「あぁあああ・・・・!全然特定できないぃぃ・・・」
御巫合同修練―――。
それは、御剣、御鏡、御珠。それぞれの御巫候補生が一同に介し、それぞれの舞を観察、研究。あるいは自らを啓発するための原動力とするため。そして普段関わりが少ない御巫達の交流のために定期的に開催されるものである。
そんな御巫にとって有意義な時間が流れる中、一人。多くの蔵書に囲まれながら頭を抱える者がいた。
御珠の御巫候補生、そして有力候補の一人。フゥリだ。
「えー・・・?ここの本ならなにか手がかりがあると思ったんだけどなぁ・・・」
普段飄々としており、舞も完璧にこなす彼女が珍しく妙な声をあげながら本をペラペラ捲り、悩んでいる姿は今代の候補生達にとってはなかなか異質に見えるであろう。
あそこまでの舞を披露しておきながらまだ上を目指すのか、と。
そう勘違いした候補生たちは負けていられないと稽古場へと走り出した。自分がオオヒメ様に選ばれるために喝を入れて。
しかしフゥリが読んでいる本は舞とはあまり関係のない本。霊獣や妖怪、この国に伝わる神話や伝承・御伽噺の本。
彼女が調べるはただ一つ。彼女がおにーさんという男、ライズハートに懐いた鶏の霊獣、ケイのことである。
霊獣から妖怪に転じかけ、黒い焔を纏う妖鳥。そんなわかりやすい特徴がありながらもそんなモノが討伐ないし、封印されたという話は一切確認出来なかった。
ここまで調べてなんとなくフゥリはとある結論に至った。
恐らく意図して、ケイの記録は抹消されている可能性があると。
「まぁ、誰にも知られずに自力で沈静化したってのもありそうだけどね〜あはは〜・・・はぁ。でも久々だなぁ、こんなに本気で調べ物したの」
そう言い背筋を伸ばす、同じ姿勢をずっとしているのは流石に負担がかかるようだ。そんな彼女の元に二人の少女が訪れる。
かたや火鼠の霊獣を連れ、活発そうな赤い髪の御剣の候補生。かたや猫又の霊獣を連れ、気品を感じる青い髪の御鏡の候補生。
「フゥリ!おはよう!なにしてるの?」
「あんたがそんな顔して調べ物なんて、珍しいわね?フゥリ」
「ん?おやおや御剣のハレちゃんと御鏡のニニちゃんじゃん。今回も二人一緒なんて、なかなかお熱いねぇ?」
「当たり前だよ!私とニニは仲良しなんだから!」
「きっとそういう意味で言ってないわよ・・・いやアンタは知らなくていいわ」
私はいつもどうりに二人をからかう、でも実際二人がよく一緒にいることは多いし、班分けでもくじ引きでも割りと二人一緒なことが多い。なんか異世界からの策略を感じるよこれ。まぁ少し煮詰まってたところだし二人と話をしたり競い合ったりするのは私としても良い清涼剤なのは確かなんだよね。
「ふーん?本に書いてあるのはどれもこれも火と鳥関係・・・妖狐についてじゃないのね。一体何を調べてるのよこれ」
「火?・・・ハッ!?まさかフゥリ!私のあいでんていていすらも奪っちゃう気!?」
「ハレ、意味は合ってるけど発音がおかしいわよ、アイデンティティね。無理に外の言葉使わなくてもいいのよ・・・」
「・・・♪、はっはーバレちゃったかなー?」
「ぐぬー!!確かに火鼠さんはアタシの望む強さは持ってなかったけど唯一無二の相棒だぞー!」
「いやーごめんねー?ハレちゃんのお株貰っちゃうよー?」
「うがぁああああ!!」
「ハァ・・・ハレ、落ち着きなさい。既にフゥリは妖狐と契約してるのよ?例外なく契約できる霊獣は一体だけ。今更どうこうできるものではないわ。フゥリもハレを必要以上にからかわないでちょうだい、ホントに真に受けるんだから」
「ははは、ハレからかうのは楽しくてついねぇ」
「それは私も同意するけど」
「少なくとも馬鹿にされてるのはアタシでもわかった!」
そんな他愛もない話をするのはとても楽しい。おにーさんと出会う前まではホントにこれが唯一で大切な時間だ。
「まぁそれはいいとして、なんで調べてるのよ」
「んー?まぁちょっと高い空を飛んでるのを見てさ?興味が湧いちゃって」
もちろん嘘だ。私の考えが正しかった場合ケイちゃんはかなりの厄介事だと思う。二人を巻き込みたくはなかった。
「フゥリだけずるーい!私も火の鳥見たかった!」
「ふーん、火の鳥の霊獣はありふれてはいるけど高い空を飛ぶっていうのは確かになかなかいないわね」
二人には悪いけど重要そうな部分は隠させてもらうね。大丈夫、今までもずっとそう偽ってきたんだから。今更一つ嘘を重ねても何も変わらない。
「でもフゥリ、その様子だと。わからないっところなの?」
「うーんそうなんだよね、どれも特徴的に一致しないと言うか・・・」
「・・・実は外の国の火の鳥、だったりしないかしら」
「ほーう?」
「え?ニニ、そんな事あるの?」
「あくまで可能性だけど、ね。空を飛べて疲れ知らずの、例えば神鳥の類ならありえるかもしれないわね」
はーあ、そういえばその線は追ってなかったなぁ。参考になるかもしれないし聞いてみようかな?
「じゃあ、どんなのがいるかニニちゃん教えてもらえるかな?」
「アタシも火のことだから興味ある!」
「ええ良いわよ、じゃあ有名どころからいきましょうか」
そうね、まずはやっぱり翼神竜の話になるかしら・・・はいそこ、鳥じゃないのって顔をしない。
炎と翼を持つもの、という括りにおいては外せない神様なんだから。
いろいろ逸話はあるけど、フゥリの求めてそうな話ならやっぱり『その命を終えた刻』かしら。
「え?神様なのに死んじゃうの?」
「ハレちゃんや、この国の逸話でもそういうこといっぱいあるでしょ。なんならもっとアレなのもあるじゃん」
・・・話を戻すわね。翼神竜がその命を落とした時、それは蘇るわ。その時の姿が天を舞う炎を纏いし不死鳥と言われているの。今、翼神竜の姿は確認出来なくてただの御伽噺と言われているけども人によっては従っていた王が再び姿を現すまで、眠り続けている、とも呼ばれているわね。
どうかしらフゥリ?もしかして貴女が見たのは目覚めた神様だったりする?
「うーん・・・似てるけども違うかなぁ」
うーん、じゃあ次は私達に似たところの火の鳥を出しましょうか。
その名も『ネフティスの鳳凰神』という神様ね。
「また神様なの?」
「ふふーん、やっぱり火は強いんだね!」
人類が一気に進んだのは火の発見と言われてるから間違いではないわね・・・鳳凰神の起こりは翼神竜と似ているからか二柱は結構似通っているわ。でも鳳翼神のほうは私達と同じ御巫のような存在が確認されてるの。
祈り手や祀り手と多種多様だけどもやはり繋ぎ手は欠かせない存在ね、鳳凰神を降臨させるのに欠かせないらしいわ。
鳳凰神も黄金、蒼、赤と様々な姿をしていて死しても蘇り、全ての邪なる術や災いを滅する・・・ようね。
「うーん、近い・・・かも。本とかあるの?」
じゃあ後で貸してあげるわ。見つかると面倒だと思うから気をつけてね?
「また蘇るの?そこも似てるんだね?」
私達の知ってる鳳凰・・・というよりも世界でも不死鳥という存在は認知されてるっていうことね。
時間がなくなってきたわね・・・ちゃっちゃといきましょう。
御伽噺では『星の勇者の伝説』という話にも敵になってしまった者が火の鳥になったり、とある島では巨大な火の鳥が支配しているというのもあるわね。
そして創作では転生し続ける炎の獣達の中にも、不死鳥の力を持った者もいるわ。
「と、有名どころではこんなところかしらね」
「火鼠もいいけど、もしアタシがその・・・えと、『よくしんりゅう』とか『ねふてぃすのほうおうしん』とかと契約出来てたらもっと凄い神楽ができたりする?」
「少なくとも名前言うのが稚拙な時点でダメよ」
「ぬあーーー!!!」
とにかく話を聞いてわかったことは世界中に火の鳥というのが存在する、つまりよくある話、ということだ。
過去の事件で妖怪に取り憑かれた人間が描きあげた墨絵が具現化して暴れたという話もある。
悪夢そのものが妖怪となり、いくつかの集落で言うのも悍ましい夢を見ることになったこともある。
つまり、最悪ケイは。
誰かの想像から生まれた可能性もある、かもしれない。
まぁ現状の話だと元々霊獣で恐らく負の感情に咽まれて妖怪になりかけた・・・けど封印されてなんか鶏みたいな姿になったってこと。自分で自分を封印なんて出来ないだろうし確実に封印した人か神様かはいるはず。
・・・記録がないってことは多分その「封印した存在」がちょっと触れたら駄目なナニカなんだろうね。
その後軽く談笑したりハレをからかったりして二人は舞の稽古に向かった。
それから数刻、ニニちゃんの霊獣の猫又が『ネフティスの輪廻』と書かれた本を届けてくれた。相変わらず仕事は早いね・・・。
早速その本を開く、私が求める情報は『鳳凰神が妖怪化、わかりやすく言うと闇堕ち』したというもの。
見つけた。
そこに記述されていたのは闇の力に支配された赤黒い炎を纏う漆黒の身体のネフティスの鳳凰神。
それは繋ぎ手や導き手たちの里を守る事無く、逆に襲った。
かろうじて漆黒の鳳凰神を討ち取ったが、今被害が大きいところに侵略者がやって来れば終わりだった。
必要だったのは強く、里を守る力。鳳凰神。
周りが先の事もあり反対する中、一人の祈り手は賭けに出た。
彼女は自らを聖なる炎に焚べたのだ。
周りが静止しても彼女は身を焦がすことをやめなかった。そして彼女は鳳凰神降臨の儀式を始めた。
やがて鳳凰神をかたどった像の前に蒼き鳳凰神は降臨した。
だがまた、闇が鳳凰神に向かって集まりだしたのだ。漆黒に染め上げようと。
そして祈り手は、言葉を紡いだ。
「鳳凰神様!例え暗き闇が貴方を覆おうとも!我々は共にあ在ります!」
「私は・・・その証明として、共に往きましょう」
その瞬間、紅蓮の炎が鳳凰神と祈り手を囲み、一つとなり。やがてその炎が振り払われる。
その炎は群がる闇を全て焼き払ったのだ。
そして、そこに降臨したのは。
灼熱の炎を操り、何者にも染まらない『紅』の身体を持つ。
守護神たる『焔鳳神』であった。
それこそが鳳凰神と共にあり、鳳凰神と繋がる楔となる存在。
『ネフティスの繋ぎ手』
その始まりのお話―――――。
「・・・やばい、普通に読んじゃった」
そう言いつつちょっとした満足感を惜しむように本を綴じた。
繋ぎ手という存在の始まりは経緯は違えどオオヒメ様と似たようなモノなんだなぁ。
それにしても漆黒の鳳凰神ねぇ・・・ぶっちゃけちゃうとかなりケイに似ている。でも鳳凰神ではないのはわかる。
鳳凰神の起こりの地はいくらなんでも遠すぎるから、それに鳳凰神がここまで来る理由が一切ない。
だとするなら、この国にも不死鳥の話があるからそれのどれか、なのかもしれない。
とはいえ普通不死鳥の霊獣は数度確認されてはいるけども、どれにもそんな妖怪化したという話は残ってない。
・・・ん?まてよ?霊獣の記録が始まったのは確か、オオヒメ様が御巫として活動し始めた時だったはず。
もし、ケイがそれ以前の存在だとしたら?
もし、ケイが契約を結びたかった御巫がオオヒメ様だったら?
そういや、オオヒメ様を祀っている社の鳥居には必ず鶏の意匠がある。
それはオオヒメ様の霊獣が鶏だと言われてるからで・・・。
例えば封印したのがオオヒメ様だとしたら。
私は最早匙を投げるしかなかった。
恐らく事の顛末を全て知っているのは、オオヒメ様だけなのだから。
これより先に調べ物をするならばオオヒメ様に直接聞くか、オオヒメ様の日記でも残ってなければムリだということ。
「あー・・・仮定するならオオヒメ様が御巫になった頃にオオヒメ様の霊獣候補だった不死鳥で?それが選ばれなかったけどそれでも助け続けたのに人に恐怖されて妖怪化したの?イヤイヤ・・・ちょーっとこれ、手に負えないや」
いくらなんでもそんな古い記録なんて残ってないけどもこれがしっくりくるのがホントに困る。
はぁ〜・・・恨むよ?ライズハートおにーさん、まったく。
とにかくケイがもしおにーさんの言う通りなことを起こそうとしているのなら、この時代で対抗できそうなのおにーさんくらいしか恐らくいない。
でもケイにはそんな兆候は一切見られない、つまりたらればの考えでいても現状意味がない。
ケイについては気に入られているおにーさんに丸投げすることにしよう、うん。大丈夫大丈夫。
今まで考えたことを忘れるかのように、私は再び本を開くのだった。
「ハレ、どう思う?」
「どう思うって?」
「フゥリ、明らかに何か隠してるわよ」
「え?」
稽古場の一角、他の候補生達の練習を見学しながら私とハレは話している。
それは若干挙動不審な、御珠の候補生について。
「だって、普段しないような調べ物をしてるのよ?フゥリは昔から才能があったのにそれを更に補強するような辛い修練をや勉強を既に終えているような状態よ。今更、霊獣について調べるなんて私だったらしないわ。現状には関係ないんだもの」
「うーん・・・」
「聞いても絶対答えてくれないでしょうし・・・ってどうしたのよ。賢そうなフリをした顔して」
「・・・あ、そうか。違和感それなんだ」
「どういうことかしら?」
「ニニ、多分フゥリはウソついてる」
「え、どこよ?火の鳥を見たってところ?本当は見てないってことになるのかしら」
「んー。火の鳥を見たのは多分、ホント。見た経緯が違う、気がするよ」
そう、ハレが告げると私は頭に手を当てざるを得なくなった。少し頭痛がしたからだ。
ただでさえ今回の神降ろしは重要なのにそれに呼応するように各地で厄介事が起きているからだ。
それに加えフゥリの隠し事まで。
もう、何が起こるかわからない状況ではっきり言うと不安になる一方であった。
「・・・はぁ、ただでさえ最近神降ろし後の『豊穣祭』絡みでも御珠の馬鹿どもの小言が声だけ大きくなってしつこい上に今ちょっと面倒事もあるのに」
「『豊穣祭』に関しては準備はこっちも進めてるけど・・・面倒事って?」
「最近、妖怪化した巨大な熊が各地に現れて襲われてるのよ。オマケに人を食べた痕跡もあったわ」
「え・・・それ、マズイんじゃない・・・!?」
「マズいも何も洒落になってないわよ。御鏡の周辺集落では既に3箇所、やられたわ。特に最初の1箇所目は夜襲されて備蓄庫も村人の大半も・・・悲惨な状態だったらしいわ」
人の味を覚えた獣ですら脅威も脅威なのに、それが妖怪化してるとなるともう一般人では対応すらできず餌になるでしょうね。御鏡で討伐隊は組まれてはいるけど・・・被害は、免れないでしょうね。
「頭に入れときなさい、ハレ。近々御剣と御珠にも討伐の要請が行くわ。でも御珠が御鏡に協力してくれるとは思えないから、頼むわ」
「わ、わかったよ。ニニ、フゥリにはアタシが言っておくよ。だから・・・困ったことがあったらアタシやフゥリに頼るんだよ」
「あら、そんな気の利いたこと言うなんて。明日は矢でも降るのかしら?」
「コラァ!」
「・・・ふぅ、ありがとう。ハレ、十分嬉しいわよ」
「!・・・へへっどういたしまして!」
きっと、何かが起こるのは間違いないのかもしれない。
それでも、それでも。
無事に妖怪熊の討伐と神降ろしが終わることを切に願うのだった。
おしごとちゅらい