【二次小説】航宙軍士官、星を統べる (原作:航宙軍士官、冒険者になる)   作:高坂 源五郎

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Ⅰ ベルタ王国統一記 12話 【金鉱山編】バルテン士爵の賭け

ベルタ王国統一記 12 バルテン士爵の賭け

 

ベルタ王国におけるギニーアルケミンの保管施設は金鉱山の奥深くにあった。その場所は軍のごく一部の者にしか知らされていない。ギニーアルケミンは製造の自動化された貨幣鋳造機である。いわゆるアーティファクトと呼ばれる魔道具の一つだ。精緻な貨幣鋳造の工程を自動化してくれる優れものだが、当然ながら貨幣を製造する原料は必要になる。

 

操作自体は簡単だが、原材料の用意は言うほど簡単ではない。金貨と言っても金だけでなく原材料に銀を含んだ合金である。その材料を一定の量と比率を用意しなければならず、材料の準備にはある程度の専門性が必要となる。

 

特に重要視されているのは成分としての金を含んでいれば自動で生成してくれる為、純金でなくとも対応が可能な事だ。結果としてベルタ王国の金貨鋳造は鉱山外から持ち込んだ金と、鉱山内の金含有率の低い金鉱石を併用したシステムとなっていた。

 

鉱山の金鉱石は、金の筋が微かに見えるだけの程度の低い鉱石だ。そんな低含有の金鉱石から金を抽出可能な技術はまさにアーティファクトの名に相応しい。だが、正式な素材を用意した際に比べると圧倒的に作業時間を要する。

 

金塊や砂金といった分かりやすい金は優先的に処理されてきた。市場から安く回収した金を溶かして再利用する形で補ってはいる。しかし、量としては金鉱石に頼る割合が高く、製造速度は低下の一途を辿っていた。

 

宰相府を出たウルス・バルテン士爵は頭を抱えていた。彼こそはギニーアルケミンを管理する高級武官の一人だった。彼は報告の為王都に戻り、そのまま2ヶ月の休暇に入っている。だが休暇とは名ばかりで宰相との折衝に忙殺されていた。

 

金貨の鋳造は国王の名の元に宰相府が総括している。その事は結構な事だが、宰相府は護衛名目で国軍に鉱山管理を丸投げし、生成された金貨は独占していた。

 

そこまではまだいい。宰相府であろうと、金貨の消費が激しかろうと、国の為に役立つならば問題ない。問題は、宰相が金貨鋳造の構造に無理解だった事だ。

 

「(つまるところ、奴らは金の卵を産む鳥を軍に守らせているとしか思っていないのだ)」

 

卵を産む鳥なら餌が要る。しかしどんな餌が必要かまでは宰相は頓着しない。

 

『金鉱山ならそこにある鉱石を食べさせれば良いではないか。そんな事になぜ時間がかかるのか。』

 

宰相には何度もそう罵られた。しかし、鳥に食わせる餌も吟味する必要がある。金の卵を産む鳥なら尚更そうではないのだろうか?

 

「(だが、言っても理解されん)」

 

バルテン士爵はため息を吐く。この重要任務にはバルテン士爵の同僚が他に2人関わっている。彼らは2ヶ月を周期として2回勤務したら1回休みを繰り返していた。共に働く同僚は1回勤務で休みに入り入れ替わる。半年の内に2ヶ月の休みが含まれる。

 

ただし2ヶ月の休みには王都への往復と報告が含まれている。いうほど気楽な旅では無かった。距離の問題もあるが、金貨や原料を輸送するので失敗のできない護衛任務である。そして王都について気が休まるかと思いきや、そうではなかった。製造された金貨の量に対して不満を抱く宰相の叱責が酷いのだ。

 

彼らは軍人である。金貨も鉱山も専門家ではない。職人達を使って申し送りに沿ってやっているだけなこと。無論問題の抜本的な解決など出来ない。宰相も過去の事情など把握していないから、怒鳴り急かす事しかしない。

 

「先の宰相、ライスター卿の頃は良かった」

 

思わず本音が口に出る。幸いあたりに人影はない。誰にも聞かれてはいないだろう。

 

ライスター卿は怖くも公平な男だった。現場の職人の意見を理解しようとする努力は示していた。金貨を作ることを急かすのは変わらないかもしれないが、一緒に問題に取り組む姿勢は見せた。問題解決に前向きな点には好感が持てた。あれこそ宰相のあるべき姿ではないか。

 

『(あの方は忙しすぎたのだ)』

 

ライスター卿は何もかも抱え込んでいた。そこを政敵に利用されたのだろう。いつのまにか宰相が入れ替わっていた。

 

これと言った政治力持たないバルテン士爵は黙って変化を受け入れるしか無かった。しかし、ベルタ王国がどんどん悪い方向に傾くのを感じている。

 

そろそろ王都から鉱山に戻らなければならない頃合いだった。

 

「(盗賊狩りのお陰で、街道が安全になったと聞く。道中は平穏だろう。それだけが救いだな。)」

 

軍人として金の護送に失敗は許されない。鉱山から王都には金貨を持ち運ぶが、王都から鉱山には食料と原料の金を輸送する。部下の兵もつくが現在は30名である。目立つのを避けるのであまり大勢の兵士を連れていけないし、宰相はコスト増加をとかく嫌う。

 

これまでさしたる被害は無かったが、盗賊を追い払った経験は豊富である。ある意味、部下達はベルタ王国では屈指の戦闘集団に仕上がっている。アーティファクト守護の重要性を考えるとそれも当然なのだが。

 

だが盗賊が徒党を組むと始末に悪い。先日、盗賊狩りのコリント卿が一度に150人の賊を撃退したと聞く。150名の賊は30名の兵では対処不可能だろう。先の宰相の時代は部下の兵士は50人いた。50名の精鋭なら寄せ集めの150人相手なら捕縛は無理としても撃退はしてみせるのだが。

 

だが、削られたり退職後に補充されずで今に至る。補充されない兵士の給金は宰相が着服しているのではないかとバルテン士爵は疑っているが、そんな事を考えても埒は明かないだろう。

 

王都にある自身の館に帰りつき、扉を開ける。通いの女中が料理の支度をしているはずだが、居間が暗い。その事を不審に思った時、不覚にもバルテン士爵は背後から首筋に刃を突きつけられた。

 

それでも怯まず背後の男に挑みかかろうとしたところで、予期せぬ方角から鈍器が振り下された。どうやら気が付かない内にすっかり囲まれていたらしい。頭に激痛が走る。しかし尚もバルテン士爵は敵に挑みかかろうと敵の姿を探した。黒ずくめの男達が屋敷内にいる。賊が室内に充満している。

 

「何者だ、貴様ら」

 

「いいから、眠れ」

 

再び頭に衝撃を感じ、バルテン士爵は今度こそ昏倒した。

 

「長、時間をかけてすみません。」

 

振り下ろした暗器をしまいながらフランツがエルヴィンに詫びる。

 

「いや、流石だフランツ。こんなビッグボアのような頑丈な男を昏倒させたのだ、誇っていい。」

 

エルヴィンは靴先でバルテン士爵の肋骨を蹴る。この衝撃で起きなければ本当に昏倒しているだろう。

 

「いつもより念入りに拘束しろ、失敗は許されん。隠れ家に運ぶぞ。あの方の部下も見ているはずだ、手際の悪さを示すなよ。」

 

エルヴィンの指示の元、バルテン士爵が縛り上げられ袋に入れられる。それを絨毯のように軽々と肩に担ぎ上げて、暗い衣装を纏った男達は夜の闇の中に消えた。

 

 

バルテン士爵が目を覚ますと自宅ではない見慣れぬ家の中だった。殺風景な部屋の中には数脚の椅子以外は何もない。縛り上げられて床に転がされていた。

 

首筋に冷たい金属の感触がある。よく研がれたナイフを押し当てられているようだった。

 

「ギニーアルケミン、知っているな。主人があれを欲しがってる、場所を教えろ。」

 

錆びた声が響いた。反応しないでいるとナイフが引っ込み、背後から顔を殴られた。

 

「長にお答えしろ」

 

くぐもった声が背後から聞こえる。

 

「あれはベルタ王国の宝、賊に渡すつもりはない。」

 

バルテン士爵は死を覚悟した。この状況ではどうせ助からないだろう。宰相は虫がすかないが、賊に国宝をくれてやる義理はない。それに賊にギニーアルケミンを差し出した所で命が助かるとも思えなかった。仮に命長らえても宰相に断罪されるだけだろう。失敗を犯して宰相の前に引き摺り出されるのは願い下げだった。賊に一思いに殺される方がまだマシである。

 

再度、背後の人物が顔を殴ろうとした時、正面にいる長と呼ばれた男が制止した。

 

「なあ、少し話をしないか。」

 

それは思いのほか穏やかな口調だった。

 

「よかろう、どうせ殺されるのを待つ身だ」

 

バルテン士爵も腹を括っている。どんな話か聞くだけ聞いてやろうという、とそんな気になった。

 

「我々もな、宰相のヴィリス•バールケに使われていた。だがある方に出会って改めた。今の宰相なぞ、あの方に比べたら小悪党でしかない。」

 

「お前ら、宰相府の隠密の類だったのか。」

 

「そうだ。」

 

バルテン士爵は呆れた。宰相府は何をやっているのだという気になる。隠密など子飼い中の子飼いのはず、それに愛想を尽かされるとは宰相の威望も地に落ちているらしい。まぁ、ヴィリス・バールケとはその程度の男なのだ。

 

「それは死ぬ前に良い土産話を聞けたな、どうせならあの宰相が痛めつけられる様は見たかったが、生で見たら少しは溜飲を晴らせたろう」

 

それは掛け値なしの本心だった。死を覚悟するとスラスラと本音が口をついて出た。今更隠しても仕方ない。王国の秘密は守る。だがその代わり本心は幾らでも吐き出させてもらおう。

 

黒服覆面の男達もこの反応はやや意外なものであったらしい。しばし目でやり取りしていたが、長の命令でバルテン士爵は両脇を抱えて立たされると椅子に座らされた。厳重に縛り上げられているのは変わりないが、顔を床につけずに済む。格段に快適になった。

 

「協力してもらえないか。こちらとしても味方についてくれるなら我らが主人に取りなす。悪いようにしない。何より宰相の鼻を明かす事が出来るぞ。」

 

それは存外、魅力的な提案だった。バルテン士爵はその誘惑を堪能した。しかし結論はとうに決まっている。

 

「俺は軍人だ、宰相がいかにクズだろうと賊の味方はせん。王国の秘密は漏らさん。俺が話せるのは宰相の性格の下衆さくらいだな。彼奴のさもしい根性の話なら幾らでも話すぞ。」

 

「そうか」

 

長はふっと笑った。

 

「先ほど、ライスター卿の頃は良かったと、そう言っていなかったか?」

 

「あの呟きを聞いていたのかっ!?」

 

確かに声に出ていた。しかしそんなに長く尾行されていたのに、気配を気取る事はまるでなかった。てっきり家の中で待ち構えていたから不覚を取っただけと思っていたが、実際は違っていたらしい。

 

「そんな独り言も聞かれていたか。こりゃ、俺も捕まる訳だな。」

 

「そう、怒るな。」

 

長は取りなすように言った。

 

「我らも先の宰相のライスター卿、いやヴェルナー様には大恩がある。それだけに現宰相のバールケは許せんのだ。ヴェルナー様を幽閉したのはバールケなのだからな。」

 

「どういう事だ?宰相とライスター卿の失踪がどう関係する?、この2人は盟友だろう。」

 

「以前は確かにそうだった。だがヴェルナー様を裏切り、王城に密かに幽閉したのは現宰相のバールケの仕業よ」

 

「なんだと、証拠のある話かそれは?」

 

バルテン士爵は王城にも宰相府に出入りする身である。ライスター卿とバールケ侯爵が仲良く歓談する所は何度も目にしていた。それだけに賊にそう告げられたとはいえ、はいそうですかと信じられる話ではない。

 

ただ、今思えば宰相の地位についてからのバールケの性格の豹変ぶりは酷い。かつては猫を被っていたといわれると、その点については否定できないものを感じる。

 

「安心しろ、ヴェルナー様は我が主人によって王城から救い出された。ヴェルナー様こそ生き証人よ。今は、宰相のバールケを倒す為に共に戦っておられるそうだ。」

 

「そうなのか」

 

複雑な気分だった。ライスター卿の苦境を知らなかった事も、宰相バールケの犬に成り果てていた自分にも憤りを感じる。しかし知らされない立場だからこそ、どうしようもないという思いもある。

 

「ライスター卿が生きておられるなら、お話を聞いてみたいものだが。」

 

そうすれば今のベルタ王国がいかにしてこのような状況に成り果てたか分かるかもしれない。

 

「士爵も知っているだろう、宰相のバールケはダメだ。器量が狭い。」

 

「ああ、それには同意する」

 

バルテン士爵も賛同する。バールケの悪口なら一晩中でも話せる。

 

「知っているか。セシリオ王国が虎視眈々とベルタ王国を狙っている話を」

 

「無論、知っている」

 

王国軍ではセシリオ王国のルージ王太子の野心は有名な話だった。危機感を覚えている軍人も多い。宰相府に納める金貨も、本来は王国防衛に向けた軍備増強に使われるべきものだとバルテン士爵は信じている。

 

「私もな、こんな隠密の務めをしているとセシリオ王国の脅威に嫌でも気がつかされる。だから憂えていた。我らの暮らしはどうなるのかなとな。」

 

バルテン士爵は沈黙した。軍に身を置くものこそ、そのような脅威に対応しなければならない。優秀な軍人は多いが、その全員が心から喜び仕事をしている訳ではない。国内の空気は明らかに悪くなっている。

 

「だかな、宰相にせよセシリオ王国にせよ我々がどうにかできる事か。俺も貴様も国政の駒でしかないだろう。」

 

駒、それは宰相のバールケが好んで使う言葉だった。

 

「我が主人は本物の英雄だ。あの方の力は図り知れない。」

 

「お前の主人とライスター卿が共に戦っていると言ったな。おい、その辺りを詳しく教えろ。」

 

「宰相のバールケはな、我らが主人の活躍が目障りとなった。毒殺しようとしたのだ。バールケの得意技だよ。」

 

「バールケ侯爵は毒を使うのか、確かに思い当たる事件は多いが、にわかには信じられぬ」

 

「信じずとも良いが、我らも深く関わっていた。バールケの手の内は知っている。だがな、その毒殺が失敗した。それで当時は宰相の手の者であった我らが暗殺を命じられたのだがな、見事に返り討ちにあった。」

 

「それで裏切ったのか?」

 

「そうだ。懸命に命乞いをした。任務の為ならともかく、あの宰相の為に死にたくはない。が、裏切ったのは宰相が先だ。ヤツには報酬を削られてな、命を賭けた役目に合わぬ額になっていた。それでも仕事をしていたのは先祖代々果たしてきた役目に対する誇りのためよ。だが、バールケはその誇りこそ打ち砕いてくる。だから我らも他国に逃げる算段をしているところだった。」

 

バルテン士爵にも覚えがある。宰相は職務への誇りを打ち砕くし、金にも汚い。

 

「実は俺もな、バールケ侯爵に部下の数を削られた。なんだかんだと理由をつけてな、あの宰相は金に汚すぎる。」

 

「よく分かるぞ、あのような男の下は働きたくない。死んでも報われん。国の為、一族の為と宰相の為に励んできたがな、なんという事はない。奴の私欲に力を尽くしただけよ。」

 

「ああ、それは俺も分かる。あの男はどこまでも私欲だ。」

 

若い頃はがむしゃらに働くだけだった。だが多少は歳を取ったから分かる。励んでも汚い上役にいいように使われるだけなのだ。仕事の中身や報酬は変わらずとも良い。だが無理解な上役に罵られ予算を削られながらやりくりするのは骨身に堪える。

 

「奴の手を離れて確信している。あの男はダメだ、主人の足元に及ばん。」

 

「お前らの主人とはそれほどの男か」

 

「毒で殺せず、ヴェルナー様を牢獄から救い出してそれを宰相に気取らせていない。我らを返り討ちにし、危うく一族の男が根絶やしにされるところよ。それが我らが主人だ。別格だよ。」

 

「しかし惜しいな、それほどの英雄なら俺も見たかった。だが、であればこそ次は宰相に潰されるだろう。」

 

「そうだ。今のあの方の抱える問題はそれだ。だがな、宰相が勝つとは限らんぞ。むしろ宰相では勝てない。」

 

「おい、どういう事だ。そこまで話したなら教えろ、どうせ死にゆく身だ。誰に漏らす話でもないのはお前が一番良く知っているだろう、なぁ。」

 

「本当はギニーアルケミンの秘密と交換といきたい所だ。だが、共に宰相に苦しめられた仲、特別に教えよう。」

 

「頼む」

 

「宰相はな、既に領地から兵を発して主人を攻める算段をしている。だが、我らの信じるあのお方は問題なくそれを撃退されるだろう。」

 

「もうそんな所まで話が進んでいるのか、それでは内戦ではないか。」

 

宰相の私兵はそこまで多くない。しかし宰相と結託する貴族が多数派である。駆り集めれば王国随一の勢力になるだろう。

 

「お主らの主人も終わりではないのか。宰相一派にどうやって内戦で勝つというのだ。」

 

「どうやって勝つかまでは分からぬ。だが我らが主人の勝利は揺るがないだろう。」

 

「信じられんな。宰相憎しで目が曇っているのではないか。」

 

「我らも主人の秘密を話すわけにはいかぬ。だが賭けをしないか。これまでの話が真実ならどうだ?」

 

「真実ならば」

 

バルテン士爵は考える。真実ならどれほど心躍ることか。

 

「真実ならば胸が躍る。退屈な日常を離れ、英雄の伝説の中でその一員となるのだろうからな。」

 

「それだ。我らもまさに伝説の誕生に立ち会う気分でいる、その為にギニーアルケミンが欲しい。主人への相応な献上の品としてな」

 

確かにあのアーティファクトは宰相の手にあるのが惜しい。英雄に捧げるに相応しい品だった。

 

「で、どんな賭けだ。」

 

「我らが主人が宰相の一派の軍を打ち破ったならギニーアルケミン入手に協力しろ」

 

「俺が賭けに勝ったら?」

 

「あり得ない事だが、賭けは成立させねばな。命は助ける。」

 

「命を助けられるだけでは割に合わないな。」

 

「ふむ」

 

長はしばし考え込んだ。

 

「おい、鉱山までどれほどかかる」

 

「王国の秘密は言わん」

 

「賭ける気になったのだろう。鉱山に着くまでを賭けの期限にしようというのだ。良いから教えろ。」

 

「俺は2ヶ月の期間の休暇のうちに王都から鉱山に戻る。道が順調なら片道が馬で10日だが、余裕を見て14日前に出立する。明日にでも出立するつもりだった。」

 

「では今からだと2週間だな。2週間以内なら間に合うだろう。宰相一派は私兵を派遣した。それを打ち破ればこちらの勝ち、打ち破れなければそちらの勝ちだ。決着がつかない場合は勝負は持ち越しだ。」

 

「俺が勝ったら何を貰える?」

 

「そうだな、ギニーアルケミン奪取は諦め以後手出しせぬ。俺のこの首も差し出そうではないか。」

 

「長!」

 

部下に制止されるも、長と呼ばれる男は怯まなかった。

 

「主人は必ず勝つ、見込みが違えば宰相に一族が滅ぼされない用心もいる。首謀者の首を差し出すのは当然だろう。」

 

バルテン士爵は愉快な気分になった。

 

「よかろう、賭けに乗った。共に酒でも飲もうではないか。縄を解け。」

 

「今は酒は遠慮する。賭けの終わりで酒を酌み交わそうではないか。」

 

「ふふふ、それも良かろう」

 

「我らはこれで去る。約束はゆめゆめ忘れるなよ。常に見ている。鉱山の場所を隠そうとしても無駄だ。賭けの約束を守ればそちらが協力するか我らが諦めるのどちらかなのだ。」

 

「おう、俺も約束は守る。安心しろ」

 

背後から何やら布を口にあてられ、バルテン士爵は意識を失った。起きた時は自宅の居間にいた。頭痛以外に異常はなく、夢を見たのかと疑いもした。しかしテーブルに突き立てられた見覚えのないナイフが、昨夜の出来事が嘘ではないと語っていた。

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