【二次小説】航宙軍士官、星を統べる (原作:航宙軍士官、冒険者になる)   作:高坂 源五郎

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Ⅰ ベルタ王国統一記 10話 【ガンツ迎撃編】祝勝会

ベルタ王国統一記 10 祝勝会

 

リアとエルナを拾ってアレスを発ってから、ガンツに到着するまでは体感では一瞬だった。

 

「アラン、飛行中は気持ち良さそうに寝ていましたよ」

 

隣に座っていたシャロンに指摘される。俺は慌てて口の周りを拭って取り繕った。

 

「そ、そうか」

 

ガンツ伯を討ち果たして以降、アマド国王への誓願を頂点として折衝や打ち合わせ続きだった。脳を酷使しすぎたのかもしれないな。

 

今は大目に見てもらっているようだが、指揮官が移動中に寝こけていては部下に示しがつかない。襟を正さなければ。

 

「グローリアで移動するのって、凄く早いのね」

 

隣ではリアとエルナがグローリアでの飛行体験に盛り上がっている。遊覧飛行は元いた場所に帰る飛行だった。こんな風に空を移動するとなると感覚の違いに驚くようだった。

 

馬で優に2日間はかかる距離が、飛行だと1時間弱なのだ。空を飛ぶ概念自体が新鮮なリアやエルナにとっては常識を打ち砕かれる体験なのだろう。

 

シャロンと2人かかりでグローリアの鞍を取り外す。

 

「グローリア、今日はありがとう」

 

「グローリア、おやすみなさい」

 

グローリアにお別れを言って一人帰宅してもらう。

 

(寂しいです、また呼んでくださいね)

 

(ああ、明日の午後にはカリファ伯が来るから昼頃から近くで待機して欲しい)

 

(やったー)

 

グローリアは素直に敵の存在を喜びながら帰って行く。種族が違うし、敵という認識だとそんなものなのかもしれない。

 

バグスもこのように、人類とは物事の根本的な部分の理解が異なる異質な存在なのだろう。グローリアと交流する事で、いつかバグスに対する理解も深まる気がした。あまりにも異質すぎて親しみを感じることはなさそうだが、敵を理解する事は勝利に繋がる道のはずだった。

 

シャロンが到着の少し前にセリーナに連絡して出迎えを呼んでくれていた。グローリアの鞍は馬車でないと運べない。迎えを待ちながら考える。

 

そういえばイーリスは飛行部隊創設に前向きだった。ワイバーンを飼い慣らす事が出来れば、小部隊の移動も楽になるだろう。それこそ、サテライトが全体ワイバーンで移動可能になれば戦局を大きく変える力になるかもしれない。

 

(イーリスが提言したワイバーンによる飛行部隊計画も現実味が出て来たな。)

 

「艦長、ワイバーンの生息域調査の為にドローンを一定数調査に充てたいのですが。」

 

(分かった、カリファ伯の軍を退けたら検討しよう)

 

(ありがとうございます)

 

油断は禁物だが、カリファ伯さえ大人しく退いてくれればドローンの調査をワイバーンの生息地捜索にも割けるだろう。

 

グローリアと別れてガンツの城門に向かう。ギード隊長に挨拶し、問題なく入門する事が出来た。

 

「捕虜でガンツを出たものはいるのかな?」

 

「我々が確認した限りではおりません」

 

これはいい兆候だった。少なくとも捕虜の不満は耐え難いほどではないのだろうし、俺たちの募兵に応募する人数も期待できるかもしれない。敵味方ではあったので、敵に降る事を良しとするかは計りかねたが、積極的に虐殺して回った訳ではない以上、どこかで折り合いをつけてくれる事を期待するしかない。いずれにせよ世界の全てを敵に回して戦うわけにはいかない。意識して味方を常に増やしていかないと保たないだろう。

 

拠点に戻ると大勢に出迎えられた。サテライトの全員がこちらにいるので、彼らの主君であるリアが110人に一斉に歓迎されるようなものだった。

 

「皆の者、よくやった!」

 

姫様モード全開のリアがサテライトのメンバーを労う。

 

「今夜は飲み明かすぞ!」

 

更に大きな歓声が上がる。イーリスの観測によるとカリファ伯のガンツ到着予定は明日の午後だった。緊張し続けても無理が出るだろうし、祝杯を上げるとしたら今夜しかないな。

 

(イーリス、ガンツに接近する軍勢の監視を頼む。カリファ伯も宰相の軍もだ。異常や注意すべき動きがあれば教えてくれ。)

 

「了解です、艦長。」

 

セリーナに班長を集めて貰い、簡単に結果報告を目的とした会議を開いた。シャイニングスターとサテライトの班長にライスター卿といった顔ぶれだ。

 

「国王への請願は全て通った。ガンツの3年間の支配、募兵の許可、今回ガンツ伯に従った近隣貴族への命令権。証人として連れて行った捕虜はそのままアマド国王に引き渡した。辺境伯への陞爵も確定事項だ。」

 

国王の署名入りの書類を回覧する。

 

「三月後に国王の使者がガンツを訪れるのでアレスに案内する。その時引き渡す資材の目録も預かっている。アレスの建設確認と資材引き渡しの完了で正式に辺境伯となる。」

 

「流石は、アラン様」

 

「2つの都市を治める辺境伯ともなれば」

 

「俺としては今回は樹海内で敵の不意をついて勝ったと考えている。諸君は精鋭揃いだが、戦争するとなると兵の数がもっと必要だ。ガンツ伯に代わり辺境の防衛を担う名目で私兵を増やせる。この機会に兵を増やす。国内で大々的に募兵の依頼をかけるが、まずは捕虜を口説きたい。俺からはそんな所だな。」

 

エルナからの物といたげな視線に気がついた。小さく手を上げているのでうなずいて見せる。

 

「エルナからも報告があるようだ、エルナ頼めるかな。」

 

「はい」

 

エルナがすっと立ち上がった。

 

「アマド国王との請願の場に私も同席しました。本来なら付き添いは引き離されますが、今回はドラゴンのグローリアに乗って乗り込んでいたのであちらも慌てていました。

 

私は護国卿の紋章盾を持っていたのでそのまま通されました。流石に王都防衛軍を預かるバール士爵にアランは剣を渡していました。私はご覧の通り付き添いの格好で剣を佩いておらず問題視されなかったようです。」

 

「ノリアン卿、要点を言ってくれないか」

 

焦れた様子のハインツ班長が声をかける。

 

「すみません。私が報告したいのは2点です。アマド国王はアランから聞いていた以上にリア様にそっくりの顔立ちをされています。私もとても驚きました。」

 

「アラン様から聞いてはいたが、やはりそうなのか。」

 

「アルフ王子が生き残っておられた訳ではないのだな?」

 

俺の知らない名が出る。恐らくクレリアの兄の名なのだろう。

 

「アルフ王子のお顔とは全く異なります。アマド国王はクレリア様のはとこにあたられますが、双子のように似た顔をされていました。」

 

「それでもう一つの報告事項とは?」

 

「アマド国王が、私に、その戯れに言い寄られたのですが•••」

 

男性陣の反応を見て、横から俺が口を出す。エルナがアマド国王の側室にでもなるかのような目で見ているからだ。

 

「アマド国王がドラゴンを見る際の事だが、それは宰相の監視の目を憚ったアマド国王の策略で、本心は俺たちにメッセージを伝える事にあった。それでいいな、エルナ?」

 

「はい、そうです。」

 

「して、メッセージの内容とは?」

 

「『無体してすまぬ、余はクレリア王女の事を承知している。宰相の監視があり表立って動けぬが、出来る限りの支援はするとコリント卿に伝えてくれ』との事でした。」

 

「なんと•••」

 

「内容からして、宰相はリアの存在を把握していないが、アマド国王は知っているようだ。俺が思うにバール士爵から報告が入ったのではないか。」

 

「バール士爵とは、王都防衛軍の指揮官ですな」

 

「そうだ。エルナが一目見て気がつく程リアとアマド国王が似ている。ならアマド国王の側近のバール士爵もリアに気がつくだろう。バール士爵とは盗賊壊滅作戦で行動を共にした、その時に自国の王と似た顔立ちのリアに注目してもおかしくないはずだ。」

 

「確かにそうですな。」

 

「アマド国王は王族最後の生き残りと聞く。リアは隣国の王女だが、血縁の生き残りで似た年代でリアに絞り込んだのではないかな。」

 

「宰相と国王は一枚岩ではないのですな」

 

「ライスター卿、そのあたりはいかがですか?」

 

「私は宰相のバールケ奴に陥れられました。私を失脚させたバールケの手腕を見て、アマド陛下もバールケを恐れ、バールケの言いなりになっている可能性はあると存じます。特に毒殺を恐れているのではありますまいか。本来アマド陛下は聡明な方です。バールケの言いなりになっている現状は生き残りの為、内心バールケを疎まれていてもおかしくはないでしょう。」

 

「アマド国王はこちらに好意的だったし、今回の対応にそれが表れていると俺は思う。アマド国王には以前会議で話し合った通りなるべく生き残ってもらう形で考えたい。それで問題ないかな、リア。」

 

「そうしてもらえると私も嬉しいわ、アラン。でもベルタ王国を乗っ取るこちらの立場だと、はとこ殿とは敵として対峙する事になるでしょうし、なかなか難しそうに思えるのだけれど。」

 

「その点はリアの親戚ということで身内として扱う他ないな。俺も皆もリアにそっくりの顔が首を刎ねられる所など見たくはないだろう。」

 

ここにはリアの忠臣か仲間しかいない。リアに向けられる配慮の半分でもアマド国王に向けられれば、アマド国王が味方の手で命を落とすことはない筈だ。

 

「この中の誰かが、アマド国王の進退を決める立場につくかもしれない。戦場で兵を率いていれば、誰にその機会が来てもおかしくない。その時はリアの身内という事でアマド国王には皆も一定の配慮を忘れないようにして欲しい。」

 

「クレリア様の血縁にあたられる方なら、我ら一同異存はございません。」

 

「国王のやり取りは、明日、俺が各ギルドを回って説明してこようと思っている」

 

「その事ですが、コリント卿。王命を受けて正式にガンツを預かる立場となられたのです。辺境伯にも襲爵予定でおられる、気軽に出向かれるのではなく、今後はあちらを呼びつけましょう。」

 

ライスター卿の発言に先日同行していたハインツ班長も頷いている。

 

「ありがとう、ライスター卿。では明日の午前中には、ガンツの首脳陣と結果報告を開きたい。誰か手配を頼めるかな?」

 

「私の班の者に行かせましょう、先日同行しておりますので」

 

「ではよろしく頼む、ハインツ班長。9時を目安にこちらの拠点に来てもらおう」

 

ハインツ班長が頷く。

 

「さて続けてだが、俺とシャロンはアレスに戻った際にケール男爵と話をしている。こちらの報告を頼めるかな、シャロン。」

 

「はい。ガンツ伯軍から離反したケール男爵の部隊は無事ガンツに到着し、城外の開拓民用の野営地にいました。アレスより食料の提供を受けています。この野営地は簡易的ですが堀と壁を備えた城外の退避施設です。アランはケール男爵に王命を伝え、捕虜のガンツ移送を依頼しました。ケール男爵は了解し、アレス残留を希望しない捕虜はガンツに運ばれ、こちらで解放予定です。明朝出発予定ですので、六日後に到着の見込みです。」

 

「ありがとう、シャロン。以上が結果報告だ。今後については近日中にまた会議を開く。それまでに各自情報を整理しておいてくれ。アマド国王のメッセージについては当面、この場にいないも者には伏せておいて欲しい。エルナがアマド国王に言い寄られたという線でいこう。この点は苦労をかけるが表向きそうする方が良いので承知して欲しい。構わないかな、エルナ?」

 

「王都でも噂になったでしょうし、私はそれで大丈夫です、アラン。」

 

「リア、最後に何かあるかな?」

 

「皆、今回はよく働いてくれた。正直、ガンツを開城させるとは思わなかった。アランの手腕も見事だがこれほどの偉業は1人では成し得ない。皆の献身があってこそだ。今日は心ゆくまで祝杯を上げようではないか!」

 

 

宴席はリアの音頭で開始された。会議の締めくくりと宴席の開始はほぼ同じ内容の文句が繰り返されたのが、会議にいないメンバーが大半なのでリアの演説は強烈に印象に残ったようだ。士気の高まりを感じる。

 

今はエルナがアマド国王がドラゴンを目にした場面を説明している。シャロンはエルナの話に合わせて『アマド国王の前でドラゴンの鼻先に立ってバランスを取りながら頭を下げたシーン』を再現し、喝采を浴びていた。

 

「そうだセリーナ、女性捕虜の監視ってどうなってる?」

 

俺は傍らのセリーナに尋ねた。通信を使わないのは意図して聞かせるためというか、秘密にする内容でもないからだ。

 

「彼女達と話し合って木刀を渡す事にしました。ある程度は腕が立つようですし、自衛してもらいます。衛兵が使うような呼び笛も渡してあるので、そうそうおかしな事にならないはずです。」

 

木刀なら問題ないだろう。サテライトのメンバーは木刀を使った稽古に慣れているし、鍛錬を積んだ今となっては剣で遅れをとるとも思えない。

 

丸腰の男性捕虜相手には木刀も威力がある。女性捕虜は大勢いるのだから、まず問題ないだろう。ケール男爵の連れてくる捕虜にも女性がいれば更に増えるだろうな。

 

「ありがとう、うまく解決してくれたね。」

 

「木刀を渡すと彼女達も安心していました。それに募兵の話、シャロンから聞いていますから。」

 

そうか、女性捕虜達に自衛させるのは効率化もあるし、信頼を示して様子を見るためか。セリーナも指揮官としてよく考えているな。俺も見習うべきだろう。

 

「セリーナがいるから安心して留守を任せていられる、ありがとう。」

 

「その件なんですが、アラン。」

 

褒めたつもりだったが、セリーナに軽く睨まれた。

 

「シャロンと私で積む経験に偏りが出ていませんか?」

 

王都に連れていかなかった事を恨まれているようだ。皆の前で披露する土産話もないのを気にしているのかもしれない。

 

確かに今回はシャロンだけを連れ歩いたようになってしまったが、セリーナを次席指揮官と見込んだからこその判断のつもりでいた。シャロンも王宮ではグローリアの所にいたし、それほど経験に差がついた意識はななったのだが。

 

せめて今の捕虜の話を会議の場でセリーナに振っていれば会議で発言できたという事だったのか。おそらくその両方なのだろう。

 

「すまない、そういうつもりはなかったんだが。」

 

「次回、偏りそうな時は指摘させてくださいね。その時はシャロンと役割交換しますから。」

 

「了解した。次回はそうしよう」

 

俺が了解するとセリーナもようやく笑顔となった。良かった。部下の進言には率直に耳を傾けるべきだろう。セリーナとシャロンは次席指揮官としてどちらも同等の経験を積んでほしい。ある程度は対話する事で共有可能なはずだが、折衝の場面などシャロンに偏ってしまっていたのなら改めるべきだろう。

 

今はセリーナが俺が不在時のリーダーとして確立しているが、シャロンが指示役になる事にも慣れてもらう必要があるだろう。ただ王都に行って国王に請願する機会など、もうないかもしれないが。

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