異世壊の荒武者と御珠の狐御巫   作:難燃性揮発ガソリン

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苦手描写まで行けなかったので初投稿です。
とりあえず生存報告とキリが良かったので一旦投稿します。粗がありそう、いやある(確信)なのでアライズハートに裏側除外されてきます。余裕できたら多分、若干改稿します


漆丿譚 御巫舞踊ー蟲ノ知ラセ

生き物が物を食べるときというのはどんな時か。

 

飢えを満たす為?

 

好物を喰らう為?

 

ストレス発散の為?

 

ただ、そうしたいが為?

 

『彼女』にとっては今はもうそれは当てはまらない。

まるで鉈のように伸びた爪で眼の前にいる『動いている肉』を黙らせる。たとえ自分と似たような姿をしていようが構わずに。

 

二度と動かなくなった肉に『彼女』は大口で齧りつき、一口で飲み込んだ。

 

傍目から見れば恐怖しか感じられない光景ではあるが、『彼女』にとってはとても尊い行動であろう。

 

きっと、人の言葉を話せるのならばこういうのだろう。

 

 

 

 

 

私のかわいい子供は、何時になったら産まれてくるのかしら?

 

 

 

 

そうだ、我が子が未だに産まれないのはきっと栄養が足りないからだ。あの寒い日々の中飢えに飢えながらもなんとか食いつないで眠りについたあの時期。

 

目が覚めても我が子は産まれていなかった。

 

あぁ、そうか。きっとこの子は。

 

まだまだ産まれるまでに成長してないんだ。

 

 

 

我が子が栄養失調により胎の中で息絶えてしまったことはすぐに理解出来た。否、理解を拒んだ。

他の個体より賢い存在であったソレの精神は壊れてしまったのだ。

 

余りにも餌が取れなさすぎて、化物も姿を見せるようになり。他の生き物も何かを奪い合う時代。

 

 

そうだ。

 

それなら。

 

もっと食べなくては。

 

もぅと喰らわなければ。

 

もっと

 

もっと

 

 

 

 

 

もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと

 

 

 

 

そして『彼女』は、身も心も飢えに植えきった『餓鬼』と化した。

春になり顔を出した植物を貪った。

眠りから覚めた動物も襲った。

川に潜んでいた生き物も喰らった。

希少と呼ばれているであろうモノも胃の中だ。

そして、出会った不運な人を、捕食した。

 

夏に入り彼女は気づいた。

人という肉は一定の地に群れる物なのだと。

存外に、弱い物なのだと。

 

やがてそこに存在していたのは。

最早餓鬼の域を逸脱し、畏怖によりさらに醜悪な姿となった。

 

ただ、一体の化け物である。

 

 

愛しい愛しい私の子、待っててちょうだいね?貴方が産まれることが出来るように、頑張るからね?

 

人を食らうのが手っ取り早いと理解してしまった化け物はやがて、餌がいっぱいいるところに辿り着く。

 

 

 

 

 

 

 

「ほえ〜・・・こんなにお肉があるってことは相当大きかったんだねぇ」

 

「ええ、あんちゃ・・・ライズハートさんがいなければ、私は命を落としていたでしょうね」

 

今私の眼の前には大量のイノシシの肉が置かれていた。一応これでも一部調理して鍋になっているはずなのにね。

別方向に目を向けるとイノシシ肉と村長秘蔵の味噌、村で育てられた文字通り採れたての根菜が放り込まれた鍋がグツグツと煮えていて集落の人々に配られて食べていた。

 

「う、うんめぇ!!」

 

「こんな美味しい汁飲んだこと無いよ!」

 

「コラッ!気持ちはわかるけど肉ばっか食ってんじゃないよ!」

 

そんな光景を見つつ、私も手元にある湯気をたてた椀をみる。偉い人が喜ぶような華やかさは一切無いけどもそれでも大ぶりに切られた肉や野菜がゴロゴロと入った鍋は味噌の香りもあって食欲をそそるモノだった。というか変に小洒落た盛り付けよりもこっちのほうが好き。

火傷しないように、というよりも火傷しちゃうと周りの人たちがハチャメチャに心配してしまうので注意して口にいれる。

 

あっ、すっごく美味しい。

 

思わずがっつきそうになるのを理性で抑える。

イノシシ肉が薄切りではなく一口大の塊なのに柔らかい、これおにーさんが来る前からじーっくり煮込んでたね?

それに普段食べるのよりもあまり生臭くない。後で聞いたけどもおにーさんが首を一太刀に切り落としてそのままその場で血抜きをしたみたい。普通だとその場で血抜きすると血の匂いに誘われてやばいものがやってきたりするからね、妖怪とか。運が良かったのかそれともおにーさんの顔がおっかなかったのか・・・。

うん、おにーさん。ニタニタしながらそっち見たのは謝るからそんな眼しないで怖い。

 

野菜もじっくり煮られていて葉野菜はクタッとしているもののその分旨味を汁に溶け込ませ、その汁をたっぷり含んでいて絶品。

根菜も柔らかいのに食べごたえのある大きさで満足感が高い。

 

「ふ、フゥリ様?お味は如何でしょうか?」

 

「これにケチつける人がいるなら本気で説教しようかなって思うくらいには美味しいよこれ」

 

「ありがとうございます!」

 

ホントホント、いやー朝ご飯抜いてきて正解だったね。おにーさんの家で焼き魚も食べれたし美味しい鍋も食べれた。

 

・・・誰かが御巫に選ばれなければ、もうこれが食べられなくなるんだ。

本当はなりたくない、なりたくないんだよ。

 

私は当時は生まれてなかったけども、それでも私は恵まれた生まれなのは物心ついてからすぐに理解できた。できてしまった。

だから最初は御巫になることには抵抗は少なかった。そうすればお父さんも、お母さんも。私が知ってる人も知らない人も、救われると信じて。

 

でもさ、オオヒメ様を憑依させることの意味を知っちゃってからは言いたくはないけど拒否反応が出るようになっちゃった。

自分が自分じゃなくなる。

つまり私が知らない間に私の身体を使って色々されているとなるとはっきり言って空恐ろしいとしか思えない。

そこに私の意思は無い。そこに私の感情は無い。

そこに、私が血反吐を吐いてまで覚えた実力も関係ない。

 

私という存在は無かったことになる。

 

でもやらなければならない。

 

やらなければ、もし、誰もオオヒメ様に選ばれずに新たな御巫が誕生しなければ。

 

この国は、貧困に喘ぐことになるかもしれない。

私の我儘で皆を苦しめたくない。

 

はぁ・・・御巫としての才能がちょくちょく恨めしく思う。

御巫の才能が無かったらお父さんの後を継いで退魔師になってたのかな?

あ、いや危ないからってやらしてくれなさそう。今の私だって見様見真似の独学だし。だったらお母さんと一緒に畑でも耕してたのかもしれない。里一番の作物農家、ちょっと惹かれるかな。

いつか言ってたけど旅をするのも面白そうだなぁ、いっそこの国を飛び出すのもありかもしれない。一人じゃ不安だしそこはおにーさん引きずってけば何とかなるでしょ。

 

「おいフゥリ」

 

「・・・あれ、おにーさん、どうしたの?」

 

「陸之助からお前がいきなり百面相し始めたから何かあったのか代わりに聞いてこいと言われてな」

 

「え?あぁいや?全然大丈夫だよ?問題ないかな?」

 

「・・・どうせ余計な事でも考えていたのだろうな」

 

「・・・べっつにー?」

 

ああもう、無駄に鋭いのやめてほしいなぁ。でも余計な事じゃないんだけども。

 

「お前が何を考えてるかなぞ俺にはわからん。俺には理解出来ない重要なことなのかもしれん。が、少なくとも今はこの場を楽しむのが良いと思うぞ」

 

「・・・はえ?」

 

「お前がどういう立場なのかは俺は知らん、だが重要な立場に居るというのは嫌でも判る。それを踏まえたとしてもお前はガキだ、例え周りの奴らよりも賢くてもな。お前には大事な役目があるのはお前だけじゃなくここにいる奴らが皆理解している、今更お前が年相応の行動をしたところでそれは『当たり前』のことだろうが」

 

そう言うおにーさんは私の横に座り込む。さっきまで子供たちに囲まれていて疲れたからか普段より顔に皺が寄っていた。

 

「自分の立場を忘れろとは言わん、ただたまにはなんのしがらみも無くあそこに居る悪魔共みたく騒げば良い」

 

そう指さした先には今度はケイをおもちゃにする子供たちがいた。全力で鳴きながら逃げるケイは割と鬼気迫る雰囲気を出していたけども。

 

「ふーん?だったらおにーさんに対してもっとそうしてあげよっか?

 

「・・・チッ、ほどほどにしろ」

 

あっはは、失言したって顔したね。

 

いずれ、この時間が終わるのかもしれない。おにーさんとの約束も果たすことができないかも知れない。

でも、それでも。

最後まで、『フゥリ』として。

おにーさんや皆の心に私という存在を残したいな。

 

 

「コケェ・・・コケ・・・」

 

「あ、ケイ。お疲れ様〜」

 

「お前・・・やつれたな・・・」

 

ヘロヘロの状態でわかりやすく顔がしわくちゃなケイがヨタヨタとこっちにやってきた。そしてそのままおにーさんの胡座の上に乗ってぐでーんとし始めた。

 

「やっぱり、ケイはおにーさん好きすぎない?」

 

「俺に言われてもだな」

 

「まぁ、だよね」

 

きっとこんな他愛もない話も私の大事なモノなんだ。だから残り少ない時間、しっかり集めきらなくちゃ。

 

 

 

でも、そんな時間は急に終わりを告げる。

 

「コケ・・・ッ!!?」

 

「ぬ、どうした・・・ッ!!」

 

「コケェエエエエエエ!!!!」

 

いきなりケイが大声で叫びだした。いきなりなんだろうと思っているとおにーさんも立ち上がる。

その顔はまるで、鬼神の面のような―――

 

「フゥリ!今すぐ全員連れてここから離れろ!!」

 

なぜ!?

 

そう問う前に背筋がゾクリとする気配が山の方からするのを感じた。そして理解した。

 

ソレは、こっちに向かってきているッ!!!

 

「・・・わかった、皆!!今すぐ逃げるよッ!!」

 

「な、なぜですフゥリ様!」

 

「それは・・・」

 

その瞬間、見張り櫓からうるさく鐘が鳴り響いた。何度も、何度も何度も。

その叩き方は大人達にとって覚えがある。

先ほど説明された叩き方だからだ。

 

 

『件の妖怪がこちらに向かっている』

 

 

その鐘の音が示す意味はこれであった。

 

 

 

 

 

 

時は少し遡る、それは見張り櫓での話。

 

警邏にあてがわれた一人の狩人がため息をついた。

 

「妖怪よりも動物を狩りたいんだがなぁ」

 

「おい、呆けてるなよ?」

 

「んがっ、あぁ信五か」

 

「何かあってからじゃ遅いんだ。しっかり見張れよ?」

 

「わぁってるよ」

 

「まったく・・・ほら、これでも食っとけ」

 

信五は狩人に湯気が立つ椀を渡す。狩人は待ってましたと言わんばかりに椀の中身を堪能し始めた。狩人としては自分より大物を獲ってきたライズハートを少し羨んだ、次は俺がすげぇ獲物を持って帰ってきてやるぞという鼓舞にもなったが。

 

「あーあ、俺もライズハートみたいなあんなでっけぇ奴獲りてぇよ」

 

「ウチの弟が死にかけたんだが?」

 

「あっ・・・すまん」

 

「謝るくらいなら真面目に仕事しろ、まったく・・・」

 

失言した狩人はこれ以上腑抜けるのはマズイと判断し自慢の視力で周囲を監視しはじめた。討伐隊がさっさと対象を始末してこんなことする必要がないように思いながら。

 

「なぁ、信五。討伐隊はホントに仕留めてくれるのか?そんな化け物熊がいるんだったら安易に狩りになんか行けないぞ」

 

「少なくとも俺達が相手するよりはマシだろ。なんとかしてくれるさ」

 

「フゥリ様の話から察するに御珠は動く気が無いんだろ?正確には御鏡と行動なんてしたくないからだろうけどな」

 

「今の当主になってからだ、前当主なら協力してたはずだ」

 

信五はそう言いつつ弓の手入れをしている、何かあってもいいように。作業しながらではあるがポツポツと話しだした。

 

曰く、今の当主は欲が深い。

曰く、さらに年貢の納める量が増えた。

曰く、貧民を人としてみていない。

 

「実際に俺が見たのは農地を宗家が管理すると言って個人から押収したにもかかわらず例年より増えた年貢が納められずすべてを差し押さえられたりとかな」

 

「な、なんだよそりゃ・・・」

 

「それだけでついていけないと判断してやめたわけじゃ、ないんだけどな」

 

「つまり、他になんかあったんか?」

 

「・・・俺は逃げ出したんだよ、あの「ん?何だありゃ?」ど、どうかしたのか?」

 

狩人が指を指した先、一瞬気づかなかったが耳の良い信五は聴き取った、聴き取ってしまった。

 

何かが山から猛烈な勢いで下ってくる重々しい足音を。

 

そして狩人はその姿を捉える。

 

「おい!なんか来てるぞ!姿が見えたか!?」

 

「あ・・・あ!?な、なんっだありゃあ!!?」

 

その眼に映った姿は。

 

熊の三倍はあろうかと言う大きさに、錆びた鉈のように赫黒く染まった歪な長い爪。

異様に肥大化した腹部をしておりそれを支えるためか四肢がかなり巨大化していた。

そして一際目を引くのが、鋭い牙をむき出しにし顎が外れたのかと思うほど開ききった口の元々は熊だと思われる化け物だった。

 

「信五ォ!今すぐ鐘を鳴らせ!!」

 

「お、おう!!」

 

全力で鐘が特定のリズムで打ち鳴らされる。

それは御巫による加護が薄まりつつあるこの世界における弱肉強食の縮図が繰り広げられる音であり、これから到来する可能性のある災禍の始まりを告げる音でもあった。

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