【二次小説】航宙軍士官、星を統べる (原作:航宙軍士官、冒険者になる)   作:高坂 源五郎

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Ⅰ ベルタ王国統一記 18話 【拠点整備編】騎兵用の兵舎

ベルタ王国統一記 18 騎兵用の兵舎

 

王国軍の兵やウルズラを伴ってガンツに帰還した俺たちは再びガンツ市民に歓迎された。今回は自国に侵攻した敵国を撃退した形となるし、更にはセシリオ王国の有力貴族を捕虜にして連れ帰った。明確な『勝ち』だった。そんな事情で一気に街が沸き返った。

 

ウルズラは拠点の一室に軟禁する。一方、ウルズラの兵はガンツ門前に待たせている。例によって彼らを市内に収納しなければならないだろう。

 

取り急ぎ、情報の共有の為に街の首脳陣を呼ぶ。商業ギルド長、冒険者ギルド長、衛兵隊長の三者会議だ。こちらからは班長以上の立場の人間を同席させる。全員揃った所で会議を開始だ。

 

「諸君、よく集まってくれた。セシリオ王国の軍がガンツ近郊に入り込んでいたのでこれを攻撃し指揮官を捕らえた。ウルズラ•ドプナー女伯爵と麾下500名の兵だ。彼女の部下は概ね投降したから安心して欲しい。国境の守りもこの通り我々により守られている。」

 

今回はちょっと国防の功績を誇示しておく方が、彼らも安心するだろう。

 

「おお、またも勝利されるとは」

「お祝い申し上げます」

「鮮やかなお手並みですな」

 

特に悪い話ではないので、祝いの言葉も熱を帯びる。俺をガンツに導き入れて損はなかった、くらいの気持ちだろうか。

 

「ウルズラは捕虜として連れ帰った。指揮官を押さえたので敵兵は大人しくしている。」

 

「では治安上の問題は考えなくてよろしいのですね?」

 

衛兵隊から質問が出る。

 

「ああ、問題ないだろう。それにウルズラの兵はガンツで選別して一旦帰郷させる、取引の具体的な内容は明かせない。だが高位な貴族を捕らえたのだ。このような時はそう、身代金が発生するだろう。その移送の準備をさせる。」

 

実際は身代金の受け渡しではなく、ドプナー女伯爵領の領民をそっくりアレスに移らせることを俺は考えている。俺の物にするわけではないが、アレスの住人となるなら身代金を貰ったと主張しても言い過ぎということは無いはずだ。それにこの発言は商業ギルドを通じて王都に報告され、近隣にも商業ギルド職員の手でこっそりと近隣の為政者の耳に入るのだろう。

 

「なるほど」

 

「この件で商業ギルドが王都に行う報告の写しを後で見せて欲しい」

 

「かしこまりました。お届けに上がります。今回も宿の手配など必要でしょうか。」

 

商業ギルド長のサイラスさんの目が熱を帯びる。人が動くと金も動くし、どのような形であれガンツに金が流れ込むのは大歓迎なのだろう。

 

「商業ギルドには以前、兵舎を探して欲しいという話をしていた。今回連れ帰った兵を収容したいし、今後は辺境伯軍の創設に伴い兵士が増える。この件はどうなっているかな。」

 

サイラスさんが同席させているカリナさんに目をやる。

 

「まず、この拠点のすぐ裏手には古い倉庫がありました。こちらを提供可能です。荷物は運び出しているのですぐ使えますが、兵舎として改装するには工事が必要です。広さはありますし敷地は広く屋根はしっかりしています。」

 

「よし、そこをすぐに使わせてもらう。費用の事は後で個別に相談しよう。他の案件はあるかな。」

 

「後は、そうですね。新築する事になりますが候補となる土地を幾つか押さえています。」

 

新築か。ガンツの占有状態は続くだろうし、今の拠点にも満足しているが中古物件だった。ガンツの重要性を鑑みても新築で拠点を建てても良いだろう。いつまでも志願兵を宿に宿泊させるのは不経済だろう。

 

「よし、今度時間を作るので土地を見せてくれ。この会議の後でまず倉庫を見たい。問題なければウルズラの兵をそこに収容する。この後時間は大丈夫かな?」

 

「喜んでご案内します、閣下」

 

「ギード隊長も、場所を確保次第ウルズラの兵が入城すると知っておいてくれ。勿論、俺の部下が付き添う。トラブルはない筈だ。」

 

「かしこまりました。」

 

「諸君、ウルズラの兵士の収容については聞いての通りだ。無法な真似をさせるつもりはないので、普通の旅客として扱ってくれ。商品は普通に売って構わない。飲食では周辺の店の世話になる事もあるはずだ、よろしく頼む。他に何もなければこれで解散しよう。」

 

特に何も無いそうなので素早く解散する。集まったのは責任者ばかりで忙しいだろうしな。会議はこまめに開催し素早く解散する方が良いだろう。

 

ただサイラスさんが慌てて帰るのには、ガンツで販売する商品の値段を釣り上げそうな雰囲気を感じる。敵国の捕虜相手なら遠慮する必要はないという感覚なのだろう。

 

「アラン様、このまま倉庫をご案内してもよろしいですか?」

 

よし。指示どおりカリナさんは俺の事を待ってくれていたようだ。

 

「ええ。ガンツの外に投降した兵を待たせています。夜までに収納したいので今は時間が惜しい。このまますぐ向かいましょう。ただ、ウルズラを同行させます。呼ばせるので少し待っていてください。」

 

気を利かせたエルナがウルズラをすぐに連れてきてくれる。皆で連れ立って倉庫を見に行こう。

 

「アラン様はドプナー女伯爵様とは随分と親しげなのですね。」

 

ちょっと拗ねたような口調のカリナさんに道々話しかけられる。声を顰めているのは、後ろを歩くウルズラに聞かれない為の用心だろう。

 

「そんな事はありませんよ。捕虜を相手にしているので相手に気を遣わないだけです。こちらが上と示しておく必要があるので。」

 

無意識にせよ、捕虜を見下し過ぎているように見えただろうか。ウルズラを名前で呼んでいるのは降伏を受け入れたからだし、女伯爵というのがどうも言いづらいからだ。それで誤魔化して名前で呼ぶことにした結果なのだが。

 

「アラン様が、ドプナー女伯爵様と婚姻される可能性があると聞いております。辺境伯様と女伯爵様、お似合いのご夫婦になるのではと。」

 

耳が早いな、誰からそう聞いたのだろう。そう言えばエルヴィン達の宿の手配を頼んである。エルヴィンが吹き込んだと見て間違い無いだろう。

 

「ウルズラからそう提案があったのは事実です、そう説明する方があちらの兵も大人しくしてくれますしね。ただそれだけです。ウルズラと結婚の約束はしていませんよ。ただ、この話は黙っていてください。色々な可能性があると思われている方が、今後も話がまとまりやすいですからね。」

 

「なるほど、そうなのですね!」

 

一転してカリナさんが笑顔になる。後ろから何かため息が聞こえた気がした。そういえばエルナは耳が良かったな。

 

 

今いる拠点の裏手なので倉庫にはすぐに到着した。カリナさんの説明で内部を見て回る。

 

「境界には下水を流す為のドブ川があります。それぞれ木塀と閣下の作成された土壁で区切られています。木塀は壊しても問題ありません。こちらで解体する場合は費用をいただきますが、兵士に壊させても問題ありません。焚き付けにでも使ってください。」

 

人手はある。手の空いた兵士に壊させれば往来に問題ないだろうな。倉庫と拠点は自由に行き来できる方が良い。ドブ川が邪魔だが、何か構造物を作れば簡単に行き来できそうだった。追々、考えよう。

 

倉庫は1棟ではなく6棟あった。構造はほぼ同じだが馬車で乗り入れ可能なほど大きい。馬車馬用に簡単な厩舎も用意されている。だが、馬の収容場所としてはとても足りないだろうな。なんせ騎兵の集団なのだ。人だけでなく馬の収容も大事になる。

 

「倉庫の1階を馬の収納場所にして、2階を兵の宿舎にできないだろうか?」

 

ウルズラの兵も王国軍の兵はほとんど騎兵なのだ。拠点は先着した王国軍の兵で庭まで溢れている。人も問題だが馬の収納場所がない。倉庫は構造はしっかりしている物の、中身は納屋のような簡単な作りだ。ウルズラの兵は今日だけ収容すれば明日には送り出せる。

 

「1棟を王国軍、4棟をウルズラの兵に充てようか。最後の1棟は馬車と貨物用にして見張り以外は入れない、それでどうだろう。」

 

4棟で500人を収めるとなると1棟あたり125名の兵の計算になる。馬と馬車を混在させるのも良くないだろうから馬車は専用の置き場を用意しよう。

 

「詰めれば馬は200から250頭は入ると思います。問題ありませんね。」

 

馬の世話には慣れているエルナが声をかけてくれる。イーリスに計算させているが、エルナの感覚でも問題ないなら騎兵はこの環境を受け入れるだろう。良かった、いけそうだ。

 

「馬を入れる5棟には馬に必要な飼料を運んでくれ。馬車を入れる方には必要ない。兵士の寝具は必要ないが藁束は欲しいな。階段の脇に積み上げてくれ。」

 

「こことここに馬が勝手に外に出て行かない為の柵が必要です。馬房は追々整備すれば間に合います。馬の世話に必要な品はリストを作成して渡します」

 

馬の世話については一家言あるエルナが、手で場所を指し示しながらテキパキ話を進めてくれている。

 

俺の感覚だと階段は構造的に安全設計がなっていない。階段が狭い上に手すりが用意されていないのだ。階段も狭いとなると鎧を着た兵士が行き交うのは困難だろう。

 

「カリナさん、急ぎで階段に手すりをつけて欲しい。鎧を着た兵士が移動するので頑丈なものを頼みます。階段の側面も出来れば転落防止の柵をつけたい。こちらは急には無理かもしれないがなるべく早く頼みます。」

 

「なるほど、転落しても大事に至らないようにする為の藁束なのですね。階段の折り返しの部分はいかがしましょう。」

 

「とりあえず長い板を横から差し入れられませんか。よろけても板に当たるだけで下に落ちなければ良いので。」

 

「すぐに手配します。手すりが難しい場合、丈夫なロープを貼りましょう。落下防止なら捕まるところがある方が良いでしょう。」

 

「それは良いですね。階段はウルズラの兵を帰還させたら馬房の工事を含めて、広い階段に建て替えましょう。今日の所は仮の措置で構いません。」

 

「かしこまりました。」

 

これで兵と馬の寝場所は整った。暖炉は用意されているので必要なら火を焚く事はできる。寒くて眠れない事態はなさそうだし、湯を沸かすくらいの事は出来るだろう。問題は食事と排泄か。

 

「トイレは裏庭の方に俺が用意できる。が、食堂が欲しいな。」

 

「街中に食べに出て貰えば良いのではないですか?」

 

「昼はともかく、毎食毎食食べに行くのは費用が嵩むだろうし、朝食を取ったら素早く旅立つとなると食べる場所は用意しておきたい。」

 

「そうですね。」

 

カリナさんが考え込む。

 

「倉庫を出てすぐの裏庭に天幕を貼り、中に机を入れて食堂とされてはどうでしょうか。」

 

「それだとトイレの設置場所がなくなるわ」

 

食堂とトイレは離しておきたい、これは難問だった。

 

「6棟あるんだ。端を1つを仮でトイレに充てよう、1棟分離しても4棟分の土地がある。残りの土地に天幕を立てて食堂としよう。」

 

馬車置き場の裏手をトイレに充てる。屋外と違ってトイレの汲み取りは定期的にする必要がある。それは商業ギルドを介して手配すれば良いだろう。ついでに清掃も頼んでしまおう。

 

「こうなると井戸も欲しいですね」

 

馬小屋には井戸が備え付けられている。俺としては地面の下を流れる水を飲むことに抵抗がある。水瓶に《ウォーター》の魔法で水を注ぎ飲ませる方が手軽なのだが、いつも俺が魔法が使えるとは限らない。井戸の整備は必要だろう。

 

「ガンツにも上下水道が欲しいな」

 

イーリスが建築したアレスには上下水道を完備している。そう考えるとガンツの衛生環境改善も必要だろう。ある程度は井戸とトイレを離しているとはいえ、大雨が降ってトイレやドブ川が溢れたら簡単に井戸に流れ込む構造なのだ。ゾッとする。

 

「とりあえず井戸は増やさず水瓶でいこう。馬の水飲み用の桶も多めに手配してください。」

 

諸々の手配を終えた。この倉庫は馬車や騎兵用の宿舎として整備しよう。課題も見えた。上下水道の整備は必須だろう。この件ではイーリスと打ち合わせが必要だった。

 

「ウルズラ•ドプナー女伯爵、この倉庫を臨時の兵舎として君の兵の収容にあてたい。何か問題があれば改善しよう。君の意見を聞かせてくれないか?」

 

今まで沈黙を守っていたウルズラが周囲を見渡す。

 

「清潔にしてくれるのであれば問題ない。兵たちは長くて数日の滞在と理解している。ご配慮痛みいる、コリント卿。」

 

兵の収容の話はこれで終わった。ガンツの上下水道の手配の話は日を改めて進めよう。まずは俺たちの拠点だけでも環境整備を進めなくては。

 

「アラン様、諸々の手配をしなければなりませんので、それでは私はこれで。」

 

相談を終えるとカリナさんは名残惜しそうな様子を見せながら足早に去っていた。そういえば落ち着いたらサイラスさんの招待を受ける話をしていたな。そろそろ招待を受けられるかもしれない。と言うか、アレスに帰ったらそうそうこちらに顔を出す機会もないだろう。

 

拠点に戻りながら話題に出す。

 

「リア、そういえばサイラスさんから宴席を用意すると言われていたんだ。アレスに戻る前に主だったメンバーで顔を出そうと思うんだけど。」

 

「分かったわ、メンバーの選定も含めて私に任せて。」

 

リアが顔ぶれを選ぶなら大きな不満は出ない筈だ、任せてしまって良いだろう。

 

「その宴席、私も出席する事は可能だろうか?」

 

俺たちの会話を聞いていたウルズラが口を出す。

 

「俺としてウルズラの事ははもう同志として扱うつもりだ、構わないと思うが。」

 

「そうね、私達が仲良くなる機会にするべきかもしれないわ。」

 

ウルズラの出席も決まる。前回訪問した時は冒険者をもてなすだけの宴会だったが、次回の訪問は俺やウルズラなど何人の高位貴族が顔を揃えるのだろうか。サイラスさんも緊張するに違いない。

 

拠点に戻ると、ダルシムと相談してウルズラの兵を迎えに行く事にする。それなりに距離があるので馬を出す。ウルズラも馬に乗せて良いだろう。

 

「ウルズラ、君の兵を迎えに行くので同行して欲しい。馬に乗ってもらうつもりだが鎧姿に着替えるか?」

 

「そうだな、兵の前に出るとなると鎧姿を見せる方が良いだろう。」

 

ウルズラの着替えリアとエルナに任せる。その時間を利用して金鉱山を守護していた王国軍の3名の士爵を呼んでもらう事にした。エルナを呼んでこっそり言い含める。

 

「エルナ、王国軍の人間にはリアの存在はまだ伏せておきたい。彼らはまだ仲間になると確定したわけじゃない。士爵ともなれば国王の顔を知っている筈だ。」

 

「リア様とアマド国王はそっくりですものね。分かりました、任せてください。」

 

「頼む、こちらの面談が済めば呼びに行かせるから。」

 

さあ、これで準備は出来たな。ダルシムに声をかけて王国軍指揮官の3人を呼んでもらう。こちらの同席者はダルシムの他にセリーナとシャロンだ。

 

「失礼します」

 

ノックと共にダルシムに誘われて入室したのは、武装した3名の男たちだった。それぞれザイフリート士爵、バルテン士爵、プレル士爵と名乗る。

 

白髪混じりの苦み走った最年長がザイフリート士爵。黒い髭を蓄え豪放磊落な雰囲気の大男がバルテン士爵。貴族的な顔立ちの少し神経質そうな若い男性がプレル士爵と名乗った。この中ではバルテン士爵がエルヴィンの説得を受けた協力者である。他は成り行きでガンツ行きを合意した、とまでは聞いていた。

 

「諸君とは初めてだな。俺が護国卿のアラン•コリントだ。辺境伯に内定している。まず護国卿として、ベルタ王国の貴重なアーティファクトを守り抜いてくれた事に礼を言う。アーティファクトは安全な場所に保管する。」

 

「閣下の救援に感謝致します。この後、金鉱山の復旧はされないのでしょうか?宜しければご案内しますが。」

 

そう切り込んできたのはザイフリート士爵だった。流石に最年長だけあって食えない、そんな印象を抱く。

 

「ここからは辺境伯として話す。まず、このガンツが本来ガンツ伯の領土であったと承知していると思う。現在、私は宰相の派閥と内戦状態にある。ガンツの占領はその過程で起きた。」

 

3人の士爵は黙って聞いている。知っていてガンツに来たはずだから当然だが、ここからの話の展開は難しい。

 

「幸い、国王陛下の信任は継続している。俺は護国卿の地位を保ち国境の平穏を守る役回りだ。今回のセシリオ王国の侵攻を迎撃したのもその職務故と諸君も承知してくれていると思う。」

 

「はい、護国卿閣下のお手なみには感服致しました。」

 

「ただ現実問題として、金鉱山にアーティファクトを保管するのは限界がある理解だ。となると金鉱山の再開も現実的ではない。そもそも金鉱山はあまり効率的に運営が為されていなかったと聞いている。これはもちろん諸君の落ち度ではなく、宰相の運営方針故だ。」

 

「これまでの宰相のやり方が良いと思っておりません。しかし金鉱山には職人を隠しております。彼らの身柄だけでも閣下に保護をお願い出来ないでしょうか。」

 

「そうなのか。それは初耳だ。明朝に使者を出し彼らをガンツに迎えよう。諸君も職人の保護に協力して欲しい。身の振り方はこちらで考える。悪いようにはしないつもりだ。」

 

「かしこまりました。」

 

「セシリオ王国の兵は投降した、君達の誰か一人が俺の部下と共に職人を迎えに行く事になるだろう。誰を派遣するかは君達に任せる。」

 

「かしこまりました。この後、相談するように致します。」

 

「だが宰相を敵に回す辺境伯の俺に、金鉱山の運営まで割く余力はない。である以上、アーティファクトを安全に保管するのであれば、俺が樹海に築いた都市アレスに保管するのが最善と考えている。」

 

「宰相と和解する道はないのでしょうか?」

 

そう質問したプレル士爵は和解の道を探る様子だった。

 

「ないな。彼は俺を毒殺しようとしたし、俺を目障りと考えている。そもそもこちらが仕掛けた戦でもない。」

 

毒殺の話を聞いてザイフリート士爵やプレル士爵は驚きの表情を浮かべている。バルテン士爵が泰然自若としているのは、予めエルヴィンから話を聞いていた為だろう。

 

「である以上、降りかかる火の粉を振り払うのは当然だ。諸君も宰相には悩まされたと聞く。私の側に立つと誓うなら相応の待遇を約束しよう。また諸君とは悪い行きがかりは何もない。このまま王都に戻るなら旅費や食料の支援はしよう。ただしアーティファクトは渡せない。あれは宰相には過ぎた品だ。」

 

俺が言い終わると場を沈黙が支配した。彼らにしても宰相との関係がそこまで深刻だと思っていなかったのだろうか?

 

いや、彼らは内戦を知っていてガンツに来た。むしろ選択肢を与えられた事に戸惑っているのかもしれない。

 

「閣下の目的はどこにあるのでしょうか?」

 

そう言葉を振り絞ったのはプレル士爵だった。

 

「俺の目からするとベルタ王国の統治は無駄が多い。主に国政を私物化する宰相の派閥が原因だが、それが全てでもない。それを正す。俺の目的はこの地に住む人々の暮らしの安寧を守り、正しい教育を与える事だと自負している。その為に必要ならどのような障害も排除する。」

 

その障害にはアマド国王が含まれうる、それは口にせずともお互いに分かっていた。

 

「それは王権に楯突く事もあるというご発言でしょうか?」

 

「俺としては国王陛下を蔑ろにするつもりはない。しかし宰相が王権を盾にするのであれば打ち払う用意はある。それでも可能な限りアマド国王陛下の身命を損なうつもりはない。」

 

かわり際どい内容だったが、俺は言い切った。いずれは覇権へ踏み出す必要がある。宰相と敵対する今、その点を隠した所で始まらない。

 

「俺としては支配する領域をベルタ王国に留めるつもりはない。セシリオ王国もいずれ屈服させる。その為に諸君を襲撃したウルズラ•ドプナー女伯爵とも手を組む。それは承知しておいて貰いたい。」

 

俺の言葉に、皆が押し黙った。

 

「いや、実に大きいですな。気圧されました。」

 

時間をおいて、笑いながらそう大声を出したのはバルテン士爵だった。

 

「何、我らも行き場がないからここに居るのです。宰相のところに戻ったところで冷遇されるのは分かりきっています。いや、処刑されるかもしれませんな。」

 

そう言いながら豊かに繁った顎髭をさする。

 

「我らとしては護国卿閣下の麾下に加えて頂ければ幸いです。今後、宰相やアマド陛下の問責を受けるようでは困る。それさえ心配要らないのなら我が剣は閣下の物です。なぁ、皆。」

 

プレル士爵はバルテン士爵の言葉に同意しているが、ザイフリート士爵は尚も慎重だった。

 

「なぁ、バルテンよ。王国軍に籍を置くものとして、国王陛下に楯突く軍に身を置こうというのはいかがなものかと思うぞ。」

 

「ザイフリートよ、アマド陛下は宰相の傀儡である。それは俺もお前も知っているではないか。であるならば、護国卿閣下に賭けても良いではないか。アマド陛下も傀儡の国王より、自由な立場におなりあそばす方が良いのだろう、だからコリント卿を支援されているのではないか?ああん?」

 

ザイフリート士爵は沈黙した。国王の恩寵が護国卿たるコリント卿に向けられているのは彼らから見ても否定できない事実なのだろう。アマド国王が着地点をどこに想定しているかはともかく、国王の期待がコリント卿による宰相の支配の打破にある点は疑問の余地がない。

 

「宰相とコリント卿、我らに可能なのはアマド陛下にとってより相応しい庇護者を選ぶ事よ。その点、コリント卿は正直に存念を述べられたぞ。」

 

バルテン士爵の言葉は一同に沁みる。

 

「最初に述べたが、俺としては諸君をあてにしているし仲間になってほしいと願っている。相応の待遇を約束する。ガンツを抑えた俺は裕福だ。給与もこれまでの倍支払おう。活躍に応じて待遇を引き上げる。」

 

「それはいいですな。」

 

「しかし、待遇に負けて国を売るなどと。」

 

「ふむ、ならこうしよう。俺と宰相のどちらに正義があるか見定めるといい。その上で堂々と去るならそれを認める。他の志願した兵に、俺はそんな譲歩はしていない。職務に忠実たろうとする諸君なればこそだ。それでどうかな?」

 

俺を見るザイフリート士爵の目から迷いが消えた。

 

「ご厚情痛み入ります。閣下のお言葉に甘えて、その条件で以後は閣下のご指示に従います。」

 

「諸君に肩身の狭い思いをさせる気はない。忠義に溢れるのは美徳だ。ただ、決断は一度きりだ。仮に残ると決めたら、以後は俺と共に地獄まで付き合ってもらうぞ。」

 

「元より、承知しております。」

 

ザイフリート士爵は重々しく頷いた。この様子なら心配要らないだろう。俺も彼も理解し合った。去るのは構わないが、ザイフリートは堂々と立ち去るとそう信じる事にする。他の士爵もそう考えて良いだろう。

 

士爵達はダルシムに部屋に送らせた。以後は配下の面談も自由に許すと伝えている。

 

「あんな条件を出してよかったのですか、アラン?」

 

横に立つシャロンが尋ねてきた。

 

「構わないさ。宰相はクズだし、堂々と去るなら問題はないさ。きっと俺達と共に過ごすほど離れがたくなる筈だ。俺もアマド国王を邪険に扱うつもりもないしね。」

 

「確かに、宰相よりはアランの方が優れていると思います。でもリア達の関係を見ていると忠誠心は理屈ではない気がします。」

 

「それは仕方がない。俺たちにできるのは一緒に戦って互いを理解する機会を作る事までだ。絶対に相容れないのなら、何をしても無駄だ。今は、共闘できる可能性を残せばそれでよしとしようじゃないか。」

 

「そうね、アランには、みんな期待しています。たまにアランが大きく見える時があるわ。どうしてかしら。」

 

セリーナがそう意見を述べた。

 

「それはちょっと太ったのかもしれないな。」

 

セリーナやシャロンと談笑していると、エルナが呼びに来た。ウルズラの準備が整ったようなので、いよいよウルズラの兵に会いに行こう。

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