【二次小説】航宙軍士官、星を統べる (原作:航宙軍士官、冒険者になる)   作:高坂 源五郎

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Ⅰ ベルタ王国統一記 27話 【統一戦編】シャロンのガンツ防衛

ベルタ王国統一記 27話 【統一戦編】シャロンのガンツ防衛

 

物事には筋道がある。敵の接近が常にベルタ王国側からである以上、ガンツは先に敵の襲撃を受ける事になる。

 

アランは都市の価値を比較して、セリーナにより重要な都市であるアレスを任せた。アランはいつだってそうする事をシャロンは分かっている。だがシャロンは、この戦いにおいて自分の担当するガンツの戦局が、全体を大きく左右する事も知っていた。

 

「セリーナ、ガンツが敵に包囲されたわ。兵は6,000。でも半数以上がそちらに向かうと思う。グローリアにはまずこちらを手伝って貰うわ。グローリア、宜しくね」

 

「了解よ、シャロン」

 

「ふふふ、私も力を振るうのが楽しみです。」

 

報告を終えるとシャロンは執務室に向かった。イーリスの接近警告が出た時点で城門は閉じて兵の配置は完了してある。まずはアランのやり方に倣って、都市の有力者達と会合を持とう。

 

「皆さん、よく来てくださいました。私が護国卿よりガンツの指揮を任されたシャロン・コンラートです。ガンツは私が守り抜きます。よろしくお願いしますね。」

 

居並ぶ衛兵隊長、冒険者ギルド長、商業ギルド長の顔を眺める。皆、不安や緊張、そして不満を隠せない様子だ。

 

「敵兵は6,000人はいる。勝てるのか?」

 

「はい、問題ありません。」

 

「なぜそう言い切れる?」

 

商業ギルド長のサイラスが問う。

 

「敵の目的は護国卿を倒す事。その為に必要なのはガンツとアレスの両都市の封鎖です。6,000の兵はいずれその半数以上をアレスに振り分ける事になります。恐らく兵4,000をより危険なアレス方面に回すでしょう。となるとこちらを担当するのは兵2,000となります。我らの兵もそれなりに多いのです。この程度の数なら攻勢に出て敵将を討ち取ることも可能です。」

 

ガンツに駐留する兵は1,000だ。正確な数を知らせる必要はないが、兵舎の使用状況からガンツを占領した当初よりは格段に兵の数が増えているのはガンツ市民は肌感覚で把握しているだろう。城塞都市であるガンツはただでさえそう簡単に落ちる城ではない。シャロンが担当している限り、落とさせるわけにはいかない。

 

「それで、こんな物が届いてる。」

 

それはガンツ伯ベンジャミンの名で、商業ギルドに攻め手への内応を強要する通信文だった。

 

「敵将の名はベンジャミンですか。」

 

通信文を読みながらシャロンは王都での請願に同行した護衛役を思い出した。恐らくあの人物がガンツ伯の身内だったのだろう。

 

「で、商業ギルドはどうしますか?」

 

「あちらに協力するなら通信文を見せたりはしない。だがな、ガンツが陥落する可能性があるかは知っておきたい。」

 

商業ギルド長サイラスの娘のアリスタの身柄はアランが押さえた。現在はクレリアが侍女として預かる形でアレスにいる。当初はアランの身辺にアリスタを近づける策にサイラスに乗せられたと思っていたけれど、サイラスが裏切らない安全保障としては有効な対策だったのかもしれない。アランに謝らなくては。

 

「護国卿より留守を任された以上、ガンツは絶対に陥落させません。それだけの戦力を与えられていますから大丈夫です。今、守りに入っているのは敵の一部をアレス方面に先行させる為です。また、敵に味方する者がいないか炙り出す為でもあります。」

 

「我々は護国卿の味方だ、ガンツが陥落しない限りそれは変わらない。」

 

「良かった、変わらぬ協力をお願いしますね。それから衛兵隊のギード隊長にお願いがあります。」

 

「なんでしょうか。」

 

「情勢を考えると衛兵隊が正門の守備を行うのは適切ではありません。このまま兵舎や自宅での待機をお願いします。受け入れられない場合は拘束しますが、そんな必要はないでしょう?」

 

「ああ、拘束されるには及ばない。部下も大人しくさせておく。」

 

「ここは大人しくしておく方が良いでしょう。どちらが勝っても悪印象はあたえませんから。後一つ、領主館は燃やすことにします。丘の上なので延焼の危険はありませんが、慌てたり騒がないように事前に部下に良く言い聞かせておいてくださいね。皆さんもお願いします。」

 

シャロンがニッコリと笑いながら商業ギルド長や冒険者ギルド長に念を押す。

 

「りょ、了解しました。」

 

「この状況は長くて3日です。護国卿が宰相と対決する前には終わらせます。この3日は皆さん大人しくしておいてくださいね。よからぬ事を考えてはダメですよ?」

 

 

丘の上の領主館は、ガンツ占領時もアランが手出しをしなかった場所だ。支配の正当性を印象付ける為にガンツの領主権に挑戦する事をアランが良しとしなかったからだが、敵が再度攻め入ってきたからにはもう容赦する必要なしとシャロンは判断した。

 

「以前から目障りだったわ、火をかけなさい」

 

予め中の人員は退去させ、価値のありそうな品は運び出させている。館はそれ自体が高価そうな造作だが、シャロンはそこは頓着しなかった。必要なら建て直せば良いのだ。今はガンツを囲む敵兵が怒りに我を忘れてくれるくらいが丁度いい。格好の挑発行為になるだろう。シャロンと部下の兵が一斉に放つファイアボルトが、館を紅蓮の炎で染め上げる。

 

 

「ベンジャミン様、あちらをご覧ください」

 

家令のデニスが丘を指し示す。懐かしき彼らの領主館が紅蓮の炎に包まれていた。

 

「おのれ、ガンツ伯家の財産になんという事をするのだ。この野蛮人どもめ。」

 

ガンツ伯家の領主館こそが支配の象徴である。ガンツを支配するという事はあの館に住み、下々の者を見下ろす事である。それが今、燃やされていた。

 

「許せん。こうなったら一気に攻め寄せるぞ。」

 

「総大将のルチリア卿からは、ガンツを担当する我らはアレス攻略まで包囲する役回りと聞いておりますが?」

 

ルチリア卿率いる本隊は、ガンツの包囲完了を受けて既にアレス方面に進軍している。

 

「ここまで来たらもう遠慮は無用だろう?我らの帰還をガンツ市民も待っている筈だ。一息に攻め寄せるぞ!」

 

怒り狂うベンジャミンの指揮により、総攻撃が開始された。

 

 

 

「まるで手応えがないわ。」

 

シャロンは愚痴をこぼしていた。敵兵が予想より遥かに弱いのだ。城壁に取りつこうとする敵を部下に迎撃させているが、お話にならない弱さだった。

 

敵兵は盗賊に近いはぐれ者やならず者の集団である。兵士としてまともな候補者は既に給料の良いアレスやガンツでの募兵に応募している。

 

今の敵兵は募兵段階で撥ねられるような素行の悪い層だ。それなりの体力はあるが、連携して動く事を知らない。将校も何も考えておらず、装備も揃っていない。用意も悪いから攻城兵器なども無い。作戦も攻め口に群がって中に入ろうと押し寄せるのみ。弓や魔法の良い的だった。

 

運や要領の良い兵が散発的に梯子や石壁をよじ登って城壁の上に迄は到達する。だが、警戒にあたる守備兵に見つかりすぐに倒されていった。敵兵は連携する事を知らない。こちらに連携され槍先を揃えて突きかかられると単独で上手く侵入を果たした豪傑も、大勢を相手になす術なく討ち取られていった。

 

シャロンの下には兵1,000がいる。4方位の壁に100名ずつの兵を配備した。正門には特に100を配置してある。シャロンは残り半数の兵を率いて待機している。準備万端だが出番が全く来そうにない。

 

「このままだと小競り合いだけで終わってしまうかも。」

 

現実問題として敵兵を一掃できないと後の始末が悪くなる。シャロンは一計を案じた。

 

 

 

「ベンジャミン様、ご覧ください。正門です、遂にガンツの正門が開きましたぞ!」

 

デニスの声にベンジャミンが振り向くとまさに正門が大きく開かれる所だった。兵達が歓声を上げる。彼らの手柄ではない。だが、ガンツの中に元の主人の復帰を願う者がいると彼らは信じて疑わなかった。

 

「やはり正しき者は救われるな。」

 

「はい、正当のガンツ伯ベンジャミン様のご帰還を皆が待ち望んでいたのです!」

 

兵達はお楽しみの予感に舌舐めずりをしている。ガンツはベルタ王国有数の大都市である。それを略奪するチャンスなど、一生に一度あるかないかだ。略奪者にとって極上の獲物と言える。

 

「進め、ガンツを我らの手に取り戻すのだ!」

 

だが正門を抜けた彼らを待っていたのは、シャロンが率いる兵が槍衾を作って待ち受ける光景だった。

 

「かかれ!」

 

穂先を揃えて突きかかるシャロンの兵に、寄せ手は脆くも崩れ去った。それでも背後からはガンツの略奪を目指して味方が続々と押し寄せてくる。後ろから前へ前へと押し出されるも、槍衾の前に出た者は即座に突き殺される。

 

「押すな、押すな、態勢を立て直すのだ!一旦下がれ!」

 

ベンジャミンは悲鳴を上げるが略奪欲に駆られた兵の勢いは止まらない。ベンジャミンは後続の兵に押されてそのまま敵将の前に転がり出た。こちらを見据える小娘と視線が絡み合う。武器の長さが違うので真っ向から戦うと不利であるとは思い知らされていた。ベンジャミンは威厳を取り繕い立ち上がる。敵将に向き直ると、一騎打ちの提案を行なった。

 

「ここは大将同士の決闘で勝負をつけようでは無いか。」

 

正門は突破した。兵の数も敵の倍はいる。とはいえ、訓練された槍兵を前に不利は否めない。だが敵の総大将は小娘。俺はガンツ伯家では護衛を務めるほどの腕がある。決闘なら勝機がある、とそうベンジャミンは判断したのだ。

 

「それでは、私との決闘に敗れたら兵は皆大人しく降参しますね?」

 

涼やかな声で敵将の小娘が応える。

 

「ああ、二言はない。」

 

両軍の兵が戦闘を停止して見守る中、シャロンとベンジャミンの決闘が開始された。

 

剣聖流の教えは腰を重視する。剣聖流の剣は小手先の技ではない。腰の回転が乗った重い一撃こそが重装甲の強敵を打ち砕く。剣聖流は鎧兜が発達した重装備の重さを活かす剣法であり、戦場で生み出された実戦的な剣術なのである。

 

だが敵将の剣は違う。早く軽いのだ。最初は術理を知らず闇雲に剣を振るっているのかと思った。しかしそうではなかった。全く異なる異質の剣理に基づいている。自分の剣の遅さではどうやら太刀打ちできない。その事に遅まきながらベンジャミンは気がついた。だが女の細腕に革鎧の軽い体重では、敵の剣もベンジャミンが特注した鎧を貫通するには至らない。剣の上では劣っても、まだ勝機はある筈だった。

 

「剣が遅いですね。」

 

「何をいうか、まだこれからよ。」

 

気力を練って練って、とっておきの一撃を加えてやる。こんな細い小娘では、剣神流必殺の重い一撃に耐える事は出来ないだろう。体勢を崩し吹き飛ばしさえすれば、後はいかようにでも料理できるはずだ。この小娘に勝利したら、ガンツの占領を遮る者はもういない、その筈だった。

 

「ファイナルブレード」

 

そう唱えたシャロンの剣が魔法の輝きを帯びる。その魔法剣の光は絶望するベンジャミンの表情を照らし出した。どんな鎧も魔法剣を防ぐことなど出来はしない。

 

素早い2連続の突きで自慢の鎧越しにベンジャミンの両肩が貫かれる。負傷で腕の筋肉か骨を傷つけられたのだろう、もう手が剣を支えられず、だらりとベンジャミンの両腕が垂れ下がった。

 

「ま、まて!殺さないでくれ!」

 

ベンジャミンの命乞いも虚しく、体勢を立て直したシャロンの技が完成する。

 

「コリント流奥義、ジャスティス・ジャッジメント」

 

上段からの瞬速の振り下ろし。シャロンの魔法剣は兜ごとベンシャンを脳天から両断した。

 

「べ、ベンジャミン様っ!」

 

新たな主君として擁立した青年を討ち取られてデニスが悲痛な声を上げる。その声が寄せ手の敗北を決定的に知らしめた。

 

(この男は剣神流でも2流の使い手じゃないかしら。少し様子を見たけれどコリント流の敵では無かったわ。グローリア、後は手筈通りによろしくね。)

 

(了解しました、ガオ〜)

 

ガンツの城外からドラゴンの咆哮がこだまする。手筈通りに、グローリアが敵の背後に着地してガンツの城内に追い込みにかかったのだ。

 

「決闘はこちらが勝利した。で、どうするのかしら?貴方達は弱くてお話にならないから、今降伏するなら強制労働位ですませてあげるけど?」

 

「降伏だ、降参する」

 

なおも抗戦を叫ぶデニスの制止も虚しく、ドラゴンにガンツの城内に追い立てられた残党軍の兵は、シャロンの率いる兵の槍衾の前に次々に武器を投げ出して命惜しさに降伏をした。

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