【二次小説】航宙軍士官、星を統べる (原作:航宙軍士官、冒険者になる)   作:高坂 源五郎

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Ⅳ 対バグス戦争の終結 119話 【バグス殲滅戦篇❹】 結末

Ⅳ 対バグス戦争の終結 119話 【バグス殲滅戦篇❹】 結末

 

▫️シグマ星系 〈エーテルリンク〉艦内▫️

 

宇宙における艦隊戦は、フィクションのように正面から相対して開始されるのではない。艦隊の速度が高速であるが故に、敵艦を有効射程に収めた直後には相手が過ぎ去っている。両軍が全速であればある程、この問題は生じる。必要なのは相手と推進ベクトルを概ね一致させて接近し合う事。そしてそれぞれの艦隊はもつれ合う二匹の蛇のように同じ方向へ進みながら互いに身を絡め合うように攻撃を加え合う。艦はシールドによって防護される為、艦は密集すればする程に防御が強固に、言わば“硬く”なる。ここで重要なのは艦隊から離脱した艦の扱いである。損傷艦を庇い合う事が可能な艦隊運動から離脱する艦は、通常では標的として集中砲火を浴びて轟沈する。共和国とスターヴェイクはこの点について『追い打ちはしない』事で事前に合意していた。艦隊から離脱した艦は『戦闘停止と降伏』信号を掲げる。それだけで勝者への服属を申し出たと見做されるのだ。これは同じ人類の航宙軍同士が交戦する為の規定である。バグスが未だ滅んでいない中で、主導権争いが更なる戦闘の激化を生まない方策である。

 

「両艦隊とも適正な位置につきました。旗艦同士の相対距離に基づき攻撃開始となります。」

 

艦載AIであるエーテルリンク少佐がアイローラ提督に報告する。目の前の光景は実戦であるにも関わらず、どこか非現実的で演習か或いはゲームのように感じられた。

 

「これは本当に実戦、なのでしょうか。」

 

並走する敵の艦隊を見ながら一人の士官が感想を漏らした。

 

「…これってまるでゲームみたい。」

 

人類同士が艦隊戦を行う展開に、乗組員(クルー)からも戸惑いの声が上がる。バグスという難敵を抱える彼らは、バグスではなく人類同士が戦うという状況に馴染めていない。人類がバグスに対抗する為の、強力に統一された“航宙軍”ではなかったのかと。

 

「艦の数もスターファイターの数も同じ。完全なる実戦では数の差は覆しがたいからな。後世、優雅な戦争と謗られそうではある。だが、これもアランの指示だ。」

 

アイローラ提督の呟きに、副官がそっと言葉を返す。

 

「両国の今後を決める戦いです。“無二の一戦”だからこそ、陛下も均衡を志向されたのでしょう。でも、閣下が勝利すると確信されているからこそ全てを託されたのです。」

 

「…そうだな。」

 

旗艦同士の相対位置が一定の距離に入らない限り、互いに攻撃は開始しない。その取り決めが、開戦前のこの幻想的な時間を生じさせる。それは初めて同衾する男女が、互いの裸を相手の視線に晒し合うのと似ている。

 

「間も無く開戦となります。砲撃は自動的に開始されます。」

 

両軍は照準を敵に合わせ続けている。その攻撃が反映されるようになるのは、旗艦の距離が適正に近づいてからなのだ。

 

「開戦です。」

 

エーテルリンク少佐の声と共に、両軍から放たれたビーム砲が交差して互いのシールドに衝突する。両艦隊は閃光に包まれながらも、後方(=敵艦隊の反対方向)からスターファイター隊を発進させる。

 

「…味方のスターファイター隊が、敵艦に近寄れないな。」

 

戦闘開始早々、アイローラ提督は異変に気がついた。

 

「敵は艦隊の火器管制を対スターファイター用に書き換えたな。」

 

スターファイターの機動力とそれを迎撃する火器のどちらが優勢か、それは永遠のテーマである。ただ少なくともカース提督は彼なりの独自の回答を持っているようだった。

 

エーテル級の本来の役割は、空母ではなく艦隊全体の効率的運用の為の戦術リンクである。カースは戦術リンクにクローン士官とそれと連携する艦載AIによる火器管制を組み込んだ。〈イーリスコンラート〉で実装され好評な機能だが、ビーム砲などの搭載火器を人とAIがセットで艦隊全体で効率的に運用するのだ。ベースとなったクローン士官も艦載AIも本来は共和国側の技術である。模倣というよりは、共和国が本家であると言えた。

 

これにより得られた対スターファイター用の火力は、戦艦を組み込んであるだけに容易には崩せない防御陣形として機能した。そもそもスターファイターにも複数のタイプがある。その中では対艦仕様である“攻撃爆撃”仕様が一番鈍重である。それを艦隊総出で防ごうとしたのだ。

 

「迎撃偏重か。」

 

スターファイターの長所を火力と見た場合、敵艦隊の火力を防ぐ事こそが正解となりうる。しかも共和国の艦隊はただ闇雲に防御性能を引き上げただけではない。両陣営のスターファイターは同数で同製品なのだ。つまり性能差は本来は発生しない。

 

もしも歴然とした性能差が生じるとしたら、それはパイロットの技量の差とスターファイターの仕様の差である。技量については、スターヴェイク側に軍配が上がる。対して機体性能は共和国側が有利だった。それはスターファイターのセッティングに由来する性能差である。カース提督は全機を“制空戦闘”仕様に振り切ったのだ。“対艦攻撃”仕様と『制空戦闘』仕様の差は歴然としていた。これはつまりは、じゃんけんの勝負のようなものだ。爆撃機は戦艦に強い。戦艦は制空戦闘機に強い。制空戦闘機は爆撃機に強い。カース提督はまずこの構図を確立させた。その上で敵の“対艦攻撃”機を減らすことを目標とし、自軍の“対艦攻撃”機の割合を敢えて減らして“制空戦闘”仕様に振り切ったのである。

 

スターファイターにはこれまで同等の敵が存在しなかった。人類同士が同数で同型のスターファイターを用いる事はこれまでにない。だからこのような仕様の違いが表面化した事はない。しかし同じ兵器同士の対決なら、“制空戦闘”仕様が勝るのは道理だった。アイローラ提督が呟く。

 

「カースの戦術は防御偏重だ。でも効果的だわ。」

 

スターファイターの数を減らせば後はどうにでもなる。それがカース提督の策なのだろう。その試みは成功しつつある。正面からではスターヴェイク側のスターファイター隊は敵艦の撃破が困難な状況に追い込まれていた。

 

「カースは鈍重だと思ったが、案外いい仕事をするな。」

 

艦船数はほぼ同じ。スターファイターの勝負では共和国が圧倒し有利となりつつある。スターヴェイク側のスターファイターはジリジリとその数を減らしていた。もはやこれ以上の損耗は容認できない。

 

「後退しなさい。」

 

敵の旺盛な火力に圧倒されたように、スターヴェイク側が後退(=並走する敵艦隊と反対方向へ横移動)を開始する。スターファイターだけでは無い。艦隊の火力も共和国側が旺盛となりつつあった。この為、アイローラ提督は距離をあけて逃れようとした。或いは、カース提督にそう思わせるように後退した。

 

 

 

 

▫️シグマ星系 〈エーテルゼルダ〉艦内▫️

 

並行する二つの艦隊同士の勝負。当初は均衡していたかに見えた戦況が動いた。スターヴェイク側が後退を開始したのだ。推進ベクトルは維持しながら、後退するかのようにこれまで後方に配置していた味方艦の未だ健在なシールドの陰に隠れようとする。

 

「今の隊形を維持したまま艦隊を敵に寄せろ。このまま敵を喰い破れ。」

 

カースはいわゆる“陣形の前進”を指示した。実際には両艦隊は並走する関係だ。艦隊同士は距離を開こうとするスターヴェイクと、距離を詰める共和国という関係となる。その時である。

 

「周囲に展開したサテライト級駆逐艦が回り込もうとしています。」

 

カースは戦術画面を確認した。確かに〈エーテルゼルダ〉の後退から取り残された形の両翼のサテライト級が小規模な包囲網を形成しつつある。

 

「同数のサテライト級を回し、対応させろ!」

 

サテライト級はサテライト級である。〈エーテルゼルダ〉の周囲で防衛ラインを形成するギャラクシー級の戦艦群には勝てる筈がない。それでも万が一を警戒して、カース提督は同数のサテライト級に対処させた。

 

「さあ、もう間も無く〈エーテルリンク〉にこちらの手がかかるぞ。」

 

〈エーテルゼルダ〉を警護するギャラクシー級の戦艦の中には一隻の弩級戦艦が存在する。艦名は〈マキシマス〉。共和国のエーテル級を守り、そして或いはスターヴェイクのエーテル級を屠る為に産み出された怪物戦艦だ。

 

〈マキシマス〉は従来のギャラクシー級では不足するようになってきた火力と装甲を補った新設計の戦艦である。ギャラクシー級は総じてバグスの艦隊と単艦で渡り合う性能だが、これまではBG-X型戦列艦以上の敵艦が存在しなかった。その為に人類は性能を維持しつつも生産性を優先してきた側面がある。だが〈マキシマス〉は違う。文字通り人類の総力を性能面に結集した艦である。生まれ変わったスターヴェイク級の〈イーリス・コンラート〉に立ち向かう為に設計された艦だ。想定された敵の主砲の直撃に耐え、〈イーリス・コンラート〉の港湾部から内部に侵入する想定までされている。造物主に頼らぬ純粋な人類の技術だけで生み出した戦艦として、最高の性能である。

 

「攻勢の主軸は〈マキシマス〉が担う。これで決着がつくな。」

 

カース提督の指示で〈マキシマス〉が敵陣への接近を開始する。対峙する〈エーテルリンク〉周囲を固めるスターヴェイク側のギャラクシー級が被弾して隙が生じたのだ。そこを狙い澄ましたように放たれた〈マキシマス〉の主砲が〈エーテルリンク〉を襲った。直撃したかに思われたその閃光は、僅かに〈エーテルリンク〉の前方四散する。

 

「敵も〈マキシマス〉と同規模の主砲を備えているようです。」

 

艦載AIであるエーテルゼルダ少佐が、冷静にそう報告する。理論上、ビーム砲を正面から撃ち合えば相互干渉する。シールドがビーム砲を防げるように、ビームはビームで打ち消しあうのだ。理論はそうでも本当に相互撹乱するように打ち込むのは至難の業だが、〈エーテルリンク〉は2発目の〈マキシマス〉の攻撃も同様にいなしてみせた。

 

「そうかそうか。新型は我が方だけではないんだな。スターヴェイクも〈エーテルリンク〉を改装済みという事か。」

 

カース提督の策は、〈マキシマス〉という新型戦艦が性能面で〈エーテルリンク〉を圧倒する想定で成立している。その為にスターファイターは制空特化に振り切った。対するスターヴェイク側も〈マキシマス〉を倒すには多数のスターファイターが必要な筈だ。しかし前に出た〈マキシマス〉には多数のスターファイターを直掩機として付属させた。既にスターファイターの数で差がついている以上、“制空戦闘”仕様で勝るこちらの優勢は揺らがない。カース提督は戦況を改めて確認した。想定外はもうない、その筈だった。

 

「奇妙だな。〈エーテルリンク〉に手が掛かるのが早すぎる。まだスターファイターの壁がある筈だろう。」

 

その時、戦況を再度確認したカース提督は初めて異常を感知した。戦場において確認された敵スターファイターの数が少なすぎるのである。撃破数と残存数を足しても、総数に及ばない。自軍が優勢な時に、敵に戦力を隠されても察しにくい。戦局が再び拮抗し始めた今になって、初めてそのスターファイターの数の差が判明したのだ。

 

「…まだどこかに、敵のスターファイターが潜伏しているのか?」

 

艦載AIは出撃したスターファイターを全て捕捉している。その為の戦術リンクで有り、エーテル級なのだ。それに戦場の位置選定も流動的だった。予めスターファイターを隠しておくような場所はない。数え間違いもなければ、戦場内の伏兵も考えにくい。

 

「〈エーテルリンク〉がまだ懐に隠し持っているのか?…まさかな。」

 

カース提督が思い悩んだその時である。〈エーテルゼルダ〉から見て左翼で異変が生じた。

 

「左翼側の敵サテライト級から、スターファイターが出現しました。」

 

「なんだと。」

 

カース提督はエーテルゼルダ少佐の報告に愕然とした。しかしこれは既に半ば覚悟していた敵の存在でもある。

 

(悪い予感が的中したか)

 

サテライト級から発進した新たなスターファイターの集団は、一塊になる。そして行く手を阻む共和国側のサテライト級を簡単に大破してみせた。そして続けてその奥にいたギャラクシー級を始末しにかかる。

 

「当然ながら攻撃機仕様か。まずいな。直掩のスターファイターは対応にあたらせろ。」

 

「あの数を阻止するだけの直掩機を残しておらず、前線からの呼び戻しも間に合いません。」

 

前がかりの攻勢をかけたとはいえ、〈エーテルゼルダ〉にも直掩機は元々用意してあった。だがこのような直掩機の役割は、戦場では後方に位置する。その為に配備したパイロット腕はイマイチである。本来なら若者を攻撃に、反応速度が衰えても経験でカバーする年長者を後方に配置するべきなのだ。しかし最適な配置を実現するには、共和国のスターファイターのパイロット層は薄すぎた。虚を突かれた事もあり、共和国の直掩機はスターヴェイクのスターファイターに次々と撃破されていく。

 

「制空仕様も混ぜているな。しかもそのパイロットは実に腕がいい。」

 

カース提督は舌を巻いた。元からスターファイターの腕前は敵が優っている。だからこその制空仕様の徹底で有利を保とうとしたのだ。スターヴェイク側のエースに制空仕様の機体に乗られると、こちらのスターファイターは面白いように落とされる。

 

「ギャラクシー級戦艦〈ミスティック〉、推進装置への被弾により艦隊から離脱します。」

 

スターヴェイク側の猛攻を浴びて、遂にギャラクシー級が戦線を離脱した。両陣営共に初の戦艦の喪失である。スターヴェイクは減らしたスターファイター代わりに戦艦を屠った。戦況が再び均衡に近づき、逆転する。

 

「なんだと?たかがサテライト級の戦隊如きに本来ならギャラクシー級が崩される筈がない。」

 

共和国が敵を追い詰めていたはずの局面は、逆転されスターヴェイク側に有利に傾きつつあった。サテライト級の中に隠匿されていたスターファイターの存在が、勝負を決しつつある。多数展開したスターファイターは〈エーテルリンク〉に注力してしまった。カース提督の艦隊は艦隊戦に慣れていても、スターファイターを活用した対戦には慣れていなかった。だから〈マキシマス〉は〈エーテルゼルダ〉に僅かな直掩を残して深追いしたし、その行為をカース提督も容認した。サテライト級からスターファイターが発進してくるなどという芸当を、予測出来なかったのだ。

 

「これは、戦争のやり方が変わるな。いや、再びギャラクシー級やサテライト級がスターファイターの運用で脚光を浴びる時代に戻るのか。」

 

カース提督はスターヴェイク側の意図を正しく読み取る。エーテル級空母の誕生と共にスターファイターが世に産み出された。その為に両者は関連付けられてしまった。空母と艦載機という関係性が当たり前に捉えられたのだ。

 

しかし本来は違う陣営が別々に用意した兵器なのだ。スターファイターは空母でなければ運用できないというのは共和国側の思い込みである。スターファイターは元々は光子魚雷(フォトンビート)のように、兵器としてどの艦にも搭載するという意図だったのだろう。

 

ギャラクシー級は多数の上陸艇(エアシップ)連絡艇(シャトル)を備えている。元々、スターファイターを載せる余地があったのだ。その点は警戒していた。だが、まさかサテライト級にスターファイターを載せるとは想像の範囲外だったのだ。

 

「ギャラクシー級戦艦〈ザッカリウス〉が大破しました!」

 

艦載AIの声と共に、爆発光が艦橋を照らし上げる。〈エーテルゼルダ〉を守る為に周囲を固めていた二隻目のギャラクシー級が遂に艦隊から脱落したのだ。しかも甚大な被害を出して。それは最終防衛ラインの崩壊と共に、迫りつつある敵が〈エーテルゼルダ〉を葬り去る火力を備えている事を意味していた。しかし、この時に動いたのは敵 スターヴェイク側だけでは無かった。

 

「〈マキシマス〉が本艦の直掩につきます。敵の侵攻を阻害可能です。」

 

近傍に位置する〈マキシマス〉が、急制動をかけて旗艦を守る為に〈ザッカリウス〉のいた位置に割り込みをかけたのだ。相互の艦隊は高速で移動中である。推進装置をやられた〈ザッカリウス〉はすぐに艦隊の進行から離れて離脱してゆく。その隙間に強引に艦隊を捩じ込んで最後の壁を再び構築しようとしていた。

 

「スターファイターの搭載火器は限られる。光子魚雷(フォトンビート)では、〈マキシマス〉の強化された装甲は貫けないのではないか。」

 

安堵した想いで、カース提督は心中を吐露した。しかし彼のその思いは即座に否定された。

 

「それはどうでしょうか?」

 

エーテルゼルダ少佐が不吉な発言をする。彼女の声はまるでトロイの城が落ちるのを予言したカッサントドラの予言のように不吉な響きを伴って艦橋に響き渡った。

 

「敵スターファイターは単なる“対艦攻撃”仕様ではありません。四発の光子魚雷(フォトンビート)の同時着弾により撃破されたと〈ザッカリウス〉の艦載AIから報告を受けています。四発の光子魚雷(フォトンビート)が同時に着弾する事は、〈マキシマス〉の設計上は想定されていません。」

 

〈エーテルゼルダ〉の艦橋の乗組員(クルー)は、全員その艦載AIのその発言に凍りついた。

 

 

 

 

▫️シグマ星系 サテライト級駆逐艦〈パイオーン〉艦内▫️

 

サテライト級駆逐艦〈パイオーン〉は数少ないスターファイター発進機構を備えた艦である。アイローラ提督は〈パイオーン〉と二隻の僚艦に右翼方向から敵の旗艦へと肉薄する猟犬の役目を命じた。

 

「ホーク大尉のB-Typeは優秀な攻撃機だ。スターファイターが単騎で敵戦艦を落とせる、今回もそんな可能性を示してくれるだろう。」

 

アイローラ提督は自信ありげに今回の作戦をシェアリング艦長に伝えてきた。その上で過信はせず、制空戦闘機の配備を怠らなかった。制空戦闘機部隊の中の特に白眉は一機だけ評価試験機のC-Typeをビームガトリング仕様に換装したC2-Typeである。

 

C-Typeは過剰なほど機動力重視の設計である。量産には適さなかったが、そこに攻撃特化のB-Type由来のガトリングビーム砲を搭載した。このC2-Typeこそ、エースパイロットに相応しい唯一のモデルである。その為にも光子魚雷(フォトンビート)は可能な限り減らし、対スターファイター用の制空仕様に振り切っている。バグス相手にはこれまで目立った活躍はしていないが、だからこそ今回の作戦では伏兵として機能した。ユッタ大尉の操縦するこのC2-Typeは、ホーク大尉のB-Typeとその麾下のD-Typeという攻撃部隊を支援する役回りだ。

 

〈パイオーン〉のシェアリング艦長は敵が全面攻勢に出たそのタイミングで、戦隊の三隻のサテライト級からスターファイターの集団を発進させた。各艦から六機、計十八機の刺客が側面から〈エーテルゼルダ〉に向けて放たれたのだ。そこからギャラクシー級の〈ミスティック〉と〈ザッカリウス〉が連続して大破されるまでは体感ではほぼ一瞬だった。

 

「ここまではアイローラ提督の読み通りか。後は、行手を阻む新型艦を倒せるかだな。」

 

行手を阻むのはスターヴェイク側の航宙軍士官が見たことの無い新型戦艦である。それでも〈イーリスコンラート〉の規格外さに比べれば、何ともこじんまりして見える。これまでの常識の延長にある為に、スターファイターで撃破可能な目標に映るのだ。

 

「スターファイターから離れた我々は危険です。全機の射出完了後は離脱しますか?」

 

後続のスターファイターを発進させながら女房役のガードナー中尉が提言する。しかしシェアリング艦長は首を横に振った。

 

「全速で追尾しろ。我らがスターファイター隊の攻撃を支援するんだ。」

 

「でも、進む先は敵の真っ只中ですよ?」

 

シェアリング艦長はニヤリと笑って見せた。

 

「だからこそ進むんじゃ無いか。このまま離されていなければ、敵艦撃破はパイロットはもちろん戦隊全体の戦果になるんだぞ。」

 

戦隊が離脱すれば、スターファイターを運んだだけの扱いとなる。しかしスターファイターを支援してここから前に突き進めば、勝利の立役者の地位は約束されていた。そこを指摘されて、ガードナー中尉も俄然やる気になった。

 

「ようし、やりますか。」

 

スターファイターを全機射出した後の〈パイオーン〉は最大戦速で敵の艦隊へと挑みかかった。

 

 

 

 

 

▫️シグマ星系 〈エーテルゼルダ〉艦内

 

「〈マキシマス〉、轟沈します。」

 

艦載AIの声が艦橋に響き渡った。期待の新型艦は敵に勝てなかったのだ。厳密にはかなり良い勝負をした。スターファイターは寄せ付けず、〈エーテルリンク〉との主砲対決でも負けなかった。しかし隙をついて大胆にも肉薄したサテライト級駆逐艦〈パイオーン〉の放った光子魚雷(フォトンビート)の一斉射撃の前に遂に痛打を受けたのだ。それまでスターファイターにより受けていた損傷が〈マキシマス〉には重すぎたのだ。それにサテライト級とは言え、懐に入られる事は想定していない。ギャラクシー級が有利なのは、ロングレンジで優勢な火力で殴り合えるからこそなのだ。

 

それに〈エーテルゼルダ〉の戦術リンクとて、死角が生じる。本来は直面するだけでなく、少し離れた位置からの観測を加えて精度を高めている。ちょうど〈パイオーン〉には〈マキシマス〉の船体に隠れるような位置どりをされた。共和国側がスターヴェイク側に食い込んだような形でもある。視界に限界があったのだ。迎撃艦の位置どりは定石通りとはいえ、〈マキシマス〉からも〈エーテルゼルダ〉からも視認しづらい位置となる。その為に、〈パイオーン〉の一斉攻撃は防ぎえぬ一撃となってしまった。元より〈マキシマス〉の乗組員(クルー)は人の限界を超えた対応をしてくれていたのだ。〈マキシマス〉ではなくて、ここまでアイローラ提督に追い込まれたカース提督の負けである。

 

「共和国全艦の降伏をスターヴェイクに通達しろ。全艦に停戦を命じる。勝負はついた、これ以上は蛇足だ。」

 

カース提督は敗北を噛み締めながらも、どこか清々しい思いを味わっていた。出来る限りのことはしたという思いがある。勝負も対等だった。これで勝てなかったのは致し方ないが、やはりこの敗北はどこか順当なものであるという感想を抱いてしまう。

 

「〈イーリス・コンラート〉抜きの勝負に持ち込んだのだ。この結果には納得してもらうほかないな。」

 

共和国はもう終わりである。しかし航宙軍はその存続の為に出来るだけの事をしたのではないか。共和国は、無二の一戦を仕掛けて勝たねばならない所にいた。その状況に追い込まれた、それ自体が負けである。やはり政治や戦略といったより根源的な段階での敗北であったのだろう。提督としての技量の差は、言うほど開いてはいなかったのではないか。その点が均衡していたからこそ、新たな戦術を生み出した側が勝利したのだ。

 

 

 

 

 

▫️惑星アレス▫️

 

人類スターヴェイク帝国の幹部を集めた最高会議の場で、俺はバグス問題の最終解決案を提示した。それはバグス居住星系を一つだけ用意し、全バグスを人類圏から隔離するという内容だった。

 

「人喰いの怪物バグスを隔離して生き残らせる、というのですか。私は反対です。」

 

真っ向から反対したのは幹部の長老たるロベルトだった。ダルシムとヴァルターも静かにロベルトに同意している。

 

「人類世界の統一を成し遂げられた今は黄金時代です。兵は強く、武将は皆溌剌としております。しかし僅か数年前、クレリア陛下のお父君のご治世はそうではなかった。国力はいずれ衰える日もありましょう。その時に、苦労されるのは陛下の御子孫なのですぞ。」

 

俺が言葉を返せないでいるのをみて、リアがそっと横から口出しをしてくれる。

 

「アランには何か方策があるのだ。それに子孫の為になんの苦労を残さないというのも考えものだ。弛緩した帝国では存続させる価値があるとは見做され無いだろう。のう、アラン?」

 

エルナやアリスタは俺とリアを支持する構えだ。

 

「そうですね。バグスとて生かしておけば使い道があるかもしれません。」

 

慎重にそう切り出したのはエヴリンだ。彼女は独自の視点から、俺やリアに賛同しようとしていた。

 

「俺はバグスから利益を得るという考えには反対なんだ。実はそういう提案は受けている。しかし、全てはねつけた。人とバグスは不用意に関わるべきでは無いと考えている。」

 

俺の言葉にロベルトは満足そうに頷いた。バグスの支配種からはこれまでにも幾つかの提案を受けていた。依存性のない純粋に味覚のみを刺激する快楽物質。人を不老不死とする方法。安価で大量に忠実な兵士を用意する方法。俺はこの会議の場でその概要だけを披露した。

 

「なんと。」

 

今度は心を動かされたのはロベルトの側のようだった。国家の為に、危険を冒すべきかを考え始めているのだろう。

 

「実際には、不老不死とは人と虫の中間のような生物となる事だ。人としての美しさは失われる事になる。兵士についても同様だろう。人を虜にする味覚については惜しい気もするが、これはアヘンのような麻薬と見ていい。額面通りに受け取らない方が無難だろう。だからバグスとの取引はしていないし、今後もするつもりもない。」

 

会議の場に静かな同意が広がる。利益だけ見れば心動きれる者もいるだろう。だがどれも人類が自身の力で成し遂げてこそ、意味がある。バグスとの取引は、いわば悪魔との取引だ。人を食い物にしようとする相手である。関われば不幸になる結末しか見えない。その前に滅するべき存在なのだ。

 

「では、どのようにバグスを隔離されるのですか。隔離の方法が万全なら、ロベルト殿も安心されるでしょう。」

 

ダルシムがそう切り出した。バグスの利用という可能性への否定が示された事で、彼ら根絶派も一定の譲歩をしてくれる気になったらしい。

 

「これだ。」

 

俺はイーリスに合図して仮想映像を宙に表示させる。

 

「人類には不適当な一つの恒星系をバグスに与える。人には少しだけ暑く、湿っているが調整すればバグスには快適な星になるだろう。手付かずだから鉱物資源も豊富に存在している筈だ。」

 

「しかしこれだと簡単に船を建造して出れてしまうのでは?」

 

アサドが疑問を呈する。

 

「そこだ。俺としてはバグスは永遠にその星から出られないようにしたい。そこでイーリスに頼んで対策をした。」

 

映像上の恒星系がカプセルに包まれる。映像上はカプセルに封じるイメージだが、実際は泡状だ。これは時間を停止させて泡状にしているものだ。

 

「星系をこの泡状の物体で囲む。構成された境界を出ない限り、星系内のバグスは安全だ。しかしこの境界を超えてしまうと、バグスの星系を包む時間の泡が全て崩壊する。そうすると中にいるバグスはその外の脅威に晒される仕掛けだ。」

 

星系を包んだ時間の泡は、特殊な環境に存在させてある。それはブラックホールの只中だ。この特殊な庇護がなければ、到底生物の生きられる環境ではない。

 

「時間の泡の庇護がなければ、恒星系はブラックホールに呑み込まれて即座に崩壊するだろう。バグスは人と違うからブラックホールの中で状況をどう知覚するか分からないが、破滅が来たと理解する時間もないかもしれないな。」

 

「なるほど、地獄の薄皮一枚隔てた場所で生活をさせるようなものだと。」

 

ロベルトが理解を示す。

 

「そうだ。脱出の為の穴を掘ろうとすれば、地獄が顕現する事になる。」

 

会議の参列者は全員がバグスに対するこの措置に賛成した。後はバグスが受け入れるか、それとも俺の手で滅ぼされる事を選択するかだった。

 

 

 

 

 

 

▫️〈イーリス・コンラート〉艦内▫️

 

バグスと取引するとは胸糞悪いが、悪しき前例により彼らと取引らしきものが成立する事は分かっている。後は相手がどこまで信頼できるか試す他ない。俺は自由の身である最後のバグス艦隊を捕捉していた。そうして通信チャンネルを開き、交渉を開始する。

 

「降伏しろ。条件は既に伝えた通りだ。一つの星系でのみ、種を存続する事を認める。」

 

「全宇宙ノ半分ヲアケワタセ。」

 

この相手は強気だった。これまでの研究で、バグスの支配種は異なるタイプに分かれると判明している。実際に艦隊を率いるのはこのような戦争を好む種だ。やはり話し合いには不適当である。人の交流には不可欠な共感性といった要因が、著しく低いのだ。

 

「話にならないな。それではお前達は処分する事にしよう。セリーナ、シャロン。ここは全て任せる。」

 

「「了解」」

 

興奮したバグスが何か脅し文句を口にしている。翻訳がカットされた為、内容は分からない。イーリスはモニターしている筈なので、聞き捨てにできない内容があれば報告してくれる筈だった。

 

「イーリス、やはり惑星型と交渉を進めよう。同席してくれ。」

 

「了解しました。」

 

俺はイーリスに声をかけると、艦内の対バグス戦研究所への転送門開通を指示した。戦闘指揮を委ねて、捕らえたバグスの支配者の元へ向かう。そう、今は彼女こそが真のバグスの頂点である。

 

その支配種は蚕に似ている。ふわふわとした白い優雅な毛で覆われており、人に不快感を抱かせない。人肉ではなく、特別に調整された餌しか口にしない。彼女と対峙していると、バグスと人類が対話可能だという幻想に囚われる。しかし両種族の溝は大きい。伝承上の悪魔のように、やはり人を餌食としか考えていないのだ。そのような相手と本当に分かりあう事は、相手の存在を許せないという理解に繋がるのだ。

 

「交渉は失敗した。お前が全バグスで最後の交渉相手だ。」

 

俺は感情制御フィルターを最大にして彼女と対峙した。この相手は、時に人間以上に人間らしい。そっとこちらに寄り添う事で人を惹きつけようとする。

 

「やはりそうですか。だから申し上げたのです。攻撃的な種は、知能が低いと。」

 

彼女は眠りから目覚めたばかりのような素振りを示す。伝説の妖精のような、人型に変化した蚕のような姿をしている。人としてみれば疑いなく異形ではあるが造形的な美しさはある。その体内からは多数の人類に由来する遺伝子が発見されていた。ある意味では彼女は、バグスが人類に対抗する為に二千年かけて磨き上げた人と蟲の混合物(ハイブリット)なのだ。バグスとて、人の影響を受けて変化していたのだ。

 

「こちらを誘惑する様子は、何度見ても悍ましいな。」

 

「あら、魅力を感じるからこそ誘惑と分かるのではないかしら?」

 

彼女の本質は人に似せて作られた蠢く虫でしかない。だがある意味では生身の人類の女性以上に、理想的な女を演じられる存在なのだ。恐らくは、幾人もの人類をそうやって餌食としてきたのだろう。

 

「それで、君達の結論は出たのか。」

 

残されたバグスの支配種は全て捉え、彼女の支配下にいる。

 

「ええ、全員が同意してくれました。そちらの提案を受け入れます。」

 

「随分と物分かりがいいな。最後の艦隊を率いていたバグスとは大違いだ。」

 

「全宇宙の半分をよこせと言いませんでしたか?それはバグスには相手の存続を認める最大限の譲歩、なのですが。」

 

俺は思い返す。翻訳された音声は確かにそんな内容を口にしていた。

 

「…確かにそんなような事を口にしていたな。話にならない条件なので、部下が既に撃破している筈だ。」

 

彼女は抗議するように、ギチギチと音を立てる。イーリスが翻訳しない事を見ると、一種の抗議や減らず口の類なのだろう。ここまではバグス自身が翻訳機を介さずに人の言葉を使って話している。そう考えると、本当にこの蟲は人を籠絡する為に作られた存在なのだろう。

 

「入念な探査は終えた。隠している卵があるかもしれないから、今後も探索は続ける。全バグスを率いて、流刑地に行け。その中でのみ、種の存続を認めよう。君達が人を欺かず真に和平を結ぶ方向に進化すれば、我々は遠い未来に対峙出来るかもしれない。」

 

正直に言って、この蟲はかなり人らしい。食事の場に同席しても、恐らくは気にならないくらいに。全バグスがこの方向に進化していれば、人と分かり合えたかもしれない。しかし俺の中の軍人として醒めた部分は、同時に警告を発している。これは全て欺瞞なのだ。バグスの本質は人類にとって本質的には悪である。そうである以上、全ては幻想に過ぎない。

 

「万事承知しています。アラン、貴方とは是非また再会したいわ。再び会える日を楽しみにしています。」

 

全てのバグスは目的地に導き、艦は破壊した。〈イーリス・コンラート〉がその星系から転移して脱出した時、惑星上に取り残されたバグスは1から文明を再建する必要があった。しかしバグスは、我々人類のナノム以上に必要な機能を体内に全て揃えている。繁殖に必要な状況さえ整えば、食料さえ自給自足で増えていくのだ。ただ人肉を好むという特性さえなければ、惑星開拓には最適な種族だったのだろう。両種族が協力し合えば、全宇宙で生命の存在する惑星は更に増えていたに違いなかった。

 

「アラン、決断を後悔しているの?」

 

艦橋からバグスの惑星を眺めていると、セリーナが俺に声をかけて横にそっと並んだ。

 

「俺がバグスを存続させた事は、やはりバグスに影響されているのかもしれない。」

 

「そうね。でも人は有害な生命種をこれまでも絶滅し根絶させてきたわ。」

 

セリーナの言葉に俺は頷いてみせた。

 

「そうだな。俺もそうするべきだったのかもしれない。」

 

「でも、少し監視した方が安心です。泳がせて彼らの行動を確認する。そうやって得られた結果こそが、バグスの本性で間違いない筈だもの。」

 

 

 

 

 

 

▫️首都アレス▫️

 

皇太子出産の日、俺はリアが無事に育成された赤子と共に世に生まれ出る瞬間を再び肉体を得たイーリスと共に待っていた。イーリスが異常を検知したのは、この僅かな待機の瞬間である。

 

「…幽閉環境のバグスが動きました。」

 

俺はため息をついた。捕らえたバグスの支配種と会話した事があるのは俺だけではない。そしてその会話の中には、俺の子の出生予定日も含まれていた。バグスはその日が監視が緩む日と考え、行動を開始したのに違いなかった。艦の再建もこちらが想定していたより早く進められたのだろう。

 

「…それで?」

 

「一歩外へ踏み出そうとすれば、そこはブラックホールです。これまで彼らを保護していた膜が破れたのです。もう、どうにもなりません。」

 

イーリスは無感情に残酷な結果を告げた。バグスと人類の共生する試みは、脆くも崩れ去った。人類側が押し付けたとはいえ、バグス側は協定を破った。やはりバグスは、人と対等に共存する余地はなかったのだろう。

 

俺の脳裏をブラックホールの高重力に瞬時に引き裂かれる星の姿が思い描かれた。恐らくは世界は痛みもなく瞬時に飲み込まれただろう。或いは真空に耐えるバグスの肉体は最後の状況を知覚できたのだろうか。

 

「…最後のバグスも、これで滅びたのか。」

 

「ええ。安心されましたか? 殿下が産まれ出る世から人類の脅威が一つ取り除かれた事に。」

 

イーリスが俺に尋ねる。

 

「分からないな。まだ親になる実感もまるで持てていないのだから。」

 

人類の世界は一つに統合され、敵対した異星生命体バグスは遂に根絶された。この新たな環境に、人類はどのような文明を築き上げていくのか。それはきっと、これから産まれる子が住み易い世の中にする。そうやって、人は世界を切り拓いてきたのに違いなかった。




駆け足となりましたが遂に最終話となりました。これまで読んで頂いた皆様に感謝申し上げます。ありがとうございました。特に感想を頂いた方々のおかげで完走できました。

物語はこれで終幕ですが、少し貯めて書きたくなった頃にエピローグを追加したいと考えています。今暫くお待ちください。
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