黎明のフリーレン   作:新グロモント

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69:魂の眠る地(オレオール)(ハイター)

 フェルンは、魂の眠る地(オレオール)でいつの間にかフリーレン達と離ればなれになっていた。彼女の横に居るのはシュタルクのみ。些か心細いと感じている。

 

「シュタルク様。フリーレン様達とはぐれてしまいました。警戒しておいてください」

 

「いや、大丈夫だろう。なんか、敵意とか感じな……い?」

 

 人の気配がした方を見ると杖を使っているご老人がいる。ご老人は、笑顔の下ではシュタルクに敵意を向けている。

 

 その姿は、フェルンの幼い頃に分かれた育ての親――ハイターと一致している。老衰して死んだときと同じ姿で現れたハイターにフェルンは懐かしくて涙が出そうになっていた。

 

『フェルン、大きくなったね』

 

「ハイター様なのですか。もっと、若い姿でお会いするかと思っていました」

 

『ここでは死んだ時の姿で固定されるらしい。今では立派な一級魔法使いと聞きました。本当に、よく頑張りました。貴方がオレオールに向かっていると聞いたその日から会える日を楽しみにしておりました』

 

「おかしいぜ、フェルン。ハイターさんが死んだのは大分前だろう。俺等がここを目指すようになったのはその後だぜ」

 

 フェルンは、シュタルクの言い分が正しいと理解した。

 

 アインザームという魔物が過去に人の記憶から幻影を作り出す事をやっていたので、その一種では無いかと思っていた。だが、フェルンの魔法使いとしての能力がそれを否定している。目の前に居るのは幻影ではない何かであると訴えている。

 

『黎明卿から聞きましたよ。だから、フリーレン達の動向は大体把握しています。疑うのも無理はありませんが、私は本物です。死んでいるという点を除けば、生前と大差ない生活がおくれております。驚くでしょう?ここ、オレオールでは私達も食事もします。住む場所だってあるんですよ』

 

「…皇帝酒は、くそマズイ酒でございました」

 

 その瞬間、ハイターが目の色を変えた。

 

 文字通りフェルンに詰め寄る。

 

『飲んだのですね。私でも飲んだ事無いのに!?お土産はないのですか、主にお酒の』

 

「このオッサンやばすぎだろう。完全にアル中じゃねーか」

 

 フェルンは、ハイターが本物であると確信した。

 

 酒への異常な執着。本人と判断するに足ると。

 

『あっても受け取れませんので諦めましょう。ところで、フェルン。その少年がシュタルクさんでしたか』

 

「はい、ハイター様。えぇーーと」

 

 フェルンが、シュタルクの方に視線を送る。

 

 シュタルクの事を紹介すべきか、シュタルクが自主的に自己紹介するか、どちらになるかを彼に託した。男シュタルクは、この日のためにしっかりと準備していた。

 

 膝をつき土下座する構え。そして、頭を深く下げた。

 

「ハイターさん。フェルンさんと結婚を前提にお付き合いさせていただいておりますシュタルクです。娘さんを僕にください。必ず幸せにしてみせます」

 

『う、嘘ですよねフェルン。手塩を掛けて育てた娘が、どこぞの男に……うっ、脳がぁぁ』

 

 ハイターにヒビが入る。精神に耐えきれないレベルの負荷がかかった。言葉だけで、ボンドルドが認める僧侶ハイターを殺す数歩手前まで追い込むとはシュタルクは成長していた。

 

「いや、それは違うぜハイターさん。俺はどちらかといえば、食われた側だ。だが、男ってのはケジメが必要なんだと師匠にならってな」

 

『ぐぐぐがあぁぁぁぁ』

 

 ハイターに更に追い打ちを掛ける。老体にここまでの攻撃を無慈悲に行う戦士シュタルク。ぴしりぴしりとハイターの顔にもヒビが入っていった。

 

 親友の惨状を察知した老人(ヒンメル)が一人、面会に割り込んでくる。

 

『全く、世話が焼けるの~。弟子が幸せになっただけだろう。素直に祝ってやるのが大人の努めだ。僕を少しは見習いなよ。ドーーンと構えていれば良いんだよ』

 

『だって、ヒンメル。フェルンが男を連れてきたんですよ。故郷の風習だと、決闘ものですよ。貴方は良いですよ、どうせフリーレンさんは変わらずなんでしょうから』

 

 フェルンは、あっ察しとなった。この後、親友同士仲よく砕け散るなと。

 

 フェルンは、子供の頃の記憶は美化される物だと理解する。

 

 落ち着きを取り戻したハイター。聖職者らしく振る舞いフェルンに呆れられないように精一杯頑張る事を思い出す。

 

『ふぅ~、失礼しました。少し取り乱しました……シュタルク君。フェルンの事を頼みましたよ。思い込んだら向こう見ずな所があります。清い付き合いをしてください』

 

「わかったぜ。後、ハイターさんにお願いがあります。フェルンと相談したんだけど、子供の名前は、ハイターさんに考えて欲しいなって。男の子と女の子の分……10通りくらい?」

 

「シュタルク様。無自覚にハイター様を殺しにかかるのは止めてください。真っ白になって今にでも砕け散りそうになっていますよ。ハイター様、10人は嘘ですからね。5人分ずつ位で結構でございます。半分くらいはアイゼン様に残しておかないと悪いので」

 

『脳がぁぁぁぁ脳がぁぁぁぁぁ……アイゼン?なぜ、アイゼンが関係するのですか』

 

「そりゃ、俺がアイゼンの弟子だからじゃね。アイゼンは俺の育ての親だ」

 

 ピシピシピシピシ

 

 今にも崩れ落ちそうなハイター。それを支えているのは、フェルンがはるばる遠くまで会いに来てくれたという嬉しい感情だけだ。だが、男を連れてきて、紹介されて、娘を下さいと言われて、子供の名前を決めてくれとか言われるなど覚悟が出来ていなかった。

 

 男心は、女性が思うより繊細だ。

 

『そうですか……アイゼンの弟子ですか。ちっ、命拾いしましたね。しかし、最近の子は進んでいますね。わかりました、貴方達が帰るまでの間に必ず考えておきます。ヒンメル、僕はもう一歩も歩けません。運んでください』

 

『このひび割れも気にしないでいいから。ここでは、精神に負荷がかかると砕け散るらしいけど、時間で治る。アウラ~、ちょっと手伝ってくれないか。ハイターが限界を迎えた』

 

 ヒンメルに呼ばれて現れた住人は、頭に立派な角がある女性だった。

 

 女神様が作ったこの場所に魔族などいるはずがない。それに、勇者ヒンメルと僧侶ハイターとも顔見知りである雰囲気だったから、完全にコスプレだと思い込むフェルン。

 

『まったく、世話をかけるんじゃないわよ。娘が巣立ちするのって、人間世界じゃ当たり前じゃない。男って情けないわね。あんた達は、そこで適当にくつろいでなさい。ここのシステムが勝手にフリーレン達とも合流させてくれるわ』

 

 親切なお姉さんだなと思ったフェルンとシュタルク。

 

 父親代わりのハイターに色々と報告して、シュタルクとの関係を認めて貰い彼女としては大体やりきっていた。次に会いに来る時は子供を連れてと考えている。

 




アウラさんが次になります。
彼女が元気な理由もそこで判明予定。
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