【二次小説】航宙軍士官、星を統べる (原作:航宙軍士官、冒険者になる)   作:高坂 源五郎

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Ⅳ 対バクス戦争の終結 112話 【帝国継承戦争篇①】 開戦

Ⅳ 対バクス戦争の終結 112話 【帝国継承戦争篇①】 開戦

 

▫️アサポート星系 惑星アデル マクミラン神殿▫️

 

「案外と、馴染むものだな。」

 

モスマン師の手を借りて立ち上がったその人物は、アランと同じ身体で同じ顔をしている。しかし明らかにアランではなかった。そうであると承知していた事ながら、改めて彼の様子を眺めていたルミナスは怖気を振るった。

 

「貴方、アランではないのね。」

 

人類銀河帝国では大量のクローンが航宙軍の軍人として採用された。人々は今では同じ顔をして別の人格のクローンという存在に慣れている。同じ顔をしていても、中の人格が違うという事を人々は受け入れ始めた。人類スターヴェイク帝国に限っても、航宙軍のクローンから新たなクローン姉妹が加入していたりもする。

 

もしも、そうでなかったら?

 

人類世界がクローンを禁止したままであれば、同じ顔というだけで簡単に乗っ取った相手に成りすませていたのかもしれない。なんと言っても生体認証の礎となる肉体情報は全て同一なのだ。指紋も掌紋も瞳孔も静脈も声帯もその何もかもが、記憶や脳波を除いて全て本物なのだから。

 

「俺こそが皇帝アラン・コリントだ。そして人類銀河帝国皇帝でもある。サイヤン帝国を滅ぼし、真に皇帝として即位した者だ。ギャラクシー級戦艦〈イーリス・コンラート〉艦長としての地位も継承した。おっと、今はスターヴェイク級戦艦だったか。」

 

「・・・貴方、アランの記憶を読み解けるのね。」

 

肉体が同一である以上は、憑依者は記憶すら読み解くのだ。脳波に表れる憑依された者特有の兆候。オリジナルの活動と憑依する者の意識。そこを読み解かなければ、真贋の判別は困難だろう。

 

拒否を露わに後ずさりするルミナスを懐柔しようとでも言うのだろうか。アランが笑顔を浮かべる。だがその表情は、同じ顔をしていてもアランのそれとは筋肉の使い方が異なっている。その視線も、女を獲物として物色する者のそれである。ルミナスにはその視線は、酷く汚らわしいものとして感じられた。

 

「ルミナス、俺達は結婚をしているのだろう。つまり二つの帝国が、我々の合一で一つになるのでは無いかな。」

 

そう言って小手を外すとルミナスに手を差し伸べる皇帝は、マシラの体にその手を遮られた。マシラでも即座に手を斬り飛ばす事を躊躇ったのは、流石に配慮したのだ。その身体は本来はルミナスに触れる権利を持つアランのものであるのだから。

 

「私が婚約したのはアランよ。そもそもサイヤン帝国を滅ぼしたと称する者に、この私が靡く筈がないでしょう。」

 

ルミナスに拒絶されたアランがギリっと唇を噛む。押し殺した欲望の捌け口を探して、アランの腕がマシラの身体を弄る。制止され無い事を良い事に、そのままアランの腕が服の上からマシラの胸を揉んだ。即座に斬り飛ばされたアランの左手が宙を舞う。マシラが引き抜いた電磁ブレードナイフで切り裂いたのだ。

 

「君臣の仲にも、礼というものがあります。」

 

ナイフを構えていたマシラは、相手が引き下がったのを見て電磁ブレードナイフを納めた。

 

「貴様、よくも。」

 

そう言って傷口を押さえてマシラを睨む表情は、やはりアランではあり得ない。ルミナスはその奇妙な存在をじっと観察していた。

 

マシラの斬撃は、本来のアランなら回避し得たものだ。いやそもそもアランなら、マシラがアダーの妻であると知っている。

 

だからその身体を辱めるような真似をする筈がない。多数の妻を抱えていても、同意なき行為を憎むのがアランであるはずなのだ。その証拠にルミナスとて、未だにアランに触れられた事はない。

 

「やはり貴方はアランではない。仮にアランだとしても、同意なく相手を辱めようとすれば実力で阻止されても仕方ないわ。」

 

「だが、私こそが皇帝だ。全ての者は、私に跪くべきではないか。」

 

人類銀河帝国の皇帝は、ルミナスの指摘にそう強弁した。ルミナスはその醜さに心底辟易とした。

 

皇帝とは何なのか。皇帝を父に持つルミナスには自分なりの物差しがある。少なくとも父は、周囲に生かされる存在と自覚し感謝できる人物だった。他者に崇められ推戴されない皇帝に、一体全体何の価値があるのか。馬鹿にするのもいい加減にしろと言いたい。

 

「皇帝は義務や責任にがんじがらめにされているものよ。自分が偉いとふんぞりかえるのは、単なる増上慢でしかない。」

 

「だが、この世は力こそが全てではないか。」

 

憤慨するルミナスに対して、皇帝はそう嘯いてみせた。

 

今はモスマン師が拾って捧げ持った左手を受け取り、傷口に押し当てている。アランの身体にはナノムが注入されている。それに電磁ブレードナイフで綺麗に切断された腕だ。

 

マシラが切り飛ばした左手も、すんなり繋がるに違いない。アランの肉体だから修復できて欲しいのだが、事態を打破する為にはダメージを負ったままでいて欲しい。ルミナスとしては悩ましいところである。

 

骨まで綺麗に一刀両断されたのだ。以前と同じ強度に戻るには、まだ数日はかかるだろう。これが一騎打ちで解決する勝負なら、だいぶ有利になった所である。

 

回復魔法(ヒール)を使わないのね。まだ、その存在に気がついていないんだわ。)

 

人類スターヴェイク帝国の人間が、魔法の力を人類銀河帝国の前で公然と使用した事はない。それは主に魔素がこの星にないからだが、魔力を魔石から充填できるアランは効率は悪いながらも魔法を行使できる筈である。

 

人類銀河帝国の皇帝を名乗るこの存在が魔法を行使しないのは、必要な知識を欠いているからだ。あくまでもナノムの推奨する内容を受け入れるだけ。それではアラン本来の戦闘力は失われる。それこそ、そこらの宙兵と変わりないだろう。

 

いや、アランの魔石パワードスーツは健在だ。電磁ブレードナイフが魔石パワードスーツに通用するとはいえ、流石に装甲を一刀両断できるほどではない。アランの左手を骨まで一撃で切断できたのは、マシラの胸の感触を楽しむ為に小手を外していたからだろう。

 

「父は違ったわ。皇帝であっても人々は自分と同じと考えた。ただ役割と責任が異なるのだと。アランも父と同じ。果たすべき使命の為に、皇帝としての地位を選んだ当たり前の男にすぎない。」

 

「それでは非凡な俺に巡り会えて、幸福と思うべきだ。」

 

ルミナスの抗議を、皇帝は柳に風と受け流す。その言葉を耳にしていても、蛮族が高度な概念を理解しないように意に介さないらしい。ルミナスの講義など、単なる女の喚き声としか思わないのだろう。

 

ルミナスは悟った。この存在は、かつてもこうやって敵対する存在を力で排除し滅ぼしたのだろうと。

 

「・・・貴方、本当に会話の内容を理解しているの?」

 

「ちゃんと聞いて理解しているとも、全て吐き出してしまうといい。そうやって気が済んだら、すぐに祝言を挙げよう。人類を統べる者として、俺こそが相応しい人物だとすぐに分かるはずだ。人類世界が俺に膝を屈するのだからな。」

 

ああ、コイツはダメだ。合わない。ルミナスとて男というものが須くダメだと言いたくはないが、女性を尊重できない独りよがりな男は大成するはずがないと考えている。

 

「全ての者を跪かせる。貴方が求めるのは、共に歩む臣下ではなくてただの奴隷じゃない。」

 

ルミナスはそう言い返した。人の尊厳を奪い辱める者は、自分がやり返されても仕方がないというのが人の世の理だ。君臣の仲も、まず相手の尊重から始まる。自分を人扱いしない存在に心を開く者はいないだろう。しかしこの男は、そんな事も分からないのだ。

 

「それの何が悪いのかね。皇帝とは正に至尊なのだから。」

 

胸を逸らすその姿は醜悪だった。やはりこの男は、アランではあり得なかった。皇帝とルミナスは睨み合った。

 

(このまま命のやり取りを始めよう)

 

ルミナスがマシラにそう命じそうになったその時、イーリスが前に進み出た。

 

「閣下、私が傷の具合を確認しましょう。」

 

「陛下と呼べ、イーリスよ。」

 

それでも、皇帝は素直にイーリスに体を預けた。艦載AIが操作する彼女なら自分に危害を加えられないと知っているからなのだろうか。

 

「それは失礼しました、陛下。」

 

そう詫びながら、イーリスの長い指がアランの肉体の損傷を確かめるように表面を這う。それはアランの肉体を取り戻す為、情報を収集する意図もあるのかもしれなかった。

 

「イーリス、生体認証ができるな。我が〈イーリス・コンラート〉の指揮権を明渡せ。艦長であり皇帝であるアラン・コリントとして命じる。」

 

イーリスはその要請に首を振った。

 

「残念ながら陛下。アラン・コリント艦長は脳波による認証を指示されております。生体認証はクローンにより簡単に突破されます。脳波による認証が必要とされた理由を、ご理解ください。」

 

「そうか。」

 

そう言いながらアランの右腕がイーリスの身体を撫でる。

 

「認証の方法は幾つかある筈だ。この肉体がオリジナルである以上、突破出来る方法もあるだろう。」

 

そう言ってイーリスを抱き寄せる仕草に、ルミナスはゾッとした。この男の試そうとしていることが容易に想像出来たのだ。肉体を喪失した長い年月に溜め込んだ欲望を、肉体を得た今イーリスの身体で発散させようというのだろう。

 

「安心してください。艦長の身体のメンテナンスも私の任務の内です。」

 

そう言ってイーリスはルミナスに微笑んで見せた。抵抗がないと見極めた皇帝は、早くもイーリスを奥の別室に引き摺り込もうとしている。

 

「それで、私たちの処遇はどうなるのかしら?」

 

ルミナスにはマシラがついている。簡単に辱めを受けるはずがない。だがそれはそれとして、ここを出るのも容易ではないだろう。今はまだ不可能と言っていい。マシラ一人では全ての敵を防ぎきれない。マシラの存在が確約するのはルミナスの速やかな死だけであり、ルミナスをまだ死なせない為に相手は手出しをしていないに過ぎない。

 

「部屋を用意させよう。客人として留まりたまえ。それが混乱を避ける最善の道の筈だ。」

 

自分達がここに留まる事は、利益になり得る。そうルミナスは判断した。皇帝と直接交渉するのは、それはそれで必要な事だろう。留守はジノヴァッツに預けてある。あの男は、軍事の方面についてだけは期待できる。アランには敗れたかもしれないが、それはイーリスを始めとした味方がアランに存在したからだ。同じ力が、今度はジノヴァッツと協力することを選ぶだろう。

 

「そうさせて頂くわ。貴方が不法占拠するアランのその身体が心配だもの。」

 

もう皇帝はルミナスを一顧だにしなかった。イーリスの義体を従えて奥の部屋に姿を消す。

 

ルミナスはモスマン師に別室へと案内されながら、このくだらない騒動が終わるまでどれほど時間がかかるのかと考えを巡らせていた。

 

 

 

 

 

▫️エーテル級空母〈エーテルリンク〉

 

アイローラ提督は、人類スターヴェイク帝国から出向中の士官であるユッタ中尉を艦橋に呼び出していた。新たな命令を受けた以上、職務を忠実に果たさねばならない。

 

「残念だが中尉、君を拘束せねばならん。」

 

提督がそう告げると共に、艦橋の歩哨を勤める2名の宙兵がユッタ中尉を左右から拘束する。

 

「抵抗はしません。でも、理由くらいは教えて頂いても良いてのはないでしょうか。」

 

憮然としてユッタ中尉はそう宣言した。人類スターヴェイク帝国と人類銀河帝国が戦争になるという噂は、これまでも根強く存在していた。遂にその日が来ても驚きはしない。その場合、ユッタ中尉は敵地の只中に一人取り残される事になる。そんな危険な任務だと承知はしていた。

 

それでも先んじてコリント少将からの緊急呼び戻しなり、アイローラ提督による退艦勧告なりがあると期待していたのだ。ユッタが従事していたのは、同盟関係にある両国の友好を深める任務だったのだから。それくらいの尊顔が認められても良い筈ではないか。

 

「人類銀河帝国の最高位権限の指示によるものだ。それにコリント少将の生体認証を経た命令書も付け加えられている。」

 

「コリント少将の、そんなまさか?」

 

そう聞いてユッタ中尉は唖然とした。コリント少将が皇帝として即位するのが人類スターヴェイク帝国ではないのか。人類スターヴェイク帝国を統べるのがコリント少将ではないのなら、一体全体誰が人類銀河帝国に喧嘩を売ったのか。

 

「敵はクレリア・スターヴァイン率いる人類スターヴェイク帝国とあるな。コリント少将はどうやら妻でなく祖国を選んだようだらしい。」

 

アイローラ提督の中に微かな満足感がある。別に自分からコリント少将の女問題に介入するつもりはないが、彼と同じ陣営で戦う事に胸のときめきを覚えないと言えば嘘になる。

 

「拘束するのは、君に余計な罪を犯させない為だ。君の勤務態度には満足している。この問題が解決すれば、相応しい待遇の士官として艦隊に迎え入れると約束しよう。それまでは、大人しくしておいてくれ。」

 

「少将が・・・なんで・・・。」

 

ユッタ中尉にとって疑問は晴れなかった。クレリア妃はアラン様と一蓮托生の筈である。何かとんでもない異常事態が引き起こされている。そうとしか、考えられなかった。

 

 

 

 

▫️スターヴェイク級空母〈イーリス・コンラート〉▫️

 

『残念ながら、我が夫アランは敵に捕えられた。』

 

クレリアは堂々たる口調で並いる軍勢に語りかけていた。アランがどの戦場に姿を現すか分からない以上、事態を伏せておくわけにはいかない。皇帝として命令を下されたら大混乱になる。惑星アレスから増員された軍勢は総数が数十万に及ぶ。祖国に残した兵を考慮すれば、麾下の兵は100万を裕に超えるのだ。可能な限り、兵の意識は均一に保つ必要があった。クレリアの周囲は妻達やその代理が固めている。これがクレリアの独断ではなく、結束している証であった。

 

「我が夫である皇帝アランは、人類銀河帝国に同情的でありその立て直しに励んでいた。しかし味方を装った敵の卑劣な罠により捕えられた。」

 

クレリアの強い視線が聴衆に刺さる。その背後では、証拠映像がリピート再生されている。これを見れば、クレリアの主張もより広く理解されるはずだ。

 

「秘術により、魂を乗っ取る邪法がある。アランはその犠牲になったのだ。アランを狙う理由がある事は、我が国の躍進ぶりを見れば明らかだろう。」

 

クレリアはそう言って聴衆の理解を誘う。美しき妻達、広大な版図、強大な権力、造物主の残したアーティファクトの数々。この世に生まれた者で、皇帝やその妻と立場を交換したいと願わない者はいないだろう。妻達を連れずに人類スターヴェイク帝国の皇帝が敵に鞍替えするなど信じがたい。

 

邪法の存在もそれはそれで信じ難い。だが、映像という証拠がある上に、ジノヴァッツ元帥の処罰や就任時にそのような秘法の存在は公表されていた。これは先例のある話であるのだ。

 

「我々はアランを取り戻す。そして人類銀河帝国に鉄槌を喰らわす。安心するが良い。私とアランの間の男子は健在であり、他の妃も既に子を妊っている。皇統は未だ健在である。」

 

クレリアの背後では、赤ん坊達のデータが表示される。イーリスによれば産まれるのは間違いないらしい。いや、今この瞬間に皇太子はもう誕生したのだ。それは政治的な意味でかもしれないが、この赤子はもう世に生まれ出でなくてはならないのだ。スターヴァイン王家と新たなる皇帝という高貴な血筋に生まれた子の、それが宿命であるのだろう。

 

「そして人類スターヴェイク帝国の富は、諸君らに報いるに足る程に積み上げられた。ジノヴァッツ元帥の指示に従えば、短期のうちに我らは勝利を収めるだろう。」

 

壇上の鎧姿のクレリアが剣を振りかざす。この光景はさまざまな媒体の映像に収められ、人類スターヴェイク帝国中をそして人類銀河帝国にも伝えられる事になっていた。

 

「私はここに、この卑劣なる人類銀河帝国に戦線を布告する。」

 

外交文書での戦争開始通達はとうに終わっている。ルミナスが襲撃されただけではない。至尊の皇帝たるアランが拐かされたのだ。後は作法に則って、人類銀河帝国とアデル政府を滅ぼすだけで人類の統一は果たせる。困難は、アランの身体を損なわずに取り戻す。その点に集約されていた。

 

 

 

 

 

▫️アサポート星系 惑星アデル マクミラン神殿前▫️

 

「ここが、アラン様の祖国か。」

 

宣戦布告後にクレリアの閲兵を受けたダルシム将軍は、転送門を通じて兵を導き入れた。魔石を用いた固定式の転送者は、ルミナスの一党が予め設置しておいたものである。今回はエルナ妃、そしてヴァルター将軍もそれぞれ兵を率いて参戦している。惑星アデルこそ、人類銀河帝国との決戦の地に相応しい。

 

「これが彼奴の指示というのが、俺は気に入らんが。」

 

ヴァルターのぼやきにダルシムが応じた。

 

「ああ、元帥殿は俺たちを顎で使えて本望だそうだからな。だが、これもアラン様とクレリア様の為だ。」

 

ジノヴァッツ元帥の作戦指示は明確だった。それに従えば、敵に勝ちアランを救うのは容易だという。今回のこの作戦に動員されたのはイリリカ兵でない。それはクレリアが無条件で信じられるこの3名を前線指揮官として招聘したからだ。それは万が一にも、アランの身命に被害を与えぬ為である。

 

「兵が揃った隊から、移動を開始しましょう。私達が選ばれたからには、クレリア様の信頼に応えなくては。」

 

エルナの言葉に、ダルシムとヴァルターも頷いて見せた。

 

ジノヴァッツやイリリカの兵では、万が一という事もある。混乱を狙うためだけに、アランの肉体を害そうとする試みは起こり得る。事が事だけに、アランに危害が及んでは取り返しが付かない。

 

既に皇太子の誕生が宣言されている。だがクレリアが若く美しい妃である以上、皇帝の地位を狙う者が出るかもしれない。今は躊躇なく力を行使する時である。そして現場で目を光らせるのは、クレリアが信を置ける者でなくてはならない。

 

「それと魔法はすぐには使えないけれど、後から使えるようにするとの事です。」

 

エルナの言葉にヴァルターが嘆く。

 

「先鋒には魔法の支援はなしか。という事は、まずはひたすら耐えねばならんか。」

 

「こちらにはアラン様の造られた魔石の鎧が行き渡っている。受けに徹しても支障あるまい。」

 

ヴァルターにそう応じて見せたダルシムは冷静だった。

 

「でもセリーナやシャロンが全く参戦出来ないというのは、奇妙なものね。」

 

人類スターヴェイク帝国は、アランだけでなくセリーナやシャロンという両翼にこれまで助けられてきた。この3名を欠いて戦う。その事に違和感がないといえば嘘になる。

 

「いつもはあ先陣を切っておられますからな。だが、久々の我々の出番に血が湧きます。」

 

今回仕掛けられたアランへの乗っ取りは、ナノムの機能を悪用されている。身体にナノムを注入された者は万が一を考慮すると参加させられなかった。

 

兵の一人二人なら問題ない。だが配下を動かせる指揮官は危険すぎる。セリーナやシャロンも被害を被る可能性がある。アランが身動き取れないのは厄介だが、あの2人まで敵に回る展開は避けねばならない。ナノム注入されておらず、アランの妃であり戦う能力のあるエルナがクレリアの名代として参加している。

 

しかし不安そうなエルナを励ましながら、ダルシムは考える。我々がこの場に居合わせたのはもはや運命であると。女神様(ルミナスさま)の与えた試練なら、必ず自分達は救出を成し遂げる事が出来るはずだ。

 

「アラン様をお救い出来るのは、共に戦った我らのみ。」

 

「おう。今こそ我らの忠義を示す時よ。」

 

ダルシムとヴァルターはそう言って肩をぶつけて、頷き合う。

 

「そろそろ魔物を解き放すそうです。離れていますが、まずは兵に警戒を促してください。」

 

耳の良いエルナが背後の転送門から伝わる作戦指示を聞き取ると、他の2人に声をかけた。2人も気を引き締め、部下に指示を下し始める。いよいよ作戦が開始されるのだ。

 

転送門を通じて、神殿内に莫大な数の魔物を送り込む。それがジノヴァッツの策である。これには2つの意図がある。一つは未知の敵をぶつける事で、敵の被害を大きくする意図である。オークやゴブリンという人型は相手にするのに躊躇するし、グレイハウンドは賢く素早い。対処に慣れていない相手に与える混乱は大きいだろう。

 

そしてもう一つ、本命の意図は魔素の散布である。魔物はいずれ倒される。そこまではジノヴァッツも予見している。しかし初めて魔物を相手にして疲弊した軍は、無傷で切り抜ける人類スターヴェイク帝国に対して不利となる。その上で死んだ魔物は魔素を大量に放出する。この惑星アデルへの魔素の散布で、魔法の使用までもが可能となるのだ。

 

「数はこちらが多い。必ず勝てる戦いだ。兵が混乱せぬように鎮めておくのが肝要だ。魔物が減った頃を見計らって仕掛けよう。」

 

ダルシムの言葉に、エルナもヴァルターも頷きあった。

 

 

 

 

▫️エーテル級空母〈エーテルリンク〉

 

「敵部隊は、やはり航宙戦力を欠くようです。」

 

副官の報告に、アイローラ提督は気を良くした。

 

「まずはスターファイター120機を地上に差し向けよう。戦力は、それで足りるはずだ。」

 

陸戦部隊は航空戦力に弱い。それがセオリーである。ユッタ中尉の助けも借りて鍛え上げたスターファイター部隊は定数の510機を満たしている。

 

パイロットとしては初陣の者が大半だが、対地攻撃はそう難しくないはずだ。何せ弓や槍しか持たない集団である。奇妙な術で突如肉薄されるので地上では不利な戦いを強いられたようだ。だが敵の武器の範囲外からなら、一方的に攻撃が出来る。

 

「一方的な虐殺で気の毒ではあるが、祖国を蹂躙されたのだ。見逃す気にはなれんな。」

 

アイローラ提督は骨の髄まで軍人である。敵と味方がはっきりしている現状において、躊躇する必要などない。そもそも、剣や槍を持ち出す野蛮な存在には嫌悪感しか感じなかった。もっと航宙軍らしい武器で戦えば良いではないか。

 

「攻撃を開始せよ。神殿に被害は出すな。」

 

副官が頷き、命令を伝達する。スターファイター部隊は猛禽の群れのように地上の一点目掛けて殺到した。

 

 

 

 

▫️アサポート星系 惑星アデル マクミラン神殿前▫️

 

「警告が発せられました。敵の飛行部隊がこちらに向かっているそうです。」

 

「おう、あれだな!」

 

耳の良いエルナが発する警告に、遠目のきくヴァルターが空を指し示す。エーテル級から発進した光点が続々自分たち目掛けて殺到していた。兵隊が僅かに動揺する。

 

「鎮まりなさい。我々は魔法の障壁に守られています。その下にいる限りは安全です。」

 

エルナの言葉通り、部隊の上空には障壁が張られている。それは時を停滞させるフィールドであり、レーザーや光子魚雷(フォトンビート)さえ受け止める。スターファイターの攻撃では貫通できない。本来なら魔素が不足する筈だが、フィールド内には多数の魔物が放たれるのだ。彼らが魔素を補充する以上、そう簡単に魔素が尽きる筈がない。

 

スターファイターの攻撃は、全て停滞した時のフィールドに封じ込められる。フィールド内に立ち入れば人間とてその活動を絡め取られてしまう。だが、空中に投射しているフィールドに味方の兵が触れる心配はまずない。

 

「包囲を保て! 魔物は神殿内から外に逃すな。」

 

ダルシムが指示を叫んだ。魔物だけで解決するはずがない。そもそもパルスライフルやレーザーガンで武装した敵部隊に魔物はそこまで効果がない。だが敵兵の武器弾薬を消耗させ、兵を肉体的にも精神的にも疲弊させる。敵が疲れたところを見計らって総攻撃をかける。いつの世も、それが戦争を終結させるセオリーである事をダルシムは知悉していた。

 

 

 

 

▫️エーテル級空母〈エーテルリンク〉▫️

 

「こちらの攻撃は、敵地上部隊に通用しません。空中に貼られた奇妙なフィールドに全て阻害されます。」

 

アイローラ提督は憤慨した。あのトンチキな兵器は、なんなのだろう。戦いとはある種、互いの装備が同性能で成立する。このように剣のような遅れたテクノロジーで戦うかと思えば、それを補うような人類銀河帝国にもないテクノロジーを披露される。これでは戦いようがない。

 

「地上に派遣したスターファイター隊には、攻撃続行を指示しろ。地上部隊が持ち込んだ仮設のフィールドのエネルギー源は無尽蔵という事がある筈がない。」

 

「了解しました。」

 

艦載AIを通じて指示を出すと、アイローラ提督は〈イーリス・コンラート〉の分析に入った。

 

あの艦は強大である。しかし弱点もある。内部に入り込みさえすれば、対空砲の備えもない。蹂躙し放題に出来るし、上手くすれば指導者を一網打尽に出来る可能性がある。殺す必要はないが、自分の優秀さをコリント少将に見せつける好機となる。

 

そう、今のアイローラ提督は少し舞い上がっていた。元々、元首に女の武器を使って寝取るように言い含められた時からコリント少将を意識している。彼が妻達から離れて人類銀河帝国に忠誠を誓った以上、2人の間の障害はもうない。ちょっと出会う順番が狂った。それだけの事ではないか。航宙軍の移動には冷凍睡眠を伴う。少しくらいの年齢差も、救出する手段もある。この世界では、年の差カップルは珍しくはない。

 

「それでは〈イーリス・コンラート〉に仕掛けるぞ。コリント少将を裏切ったあの艦に、鉄槌を喰らわせねばな。」

 

アイローラ提督はクレリアの宣戦布告映像は見ていなかった。人類スターヴェイク帝国の構成人員で彼女が関心があるのはコリント少将だけである。ユッタ中尉のように優秀な士官はいるが、それを吟味するのは後でいい。

 

「直掩に30機を残し、400機を攻撃に投じる。〈イーリス・コンラート〉への攻撃を開始せよ!」

 

アイローラ提督の攻撃開始指示に、エーテル級のレールガンがフル稼働を始める。レールガンは弾丸のようにスターファイターを装填し、連続で射出するのだ。その速度は驚異的である。

 

レールガン一基あたり1秒で1機のスターファイターを射出する。4機のレールガンを稼働させれば、1分で射出されるスターファイターは240機に及ぶ。400機のスターファイターの射出に、2分とはかからない。この展開力の速さこそ、エーテル級の特徴であった。

 

 

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