ゼーリエ。大陸魔法協会のトップにして、女神様に一番近いとされる最年長のエルフ。傍若無人のような性格の彼女だが、弟子思いのツンデレさんである事は、彼女の弟子界隈では有名だ。
彼女のもとに届けられた一通の手紙。可愛らしい便箋であり、差出人が誰だか見る前から彼女は分かっていた。ゼーリエは、開けたくないが開けたいという謎の感情を理解する。
ゼーリエは、孫弟子達が黄金郷マハトを討伐した後始末もしっかりと対応した。黄金郷マハトをぶっ殺して、早々に帝国に向かったボンドルド達は知らない。強敵を倒した後は、事後処理の方が大変になると。
更に、エンデ地方に向かったフリーレン一行の情報は弟子達経由でゼーリエにも届けられている。各地方に隠れ潜んでいた大魔族を根絶やしにして、最終的に魔王城まで再占拠したと聞かされた時には、頭を抱えたほどだ。
エンデ地方の対魔族の最前線を支えていた連中は、魔王城に眠る財宝目当てや報酬目当てが多かった。雇っている側も魔王城の財宝を当てにしていた部分もある。しかし、フリーレン一行が単独で事を成し遂げ、その所有権を主張している。
アンブラハンズ達が続々と集結して、魔王城から物資を運び出す姿を見ている者達からすれば文句も言いたくなる。俺達が前線を支えていたんだぞと。それなのに、美味しいところだけ持って行きやがってと。そこで、フリーレン一行にはフェルン一級魔法使いが居た事から大陸魔法協会に抗議が殺到した。
人は誰でも文句を言いやすい場所に文句を言う。だれも、黎明卿ボンドルド相手に面と向かって文句を言う奴は居ない。当然、大陸魔法協会もそんな事しるかといって全てを突っぱねる。文句があるなら、自分達で言えと。
「手紙を持ってきた秘書官の奴は、笑いを堪えていたな。ちゃんと、様は付けているんだろうな様は…」
ゼーリエは、プルシュカの手紙を手に取り確認した。そこには、確かに様が付いていた。指示通りであり文句の付けようはない。更に、その手紙には写真も同梱されている。
手紙の宛名は、ゼーリエママ様。
同梱されている写真は、魔王装備のプルシュカが魔王城の王座に座り、その周囲をフリーレン達が囲む物。
手紙の内容は、
【ゼーリエママ様へ
大魔王プルシュカであーる。
お写真を見てくれた!? 凄いでしょう、プルシュカが手に入れた魔王が使っていた装備。大魔族が隠していたり、魔王城の宝物庫にあったり集めるのが大変だったんだよ。
でもね、ママがプルシュカには歴史ある物が似合うって集めてくれたの。そうそう、ママっていうのは、フリーレンお姉ちゃんの事だよ。本当にヘタレなママで困っちゃう。プルシュカの育児放棄をして、名付けしないで捨てて、数十年後に会うまで忘れていたなんて……しかも、自分からママだって名乗るに名乗れなくて困っていたみたいなの。本当にバカよ。プルシュカがその程度の事でママを嫌うはずないじゃない。
だから、ゼーリエママ様もあんまりママの事を虐めないでね。プルシュカは、皆と仲よくしたいな。
後ね、魂の眠る地でフランメお姉さんに会った。凄い魔法使いでプルシュカもビックリ。特に結界魔法に対しての知識が凄くて、プルシュカもいっぱい教えて貰っちゃった。他にもパパ達もいっぱい居て沢山可愛がって貰っちゃったわ。
その内、ゼーリエママ様も遊びに来て欲しいって言ってたよ。だから、今度は一緒に行こうね。プルシュカが案内してあげるんだから。
他にもいっぱい話したい事があるから、直接会って話すね。
】
再びゼーリエの脳が理解を拒み始めた。
魔王装備のプルシュカ。孫弟子が育児放棄、子供を捨て、出会うまで忘れていた、そして仲直りした。フランメがオレオールにいる。ボンドルドが沢山居る?
ピコン。
ゼーリエが新たな精神魔法を開発した。相手の脳に過度な情報を押しつけて何時までも完結しないようにする。どのような魔法使いであれ、情報を処理しきれなければ魔法すら使えなくなる。実に恐ろしい魔法だ。
「最近働き過ぎて疲れているのか。ゼーリエママ様って何だ。様を付けろとは言ったが、新手の嫌がらせか。しかし、またここに来る気か。30年ほど出禁にしていたがプルシュカが居る時だけは解除してやるか」
ゼーリエは、この時初めて気が付いた。
何時もならばメトーデが側にいるが、なぜかここ数日いない。だから、自堕落な生活がおくれていた。その為、掃除もおろそかになり洗濯物もたまってきた。食事も外食がメインだ。エルフも一度楽を覚えるともとの生活に戻すのは大変だ。
その為、比較的新しい服を洗濯しないで着回す事もある。どうせ、バレないだろうと。
コンコンとゼーリエの私室がノックされる。扉越しに秘書官がゼーリエに話し掛ける。
「ゼーリエ様。その~、お客様がいらっしゃいました。直接アポも取られているとの事で……」
「追い返せ。そんな約束はない。下らない事で私の時間を取るな」
ゼーリエと直接面談が出来るなど、彼女の弟子である一級魔法使い達くらいだ。それ以外は、よっぽどゼーリエの興味をひく相手のみ。
「ほら、だから言ったじゃん。帰ろう、ゼーリエも忙しいみたいだ。また、今度の機会にしよう」
「やだやだぁ。折角ここまで来たんだから、ゼーリエママ様にもご挨拶するの!! アポならさっき渡した手紙で話しに行くからって取ったもん」
ゼーリエのもとに届けられた手紙は、プルシュカが直接秘書官に渡していた。遠くの地から送ったのではなく、ここで書いていた。その奇抜な行動にゼーリエも脱帽だ。
「それよりさぁ、ゼーリエママ様は止めないプルシュカ。なんか気にくわないんだよね、その呼び方。ママとか一人でいいんだけど」
「えぇ~、でもゼーリエお姉ちゃん様よりゼーリエママ様の方が嫌な顔しそうで可愛いじゃん。プルシュカ、ゼーリエママ様が苦虫を噛みしめたような顔を見るの好きだよ。フリーレンお姉ちゃんもそうでしょ?」
孫弟子とその娘の会話がゼーリエにまで届いている。
ゼーリエの積み上げてきたイメージがドンドン瓦解している。それもこれも、同族のエルフ達が原因であった。ゼーリエは、このまま追い返した方が被害が広まると判断し、中に入れる事にする。
………
……
…
ミニスカートなのに椅子に座りあぐらをかくゼーリエ。
下着が見えそうで見えない絶妙な姿勢に彼の弟子達はいつもハラハラしていただろう。ゼーリエの可愛い服は、彼女の弟子であるメトーデが選び抜いた物だ。
「プルシュカに母親だと打ち明けたそうだな。そこだけは褒めてやる」
「むふ~。私は、出来る母親だからな」
胸を張るフリーレン。だが、ゼーリエは年長者として、同族としてケジメを付ける。
「嘘をつくな。母親だとプルシュカに先にバレた口だろう。フリーレン、歯を食いしばれ。お前は、誇る前に恥じろ。子供には親が必要だ。その親であるお前が子供を放棄する意味を深く考えろ、馬鹿者が。お前が若くして両親を失ったのは分かる。だからといって、それに近い思いを子供にさせるな」
パチンとゼーリエがフリーレンの頬を叩いた。
本当ならば全力で殴りたいが、こういうのは殴られるより言葉と頬を叩くほうが効果があるとゼーリエは理解している。
「ありがとう、ゼーリエ。お説教されたのは久しぶりだったよ」
「ママ、大丈夫?ほっぺが真っ赤だよ。ゼーリエお姉ちゃん……ママは、ちょっと人の心が分からないニブチン、魔法が大好きな、ペチャパイなんだけど。プルシュカの大事なママなんだから」
「プルシュカ。横で、フリーレンさんが凹んでいますので追い打ちは止めてあげなさい」
フリーレンからすれば、たった80年程度でここまで人の心が分かるように成長したんだと自分を褒めたいレベルだ。だが、周囲はそれでは足りないという。獣化しているプルシュカを吸って落ち着こうとしたが、ゼーリエに娘を取り上げられていた。
「ボンドルドがプルシュカに獣化の魔法を教えたんだろう。良い魔法だな。抱き枕として今晩は泊まることを許してやる。香ばしい匂いだ……落ち着くな。泊まっていくなら、今さっき開発した魔法を教えてやるぞ」
「うひょーーい。ゼーリエママ様、大好きーーー!! あれ?クンクン……これは、お洗濯しないで二日間着た匂いがする」
プルシュカを抱きしめているゼーリエ。痛恨のミスをする。香ばしい匂いを嗅いでいるが、逆にプルシュカにも匂いを嗅がれる。獣化したプルシュカの嗅覚は人間の比ではない。
ゼーリエは前回のプルシュカから送られてきた手紙の内容を思い出した。ニヤリと悪い笑みを浮かべたプルシュカ、諦めて達観した雰囲気のフリーレン……この状況が仕組まれていたと気が付いた。
逃亡を図ろうとするが、メトーデ率いるゼーリエ様大好き一級魔法使い達がそれを拒んだ。街全体を結界で覆う。その結界は、マハトを黄金郷に閉じ込めていた物と同じだった。
「メトーデ。お前裏切ったな?レルネンもか」
「私は、ゼーリエ様とフリーレンさんとプルシュカちゃんがペアルックを着た写真が欲しかっただけなんです。裏切ってなどおりません」
「申し訳ありません、ゼーリエ様。我々弟子達は、ゼーリエ様が少しでも楽しい思い出を作れるようにと……後で写真を大陸魔法協会の広報に載せる予定です。これで、大陸魔法協会の発展は間違いありません」
ゼーリエが本気を出せば、この状況からでも逃亡可能だ。だが、プルシュカが引っ付き虫の如くべったりと引っ付いている。無理に剥がそうとすれば怪我をする。
「酷いよ、そんなにプルシュカと一緒にお写真取りたくないの。プルシュカはお友達との思い出が欲しいだけなのに……ねぇ、そんなに嫌なの。プルシュカの事が大嫌いなの。ひっぐひっぐ」
「ゼーリエ、さっき私に大層なご高説をしてくれたね。まさか、同族の子供を泣かすような事はしないよね。大人として恥ずかしいよ」
「ぐぬぬぬぬ」
全て数週間前から綿密に計画されていた。
メトーデを筆頭に、本当に善意で協力してくれている一級魔法使い達。彼女が選び抜いた弟子達は、師であるゼーリエのためを思っての行動だ。ちなみに、彼等への報酬は、可愛い服に身を包んだエルフ三人と一緒に写真が撮れる事と可愛い服装のゼーリエ様とのツーショットとなっている。
「皆さん、あまりゼーリエ様に無茶を言っちゃ駄目ですよ。あんまり可愛い服を着せてしまうと……ほら、年を考えろっていうじゃありませんか」
カチン
ボンドルドの一言に、ゼーリエの覚悟が決まる。
「おぃ、ボンドルド。私を年寄りだと言ったな。私は、そこに居るペチャパイ娘とは違うという事を証明してやろう。いいのか、フリーレン。私とプルシュカと並んだらお前が最下位だ」
チョロイ、チョロ過ぎるとその場に居る誰もが思った。
………
……
…
後日、大陸魔法協会が発行する広報誌に可愛らしいエルフ三人が載った。ペアルック写真が大好評であったので、夏は水着で写真を撮らないかと弟子達から懇願されるようになるゼーリエ。
大陸魔法協会トップの生きる魔道書と言われるゼーリエ
魔王を討伐した勇者PTの魔法使いであり、七崩賢の半数を殺したフリーレン
魔王の遺産を継ぎ、大魔法使いフランメの結界魔法の継承者プルシュカ
伝説級の幻の生物エルフが、三人も所属する大陸魔法協会。更には、全員の経歴が常軌を逸していた。美少女三姉妹エルフとまで言われるようになり、彼女達に会うため引きこもりがちの魔法使い達も社会貢献に乗り出す社会現象が発生した。
アイゼンさん、お世話になった貴方にお礼を言いに行きますよ。
次は、フェルンとシュタルクがメイン?かもしれません。