【二次小説】航宙軍士官、星を統べる (原作:航宙軍士官、冒険者になる)   作:高坂 源五郎

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Ⅰ ベルタ王国統一記 11話 【ガンツ迎撃編】カリファ伯

ベルタ王国統一記 11 カリファ伯

 

翌日はカリファ伯軍の予想到着日だった。ドローンによるイーリスの監視を通じてカリファ伯軍の正確な位置は常に捉えている。位置的に正午以前のカリファ伯軍の到着はあり得ない。それに敵がガンツに接近したらイーリスから連絡が入る事になっている。ちなみにバールケの軍には商業ギルドを通じて報告が入ったのだろう。領地に引き返したとイーリスから報告が入っていた。流石にカリファ伯軍に合流するのには距離がありすぎるし、王都に戻って以後の対応を行うことを優先したのだろう。

 

朝食の場で、『今日は敵軍の接近が午後に予定される為に警戒体制に入る』と、そう伝達した。皆の支度はダルシムやヴァルターに任せる。俺は昨夜の内にハインツ班長が伝令を走らせたガンツ首脳陣との会議に臨まなくてはならない。

 

シャイニングスターのメンバーで会議の相手を出迎える。衛兵隊、商業ギルド、冒険者ギルド。2名ずつ会議に参加させて、王都でのやり取りを伝える。ライスター卿にも同席してもらった。

 

「おめでとうございます、辺境伯様。」

 

「そうと知っておりましたら、お祝いの品をご用意したのですが」

 

各ギルド長を呼びつけて祝福されるとなかなかむず痒い気分になるな。ただサイラスさんの口ぶりから、サイラスさんは事前に事情を知っていた雰囲気を感じていた。恐らくは商業ギルドの通信連絡網だろう。今回の決定内容も王都では公示されている筈なので、いずれギルドを通じて市中に広がる筈だ。いや,それは領主代行の俺の仕事なのか?

 

「ギルドの連絡網で今回の内容の確認が取れたら、ガンツ市中でも公示して欲しい。それ以外に先日の取り決めに概ね変更は無しだ。ガンツの運営は引き続き諸君に任せる。今後3年間の税の納め先が我々に変わるし、募兵には協力してもらう。だが変更点があるとしてもそれくらいだと認識している。さて、何か意見はあるかな?」

 

『先日の取引に変更なし』と俺の口から聞いて一同に安堵した空気が流れる。

 

「募兵にはもちろん協力させて頂きます」

 

「ギルドの連絡網を使って王国中から辺境伯軍を募集しましょう。連絡費用は勉強させて頂きます。」

 

方針変更なしを受けてか、概ね好意的な反応だった。

 

「さて、ギード隊長」

 

俺は沈黙を守っている衛兵隊のギード隊長に声をかける。

 

「先日、ガンツ伯軍を追い払った。が、カリファ伯の軍がガンツに接近している。兵数は約800といったところだ。到着は今日の午後だな。」

 

「なんと、ガンツがまた攻められるのですか!」

 

冒険者ギルド長のケヴィンさんが騒ぐ。

 

「王命を得た今、カリファ伯がガンツを攻める大義名分はない。それに800名程度なら、麾下の精鋭で撃ち破る自信はある。我々は3,000名のガンツ伯軍を撃ち破ったのだから。」

 

俺は静かに事実を指摘して、その場の皆にガンツ伯軍撃破の実績を思い出させた。

 

「先日の取り決めではガンツ防衛は護国卿である俺の領分だ。そういう事情でカリファ伯軍が去るまでガンツの城門を閉じてもらうし、城壁の守備に兵を派遣する。これは取り決め通りの内容の筈だ。特に問題ないな?」

 

「はい、護国卿閣下。」

 

「それではガンツの城門は正午に閉じる事にしよう。もしくカリファ伯の軍勢が城壁より見えた時点でだ。」

 

「はい、閣下。かしこまりました。」

 

衛兵は警察や憲兵のような治安維持を目的とした組織なのだと聞く。現在のガンツの衛兵隊は数十人の規模しかない。忠誠心的にも戦力的にも防衛ではあまりあてにならないし、戦闘には参加させずなるべく大人しくしていてもらおう。

 

「冒険者ギルド、商業ギルドも本日の城外への出入りについて通知して欲しい。まだ2時間ほどある筈だし、今朝出発予定の商人は出られただろう。市場に物を収めた近隣の農民が立ち去る時間もある筈だ。安全を考えるとこれから城外に出るのはあまりおすすめ出来ないが、そこは本人の自由だからな。民の生活になるべく影響を出したくない。」

 

「敵が近づいておるのですから、理解は得られましょうが、急ぎ通達を出させて頂きたいのですが。」

 

「伝令を走らせたいなら、付き添いを先に退席させて構わない。質問がなければ会議もこれくらいで切り上げよう。」

 

「宜しければ少しお待ちを、伝来を走らせてから閣下にお尋ねしたい事がございます。」

 

商業ギルド、冒険者ギルド、衛兵隊共に同行者を伝令として走らせる事にしたようだ。会議がしばし中断する。この一週間、俺はカリファ伯軍に神経を尖らせていた。だから敵の到来は今更感さえ感じてしまうのだが、ガンツの首脳陣としては初耳なのだ。彼らが驚き慌てるのも無理はないのかもしれない。

 

「失礼致しました。それでその、籠城という事になりますと経済的な損失も出ますが費用の方が嵩みます。食料などの備蓄は」

 

「救援が来る当てはあるのでしょうか?」

 

矢継ぎ早に質問が飛び出した。ふむ、実際の戦いぶりを見ていないからな。なかなかこちらの実力は伝わりづらいのかもしれない。少し説得方法を変えてみるか。先に冒険者ギルド長のケヴィンさんの質問に答える。

 

「まず、救援についてだが、仮に国王陛下がカリファ伯を懲らしめる決意をされた場合でも王都から片道で一ヶ月かかる。あまり現実的ではないから、私が陛下の代わりにカリファ伯を懲らしめる事になるな。」

 

冗談のつもりだったのだが誰もくすりとも笑わなかった。俺は不発に終わったら冗句を気にせず話を続ける。

 

「私の軍勢は今ガンツに全て集結しているわけではない。先だってガンツ伯軍を抜けてこちらに合流したケール男爵の兵500がガンツに向かっている。今日はもう俺の都市のアレスを出発しているはずだから5日後に到着する。またアレス防衛に残した部隊もいるから兵の総数はカリファ伯軍とそう変わらない。ちなみにケール男爵だが、先の王命を既に伝えてある。今後三年間は俺の指揮を受ける事にケール男爵が快く同意しているのは言うまでもない。」

 

500の兵が5日後に到着予定と聞いて皆安堵したようだ。ガンツは城砦都市として名高い。救援予定さえあるなら守り切れるという計算をしたようだった。

 

ケール男爵、彼は意外なところで役に立ってくれたな。実際はこんなすぐに戦闘に駆り出される可能性など全く考えずに『指示に従います』と発言した筈だろうに。カリファ伯軍がガンツ攻城に取り掛かる最中に別部隊が背後に出現したら、カリファ伯軍は深手を負うだろう。遠征継続は困難になるはずだ。

 

「俺としてはケール男爵軍が来る前にケリをつける方針に変わりない。麾下の精鋭にそれだけの力はある。ただ、無闇に戦闘に及ぶのは得策ではない。カリファ伯には王命の詳細を伝えて立ち去るよう提案するつもりだ。」

 

「なるほど、それならば。」

 

「いずれにせよ、長くても一週間、早ければ今日中にケリをつけられる。一週間ならガンツ市民の生活への影響もかなり限られると思う。俺の目論見としては以上だが、何かまだ質問があるかな?」

 

「いいえ、閣下のお考えを聞いて安堵しました」

 

「一週間の籠城ならガンツの食料に何も問題ありません。一月でも耐えられます」

 

元々、カリファ伯と戦闘になると決まった話でもないのだ。既に王命が下った事に加え、開戦してもそこそこ勝負になりそうだと計算すると皆が手のひらを返すのも早かった。

 

ガンツ首脳陣と会談を終え、彼らを退室させるとリアが話しかけてきた。

 

「ケール男爵の軍が救援部隊になる計算をしていたなんて気がつかなかったわ、アラン」

 

「まぁ味方と選択肢は多い方がいいからね。」

 

「ケール男爵を見逃す決断をした時からこうなると予想していたんですか?」

 

セリーナにも質問される。自分が指揮する時の事を考えての質問だと俺にも分かった。

 

「流石に全部の流れを予想していた訳でないが、彼らを何かに利用できないかなという考えはあったよ。」

 

「コリント卿の軍略は冴え渡っておられる」

 

このやり取りを聞いていたライスター卿も褒めてくれた。

 

「この数日の手配が活きましたね」

 

シャロンの言葉に俺もうなずく。

 

「そうだな。いずれにせよカリファ伯軍相手でも初戦が大事だ、気を引き締めて行こう。」

 

階下ではダルシムによる開戦準備が佳境だった。

 

「セリーナ、シャロン、俺達も今の内に魔石を用意しておこうか。他に必要なことがあれば言ってくれ。」

 

「その事ですが、アラン。捕虜達の扱いはどうしましょうか?」

 

その点は指摘してくれて良かった。カリファ伯と連携して騒がれると厄介かもしれない。いや、この状況をむしろこちらの募兵に役立てられないだろうか。

 

「そうか、捕虜の件があったな。」

 

俺はしばし考えを巡らせた。

 

「セリーナ、シャロン、2人で捕虜への説明に回ってくれ。サテライトから手が空いている者を何名か連れて行っていい。」

 

「分かりました。」

 

「でも、どういう内容で説明をすればいいのかしら?」

 

「説明する内容だが、今の会議でした話と同じ内容で構わない。事実を説明して協力を要請して欲しい。俺達が新たに辺境伯軍を組織することを伝えて、『ここで役に立てば辺境伯軍で採用するし優遇する』と約束していい。」

 

「それならやれます」

 

「出来るだけ大勢を味方に引き入れてみせます!」

 

実際、こちらとしては訓練された兵士が必要なのだ。今回協力したという形で功績を立てさせたら、お互いに気持ちよく仲間に迎え入れられる。その方が以後のわだかまりも少ないだろう。

 

ガンツ伯軍とカリファ伯軍は同盟関係だったかもしれない。だが、まだ末端まではその関係性が浸透していないだろう。ガンツ伯の部下なら大半はガンツ近郊が地元のはずだ。そして今後三年間は俺が事実上のガンツの支配者なのだ。その事を念頭に手を差し伸べて、どうなるかを見てみよう。

 

「特に、カリファ伯軍にはこちらから使者を送る事になる。名前は忘れたが、先日使者に立った男がいた。彼が協力的なら今回も頼みたいので必ず連れてきてくれ。前回の礼もしておきたい。」

 

忙しさにかまけて謝礼も支払わず礼も言い忘れていたが、ガンツ伯の残兵を交渉で去らせた功績は褒賞に値するだろう。後で必ず彼とは話をしなければ。

 

「「了解しました」」

 

セリーナとシャロンはサテライトを何人か捕まえると勢いよく飛び出して行った。二人は事情をよく心得ているし、物腰は俺より柔らかいので説得役は適役だろう。今回の捕虜との折衝は、彼女達の今後の指揮官としての糧となるはずだった。

 

 

意外な事にセリーナとシャロンの説得に捕虜の大半が乗った。

 

「明日食べるパンのためですよ」

 

シャロンが言う。

 

「アランが報酬の支払いについて信頼を得たという事ですがら、安心して捕虜に武器を渡してください。」

 

ガンツがそうそう簡単に落ちないと考えているだろうという。ガンツ伯の護衛を名乗ったベンジャミンはそれなりに高位だったようで、彼が王都に去った事で捕虜の側もこちらに協力しやすくなった事情もあるらしい。

 

「ただ就職というより、帰還のための旅費や滞在費稼ぎが目的かもしれません。」

 

セリーナがそう補足した。ちょっとした手伝い感覚という事か。明らかな身内相手ではないのでやりやすいのだろう。いずれにせよ、敵に回られるより中立寄りでも味方なら悪い展開ではないと判断した。

 

「もう彼らを捕虜と呼ぶのはマズいだろう。とりあえず志願兵と呼ぼうか。配置も含めて彼ら志願兵の扱いはセリーナとシャロンに任せる。ただ交渉役だけは俺のところに寄越してくれ。」

 

「了解しました」

 

俺としては今はカリファ伯の対応に専念したい。

 

 

セリーナとシャロンに連れてこられた交渉役の男はアダーと名乗った。確認したが、やはり毒蛇を意味する名前で良いようだ。

 

「変わった名だな」

 

「戦場では、通り名の方が使い易い場合がありますので。」

 

剣呑な呼び名に反して平凡そうな顔をしている。取り立てて美男でもなく筋骨隆々でもない。目立たないがそれ故に危険な男という事か。

 

「前回の交渉は大役を果たしてくれたと思っている。我々から褒賞を受けるのは本意でないかもしれないが、謝礼を出す。」

 

俺は大金貨1枚を取り出してアダーに支払った。

 

「あれは閣下に捕虜を受け入れて頂く為でもありました。こちらこそありがとうございます。もし可能なら、我々の帰還費用に充てたいと考えます。」

 

「ところで大金貨をもう一枚稼ぐつもりはないかな?」

 

「と言いますと?」

 

「カリファ伯への使者を務めて欲しい。既に聞いている筈だが、カリファ伯の軍がガンツに迫っている。我々の実力は君も知っている通りだ。ドラゴンもいる、負けるつもりはない。」

 

「はい、閣下のお手並みはよく存じております」

 

「私に3年間はガンツを預けるという王命が降った。書類の原本も確認させよう。その情報を持ってカリファ伯に撤退を促して欲しい。カリファ伯がガンツを攻める名分はない筈だ。今のガンツの事情をつぶさに伝えて考えを聞いてきて欲しい。」

 

「使者の役目に危険はないのでしょうか?」

 

「君の立場を率直に説明するといい。ガンツ伯軍の生き残りで、捕虜仲間が私の管理下にあると。こちらの情報を得る必要もあるだろうから、ガンツ伯の部下で捕虜の君をいきなり殺害はしないだろう。まぁ、危険はあるだろうが、使者として出向いてくれたら大金貨をもう一枚渡そう。」

 

大金貨は10万ギニーだ、2枚で20万ギニーの謝礼は命の値段としてはケチり過ぎただろうか。俺としては奮発したつもりだったのだが。

 

「使者になるだけでそれだけの報酬とは。願ってもないお話です。お任せください。」

 

よし、上手くいった。

 

 

馬を与えられたアダーは喜び勇んでカリファ伯の軍の来る方向へと走り去った。彼の交渉はイーリスにモニタリングさせる。カリファ伯軍に到着するまでに魔物にやられるような不測の事態も防げるはずだ。

 

案外すんなりとアダーは使者の役目を果たして戻ってきた。

 

「カリファ伯に面会が叶いました。閣下の書状を渡し、口上を述べるとガンツ郊外のあの丘で対面したいとの事でした。丘に上がるのは双方10騎以内との事です。」

 

「受け入れる、と伝えてくれ。アダー、カリファ伯との対面が終わるまでは付き合ってもらうぞ」

 

「はい、心得ています」

 

『承知した』という返事を持たせて再びアダーを送り出すと俺はガンツ城外に迎撃布陣を敷いた。中央は俺とダルシムとヴァルターの全4班、その後ろにリアとエルナとハンス班長の班と捕虜の部隊。左翼にセリーナ率いる全3班、右翼にシャロン率いる全3班。グローリアは上空を旋回する手筈だった。

 

「交渉を餌にガンツ城外に引き出されたのではないですか?」

 

出撃の際、エルナからはそう懸念されていた。

 

「どうだろうね。最初から籠城すると受け身に回る。ガンツに立て篭もるにしても、俺としては一度外でやり合ってからにしたい。」

 

作戦はイーリスやセリーナと検討した。結論は『パルスライフルを使った十字砲火で敵を殲滅する』というものだった。数の差は容易に埋められるものではない。ガンツの壁は強みにもなり得るが、我々にとって守るべき拠点で戦闘域が限定される。敢えてガンツから出て、パルスライフルを最大限効率的に使用する作戦を俺は採用した。

 

歩兵の対人兵器としての完成系であるパルスライフルが最も効率的なのは平原だ。相手と同じ高さに立ち、水平方向に射撃する時が最も効率が良い。

 

銃器には射程というメリットがあり、城壁を盾にすれば一方的な攻撃を加えることも可能だ。だがライフルの本質は1発の銃弾が複数人に被害を与えうる貫通力にある。これは弓矢では得られないメリットだった。それを活かすのが水平方向の射撃であり、野戦である。城壁の上からの射撃は銃眼を用いる事で一方的な攻撃をあたえられるが、ライフルの射程はそもそも長いので野戦でも距離を味方にする事は出来るはずだった。

 

こちらに接近するカリファ伯の軍勢は総勢800名でガンツ伯の軍の1/3に満たない。だがその足取りは自信に溢れていた。

 

一つの大きな集団では無い、4つか5つの独立した有機的な集団が1つのものであるかのように振る舞う動き。カリファ伯の軍の動きを無理に喩えるとそうなるだろう。

 

「(アレは簡単に勝てないな)」

 

「(アランもそう思いますか)」

 

通信回線で漏らした俺の感想にセリーナが通信で囁き返す。

 

「(ああ、ガンツ伯の軍とは別物だ。指揮官のカリファ伯は指揮官として化け物の類だな。)」

 

俺の目には兵の士気や訓練が段違いに見える。こちらの得意の戦術は中央で受け止める間に両翼が挟撃する構えだ。必殺の陣形だが、今はそれしかできない。

 

だがカリファ伯の陣形は両翼が独立して受け止めている間に中央が突撃可能に見える。しかも6部隊あるのでこちらの両翼は横腹を突かれかねない。まともに戦えば不利だった。勝つには奥の手を使うしかないだろう。

 

「(戦闘になったらどうしますか?)」

 

シャロンから質問が飛んだ。

 

「(予定通り後陣のダルシムとリアを退かせて両翼から攻めかかるしかない。挟み込んで距離を保って十字砲火だ。躊躇なくパルスライフルを使え。敵は800名しかいない。2人とも絶対に外すな。敵はそれぞれ密集している、バルスライフルの弾丸は問題なく貫通するはずだ。 1発の弾丸で1人以上を必ず仕留めろ。隊形が完全に崩れるまで射撃は止めるな。中央は俺がパルスライフルで支える。)」

 

「(分かりました、しかしエネルギーカートリッジがもったいないですね。)」

 

シャロンは慎重な分、倹約的な傾向がある。思い切りの良さはセリーナの方が上だろう。

 

「(ここを乗り切れば、兵を集める猶予が生じる。戦闘を避けられないなら、確実に今ここで叩くべき敵だと思う。)」

 

「(なんとか、各400発以内で処理したいですね。)」

 

「(上手く敵が崩れてくれれはそれもいいが、くれぐれも油断はするんじゃないぞ。この際、弾丸は惜しむな。)」

 

「((了解))」

 

パルスライフルは通常出力で1000発の弾丸を発射出来る。これまでで1人50発使ったかどうかだろう。 2人とも今のエネルギーカートリッジは900発以上は残している筈だ。

 

であればカートリッジ交換しなくても1人で殲滅しうる数となる。今回は2人で挟み撃ちにするし他の兵もいる。守りに徹してバルスライフルを使えば負けはまずない。だが、手の内を晒すにはまだ早すぎる。出来ればパルスライフルは使わずに済ませたい。

 

使いから戻り、背後に控えているアダーに指示を出す。

 

「アダー、あとはエルナの隊に合流してくれ。こちらの事情を説明しておいて欲しい。よくやってくれた。エルナから褒美を受け取るといい。」

 

アダーの報酬を支払う予定はあらかじめ打ち合わせてある。また敢えてエルナを全面に出すのはリアの存在を気取られない為の用心だった。ガンツ伯を討ち果たして注目を集めるエルナは俺の側近として目立たせるのにちょうどいい。

 

「閣下、できれば最後までお供させてください。」

 

「アダー、君は俺に忠誠を誓った訳ではない。だからカリファ伯との会談を聞かせるつもりはない。」

 

俺の言葉にアダーは沈黙した。

 

「使者に立った君の名誉のためにも言っておく。俺はカリファ伯に対してこちらから約束を破るつもりはない。だが会談では、君が知るべきでない話が出る可能性がある。」

 

「分かりました、閣下、私は出来れば閣下にお仕えしたいのですが。」

 

「カリファ伯を迎えねばならない、その話は後でしよう。手厚い待遇を期待するなよ、薄給だから驚かないようにな。」

 

「かしこまりました!」

 

仕官出来そうだと踏んだのだろう、アダーは嬉しそうにリアとエルナの率いる後陣にかけている。

 

「ヴァルター、君の班で俺の護衛をしてくれ。丘の上に向かう。ダルシム、ここは頼む。戦いになったら俺達は左右どちらかに合流する。リアとエルナを守ってガンツに後退するのが君の役目だ、分かったな。」

 

「かしこまりました」

 

「では行こうか、ヴァルター。」

 

丘の麓に到着していた俺が先に丘の上に到着する。俺が物思いに耽る間に、十騎の供を引き連れたカリファ伯はゆっくりとガンツ前の丘に登ってきた。

 

「宰相からは『冒険者が貴族に成り上がった男』と聞いていたが、違うな。私には分かる。宰相も人を見る目がないな。」

 

カリファ伯は禿頭で口髭を生やした小太りの男だった。彼は初対面の俺をジロジロ眺めると傲岸にそう言い放った。

 

「それは、どう違うんだ?」

 

「君の本質は軍人だな。軍人が片手間に冒険者をやっていたのだろう、違うかね?」

 

驚くほど鋭い眼力だった。カリファ伯に何もかも見透かされた気分になる。

 

「(怯むな、迫力だけの男と思え)」

 

俺は自分を鼓舞するとカリファ伯の前に敢えて本音を晒した。

 

「流石の眼力だな。」

 

「異国の出身と聞いてる。だが噂と違い近隣ではなさそうだな。武人としても考え方があまりにも異質だ。まるで違う時代の人間だな。」

 

こちらの素性を探るような問いかけだ。だが俺は一蹴した。

 

「で、どうするのかな。王命を蔑ろにするならこちらは一戦するも辞さない覚悟だが。」

 

「今はやらんよ。」

 

アッサリとカリファ伯は言い放ち、俺は戦意を削がれた。

 

「今やり合っても、お互い苦しめあうだけの痛み分けだな。となると喜ぶのは宰相ばかりで割に合わん。」

 

確かにカリファ伯との戦いは俺が予想していたよりも手強いだろう。パルスライフルを使えば負けはないだろうが、戦って武器や兵を損耗したらジリ貧になる。ここで戦わずに時を稼げば募兵が進む。樹海とガンツを抑えた今、兵も金も増える。時間が経つほど有利になるのはこちらのはずだった。

 

「宰相の一味でないのなら、こちらの仲間になる気はないか?カリファ伯の実力の一端は俺にも伝わった。こちらとしては本心から仲間に誘っている。」

 

「それはないな」

 

カリファ伯は即座にかぶりを振った。

 

「武人としての節は曲げられん。曲げる理由もない。敵だからこそ分かる事もあるというだけの話だ。馴れ合う気はない。今は、互いに好敵手として殺し合うのが望みだ。本気の戦争は久々だからな。違うかね?」

 

今の俺にはカリファ伯の言い分も分かる気がした。権謀術数、知略の限りを尽くして彼と戦うのはきっと面白いだろう。自分の限界を探る戦いになる。

 

たとえ、そこに多数の兵士の死が含まれていても。否、人の運命が委ねられているからこそ本気の命の取り合いで俺が成長出来る筈だ。そのような実戦経験こそ、今何より俺たちに必要な物だ、直感がそう告げていた。

 

談合や威圧ばかりでは軍が弱体化する。かと言って消耗戦を繰り返しても得るものはない。必要なのは全力で挑む事が出来る、そんな好敵手の存在だった。

 

そうでなくても、戦いの避けられない相手、避けるべきでない戦いがあるのではないか。試練をくぐり抜けなければ、本物になれない。なんだってそうではないだろうか。要は腹をくくれるかどうかが大事なのだ。

 

「確かに。どうせ殺し合いをするなら尊敬できる相手とやりたいな」

 

「そういう事だ。」

 

カリファ伯は鷹揚にうなずいてみせる。もしかして、俺たちは分かり合えたのだろうか?

 

「これ以上、話すことはあるだろうか?」

 

「ないな。お互いの考えはもう分かった筈だ。」

 

カリファ伯が言っているのは俺たちが実際に言葉にして語った内容ではない。その背後にある互いの思考法やその癖、個性といった互いの性質だ。

 

お互いに相手の個性を飲み込んでしまえば、彼がしそうな事、やらないであろう事が分かる。それはお互いにそうなのだろう。

 

『今はやり合わない』

 

言葉に出して合意したのはそれだけだ。だが、彼はガンツを去るまで奇襲をかけることはないだろうし、俺も立ち去るカリファ伯を追撃する事はないだろう。

 

しかし、それもまた絶対ではない。俺はカリファ伯の前に油断した姿など晒さないし、カリファ伯もまた俺が追撃しても万全の態勢で迎えうつだろう。俺たちが分かりあったのはそういう事だった。一言でいうならば、油断のならない相手と認め合ったという事である。

 

「正直、カリファ伯ほどの人物がバールケ宰相とつるんでいるのが不思議だ。どんな理由があるんだ。」

 

それは独白で質問のつもりではなかったが、カリファ伯は答えてくれた。

 

「コリント卿の目標が、私には皆目分からんのと同じ事だよ。」

 

それはそうだろう。『バグスに対抗できる文明の構築』というこちらの最終目標など、必要な予備知識を丸で欠いたカリファ伯に口で説明して伝わるはずもない。

 

「そうか、よく理解できたよ。」

 

不思議な感動が俺を襲っていた。俺はカリファ伯と今日話した内容を生涯忘れない、そんな気がした。

 

「では、またな」

 

カリファ伯は踵を返し、丘を降り始めた。

 

「ああ、次は戦場で見えよう。思わぬ所からの攻撃には注意する事だ。」

 

俺はカリファ伯の背中に声をかける。

 

「ドラゴンの事かね?対処法は見つけるよ。」

 

「俺の選択肢はドラゴンだけでない、それは覚えておいてくれ。」

 

「忠告痛み入る」

 

手を振りながらカリファ伯が離れて行く。

 

「よろしいのですか、アラン様。こちらの手の内を明かすような事をして。」

 

同席したヴァルターが俺に問いかけていた。

 

「手はまた考えるさ。それより彼との信義を果たす方が大事だ。」

 

「信義、ですか。」

 

「俺が思うにカリファ伯は堂々たる武人だ。宰相のバールケとは違う。だから互いに戦場で見える事を望んでいる。暗殺などの手段を取らない、そう理解しあった。もっとも、バールケは暗殺を仕掛けるだろう。だからこちらも用心は怠らないが。」

 

「なるほど、そんなものですか。」

 

 

その頃、カリファ伯は心の中で盟友の宰相バールケに語りかけていた。宰相に伝わらないにせよ、考えを整理する役に立つ。

 

「(ヴィリスよ、私が時を稼いでやったぞ。とんでもない怪物だな、アレは。どんな手を使うか分からないが、麾下の800名では瞬殺されるだろう。

 

だがこれでアラン•コリントを倒す為の準備に時間をかける事が出来る。今のうちに弱みを握っている貴族をけしかけて大軍を編成しろ。3年あると思っている相手には1年で勝負を仕掛けるのだ。脅すのは得意だろう。指揮は当然俺が取る。ルチリア卿では戦場にすら辿り着かんぞ。ベルタ王国の全軍を率いさせろ。それで勝てるかどうか、俺の見立てでは全軍でもやや苦しいという所だな、これは。)」

 

カリファ伯が立ち去る光景はガンツ市内からもよく見えた。それはガンツの正面に位置する丘の上で起こった出来事だからだ。

 

戦闘に至らなかったものの、カリファ伯と護国卿の堂々たる対峙はガンツ市民の語り草になった。これまでの活躍の証左は、ガンツ伯の遺体や捕虜という形で示されてはいた。だが、実際に強敵と対峙し退けた様を目撃した効果は大きかった。

 

ガンツ伯軍の残党とも同じ丘で対峙していたが、今回のように予告されていなかった為に見逃した者が多かったのだ。

 

しばらくはガンツに敵は来ないという安心感も拍車をかける。元々、城外に出れずに城内に民衆が逼迫していた事もある。民が緊張から解き放されたガンツはお祭り状態となった。

 

「なんだか凄い歓迎振りですね」

 

俺と共に入城したヴァルターが、そう感想を漏らす。

 

「こちらとしては、ガンツ伯軍と戦って勝った時の方が達成感は大きかったですが。」

 

武人としては、実際に敵を討ち果たした戦いにこそ軍配を上げたくなる。ヴァルターの言葉に俺も納得だった。

 

カリファ伯の軍勢の動向は、念の為にイーリスにドローンで追跡させている。順調に遠ざかっているのは確認していた。仮にカリファ伯が夜襲をかけようとしても、間に合うようにイーリスが警告してくれるだろう。

 

元捕虜の志願兵を含めた一同勢揃いして戻ると、拠点ではカリナさんが待ち構えていた。一台の馬車に酒樽を幾つも積んでいる。

 

「閣下。こちらの酒は商業ギルドよりの献上の品です。」

 

商業ギルドも籠城とならず喜んでいるのだろう。財布の紐も大いに緩んだようだ。

 

今日のカリナさんはいつも以上に着飾っていて艶やかな装いだった。胸元が大きく開いていて覗き込みたくなる。ダルシムが規律を厳しく叩き込んでいるとは言え、戦場帰りの男達の目には艶やかな美女は毒でしかない。

 

リアやエルナ、セリーナやシャロンと違いカリナさんは民間人である。酒樽を下ろすついでにカリナさんの装いに軽口を叩いたり、口笛を吹くものが出ている。

 

カリナさんは涼しい顔をしている。多少言い寄られるくらいの事には慣れているのだろうし、俺の見ている前では部下はそれ以上の狼藉には及ばないと分かっているからだろう。

 

俺は素早くカリナさんに群がる部下の間に入って、彼らを散らした。着飾った女性はカリナさんだけではない。商業ギルドの女性スタッフだろうか、カリナさん以外にも女性が控えている。

 

「カリナさん、ありがとうございます。皆で頂きます。しかし、今日の装いは戦場帰りの男達には目に毒ですよ。」

 

「あら、護国卿閣下のお目に叶いましたか、嬉しいですわ。」

 

カリナさんの俺を見つめる視線にドキリとする。

 

「宜しければギルドの職員と皆様のお酌をさせていただきたいのですが」

 

艶を含んだ流し目をあてられる。カリナさんの手がそっと俺の両手を包み込む。返答に困っていると、俺の背後からセリーナとシャロンが現れた。カリナさんに握られていた両腕を2人に左右から掴まれる。

 

「残念ですが、今夜の祝勝会は部外者禁止です」

 

「でも、お酒はありがたく頂戴しますね」

 

俺はそのまま両腕を引きずられてるように二人に建物の中に連れ込まれた。残念そうなカリナさんの顔をチラリと見える。俺の代わりにヴァルターがカリナさんに言い寄ったようだが、平手打ちを喰らっていた。ヴァルターめ、後でとっちめてやる。

 

「アラン、カリナさんの前でデレデレしちゃってみっともないですよ」

 

「アラン、美人に弱いその癖を直すほうがいいですよ、リアもエルナも呆れています。」

 

俺としては不必要にカリナさんと仲良くしているつもりはないのだが、この一週間は辛かった。カリファ伯との対面を終えて緊張の糸が切れた。色々と油断をした姿を見せてしまったようだ。

 

ガンツを支配する俺たちは今後も誘惑される機会は多いだろう。部下の規律を保ちつつ、上手く発散させるようにしなくてはならないな。

 

 

 

その日の夜、祝宴を終えて部屋に戻って微睡んでいた俺はセリーナとシャロンから連絡を受けた。

 

「(アラン、2人でそちらへ行って良いですか?)」

 

「(構わないが、どうした?)」

 

「(ようやく戦闘が全部終わったと思うと、緊張が薄れて一気に怖くなってしまって)」

 

それを聞いて俺は迂闊にも寝入っていた自分を恥じた。2人はまだ10代なのだ。魔物との戦闘の経験はあるが、戦争も人殺しも初めてだろう。頼れる2人なのですっかり航宙軍の士官として扱ってしまっていたが、色々片付いた今になって恐怖がぶり返すのはとても良く理解できた。

 

渦中いる時、士官は責任とやらないといけない事で頭がいっぱいだ。だが終わってしまうと込み上げてくる恐怖がある。上官として、いや大人として彼女たちのメンタルケアは当然の義務だろう。

 

「分かった、落ち着くまで少し話をしようか。遠慮せず部屋に来るといい。」

 

控えめなノックと共に、セリーナとシャロンが室内に滑り込んできた。2人とも素足でパジャマ姿のままだ。少し無防備ではないだろうか。

 

「寒いからベットに入れてください。」

 

2人とも俺がいるのにも構わずベットに潜り込んできた。ふんわりとした女の子の匂いに包まれる。

 

「わぁ、アランの匂いだね」

 

「大丈夫です、アラン。気にするほど臭くないですよ」

 

左右から挟み込まれてしまった。注意しようと口を開きかけた俺は気づいた。彼女達がガタガタ震えている事に。

 

「寒いかい?」

 

「大丈夫です、でも自分達のした事に怖くなってしまって」

 

「敵は大勢殺しましたし、少し指示を間違えたら味方もいっぱい死んでいました。」

 

「今回は平気だったけど、ヒールで治していなければ後遺症が残ったり、命を落としかねない怪我も多くて」

 

セリーナとシャロンが口々に不安を述べる。俺は偶々バグスとの戦闘経験がある。でもセリーナとシャロンは魔物や盗賊と対峙した経験はあっても、これが指揮官として初の実戦であり殺人だったのだ。だいぶ無理をさせてしまったな。

 

「不安はあると思う。でも君達はよくやってる。何かあれば俺が責任取るから大丈夫だ。」

 

俺がそういうと何がツボに入ったのか、2人とも声を押し殺しながら笑い出した。

 

「わかりました、アラン。」

 

「責任とってくださいね、アラン。」

 

セリーナもシャロンも口々にそういう。

 

「可愛い女の子が横で寝ているからって、すぐに手を出したらダメですよ、アラン」

 

「セリーナはダメだけど、私は少しくらい手を出しても大丈夫ですよ、アラン」

 

「おいおい、大人を揶揄うもんじゃない」

 

そう嗜めながらも、俺を笑った効果があったのか少し2人の不安感が落ち着いたように感じられた。少なくとも最初に見せていた酷い震えは治ったようだ。

 

「良かった、私眠れそう」

 

「私も。おやすみなさい、アラン」

 

「2人とも朝までには部屋に戻るんだぞ」

 

既に寝入ってしまったのか2人からの返事はなかった。

 

「(まぁ、これで落ち着くなら少しくらいは良いか。)」

 

10代の少女であっても航宙軍に入隊した時点で成人として扱われる。しかし彼女達は俺にとって大事な部下なのだ。女性1人だと部屋に来るのを拒否してしまっていたかもしれない。

 

本来は成人男性の部屋に来るのは良くないと注意すべきところだろう。でも2人ともとなると、やはり異性とはいえ同じ航宙軍の俺がケアするのが妥当だったと思えた。

 

「(朝になれば、落ち着いているかな)」

 

きっとセリーナとシャロンには無理をさせているのだろう。特にガンツ伯軍が押し寄せてきた事から始まったこの数日の戦闘での緊張感は半端なかった筈だ。俺がいた方が眠れるなら、今日は同じベットで寝るくらいの事は許される気がした。

 

二人の寝息が左右の耳から交互に聞こえる。それはとても清らかで安らかな音だった。彼女達の眠りに誘われれば今日は熟睡できそうな気がした。俺も肩の力を抜くと、両腕から伝わる2人の体温に誘い込まれるように深い眠りに落ちた。

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