったフリーレンの魔法。命令できるのは自害しろのみで、効力も一瞬であり汎用性が欠けた魔法だ。
現在フリーレンは、黄金郷マハトの黄金の劣化魔法、断頭台アウラの服従の劣化魔法、不死なるベーゼの劣化魔法が使える。今現在は、グラオザームの劣化魔法も開発中だ。
「フリーレンお姉ちゃん。プルシュカの杖が、魔王城の宝物庫にあるってパパが言ってた~」
「分かった。じゃあ、こいつ等は生かしておく必要無いね。用済みだ……開発中の魔法だけど、感想を教えてくれ。対象が一番嫌な思い出を延々と繰り返し見せる魔法だ」
魔法の開発には、犠牲は付きもの。特に精神魔法においては、その傾向は強い。その犠牲に魔族が活用される。フリーレンが開発中のグラオザームの劣化魔法……これには酷い副作用がある。目覚めたときには精神に異常をきたす。あらゆる生物が肉塊の化け物に見えて、あらゆる五感に異常が発生するおぞましい物。
精神魔法から目覚めても、生きていくのが辛すぎて自害する魔法になってしまう。
………
……
…
魔王城にいた魔族達は、このような化け物級の4人相手に戦いを挑む。この無謀とも言える戦いだが、死ぬか戦うかの二択しか持ち得ない魔族は戦うしか無かった。敵前逃亡した魔族も僅かにいたが、運良く逃げられた者は少ない。
魔族達を殺し尽くした後、プルシュカは一番乗りで宝物庫についた。そして、宝物庫の前で呪文を唱える
「宝物庫!! 開けーーーーゴマ」
「それじゃ、開かないよ。封印魔法がかかっているね。でも、これは………プルシュカ。私の娘ならコレは解除できるよ、やってみて」
フリーレンは、宝物庫に掛けられている強固な封印魔法を確認した。魔族にしか解けない、魔族でも三日は掛かるのはある意味納得がいく物だった。だが、その封印魔法は、ベーゼの封印魔法の劣化版。奇しくもフリーレンがロケットペンダントに施した物と酷似していた。
「むむぅ。あれ、この構築式、この構造。基本構造は、ママのアレと同じね!! プルシュカ、分かっちゃった。天才かも」
偉い偉いとフリーレンは、プルシュカの頭を撫でる。開けられた宝物庫の中には、金銀財宝はあまりなく魔道書や武器の類いが殆どだった。魔族にとって、金銀財宝は価値が低いから当然だ。
「うひょ~、伝説の魔道書達だ。これ、全部私達の物!!」
「ママ、後でプルシュカにも見せてね!! プルシュカの杖は、どこかな~どこかな~」
これが1000歳児とその子供が作る光景だ。
「フェルンさんとシュタルクさんも欲しい物があればご自由にどうぞ。金銀財宝の方がお好みでしたら、ちゃんと現代価値に換算した金銭を私が用意します」
「いいえ、私達は別に構いません。ただ……出来る事ならば、未来の子供達が困っていたら助けて頂けませんか。ずっととは言いません。孫の代くらいまで」
「俺もそれでいいぜ。どうせ、金を貰っても使い切れないし。それより、フリーレンやボンドルドさん達との縁の方が大事だからな」
ボンドルドは、フェルンとシュタルクも成長したなと実感した。
自分の事より未来の子供の事を考えて行動出来るようになるとは、子供の成長は早い物だと天国にいるハイターも喜ぶはず。その一方で、手塩を掛けて育てた娘が男を連れてきた時の顔はどうなるか分からない不安もあった。だが、その男がアイゼンの弟子ともなれば、ハイターも無碍にはできないだろうと。
「あったーーー!! ママ、これが魔王が使っていた杖でしょ!?」
「そうそう、それそれ。よかった、まだあって。よく似合っているよプルシュカ」
えへへと笑うプルシュカを甘やかすフリーレン。
フリーレンもこの旅路で成長した。これもヒンメル達が彼女の未来を守るために生涯を捧げてくれたお陰だ。
そして、フリーレン一行は最終目的地へと向かう。フランメから教えて貰った
開発中グラオザームの劣化魔法の副作用は……沙耶の唄の主人公みたいな状態になります。
次回は、オレオールに到着予定です。
本編もあと少し!!