過去の回想から始まります。
──トップヒーローは学生時代から逸話を残す……
─そして口々に言う、体が勝手に動いていたと……
「……んだこりゃあ」
ある昼下がり、昼寝から目が覚めると家の中に焦げ臭い匂いが充満していた。急いで外に出てみると、辺り一面が燃えている。
「おい! 火事だ!!」
「早く逃げろ!!森から火が広がってる!」
「消防車はいつ来るんだ!?」
そんな叫び声があちこちから聞こえてくる。どうやら、かなり大規模な火災のようだ。
(…一体何が起こってやがる?)
紅丸は冷静に状況を分析する。周囲を見渡すと、逃げ惑う人々の姿が目に入った。
(とにかく、今はこの状況を何とかしねェとな)
紅丸はそう思い立つと、足元から炎を噴出して、そのまま空高く飛び上がった。
「うおッ!?」
突然の出来事に驚く人々を無視して、彼は上空から火災現場を見下ろす。すると、森の奥で巨大な炎が上がっているのが見えた。
(あの辺りか……)
紅丸はそう判断すると、その方角に向かって急降下する。そして地面スレスレで急停止をすると、燃え盛る森の中へと入っていった。
「誰か!助けてくれ!!」
「熱い……熱いよ……」
「もうダメだぁ、おしまいだ……」
炎に包まれ、逃げ場を失った人々は絶望の表情を浮かべながら泣き叫ぶ。そんな彼らの前に紅丸は姿を現した。
「おい、てめェら! 死にたくねえなら俺についてきな!!」
紅丸はそう言って笑みを浮かべると、周囲の熱を操作し火を鎮火していく。同時に人々を安全な場所へと誘導していった。
「す、すげぇ……!」
「流石はプロヒーローだな」
その光景を見ていた市民達は、紅丸のことをヒーローと勘違いして感嘆の声を漏らす。そんな中、一人の少女が声を上げた。
「お姉ちゃん!あの人ってもしかして同中の新門紅丸さんじゃない!?」
その言葉に周囲はざわつき始める。中にはスマホを取り出して写真を撮影する者までいた。しかし当の本人はそんなことなど気にもせず、黙々と鎮火をしていたのだが……。
(チッ……キリがねェ、元を絶たねえと意味がねェな!)
いくら消火しても次から次へと現れる火の手を見て、このままでは埒が明かないと判断した紅丸は即座に避難誘導を済ませるために全力で鎮火を進めた。その結果、無事に全員が脱出することに成功したのだが、それでもなお火災の規模は大きくなっていく一方だった。
(このままじゃマズいな……さっさと火の元をどうにかしねェと…どっかに放火してるバカが居るはずだ)
◆
八百万 百は今、人生最大の危機を迎えていた。彼女は今、見知らぬ部屋で椅子に縛り付けられているのだ。しかもご丁寧に目隠しや猿轡までされている始末である。
どうしてこんなことになったのか……?
それは遡ること数時間前のことだった。幼馴染であり、許嫁である紅丸に会いに行く道の途中で何者かに襲われた八百万は意識を失い、目が覚めた時には既にこの状態だったのである。
最初は恐怖を感じていた彼女だったが、時間が経つにつれて冷静さを取り戻していった。そこでようやく自分が誘拐されたのだと理解したのである。だが、問題はここからであった。犯人は身代金目的なのか、それとも別の理由があってのことなのかはわからないが、どちらにせよ一刻も早く脱出しなければならない状況であることに変わりはなかったからだ。
(どうにかしてここを出ないといけませんわ……!!でもどうやって……?)
必死に思考を巡らせるも妙案は思い浮かばず途方に暮れていると、不意に部屋の扉が開いた音がしたかと思うと誰かが部屋の中に入ってくる気配を感じ取った。
恐らく犯人であろうその人物は足音を鳴らしてこちらに近づいてくるのがわかる。やがて自分のすぐ傍で立ち止まると声をかけてきた。
「おーい、起きてっかー? 八百万家のご令嬢ちゃん♡」
(喋り方は少々男性的ですが、声からして女性ですわね……私の素性を知っていますのね、私はこの声に覚えはありませんが……)
「いやー、八百万家の令嬢誘拐に森林を中心に火災発生か……こりゃあ大ニュースだな!」
(火災!? 外はどうなっているのでしょう……)
ケラケラと笑う女の声に苛立ちを覚えながらも、今は耐えるしかなかった。何故なら下手に刺激してしまうことで相手が逆上して危害を加えてくるかもしれないと考えたからである。
そんな彼女の心境を知ってか知らずか、女はなおも話を続ける。
「にしても驚いたぜ~、まさかあの有名なお嬢様がこんな簡単に捕まるなんて思わなかったからさ」
明らかにこちらを馬鹿にした態度を見せる女に怒りを覚えるが、ここで感情に身を任せてはいけないと思いグッと堪えることにした。だが次の瞬間、首元に手が這うような感触を覚えた瞬間背筋が凍るような錯覚に陥った。
まるで蛇のように絡みつくその手つきはまるで愛撫するかのようにゆっくりと撫で回してくるものだから余計に気持ち悪いと感じると同時に嫌悪感が込み上げてきた。そして耳元で囁かれた言葉に鳥肌が立ちそうになるほどの寒気を感じたのだった。
「それにしても可愛い顔してんじゃん、アタシ好みだわ~」
そう言って舌なめずりをする音が聞こえ、思わず身震いすると共に身の危険を感じるようになったのだが、そんなことを考えている間にも相手はどんどん距離を詰めてきていてついには吐息がかかるほど近くまで迫ってきたのがわかった。
このままではまずいと思った矢先だった──
『居合手刀 壱ノ型 “火月”』
ドォン!と轟音が聞こえた直後、誰かに抱き上げられたような感覚があった。目隠しや猿轡を外され視界が開けた先に見えたのは燃え盛る小屋と許嫁……新門紅丸の姿だった。
どうやら彼が助けてくれたらしいことがわかったものの安堵感からか全身の力が抜けてしまいその場に座り込んでしまった。
「……良く、頑張ったな」
(暖かいですわ……)
そう言いながら優しく頭を撫でてくれる彼の手はとても温かくて安心感を与えてくれた。
ぶっきらぼうな殿方だとばかり思っていたけれど、本当はとても優しい人なのだと知り自然と笑みが溢れてしまうほどだった。
「おいおい……いきなりブッパなしやがって、青春してんじゃねーぞ!」
「るっせぇ、ババア……」
誘拐犯の女がそう叫ぶように言い、瓦礫から現れるや否や紅丸は瞬時に強烈な一撃を放った。
『居合手刀 伍ノ型 “仄日”』
袈裟斬りのように腕を振り下ろす一撃は、明らかに手練の女ヴィランの意識を刈り取った。
(!? これほど強かったなんて……)
一瞬で勝負がついたことに驚きつつも、八百万はすぐに捕縛作業に入ることにした。まずは犯人である女の両手両足を個性『創造』で用意した拘束具で縛り上げ、身動きが取れないようにした後で口枷を施した上で布を巻き付けて喋れなくするという徹底ぶりであった。
「……後はこの森でまだ残ってる火を消すだけだな」
紅丸はそう言うと、足元から火を噴出させ高く飛び上がるとそのままの勢いで遥か上空へと上昇していく。
(一体、何をするつもりなんですの?)
そんな疑問を抱く彼女をよそに、紅丸は空中で体勢を整えると自分に放てる最高の一撃を放った。
──最大火力『居合手刀 肆ノ型“赤日”』
最大限に熱を溜め込み、一気に放出した一撃は彼女の想像を超えた事象を引き起こしてみせた。
ポツ…
ポツポツ…
ザァー!!
突如降り出した雨によって火が鎮火されていく中、彼女は呆然と立ち尽くしていた。目の前で起こっている光景が信じられず、ただただ立ち尽くすことしかできなかったのだ。
上空の高い高度で、超高熱の一撃を放ち上昇気流を起こし降雨させた。
理屈は辛うじて理解出来なくも無かったが、それを実行してしまうことがどれだけ凄いことかは言うまでもないだろう。
(……まるで神の御業ですわ)
仮に自分が同じことをやれと言われても絶対に不可能だと言い切れる自信があるからだ。それほどまでに規格外の力を見せつけられてしまったのである。
そして同時に確信することもあった。
紅丸はきっと素晴らしいヒーローになるに違いない、と。だからこそ本人のやる気のなさには頭を抱えたくなる思いだったが、それでも何とかしてあげたいと思ったのも事実だ。だから毎度お節介とも言える行動に出てしまうわけだが後悔はなかった。
むしろそれが自分の使命だとさえ思っている節があるくらいだ。だがそれはそれとして、もう少し真面目に取り組んでほしいというのも本音ではあるのだが……。
◆
──『天竜大火災』での紅丸の行いについては、動画や写真を撮っていた者もいたこともあり直ぐに拡散された。
ネットではヒーロー免許を持たない若者による無謀な行いとも言われたが……その功績を讃え、当時の静岡県知事が新門紅丸を表彰した事により、一躍全国で有名人となった。
「……ったく、めんどくせェな……」
「そんなこと言ってないでちゃんとしてくださいまし!!」
その日もいつもの如く、二人のやり取りが繰り広げられていたのだった。
「大体、何で俺がこん所にいなきゃいけねェんだ?」
「県知事に表彰されるのですから当然でしょう!?」
「ンなもん辞退すりゃ良かっただろ」
「そういうわけにもいきませんわ!これは名誉あることですのよ!」
「チッ」
「ちょっと!?舌打ちしないでくださいます?」
「うるせェな」
「うるさくありませんわよっ」
「お前の声はうるせぇだろうが」
「なっ……!もういいですわっ」
プイッとそっぽを向く彼女に紅丸は溜息をつくしかなかった。
雨降らせんのは序盤オールマイトのパクリです。
てか、紅ちゃん以上にヤオモモのオリジンっぽくなっちゃったな。
出オチキャラになってしまった女ヴィランの一応設定。
ヴィラン名:カガリ
本名:火元 朱音
個性:可燃化
“自分自身の身体や触れた無機物に『よく燃える』という性質を与えることが出来るぞ! この個性により大火災を起こして見せた……”
次回、【雄英入学】──“集う、金の雛鳥達”