【二次小説】航宙軍士官、星を統べる (原作:航宙軍士官、冒険者になる)   作:高坂 源五郎

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Ⅰ ベルタ王国統一記 15話 【金鉱山編】金鉱山からの退去

ベルタ王国統一記 15 金鉱山からの退去

 

ザイフリート士爵、バルテン士爵、プレル士爵の3名の意見が一致した今、彼らの行動は早かった。それぞれの部下の兵を呼び集めて状況を伝える。警備には事情を把握しているバルテン士爵の兵をあてた。だが兵に事情を説明するザイフリート士爵の感触としては思いの外、兵の反応に驚きが少ない。演説しながら『誰か事前に情報を伝えたな』とザイフリート士爵は勘づいた。

 

ザイフリート士爵はバルテン士爵に目をやった。バルテン士爵は『仕方ないだろう』という風に肩をすくめてみせた。

 

「(バルテンは、予め部下に状況を伝えさせていたか。)」

 

バルテン士爵には部下の意思統一する機会があった。その為、古参兵のクリストフなど信頼できる部下に鉱山内外の状況を噂として広めさせたのだろう。なるほど自分たちはそれに気が付かなかった筈だ。

 

なぜなら、バルテン士爵とプレル士爵で今後をどうするかの会議中だったのだから。つまり、三名の士爵の意見が一致しない場合を見越して、バルテン士爵はひと足先に兵の支持を地固めようとしていた訳だ。

 

「我らはアーティファクトを保護してガンツに出向き、コリント卿へ保護を願い出る事にした。」

 

ザイフリート士爵のその言葉に兵達が歓声を上げる。現実的にはそれしかないというか、外に活路を見出すこの選択肢は兵の希望にも叶う選択となっていたのだろう。救援のあてのない籠城では、やはり兵の士気の維持も難しかっただろう。

 

アーティファクトの守護に失敗すれば皆後がない。宰相の目が黒い内は許される筈がない。敵にしても盗んだ者の正体を秘匿する為にも皆殺しにしようとするだろう。こうなるとガンツのコリント卿は彼らの命綱となっていた。

 

鉱山に詰めているのは兵士だけではない。鉱石を採掘する職人がいる。兵の意思が統一出来たので、次は職人の手配を進める番だった。しかしながら職人に対してはこれと言った腹案はない。兵に準備を開始させると、三人は再び顔をつき合わせて対策を協議する。

 

「我らと共に脱出するとなると、追撃を受ける可能性が高いし、騎兵でなければ逃げきれん」

 

とバルテン士爵。

 

「しかし、職人を置いていけば最悪皆殺しです。鉱山の事業を再開できても、職人を欠いていてはどうにもならないですよ。」

 

プレル士爵の指摘にバルテン士爵も考え込む。

 

「置いていくしかないだろう」

 

「民を犠牲にして、何の為の兵かっ」

 

バルテン士爵の言葉にプレル士爵が気色ばむ。

 

「時間もない。二人とも落ち着け。」

 

ザイフリート士爵が仲裁に入る。

 

「勘違いするな、見殺しにするのではない。連れていけば共倒れ、ならば別れてそれぞれが助かる方法を探るのが最善という話だ。」

 

「・・・どうするのです?」

 

「鉱山の中、鉱山の周囲の森の中でもいい。職人には戻るまで隠れてもらおう。」

 

「隠れる?」

 

「人が本気で隠れると中々見つからんものだ。探す者にとって初めての土地なら尚の事な。」

 

今度はプレル士爵が考え込んだ。

 

「可能なのですか?」

 

「それは本人達に聞くしかないだろう。しかし、数で言えば劣勢の我らに徒歩で従っていく逃避行よりも、隠れて我々が呼ぶ救援を待つ方が彼らも気楽ではないか?」

 

「確かに。これは職人次第ですね」

 

意見の一致をみたので兵士の一人に職人の頭を呼びに行かせた。連れてこられた鉱夫と鍛冶の職人を束ねる頭はイシドアと名乗った。道々兵達の殺気だった様子を目にしたのだろう、異変を察して少し緊張した面持ちだった。そんなイシドアに、ザイフリート士爵が簡単に状況を伝える。

 

ガンツ伯とコリント卿の私戦で国境の警戒が薄れ、セシリア王国の軍が入り込んだこと考えられること。兵は管理下の貴重品を持ちガンツへ救援を求めることである。

 

「なるほど、取り残される我らは降伏しても良いのでしょうか?」

 

バルテン士爵が鼻を鳴らしながら回答する。

 

「ふん。降伏しても構わんぞ。職人は兵士ではないのだ。だが、占領ではなくアーティファクトの強奪を目的とした軍だ。鉱山に居座るつもりはないだろう。目撃者殺しの為に鏖殺される可能性が高いだろうな。隠れてやり過ごす方が、命永らえる可能性は高いと助言はしておこう。」

 

「なるほど。それなら隠れて見つかったてから降伏する方が良いようですな。」

 

「おい、食料さえあれば数日隠れていられるような場所はないか?」

 

「周囲の森は魔物が出るので近づきたくはありませんが、水が出たので採掘を諦めた坑道があります。排水用の横穴は掘ってあるので水や煙は溜まりませんし、そこに潜んでやり過ごすのでしたら食料を分けて頂ければなんとか。」

 

「決まりだな。皆を連れてそこに潜め。食料は残して置いても敵に食われるだけだ、好きなだけ持っていっていいぞ。」

 

そういってバルテン士爵はニカっと笑ってみせた。

 

 

水が出た廃坑道は好都合にも警告板も用意されている。暗いので間違って人が立ち入らないように簡単な封鎖もしてある。それをそのまま利用できそうだった。

 

「外に出るには警告板など壊さないと出られないでしょうから、中に籠もるとそうそう簡単に出入りできず外の確認も出来ませんが」

 

「元々、鉱山の食料は買い集めたもので賄っていたのだ。数日は耐えてくれ。援軍を連れて必ず戻る。10日経っても音沙汰がなければ、外に出るといい。まさかそこまでは敵も居残らんだろう。」

 

職人たちは立て籠もりの支度を始めた。当然ながら坑道の中に竈はない。炭は持ち込むので簡単な煮炊きはできるようだが、パンは予め日持ちするように固く焼いたものを多数用意するとの話だった。兵が鉱山を出発すれば、その後で踏み込まれる可能性が高い。夜を徹して準備が行われた。

 

払暁、3人の士爵達はアーティファクトと兵を満載した馬車を中央にガンツへの道を走り出した。

 

 

 

「逃した、だと?」

 

鉱山に到着したウルズラ•ドプナー女伯爵は部下の失態に失望した。

 

「は、兵には鉱山内を1日捜索させていますが、めぼしいものは残されていないようです。職人も含めて皆去ったようです。溶鉱炉だけでなく竈など全て冷え切っております。」

 

人が生きていくには水や食料が必要である。日持ちする食料の大半は食前に加熱しないと食べられない。水場に痕跡がなく、火を焚く煙も周囲に見当たらないとなると鉱山が無人になったと見てまず間違いない。慌てて逃げた筈なので捜索すれば何か出る可能性がある。しかしアーティファクトは持ち去られた可能性が高い。

 

「(敵が去るとしたらガンツ方面しかない、追跡するか)」

 

鉱山を監視する部下が異変に気付いたのは昨日のことである。ガンツ方面に去るのを確認して、半数の兵は明け方の事で支度に手間取り遅れながらも後を追った。ウルズラが兵と到着した今は翌日の昼頃である。

 

「我々から見て先行しているのは恐らく一昼夜、だな。」

 

「はい、一昨日には新たな兵が到着しているのを確認しています。」

 

新たな兵は鉱山撤退の指令を伝えていたのかもしれない。ちゃんとした指揮官であれば商業ギルドでの情報収集に励むだろうし、ガンツでの異変を知れば国境の手薄さを危険視したかもしれない。

 

「(それにしては手回しが良すぎる気がする。が、そういう事もあるか)」

 

金鉱山自体も重要施設だが、アーティファクトは国宝と言っていい。単なる国宝ではなく、国の機能の欠くことのない一部である。有能な人間が守護して不思議はない。

 

「追跡はしているのだな?」

 

「はい、隊長が半数の兵で必ず捉えると。」

 

隊長が半数の兵で追跡し、副長が残った50名の兵で街道を見張ると共に鉱山内の捜索をしたという。先発隊は100名。そのうちの半数では敵よりも少ない。アーティファクトを奪い取るには至らないだろう。

 

「我々も全力で追跡する。馬に水を飲ませ次第、ガンツ方面に向かうぞ!」

 

「はっ!」

 

「あの、鉱山の捜索はいかがすれば。。」

 

「お姫様(おひいさま)の言葉が聞こえなかったのか。全力との仰せだ。鉱山にアーティファクトがある筈がない。他の物は捨ておけ、部下を戻らせて至急追撃に入れ。馬が疲れていないお前らが先陣だ。」

 

「は、はい。かしこまりました。」

 

今日はまだ半日ある。今日明日馬を飛ばして、明後日捕捉できるかどうかだった。5日目に入られたらガンツに近すぎる。敵に先行を許した。追いつけるかどうかは、先発隊の奮闘次第だった。

 

 

 

バルテン士爵は最初の野営地で馬車を停めた。今日はここで夜を明かす。悠長なようだが、樹海近くでは魔物の出没が多い。ガンツに近づくに連れて魔物の出現頻度は跳ね上がる。夜を徹して馬車を走らせるなど無謀も良いところである。

 

明るい内に火を焚いて飯を喰い、馬を休ませる。仮眠を取ったら交代で魔物の襲撃に備える。長く移動するのなら尚のことその原則は徹底しなければならない。

 

バルテン士爵は暗い木立の中から自分の名を呼ばれるのを聞いた。茂みの中に目を凝らすとエルヴィンがそこに居た。

 

「よお、色々と話さねばならん事がある。こちらに来い。セシリオ王国の兵に探られているのは知っているか?」

 

「ああ、承知している。厄介な事になったな。」

 

「俺としてはお前らがコリント卿を呼びに行ってくれるかと思ったのだがな。」

 

「我らとしてもそうしてやりたいが、アーティファクトから目を離す訳にもいかぬ。」

 

「そうか、それは道理だな。ならアーティファクトを先に引き渡そう。」

 

「本気か?」

 

アーティファクトはバルテン士爵達がコリント卿に身を寄せる切り札になり得る。先に渡してしまうなど予想外だった。

 

「賭けの景品なのだ。俺は約束は守る。我らとてセシリオ王国の兵に追われる身。むざむざ敵に渡すのが最悪と皆も承知している。アーティファクトを守護するなら先に渡す方が賢い。皆はそれで説得してある。それに本気でコリント卿に救援を頼みたいのだ。」

 

エルヴィンは素早く考えを巡らせた。この空気感、バルテンは本音で話しているとみていい。周囲の部下達もこの話を遮ろうとしていない。

 

「あの方は耳も目も良い。が、流石にまだガンツより離れている。コリント卿がどう動かれるかは予想もつかんぞ。」

 

「それで構わん。コリント卿の運の良さに賭けると言ったのは貴様だろう。アーティファクトと共にガンツに出向いて説得しろ。我らはアーティファクトをコリント卿に引き渡すのだ。これに応えぬ欲深な主人では我らも仕える気になれぬからな。」

 

エルヴィンも素早く腹を括った。

 

「分かった。ならば我らは夜を徹してアーティファクトをコリント卿に届けてみせよう。こんな時は空でも食べたら楽なのだがな。」

 

「運の悪い俺は、敵が空を飛ぶことの方を警戒してしまうがな。よし、ついて来い。」

 

バルテン士爵はエルヴィンを中央の馬車に誘った。1m四方のアーティファクトが箱に収められている。

 

「これが、か?本物なのか?」

 

「証明してやろう。」

 

バルテン士爵はコインを取り出すと慣れた様子でアーティファクトを操作してみせた。無造作に放り込まれた貨幣が、時をおいて磨き上げたようにピカピカの通貨として新たに生み出される。

 

「貨幣の鋳造機能が主だが、貨幣の改鋳機能もある。新造も再造こいつに取っては同じ事なんだろな。銅貨でも銀貨でも中に入れるとこの通りだ。本来は摩耗した通貨を改鋳して新品に生まれ変わらせる為の道具だ。宰相は金貨を鉱石から製造させる事しか興味ないのだがな。さあ

、持ってみろ。」

 

「おお、軽いな。」

 

「ではそのまま持っていけ。野営地の外まで送ってやろう。こちらも身軽になる方が逃げやすいというものだ。」

 

「では預かるぞ。」

 

「必ずコリント卿に届けるのだぞ、我らは囮になる」

 

「了解した。バルテンよ、主人に引き合わせるまで死ぬなよ。」

 

エルヴィン達は役目柄、夜を徹しての移動に慣れている。移動する速度も速い。コリント卿にアーティファクトは問題なく届けられるだろう。バルテン士爵の為に救援を乞う決心も固めている。

 

そしてこれはコリント卿の部下が、どこまでこちらを見張っているか明らかにする絶好の機会である。この経緯を詳らかに知れば、エルヴィンにコリント卿を探る意図があるとは思われぬはずだからだ。

 

(コリント卿の力なら我らの到着前に救援が発せられてもおかしくはない。さて、どうなるかな。)

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