蒙昧のクライゼル   作:全智一皆

1 / 4
その昔、優しい魔族と冷たい人間が居ました。
一人の人間との共存を果たした魔族と、一匹の魔族との共存を果たした人間は結ばれ、一人の息子を産みました。
しかし、魔族と人間は彼を外の世界へ出す事はしませんでした。
魔族と人間の子供が居ると知れば、自分達が何をされるか、そして子供がどうなるか分からないからです。
だから、魔族と人間は彼に一般的な常識と、魔法と剣以外を教える事はありませんでした。
それから暫くして、人間は寿命を迎えました。
また暫くして、人間の後を追う様に魔族も死にました。
一人生き残った少年には、三人で過ごした家・魔族の魔導書・人間の剣技だけでした。
それから永い時が経ち―――少年は、とある勇者達と出会いました。


序章「出会い」

 此処はエンデの果て。大陸の最北端に位置する地域であり、魔王が住まう魔王城が有る場所より遥かに離れた場所。

 其処に建てられた小さな家の庭に、一人の少年と四人の冒険者が居た。

 

「……フリーレン、彼はどっちだい?」

「…分からない。魔族っぽいけど、人間っぽい。今まで見た事がない、感じた事がないタイプだ」

「もしかして…魔族と人間の子供ですかね?」

「可能性としては、それが有力だけど…正直、かなり低い可能性だよ」

「だが、その可能性が最もしっくりくるのは事実だろう。コイツはおそらく―――魔族と人間の子供だ」

 

 四人全員から視線を向けられている少年は、しかしその理由が分からずに首を傾げた。

 敵意もなければ悪意もなく、しかし善意も柔和も感じられない、空虚で独特な雰囲気を持った少年。しかし、それ故に彼らは警戒した。

 魔族は人間の姿をしている。言葉巧みに騙し、欺いて人を殺す。

 判別魔法や魔力の流れから、それが魔族であるか否かは分かる。

 だが、判別魔法を使っても、魔力を読んでも、まるで桁が狂ったかの様に、少年が魔族か人間かが上手く判別する事が出来ないのだ。

 考えられる可能性はたった一つ―――魔族と人間の間に産まれた子供。

 それは事実。彼は―――優しい魔族と冷たい人間の間に産まれた、半人半魔という存在なのだ。

 

「えっと…」

 

 少年が口を開いた瞬間、全員が構え―――

 

「こんにちは」

 

 その言葉とお辞儀と共に、一人を除いて彼らは崩れ落ちた。

 挨拶…ただの挨拶! 攻撃を仕掛けるでも挑発するでもなく、ただ挨拶をしただけ…!

 

「こ、こんにちは」

「誰かは分からないんですけど…お困りですか?」

「えぇ、まぁ…現在進行系で、少し困っていると言いますか…」

「そうですか。なら、その困っている内容を教えてはくれませんか?」

「教えたとして、君が何をするつもりなのさ」

 

 四人の内の一人であるエルフの魔法使い―――フリーレンと呼ばれた少女は、構えを解かずに敵意を向けながら、少年へと問い掛ける。

 対して、少年はそれを気にする事もなく答えた。

 

「手助けをする為です。『困っている人が居たら、必ず助けなさい』というのが、母の教えなので」

「……随分と、人格者な人なんだね」

「いえ、母は人? というのではないらしいです。人、というのは父に当たります」

「えぇ…?」

「なら、父親からの教えは?」

「『敵には一切の容赦をするな。例え味方だったとしても、敵なら殺せ』です」

「えぇ…冷たい…」

「マトモ…ですよね?」

「まぁ、戦士としては確かにマトモな考えだな。人間としては冷たい、と言ったところだが」

 

 ますます、訳が分からなくなってきた。

 魔族が人間を弄んだ結果として産まれた子供かと思えば、優しいのは魔族の方で、人間の方は冷たい。

 つくづく、謎が深まる。優しい魔族と冷たい人間。そんな二人が、どうやって結ばれたというのか。

 

「…取り敢えず、君の名前を聞きたいな」

「ヒンメル」

「君の言いたい事は分かるよ、フリーレン。けど、僕は彼が他の魔族と同じだとは思えない」

「私もです。彼は、人の優しさを持っている気がします」

 

 魔族は人の言葉を喋り、騙す。其処には確かな悪意が籠もっている。

 だが―――眼の前の少年からは、それを一切として感じない。

 否、そもそもとして―――まるで、そういった感情を知らないかの様だ。

 

「名前…名前は、確か―――」

 

 クライゼル。

 それが、優しい魔族と冷たい人間の間に産まれた彼の名前だ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。