【二次小説】航宙軍士官、星を統べる (原作:航宙軍士官、冒険者になる)   作:高坂 源五郎

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Ⅰ ベルタ王国統一記 25話 【統一戦編】勝敗の行方

ベルタ王国統一記 25話 【統一戦編】勝敗の行方

 

「艦長、王都およびその近郊から宰相とカリファ伯が率いる軍が出発しました。合流予定軍を合算した敵の総数は兵35,000と推定されます。」

 

「やはり期限の3年を待たずに攻めてきたか。敵もこちらと同じことを考えていたな」

 

今は秋の収穫の真っ最中だ。大軍を動かしても兵糧不足は敵味方ともまず無い。

 

「イーリス、こちらの遠征軍の準備は。」

 

「概ね整っています。何も問題ありません。」

 

こちらは元々の想定通り兵20,000を編成していた。遠征軍の兵18,000とは別にアレスとガンツ双方に1,000人の守備兵を残していた。守備部隊の指揮官はそれぞれセリーナとシャロンだ。

 

俺とセリーナとシャロンの3人はそれぞれヒールも使えるし、リアルタイムに通信で連絡を取り合える。予定戦場との距離の問題がある以上、留守を誰に任せても不安がある。だからこそ情報共有がスムーズな人間を分散して配置した。

 

セリーナとシャロンが両翼に揃った時の軍の破壊力は目覚ましいものがある。右翼と左翼の強化を追求したい思いも強い。だが、ベルタ王国を平定する今回の戦いでは過剰戦力にもなりかねない。敵は適度に生き残らせ、仲間になってもらう必要がある。

 

「セリーナ、留守を頼んだよ。」

 

アレスを出発する際、セリーナに声をかけると彼女もしっかりと頷き返してくれた。皆の中でアレスはもう完全に故郷であり、これからの生活の希望となっている。その地を託された事に、セリーナも感じる物があったようだ。

 

「アランのようには、上手く出来ないかもしれません。」

 

彼女は少し不安そうにそう言った。

 

「皆で樹海で戦った時より、兵の数も増えたし街の住人も協力的だと思う。もちろん俺もシャロンもイーリスも、グローリアだって相談にのるさ。この任務はセリーナにしか頼めない。だからアレスを頼んだよ。」

 

「分かりました、アラン。私の全力を尽くします。」

 

そう、今回はグローリアも樹海に残していた。理由をハッキリと説明するのは難しい。ただ人間との争いにグローリアを必要以上に巻き込むのは躊躇われたからだ。カリファ伯がグローリアに何か仕掛けてくるのを警戒したのも恐らく理由だろう。

 

それにグローリアの能力は攻撃より防御に活かす方が良いと考えていた。樹海やアレスを守る為に戦う方が自然なのではないだろうか。もちろん、守備部隊が手薄になり過ぎないように支援させる意図がある。

 

「シャロン、セリーナやグローリアとうまく連携して事に当たってくれよ。」

 

ガンツでシャロンと別れた時、シャロンも俺の言葉に健気に笑って見せた。

 

「任せてください、アラン。ガンツは守り抜いてみせますから。セリーナに負けていられません。」

 

「ガンツは元々は敵の都市だ。市民の中から敵の侵入を手引きする者が出ても不思議じゃない。ガンツはアレスと違う。最悪、取り返す形でもいい。守ろうとして無理はするんじゃないぞ。」

 

「はい。大丈夫です。私は無理しませんから。」

 

(グローリア、2人を頼んだぞ。もしどうしようもなくなったら2人だけでも助けて欲しい。)

 

「族長、樹海は私達が守りますから、安心してくださいね。」

 

全軍で兵20,000とキリのいい数字なのは兵站の負担を見越して兵の数を調整した為だ。防衛に兵2,000を割くので遠征軍は兵18,000となる。

 

ダルシム、ヴァルター、バルテン、プレルにそれぞれ兵3,000を率いさせる。リアとエルナは本陣を構成する2,000の兵。ここには魔法を使える兵や弓兵を多く集めた。本陣前の防衛部隊は俺が率いる兵1,000の槍兵だ。リアとエルナの背後を守るライスター卿も同じく兵1,000を率いる。ライスター卿の部隊は旧臣とガンツの志願兵で構成されている。最後の兵2,000はノイス子爵やケール男爵の部隊だ。ガンツ近隣貴族の応援組で彼らはライスター卿の指揮下に入れた。リアとエルナが率いる本陣の後備えを構成する。これで合わせて18,000の兵となる。

 

俺が率いる槍兵1,000は元々捕虜だった志願兵や新規に応募した者で構成した。よく言えば経験豊富な手練れだが、癖が強くやや扱いづらい面々だ。まぁ彼らの忠誠心を勝ち取りさえすれば、経験者中心なだけに簡単に崩れる事はないと計算している。

 

本陣前の防御なので敵の攻撃を一手に引き受ける可能性も高い。ある程度の損耗は織り込み済みのハイリスクな部隊だ。だからこそ、回復魔法ヒールの使い手である俺の部下としているし、成果に応じて金を弾む約束もしている。

 

残りの部隊はほぼ実戦経験皆無の新兵揃いだった。寄せ集めもいい所だが、各指揮官がそれぞれ懸命に鍛えて今日の日を迎えていた。訓練の成果で相応の実力が備わっている筈だが、大事な局面を任せるのにはにまだ不安はある。

 

その為、サテライトのメンバーを指揮官を支える補佐として所属させている。サテライトのメンバーは各隊に分散させて指揮官の指令を中継する役割を持たせた。

 

サテライトの11班を2班ずつダルシム、ヴァルター、バルテン、プレル、リアとエルナの5部隊に分散させ、残る1班をライスター卿につけた形となる。サテライトが全く配置されないのは俺の部隊と、都市防衛にあたるセリーナとシャロンの部隊だ。

 

特にバルテンとプレルは王国軍の人間だった為、子飼いの部下もそこに加えた。ダルシムやヴァルターも武人としての能力は劣らない筈だが、軍の進退は同国人のバルテンやプレルの方がやや有利だろうか。

 

 

会戦の予定地点は王都とアレスの間の平野部とした。敵味方正面からぶつかり合う。敵軍の総数はこちらの倍だ。だが職業軍人とはいえ王国軍の主力はこの数年はほとんど実戦を行っていないことは掴んでいた。

 

残りは宰相が集めた貴族の連合体なので戦意も編成もバラバラの寄せ集めの兵である。宰相、カリファ伯、王国軍の兵を足すと2万に満たないだろう。この2万の兵がまず倒すべき敵だった。敵陣営についた貴族も様子見が多いとライスター卿やエルヴィンを通じて掴んでいた。想定通りベルタ王国の貴族が様子見の方針なら、総数はこちらとそう変わらない。大半の貴族が本気を出す前に敵の士気を降り降伏させる。勝つ為の道筋を、俺はそう計算していた。

 

 

「ようやく敵が来たな。」

 

「はい、アラン様」

 

目の前に布陣する敵を見て、俺は傍のユリアンと短く言葉を交わした。我が軍は相変わらずの人材不足で、俺の側近は小姓役のユリアンくらいしか見当たらない。

 

孤児を中心に学校で鍛えている未来の帝国軍候補生も、今の所は単なる学生の集団でしかない。鉄道の組み立ても正直、人使いが荒いと言われても否定できない。戦場に連れ出すなど現実的ではない。こんな状況では、能力の有る者は1人何役もこなす事が求められる。俺がなんとか処理できているのはリアの優秀な仲間を確保したのと、人類最高級のAIのイーリスの支援を受けている為だ。

 

「アダー、君の調整力には期待してるぞ。この隊の副官として立派に務めてくれよ。役に立たないようならユリアンに交代させるからな。」

 

「はははは、閣下。お手柔らかにお願いします。」

 

アダーはガンツ伯軍の撤退から落伍して捕えられた捕虜だった。だがガンツ伯軍やカリファ伯軍との戦闘に抜擢したところ交渉で予想外の才能を見せた。その為、この混成部隊の副官に抜擢した。

 

いい加減な印象の男だが、敵意は感じず、そつのない男なので人材難の辺境伯軍では便利に使っていた。褒賞として支払った大金貨の元を取りたいという気持ちもある。ただ、未だに頑なに素性だけは語ろうとしない。立ち居振る舞いに教育の形跡を感じるので、おそらくは没落した貴族の子弟なのだろうと見当をつけている。

 

副官役は下の苦情を吸い上げる中間管理職であり、上下の不満の捌け口となるサンドバッグでもある。癖の強い古参兵を寄せ集めた俺の兵を束ねるのは、交渉上手な彼にうってつけな役割だった。それに身近に置いておけば、使者を派遣したい時にすぐ呼び出せる。

 

ユリアンは俺の小姓役として軍団内で顔を売っていた。年齢も低いのでリアやエルナ、ダルシムといった身内への使者としても走らせやすい。

 

「閣下、布陣を終えた敵が接近して来ます。」

 

物思いにふける俺に、ユリアンが声をかける。頃合いを見計らっていたのだろう。敵陣から数騎が前に出る。呼応する形で、ユリアンを引き連れて俺が前に出る。副官のアダーは列に残す。兵1,000の指揮は今は彼に委ねよう。武力衝突があれば、アダーが兵に指示を出して前進させる事になる。

 

 

「カリファ伯が、自らお出ましか。」

 

「私はお主がその身を晒す事に驚いたぞ。」

 

両軍の兵が固唾を呑んで見守る中、距離を挟んで俺とカリファ伯は対峙した。カリファ伯が得意の大音声を張り上げる。

 

「アラン•コリント、この大逆人め。辺境伯に任じたアマド国王陛下のご高恩を忘れ、王家に牙を剥くか。王命は我らに下った。正義の鉄槌を受けるが良い。もしくは、クレリア王女共々こちらに降伏せよ。」

 

(イーリス、ドローンを使って不自然でない程度に俺とカリファ伯の声を増幅してくれ。敵味方の双方に聞かせたい。)

 

「了解です、艦長」

 

風に乗った音が拡散するように、カリファ伯の声が広がる。よし、いい感じだ。

 

「片腹痛いな、カリファ伯。ベルタ王国は貴様ら王権を私物化する貴族に食い物にされ、長き停滞の中にある。隣国による侵略の危機は今まさに高まっているのだぞ。」

 

「逆徒が何を言うか。我らはアマド陛下の命を畏み、最善を尽くすのみ。お主の身勝手な振る舞いなど到底認められる訳がない。他国の王女を引き入れるなど言語道断の所業であろう。」

 

「我らの共通の敵は、王家の転覆を図ったアロイス王国にある。クレリア王女はアロイス王国の脅威を取り除く為、ベルタ王国と共に戦おうとされているのだ。戦乱の危機を前に目を瞑ってやり過ごそうとする生き方には、何の未来はないぞ。手を携え秩序を取り戻す事こそ肝要ではないか。」

 

「話にならん。我らが全力を持ってお前を倒すとしよう。」

 

「クレリア王女の剣としてお相手仕る。だが一つ言っておく。宰相の策は既に破れたぞ。ガンツもアレスもいずれの都市も無事だ。そちらの別働隊は全て蹴散らした。」

 

「笑止千万。なぜ、そう断言できる。ここからどれほど離れた場所と思うのか。間諜の話を元に、そのような大法螺を吹くのも大概にせよ。」

 

「嘘も何もないのだがな。」

 

ユリアンに合図する。彼が両手で抱えていたものを敵陣に向けて放り投げた。クルクルと回転しながら飛んだその物体は、カリファ伯と彼の近習の近くに着地した。カッと目を見開いたルチリア卿の生首である。何かの証拠になろうかと、自前の兜を被ったままの姿だった。

 

「別働隊の指揮官であるルチリア卿の首だ。ワイバーンで急ぎ運ばせた。」

 

流石のカリファ伯も蒼白になった。だが素早く決意を固めたのだろう。戦意たっぷりに宣言した。

 

「そのような真贋の不明な首など、どうでも良いわ。今ここで貴様らを討つ。それで全て終わる話ではないか。」

 

「俺のこの首、そう簡単に討ち取れるかな。」

 

「この決着は戦いで示す。」

 

「受けてたとう。だが、心ある者は聞け。今の位置より前進しなければ、クレリア王女に刃を向けたその罪を許す。宰相の命は風前の灯よ。宰相の秘策の破れた今、どちらにつく方が賢いか、よく考えると良い。」

 

カリファ伯と俺は互いに視線を交わすと馬を引き合う。反転して自陣を目指す際に、カリファ伯の近習が生首を掬い上げるのが見えた。セリーナとシャロンは良い仕事をしてくれたな。戦場におけるインパクトは絶大だった。

 

こういう時は『自信たっぷりに悠々と立ち去ると良い』と、事前にそうダルシムからレクチャーを受けていた。俺達の移動速度は早すぎないだろうか。流石に大軍の前にユリアンと2人で立つ圧は凄まじいものがある。自然と馬の足が早まる。それでも平静でいられるのは、僅かながらにルチリア卿の生首が敵の士気を下げたと感じるからだろう。

 

「ユリアン、敵を前にして怖くないか。」

 

「はい、アラン様と一緒なら何も怖くはありません。」

 

ユリアンと味方の戦列に戻る。馬の方向を転換させてアダーの横に並ぶ。

 

「閣下、お見事でした。」

 

「戻るのが早すぎなかったろうか?」

 

「いいえ、悠々たるものでした。こちらは無事に戻られるかとハラハラしておりました。あれは偽首でしょうか?」

 

「いいや、本物だ。偽物には何の意味もないだろう?」

 

カリファ伯やライスター卿はじめ多くの敵味方の貴族は当然ルチリア卿の顔を見知っている。それに肝心なのはルチリア卿の生首を宰相がどう扱うのか、なのだ。そこから他の貴族達は真贋を見極めるだろう。

 

「貴族同士の開戦の作法というのがこれまで不思議で仕方がなかったが、ようやく効果はあるものだと理解できたよ。」

 

「敵将の生首のお披露目に使うなど、前代未聞だと思いますが。」

 

 

本陣の床几に腰を据えた宰相の元まで届けられたルチリア卿の生首は、宙をカッと睨み恨めしそうに虚空を見つめていた。宰相は自ら手を出してその両目を閉じてやった。腹心の哀れな末路に、思わずそうせずにはいられなかったのだ。

 

兵の歓声と軍馬の嗎が響き渡る。遂に開戦したのだろう。今回、カリファ伯には敵の2倍の軍を用意した。中入り策の敗れた今も、数的有利は変わらない。開戦しさえすれば、カリファ伯が押し込み味方が勝利する筈だ。

 

「お味方、苦戦!」

 

「何だと?」

 

本陣に駆け入った味方の使者の報告に目を剥く。

 

「ええい、カリファ伯を助けよ。味方を押し出せ。」

 

「それが、敵兵は本陣目前に迫ってあります」

 

「何だと?」

 

宰相は先ほどとそっくりそのまま同じ言葉を繰り返した。もはや彼らの思考は状況に適応できず思考停止状態にある事に、戦乱の渦中にある彼ら自身は気がついていなかった。

 

 

 

 

開戦となり、敵の先陣が土煙を上げてこちらに突進してくる。敵の迫りくる様子を眺める我が方は冷静そのものだった。

 

「構えろ」

 

「やりぃ、構えろぉー」

 

俺の指示をアダーが復唱する。唱和する声が隊列を伝播し左右に広がってゆく。俺は分かりやすく剣を高々と振り上げた。敵を引きつける。だが味方に指示が伝播するタイミングを見計らう必要がある。必要なのはほんの僅かなタイミングの速さ。ここだ!

 

「放て!」

 

1,000名の兵の携えた槍が、ロケットのような推進力で一斉に前に飛ぶ。槍は投擲用の軽いものではない。兵が騎馬を喰い止めるために用いる鋼鉄製の槍だ。そんな威力の有る重い槍が軽々と飛んだ。槍が描く軌道は放物線ではなく限りなく直線的な軌道で、敵兵めがけて突き刺さる。槍が命中し、または地面に刺さった槍に衝突し、あるいは飛翔する槍に軍馬や兵が驚き、敵の突進が止まった。高速で飛翔する槍が命中すると無傷では済まない。掠っただけでもダメージを負う。

 

投げ槍は本来、槍を大きく振りかぶるという予備動作がある。それが回避する側の目印になる。だが今回のように騎兵に備えて槍衾を構成したような形で構えた状態から射出されると予測が出来ない。事前の想定では敵に被害を与えるのは1,000本の槍の中で2割から3割だろうと見込んでいた。だが衝撃は与えられる。実際に敵の出足は完全に押さえた。この機に突撃してトドメを刺す。

 

「新たな武器を構えろ」

 

「ぶきぃ、かまえろぉ」

 

兵たちが代わりの槍を掴む。新たな槍の回収が間に合わないものは腰の軍刀を引き抜く。

 

「突撃!」

 

「「突撃ぃ!」」

 

麾下の槍兵が突撃を開始する。元々飛ばす想定なので槍は各自に2本用意した。本陣前、しかも指揮官である俺の兵の前に敵の主力は必ず現れる。そう予測してもいた。

 

左右に展開した4つの部隊で圧をかける事で敵兵には両翼の間の狭い道を駆けさせ、貫通する槍で正面から迎え撃つ。敵の先鋒は手痛い打撃を受け、開戦早々なのに既に青息吐息といった様子だ。

 

槍の用意の間に合わなかった兵が使う馬上刀は、刀身に反りがある。その関係で腰に収納して動き回れるのに少し長い。部下の兵は歩兵だが特別に馬上刀を与えていた。これで乱戦でも活躍できる筈だ。特に敵の勢いを挫き体勢を崩した今は、白刃を煌めかせながらトドメを刺しにくる我が兵は恐怖の対象だろう。槍は命中せずとも落馬して身動き取れない者も多い。

 

「殺さずとも良いが、戦闘力は奪っておけ。」

 

「了解!」

 

よく切れる馬上刀の刃が敵の腕や足を切り飛ばす。敵兵は革鎧が主体だし、ミスリル以外の金属鎧なら馬上刀の鋼の刃は貫いた。立てない、武器を振えない兵は脅威の度合いが下がる。手足を飛ばされては堪らないと、慌てて武器を捨てて投降する兵も多い。だが今は敵将を捉えるのが最優先だ。構っていられない。

 

「トドメは刺すな、前に前に進め! カリファ伯を捕らえよ!」

 

兵を叱咤激励し前進させる。敵兵にはアダーが逆の言葉をかけていく。

 

「無闇に動くな、血止めしておけ、降伏するなら後続に申し出よ。斬られた手足は拾っておけ、回復魔法でくっつくかもしれんぞ。」

 

こちらの活躍を見て後続のリアとエルナの本陣部隊が前進を開始する。降伏した敵兵を収容しつつ、弓と魔法で近づく敵を撃ち果たしてゆく。

 

俺は周囲の兵と共に敵部隊の最も抵抗の固い場所を探る。そこにこそ指揮官がいる筈だ。チラリと光る物が見えた。あの禿頭、間違いなくカリファ伯だろう。必死に兵を立て直そうとしているようだ。だがそうはさせない。

 

ライトアローを立て続けに打ち込んで護衛の兵を薙ぎ倒す。魔法剣を振りかぶり、部下と共に敵に突進して更に数名を討ち果たす。

 

人壁を3層抜けると、そこにはもうカリファ伯がいた。腰の剣を抜く間もなく、雪崩れ込んだ俺の部下の兵に取り囲まれる。

 

カリファ伯が諦め、両手を高く上げた。俺の目の前に、蹴倒されたカリファ伯が仰向けに倒されたまま鎧を掴まれ、地面を擦りながら引き摺り出された。俺はカリファ伯の首筋に刃を突きつけた。

 

「カリファ伯は捕えた。抵抗をやめろ。俺の狙いは宰相だ。今すぐ降伏すれば悪いようにはしない。だが抵抗するならカリファ伯の命は取る、お前らも皆殺しだ。どちらが良いかを選ぶといい。」

 

イーリスのドローンが戦場に俺の声を中継する。俺の声は大音声で響き渡った。

 

 

リアとエルナの見ている前で、アランは槍の射出を受けて乱れた敵陣めがけて突撃を敢行した。見る見る内に敵の抵抗を食い破る。クレリアは補佐につくエルナとその様子を熱の籠った視線で注視していた。

 

「エルナ、見て。アランがカリファ伯を捕えたわ。これでこちらの勝ちかしら?」

 

「はい。カリファ伯を倒せば勝ちは揺るがないかと。しかし、まだ宰相がおります。クレリア様の指示があれば、私が騎兵を率いて宰相を捉えて参りましょう。」

 

右翼左翼は攻撃を開始している。だが、敵の右翼と左翼に前進を阻まれていた。しかし、カリファ伯を捕えた中央は前衛が崩壊している。ここから真っ直ぐ突き進めば苦もなく宰相の本陣に到達出来そうだった。

 

「そんな面白そうな事、エルナだけに任せておくわけにはいかないわ。エルナ、ついてらっしゃい。」

 

「そんな、クレリア様、まさか。」

 

剣を高々と突き上げ、突撃を指示するとクレリアは真っ先に馬で駆け出した。緩やかな丘を駆け降りるクレリアをエルナは慌てて後を追った。

 

 

 

カリファ伯の周囲の兵が投降して武器を投げ出す。

 

「何をしている。お前ら、抵抗せんか。勝手な降伏など許さんぞ」

 

組み敷かれたカリファ伯が尚も抵抗を指示するが降伏の流れは変わらない。ようやく俺の周囲に追いついたアダーが部下を指示して敵兵の拘束を進める。よし、これでようやく前進を再開出来るだろうか。

 

流石に1,000名の兵では3倍から5倍近い数のカリファ伯の部隊を無視して前進できない。カリファ伯の部下を抑えるので手一杯だ。敵を油断させて攻撃を誘う意図もあったので少なめの兵で挑んだのだが、次回はこの点は改善が必要だろう。

 

そう考えていると背後から地響きが聞こえる。これは馬の駆ける音。エルナが本陣の騎兵隊を率いて前に出る気だな、いい判断だ。

 

振り返ると本陣の兵が味方を追い越して宰相の本陣にかけていく。騎兵だけではないな、歩兵も何か言いながらかけている。なんだか様子がおかしい。

 

その時、先頭に立つ騎兵の姿に気がつき俺は唖然とした。見慣れたエルナの鎧姿の前に誰かいる。あのミスリルの鎧姿はまさか、リアじゃないのか?

 

「リア様、お待ちを」

 

エルナでも止められないのか、これはマズい。

 

「アダー、ここは任せる。カリファ伯の兵の武装解除を進めろ。カリファ伯を逃すなよ、そのまま味方の兵で抑えつけておけ。ユリアンと手空きの者は何人かついて来い、クレリア王女の護衛に行くぞ。」

 

リアに突撃させただけでもマズいのに、何かあればロベルトやダルシムからどれだけの小言が待っている事か。いや全ての計画に支障が出る。

 

(イーリス、戦場のドローンは全機クレリア王女の直掩に回せ。リアをあらゆる脅威から守るんだ。必要なら姿を見せて良い。彼女は不可欠な人材だ)

 

「了解しました、艦長」

 

 

 《エアバレット!》

 

エルナの魔法がリアの前に出る敵兵を吹き飛ばす。宰相の本陣は予想より遥かに脆かった。抵抗も弱い。

 

敵本陣の兵で、ルチリア卿の顔を知らない者はいない。その生首がもたらされた事で既に彼らは敗北を覚悟していた。別働隊の働きに期待していた訳ではない、別働隊の敗北までは織り込んていた。しかし既に敵を破ったと、言い逃れできぬ証拠を突きつける相手の知謀と手回しの良さに『これはとても太刀打ち出来ない』と宰相の兵は恐れ慄いたのだ。

 

カリファ伯は自らの兵を掌握していたが宰相は違う。宰相が兵を縛る手法は欲得と恐怖である。敗色が見え始めると、宰相が見捨てられるのも早かった。

 

 

まだルチリア卿の生首を抱えたままの宰相の前に、騎馬のクレリアが飛び込んで来た。馬蹄にかけられそうになり、バールケ宰相はすんでの所でかわしたものの床几から転げ落ちた。へたり込んだ宰相の顔の前に剣が突きつけられる。

 

「ヴィリス•バールケ、捕えたぞ。」

 

剣の主人はクレリア王女だった。慌てて主君に続いて駆け込んだエルナが周囲の敵兵を風魔法で吹き飛ばす。後続の兵が周囲を固める。

 

「ファイアボルト!」

 

クレリアの火魔法が宰相に向けられる。放たれた火弾は正確に宰相の傍の軍旗を燃え上がらせた。

 

「動くなよ、バールケ。私の得意は剣だけでない。このように魔法も使う。少しでも身動きすれば、その体を炎で焼き尽くす。」

 

「勝鬨をあげよ、我らの勝利だ!」

 

エルナの声に、麾下の兵は割んばかりの歓声で応えた。

 

 

敵本陣で歓声が響き渡り、本陣の中央に飾られた軍旗が燃え上がるのが見えた。俺とユリアンが味方の兵を掻き分けて本陣に入ると、リアがルチリア卿の生首を抱えて床にへたり込んだ宰相に剣を突きつけていた。

 

「おお、アラン。敵の総大将は捕えたぞ。」

 

姫様モード全開のリアに嬉しそうに報告される。これは?いったいどんな状況だ。だがそこにいたのは紛れもなく宰相のバールケだった。

 

「ユリアン、ライスター卿を呼びに行け。クレリア王女が宰相を捕えたと知らせて、兵を従えてこちらに来るように伝えろ。俺が連れてきた部下を従えて行くんだ。戦場で単独行動はするなよ。エルナ、君は本陣の兵を取りまとめておくんだ。俺がこの場の警戒にあたる。」

 

「わかりました、アラン。」

 

入り乱れた本陣の兵をエルナの周りに集結させる。ライスター卿の兵はその外周を担う。これで俺とリアの周囲が二重に囲われる。ようやく人心地ついたな。カリファ伯やその近習を捕えたアダーも兵をまとめてようやく俺の近くに寄ってくる。

 

外の敵部隊は新たな軍旗を掲げていた。人類銀河帝国の紋章、リアがサイラス商会に作らせた軍旗だ。軍旗を掲げた者の降伏は許すと伝えていた。カリファ伯とのやり取りの最後に念押ししたのも同じ内容だ。

 

宰相の側について出陣した貴族が投降した証に、ワイバーンを用いて事前に渡しておいたこちらの軍旗を掲げているのだ。それを見たカリファ伯や宰相が項垂れる。

 

彼らが味方と頼んでいた貴族は会戦の前からこちらに内通していた、その衝撃は深い。貴族達も単に我々双方を両天秤にかけていただけかもしれないが、本気で戦っていない事は明らかだった。

 

こちらはカリファ伯と宰相の兵とだけ戦っていれば良かった。中央以外で展開されていたのは、戦争するふりをした小競り合いだったのだ。

 

「皆、そちらについていたのか。それでは、いかなカリファ伯とはいえ勝てるわけが無いな。」

 

バールケがポツリと口にする。

 

「いや、倍の兵でもコリント卿には勝てなかった。1人の将では勝てん。が、別働隊を用いても破れたという事だ。勝つ道筋はなかった。」

 

カリファ伯が述懐する。凄いな、彼はそれがわかるのか。そう、俺と彼らでは背負っている文明のレベルが違う。元々、彼らが勝つ手立などない。だが、こちらの都市の発達の妨害は彼らにも出来た。これはどれだけ素早く文明を再建できるか、あるいは妨害を受けて無駄な時間を費やされるか。それを競う戦争なのだ。

 

彼らがもう少し協力的でありさえすれば、助け合う未来もあったかもしれない。だが初手で俺を毒殺しようとしたのは頂けない。性格の悪さを差し引いても、暗殺はバールケの失策だっただろう。所詮その程度の男だったと言える。

 

「最後に一つ聞きたい。コリント卿、槍を飛ばしたな?あれはどんな仕掛けだ。」

 

カリファ伯が質問する。

 

「見ての通りだが?」

 

「どうやったかを聞いているのだ。」

 

魔道具で飛ばすしか無いだろうに、どうしたか聞くなんてカリファ伯は変わっているな。

 

「知らないかもしれないが、俺は魔道具作りに長けている。今回は長筒の中に風魔法を閉じ込めた。槍はアレスで製造した物だから太さが皆均一に揃っている。ここまではいいかな?」

 

「長筒の中に槍を差し込むという事だな。」

 

「そうだ。筒に差し込んだ槍は魔道具を作動させると風魔法で前に槍を飛ばす。それだけの簡単な仕掛けだ。だが騎兵を迎え撃つ時は効果があると考えたのだ。」

 

「あれは槍を投げるという生易しい勢いではなかったぞ。怖気を奮ったわ。」

 

「兵の中にはミスリルの鎧を着る者もいるだろう?あれは金属鎧より硬くて軽い。ミスリル鎧の持ち主を鉄の槍で貫通させるにはあれ位の勢いが必要だと判断した。」

 

「あれがミスリルの鎧対策というのか。正気か。いや正気だからこそか。恐れ入ったわ。」

 

どうもカリファ伯には感心されているのか馬鹿にされているのか分からない。実際はその両方なのだろう。

 

槍の射出装置は、この日の為に用意した秘密兵器だった。アレスに魔術ギルドを誘致して魔道具作りを再開した時に何か武器に応用できないかと考えた物だ。魔術ギルドを誘致する前は火薬式の銃を再現出来ないかと考えた。だが諦めた。最大の理由は銃の運用に必要な資源を確保できていない点にある。火薬の原料となる硝石も硫黄も近隣にはまだ見当たらない。そして火薬や銃の製造技術は必ず流失する。

 

概念が広まればそれは一人歩きする。資源の独占に成功している状況ならまだ良いが、輸入に頼る中で新技術を開拓しても敵に塩を贈るだけになりかねない。そうである以上、技術の開発は優位を築いてからにするべきだ。火薬が広まれば鉄道の軌条は簡単に破壊されてしまうが、爆裂魔法の使い手は僅かしか存在しない世界では破壊のハードルがぐっと上がる。当面はその状態を維持したい。

 

銃を開発しない理由はまだある。火薬式の銃は対人兵器として最適化されている存在だ。惑星アレスでは大型の魔物が闊歩している。例えばドラゴンに銃弾は効果が薄いだろう。そしてパルスライフルでさえ防ぐバグスの装甲兵には効くはずもない。そもそもバグスの装甲兵に勝つ装備の開発は容易でない。

 

だが手数をかけて装備を開発するのなら、ドラゴンやバグスの装甲兵に勝つ可能性は常に模索するべきだろう。俺たちの究極の目標はそこにある。単なる殺人に最適化しただけの道具は不要だ。便利に見えても行き詰まる。人を殺す事に最適化された武器は、文明発展に必要な人的リソースの確保の為にも必要とはいえない。それに文明の発展を進める為には、人をなるべく生かして活用する道を探るべきだ。

 

そんな思想の下で樹海の都市に豊富な物、独占しうる資源は何か。俺達は魔石と風魔法を用いた射出機を魔道具として製作したのだ。

 

筒状の魔道具の中にエアバレットを模した魔法陣が構築してある。操作すると中に入った物体を風の力で前に飛ばす。ただそれだけの魔道具である。しかしながら実際に試した所、槍はロケット並みの推進力を得た。

 

銃弾が狙い通りな放物線を描くのは銃に刻まれたライフリングによる。ライフリングにより回転が弾丸の動きに与えられジャイロ効果により姿勢を保つ為である。要は高速回転すれば、物体が明後日の方向に飛ぶことは回避できる。

 

槍を飛ばす際にジャイロ効果の有無が違いを産むかは試行錯誤だった、だが空気の流れを司る魔法陣の構築式で安定化させる事が出来た。ひとつ完成すれば、後は量産させるのみである。魔法陣の下絵作成はナノムを使える3人が総出で取り組んだ。

 

最終的には忙しい3人の手作業では追いつかない事が判明し、汎用ボットを魔道具製作の専任に宛てた。人類に似せた構造の為、両手両足がある。紙に正確な線を引くくらいの工程は朝飯前だった。魔道具に使う魔石のカットや組み立ても担当させる。実質的な魔導具の製造工場を用意したわけだ。

 

槍の投擲は古代からある。大型の獲物を仕留める最終手段だった。だが飛び道具は最終的に弓矢に駆逐された。恐らく資源消費や手数の効率が最大の理由だが、今回の魔道具は兵の武器が槍である間は使う機会があるだろうと判断している。後は資源を安定的に確保していつかは銃の開発も考えよう。

 

「それでは私も最後に一つ教えてくれないか。ルチリア卿の最後の様子を。」

 

バールケが乞う。

 

(セリーナ、シャロン、グローリア、こちらは宰相とカリファ伯を捕えた。味方の勝利だ。奴らに聞かせたいんだ。ルチリア卿の最後の様子を教えてくれないか。)

 

(了解しました。)

 

「いいだろう。」

 

アランはセリーナの語る情景を語り出した。それはライスター卿の部隊が包囲を完了させる間の僅かな時間を利用した物だが、不思議な安らぎを戦場に齎した。

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