蒙昧のクライゼル   作:全智一皆

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第二話「優しい魔法」

 

 

■  ■

「なんで、魔族の癖にそんな魔法を使う」

 

 其処は、綺麗な花が咲き誇る花園。誰が見ても美しいと思える、最高の景色が広がる一つの世界。

 そんな場所で気儘に寛ぐ一体の魔族に、ボサボサの後ろ髪を一房に束ねた一人の人間は訊ねた。

 お前は魔族だ。人を騙す存在だ。そんなお前が、どうして人を癒やす魔法なんかを使うのだ、と。

 

「えぇ?」

 

 魔族は訳が分からない、といった風な阿呆面を浮かべて答えた。

 

「…腹の立つ顔だ。斬り捨ててやろうか?」

「わわっ、ごめんなさい! えっと、貴方から質問してくれたのが嬉しくて…」

「……魔族が、嬉しいを語るか。バカバカしい」

「魔族だって嬉しくなりますよ! 私がそうですから!」

 

 まるで、太陽の様な笑みで喜ぶ魔族。人間は、くだらないなと、それを冷たく一蹴した。

 魔族の歓喜など、全ては自己満足でしかない。決してそれは他者へと向けられるものではなく、常に己ただ一人にだけ向けられる。

 魔族は害獣。人の言葉を話すだけの畜生に過ぎない。人間はそう断言した。

 

「冷たいなぁ…でも、うーん…否定し難い。あはは、難しいですね!」

「魔族にも優しい奴が居ると仮定するから難しくなる。魔族は皆等しく害獣だ。そう認識すれば良い」

「そんな事は出来ませんよ。きっと、そうじゃない魔族も居ます」

「…根拠も無く言うな。希望論でどうにかなるものじゃない」

「根拠はあります。だって、私が産まれたんですから」

 

 異端と蔑まれ。

 異常と阻まれ。

 異質と罵られ。

 されど、魔族は決してそれを悔やまなかった。

 優しい事は、罪ではない。人を想える事は、悪ではない。

 誰かの助けになりたいという想い。誰かを救う事が出来たらなと願える心。それは確かに、美しいものの筈だ。

 魔族らしくはないかもしれない。だが、それで良い。それが良い。

 この優しさが蔑まれてしまうのなら、魔族らしさなんてものは必要ない。残酷も欺瞞も無価値でしかない。

 例え、共に生きる事が出来なかったとしても。魔族でありながら無関係な誰かを助け、救う事が出来たなら―――それだけで、充分過ぎる。

 

「いつか、きっと。優しい子が現れてくれる。私はそう信じてるんです」

「……くだらないな。結局は、希望論だろ。確証なんてない」

「あはは、そこを突かれると痛いですね…けど、うん。それでも良いんです」

「……」

「だって、その方が“良い”じゃないですか。例えそれが叶わぬ願いだったとしても―――何かに祈り、信じたいものを信じる。その方が」

 

 都合が良いから。奇しくも、いつかの僧侶と同じ事を魔族は言った。

 叶わぬ願いかもしれない。無駄な希望かもしれない。けれど、それでも良いのだと。叶わなくても、無駄でも、良いのだと。

 いつか現れてくれる。きっと来てくれる。そう信じていた方が、これからを生きる上で都合が良いから。

 

「…お前は大馬鹿だな」

「酷いなぁ、もう。女の子にそんな酷い言葉を使っちゃいけませんよ!」

「女以前に、お前は魔族だ。知った事じゃない」

「あう…本当に冷たいですねぇ」

 

 悲しそうにする魔族。だが、人間はそれを内心で否定する。

 あくまでも、冷たく出来ているのは外側だけだ。あの言葉を聞いて―――魔族の言葉に耳を傾けて。

 少しだけ。本当に、少しだけ。

 

(お前の様な魔族が、いむか現れたら良いと思ったなど―――俺は、何を考えているんだ)

 

 冷たく人間の心に、小さな火が灯った様な気がした。

 

「…それで、どうなんだ」

「はい?」

「魔法の事だ。何故―――『癒やす魔法』なんてものを使う」

「何故って…そんなの、言うまでもありませんよ」

 

 私が、誰かを助けたいから。誰かを救う事が出来たならと願っているから。それだけです。

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