【二次小説】航宙軍士官、星を統べる (原作:航宙軍士官、冒険者になる) 作:高坂 源五郎
政変により祖国スターヴェイク王国を追われた亡国の王女クレリア・スターヴァイン。僅かな供の者と隣国ベルタ王国を頼るが道半ばで魔物に襲われ行き倒れる。彼女の窮地を救い欠損した手足の治療を施してくれたのはアラン・コリントと名乗る謎の男。見慣れぬ武器を携え言葉さえ通じない彼は、瞬く間に群がる魔物からクレリアを救い出した。
クレリアは自らを救出したアランを「名誉を尊ぶ貴族」と信じて行動を共にする。クレリアの回復を待ち野営する間にも、アランは言語と魔法の習得し非凡な才能を発揮する。行くあてのない2人は冒険者として活動を開始し、クレリアの近衛騎士だったエルナ・ノリアンやアランの部下を名乗る双子の美少女セリーナ•コンラートとシャロン•コンラートと合流を果たす。
冒険者ギルドの依頼という形でクレリアを捜索する家臣団と首尾よく連絡をとった彼らは、新たに建国されたアロイス王国の苛烈な支配の下で、クレリアを推戴する事でアロイス王国からの祖国の解放を願う人々の存在を知る。
アランは自身の目的が「大陸の統一と民衆の教育」にあるとクレリアに語り、アランを支援する勢力と連携して共に建国する事をクレリアに提案する。
悩みながらもアランの提案を条件をつけながらも受け入れたクレリアは、魔物の住む土地として恐れられる樹海にアランが用意するという都市に、自身を慕う人々を移住させる事を決断する。
「まず我が国の贄になってもらうのは、私の大事な近衛に仇をなしたこの国、ベルタ王国に決まっている!」そう宣言したクレリアにより、彼らの最初の標的はベルタ王国と定まった。
樹海で2頭のドラゴンの戦闘に介入したアランは、首尾よく1頭を倒し、傷を負ったもう1頭を手懐ける事に成功する。ドラゴンの死体を商業ギルドの協力でオークションで売り捌いたアランは大金を入手する。そして対となったドラゴンの牙をベルタ国王に献上する事で、アランは王都で無事ベルタ王国男爵へと任じられた。そして目的である樹海を開拓して領土とする権利を授けられる。
アランを脅威と捉え敵対視する宰相のバールケの陰謀を3度かわし、地下牢に幽閉されていたエルナの班の仲間と先代宰相のライスター卿父子を救い、宰相麾下の間諜の一族を寝返らせ、王都で募った職人や孤児を連れた一行は樹海にあるアランがクレリアに約束した都市へと無事に到着を果たした。
樹海の奥深くに築かれたその都市こそ、謎の攻撃により惑星の衛星軌道で航行不能に陥った宇宙戦艦イーリス・コンラートの艦載AIが、唯一の生存者として艦長の地位を引き継いだアラン・コリントの為に総力を上げて築き上げた文明発展の為の国家建設の根拠地だった。
人類銀河帝国に復帰し、やがてこの惑星へも到達するであろう人類に敵対する昆虫型異星人バクスに対抗する為、彼らは大陸統一と文明発展に邁進する。
Ⅰ ベルタ王国統一記 00話 【プロローグ】樹海到着
ベルタ王国統一記 0話 樹海到着
「ここが、私達の街」
都市の城門をリアが見上げている。
「住居の割り振りがあるから、開拓民や職人達にはグループ毎に入城してもらおう。まず、俺が案内するから、先にリアに都市を確認してもらおうか。」
イーリスの築いた都市は湖の辺りに作られていた。湖があるおかげで樹海の中なのに土地が広々としている。都市の周囲には堀を巡らせてある。堀に満たした水を魔物と人間の居住地域の境界線としていた。堀は都市外縁に留まらず、耕作予定地や雑木林も含めて広く張り巡らせてある。
「あつらえたように理想的な場所ね。アラン。都市の南側に大きな湖があるからとても日当たりが良さそう。」
リアが笑顔を覗かせる。俺もリアの笑顔に頷き返した。
「そうだね。」
都市の選定はイーリスが理想的な場所を選定した、環境を改造している。人に都合の良い空間というリアの評価は正しいだろう。
文官を従えたロベルトに民の取り纏めを託すと、俺とリアは都市の中を目指した。馬に跨り城門を潜りながら、リアと会話をする。2人の後ろからはエルナとダルシムの班がついて来ている。
この湖は人工湖でイーリスが軌道爆撃で作成した。一発で大きなクレーター湖を作るのは躊躇われたので、近距離攻撃用のブドウ弾を様子を見ながら複数打ち込んだそうだ。小さなクレーターを繰り返し作る地道な作業だが、細緻な反復作業はAIであるイーリスの得意分野だろう。
地表に打ち込む度に閃光と振動が凄まじかったらしい。ガンツで「スタンビート?」と疑われた閃光と衝撃はこの湖の造成作業が原因だった。一つの大きなクレーターではなく、小さい複数の湖を繋ぎ合わせて作成した人工湖となる。
クレーターの底は、熱でテクタイトと呼ばれるガラスに変化する。ガラスが保水してくれるので粘土層に頼る必要がなく、水を蓄える上で極めて使いやすかった。都市の水源の排水と雨水で湖が無事形成されている。今は水位が低いが、「時間をかければ問題なく貯まる筈です」とイーリスが太鼓判を押していた。
「凄いわ、水路がこんなにいっぱい。まるで水の都ね。」
城門の先に広がる光景にリアとエルナが歓声を上げる。城外の堀は魔物対策で用意し、都市内の水路は排水や搬送路も兼ねる事を想定している。
「湖から引き込んだ水が豊富なので、水には困りませんね。」
周囲を見渡したエルナも感想を漏らす。
「実はこれは湧水なんだ。地面から滲み出た水が都市の水路を流れて最終的にあの湖に貯まるんだよ。」
「え、この土地はそんなに水が豊富なんですか。」
エルナは驚いているようだった。水路を張り巡らせるとどこからが湧水なのかが分かりにくいのかもしれないな。近くに大きな湖があれば、そちらから水を引いていると考えるのが普通の発想なのかもしれない。
「水路を張り巡らせているのは理由があるんだ。堀になるから魔物の侵入防止に使えるし、火事も延焼しない。大雨も溜まらないし、風も通り抜けやすいだろう。」
「雰囲気が良いし清潔だわ。」
「魔物と何重の水路で隔てられると考えると安心できますね。」
「樹海ではスタンビートが発生するらしいからね。対策は念入りにしたよ。」
単なる城壁は魔物に破壊されたらおしまいだ。スタンビートの規模は見当もつかないが、魔物が沸くように発生するなら都市を築く上で対策は必須と言えた。城壁は崩れた箇所を魔物に狙われるだろうと確信していた。空堀も魔物の死骸で埋め尽くされ、突破されるかもしれない。
しかし幾重にも水路を用意しておけば、スタンピードが発生して城門や障壁を突破されても住民は生き残れる可能性が高い。魔物を相手にする場合は水路の方が有利で、細かく区切る事で人の住居を守れる可能性が高いと判断していた。
それに人が魔物対策で火を用いても延焼する心配がなければ大胆に使える。兵が使う魔法の大半はファイアボルトやファイアボールだ。水路の対岸からファイアボールやファイアボルトを撃てば安全に魔物を駆逐出来るだろう。
「アラン、凄いわ。とてもよく考えられている。正直、樹海の生活は厳しいと思っていたけれど、これなら普通の都市と変わらない。むしろこんな理想的な場所だなんて思ってもいなかった。」
「生活を便利にするものはまだあるんだ。」
リアを案内したのは住居区画の一角だった。水路に面して水車が回転している。
「アラン、あれは何?」
「水車だ。水流で回転する大きな車輪だよ。」
リア達はどうやら水車を知らないらしい。物珍しそうに眺めている。この世界はやはり水場の活用は珍しいらしい。
「これは何をするものなの?」
「中に入ってみてみようか。」
水車小屋の中は組み上げた石臼がある。スピード重視で組み上げたので木材の加工は正直粗い。だが、石臼は多目的ボットがレーザーを使って精密に仕上げてあった。
「これは、石臼ね。」
「そうだ。ベルタ王国やスターヴェークでも石臼は人や馬を利用して回転しているだろう?でもここでは水の力を利用して回転できるんだ。」
水車は水流や流路の高低差を利用して回転させる。水路を多数用意したのは水車を使いたかったからでもある。水車は水力発電の原型のようなものだ。いずれ発電にも使えるだろう。
「これは便利ですな。」
ダルシムも感心しているようだ。
「主要な街区には水車小屋を作っている。現物があれば、職人が同じものを作るのも簡単じゃないかな。将来、都市の住人が増えても対応できる筈だ。」
都市生活では食糧の安定供給が欠かせない。水車を軸にした製粉所を作っておけば、安価に大量の穀物を加工できる。それは穀物の価格に反映されるから、加工費が安上がりなのは都市の生活の基盤となる筈だった。
水車の難題は作るのに都合の良い場所が限られる点にある。しかし、水路を作り放題の俺にとって、都市内の都合の良い場所に水路を張り巡らせるのはさしたる難題ではなかった。
ちなみに水路や堀はイーリスの副砲のレーザーを地表に照射して作成した。イーリスにとっては精密な照射は朝飯前だったし、一瞬で堀や水路を形成出来たと聞いていた。ブドウ弾による人工隕石と同様に、レーザーで灼き抜いた後はガラス状のテクタイトとして硬化する。
「水路って凄いのね。」
「人が増えたら大量の貨物を輸送する道としても使える筈だ。当面は馬車に頼ることになるけれどね。」
物流については馬車より船が有利だ。これは一度に運べる貨物量が段違いに多いからだ。だからアレスでも船を運用できる水路が有利な日が来ると計算していた。
それこそ100万人規模の都市にまで膨れ上がると陸路だけに頼る都市交通は渋滞で麻痺しかねない。その時、水路を物資用の高速の搬送路として活用する事を考えている。
この都市の人口の増加についてはイーリスの予測はやや悲観的だ。通常の人口増加予測では、俺たちが生きているうちに水路を活用出来る程の都市人口に到達できるかについては微妙な所かもしれないと警告されていた。
「アラン、この都市は凄いのね。とても感心したわ。」
「おいおい、まだ半分も見ていないよ。結論を出すのはまだ早いんじゃないかな。」
市街地を抜けると内堀がある。都市の中心エリアを区切る堀だ。水路伝いに侵入される事を阻止する為、内堀は少し高くなるよう設定してある。内堀の中の水はそのすぐ下の水路に流れ落ちるので、ちょっとした滝になっている。
これを可能にしているのは、中枢エリアから水門で全ての水が溢れないように管理しているのと、水源が都市のより高いところから湧き出る為だ。
「堀で上手く隠しているけれど、内堀の中は断層になっているんだ。」
都市は背面に山脈を抱えていて、水は山の中の断層の縁で姿を現す。断層の岩肌から湧き出る水は大地のフィルターを経て澄み切っている。
「最上段の水源で採水して、いずれは都市中に水を供給する水道を作りたい。水道の水源は水路と同じだけれど、水が汚れるリスクは減らしたいからね。下水道はもう地下に用意してあるんだ。水が豊富だから湖と反対側に沼を用意して地下の下水道からそこに排出されるようにしてある。」
堀の内側すぐに2つの大きな建物と食料品を納める倉庫を建ててあった。その場所は最下層の行政エリアである。1つは議事堂である。これは近い将来必ず必要になると考えたのだ。
「このホールは議事堂。円形の大広間になっていて、各国の代表が政治をする場、かな。」
「議事堂。もうそんなものも作ってあるのね。」
「あちらに見えるのが迎賓館だ。宮殿の様式とかわからないから念のために建ててあるんだ。各国の代表を歓迎し宿泊させる場、かな。建物は細部の仕上げがまだで、壁と屋根と床くらいしかないけれどね。」
中に入れる家具やドアや窓、細かい装飾などは職人の仕上げをあてにしていた。
「迎賓館も素晴らしいわ。どちらも石造りでとても荘厳。」
中枢エリアは大きく3層に分かれている。それぞれの層は階段で接続されていた。最下層が議事堂や迎賓館のある行政エリア。中層が広々とした公園。これは遠い将来にはシャトルの行き来する宇宙港を意識して作成したものだ。
「この広場は練兵場ですな。」
階段を登って中層を見てダルシムは運動場と判断したようだ。よし、表向きは練兵場ということにしよう。
「練兵場に使うのは良いかもしれないな。俺としてはグローリアがくつろげる空間になるかなと。」
「おお、そうでしたか。グローリア殿がおりましたな。」
防衛戦を想定しても、都市の中枢の宮殿外縁部分にグローリアが入れる場所を用意するのは重要だろう。
「最上層は宮殿エリアにしようと考えているんだ。」
実際は宮殿の背後に浄水場というか、湧水を配水する為の施設もある。
「宮殿エリアといっても、まだ宮殿は建てられていないのね。」
最上層に上がってリアが周囲を眺める。最上層は山を削って広めに確保していた。断層から溢れ出る水源を確保する貯水地の他、宮殿と貴重品用の倉庫を予定している。
「流石にどういう建物がふさわしいか分からなかったからね。宮殿はいずれ建てれば良いかなと。」
一応、宮殿の予定地点の端にはガンツの拠点を模した建物を2つと倉庫を建ててある。将来的には近衛と文官の宿舎に出来ると考えていたが、これが当面の領主館の代用になりそうだった。
「任せて、私達が首都に相応しい立派な宮殿を考えるわ。」
「リア、気に入ってくれたかな?」
「もちろんよ、アラン。この場所なら上手くやれると思う。都市の名前はもう決まっているの?」
「リアさえ良ければ、アレスにしたいと考えている。」
「アレス、世界の首都に相応しいとてもいい名前だと思うわ。」
この惑星はアレスと呼ばれている。そして惑星の名を冠した都市はまだない。人類銀河帝国では、星を代表する都市は惑星と同名の事が多い。だから俺は「惑星の名前がアレスなら首都の名前もアレスである方が良い」と、そう考えたのだ。
「アレスには他にもまだまだ見てもらいたい設備があるんだ。教会や商業ギルド用の建物も用意したし、倉庫にガラス工場、製鉄所もある。牧場と食料工場もあるんだよ。」
「アラン、流石に全部を見切れないわ。日が暮れてしまうから、先にみんなをアレスの中に入れてあげるほうが良いと思う。」
「わかったよ、じゃあそうしようか。」
皆で正門まで引き返し、割り振りに従って民の入城を開始させた。住居は割り振った所に入ってもらうので早いもの勝ちという訳ではないのだが、物珍しさもあるのだろう。人々は歓声を上げながら先を争うように中に入って行く。グループ単位で割り当てているので、あとはうまく調整してもらおう。
「みんな嬉しそうだわ。」
「遠路遥々樹海まで来てもらったからね。半端な準備で済まされないと思っていたから安心したよ。」
「思っていたよりはるかに立派な都市で驚いているのでしょうね。」
感心した様子のエルナに話しかけられる。
「まだ建物に窓がないんだけどね。」
「魔物の心配がないから窓がなくても問題ありませんよ。それでも都市の中の全ての街に石畳が敷かれていますね。こんな未来的な都市は初めてです。」
エルナもリアと同じように満足してくれたようだった。野営地の夜番の要領で都市の正門と要所に見張りを立てた。野営地は見張り対策という感じだったが、こちらは人の流れの統制になる。今後のことを考えると迂闊に立ち入られたくない場所もある。サテライトの各班で上手く分担したようだ。宮殿エリアへの入り口はダルシムの班が仕切るという。
倉庫街には食料を運びこんでいる。アレスの全域は広いので、倉庫街は各所に用意してある。当面必要な分はある筈だが、食料の問題は早急に解決しなければならないだろうな。
日々の食事については食料と燃料を支給し、グループ毎に自炊してもらうことにしてある。
「職人の給与は毎月支払うし、子供の学校もすぐにスタートさせる。そこで食事も出す。開拓民には食料を現物支給する。食料の工場や製粉所の仕事に加えて、燃料となる木材の伐採や倉庫の搬入出や水路の製造など日雇い仕事も多数用意してあるから、半月ほどで市場も機能して普通の都市生活が送れるようになる筈だ。余裕を見て、ひと月ほどで民の生活は軌道に乗るんじゃないかな。」
ロベルト率いる文官達には、イーリスの作成したタスクを割り当てて行く。全体を見ると複雑だが、個々の担当領域はクリアにしてあるので大きな問題はないだろう。
「ロベルト、奥仕えの選定は終わったのかな?」
「はい、クレリア様にお仕えする役回り。身元の知れた者を厳選させております。」
この都市はいずれリアが女王として即位する事になる。護衛役はサテライトで担うにしても、館を構える以上はメイドや料理人を厳選する必要があるそうで、ロベルトにはその選定を委ねていた。
「ルドヴィーク辺境伯家ゆかりの者で固めました。一部、他の貴族家の出身者もおりますが、皆信頼できるスターヴェイクの者です。女王となられるクレリア様にお仕えするのは皆の喜びとなりましょう。」
都市の財政としては、王族に使える侍臣は必要経費といった所か。
「無論、表向きはコリント男爵家の家臣となりますな。」
「今はまだ、宮殿はないから倉庫と近衛の宿舎しかないけれど」
「何を仰せですが、あんな立派な迎賓館がございます。」
なるほど。女王の体面を保つ為に当面は迎賓館を使えば良いのか。内堀の中とはいえ最下層にあるからセキュリティは近衛宿舎に劣るが、当面は誰も来る予定もないし問題ないだろう。
「では任せるよ。俺は、近衛の宿舎でいいから、リアの部屋も近衛宿舎にも用意しておく。近衛宿舎の方が守りやすいからね。迎賓館は好きに使うと良い。来客用に、部屋は幾つか空けておいて欲しいけど。」
「はい、無論です。クレリア様はじめ必要な人員のみと致します。しかしアラン様は、迎賓館に滞在されても問題ないかと。いや、ご成婚まではやはり別の建物の方が。」
ロベルトはモゴモゴと何やら語尾を飲み込んでいる。まぁ、パーティメンバーとはいえ、リアやエルナとずっと近くで生活する訳にもいかないだろう。お互い緊張もする。都市に生活するのは生活空間を見直す良い機会だろう。
「さて、ロベルト。この後は食料製造について相談をしようか。」
予定した2週間を消化する頃には、アレスでの生活は無事に軌道に乗っていた。都市で生活をする分には堀の中で生活をすれば良い。近場の耕作予定地や薪を調達する雑木林は水路で囲い込んである。残留していた魔物はセリーナやシャロンが引き連れた兵で狩り尽くしたので、堀内は耕作地や雑木林を含めて民が安心して暮らせる場になっていた。
「ここにいると樹海にいることを忘れるわ。」
そう言ったのはリアである。もう、皆がすっかりアレスでの生活に馴染んでいた。
今日は朝から議事堂で各部署の責任者の報告を受けている。今は薪しか燃料が無く良質な鉄鉱石も乏しい。この為、製鉄所の溶鉱炉は稼働していないが、銅の精錬は進めていて金属の加工は水道管の製作に注力して進んでいる。水源から道管を繋いで建物に給水が開始されているので、民の生活は便利になったと報告を受けていた。
しかし今日の本題は水の問題だけではない。
「それでは国取りに必要な条件を整理致しましょう」
「ライスター卿、頼む」
声をかけたクレリアに向けてライスター卿がうなずく。
「ベルタ王国が宰相の一派に押さえられているのは皆様ご承知かと思います。」
「私はアマド国王陛下の事は存じ上げないが、21歳であれば立派に王として務めをはたせるのではないか?」
クレリアがライスター卿に疑問を投げかける。
「アマド陛下は傀儡に過ぎません。3年前、私が現宰相のバールケの罠に嵌ってからずっとそうなのです。」
「王たるものが臣下の言いなりとは!俄かには信じがたい」
ダルシムの発言に、ライスター卿はかぶりを振る。
「アマド陛下は若くして王位を継がれたのです。10代の初めに。先王が病死された後の事で、王族はあの方しか残っておりません」
「それは奇妙な。血筋を残すこと王族の責務であるのに。」
クレリアの話では、王族は側室を迎えてでも子孫を残す。側室は国中の貴族が競ってでも差し出す。後継候補が1人というのは実に奇妙な状況という事らしい。
「主だった王族は、皆バールケに殺されたのです、痕跡の残らぬ毒によって。当時の私はよく事情を把握できていませんでした、多少不審な点があっても『そんな事はない』と目を瞑っておりました」
「しかし王と宰相たるライスター卿が結束すれば、バールケ侯爵などどうとでもできたのでは。」
ダルシムが口を挟む。他国とはいえ、近衛の出身者として王権を蔑ろにする存在は許せないのだろう。
「あの男は本心を隠すのが実に巧みなのです。貴族社会では私の派閥と見做されておりました。恥ずかしながら私には忠実なる同盟者に見えておりました。普段は温和な顔をするのですよ。ヤツはそこを利用し、我らを罠にかけたのです。奴がすんなり宰相の地位についたのも、私の派閥を引き継いだからに他なりません。」
「なんとも狡猾な」
ロベルトの反応に、ライスター卿も同意する。
「はい、まさにそうなのです。当時、宰相としての私の働きは主に2つの事に注力しておりました。その為、国内の事は護国卿を務めるバールケに任せておりました。1つはアマド陛下に相応しい姫君を隣国からお迎えする事です。」
そう言ってライスター卿は、リアを見つめる。
「まさか、クレリア様がベルタ王国に嫁がれる可能性があったのですか?」
エルナの言葉にスターヴェーク出身の人間がどよめく。
「クレリア様とアマド陛下は、はとこにあたられます。縁戚でありますが近すぎません。年齢の釣り合いもよく、有力な候補として、密かに私よりスターヴェークの国王陛下に打診をしておりました。」
「なんと。わざわざ隣国の宰相殿から茶器を贈られたのは、それでか。」
リアも初耳だったのだろう。とても驚いている。
「はい。ベルタ王国に少しでも親しみを抱いていただきたく、お贈り致しました。実はクレリア様が成人したら、と内諾も頂いておりました。」
「父上からそのような話は一度も聞いたことがないが、確かに私の嫁ぎ先については悩む素振りを見せた事はなかったな。」
リアの反応に近衛の一同も考え込む。リアの婚姻候補については、彼らにも何か感じる物があったのだろう。確かに隣国の王との結婚であれば特に障害はなく、祝福される婚姻になった筈だ。
「スターヴァインとベルティー、両王家の紐帯が婚姻で深まる事は両国民にとって大変喜ばしい事でございました。といいますのも両国それぞれに事情があり、強力な同盟者を必要としていたのです。」
「スターヴェークにとって、アロイス王国の問題はその頃から存在していたのですか。」
うめくようなロベルトの声に、ライスター卿が言葉を重ねる。
「いえ、アロイス王国が成立した事はバールケの配下より聞き及んでおりますが、当時の私も把握してはおりませんでした。問題であったのはセシリオ王国の件となります。私は王家の婚姻と共に、セシリオ王国への対応に注力をしておりました。」
「セシリオ王国のルージ王子が軍国主義を掲げており、即位した暁にはベルタ王国に攻め寄せてくると公言していたとか」
俺はそこでエルヴィンから聞いた話を披露する。これには婚姻の話ででクレリアを驚愕させたライスター卿が動揺していた。
「ど、どこでその話を聞かれたのですか」
「ライスター卿、エルヴィンという名に心当たりは?」
「・・・ベルタ王国宰相府の諜報組織の長の名前かと。」
「エルヴィンの一族はバールケ侯爵から離反し、現在は俺の配下になりました。」
でも厳密にはギニー・アルケミンを入手し、禊を済ませないと正式な採用ではないな。
「と言っても現在はまだ仮の採用で、ある物を確保したら、一族全員を領地に迎え入れる約束にしている。」
「アラン、そんな話は初めて聞いたわ」
「なんと、あのような忠誠心篤き者をまとめて引き抜くとは。それは一体どのようにして。」
「ベルタ王国の諜報組織をまとめて引き抜かれるとは、アラン様一体どのように。。」
皆口々に喋り出す。ありゃ、話し出すタイミングを失敗しただろうか。
「今まで話せなかったのは済まない。しかし、ライスター卿と話して彼らの身分を確認し、了解を取っておくまでは正式に配下とする訳にはいかなかったんだ。ライスター卿とエルヴィンの話が一致したので、これでこの話は確実になったな、うん」
そういう事じゃない、という一同の鼻白んだ空気を感じる。
「王都で囲まれ、おっと、誘き出したんだ。ダルシム副官の警護を断って、セリーナ、シャロンと3人で食事に出た時があっただろう。あの時の事さ。」
「おお、暴れ馬の時ですな。」
「あの時に路地に誘いこま、誘い込んだんだ。彼らは誘き出された事に気がついていなかったけどね。こちらが3人という事ですっかり囲まれてしまったんだが、それはこちらの計算だったんだよ。」
「アラン、どうしてそんな危ない真似を!?」
「リア、王都で誰かの視線を感じる事はなかったかい?僕らはずっと監視されていたんだ。」
「それは、全く気が付かなかったわ」
「バールケ宰相はドラゴンの一件以来、我々のことを危険視して監視していたらしい。諜報機関の長は国王とよく似たリアの顔立ちから、スターヴェークとの関連に気がついていた。こちらもリアの正体を報告されるとマズイと思ったんだ。それで早々に片をつけたかったんだ」
「・・・アラン、私の為にそんな危険を。」
「グローリアの時にも言ったろ、大丈夫だって。今回はセリーナとシャロンも居てくれたからね。全く危ない事はなかったよ。彼ら全員を殺す寸前だったけど、命の償いをする申し出たのでそれを受けたんだ。」
セリーナとシャロンがうんうんと頷いている。
「結果として彼らはイリリカ製の剣と短剣を送ってくれた」
「おお、アレが命の贖罪でしたか。アレほどの逸品であれば確かに。しかしアラン様が命を賭けて獲得された物だったとは。。。」
「ダルシム副官、剣はもう入手したも同然だったんだ。なので命の贖罪は別の物にしたんだよ。」
「なんと。あれより高価な贖罪なのですか。」
「彼らの技能は特別だからね。証明してもらう為にも国宝級の物を盗んでもらう事にしたんだ。彼らにはギニーアルケミンを命の代価として支払って貰う。」
「まさか、それでギニーアルケミンの話をしていたの?」
「なんとギニーアルケミンとは。確かにあれを手中は収めれば、建国も夢ではありませんな。」
ライスター卿も驚いている。
「バールケ宰相との対決は避けられない。つまり内戦になる。そして内戦は悪い事ばかりじゃない。向こうが攻めてきても相手を返り討ちにするだけの実力があるなら、下剋上の機会到来と言っていい。ただ、独立の大義名分としては少し弱いかもしれないな。この辺りは、どうです?、ライスター卿」
「コリント卿は王国男爵です。クレリア様を大義名分としてもベルタ王国内では賛同を得にくいかと思います。しかし仮にですが、アマド陛下が亡くなられていれば、王家と縁戚関係のあるクレリア様に従う貴族は増えましょう。竜を退ける英雄が背後についていれば尚更です。」
「アマド国王については、できれば殺害せずに味方に取り込みたいと思う。」
「アランそんなことは可能なの?国取りの障害になるんじゃないかしら。」
「それなんだけどね、アマド国王の顔はリアにそっくりなんだ。」
「なんと」
「確かに私がクレリア王女殿下に気付けたのも、予めお姿を承知していたからですが、それもクレリア王女殿下がアマド陛下のお姿によく似たお顔立ちをされていた為です。」
ライスター卿が言い添える。
「流石にリアとよく似た顔立ちの人物を酷い目に合わせたくない。実際、リアと血が繋がっている。国王に忠誠を誓う人々の感情を逆撫でするのもベルタ王国を平らげる上で得策ではないだろう。」
「確かにクレリア様とも繋がりのある王族の血を無駄に流すことはないでしょうな。」
良かったな、スターヴェイク出身者はリアとの血のつながりから、アマド国王には一定の配慮を示してくれそうだ。
「俺たちの敵はバールケ侯爵だ。ヤツとその仲間の生存は許す訳には行かない。しかし、アマド国王は降伏してくれるなら、リアの親族として遇する形でどうだろうか。」
「リア様とアラン様さえ宜しければ、我らに異存はございません。」
ダルシムの声に被せる形で、皆が口々に賛同する。
「ライスター卿には、今後、ベルタ王国内で味方につく貴族の取りまとめをお願いすることになると思う。リアの存在については当面秘密にしてもらう必要があるが、アマド国王についてはこちらが好意的と伝えて貰う形でどうだろう。国王の地位は退いてもらうにしても、公爵として地位を保証するのはどうだろうか。」
「意義なし」
「コリント卿、アマド陛下に捨てられた立場でありますが、先王より託された身としては、そのようにして頂けると助かります。」
「さて、アマド国王の話でライスター卿の話を遮ってしまったな。良かったら続きを聞かせてもらえないだろうか。」
「はい。大義名分についてはご説明した通りですが、懸念材料があります。一般的に男爵の領地は狭く、経済性に難があります。貴族への報酬は出世払いは当然としても、軍を維持する経費はある程度負担する必要があります。大軍を養う為の兵糧の確保です。開拓に成功し、ギニーアルケミンを入手した事が伝われば、経済性においてもこちらが有利となるでしょう。ただ、当面は経済力を養う事が必須となります。」
「つまり大義名分も経済的な実力もまだまだ、という事になるな。」
「アマド国王は領地開拓の暁には辺境伯に任ずると約束したそうです。大勢の貴族がそれを聞いています。辺境伯になれば、バールケ侯爵と対抗できるのではないでしょうか。」
セリーナがライスター卿に質問をする。その点は確かに気になっていた。辺境伯になれるのなら、その方が侯爵の勢力近づけるのではないか。
「それはどうでしょうか。」
ライスター卿はこの点には懐疑的だった。
「王都は宰相としてバールケの支配する領域です。コリント卿が辺境伯になる条件を満たす事は可能でしょうが、内戦になるのであれば再び王都へ出向き、叙任される手続きを円滑に進められるかどうか、私には思いが及びません」
「内戦をしたのに、陞爵のため王都に移動する時間も惜しいな」
「ではこのような流れは可能でしょうか?」
今まで小声でセリーナと打ち合わせをしていたシャロンが意見を述べた。
「バールケ侯爵に私兵で攻めてもらってこれを撃退する。完膚なきまでに叩きのめして、私兵を壊滅させ、指揮官を捕らえて証人を確保する。バールケ侯爵が言い逃れできないようにして、証人を速やかに王に届ける。内戦の結果が王都に伝わるより早く、アランが王に面会し、併せて領地の発展を伝えれば辺境伯への陞爵も可能じゃないかしら」
「バールケの私兵を破るのが可能として、敗戦の報告よりも早く王都にコリント卿が移動可能とする方法などあるのでしょうか?」
「グローリアがいるわ」
今度はセリーナが口を挟む。
「王都を騒がせたドラゴンのグローリアは、背中に人を乗せて空を飛ぶことができます。椅子は6席あります。アランと従者2名を乗せても、3名の証人を運んでいけるはずだわ。空を飛んでいけば、王都までは恐らく1日もかからない。情報が伝わるより早い筈だわ。」
「片方は宰相の私兵を叩きのめす軍事力があり、ドラゴンを従え、辺境伯になる男。そしてギミー・アルケミンすら手中に収めている。対立するのは謀殺に長けて王を傀儡に私腹を肥やす宰相。これなら事情に疎い貴族でも、アランに与する方が得策だと伝わるのではないかしら」
「ふむ」
ライスター卿が考え込む。
「樹海でバールケの軍を破り、敵の敗軍より先に王都に入る事が可能なら面白いことになります。辺境伯就任は不可能ではありません。ただ、国取りを行うに当たっての大義名分が難しくなります。」
「ここは時間をかけるのが良いのではないですかな」
そうロベルトが言った。
「領地の開拓が済んだと言っても、まだまだ領民が移動してまいります。経済的な力を蓄え、それを貴族たちに知らしめるのにもまだ時間が掛かるでしょう。」
「そうね。領地の開拓もまだまだだし、軍を編成したとしても今は数百人くらいじゃないかしら」
「決まりだな。バールケの私兵を破る事は造作もない。敵の指揮官と領地の開拓成功を証言する人間を連れてグローリアで王都に行く。証言が認められれば辺境伯として力を蓄える。それが難しい場合、クレリアを担いでそのまますぐに旗揚げしよう。」
「樹海に手持ちの兵を送り出したあとであれば、バールケの手勢は少ないはず。敗戦したとなれば、コリント卿の辺境伯陞爵を拒めないでしょう。要求を飲んで辺境伯にして、宰相の権威を盾に王国中の軍勢を駆り集めて討伐軍を催すでしょうな。『成り上がりの辺境伯は権威も輿望もない』あやつならそう考えるでしょうな。」
「その時こそ、クレリア様を押し立ててる時ですな。飛ぶ鳥落とす勢いのコリント辺境伯が、スターヴェイク王国の王女を旗頭にベルタ王国を平らげ、アロイス王国に攻め込もうというのです。既得権益にすがる老害に味方しておこぼれをもらって我慢するのと、どちらが貴族の血が騒ぐか、という事ですよ。」
「では今後の方針の大枠が決まった所で、もう一つ重要な内容があるんだ。ロベルト、頼めるかな?」
「はい、アラン様」
議事堂の中央に進み出たロベルトが朗々と声を張り上げた。今は会議の参加者は20名ほどだが、この声なら会議場全体に響き渡るだろう。アレス全体の監督をするロベルトはすっかり張り切っていた。
「クレリア様とアラン様から、私は主にアレス領内の内政を任されております。そして現在懸念されるのが食糧問題です。」
食料については皆懸念しているのだろう。やや会議の参列者の表情が暗い。樹海では釣った魚や魔物の肉以外は現地調達出来ない。秋の取り入れが済むまでは常に緊迫感を孕んでいた。
「大樹海は魔物の肉こそ豊富ですが、軍の進軍にあたって重要なのは保存の効く穀物です。穀物に関しては当然ながら全て輸入に頼っております。この点は当方の弱点として敵方に認識されていると思われます。」
「なるほど。先程のライスター卿の言われた経済性とは兵糧の事だったのですな。」
軍事の担当として、ダルシム副官が関心を示す。
「どれだけ金貨を持っていても市場に出回らない穀物を買うことはできません。領地を持つ貴族は独自に兵糧を備蓄していますが、地方貴族は大体売ってしまうので小さい領地を襲ってもそうそう充分な兵糧は獲得できません。」
「兵糧を確保するためには都市を落とす必要があるし、都市を落とすには兵糧が必要となると」
辺境伯家では前線指揮官の1人だったヴァルターも兵糧問題には関心が深いようだった。
「仮にバールケに敵対する貴族を取り込めた所で、彼らに供給できる食料がなければ立ち行きません」
「要は保存が効く食料さえあればいいんだ。そこを解決したい。逆に言えば食料問題を解決しさえすれば、来るべき内戦で食うにも困る貧乏貴族はこちらにつくと思う。」
ロベルトの話ぶりに誘われて、俺もつい口を出してしまう。
「しかしアラン様、魔法を使っても食糧問題は解決しません。それこそ為政者の永遠の悩みではないでしょうか。」
ダルシムの疑問ももっともだな。
「ロベルト、ここは一つみんなにも食べてもらおうじゃないか。」
「はい、アラン様。」
ロベルトが懐から金属缶を取り出す。
「ロベルトの配下に試作して貰ったんだ。これはハムを封缶したものだけど、スターヴェイクは元々、肉をハムやベーコンに保存して食べる習慣があるだろう?」
「はい、しかしベーコンを食べるのは国内でも一部です。保存食として軍に採用されておりますが馴染みのない者も多いですね。しかも保存もそこまで長い訳ではありません。」
「ドラゴンを解体した時に、ドラゴンの血を瓶詰めにしただろう?あれを肉に応用したんだ。」
「不思議だったのですが、瓶に詰めるとどうして長持ちするのですか?」
エルナの疑問は尤もだった。
「重要なのは瓶を密閉する事と、煮沸すること。蓋と瓶の隙間をスライムなどで埋めると密閉できる。魔法がかかったドラゴンの血から作った薬はそのままでも魔力の効果でちょつき保存できたけれど、食品を作るときは容器を何回か熱湯にくぐらせて食品内に発生するカビの元を退治するんだ。そうしておけば常温でも半年から一年は持つ。まあ、品質にばらつきが出るかもしれないので、食べる時にカビや変色がないか確認はする必要があるけれど。」
俺はロベルトから金属缶を受け取ると、ナイフを取り出して開封した。皆が興味深そうに俺の手元を眺めている。
「実はこれは試作品でね。ガラス瓶もスライムも材料としては高すぎるので使うのを断念した。ガラス瓶は落とせば割れてしまうしね。代わりにこちらの金属缶を使う。1回開ければ食べるだけなので、蓋はないんだ。逆につまみ食いされないからその方がいいだろう?ナイフで周囲の薄い金属を破って中身を取り出す方式だ。これ位のナイフの扱いは兵士なら問題ないだろ?」
リア付きの侍従に缶詰の中身を取り分けてもらう。この為に、予め食器も用意するよう伝えてあった。
「「美味しい」」
セリーナとシャロンが感嘆の声を上げる。今日の缶詰はハムだから食べやすいな。
「これは軍事活動の革新になりますな。」
ダルシムも味わって気に入ったようだ。
「魔物の肉を部位毎に加工するつもりだ。今回はハムだけれど、半端な肉はシチューにする方が良いからね。まずはハムやシチューを製造するように頼んでいる。いずれは肉以外のパンや米や魚の缶詰も作りたいんだ。料理の種類も増やしたいね。」
軍隊は常に食料を持参出来る訳ではない。保存の効く食品を大量に集めるのが困難だし、持ち運ぶにも限界がある。穀類など大抵の食料は加熱を前提とする。飲み水や薪、炊事道具や調理する人材を考えると更に負担は広がる。補給部隊も狙われて襲撃される。多数の人が動く以上、食と軍事活動は切っても切れない関係にある。
が、大量の食料を備蓄でき、開封してすぐ食べれるとなるとそんな事情が一気に変わる。
「食料を運ぶ点には物流の改革が必要だが、当面は馬車でもなんとかなる。それより樹海で有り余る魔物の肉を、缶詰なら腐らせずに備蓄食料に変えられる。このメリットは計り知れない。」
供出という名目で敵地だけでなく味方の都市で食料を徴発するのはそう珍しい話ではない。が、占領地での供出なして軍事作戦を展開可能なら、政治的なリスクは最小限にできるだろう。新たな占領地でも支配層の交代への抵抗はかなり低くなると目論んでいた。
「この缶詰というのはどれくらいの期間保存可能なのですか?」
エルナから質問を受ける。
「空気を抜いて加熱調理してあるからね、味が変わらないのは2年から3年だ。」
「そんなに保つんですか!」
缶詰を眺めるエルナの目つきが変わった。
「アレスで製造した缶詰を前線に送っても、輸送中に期限を迎えては意味がない。これだけ保存期間があれば、現地で最低1年は余裕があるようにできると考えている。食料は現地で買う事も可能だろうし、先々はこうした工場を食料の豊かな土地に建てる事もできるだろうね。」
「それは、途方もない話ですな。」
目標は大陸の統一である。リア達の元気な内に、アロイス王国の打倒までは成し遂げたい。やはり民を養う上でも兵を集める上でも食料問題は最優先で解決する必要があった。
「見事だアラン。ロベルトも良くやってくれた。アレスという立派な都市を元に、兵を養い食料を集めれば、我らの悲願が成就する日も近いな。」
王女らしくリアが会議を統括する。
「ここにアレスという都市はある。開拓民の生活も軌道に乗りつつある。最初の収穫を得たら、王都に使者を遣わせて開拓の成功を報告しようと思うんだが、それで構わないだろうか。」
「「意義なし!」」
皆が開拓の成功を確信して、その日の会議は終了した。
イーリス・コンラート中佐の次席戦隊指揮官の名前ですが、下記のどちらに統一するのがふさわしいでしょうか?
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