陽乃様、リトライ!   作:さわらのーふ

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お待たせしました!
お待たせしすぎたかもしれません。
俺ガイル×まおリトクロス第2話です。
俺ガイルとまおリトの人気に乗っかっちゃってますけど、需要あるのかどうか……。
少しでも楽しんでいただけた人がいらっしゃったら幸いです。
ちなみに、本作品に九内伯斗は登場しません。
津田健次郎さんファンの方、申し訳ありません。


陽乃様、リトライ! 魔王降臨 2

 襲ってきた化け物が爆散してしまったことなど忘れて、私は妹の同級生のことを考えていた。

 そして、明らかに怯えと恐怖の色を湛えた目をした子どもの存在を思い出したのは、少し時間が経った後だった。

 

「あ、あの……君……」

「魔王様……食べないでください!ぼ、僕は美味しくありませんからっ!」

「ちょ、ちょっと!君も私のことを魔王っていうの!?」

 どこの世界に来たのかは分からないけれど、私のことを「魔王」と呼ぶ2人目の男の子に出会ったのだった。

 

「私の名前はハルノ。怪しいものじゃないわ。ましてや魔王だなんてとんでもない。それで、ボクにいくつか聞きたいことがあるんだけど、いい?」

 魔王呼ばわりされたことでこめかみに青筋が立ちそうになるが、努めて冷静さを装い、日本語で話しかけてみた。 

 思い返せばこの子はさっき日本語を話していたのだから──

 

「は、はい……」

 一応、いつもの仮面のような表情を張り付け、できるだけ優しく話してみたけど、子どもは目をいっぱいに見開き、体をカタカタと震わせていた。

 無理もない。あんな化け物が私の手で爆散するところを目の当たりにしちゃったんだもんね。

 

「まず君は、どうして私のことを"魔王"だなんて言ったのかな?」

「え……だって、あのグレオールは悪魔王と呼ばれる最上位の悪魔なんです。それを一撃で倒してしまうなんて……天使様でも自らの身と引き換えに封印しかできなかったことを考えたら、伝説に謳われる魔王様としか……」

「そっ、そうなんだ」

 それにしたって、こんなにキレイなおねえさんを捕まえて"魔王"はないと思うんだけどな。

 

「ところで、まだ名前を聞いていなかったわね。ボクの名前、聞いてもいい?」

 

「は、はい。僕はアクと言います……」

 その名前を聞いて、思わず吹き出しそうになったわ。

 "魔王"と"アク"って、ちょっと出来過ぎじゃない?

 

「と、とてもいい名前ね。じゃあ、アク君。日本という国は知ってる? ニッポン、ジャパンでもいいんだけど」

「す、すみません……僕は聞いたことがないです……」

 でしょうね──声になるからならないか分からないほどの呟きを残して少し考え事をした。

 この子が着ている服はどう見ても近代的なものじゃない。

 粗末な布でできた服のような代物に、申し訳程度の青い紋様のようなものが入っているだけ。

 下はこの年の男の子が履くに相応しい膝に届くか届かないかくらいの半ズボン。

 でも、汚れてはいるけれど、この子、顔立ちは凄く綺麗だわ。

 ショートヘアの髪は前髪だけ異様に長く、顔の半分を覆ってしまっていた。

 

 その後も色々と質問したけれど、分かったのは、アク君は辺境の村に住んでいること、今いるこの国は天使とやらを信奉する聖光国という国で、神都と呼ばれる都にいる三聖女と呼ばれる者が国の頂点に立ち、その下に仕える聖堂教会や聖堂騎士団、そして貴族たちが国を治めていると、分かったのはそんなことだけだった。

 まんま中世の世界観って感じね。

 当然、テレビはおろかラジオすらないんだろうし、インターネットなんてなんじゃそりゃな世界なんだろうから、人々の持つ情報なんて身の回りのことしかないわよね。

 だけどまあ、今の地球上に……時系列すら怪しいんだからそういう表現が適当かどうか分からないけど、こんな国があるわけないから、ここは異世界、ファンタジーな場所確定ってことね。

 はあ……なんでこんなところへ呼ばれちゃったかなあ。

 


 

 ん? これは……。

 

「アク君、少しだけ離れて。そしてちょっとの間あっち向いててくれるかな?」

「え? はい、魔王様が仰られるのでしたら……」

 私は少しの間、アクくんにそばを離れるように言った。そして……。

 

「よっし! 管理機能が使える!!」

「カンリキ=ノウ……?」

「え……あ、別に何でもないのよ、おほほ」

 

 なんか予感があってやってみたけど、管理機能が使えるようになってついはしゃいじゃった。

 本当は、アク君の目の前でやってもよかったんだけど、なんか大げさな動きとかして空振りだったら恥ずかしいもんね。

 どうやらGAMEのシステムであるSPを消費することで使用できるようになったみたい。

 SP―GAMEでは戦闘や反撃、アイテムの使用などで増減するポイントなんだけど。

 これを消費して強力なスキルを覚えたり、守りを固めたり、逆に敵からSPを奪うことによって弱体化することができる──

 つまり、この世界でも戦闘によって入手できて、さっきの敵を倒したことでSPが入手できたみたい。

 

 しかし──あの悪魔王とやらがどれだけ強かったかは分からないけれど、入手できたSPを見ると相手のレベルは相当高かったようにも思える。

 それにしては雑魚すぎない? あいつの弱さと得られた成果があんまり見合ってない感じがするんだけど。

 何もかもがGAMEと一緒ではない──そういうことか。

 でもまあ、高いSPがもらえるならそれにこしたことはない。

 

「陽乃的にポイント高い……かな?」

「あの…魔王様?」

 ふと笑いがこみ上げそうになるところ、アク君の声で我に返る。

「ん、ん、なにかな? それと魔王じゃないからね?」

「いえ、今、ぽいんと?とか仰ってたのは……」

「え、あ、うん、それは忘れて……」

 とにかく、今後のことを考えれば、ポイント……SPはあった方がいいに決まっている。もしあれがこの辺りにまだ出没するなら、できる限り狩っておきたい。

 

「ねえ、アク君。さっきの雑魚ってこのあたりにまだ出没するのかな?」

「と、とんでもない! あんなのが他にもいたら国が滅びますよ!」

「えっ……アレってそんなにヤバい奴なの?」

 アク君は激しく首を縦に振り、その考えを肯定する。

 そうなんだ……ちょっと自分の実感とはちょっと違うけど、この先何が起こるか分からないし、いずれにしても管理機能を十分に使うためにはもっとSPを貯めておきたいのよねー。

「それでね、あれの巣穴とか寝床とか知らない? ちょっと調べてみたいんだけど」

「悪魔王は……この森にある、”願いの祠”に封印されていたと聞いています」

「願い、ね……悪いけどそこに案内してくれない?」

 そう言って、しまった、と思った。

 よく見ると、この子の右足首には大きな傷が見える。大きな怪我を負い、ほとんど処置できないまま傷だけ塞がったような、実に痛々しいものだった。

 さっき、あの化け物から逃げている時に足を引き摺りながら必死で走っていた姿を見ていたはずなのに────

 

「大変そうなら、別に無理しなくても……」

「分かりました! 僕がそこまで案内します!」

「えっ、そんな……なら、私がおぶっていくよ?」

「と、とんでもない! 魔王様の背中に僕のような汚い身を乗せるなんて!」

「そりゃ少し汚れてるかもだけどそのくらい……」

「大丈夫です! 行きますよ、魔王様!」

「いや、魔王様じゃ……」

 アク君は、やっぱり片足を引き摺りながら森の奥に駆けていき、私は慌ててその後を追いかけていった。

 


 

 追いついたところで駆ける必要はないことを言って、二人でゆっくりと森の中を進む。

 途中、手を繋ごうとしたんけれど、断られちゃった。

 やっぱり年上のおねえさんと手を繋いだりするのは恥ずかしい年頃なのかなー。

 

「ねえ、その願いの祠ってお賽銭とかあげて手を合わせる場所なの?」

「僕も詳しいことは分かりませんが、その祠の力を借りて、智天使様が悪魔王を封印されたと聞いています」

 祠なんて言うから、神社とかそういう類のものかと思っていたけど、どうも違うみたい。

 そもそも、智天使とか悪魔なんて言われても私たちの世界にはそんなのいなかった、あるいは見たことなかったからピンとこないのよねー。

 ただ、あの化け物を見た後だとそんな私たちの常識が通用しない世界だというのは、頭では分かってるんだけど──

 

「でも、その祠に行けば、来訪者の願いを叶えてくれるって言い伝えがあるみたいです。魔王様が祠に行かれれば、きっと世界を支配する力とかが……」

「いらないわよ、そんなの」

 思わず苦笑しちゃったけど、雪乃ちゃんならそんな力を欲しがるかもしれないわね。

 

 世界を変える力──

 

 そんな会話をしながらたどり着いた場所は、人気のない森の中でもさらに人が近寄りそうもない空間。

 それは大きな岩肌にポッカリと開いた──洞窟。

 

 でも──この異臭──

 

「アク君、ここで少し待っててもらえるかな? 中はちょっと危なそう」

「は、はいっ!」

 本当はあんな化け物の出る森に独りで残しておくのは不安だったけど、その判断は間違っていなかったとすぐに悟った。

 

 臭いの原因──洞窟の奥には人の死体が散らばっていた。

 

 大きな爪で体を引き裂かれたもの、細切れになった体の一部、黒焦げになった死体、それらが流す大量の血や、腸からはみ出た排泄物などが混じり合い、ひどい異臭を放っていた。

 

「ううっ」

 もちろん“GAME”でも凄惨なシーンはいくらでもある。そんな世界を、"大帝国"を作ったのは私だ。

 たくさん人が死に、殺してきた。

 でも、リアルに人の死体が転がっているところを普通に見ることなんてめったにあることじゃない。

 こみ上げる嘔気に耐え、取り乱すことを押しとどめたのは雪ノ下陽乃というプライドだけだ。

 そして、その死体以上に気になる存在──

 

「なるほど──確かに"魔王"である」

 私を、散らばる死体を見下ろすように、鎮座する大きな石像。

 その動くはずもない石像の目が赤く光り、何事かを呟いたのだ。

 

「幾多の願いを叶えてきたが、恐らくはこれが最後になるであろう」

「ちょ、ちょっと待って……あなたは何を知ってるの? ひょっとして、私をこの世界に呼んだのはあなた?」

 わずかな沈黙の後、その像は再び口を開いた。

「我ではなく──そこの者たちと言うべきか。『魔王を降臨させよ』とな」

「この人たちが……? さっきの化け物を呼んだのも?」

「化け物……悪魔王、グレオールのことか……あれはとうに自力で封印を解き復活した。そして、魔王の降臨を阻むため、それを願うこの者たちを皆殺しにした」

「あなた、それを黙って見ていたの?」

「そこにいかなる願いもなければ我は何事をも為すことはない」

「なら……それなら、私を元の世界に戻すことも、できる……の?」

「それは叶えられない。召喚者の願いに反する」

 まあ、そうか。なんかそんな気もしてたんだよね。

 それに、もし今、私がいなくなったら……あの子……。

 

「それにしてもなんで私が魔王なの? なんでこんな奴らに呼ばれなければならないのよ! 責任者出てこーいって気分よ」

「それが主の願いか。最後の来訪者である主の願い、我の最期の力で以って叶えてしんぜよう」

 

「えっ?」

 その時、眩いばかりの巨大な光が目の前に現れた。

 それでも、手をかざしながら目を細くしてその光を見つめ続けていると、中に何やら動くものが見えてきた。

 

 あれ、は──

 


 

「な、なんだよ、これ!」

 

「比企谷くん!?」

 光が止み、姿を見せたのは比企谷くんだった。

 

「ゆ、雪ノ下さん!? 部屋にいたら突然光に包まれて……」

 なるほど、いつも彼が飲んでいるラッキーカラーである黄色をベースに房総の黒潮を思わせる黒の波模様の缶飲料を手にして寛いでたんだね。

 

「お主の願い──これにて叶えた──そして、お主の真なる願い──叶うことを祈る──」

 

 その言葉とともに石像がボロボロと崩れだす。

 

「我とて、元は白き姿であった──長きにわたる、人間たちの邪悪な願いがこの身を変えた──お主の願い──叶うことを祈る──」

 

 その最期の言葉が終わるか終わらないかのうちに全ては砂と帰し、台座から零れ落ちていった。

 

「ちょ、ちょっと一体ここは……えっ、うっ、うええぇ!」

 周りの様子を見てえづく比企谷くん。

 まあ……これが普通の反応だよね……。

 やっぱり私、魔王なのかも……。

 

「比企谷くん大丈夫?」

 たくさんの死体を前にしてえずく比企谷くんの肩を抱えて、洞窟の入り口へと戻ってきた。

 洞窟の外では、アクくんが「どうでした?」と笑顔で迎えてくれたが、横にいる比企谷くんの姿を見ると、一転して驚きの表情を浮かべた。

「ま、魔王様、男の人が欲しかったんですか? 酒池肉林とかがお望みでした?」

 その言葉を聞いた私は、薄い笑みを浮かべながらアクくんの首に手を回し、ガッチリとロックした。

 そしておもむろに軽いゲンコツを頭に見舞う。

 

「ヨガッ! ヨガッ!」

 それからゲンコツで頭を挟み、

「グリグリグリグリ〜!」

「痛い痛い! やめて下さい、魔王様!」

 

「で、何の悪戯っすか、雪ノ下さん」

「はあ、悪戯ならどれだけよかったか……」

 私はこれまでの経緯とここが異世界であることを説明した。

 

「え、じゃあ、俺はあんたがあそこにあった石像に願い事をしたから呼ばれたと?」

「まあ結果的にはそうなるわね」

「そんな……小町のいない世界で、俺にどう生きていけと? 俺はあんたのせいでこんな……」

 怒りの目を向けてくる比企谷くん。でもね……。

 

「私だって、来たくてこんな世界に来たんじゃないよ? 元はといえば比企谷くんが私のことを"魔王"なんて呼ぶから私がこの世界に呼ばれたんだよ? 女独りであんな死体が散らばるようなところに連れてこられてどれだけ心細かったと思ってるの……私だって雪乃ちゃんと離されて……私……わたし……」

 目尻に少し涙を滲ませて、上目遣いに比企谷くんの目を見つめる。

 

「あ、わわわわ。ごめんなさい、すみません! 俺が、俺が悪かったですから、泣かないでください!」

 ふふっ、流石の比企谷くんも私のこの演技までは見破ることはできなかったようだね、って……アレ?

 

 なぜか頬に涙が一筋流れるのを感じた。

 

 うそ……私、本当に泣いてる?

 比企谷くんの姿を見て、張り詰めていたものが切れたかのように、私は本物の涙を零していた。

 

「ごめんね、比企谷くん。みっともないところ見せちゃった」

「いえ、そんな、みっともないなんてことないですから……それに、本当にすみません。俺のせいでこんな……」

 


「あの──」

 あ、この子のこと忘れてた。

 

「魔王様、この方は──」

「えーと、彼はね……比企谷くんって私にとって何なのかな?」

「あなたの妹の同級生で高校の後輩?」

「そ、それって何かの魔法の詠唱ですか?」

「比企谷くん、多分それじゃ何も伝わらないわよ」

「分かりました! 願いの祠から魔王様と一緒に出てきたということは、魔王様の使い魔ですね!」

 思わず、ぷっと吹き出しそうになったけど、何とか堪えて比企谷くんが何か反論しそうにしているところを、

「何を説明してもどうせ伝わらないだろうから、ここはそういうことにしときましょう」

 と耳元で伝えて、特に訂正することもなく、

「そうね、まあ、そんなところかしら」

 と、いうことにしておいた。

 

「それで、この子は……」

「そっか、紹介がまだだったわね。この子、なんか化け物に襲われていたところを私が助けたの」

「ば、化け物ぉ!?」

 比企谷くんが目を白黒させてるけど、そりゃ実際に目にしない限り、私だって信じられないもんね。

「はい、僕、アクって言います。魔王様に命を助けてもらいました」

「な、、なんすか、戸塚を思い出させるこの雰囲気、ひょっとして天使?」

「そ、そんな、天使様なんて恐れ多いです! そんなこと言われたらバチが当たってしまいます!」

「あのね、比企谷くん、後でじっくり説明してもらうけど、どうやらこの国の人々は天使様を信奉してるみたいなの。だから、それに例えるのは不謹慎になるかもしれないわよ」

「あ、そうか、ここ、異世界なんですよね。気をつけます……」

「それで、使い魔様は何とお呼びしたら……」

「俺は使い魔じゃ……えー、俺の名は比企谷八幡だ」

「ヒキ……ガヤハチマン?」

「なんかそれだと、賑やかしのモブみたいなんだけど……」

「ちょっと長いわね。アクくん、彼のことは、ハチマンと呼んだらいいわ」

「分かりました。ハチマン様!」

「なんか神社みたいな……」

「いいじゃない、なんか縁起良さそうで。それと私のことは"ハルノ"よ」

「いや、そんな名前呼びなんてぼっちにはハードルが……今までどおり雪ノ下さんでいいでしょう?」

「それだとこっちの世界の人はなんか言いにくそうだし、この世界に合わせて名前で呼んだ方がいいかと思うのよ。私、アクくんにも"ハルノ"と名乗ったし」

「その割には"魔王様"と呼ばれてるようですけどね」

「それはいいの。じゃあ呼んでみて」

「ハッ、ハルノ……様?」

「なんで様なのよ!」

「だって俺、召喚された使い魔ですし、召喚主を呼び捨てにできないでしょ?」

「ぐぬぬ……」

 比企谷くんに、やり返してやったぜと言うようなドヤ顔された。悔しい~。

 

「ねえハチマン」

「いや、何すか突然」

 私が名前で呼ぶと、比企谷くんも慌てた表情を見せる。

「あれれー、顔が真っ赤だぞー」

「いや、そんな陽乃さんだって……」

 しっ、仕方ないじゃない! 幼馴染の隼人は別にして、少なくとも意識してる男の子を名前呼びなんてすることなんて今までなかったんだから。

 それに、今、自然に陽乃さんって言ってたよね?

 そんなことでちょっと喜んじゃってる私って、ひょっとしてチョロイン?

 そして比企谷くんって、天然のタラシ?

 

「魔王様とハチマン様って仲よろしいんですね」

「いや、アク、そんなことはないぞ。俺なんかいつもこのハルノ様に振り回されてばっかりなんだからな」

「んもう〜せっかく仲がいいって言ってくれてるんだからそんなこと言わなくったっていいじゃない〜」

 そう言って、比企谷くんの腕を取って抱え込むと比企谷くんは急に焦り出し、

「や、ちょっ、そのっ、あたっ、当たってますから!」

と、離れようとするも、

「いいじゃん、減るもんじゃなし」

と言って、ますますガッチリホールドする。

 

「減ります! 俺のSAN値がゴリゴリ減りますっ!」

 こういうところはかわいいんだな。うりうり~。

 

「本当にお二人って仲がいいんですねー。その、恋人同士ってこんな感じなのでしょうか」

 

「こっ、恋人!?」

 

 ちょっと、この子ったらなんてこと言うのかしら。私たち、そんなふうに見えちゃった?

 

「アク、そんなわけねーだろ。この人と俺じゃ釣り合いがとれなさすぎる」

「そんなことないです。ハチマン様だってすごく素敵です」

「アク、毎日俺のために味噌汁を作ってくれ」

「みそし……る?」

 アクくんの手を取って真剣な顔で見つめながらそんなことを言う比企谷くん。

 ちょっと! 私以外の、しかも男の子にそんなこと言うなんて!

 

 って、私、アクくんに嫉妬してる!?

 本来なら、キマシタワーとか言って鼻血だすところなのに。

 ホモの嫌いな女の子はいないって言うもんね。

 でもあくはちはなんか捗らないのよねー。

 


 

「それにしても……ハチマン……」

「なんすか?」

「あなた、少しゲ○臭いわよ」

「なっ! しっ、仕方ないじゃないですか、あんなの見せられたら誰でもそうなるでしょう!」

「私は大丈夫だったけどー?」

 ま、そこそこ危なかったんだけどね。

「そりゃあんたは”魔王様”ですから」

「そうよね。誰かさんのせいでこんな世界に連れてこられた、ね」

「……いや、ほんどすみません──」

「あ、そういう意味で言ったんじゃないの、ごめんね」

 やっぱ比企谷くん、気にしてるんだ……。

 責めるつもりじゃなかったんだけど……気をつけなきゃ。

 

「それでね、さっき見つけたんだけど、あっちの方にキレイな湖があったの。アクくんも転んだりして汚れちゃってるし、水浴びでもしたらどうかな?」

「い、良いんですか!?」

「いいと思うよ。まだこのへんも安全とは言い切れないけど、ハチマンが一緒にいて守ってくれれば大丈夫でしょ」

「え? 俺、金と力はありませんよ」

「なになに? それって、自分が色男だって言いたいの? このこの~~」

「うっ、うぜぇ」

 

「じゃあハチマン様、行きましょう!」

「えっ、おっ、ああ」

 そう言って、嬉しそうに比企谷くんの腕を引いて駆け出すアクくん。

 でも比企谷くんもアクくんが足を引きずっていることに気づいたようだね……。

 

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