【二次小説】航宙軍士官、星を統べる (原作:航宙軍士官、冒険者になる) 作:高坂 源五郎
ベルタ王国統一記 22話 【商業ギルド誘致編】鉱山の町ノイス
グローリアの背に跨り、上空から見下ろすノイスの街はガンツよりずっと小さかった。寂れた鉱山街なので今はもう最低限の鉱夫しかいないのだろう。それでも領域は広く、街につながる街道は道幅が広く立派な作りで、かつての繁栄を忍ばせる。
日々の生活に使うのだろう、露天掘りしている石炭の採掘地のすぐ近くまで街が広がっている。全体として広々とした荒地で緑は少ない。自給自足の為に野菜畑などは作っているようだが、あまり立派では無い。率直に言ってうらぶれた埃だらけの街であり、景気の良さは微塵も感じられなかった。少し山の方に移動した所に鉄鉱石の採石場があり、そこは石炭よりは活発に採掘している雰囲気だった。
かつては捕えた盗賊を大量に動員して鉄鉱石を採掘していたらしい。だが、王都近郊に有望な鉱山が見つかった関係で一気に需要が萎んだそうだ。結局のところ、ベルタ王国屈指の加工技術を保持するのは王都である。この近隣の大都市といえばやはりガンツだが、少し品揃えを見せてもらった限りでは特別な品は無かったし、少し良質なものは王都由来の製品らしい。となるとこの地域では王都から買う方が優れた鉄製品を揃えられる訳で、地元の安い価格の商品向けの鉄鉱石の供給だけではノイスの街の産業が伸び悩むのは理解できた。
町外れにグローリアが降り立つ。今回の同行者はセリーナとシャロンとカトルだ。ドラゴンの出現に街は興奮気味だが、本日の訪問は商業ギルドの通信網を用いて事前に連絡を入れた。『ガンツの新しき支配者とノイスの支配者で商談を希望したい。ドラゴンを用いて移動するので驚かれぬように。』と、そう伝えてある。
待機してくれていたのだろう。城門から数名の人影が出てきた。こちらも大きく手を振って敵意がない事を示してから、徒歩でそちらに向かう。
背後でグローリアが飛び上がった。人里近くで待たせるのもトラブルになりそうなので、グローリアは自由行動にしてある。
「族長、少し獲物と遊んだら後で迎えにきますね。初めての森は楽しみだなぁ。」
(ああ、分かった。楽しんでおいで。)
ドラゴンの咆哮に出迎えの人々は立ち止まっている。城門の中に駆け込むか逡巡している様子だったが、すぐにドラゴンの興味が自分達に向けられていない事に気がついたらしい。
彼らが空を見上げている間に、こちらは上手くノイスの城門まで近づく事ができた。
「護国卿のコリント卿とお見受けした。お初にお目にかかる。ノイス領主のシモン・ミューラー子爵だ。」
厳つい壮年の大男が声をかけてきた。豊かな黒髪ともじゃもじゃと生え散らかした顎髭が印象的だった。
「樹海を開拓した辺境伯のアラン・コリントです、陛下より護国卿を拝命しております。」
ガチリ、と音がする程に手を強く握り合う。
「本日は商談でいらした、そうですな?」
「はい、樹海の開拓の為に鉄と石炭を買い付けたいのです。」
途端にノイス子爵は嬉しそうな顔になった。
「そうでしょう、そうでしょう。樹海を切り開かれるならノイスの鉄で作った斧が一番ですぞ。」
子爵に促されるままノイスの商業ギルドに向かった。今回は商談ということもあり、ノイスの商業ギルドの貴賓室を借り切っているそうだ。
「商業ギルド長を同席させますぞ。」
ホフマンと名乗るギルド長と数名の職員が貴賓室に控える。こちらも付き添いの3名を背後に控えさせた。男爵と長机越しに向かい合わせで席に着く。
「さて。どれほどの鉄と炭を買われるのかな。」
舌舐めずりしながらノイス子爵に問われる。
「私としては包括的な提案を行いたいのです。」
「と、言いますと?」
「こちらの商業ギルドの備品を一つ所望したいのです。適正な価格でお譲り頂ければ、ノイスの鉄と石炭はガンツに運んばれた分を全てこちらで買い取りましょう。」
途端、ノイズ子爵の目が爛爛と光った。
「全て、運んだ分は全て買取とおっしゃったか?」
「はい、全てです。私が樹海に築いた都市、 アレスは大きいのですよ。それだけの需要はあります。価格は量に応じて多少の融通はして頂きたいですが、そこはご相談しましょう。」
「それは素晴らしいお話ですな!いや、素晴らしい!」
ノイス子爵はすっかり乗り気だった。もう完全に話が決まったかのように振る舞っている。一方、ギルド長は一気に浮かない顔になった。彼はおそらく俺が何を要求するか勘付いたのだろう。
「ノイスの商業ギルドには通信用アーティファクトの提供をお願いしたい。無論、相応の代価は支払います。」
商業ギルド長のホフマンの顔が青くなった。通信用アーティファクトがなければノイスの商業ギルドは開店休業状態と言っていい。業務が差し支えるのが目に見えているからだろう。
「しかし、あれがないと。」
「コリント卿、少しお時間を頂く。」
ノイス子爵は商業ギルド長のホフマンの首根っこを捕まえると、横を向いて耳元で囁き始めた。
(ホフマン、コリント卿の提案を受けねば今日明日にもこの街は立ち行かなくなるのだぞ)
(しかし子爵様、ギルドの通信機がありませんとコリント卿以外の取引に支障があります。)
(どうせ大口の客はコリント卿しかおらん。小口の客は現物で取引せい。帳簿さえしっかりしておけば良い。コリント卿は急いでおいでだ。ここはお譲りして、気持ちよく鉄も石炭も買って貰えば良いのだよ。)
(そう仰せならば。か、かしこまりました)
ホフマンも渋々、子爵の決定を受け入れたようだった。
「コリント卿、話は決まりましたぞ。」
ノイス子爵が野太い声をあげる。
「新たな友情を記念して、ここは祝杯を上べきですな。」
「そうですね、では金額などの細かい話はそちらの商業ギルド長とこちらの担当者で詰めさせましょうか。カトル、後は頼むぞ。」
「かしこまりました。」
迎賓室から廊下に出て「一番高価なワインを持ってこい」と叫ぶノイス子爵の後ろで、俺はカトルに囁いた。
(あまり買い叩くなよ。美味しい話と思って貰わないと困る。それにいざ宰相と戦争という時に、ノイスの兵も味方としてあてにしたいからな。)
(はい、お任せください、アラン様)
ノイス子爵が高価そうなワインのボトルを運ばせる。カトルとホフマンは部屋の片隅に机を置いて膝を突き合わせて商談をするらしい。部屋の中央にノイス子爵と俺が大きく陣取る形となった。カトル達も本当は大きな机を使いたいだろうが、少し気の毒だが我慢してもらうしかない。
「そちらのお付きの方も、一緒に座られてはどうですかな。」
セリーナとシャロンが若い女性だからだろう。俺が趣味で2人を連れ歩いていると子爵に解釈されたような。もう、この惑星のそのような男性上位の扱いにも皆すっかり慣れている。子爵に促されるままにセリーナもシャロンも俺の横に腰を下ろした。3人で長椅子に座る形となる。
「閣下、失礼致します。」
「閣下、御相伴に預かります。」
「これはまた美しいですな。しかも双子ですか。こんな綺麗な取り合わせは初めて見ます。これほどそっくりで美しいのだから、コリント卿が連れ歩かれるのも分かりますな。これぞまさに両手に花、男の夢ですな。」
乾杯した後のノイス子爵は実に饒舌だった。
「子爵様、お上手ですわ。」
「子爵様は、本当にいい飲みっぷり。」
セリーナもシャロンもこの時代の貴族男性の扱いに慣れてきたのだろうか。子爵のセクハラぶりにヒヤヒヤするが笑顔でやり過ごしているようだ。笑顔でお酌までしてくれている。
「ところでその、コリント卿を信用しないわけではないのですが、支払いの方はしっかり頼みますぞ。」
「ええ。アーティファクトの代金に加えて、初回取引の支払い分は、本日前払いでお渡ししますよ。」
俺の合図でセリーナが金貨の袋を机の上に置く。1袋に金貨100枚で100万ギニー入れてある。
「おお、流石はコリント卿。これは安心ですな。」
何を要求されるか分からないので現金は多めに持ち出していた。アレスにも樹海産出の金塊が保管してある。ギニーアルケミンを入手した今、多少多めに現金をばら撒いても支障ないと判断していた。
「空きっ腹でワインもなんですな。つまみも用意させましょう。」
金貨の袋に気を良くしたノイス子爵の指示で軽食が提供される。運び込まれたのは乾燥したパンに、薄くスライスされた肉片が乗っているオードブルだった。
「ビックボアのもも肉を塩漬けしたものです。乾燥させて風味を増しています。ワインのつまみにはこれが合います。」
「「美味しい。」」
セリーナとシャロンが喜んで食べている。2人にはワインより、こちらの方が合うらしい。
「これは良いですね。」
ベルタ王国流の生ハムなのだろう。しっとりとした感触で悪くない。こちらの貴族はこんなものを食べているのか、という感じだ。
「土産に何本か買って帰りたいですね。」
「そうでしょう。そうでしょう。私はこれが大好物でしてな。後で用意させましょう。」
塩味が効いているが、熟成された旨味がある。乾燥したパンは味気ないものだが、こうして食べるとサーモンのカナッペにも劣らない。生の魚を食べるより、肉に慣れているとこちらの生ハムを好む人が多いかもしれないな。
「コリント卿の武勇の程、伺っておりますぞ。ガンツにおける戦いなど見事だったとか。先ほどのドラゴンも実に立派でしたな。あれでガンツの兵は怖気を振るったわけですな。いや、コリント卿のご活躍を間近で見てみたかった!」
「宜しければ、戦いのあらましなどご説明させましょうか。」
「おお、それは是非伺いたいですな!」
「セリーナ、シャロン、頼む。」
この所、戦いの様子を聞きたがる人間に囲まれて過ごしたせいでサテライトのメンバーの武勇伝の語り口は上達していた。皆、語るべき伝説として半分は意図して吹聴している。
ダルシムやヴァルター、ケリーなど人によって話ぶりがまちまちな中で、最も好評を博しているのがセリーナとシャロンの語り口である。
軍人だけに主観に頼らない正確な情報共有に長けているからこそなのだが、若い美人が語る事もあって連日やんややんやの大喝采を受けた鉄板芸になりつつあった。2人で分担すると適度に息継ぎしながら話せるので長く語れるらしい。
「それでは失礼して。樹海の戦いの様子をお話ししましょう。」
俺とノイス男爵はワインを傾けながら、セリーナとシャロンの語り口に聞き入った。
「いや、今日は楽しかった!」
ノイス子爵はすっかり出来上がっていたが、両腕に一袋ずつの金貨を抱え込んで離そうとはしなかった。念の為、釘を刺しておく。
「少し多めにお渡しした分は、今後の取引で相殺ということで。」
「もちろん、勿論ですとも。信頼してくだされ。鉄道馬車の方も、近隣の領主に私から話をつけます。お任せあれ。」
商業ギルド長のホフマンも金貨の袋を抱え込んでホクホク顔だった。カトルが上手く話を進めたのだろう。子爵に耳打ちして結果を報告しているが、子爵の顔に隠しきれない笑みが浮かんだいた。
「我がノイスの兵はなんといっても護国卿閣下の味方ですぞ。いざという時はお声掛けあれ。」
「それはかたじけない。いざという時は頼み入ります。」
「おお!お任せあれ。」
ノイス子爵はドンと胸を叩いて見せた。動きに合わせてジャラジャラと金貨の鳴る音がする。ノイス子爵とは上手く利害を一致させられたようだった。宰相と対峙する際の応援が期待できたと解釈しよう。最低でも、敵に回ることは無いと信じて良いだろう。
「こちらが契約書です。ご確認を」
一読し、イーリスのチェックを経て問題ない事を確認して2通にサインする。ノイス子爵もサインして相互に1枚ずつ契約書を保管し合う事になる。これでザッと澄んだ筈だった。
「では、これで失礼して帰ろうか。」
セリーナとシャロンがギルドの職員からアーティファクトの収められた木箱を受け取っている。操作説明についてはガンツの商業ギルドから受ける手筈になっていた。商業ギルドの申請もあちらで行うようだ。
ノイスの商業ギルドは最後の通信で通信封鎖を済ませている。その関係で少し遅くなったが、祝杯をあげたことでノイス子爵との関係は深まったと言える。
「こちらは是非、皆様で。」
生ハムの原木を2本贈られた。セリーナとシャロンがアーティファクト担当なのでカトルに持たせる。
「これはありがたい。今度来る時は、秘蔵の酒を持参しますよ」
「おお、それは楽しみですな。」
城門まで見送ってもらい、ノイスの外でクローディアの訪れを待つとカトルから質問が出た。
「アラン様、鉄道馬車ってなんでしょうか?」
「ああ、カトルはトロッコを知っているかい?」
「いえ、わかりません。」
少し込み入った説明だが、グローリアをすぐに呼んでも怪しまれるかもしれない。それにカトルには理解してもらいたい。酔い覚ましに時間をかけてきっちり説明をしておこう。
「鉱山で出た鉄鉱石は岩の塊で重い。人が運ぶのが大変だ。馬で運ぶにしても普通の馬車だと道が狭くて動きづらいだろう。」
「はい。」
「鉱山では鉄製の軌条を敷いて、その上を移動する鉄の車に乗せるんだ。それがトロッコ。坂を上る時は馬で引いて、下りは馬を使わずに麓まで軌条沿いに一気に走らせるんだ。」
「なるほど、そんな方法を取るんですね!」
「ノイスも鉱山も山の上にあるから、麓まで下ろすのに坂を降りるだけでいい。だからトロッコが使いやすいんだろうね。」
「それで鉄道馬車というのは?」
「ノイスからガンツの間を鉄道、軌条で繋ぐんだ。軌条の上を走る馬車は普通の馬車のように自由に移動できないけれど、その力が前に進む為に使われる。だから、少ない力で重い荷物を運べるから馬が疲れにくいんだよ。」
俺もイーリスから教えられた知識なので完全な理解に至っていないが、軌条がある方が高速を維持してカーブに入ることができたりと輸送で有利なようだった。
「それは普通の轍ではダメなんでしょうか?」
「普通の轍より何倍も強力で、走らせていれば外れないから速度を維持して曲がるのに有利だったり、途中で悪路で止まる心配がないと思えばいい。道も迷わないしな。」
轍が深ければ深い程、馬車の走りは安定する。アレスは主要の街路を石で舗装して、馬車の車幅に合わせて車輪の位置を窪ませて轍の代わりにしている。これは経験則的に理解されやすい。その発想の先に軌条がある。自由に動けない点は難色を示されるが、馬車の走行が安定するのは理解されやすい。鉄道馬車は、馬車の滑らかな走行を目的とした1つの技術的到達点と言える。
勿論、我々の目標はその先にある。軌条を敷くのは蒸気機関車による鉄道開設の為だ。しかしまずは鉄道馬車を目的とする方が理解されるだろう。
「ノイスもそれだけ本気なんですね。しかしアレスはそんなに鉄や石炭が必要になりますか?」
「数万人の暮らす都市に、数万人分の武器が必要になる。鉄道馬車の軌条も鉄から作る。都市が成長するのに、幾ら鉄があっても困らないさ。ガンツもあるしな。」
「アラン様のビジョンは常に壮大ですね。」
イーリスの計画では、アレスは少なくとも100万人規模の都市に成長する。大陸を統一するならそれだけの環境整備は必要だろう。ノイス、ガンツ、アレスと鉄道網を構築するのは今の俺達からすると大事業だ。だが必ず無駄にはならない筈だった。
「すみませんアラン様、もう一つ質問があります。」
「なんだい。」
「輸送が大変なら、ノイスで製鉄までしてアレスに輸送したらどうでしょうか。石炭は鉄を作る為に必要なんですよね?その方が、鉄を多く運べると思うんですが。」
流石に鋭い質問だった。石炭は製鉄以外でも使うつもりがある。だがここは別の説明をするほうがいいだろう。
「商人としてはそれは正しい考え方だと思う。だが、俺の考えは少し違う。」
「そうなのですか?」
「ノイスに溶鉱炉を建設する事は出来る、だがそれには時間も費用もかかる。そしてノイスの領民を鍛えないといけない。」
「そうか。時間がかかりますね。」
「時間と費用以外にも理由があるんだ。そもそもノイスは俺の街ではない。他領に技術や仕事が流出する事になる。それならアレスの住人に仕事をしてもらう方が、領主としてはありがたい。」
「そうか、街の住人の仕事になりますね。」
「そうだ。税収も変わる筈だ。技術を流出させない為にも抱え込むほうが良い。まだ理由があるが分かるかな?」
「分かりません。」
「私は分かるわ。アラン、理由は防衛ですよね。」
カトルに代わり、セリーナが回答する。
「ノイスはアレスから離れすぎているわ。ノイスにしか溶鉱炉が無ければ、ノイスを敵に押さえられると鉄が作れなくなります。でもアレスに溶鉱炉があれば、ノイスの鉄や石炭を断たれても別のところから調達できるわ。」
「そうだ、セリーナ満点だ。」
褒められてセリーナが得意そうな顔をする。
「カトルも気を落とさなくていいぞ。専門分野が違うから、考え方が違って当たり前なんだ。」
「でも、俺じゃなかなかアラン様のように考えが回らないですね。」
「セリーナやシャロン、それに俺は軍人だ。どうしてもリスクを考える。商人のカトルは効率を追求するのは間違っていない。ただ色々な考えや価値観があるのは覚えておいてくれ。俺達全員のそれぞれ異なる視点の妥協点を探すのが大事になる。その事は忘れないでくれよ。」
「はい。分かりました、アラン様。」
ノイスを発った俺達はガンツに帰還した。ノイスからアレスに直行出来ればシンプルだが、入手したアーティファクトの動作確認と操作説明をガンツで受ける約束をしていた為だ。残留組を除いて、他のメンバーは既にアレスに向けて出発している。
門外でグローリアと別れ、馬車の出迎えを待つ。商業ギルドのアーティファクトの輸送に加えて、グローリアの鞍も運ばなくてはならない。
「グローリアの到着は目立ちますから、すぐにホームから馬車で出迎えがきますね。」
「そうだね。しかし、この鞍はアレスにも欲しいな。」
「それは良いですね!新しい鞍はガンツのホームに納品してもらって、今の鞍はアレスに行く時にそのまま持って行けます。」
グローリアも俺たちを乗せて飛行するのは好きみたいだし、その線で進めるか。以前作成を依頼した革工房には明日発注をかけよう。ワイバーンを飼育できるようになったら、同じ所でワイバーン用の鞍を頼むと良さそうだ。
馬車に揺られてホームに戻ると意外な人物が待ち構えていた。
「ケヴィンさん、どうしたんですかこんな遅くに。」
「実は、折言って閣下にお話ししたい事があります。コリント卿の一行がアレスに出発されたと聞いてタイミングを逃したと思っていたのですが、ドラゴンが戻られたと聞いてこうしてやってまいりました。」
「なるほど、では中でお話を聞きましょう。」
サテライトのメンバー鞍とアーティファクトの移動はサテライトのメンバーに任せて執務室に向かう。特に意識していないが今日は人が少ないし、いつもの口調で良いだろう。
ライスター卿も俺が戻る予定と知っているので今日明日はこの部屋を使って問題ないだろう。セリーナとシャロンが後に続いた。カトルは商業ギルドに明日の予定を打ち合わせさせに行くので別行動となる。
「さて、どんなお話でしょうか。」
ケヴィンさんを執務室に導き入れる。
「閣下は、アレスに商業ギルドを設置されると聞きました。」
「流石、耳が早いですね。」
サイラスさんが教えたのだろう。まぁ、町の顔役同士情報交換はするだろう。別に聞かれて困る話ではない。
「ついては冒険者ギルドもアレスに設置させて頂きたいのです。」
「なるほど。それは構いませんが、まだアレスをご覧になった事はないと思います。それで決断して大丈夫なのですか?」
「皆様の様子を見ていればアレスの都市の規模がガンツに劣らぬ物と分かります。そして将来性はガンツ以上でしょう。そこに一から冒険者ギルドを立ち上げるのです。こんなやり甲斐のある仕事はありません。」
「という事は、ケヴィンさん自らギルドの立ち上げを担当されるのですか?」
「はい。私が担当する方が事情も分かっておりますし、ガンツのギルドや冒険者とも話をしやすいので。」
ガンツの市政は代官に就任するライスター卿に委ねてしまうし、今の時点でも都市の三役と言っても情報伝達役の雰囲気だ。
俺にガンツを委ねる決定をした時は、ケヴィンさんも人の取りまとめに苦労したかもしれないが、今は国王の任命を受け政治的な事情は安定している。ガンツはライスター卿とサイラスさんがいればどうにでもなる雰囲気だ。この提案を認めてしまっても良いだろう。
「後任は信頼できる方にお願いします。こちらもケヴィンさんは頼りにしていました。仕事の出来ない後任では困ります。その問題さえなければ、アレスへの冒険者ギルド開設を歓迎します。土地も建物も提供しましょう。」
「ありがとうございます。今はアレスが樹海の最前線の都市です。冒険者ギルド長として必ずや成果を上げて見せます。」
ケヴィンさんはやる気だな。アレスは発展途上だし樹海にも近い。これまで冒険者に仕事をうまく割り振れていたとは言えないし、換金はこちらでやれても特にランクアップなんかは課題だった。民間で適切な受け皿ができるとアレスの都市生活も上手く回り始めるだろう。
「私は、明日商業ギルドの用事を終え次第、ガンツを発ちアレスに戻ります。」
「我々も準備が出来次第、アレスへ向かいます。一度に移動ではなく、スタッフの移動は段階的に行う形になるでしょう。」
「はい、受け入れは指示しておきますね。」
俺達はガッチリと手を握り合った。
「そう言えば閣下、魔術ギルドについてはいかがお考えですか?」
俺の脳裏にゴタニアの魔術ギルド長カーラさんの顔が浮かぶ。魔道具を色々自由に作れるようになって色々製造している。なので余り深く関わりたくないのが本心だ。しかし、魔道液などそろそろ補充して魔道具作りも再開したい。
「私は魔術ギルドのAランクですが、実は勝手に魔道具を色々作っています。なのでギルドとの距離感が悩ましいんですよ。」
「ご安心ください。魔術ギルドも冒険者ギルドも為政者を制約するものではなくその統治を助ける物です。閣下が魔術ギルドを支援されるのであれば、特に軋轢が生じる事はないでしょう。冒険者ギルドと魔術ギルドは親密な関係です。魔術ギルドは余り価値を理解されるギルドではありませんが、都市には必須です。会員の魔道具作成を援助こそすれ、制限する組織ではありません。私に任せてもらえませんか。」
「そう言う事なら、魔術ギルドの創設もケヴィンさんにお任せしましょう。」
「かしこまりました。必ずやご期待に応えてみせます。」
ケヴィンさんを見送ると同席していたセリーナとシャロンに話しかけられた。
「ケヴィンさん、やる気でしたね。でもこれで冒険者ギルドがアレスに誘致出来るなら、色々捗りますね。」
「やはり商業ギルドが出来れば冒険者ギルドも必要ですね。」
「魔道具作りの素材が揃うなら、魔道具開発もまた再開したいな。」
以前、セリーナが考えていた魔道具を兵器として用いる可能性も検討が必要だろう。兵士の装備開発の一環として試してみても良いかもしれないな。