【二次小説】航宙軍士官、星を統べる (原作:航宙軍士官、冒険者になる)   作:高坂 源五郎

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Ⅰ ベルタ王国統一記 14話 【金鉱山編】金鉱山での根回し

ベルタ王国統一記 14 金鉱山での根回し

 

野営地は朝から重苦しい雰囲気に包まれていた。昨夜、バルテン士爵が宰相の手紙を部下に披露したのだ。それは当初からの予定通りの行動だった。宰相の無理な要求は鉱山に関わる全員に関係する。いずれ伝わる話なのだ、もう街に立ち寄らないタイミングで麾下の兵にも伝えるべき話だった。

 

皆眠れない夜を過ごしただろう。ただ、個人が出来ることは多くない。個々が最善を尽くしてのこの結果と、皆が分かっていた。

 

「(ここからが計画変更だが、どうなるか)」

 

バルテン士爵は素早く腹を括ると、部下を呼び集めた。

 

「我々の現状は昨夜教えた通りだ。鉱山には低含有な金鉱石しかないが、宰相はもっと金貨を寄越せと仰せだ。ハッキリ言ってこれまでの倍量の提供など不可能だ。」

 

咳き一つ聞こえない。朝の澄んだ空気の中、バルテン士爵の言葉が部下に染み渡る。

 

「俺は欲深な宰相に嫌気がさした。かと言って盗賊に落ちる気はない。だが、俺たちを受け入れる有力者のアテがある。キニーアルケミンを手土産にそちらに合流しようと思う。皆はどう思う、この話。」

 

「本気なのですか?」

 

「しかし宰相の手が届かぬ場所などこの国にありません」

 

「他国に行くのは嫌です」

 

兵が口々に言う。そこまではバルテン士爵の想定内だった。

 

「他国は俺も願い下げだ。ならば竜殺しと盗賊狩りの異名を持ち、ガンツ伯を討ち果たした護国卿のコリント卿につく、というのはどうだ?」

 

「か、可能なのですか?」

 

「幾ら護国卿でも我らを匿う理由がないのではないですか?」

 

「でもガンツならここから王都より遥かに近いぞ、馬を飛ばせば5日でつく。」

 

コリント卿の名前を出しても忌避感はない。その手があったかと考え込む層が一定数いる。見込みはそれなりにありそうだった。

 

「ガンツ伯は宰相の盟友だった。そもそもガンツ伯がコリント男爵領に侵攻したのも宰相の差金よ。」

 

驚きの声が上がる。だがその中に納得の響きもある。貴族の私戦は珍しくはないが、大抵は元々拗れている間柄で起こる。成り上がりと近隣の古参貴族の諍いが、最初から大規模な私戦になるのは聞いた事もない。

 

「ガンツ伯を返り討ちにしたコリント卿が、宰相に我々を突き出す理由はない。我々を兵として活用する筈だ。コリント卿にはガンツ伯を討つだけの武威もある。それにな、コリント卿は既に兵を募集しているぞ。それも悪い扱いではない。」

 

商業ギルドから写しを入手した募兵要綱の紙を回覧させる。薄給で酷使される部下達にとってかなり魅力的な条件のはずだ。

 

「手土産を持っていけば、この条件より扱いが良くなるはずだ。宰相の手から守られる為には、やはり手土産は必要だしな。」

 

回覧と共に仲間内のヒソヒソ話が広まるが、バルテン士爵は敢えて放置した。剣を杖代わりに皆の前に仁王立ちしている。この件は兵に進退を決めさせないと意味がない、その事を彼は熟知していた。

 

謀反の計画なのだ。王国に忠誠を誓う兵が士爵を誅殺してもおかしくない。実際、行き先が隣国ならそのような展開となっても不思議はなかった。だがガンツは王都から遠いが、ベルタ王国国内である。そして宰相への不満は皆が大なり小なり抱いている。

 

話がまとまったのだろう。年配の兵が進み出た。バルテン士爵が片腕とも頼む古参兵のクリストフだった。

 

「皆で話し合いました。我々は士爵に従います。」

 

一つ目の壁は超えた。

 

 

バルテン士爵の一行が金鉱山に到着したのは翌日の昼だった。見張の兵に挨拶して鉱山に至る門を潜る。厳重に警備されているが、皆顔見知りであり、そろそろ到着すると知られている。バルテン士爵の一行の無事の到着をホッとした様子で受け入れてくれた。

 

「ザイフリート士爵とプレル士爵がお待ちです。」

 

早速、金鉱山を統括する2人の同僚に呼び出される。バルテン士爵は部下のクリストフに目で合図すると、指揮官用の宿舎に向かった。まずは同僚に現状を報告せねばならない。

 

「帰ったか。」

 

最年長のザイフリート士爵が言葉短く出迎えてくれた。年若いプレル士爵は無言でワインを注いでくれる。

 

「道中は問題なしか?」

 

「道中は盗賊狩りの活躍でこれまでにない快適さだった。盗賊など影も形もない。だが、宰相がな。」

 

宰相の直筆の手紙を2人に渡す。口で説明するより現物を見せる方が早い。一読してザイフリート士爵は呻き声を漏らした。

 

「働きの悪い職人選んでを磔にしろだと?宰相はついに正気を失ったか?」

 

「欲に狂っている。が、残念ながら本気のようだ。」

 

そう言ってバルテン士爵は注がれたワインを飲み干した。

 

「要求量も過大過ぎますね。不可能な量過ぎて笑えてきます。」

 

プレル士爵もバルテン士爵におかわりのワインを注ぎながら言う。

 

「しかもザイフリート士爵の隊が王都に戻る際に持参させよ、との命令だ。鉱山での猶予は4日もないがどうする?」

 

「どうするもなにも、前回だって金をあるだけかき集めてようやく差し出したのだ。倍など不可能だ。」

 

「宰相は直筆の手紙を書いて寄越すほど本気だ。金のないのが不思議だったが、どうも内戦を仕掛けて失敗したらしい。」

 

「どういう事だ?」

 

バルテン士爵はガンツであった出来事を報告した。裏付ける資料もある。必要な物はエルヴィンを通じて商業ギルドから入手していた。

 

「信じられん」

 

「だが事実だ」

 

「なんともはや、宰相やガンツ伯は国内で争ってなんとするのか。」

 

大樹海はセシリオ王国にも近い。辺境の要石のガンツで騒乱が起きるとセシリオ王国が動きかねない。最年長で責任感の強いザイフリート士爵は頭を抱え込んだ。

 

「で、以上の状況を踏まえて俺から話がある。」

 

「いや待て、まずはこちらの状況を伝えよう。」

 

バルテン士爵の話はザイフリート士爵に制された。

 

「実はな、最近この鉱山は目をつけられている。」

 

偵察する人影がチラチラ目撃されるのだという。

 

「腐っても宰相の管理する鉱山だ、地元の貴族は手出ししようとは思わん。恐らく外国の勢力が入り込んでいる。軍装を確認している、おそらくセシリオ王国の兵で間違いない。」

 

「セシリオ王国か、こんな時に。」

 

「こんな時だから、でしょうね。先程の資料でようやくつながりました。宰相とガンツ伯は国境の巡回の兵を勝手にコリント卿攻めに動員したようです。それがコリント卿に打ち破られて国境警備がメチャクチャになったのでしょう。」

 

プレル士爵の指摘は恐らく正しいのだろう。国境の巡回の兵は幾つかの街を巡回し、地元の諸侯の支援を受けている。特にベルタ王国屈指の大都市ガンツによる支援は手厚い。逆にいうと、常日頃支援してくれているガンツ伯と宰相の二人の要請は断れない関係性だったと言える。それなりの兵を提供してコリント卿に打ち破られて兵が散り散りになった場合、機能不全に陥っても不思議はない。

 

「私欲で国境の守りを蔑ろにするとはアホか。これだから宰相は。」

 

「偵察の兵がこの2日ほど姿を見せている。今日明日にでも本隊が来るのではないかと気を揉んでいた。」

 

「それはまずいな」

 

鉱山の防備は硬い。しかしそれはあくまでも同程度の規模に対してだ。質も量も同等以上の相手の場合、死地になる。食料も定期的な補給が必要で、長期の籠城には向かない。巡回する兵の支援をあてにしての防衛体制である。近隣の兵が壊滅している場合、持ち堪えるのは難しい。

 

「なんと、内も外も問題ばかりだな」

 

「それでバルテン士爵の話とは?」

 

「何、鉱山を捨てガンツを頼るしかないのではないかという事だ。」

 

ザイフリート士爵もプレル士爵も沈黙した。

 

「実はな、ガンツを頼る検討はしていた。」

 

「しかしガンツがコリント卿の手に渡ったのが問題です。ガンツ伯のままなら安心できたのですが、なんといっても我々はコリント卿と面識がない。コリント卿に金鉱山の位置やアーティファクトの存在を伝えて良いのでしょうか。」

 

「ふむ」

 

バルテン士爵も考え込んだ。

 

「コリント卿はガンツ伯の代わりを陛下より任じられている。国防の指揮権も持つ護国卿だ。資格としては十分ではないのかな?この近隣の領主もコリント卿の指示に従う事になるはずだが。なら、地域としてはこの鉱山も対象に含まれるのではないか。」

 

「陛下がこの鉱山の存在を把握された上で、この界隈の領主にコリント卿の指示を仰げと命じられのなら良いのです。問題は陛下が我らの存在を把握していない可能性です。」

 

「おい、それでは完全に我らは宰相の私欲で働いていた事になるではいないか。だが、この事業は先代の宰相のライスター卿の時代から続くぞ。」

 

ギニーアルケミンの存在を国王が把握しているか。薄々疑っていたが、ここに来て彼らの進退に大きく影響を与えていた。

 

「なればこそ、だな」

 

バルテン士爵とプレル士爵のやり取りを聞いていたザイフリート士爵が口を開く。

 

「陛下が仮にご存知なくともギニーアルケミンが価値あるアーティファクトとしてベルタ王国の宝である事に変わり無い。ならば宰相の思惑を気にするより、保全を最優先に考えるべきだ。我々のすることはそれだろう。他国に持ち去らせるのは最悪だ。今は最悪を避けるべきだろう。」

 

「俺はギニーアルケミンを託すに足りるのはコリント卿のみと信じるが、結論が同じなら何も言わん。」

 

バルテン士爵もそう同意する。

 

「プレル士爵はどうか?」

 

「鉱山に籠城は悪手です、食料事情が脆弱すぎますし、我々は騎兵で鉱山に籠るのは不得手だ。逃げるならお供します。」

 

プレル士爵も賛同した。二つ目の壁も超えた。

 

 

 

ウルズラ•ドプナー女伯爵はセシリオ王国の王家に連なる高貴な生まれだった。現王太子のルージは従兄弟にあたる。しかし「親愛なる従姉妹殿」とルージに呼びかけられても親愛の情などこれまで一度たりとも抱いたことはない。

 

それでも次期国王のルージの命令には逆らう事は出来ない。国王が病床にある今、国政の大半はルージ王太子の指揮の下にある。

 

セシリオ王国によるベルタ王国征服こそ、ルージ王太子の悲願である。そしてドプナー伯爵領は地理的にはベルタ王国に極めて近い。ルージと関係性の近いウルズラは、ルージの指示でベルタ王国侵攻の足がかりを作る業務に没頭させられていた。

 

両国の街道は近傍の最大都市であるガンツで交わる。しかし、あまり知られていないが国と国の間の無人地帯の荒野を突っ切る野道がある。そこを使えばセシリオ王国のドプナー伯爵領からベルタ王国の街道まで出る事が出来た。

 

街道で地理を把握する商人には気が付かれないが、地形図で国境を眺める為政者や軍人だけが気がつく近道。これがルージ王太子の野心の下支えをしている。

 

これはベルタ王国の国防上の大きな穴だが、ベルタ王国側は広すぎる荒野の管理をし切れずに巡回の部隊を増やす事で対応している。やはりガンツに近いが故に魔物が多く、荒野に人が入って環境を整備するのに多大な困難がある為だった。

 

ある程度の規模の軍勢なら、樹海の外であればそうそう魔物に襲われない。しかし長期に定着しようとすると問題が生じるし、工事などは気が付かぬうちに、人の気配に誘われた魔物に職人が食い殺されていたりする。

 

こうして荒野は人の立ち入らぬ領域になったが、軍を率いていれば比較的簡単に走破できる。平坦だし獣道に近いが道もある。騎兵を使って走破すれば荒野は半日足らずで走破できた。危険な道ではあるが、目的次第では使い出があった。ベルタ王国のギニーアルケミンの奪取である。

 

ギニーアルケミンの存在を、ウルズラはルージ王太子から知らされた。金貨を製造出来る実利的な価値はもちろんだが、支配の正当性を担保する象徴的な意味がウルズラには遥かに重要だった。王家の血筋と、貨幣鋳造発行の権利と機能。この2つこそ王国支配の根底である。セシリオ王国王家の血筋を引くウルズラが、ギニーアルケミンを入手する意義は大きい。

 

ウルズラは独身である。ルージからは『ベルタ王国征服の暁には、ベルタ王国は従姉妹殿に預けても良い』という言質をとっていた。これの意味するところはウルズラによるベルタ直接支配ではない。ルージはそんな甘い男でない。

 

ウルズラがベルタ王国のアマド国王と婚姻関係を結べば、ウルズラはベルタ王国の女王となるという示唆だった。その直後にアマド国王が不幸な事故にあって死亡しても、ベルタを征服したセシリオ王国と強力な関係を持つウルズラが女王として残る。

 

ルージとウルズラは従兄弟関係であり、ウルズラなルージとの再婚に障害はない。こうしてセシリオ王国はベルタ王国の統治体制を完璧に構築できる。ルージとしてはウルズラは使い出のある駒だった。

 

ルージ王太子のこの計画に支障があったとすれば、ウルズラがルージを嫌っているという点に尽きる。ただしウルズラはルージへの嫌悪感を巧妙に隠していたし、ルージはそもそも全てが意のままになると考える傲岸な男なので、ウルズラの感情など意に介していなかった。

 

ルージは逆らうもののいない王太子なのだし、嫌われてる女を意のままに扱うのは結婚生活における多少のスパイスくらいの認識しか持ち合わせていないだろう。

 

ウルズラとしてはアマド国王側に寝返る選択肢も検討した。しかしそれはあまりにも危険だとすぐに結論が出た。そもそもベルタ王国とセシリオ王国の力関係で言えば軍備増強に励むセシリオ王国が遥かに有利である。加えてアマド国王は宰相の傀儡という噂が根強い。軍を指揮した経験はなく、ウルズラの求めるルージ王太子を倒すに足る有能な男ではないだろう。

 

現状、ウルズラの取る選択肢は多くない。しかしギニーアルケミンを確保すると選択肢が広がる。ギニーアルケミンの入手はルージ王太子との関係を悪化させる訳ではないし、どうとでも言い繕える。そしてウルズラにとっては、王家の血筋とギニーアルケミンの組み合わせに興味を持つ男と手を組める可能性を示唆していた。

 

目下のウルズラの最大の候補者はベルタ王国のカリファ伯だった。ベルタ王国の貴族でルージと結託している可能性がほぼなく、領地も比較的近い。何より用兵に定評がある。年配だが考えようによってはそれも都合がいい。夫の資産を全て受け継ぐ高貴な未亡人などこの世界では珍しくもないのだから。そしてそのような財産と領地に恵まれた女は、次の求婚者にも事欠かないものなのだ。

 

商業ギルドは各地の王に忠誠を誓ってはいるが、大陸間の横のつながりも強い。商業ギルドの通信網は大陸を覆っている。通常、国を超えてのやり取りはそうはないが、可能と言えば可能である。そしてウルズラことドプナー女伯爵がベルタ王国の切り取りを任されているのは関係者に周知の事実だった。

 

情報提供者からウルズラの元にもたられた情報は商業ギルド経由だった。護国卿のアラン•コリント男爵がガンツ伯を討ち取ったとの報である。そこに記載されたガンツ伯の戦力は想定より多かった。

 

ベルタ王国のギニーアルケミンが金鉱山で厳重に保護されているのは突き止めていた。場所も特定している。簡単には落とせないだろうし、籠城されるとカリファ伯やガンツ伯が駆けつける筈だった。しかしながらガンツで異変が起きた。

 

今、カリファ伯はガンツからの帰路につき、ガンツは土地に不慣れな護国卿の支配となったらしい。となればギニーアルケミンは鉱山に兵を向けるウルズラの手中に落ちたもの同然だった。

 

ウルズラは100人の先発隊を先行させた。街道の防衛状況と鉱山周辺の確認が目的である。無理をさせるつもりはなかったが、事前に状況を確認させておく事は大事だった。なぜなら、ウルズラ自身が回収に向かうつもりだったからだ。アーティファクトの重要性を考慮すると、人任せにできる仕事ではなかったし、今後の侵攻の下見にもなる。逃げられた場合、どこまでベルタ王国深くまで追跡するか、その判断は重要になると理解していた。

 

ウルズラは400の騎兵を揃えて出発した。ベルタ王国侵攻の為に鍛えた精兵である。仮にカリファ伯を相手にしてもそうそう簡単に負けないだけの兵を揃えた筈だった。

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