お待たせしすぎたかもしれません。
待望の最終回です。
予定通り3話で完結。
自分の作品でこんなに予定通りいくことはないんですが、やはり原作通りに話を進めているからですね。
一人でも楽しんでいただけた方がいらっしったら幸いです。
そして、待望の「魔王様、リトライ!R」アニメ化を応援しましょう!!
「わあー、綺麗なお水です!」
湖の水を前に、アクくんは目をキラキラと輝かせていた。
「別に水なんか珍しくないだろ」
「いえ、僕の村はグレオールのせいで大地は枯れ果て井戸は毒に侵され、飲み水は水の魔石を買って確保するしかありませんでした。身体を洗う水なんて、雨が降るのを待つしかなかったですから」
「おっ、おお、、そうか……」
今の日本に住んでると、そういう水のありがたみとか分からないわよねえ。
私だって頭では理解できても、実感としてはピンとこないもんね。
「比企谷くん……じゃなかったハチマン」
「いや別に言い直さなくても……」
「一応湖も何があるか分からないから、アクくんの前に君が入って確認してもらえる?」
「ええ……俺が先に入ってそこで何かあっても、俺、何にもできないっすよ」
「君、逃げ足だけは速いでしょ? もし何かあったら大声出してくれれば私が何とかするから。それに私の見立てだと……ま、これは今はいいか」
「何すかそれ、中途半端に止められると気持ち悪いんですが……」
「いいのいいの。それじゃ私はちょっとやることがあるからあとはよろしくね〜」
「アク、俺がいいと言ったら入ってきていいぞ?」という比企谷くんの声を背に、私は、手をひらひらさせながら彼らの声の聞こえる範囲を外れないよう少しだけ歩いて木の陰に隠れた。
本当はじっと見守っていてあげたいところだけど、水着なんてないから当然二人とも全裸よね?
べ、別に比企谷くんの裸を意識してるとか、まーったくっと言っていいほどないんだからね?
ホントダヨ?
そんなことよりも試したいことがあるのよ。
「下級アイテム合成!」
で、できた〜!
管理機能でSPを使って作成したアイテム。
石鹸とバスタオル。
元々、投擲用の武器と身を守る防具として、半ばジョーク混じりに実装してたんだけど、どこで何が役立つか分からないわね。
んー、こんなんでも結構SP使うのね。
やっぱもっと貯めときたいなぁー。
「おーい、アク、入ってこいよー」
比企谷くんの声だ。
あ、石鹸渡し損ねちゃったなあ。
遠くから投げたらいいかしら。
「わあー! こんなキレイな水、生まれて初めて! 生きててよかったぁー!!」
そんな大げさな、てわけでもないんだろうなあ。
……私も後で入ろうかしら。
二人だけ綺麗になって、私だけ臭いとか言われたらショックだわ。
そしたら、やっぱり比企谷くんだって男の子だし覗かれちゃったりするのかしら? きゃーーー! どうしよう!!
……って、乙女かっ!
いや乙女だけれども!
「うっ、うわああああ!!!」
あれは比企谷くんの声!
湖で何か起きた!?
二人は大丈夫なの?
「比企谷くんどうしたの!」
慌てて湖の方へ戻ると、岸に近い浅瀬に比企谷くんが立っていた。
何も隠さないまま……。
「きゃーーー! 陽乃さんのえっち!!」
「ちょっと! 何で私が比企谷くんを覗いたみたいになってるのよ!!」
そりゃ、バッチリ見ちゃったけど……。
「それより何が起こったの?」
「あああっ、アクッ、アクッ、アクがっ……」
「アクくんがどうしたの?」
慌ててアクくんの姿を探すと、湖の幾分深いところに悲しげな顔をして立っていた。
「……」
さっきまでの喜びに溢れていた声は無く、それ以上に何か違和感があった。
「アク、アク、女、女の子だったんです!」
「え……アクくんが、女の子……!?」
そっか、さっき感じた違和感、体のラインが男の子と違ってたんだ。
「ハチマン様も、僕から離れていくんですね……」
泣きそうな顔でアクくんは言った。
「いや、そうじゃなくてだな……」
「僕は、昔から村の厄介者だったんです……誰も話しかける人もいなくて、それでも生きるためにゴミを集めて捨てたり、糞尿を集めたりする仕事をして……自分なりに頑張ったんですけど……」
もうその頃には彼……じゃなかった彼女の目からは大粒の涙がとめどなく流れ出していた。
「村のみんなが言うんです。汚い、臭い、お前に近寄るだけで穢れるって……それでとうとう悪魔への生贄に出されて……そんな僕だからハチマン様も……」
それを聞いた時、私は考えるよりも先に服のまま湖にジャブジャブと入っていき、アクくんを抱きしめていた。
「大丈夫、大丈夫だよ。私もハチマンもそんなことで離れて行ったりしないよ。頑張った……よく頑張ったね……」
「魔王様……僕に触れると……穢、れます……」
「そんなわけないよ、そんなわけない。人間なんて洗えばいつでも新品になるんだよ」
「そうだぞ、アク」
いつの間にか比企谷くんも横に立って、アクくんの頬に手のひらをあてている。
「俺もな、小学校の頃、周りの奴らから比企谷菌とか言われて、俺に近寄ると比企谷菌が感染るとか言われてたんだ。しかも、どんなバリアも効かねえんだとよ。どうだ、凄いだろ? 比企谷菌」
またいつもの比企谷くんの自虐が始まったと思ったけど、彼の目はいつになく真剣だった。
「アク、お前、比企谷菌に冒されて病気になっちゃうかも知れねえぞ。いいのか?」
「いえ……ハチマン様の手、すごく暖かいです……」
比企谷くんの手に自分の手を重ねて、目を瞑り涙を流しながらも嬉しそうな顔のアクくん。
「そうか。お前だって暖かいぞ。だって俺たちは生きてるんだからな」
「……はいっ!」
アクくんの反応を見てホッとした表情の比企谷くん。
「いや〜、もしアクに拒絶されたら俺泣いちゃうとこでしたわ〜」
「何言ってんの。もうとっくに泣いてるじゃない」
「え、マジ?」
「マジマジ、大マジ」
最後はいつも通りの残念な比企谷くんに戻っちゃったけど、なかなかかっこよかったよ……。
でもちょっと待って!!
アクくんはアクちゃんだったのよね?
全裸の男の子と女の子が今ここに立ってるのよね?
これでアクく……アクちゃん、かなり比企谷くんに好意を持ったと思って間違いないわ。
今まであまり人と触れ合ったことないって言ってたから、自分の気持ちが何なのかまだ分からないだろうけど。
そして比企谷くんの方はどうなのかしら?
妹を溺愛するあたり、年下好きかもしれないし……。
それにこの子。
可愛いわ!
女の私から見ても可愛いわ!
雪乃ちゃんにも負けず劣らず可愛いわ!!
もうずっと抱きしめていたいくらい可愛いわ!!
あれ? 私、今どっちに嫉妬してるの!?
とにかく、このままじゃだめよね?
「しょうがないなー。じゃあおねえさんも一肌脱ぎますかー!」
「わー! 脱がんでいい! あんたは脱がんでいい!!」
ちょっと部屋着にしてるシャツを脱ごうとしただけでそんなに慌てなくてもいいのに。
何よ! 私のカラダは見たくないっていうの!?
どっちにしてもびしょ濡れになっちゃったから、脱がなきゃいけないんだけどさ。
そこで第二ラウンドよ!
覚悟してなさい、ハチマン!
結局、私がヘタレました……。
湖の中にいるときは私だけが服着ててみんな全裸だったから、なんかそのままの勢いで私も脱いじゃえって思えたけど、岸に上がったら急に怖気ついちゃった……。
とりあえず全員アイテム合成で出したバスタオルにくるまって、アクちゃんは私の膝の上で寝息を立てている。
湖の中で石鹸を見せてあげたら、「これってシャボンですか?」なんて言うんだもの。
文明開化の音がするかと思ったわよ。
こんなのがこの世界では貴族でないと使えない高級品だなんてね……。ただのゴミアイテムなんだけど。
でも、この子のはしゃぎようを見たら、ほんと出してよかったわ。
お肌スベスベ〜♪なんて喜んでたし。
あの足であんな化け物から必死で逃げてたんだもの。
疲れちゃったんだよね……。
今はゆっくりおやすみ。
それにしても比企谷くんよ!
私、バスタオル一枚、下は全裸なんだよ?
ほぼ全裸女子が目の前にいるんだよ?
もうちょっと興味示してもいいと思うんだけどなー。
ちょっと離れたところで一人で立って、全くこっち見てくれないし。
さっきふざけて湖の中でアクちゃんを石鹸で全身くまなく洗ってあげたとき.「あ、そんなとこ……やめてください魔王様〜」と言うアクちゃんの声を聞いたら、後ろ向いてたけど少し前屈みになってたの見逃さなかったからね?
……やっぱり比企谷くんって、ロ……年下の方が好きなのかしら。
とは言え、ホントは私も目を合わせにくい。
だって、比企谷くんの……バッチリ見ちゃったし……///
静かだわ……。
木々の間を風が抜けて、サワサワと微かな音を立てている。
周りの風景と同じくらい、私の心も静かだ。
元の世界ではいつも気を張っていたから、こんな静かな気持ちになれたのっていつぶりかしら。
本当なら、こんな世界に連れてこられて不安いっぱいのはずなのにね。
これもアクちゃんと……比企谷くんのおかげかな?
比企谷くんは元の世界に戻りたいよね……妹ちゃんにも会いたいだろうし。
私も雪乃ちゃんには会いたいけど……本当にあそこに戻りたいと思ってる……?
ま、考えてもしょうがないか。
とにかくこの世界のことを調べなくちゃ。
あと、帰る方法も──それが分かった時、彼は、私は、どういう選択をするんだろう……。
比企谷くんの背中に視線を送る。
その時、彼がチラッとこっちを振り向いて目が合った。
私を見たくて振り向いてくれたのなら……少し、嬉しいな。
あ、慌てた拍子にタオルが落ちた……///
「アクちゃん、この辺りに大きな街とかある?」
この森にいてもこれ以上の情報収集は望めない。
このまま何も知らずにいたら、どんな落とし穴に嵌るか分からない。
なら、ここを出てもっと人と情報の集まる場所に行くしかないだろう。
「はい……魔王様はどこかへ行かれるのですか?」
「そうね。いつまでもここにいたって仕方ないもの」
「あの! 僕も連れて行ってもらえないでしょうか? 生贄に出されたのに、もう村には戻れません。足手纏いになるのは分かってます。どこか僕が生きていける別の街まででいいですから……」
「陽乃さん、俺からもお願いします。俺がおぶって歩きますから」
「そんな……ハチマン様にそんなご迷惑をおかけするわけには……」
「アク、遠慮なんかするな。俺にも妹がいてな、お前を見てるとその妹を思い出すんだ。俺をお兄ちゃんだと思っていくらでも甘えていいんだぞ」
「ハチマン様……」
「こほん、いいかしら?」
「あ、すみません、魔王様」
「いや、魔王じゃ……まあいいけど。私だってあなたにそんな仕打ちをする村なんかに置いておけないわ。私たちがいつまでこの世界にいるか分からないけど、それまではずっと一緒よ」
「この……世界?」
「ん、んん……この国に、ということよ。私たちもこの国のことよく知らないから、一緒に来てもらえると助かるんだけど。お願いできる、かな?」
「は、はい! 僕でよければ!!」
さっきまで不安そうな顔してたのに、一転してぱああと明るい顔になった。
水浴びで顔の汚れも綺麗になって思うことは、やっぱりこの子、可愛いっ!
さっき比企谷くんが妹ちゃんの話してたけど、私も、いつも私の後をついて歩いてた、まだちっちゃい頃の雪乃ちゃんを思い出したわ。
「あの……魔王様?」
「あ、ごめんごめん。ちょっと考えことしてた。さあ行きましょう」
「はい……その前に僕の村へ寄ってもらってもいいでしょうか。少ないですけど持って行きたいものもあるので……」
「ん……分かった。ただ、面倒ごとは避けたいから、夜になってからでいいかな?」
「すみません。ご迷惑をおかけして……」
「そんなの気にする必要はないから。ならそうね、それまでこの国のことや村のこと、そして君のことをもっとお話ししてくれる?」
「は、はい!」
その過程で、メモ帳に書いた日本語や数字、アルファベットを彼女が読めることも知った。
ずっと日本語が通じることも含めてその理由は分からないし、ひょっとしたら何らかのフィルターがかかってお互いに自分の言語に翻訳されているという可能性もあるけれど、とにかくコミュニケーションに支障がないということは朗報だった。
やがて夜の帳が下り、月明かりを頼りにアクちゃんの村へ向かう。
比企谷くんはアクちゃんをおぶって歩いている。
「ハチマン様、僕、重くないですか?」
「おう、重さなんて感じないな。いつまでもおぶっていられそうだぜ」
「無理、しないでくださいね」
「それなんだけど、私の仮説が正しければ、ハチマンにバフがかかってるからたぶん大丈夫よ」
「なんすか? そのバフって」
「んー、それはまだ確信がないからまた今度ね」
そう、この世界でも「GAME」のスキルや効果が反映されるのだとしたら……。
「それよりもそろそろかな?」
「はい、魔王様、あの柵の向こうが僕の村です」
夜とは言えまだ全ての住民が寝静まるという時間でもないのにほとんど明かりもなく、柵の間の入り口から覗く村の様子は、酷く寂れた寒村という感じだった。
「こういう村ってよそ者を排除しようとしたりするのよね」
「は、はい……僕の村は、よそから来られた方を嫌っています」
「ふうん……」
そうすると、できれば目立ちたくないな。試したいこともあるし……。
「それじゃ、私は身を隠しておくから、ハチマンとアクちゃんで行ってもらえる?」
「え、まあ、仕方ないっすね。あんたいるだけで目立つから。俺には108の特技の一つ、ステルスヒッキーがあるけど」
いや、何よそれ。
「でも、大丈夫でしょうか……」
「安心して、私もすぐそばにいるから。それに、ハチマンがついてるから大丈夫よ」
「はい、魔王様が仰られるのでしたら!」
素直っ! やっぱりこの子可愛い〜〜〜!
「じゃあハチマン様、ここで下ろしてもらえますか。僕の家まで案内します」
アクちゃんが比企谷くんの手を引いて、足を引き摺りながら柵の中へ入っていく。
さて、私も……。
「《隠密姿勢》」
その言葉を、まるで風景に同化するように身体がぼやけ、やがて全く見えなくなった……はず。
プレイヤーとして操作してる側ではなくて自分自身となると客観的に見ることができないから、今ひとつ自信ないけど……。
手足が見えないことは分かるけど、鏡でも見ない限り顔まで不可視化してるかどうかは分からないもんね。
とにかく全て消えていることを信じて二人に続いて柵の中へ進む。
あばら屋が並ぶ村の中、街灯も何もない。
いやが応にもここが日本とはまるで違う世界なのだと思い知らされる。
私の前を歩く二人のところへ、家の間から松明を持った一人の村人が現れた。
「おい、ゴミ人間、なんでお前がここにいる!」
「あ、ああ……」
最初の村人の声を聞いて、さらに数人の村人が家々から姿を現した。
「ゴミ人間、まさかお前、逃げ出してきたんじゃないだろうなッ!」
「冗談じゃない! あの悪魔がこの村に来たらどうするつもりだ!」
「生贄に出された意味を分かっているのかッ!」
考えるまでもなく、コイツらがアクちゃんを虐めていた連中ね。
それよりも、比企谷くん、本当に気付かれてないのね……。
《通信、アクちゃんへ――聞こえる?》
《……ぇ。頭の中に魔王様の禍々しい声が!?》
《禍々しいは余計よ! そんな連中ほっといて早く荷物取ってこよう?》
《は、はいっ!》
よしっ! 通信機能も使えるっ!
こうやって一つ一つ試していかないとね。
「おいっ、ゴミ人間! 何とか言ったらどうなんだ? 何も喋らないっていうなら、もう片方の足も歩けないようにしてやるぜ!」
あの子の足、コイツらが?
私は今まで感じたことのない感情──本当の殺意──を生まれて初めて感じていた。
今の私の力なら──殺れる──
「きゃあーっ!」
そんな私の思考を現実へと引き戻したのはアクちゃんの悲鳴!
複数の村人がこぶし大の石を彼女に向かって全力で投げつける。
だが、一瞬早く比企谷くんが前に立ち塞がり、その石を自らの身体で受け止めた。
「ハチマン様!」
今度は比企谷くんを心配するアクちゃんの叫び声が響く。
しかし、全身に石つぶてを受けたはずの比企谷くんは全くのノーダメージだ。
「あんた、そ、その目……もしかして悪魔……悪魔王・グレオールの配下の者か?」
「この村には手を出さないでくれ……そこのそいつを生贄に捧げただろう!」
ありゃりゃ? 比企谷くん、悪魔の手下と思われてるぞ?
《通信:ハチマンにはバリアが働いてるから村人程度の攻撃などものともしないわ。いざという時には私もすぐそばにいるから安心して》
「はいっ、魔王様!」
「ま、魔王だって!?」
「まままま、魔王!」
「こいつがか!?」
あちゃー、今度は比企谷くんが魔王にされちゃったよ。
ま、その方が都合いいかもだけど。
「ゴミ人間! どこまで村に迷惑をかける気だ!」
「臭い糞尿野郎は出て行け!」
「この疫病神!!」
「うっ、うう……」
コイツら……またまたアクちゃんを悲しませたわね。
目に物見せてや・ら・な・い・と、ねっ☆
「よしっ、俺は領主様に連絡を……」
村人の一人が駆け出した先にナイフを投擲する──比企谷くんが。
「ひっ、ひえぇ!」
鼻の先を掠めたナイフに怯え、尻餅をつくモブ村人。
「なっ、体が勝手に……」
そりゃそうよ。
比企谷くんの身体を操ってナイフを投げさせたのは、わ・た・し♡
飛んでいったナイフは、一軒の家の壁に突き刺さり、刀身から黒い炎が噴き出した。
木造家屋に放たれた火は、あっという間に燃え広がり、黒煙に包まれてしまった。
「ひぃ!家がぁ、俺の家がぁー!」
尻餅をついた村人が叫んでいるが、同情心は全く湧かない。
本当ならこの村を全て焼き尽くしてしまいたいところだけど、いじめに関係ない人たちもいるかもしれないし、騒ぎに乗じてここを離れるのが得策だろう。
《ハチマン、アクちゃんをおぶって。騒ぎがこれ以上大きくなる前に急いでここを離れるわよ》
《ちょっ、さっきのこと、後で説明してくれるんでしょうね?》
《する、するから早く!》
再びアクちゃんを背負った比企谷君とともに、入ってきた時と同じ入り口を経て、柵の向こう側へ離脱する。
一瞬振り向いて見ると、夜の闇を照らすかのような派手な火柱が上がっていた。
今は隠密姿勢を解いて、姿を見せながら二人とともに歩いている。
「ま、魔王様……大丈夫なんですか、あれ……」
「大丈夫でしょ? 夜も遅くなって冷え込んできたから暖を取ってあげたのよ、うん」
「あんた、それ絶対嘘だろ」
「じゃあハチマンはどう思った?」
「……んー、まあ、ハルノさんの優しさですかね──」
「アクちゃんは?」
「あ、あの、こんなこと言っていいか分からないですけど……少しだけすっきりしちゃいました!」
そう言って、笑うアクちゃん。
彼女が受けてきた仕打ちを考えたら、私ならこんなものじゃ済まないんだけど。
それでもこの笑顔が見られただけでもこの世界に呼ばれた意味があったように思えた。
いつの間にか私たち3人は大きな声で笑いあっていた。
「アクちゃん、荷物取ってこれなくてごめんね」
「いえ、そんなことはいいんですけど……皆さんはこれからどうするんですか?」
「そうね……この国で一番大きい街ってどこかな?」
「それは、やっぱり聖女様がいらっしゃる"神都"です」
「聖女様……か。ハチマンも興味津々でしょ?」
「べ、別にそんなのに興味なんかないんだからねっ」
「ハチマン、キモい」
「……死のう」
「ハチマン様! 死なないでください!」
そう言ってアクちゃんが比企谷くんに回した手に力を込めて、後ろからさらにギュッと強く抱きしめる。
「アアア、アクッ! くっつきすぎ! 顔も近い! くっつきすぎだからぁ!!」
比企谷くん、ちょっと焦り過ぎじゃない!?
私が腕に胸を押し付けたって嫌な顔するだけの癖に。
そりゃあ、ちょっとは赤い顔するけどもさっ。
「もう、死ぬなんて言いませんか……」
「言わない、言いません! 二度と言いません!!」
ほんといい子だわ〜アクちゃん。
でも、確かにちょっとくっつきすぎよね……。
よしっ! あとで私も思いっきりくっついちゃうぞ!
「まあいいわ。都会へ──どうせ目指すなら一番おっきなとこ、その"神都"とやらへ、れっつらごー!!」
「はいっ! お供します!!」
「ほら、ハチマンも!」
「おっ、おー?」
初めは一人で知らないところへ放り込まれて、これからいったいどうなることかと思ったけど、今は少しだけワクワクしてる私がいる。
アクちゃん、比企谷くん、私たちの異世界道中はこれからよっ!!
続け!!