【二次小説】航宙軍士官、星を統べる (原作:航宙軍士官、冒険者になる) 作:高坂 源五郎
ベルタ王国統一記 23話 【使者来訪編】三月の時を経て(鉄道完成)
王都での請願から3ヶ月、使者が王都より来訪する日が来た。出迎えの為、サテライトの主要メンバーはガンツに勢揃いさせ、その指揮はダルシムとヴァルターに委ねてある。街道も整備された今、樹海の中での移動にはまず問題が起こらない筈だった。辺境伯軍には諸事情で王国軍から移籍した者も含まれている。そちらは隠ししておき、なるべく顔を晒させないようにしていた。
使節団は王都出発の頃から二重に守らせている。エルヴィンの部下には途中の障害を排除させていたし、空中からは複数のドローンで監視させて盗賊や魔物などの突発的な被害が発生しないようにしてある。
結果的に使節団の旅は退屈な物となったようだ。だが、無事に到着してくれなければこちらの沽券に関わる。樹海はもう危険な場所でない、と王都から人を呼び込む為の強いメッセージを打ち出す事ができる筈だ。
宰相のバールケの派閥も今回の訪問は織り込み済みの為か、邪魔しない方針と聞く。国王派、宰相派共に、今回の使節団による交易は色々とあてにされているらしい。
俺は小姓役に任命したユリアンを従えてアレス正門の城壁に上った。アレスは堀が防御の主体だが、堀を渡る箇所には城壁を建築し城門を設置してある。眼下に見下ろす正門前の野営地には、到着した馬車の群れが見えた。ここまでは護送隊形を取っていた筈だが、ここから隊列を組み替え、高い身分のものから先に入城させる形にする事になっている。俺は予め城壁の上に控えさせておいたエルヴィンに話しかけた。彼はガンツから使節団にこっそり同行させて色々と探らせていた。
「エルヴィン、宰相派は今回の交易に何を期待している?わざわざ敵に利益になるような事をする理由がよく分からないな。」
「閣下、アレスやガンツは彼らにしてみれば屠殺前の牛や羊と同じです。太らせて殺すという感覚なのですよ。」
「奴らは、それほど絶対的な優位に立っていると思っているのか?」
「なんといっても、兵の数は力ですから。」
ベルタ王国の派遣可能兵力は総数5万程度のようだ。これは城に常駐させる警備兵などを除いた数という。恐らくその8割程度は国王の命令の下で宰相の指揮に入ると覚悟している。ガンツ周辺の貴族の兵かき集めても1万未満である。そしてその全員がこちらにつくとは限らない。王命が宰相に下る以上、形勢が有利な宰相側について当然なのだ。
「5倍以上の戦力差の数の暴力で圧倒する。やはりそれがあちらの作戦か?」
「はい。そう考え、もう兵の招集計画を立て終えているようですね。ただ、兵を集めるほど標的の大きさが問題になります。」
標的の大きさが重要とはどういう事だろう。
「ガンツとアレスが豊かであるほど、討伐する側が潤うから兵を集め易い、そういう理屈か?」
貴族の私兵を集めるのは莫大な戦費を必要とする。自弁させるにしても褒章なしのタダ働きとはしにくい。費用を賄う為、どさくさ紛れの略奪行為を行うというのはよく聞く話だった。
「ええ。こちらの懐具合を確認したいのでしょう。ですから両都市の実態を探る為、宰相の手の者が使節団に多数入り込んでおります。」
「攻城の下見なのか、はたまた略奪の下見なのか。」
俺が宰相の立場でも、平和的に敵地を訪れる今回の機会を最大限活用するだろう。内部構造の把握は攻城に欠かせないし、エルヴィンの一族が目を光らせていると先方も知っている。彼らの密偵では様子を探れない以上、この機会に必要な情報を探ろうとする筈だった。
「エルヴィン、奴らには目を光らせておけよ。使節団に何か問題が生じてもまずいが、使節団の密偵にあまり自由に動かせてもまずい。」
「はい、心得ております。」
「これは普段の報酬とは別の心付けだ、取っておいてくれ。君達の働きにはいつも満足している。」
エルヴィンには金貨の詰まった袋を手渡す。諜報活動には金がかかるし、兵のように戦場で活躍して褒賞を受ける機会もない。密偵を率いるエルヴィンは働きの良い時は適度に労うようにしていた。特に今回のように人が多い場合、対応力に長けたエルヴィンの一族は使い易い。
「これはこれは、ありがとうございます。」
押しいただくようにして金貨を受取るエルヴィンに重ねて言葉をかける。
「期待している。何かあればすぐに報告してくれ。」
「かしこまりました。」
一礼するエルヴィンを尻目に、俺はユリアンを引き連れて城壁を降りる。使節団はもう入城する。領主の俺が下で出迎える必要があるだろう。
「ユリアン、俺の身嗜みは問題ないかな。」
「はい、全く問題ございません。」
素早くユリアンに確認してもらう。今日は俺と別行動をとって留守にしている人間が多い。だから、ちょっとした事でも仲間の見守る目の不在に気付かされるな。
正門内の広場に降りて、歓迎の為に待機しているロベルト他の家臣の列に並んだ。
「ロベルト、苦労をかける。」
「おお、アラン様。使節団は無事のご到着です。いよいよですな。」
使節団の馬車が順々に正門を括って入ってくる。先頭の馬車がまだ移動してあるところだから、特に無礼を咎らめられる心配もなさそうだった。
広場に順々に整列した馬車からパラパラと兵が飛び出す。正使を迎えて列を作る筈だ。そんな兵に周囲を守らせて、王都からの使者は我々の目前に馬車を横付けにした。
貫禄ある巨体が姿を現す。禿頭が日の光を反射して眩く煌めく。俺が片膝をつき使者に恭しく頭を下げると、ロベルト他の臣下一同もそれに倣い膝をつく。
「大義である。私が使節団の団長を務めるカリファ伯である。一別以来だな、コリント卿よ。」
幾多の戦場で兵を指揮した割れ鐘のような深い声だった。
「ご無沙汰しております、カリファ伯。今回はこのような樹海の奥地までお越し頂き、感謝に堪えません。」
カリファ伯は身体をゆすって声を上げて笑ってみせた。
「王命ゆえよ、いかに私が忙しいとは言え、陛下の命があれば東奔西走するのが武人の務めだからな。」
そう言って禿頭に似合わぬほど立派に生え散らかした黒髭に手をやりながら、カリファ伯がこちらを見据える。
今回は別の人間に正使が決まっていた所、宰相のバールケが無理にカリファ伯を捩じ込んだと聞いている。互いに敵の立場のままだが、この機会を敵情視察の好機と見て軍事指揮官のカリファ伯を直に送り込んで来たのだ。
「使節団の迎賓館を用意してあります。皆様はそちらにお入りください。また、今宵はささやかながら歓迎の宴を設けたいと考えております。」
「うむ、コリント卿も物入りであるだろうな。」
「これくらいの事、陛下の使者をお迎えするにあたり当然の事でございます。」
「それでは苦労をかけるぞ」
短い挨拶を終えて馬車に戻ったカリファ伯は、馬車を出すように御者に促した。それを見守るダルシムが列の先頭で迎賓館に向けて移動を開始する。
カリファ伯が去ったのを確認すると、俺はほうっと息を吐き立ち上がった。膝の埃を払う。
「まさか本当に奴自ら来るとはな。」
「あ奴がアラン様がガンツで対峙された敵ですか。」
傍に寄ってロベルトが心配そうに小声で尋ねる。
「ああ、彼がカリファ伯だ。軍人としては優秀な男だ。負けはしないが、一筋縄ではいかないだろうな。」
「アラン様が、それほど警戒される男なのですね。」
カリファ伯を警戒する必要がある。だがあまり心配な素振りを見せても味方の士気を下げてしまうかもしれいないな。その点は少し注意する方がいいだろう。
「俺は軍人だからね、敵であっても優秀な軍人には敬意を払うさ。だが、誰が相手でも必ず勝つ。」
「はい、アラン様のこれまでのご活躍。女神様のご加護あっての事、これからも我ら一同はアラン様リア様に付き従い懸命に努めます。」
「ありがとう、ロベルト。皆も頼んだよ。」
俺は居並ぶ臣下達に声をかけた。彼らは便宜上、俺の臣下の形をとっている。しかし実際はリアの臣下であり、スターヴェイク復興の為にここアレスにいる。
彼らのためにも早くベルタ王国を平らげ、アロイス王国に挑むようにしないといけない。国を平らげるのに時間がかかる。それは皆理解してくれている。だがやはり、日が経過する毎にアロイス王国の支配が盤石なものになる、そう焦る雰囲気は俺にも伝わってくるのだ。
「さあ、そろそろリアが来る頃だ、皆、南西の空に注目してくれ。」
俺の指示で皆の視線が一斉に南西の空を向く。
「(グローリア、セリーナ、シャロン、そろそろ出番だ。頼んだぞ。)」
俺の指示で、グローリアは飛翔を開始した筈だ。正門を潜る車列を見守る振りをして目をじっと凝らしていると、湖上を点のような黒いシミが見る見る近づいて来るのが見える。
「ドラゴンだ、ドラゴンだぞ。」
使節団の行列を見物する民衆から声が上がる。よし、タイミングはバッチリだな。この喧騒は馬車で移動するカリファ伯まで必ず届く筈だ。
この日の為にドラゴンとワイバーンに乗る練習をしてきたのは、リア、エルナ、セリーナ、シャロン、ウルズラ、ロベルタだ。ドラゴンに乗っているのはロベルタだった。彼女はグローリアとやり合っているので、グローリアとは何というか戦友のような独特の感覚があるらしい。
カリファ伯は飛行するドラゴンと対峙した経験はない。今回は特に危害を加えるつもりはないか、飛んでいる様を見せつけるつもりだった。彼らはアレスにドラゴンがあると知ってやって来ている。グローリアが普段通り飛んで見せたところで、問題とするに当たらないだろう。
馬車の中でカリファ伯は不機嫌に考え事をしていた。
「(コリント卿は、私の姿を見ても驚く様子など微塵も見せなかったな。)」
宰相の一部の密偵がコリント卿に鞍替えしたと風の噂で聞いてはいた。であるならば、コリント卿のあの様子は韜晦したのではない。あらかじめカリファ伯自身が来ると、そう知っていたに違いない。
「こちらの情報は、ある程度筒抜けと考える方が良いな、これは。」
その時、民衆の喧騒が馬車の中まで響いて来た。
「なんだ?」
同乗している護衛役が狼狽えて叫ぶ。
「閣下、ドラゴンです。ドラゴンが出たそうです。」
カリファ伯は窓から外に目をやり、部下を制止した。
「ああ、見えている。静かにしろ。」
アレスの南に位置する湖の上空をドラゴンが舞っていた。一頭の大きなドラゴンに、小さいドラゴンを何匹か引き連れている。
「小さいのは子供のドラゴン、いやワイバーンか。」
飛竜とも称されるワイバーンは小型種で、ドラゴンよりは小さい。だが小さいと言っても胴体だけで牛や馬並みのサイズはある。実際、よく人や馬を攫って食べたりするくらい飛行能力は高い。
「まさか背中に人を乗せているのか?」
よく見るとドラゴンだけでなくワイバーンの背中にも人が乗っている。ドラゴンと5頭のワイバーンの背にそれぞれ1名ずつ、計6人の兵。
「あれはコリント卿ではない。普通の兵でもワイバーンを扱えるように飼い慣らしたとでもいうのか。」
衝撃的だった。戦力としてはワイバーンなど10頭集まってもドラゴン1匹に遠く及ばないだろう。ワイバーンは単なる魔物で魔法も使えない。が、普通の兵でも扱えるとなると話は別である。戦闘力はさることながら、空を飛ぶ兵を複数揃えられる。その事実に凄まじいインパクトが生じるのだ。
「コリント卿はワイバーン騎兵まで用意したのか。野戦の布陣など丸見えになるではないか。」
「離れた部隊同士の連携など、大軍の運用が楽になりますな。」
カリファ伯の副官もその脅威度合いを推測っていた。ドラゴン1体なら対策はまだ可能だ。しかし偵察や索敵でワイバーンを使われるとなると戦いの前提が変わる。一気にこれまでの軍事的な常識の通用しない相手となる。
「元々、常識では測れん男だが、まさかワイバーンまで飼い慣らすか。」
「コリント卿はいつからワイバーンを使役しているのでしょうか?」
「ガンツで対峙した際、ワイバーンを飼い慣らしていたら誇示していた筈だ。という事は、この三ヶ月で5頭のワイバーンを飼い慣らした事になるな。」
「奴との開戦までにまだ間があります。更にワイバーンの数を増やすやもしれませんな。」
ドラゴンはそう簡単に増やせないだろうと踏んでいた。そもそも希少性が高い。だがワイバーンとなると話は別である。樹海の奥地には多数生息して不思議はない。
毎年卵を産むだろうし、繁殖もドラゴンよりは容易だろう。ドラゴンと意思疎通出来るなら、ドラゴンより下位のワイバーンは使役出来て不思議ではないのかも知れない。
「この事を知れば宰相は『対策はどうするのだ』と口煩い事だろうな。」
ヴィリス・バールケは盟友ではあるが、その性格は粘質で実に細かい。軍事をカリファ伯に丸投げしている分、人間にはどうしようもないような事についても『軍事はそちらの専門だろう』と決めつけて対応するよう責め立てる悪癖があった。宰相に近づいたのはその権勢を利用してある物を探させる為だが、それでいて未だ目的の物は見つかっていない。
「まずは移動式のバリスタの数を増やしましょう。それで対策せねばなりませんな。」
「ああ、それで手配しておけ。」
「了解しました。」
しかしコリント卿はやけにあっさりとワイバーンを飼い慣らした事を見せつけている。彼は恐らく切り札はまだ隠し持っているに相違なかった。コリント卿の手札の中に、カリファ伯の探させている品はあるのだろうか。慎重に見定めなければならないだろう。
その夜、議会の横に建築した迎賓館では歓迎の宴が執り行われていた。この日の為に、ガンツ近隣の貴族には予め招集をかけてある。それが国王の命であると理解していたし、せめてガンツ近隣の人心は綜覧する為にも、理由をつけて金をばら撒く戦略を取らざるを得ない為だ。
「コリント卿は大仰な演出を好まれますな。正使のカリファ伯はすっかりおとなしくなりましたぞ。」
主賓の到着を待つ間に、客達は盃を重ねている。俺が今、ワインを片手に立ち話をしている相手は副使のトリスタン卿だった。本来なら正使を務める筈だったアマド国王の側近だった。かつてドラゴンに乗ると言い張ったアマド国王を必死に制止していた、あの側近の貴族である。
「演出などととんでもありません。あの時間にいつもドラゴンはワイバーンを従えて狩にゆくのですよ。アレスではあれが普通の光景です。ドラゴンにワイバーンを率いさせているのも、流石のワイバーンもドラゴンの前では子犬のように大人しくなる為です。それにカリファ伯は豪胆な方です、ドラゴンやワイバーンなど気にも止められないでしょう。」
カリファ伯はまだ部屋に篭って宴の席に顔を出していない。それもまた彼一流の演出という気がした。遅れて焦らさせてから登場するという手口。正使が来ない限り、歓迎の宴は開始とはならないのだから。小一時間待たせるくらいの事は平気でするだろう。
「おお、ご到着ですな。」
侍臣が国王の使いたるカリファ伯の到着をつげる。居並ぶ貴族の歓迎の拍手の中堂々たる足取りで副官を従えたカリファ伯が会場に入って来た。彼が到着すると場の空気感が変わる。優秀な軍事指揮官だけが備える張り詰めた緊張感があるからだろうか。
「皆の歓迎、痛み入る。」
鷹揚に手を振り、カリファ伯は出迎えた貴族の歓迎に応える。
「それでは皆様、席へお座りください。」
宴を差配するロベルトが宴の参加者に着席を促す。中央の主テーブルはカリファ伯と同行の副官、トリスタン卿とその副官が着席する。テーブルを挟んで反対側は俺とエルナとセリーナとシャロンがそれぞれ対峙するように着席する。
今回、リアは同席させていない。現時点でリアを目立たせるのは得策でないと考えていた。同じ理由でウルズラも欠席している。ただし、ウルズラがアレスにいる事は恐らくカリファ伯は掴んでいるだろう。セシリオ王国との間で結構な揉め事になっているのだから。
現状ウルズラは捕虜であり、彼女の身柄を確保している間にロベルトの指揮する開拓民がセシリア王国を経由してアレスに着々と到着していた。ウルズラの騎兵隊が護衛するのでトラブルが皆無である。女主人解放の為の奉公として、ルージ王太子に黙認させる事に成功していた。
「おう、こちらの方はアマド陛下がご執心のエルナ殿ですな。」
トリスタン卿はエルナの存在に気がついたようだ。
「私のような者の事を覚えて頂き、誠に光栄です。トリスタン卿。」
よそゆきの声でエルナがトリスタン卿に応対する。凄いな、エルナは一体どこから声を出しているんだろう。声の高さが普段と全然違うじゃないか。あれぞまさに猫撫で声というやつだな。
「陛下はエルナ殿にひどくご執心でしてな。今回も特別な品を用意しております。後で届けさせましょう。」
「まぁ、楽しみですわ。」
「コリント卿は、美女の蒐集家のようだな。」
俺はカリファ伯に話しかけられる。エルナ、セリーナ、シャロンの事を指しているのは明らかだった。
「彼女達はあくまでも武人として私に仕えてくれています。ガンツ伯を討ち取ったのも実はエルナなのですよ。」
「ほう、それは勇ましいな。魔法を使うのか。」
「はい、優れた魔法の使い手ですが、剣の腕もかなりのものですよ。彼女と同等に剣を振う者は3名ほどしかおりません。」
エルナの剣の腕に対抗できるのは、俺以外だとリア、セリーナ、シャロンの3人しか無理だろうな。
「おう、エルナ殿は剣の腕に長けておられるのか。それこそ益々、陛下の近くに欲しい方ですな。是非一度、王宮に遊びにいらしてください。」
トリスタン卿は、アマド国王の為にしきりにエルナを口説いているようだ。エルナがノコノコ王宮に出かけて行ったら軟禁された、で捕虜になりかねない。こちらにメッセージを伝えるため、アマド国王がエルナに執心している振りを続けているのだろうか?
いや、アマド国王がエルナに本気になっている、そんな線もあるのかもしれない。俺との初対面の印象は緊迫したものだったが、そんな中でも懸命に口説いているように見えた。エルナはベルタ王国でも稀な美人だ。特に赤毛が好きな人には堪らないのかもしれないな。
(エルナ、アマド陛下は本気かもしれないぞ。受け答えは慎重に頼む。)
(分かっています、アラン。私は浮気したりしないから安心して。)
浮気とはなんだろうか。エルナは猛々しい印象もあるが、いきなりキスしてきたりする突飛な所がある。戦場でのあの時のエルナとのキスの感触が思い出されてドギマギさせられてしまった。ガンツ伯を討ち果たした、それ故の一時的な気分の高揚だとそう思っていたのだが。
「グラスが行き渡りました。そろそろ乾杯の音頭をお願い致します。」
ロベルトに話しかけられた。宴の開始はもてなす側が挨拶し、宴の終盤にもてなされた側が挨拶をするらしい。つまりまず俺が挨拶をする必要があるのだろう。
「本日は高名なる皆様に、我が街アレスまでお越し頂き感謝に堪えません。開拓地では王都とは勝手が異なりましょうが、心ばかりの宴を用意させて頂きました。本日は存分にお寛ぎください。それでは国王陛下と皆様の壮健を祝して乾杯!」
「「乾杯!」」
後は使者をもてなしながら食事を楽しめば良い。本来はそうなのだがカリファ伯が来た以上、今夜は腹の探り合いにしかならないだろうな。
「トリスタン卿、王都は最近はいかがですか。」
「平穏無事、というところですな。盗賊がすっかり影を潜めて活気づいておりますよ。ガンツまでの道中も安全になっておりますし、今後は商売の流れも良くなるでしょう。」
盗賊狩りの成果はなお継続しているらしい。商業活動が活発化しているのはいい傾向だった。
「コリント卿は、アレスに商業ギルドを誘致したらしいな。手回しの良い事だ。益々繁栄するな、アレスは。」
「はい、お陰様でトントン拍子に話が決まりまして。」
「で、アレスとガンツを軌条で繋ぐのかね?」
流石はカリファ伯だ。ズバッと切り込んでくる。
「流石に目敏いですね。鉄や石炭を輸送する関係で軌条を伸ばすと効率的と考えておりますよ。」
「鉱山で用いられる鉄道馬車という奴だな。」
今回の使節団は通常の馬車で来ている。だが、資源を運ばせる鉄道馬車用の軌条はもう完成していた。溶鉱炉が稼働すれば軌条の生産に支障はなく、軌条の設置は思った以上に楽だった。基本的に軌条の無いところまで移動して設置を繰り返す作業なのだ。そこまでの移動手段は確保されているので、物さえあれば案外と進展するのだ、
「ええ。より多くの荷を安全に運べますから。」
「私は不勉強なので教えて欲しいのだがね、普通の馬車と何がどう違う?」
カリファ伯のこの質問、それは鉄道馬車の本質を探る内容だった。軌条、レールの価値がどこにあるかという話なのだ。
「そうですね。馬車でアレスまでお越しになったのならお分かりでしょうが、馬車用の道は舗装してあっても快適とは言い難い物です。ちょっとした段差でも車体が跳ね上がり舌を噛みそうになる。しかし、軌条を使えば滑るように滑らかになります。」
「ほう?」
「絶対に最適なルートを外れず、悪路に悩むことなく専用の道を快適に走り続ける事が出来るのですよ。」
「なるほど、悪路知らずか。」
俺の言葉にカリファ伯が考え込む。手の内を晒し過ぎたろうか。いや、アレスの溶鉱炉でなければあれほど大量の製鉄は行えない。軌条の確保は大量生産と不可分の関係だ。
「乗り心地の良さに加えて速度が出せます。技術の細かい説明は省きますが。」
「馬車の速度が落ちにくい、そういう仕掛けと聞いている。」
「ノイスから鉄と石炭を仕入れていると、そう把握されているのでしょう?」
「知らないと言えば嘘になるな。」
「それなら話が早い。陛下へアレスの発展をご報告頂きたいのです。もし宜しければ、明日我らの溶鉱炉へご案内しますよ。」
宴は早々にお開きになった。表向きは使節団の疲労を癒す為であり、裏では謀略に時間を割くためである。アレス内でカリファ伯達を自由に動かして様子をみようという判断だった。
カリファ伯は失望していた。部下を手分けして聞き込みをさせたのだが、目ぼしい情報は得られなかったのだ。
(ここに目当ての品はないか、秘蔵されているかだな。覚悟はしていたが奴自慢の都市の攻略法を練って終わるとするか。)
翌日の溶鉱炉の見学はトリスタン卿やカリファ伯など使節団の選りすぐりのメンバーになった。
「これが溶鉱炉かね、大きいな。それに煙突が高いな。」
「ノイスの石炭を用いて炉を高温にします。その為、煙突も高くする必要があるのですよ。」
カリファ伯との溶鉱炉見学は和やかに進んでいた。
「作らせているのは常軌だけかね?」
「最近は兵の装備を作らせていますよ。」
「ほう?」
製鉄において有用だったのは火魔法より土魔法の存在だ。精錬した鉄を流し込む為の型を土魔法で作成すると驚くほどの時短となった。土魔法を操作する俺はナノムを通じてイーリスのアーカイブのデータを共有できる。鉄や銅の製品ならパーツ毎に分解して形成する事で100%再現できた。
「取り急ぎは剣を作らせています。いずれ他の物も増やすつもりではありますが。」
「その話を宰相への土産話にせよと?」
面白そうにカリファ伯がいう。真っ向から『剣を作っている』と宣言されると思っていなかったのだろう。
アレスの製鉄事業が順調で軍刀製作に乗り出していたのは本当だった。辺境伯軍の為に量産も開始していた。
「国王陛下への献上品とは別に使節団の人数に合わせて用意してあります。アレス滞在の記念にお持ちください。」
贈呈用に用意した剣を取り出して、カリファ伯にプレゼントする。炭素量を調整して組み合わせた芯に鋼を被せた複合素材で工業的に形成した軍刀だ。片刃にしたのは乗馬刀として使うにはそれが有利という想定だからだが、イーリスの参照したデータベースからの変更を最小限にしたからというのが本当の理由でもある。
「美しい剣だな。しかし片刃だな。」
「これは騎兵が馬上で片手で扱えるようにしたものです。」
騎兵が馬上で振るう場合、武器の長さも重要だが少し反りがあると角度次第で衝撃を殺せるので使い易い。騎兵が振るう武器は馬の勢いで威力が増す。刃に反りがある方が力が上手くかかるのだ。
硬く切れ味が良い軍刀は乗馬刀として抜群の威力だった。騎兵を指揮する者には垂涎の品という自負があった。なんといってもイーリスのデータベースとシュミレーターを組み合わせて人類の歴史から最適な形状を算出させたのだ。魔法剣には及ばないが、工業製品なので数を揃えられるのは強みだろう。
「敵に塩を贈るような真似をしていいのか?返さんぞ。」
「構いません。アレスも金貨を稼ぐ必要がありましてね、気に入ったのなら大口の注文をお願いします。」
溶鉱炉の実際を見せた事で使節団も使命を果たせそうだと安心したのだろう。昼食の席でも皆朗らかだった。蒸留酒を片手にトリスタン卿もアレスを称賛してくれた。
「アレスは本当に都市と呼べる規模でしたな。樹海をこれほど見事に開拓したとは信じられません。」
国王に用意するように命じられた交易品の検品も無事に終わった。午後は上下水道や水車小屋の見学を行う。見せられる部分だけだが、水道の価値は理解されたようだ。ただ、水源は水路か湖と思われてあるのは閉口したが、その疑問は解かずにしている。手の内を晒す必要はないだろう。籠城で水に困らない街と思わせておけばそれでいい。水車小屋の粉挽の印象が強すぎて、水路が強烈に記憶されたのかもしれない。
視察を終えた翌日は簡単な授与式を終えて視察団の出立となった。
「エルナ殿、またいずれ。陛下に何かお言伝はありますかな?」
「アマド国王陛下には、どうぞよろしくお伝えください。」
そんなエルナの素っ気ない言葉でもトリスタン卿は喜んでいた。あれでも国王直々の使命達成となるのだろうか。
そのやり取りの様子を少し呆れたように眺めていたカリファ伯は、俺に向き直り別れの言葉を口にした。
「ではまたな、コリント卿。悪くない都市だったが私には綺麗すぎる。私はもっと猥雑な歓楽街が好みだ。」
「次回はカリファ伯が思いもよらぬ発展をしているかもしれませんよ。」
「或いはアレスを守りきれず別の者が支配する事になるかもしれんぞ。その時はコリント卿は水道の専門家として私が雇わない事もない。」
「何やら楽しそうな未来ですが、アレスは陥落させませんよ。カリファ伯こそ、アレスの歓楽街を仕切る顔役になる気はありませんか?」
「ふふふ、老後の楽しみとしてなら考えておこう。私好みの薄汚れた歓楽街をこの清潔な都市に作れるのならな。」
強烈な印象を残してカリファ伯とトリスタン卿は去っていった。
王都からもたらされた品は民生品というか、ちょっとした贅沢品が多い。貴族用のドレスや装飾用の壺など実用品でも工芸品でもない美術品というべき品々だ。
これらはどうしよう。開拓地では今ひとつ使い道がない。近隣の貴族の支持を得る為に配ってしまうほうが良いだろうか。迎賓館に残された品々を眺めて思案に耽っていると、これまで使節団から隠れる為に近衛の宿舎に移動していたリアが戻ってきた。
「アラン、これで無事に辺境伯になったのね。おめでとう。」
俺の姿を見かけて小走りに近づいてきたリアが妙にモジモジしながらお祝いの言葉をかけてくれた。
「ありがとう。後は宰相に対して兵を上げるタイミングを計るだけだ。そうしたらリアが女王に即位する事になる。今までリアを待たせてしまって申し訳ない。」
「待たせているだなんて、そんな。」
リアはなんだか顔が赤い。
「熱でもあるのかい?顔が赤いけど。」
リアの体内のナノムに検査させる方が良いだろうか。
「ううん、なんでもないわ。夢が実現する日が近づいていると感じて嬉しいだけ。それより名実共に辺境伯になったのだもの。アランの宮殿を建てないといけないわね。そうしたらまた私達が一緒に住むことになるのでしょう?」
宮殿か。女王が住むのだし、そろそろ必要だろうな。もう準備を開始すると良いだろう。これらの品々も宮殿に収めるのが適切かもしれないな。利用させてもらおう。
「そうだね、そろそろ準備をしようか。まずは図面を描くところからだな。皆の希望を合わせてみよう。」
「うんっ」
良かった、リアがなんだか凄く嬉しそうだ。
翌日は恒例の会議を招集した。使節団が去り辺境伯となった節目なので会議をして方針を話し合う適切なタイミングだろう。
「皆、使節団の応接ご苦労だった。カリファ伯直々に様子を探りに来たのは予想外だったがうまく対応してくれたと思う。特に王都にはこのアレスの威容が伝わるはずだ。」
見渡す限り皆満足そうな顔をしている。
「都市の発展、食糧の備蓄、樹海の富の売却、製鉄による輸送と兵装の整備は皆上手く進展していると思う。このまま怠りなく準備を進めていこう。それでリアからも言われたんだが、いずれ女王として即位するリアに新居を用意する必要がある。いよいよ宮殿の建設に取り掛かろうと思うのだが、どうだろうか。」
「賛成です。リア様の即位こそ我らの悲願。アレスが成長するのを見守って参りましたが、いよいよその日が来るのかと万感の思いです。」
真っ先に賛成したロベルトが涙ぐんでいる。
「宮殿をどうしたらいいかは皆の知恵を借りたい。皆の意見を俺が図面に落とすから、問題なければ建造を開始しよう。」
会議の参列者を眺めるとウルズラが驚愕の表情を浮かべていた。バルテン士爵、プレル士爵も怪訝そうだ。
「ああ、そうか。今まで事情を伏せていてすまない。もう皆に事情を説明をしてもいいかな、リア?」
「構わない。我が名はクレリア・スターヴァイン。スターヴェイク王国の王女だ。アマド国王は私から見て祖母の妹の子孫、はとこにあたる。今まで伏せていたが、宰相と対峙する際に我が名を明かす手筈となっていたのだ。許せよ。」
クレリアの名は近隣のベルタ王国やセシリオ王国にもその名は知られているのだろう。
「それはそれは。なるほど。殿下のお立場なら無理からぬ事。アマド陛下に対抗する上で実力はあれど王家の血筋をどうされるのかと考えておりましたが、クレリア様が女王として即位されるのであれば我らの良き大義名分となりましょう。バールケ奴もおどろきますな。」
バルテン士爵は軍人らしい厳つい容姿だが、その実細やかな神経の持ち主だ。その彼が肯定的な反応を示してくれている。傍のプレル士爵も同感のようだ。
残念ながらザイフリート士爵は使節団が出発した後でアレスを去った。彼らを迎え入れる際に約束した権利を行使したのだ。その際、バルテン士爵とプレル士爵には「アレスに残るなら今後の離脱は許さない」と伝えてある。領民を移住させつつあるウルズラを含め、もう秘密を共有して問題ない筈だ。
「リア殿、いやクレリア様は王女殿下だったのだな。これは驚いた。」
ウルズラも驚いていた。薄々リアは特別な存在とおもっていたが、まさか王女だったとは。コリント卿の庇護下に加えられた時、「王女は間に合っている」と言われたのはこういう意味であったか。しかし、この状況は利用できる。
「クレリア様のお立場なら、アロイス王国に支配されているスターヴェイクの貴族や民も喜んで馳せ参じるに違いない。あの、それで、その私もセシリオ王国では王族として知られる立場なのだが。」
「おう、アロイス王国に攻め込む際はクレリア王女を押し立て、セシリオ王国に攻め込む際はウルズラ•ドプナー女伯爵を旗印にされるのですか。なるほどなるほど。」
調子良くバルテン士爵が話を合わせてくれる。大男の見た目に合わずよく気がつく男だ。
「そうだ。私はセシリオ王国のルージ王太子の従姉妹。セシリオ王国平定の為には私の血筋も上手く利用して欲しい」
コリント卿とクレリア王女は顔を見合わせている。しかしクレリア王女がスターヴェイクの代表であるように、ウルズラもまたセシリオ王国の代表でもあるのだ。コリント卿が問いかけた。
「どうだろう、リア?」
皆が固唾を飲んでクレリアの対応を見守った。
「セシリオ王国の王族を蔑ろにしたら、セシリオ王国の民は悲しむと思う。宮殿の一隅にウルズラの為の場所を用意するのが良いのではないかしら。」
「リア、すまない。」
コリント卿は見るからに安堵した様子だった。
「クレリア様、感謝する。」
これで彼らの中で公的にウルズラの身分は定まった。
「クレリア様、よろしかったのですか。」
会議を終えるとクレリアはロベルトやエルナ、ダルシムやヴァルターといったスターヴェイクの面々に囲まれた。皆、ウルズラの扱いについて述べているのだ。
「わたしとアランの約束はアロイス王国の取り扱いについてだもの。セシリオ王国についてはアランに任せる他ないし、覚悟はしていたわ。」
臣下の前ではクレリアは笑顔を見せた。
「今は皆の希望が実現しそうな事が大事。アランも私に気を遣ってくれている。ウルズラも悪い人ではないわ。お父様も国内の安定の為に側妃を迎えてらしたもの。」
「まずはリア様が女王として即位される事こそ大事。ドプナー女伯爵もリア様の寛大なお心に感謝されておるでしょうな。無論アラン様もです。」
「ええ、今は国取りの成功を賭けた大事な時期。皆の結束を揺るがすわけにはいかない。アランなら問題なく宰相を討ち果たすでしょうけれど、少しでも大勢の味方をかき集めなくては。」
「はい。女王として即位されるクレリア様こそが至尊。その点は明確に致しましょう。急ぎ宮殿建築の計画を練らせましょう。」
会議を終えた俺は、イーリスから最優先通知の呼び出しを受けていた。
「どうした、イーリス。何か緊急の報告があるのか?」
「艦長、セリーナを通じて今朝の会議の内容をモニターしていました。宮殿の建設の件です。」
「ああ、そのことか。特にデザインにこだわるつもりはないから、皆で相談して決めてもらうよ。もちろん、図面に落とし込む時はイーリスの助けを借りることになると思う。」
「宮殿にはセリーナとシャロンの部屋を必ず用意してください。」
「え、なんだって?」
「あの2人には艦長の他、頼る相手がいません。」
「ああ、2人の事は部下としてちゃんと面倒を見ると約束する。」
「部下として遇するだけでは不充分です。5万人規模の都市が成立し、製鉄所を稼働させました。蒸気機関も実現しました。惑星アレスの文明レベルは上昇しています。当初の予測を超える形で事態は進展しています。」
「セリーナやシャロンを含めた皆の頑張りだと、そう理解しているよ。」
「はい。2人の活躍は見事なものです。そして、現状の進展ぶりですと2人の寿命が尽きる前に人類銀河文明への復帰が叶う可能性が生じています。僅かな可能性ではありますが、その時、彼女達はどうなるでしょうか?」
「セリーナとシャロンは帝国軍人として問題なく身分を保障される筈だ、彼女達はその為に産み出された。くそ、マズいな。」
「はい、彼女達は人工的に生み出されたクローンです。」
人類銀河帝国においてクローンは違法な存在である。法の保護の対象ではない。そして人類銀河文明にとって、この惑星の影響力など無視できる程のものでしかなく、何も手を打たなければセリーナやシャロンを法的に保護する事は難しいだろう。なんて事だ。順調にいけばいったらでこんな支障が出るのか。
「法的に何か回避する方法はあるか?」
「人類銀河帝国では婚姻による国籍取得が認められています。人類世界の習俗は多岐に渡るので、婚姻関係については現地政府の法に従えば大丈夫です。惑星アレスで一夫多妻が成立している場合、その点は特に問題になりません。」
「.......」
「身元のしっかりした人類銀河帝国の国民と婚姻関係を形成する事で、彼女達の国籍は確定します。少なくとも即座に生命に危害を加えられる恐れはなくなる筈です。」
「人類銀河帝国の人間なんて、セリーナとシャロンを除けば俺しかいないぞ?」
「はい。ですから艦長に責任をとって頂かなくては。」
仮想空間に表示されるイーリスは、一瞬だが勝ち誇ったようなニヤニヤ笑いを浮かべた。これは見間違いではないだろう。
「そして帝国法下において婚姻関係だけではクローンの保護は万全ではありません。偽装結婚の可能性も疑われますし、婚姻関係は解消可能です。彼女達が確実に保護される為には、人類銀河帝国の国民である艦長の子供を産む必要があります。2人が艦長の子の母親となれば無事でいられる可能性はずっと高まります。我々の生存戦略としてセリーナとシャロンの子孫を作る事の必要性は明白です。」
「俺が軍事裁判で罪人として裁かれてもその措置は有効なのか?それに本当に必要な措置だとしても、彼女達の意思はどうなる?」
「まず、親の罪は子に受け継がれません。艦長の軍事裁判での処遇に関わらず、今回の措置は有効です。なんと言っても子供にはなんの罪もありませんから。そして婚姻関係を結ぶかどうかについては後は当人達の意思次第です。そこは艦長が確認する必要があります。2人は先ほどの会議の内容で傷ついていると思います。彼女達のケアをお願いします。」
「わ、分かった。いずれは彼女達と話してみよう。」
困ったな、何を言えばいいのか。その俺の困惑を見透かすようにイーリスは言った。
「2人の気持ちについては、艦長が独力で早くなんとかして頂かなくては。戦争状態にある未開の星です。子供はたくさん作りましょう。それぞれ2人、いえ3人は必要ですね。私の娘達を蔑ろにしたら承知しませんよ。アレスに建造する宮殿には必ずセリーナとシャロンの場所を作ってください。お願いしましたよ、艦長。」
なんだかんだで、俺はイーリスに押し切られた。
その夜。俺は自室に篭ってからセリーナとシャロンに通話を開始した。
「セリーナ、シャロン、ちょっと話したい事があるんだが良いだろうか?」
「「はい」」
「今朝の会議の件だが、宮殿には君達の部屋も用意するつもりだ。」
「「きゃあっ!」」
俺の通話は彼女達の叫び声にかき消された。
「いきなりなんて事を言うんですか、アラン」
「そうですよ、反省してください。アラン」
「いや、誤解を与えてしまったら申し訳ない。」
「誤解はないから安心してください、アラン」
「そういうことは態度で示してくださいね、アラン」
「会議後にリアから『部屋は用意する』って、そう言われています。だからアランは余計な気を回さなくて大丈夫ですよ」
「でも、たまには私たちの事も気にかけてくださいね。」
「「おやすみなさい」」
通信は一方的に接続が切れた。…まぁ、これで懸念は解消したと。そういう事にして良いだろう。