一人の人間との共存を果たした魔族と、一匹の魔族との共存を果たした人間は結ばれ、一人の息子を産みました。
しかし、魔族と人間は彼を外の世界へ出す事はしませんでした。
魔族と人間の子供が居ると知れば、自分達が何をされるか、そして子供がどうなるか分からないからです。
だから、魔族と人間は彼に一般的な常識と、魔法と剣以外を教える事はありませんでした。
それから暫くして、人間は寿命を迎えました。
また暫くして、人間の後を追う様に魔族も死にました。
一人生き残った少年には、三人で過ごした家・魔族の魔導書・人間の剣技だけでした。
それから永い時が経ち―――少年は、とある勇者達と出会いました。
此処はエンデの果て。大陸の最北端に位置する地域であり、魔王が住まう魔王城が有る場所より遥かに離れた場所。
其処に建てられた小さな家の庭に、一人の少年と四人の冒険者が居た。
「……フリーレン、彼はどっちだい?」
「…分からない。魔族っぽいけど、人間っぽい。今まで見た事がない、感じた事がないタイプだ」
「もしかして…魔族と人間の子供ですかね?」
「可能性としては、それが有力だけど…正直、かなり低い可能性だよ」
「だが、その可能性が最もしっくりくるのは事実だろう。コイツはおそらく―――魔族と人間の子供だ」
四人全員から視線を向けられている少年は、しかしその理由が分からずに首を傾げた。
敵意もなければ悪意もなく、しかし善意も柔和も感じられない、空虚で独特な雰囲気を持った少年。しかし、それ故に彼らは警戒した。
魔族は人間の姿をしている。言葉巧みに騙し、欺いて人を殺す。
判別魔法や魔力の流れから、それが魔族であるか否かは分かる。
だが、判別魔法を使っても、魔力を読んでも、まるで桁が狂ったかの様に、少年が魔族か人間かが上手く判別する事が出来ないのだ。
考えられる可能性はたった一つ―――魔族と人間の間に産まれた子供。
それは事実。彼は―――優しい魔族と冷たい人間の間に産まれた、半人半魔という存在なのだ。
「えっと…」
少年が口を開いた瞬間、全員が構え―――
「こんにちは」
その言葉とお辞儀と共に、一人を除いて彼らは崩れ落ちた。
挨拶…ただの挨拶! 攻撃を仕掛けるでも挑発するでもなく、ただ挨拶をしただけ…!
「こ、こんにちは」
「誰かは分からないんですけど…お困りですか?」
「えぇ、まぁ…現在進行系で、少し困っていると言いますか…」
「そうですか。なら、その困っている内容を教えてはくれませんか?」
「教えたとして、君が何をするつもりなのさ」
四人の内の一人であるエルフの魔法使い―――フリーレンと呼ばれた少女は、構えを解かずに敵意を向けながら、少年へと問い掛ける。
対して、少年はそれを気にする事もなく答えた。
「手助けをする為です。『困っている人が居たら、必ず助けなさい』というのが、母の教えなので」
「……随分と、人格者な人なんだね」
「いえ、母は人? というのではないらしいです。人、というのは父に当たります」
「えぇ…?」
「なら、父親からの教えは?」
「『敵には一切の容赦をするな。例え味方だったとしても、敵なら殺せ』です」
「えぇ…冷たい…」
「マトモ…ですよね?」
「まぁ、戦士としては確かにマトモな考えだな。人間としては冷たい、と言ったところだが」
ますます、訳が分からなくなってきた。
魔族が人間を弄んだ結果として産まれた子供かと思えば、優しいのは魔族の方で、人間の方は冷たい。
つくづく、謎が深まる。優しい魔族と冷たい人間。そんな二人が、どうやって結ばれたというのか。
「…取り敢えず、君の名前を聞きたいな」
「ヒンメル」
「君の言いたい事は分かるよ、フリーレン。けど、僕は彼が他の魔族と同じだとは思えない」
「私もです。彼は、人の優しさを持っている気がします」
魔族は人の言葉を喋り、騙す。其処には確かな悪意が籠もっている。
だが―――眼の前の少年からは、それを一切として感じない。
否、そもそもとして―――まるで、そういった感情を知らないかの様だ。
「名前…名前は、確か―――」
クライゼル。
それが、優しい魔族と冷たい人間の間に産まれた彼の名前だ。