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「なんで、魔族の癖にそんな魔法を使う」
其処は、綺麗な花が咲き誇る花園。誰が見ても美しいと思える、最高の景色が広がる一つの世界。
そんな場所で気儘に寛ぐ一体の魔族に、ボサボサの後ろ髪を一房に束ねた一人の人間は訊ねた。
お前は魔族だ。人を騙す存在だ。そんなお前が、どうして人を癒やす魔法なんかを使うのだ、と。
「えぇ?」
魔族は訳が分からない、といった風な阿呆面を浮かべて答えた。
「…腹の立つ顔だ。斬り捨ててやろうか?」
「わわっ、ごめんなさい! えっと、貴方から質問してくれたのが嬉しくて…」
「……魔族が、嬉しいを語るか。バカバカしい」
「魔族だって嬉しくなりますよ! 私がそうですから!」
まるで、太陽の様な笑みで喜ぶ魔族。人間は、くだらないなと、それを冷たく一蹴した。
魔族の歓喜など、全ては自己満足でしかない。決してそれは他者へと向けられるものではなく、常に己ただ一人にだけ向けられる。
魔族は害獣。人の言葉を話すだけの畜生に過ぎない。人間はそう断言した。
「冷たいなぁ…でも、うーん…否定し難い。あはは、難しいですね!」
「魔族にも優しい奴が居ると仮定するから難しくなる。魔族は皆等しく害獣だ。そう認識すれば良い」
「そんな事は出来ませんよ。きっと、そうじゃない魔族も居ます」
「…根拠も無く言うな。希望論でどうにかなるものじゃない」
「根拠はあります。だって、私が産まれたんですから」
異端と蔑まれ。
異常と阻まれ。
異質と罵られ。
されど、魔族は決してそれを悔やまなかった。
優しい事は、罪ではない。人を想える事は、悪ではない。
誰かの助けになりたいという想い。誰かを救う事が出来たらなと願える心。それは確かに、美しいものの筈だ。
魔族らしくはないかもしれない。だが、それで良い。それが良い。
この優しさが蔑まれてしまうのなら、魔族らしさなんてものは必要ない。残酷も欺瞞も無価値でしかない。
例え、共に生きる事が出来なかったとしても。魔族でありながら無関係な誰かを助け、救う事が出来たなら―――それだけで、充分過ぎる。
「いつか、きっと。優しい子が現れてくれる。私はそう信じてるんです」
「……くだらないな。結局は、希望論だろ。確証なんてない」
「あはは、そこを突かれると痛いですね…けど、うん。それでも良いんです」
「……」
「だって、その方が“良い”じゃないですか。例えそれが叶わぬ願いだったとしても―――何かに祈り、信じたいものを信じる。その方が」
都合が良いから。奇しくも、いつかの僧侶と同じ事を魔族は言った。
叶わぬ願いかもしれない。無駄な希望かもしれない。けれど、それでも良いのだと。叶わなくても、無駄でも、良いのだと。
いつか現れてくれる。きっと来てくれる。そう信じていた方が、これからを生きる上で都合が良いから。
「…お前は大馬鹿だな」
「酷いなぁ、もう。女の子にそんな酷い言葉を使っちゃいけませんよ!」
「女以前に、お前は魔族だ。知った事じゃない」
「あう…本当に冷たいですねぇ」
悲しそうにする魔族。だが、人間はそれを内心で否定する。
あくまでも、冷たく出来ているのは外側だけだ。あの言葉を聞いて―――魔族の言葉に耳を傾けて。
少しだけ。本当に、少しだけ。
(お前の様な魔族が、いむか現れたら良いと思ったなど―――俺は、何を考えているんだ)
冷たく人間の心に、小さな火が灯った様な気がした。
「…それで、どうなんだ」
「はい?」
「魔法の事だ。何故―――『癒やす魔法』なんてものを使う」
「何故って…そんなの、言うまでもありませんよ」
私が、誰かを助けたいから。誰かを救う事が出来たならと願っているから。それだけです。