【二次小説】航宙軍士官、星を統べる (原作:航宙軍士官、冒険者になる)   作:高坂 源五郎

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Ⅰ ベルタ王国統一記 28話 【終戦編】共同統治宣言

ベルタ王国統一記 28話 【終戦編】共同統治宣言

 

宰相の軍を破ったコリント辺境伯軍はベルタ王国における最強勢力となった。コリント卿を支援した貴族、または会戦で帰順した貴族達の最大の関心事は、今後のコリント卿の政権樹立方法に移っている。

 

「コリント卿は、一体どのような政体を作られるのか?」

 

国内貴族の取次を務めるのはライスター卿だ。会戦後、彼の天幕に詰めかけたベルタ王国貴族から、次々と質問の声が飛ぶ。ライスター卿がベルタ王国貴族の重鎮達を前に重々しく回答してゆく。

 

「コリント卿は軍の最高司令官を務められる。そしてコリント卿の共同統治者としてクレリア・スターヴァイン王女が女王に即位される。ベルタ王国は解体され、お2人の下に全ての臣民が集う形となる。」

 

「おお、そのような形となるのか。」

 

一言で言えば、コリント卿の政体は軍閥という事になるだろう。コリント卿の麾下の軍勢の常勝無敗という実績だけに全てが依存している。

 

ただ、コリント卿の政権は民の窮乏を救い或いは教育を施し、滅亡した王家を尊び復興させるという正義の衣をまとう。それが真に正義の行いか、あるいは侵略を正当化する為の粉飾された欺瞞と見るか。それは評価する者の立場や価値観によって評価が異なるだろう。

 

セシリオ王国の侵略やアロイス王国の支配を打破する為には、強力な軍事力が不可欠という点で衆目は一致している。そしてコリント卿の用いる軍事力は未だ底が知れない。

 

事実として、ベルタ王国の宰相が結集した戦力はコリント卿に打ち破られたのだ。復興を賭けるスターヴァイン王家とその臣民が常勝将軍のコリント卿に縋るのも当然と言える。後は、コリント卿のこの勢いはどこまで続くのだろうか。

 

「して、ベルタ王国が解体されるなら国名は何と名乗られるのか?」

 

「新たな国名は、人類スターヴェイク帝国となる。」

 

「「おおっ、帝国を標榜されるのか!」」

 

コリント卿に忠誠を誓おうとする貴族達が、帝国を築くというコリント卿の壮大な気宇に打たれて慄く。

 

スターヴェイクを新たな国名に含めるのは、妻となるクレリア王女への配慮と旧スターヴェイク王国の継承国家と内外に示す為だろう。人類とあるのは、人の治める土地は全て平らげるという帝国の意思を示す宣言か。

 

「セシリオとアロイスを平らげれば、帝国と名乗るに相応しい規模とはなるか。」

 

大陸でその名を知られる強国として、ザイリンク帝国が存在する。コリント卿は、ザイリンク帝国に匹敵する規模に、ベルタ王国を押し上げようというのだろうか。

 

ザイリンク帝国は複数のアーティファクトを活用してのし上がった。アレス建設のスピード感を見ても、コリント卿が複数のアーティファクトを所持し、活用していると考えるのが妥当である。

 

そのような先例が既に存在する以上、コリント卿の政権もザイリンク帝国と肩を並べ得ると考えるべきなのだろう。何といってもアレスという都市は、大陸で最多のアーティファクトが眠るあの樹海に築かれたのだから。

 

「血が騒ぐな。」

 

「ああ、我らの時代が来るのだ。」

 

大陸の辺縁に位置し、衰退しつつあったベルタ王国内での勢力争いなど、所詮は負け組の中で優劣を競っていただけの話である。しかし近隣諸国を斬り従えて帝国と為すのであれば、話のスケール感が全く違ってくる。大陸に覇を唱える事も絵空事ではない。

 

何といってもアロイス王国に攻め込む大義名分はこちらにある。コリント卿は亡国の王女を押さえている。コリント卿の軍の強さ、築いた都市アレスの規模からすればアロイス王国との戦争に勝つのも夢物語ではない。しかもセシリオ王国に対しても、旗印となる王族の血をコリント卿は既に確保しているという。

 

「そうだ、セシリオ王国の王族はどう扱われるのか?」

 

「クレリア王女殿下、いや、女王陛下は寛大にもセシリオ王族のウルズラ王女に対してコリント卿の配偶者としての立場をお認めになられるようだ。無論、統治者ではなくお2人に従う立場だが。宮殿にはウルズラ王女の部屋も用意されると、そう聞いている。」

 

「なるほど、それならば」

 

ウルズラの貴族としての位階は正式には女伯爵であるが、王族としての籍を失った訳ではない。先王の孫、王弟の娘は血族としては王統にかなり近しい。王族の娘を王女と尊称するのはこの場合、不適格ではない。

 

「コリント卿に、我々も縁付きたいものだが。」

 

「残念だが、今の所、コリント卿の奥向きの座は満杯だろうな。コリント卿の冒険者時代のパーティーメンバーは女王陛下の他にお三方おられるが、全て妃扱いとされるおつもりだろうと、そう漏れ聞く。」

 

失望のため息が貴族達の口から漏れる。

 

「しかし案ずるなかれ。良き家柄の娘は、クレリア女王陛下の侍女として迎え入れられる。そこでコリント卿の目に止まれば側室の線もあるかも知れず、あるいはお2人の仲人で良き貴族子弟に巡り合わされるかもしれず。そこは悪くない未来を期待して良い。」

 

「成程、成程。」

 

主だった貴族には、忠誠の証として一族の子弟を出仕させるよう要求していた。男ならコリント卿に、女ならクレリア女王に仕えさせると伝えている。

 

実態としては人質ではあるが、これは別に幽閉されるわけではない。一族と王家を繋ぐ人材として相互の架け橋を担う事になる。嫡男など高位の貴族の子弟は優遇される。アレスに住む子供は学校に通わせる必要もある。その為の人集めという側面もあるので、多数の貴族の子弟がアレスに集結する事になりそうだった。

 

姉妹や娘を差し出す貴族は、やはり「コリント卿の妾にでも」と希望を述べる者も少なくない。だが、クレリア王女に忠誠を誓う立場のライスター卿からすると、今はそのような要望は受け付けし難い。

 

クレリア王女とコリント卿は未だ婚約段階と聞く。クレリア王女の祖国を取り戻す戦いの前に、クレリア王女の臣下である彼がコリント卿に側室を進めるのは流石に具合が悪いだろう。

 

その結果、ライスター卿としては『侍女として宮中に入れるので、後は本人次第』、という玉虫色の回答をする事となる。娘の容貌がコリント卿の好みに合えば側室の地位を与えられても不思議ではない。逆に小姓や侍女として優秀なら、帝国の権力中枢を担う官僚へ進む道もある。どちらにせよ、このような人材交流は双方にとって悪い話ではないだろう。

 

「それで、アマド国王はどうなるのか?」

 

やはりその質問が出たか。ライスター卿は唇を噛んだ。アマド国王は今回の会戦に参加していない。

 

宰相がアマド国王の命令を奉じたとはいえ、国政を宰相が専横していた事は周知の事実である。アマド国王を単なる敗者として扱うのは少し難しい。ただ、アマド国王がコリント卿に対抗できるかと言えば、それもまた難しい。

 

王都のアマド国王の麾下の兵などは5,000程度と見積もられている。国王側に馳せ参じる貴族もあるだろうが、大勢は既に決している。

 

(旧主ではあるが、コリント卿がここまで勢いに乗ってしまえば、手早く降伏するよう祈るしかないな)

 

「アマド国王はクレリア王女の縁戚となる。その縁を活かして藩屏とされるのがお2人の望みだ。」

 

アマド国王の元には、既に特使が向かっている。ライスター卿とエルヴィンは帰順した貴族の処理に忙殺されている。ライスター卿の立場としては、アマド国王の処遇について特使がうまく処理する事を願う他なかった。

 

 

 

俺はリアと連れ立って拘束したカリファ伯の元を訪れていた。接収した屋敷を仮の留置施設に使っている。元は宰相軍が本営用に確保していた屋敷だ。小姓役のユリアンは廊下に待たせ、リアと共にカリファ伯を軟禁している部屋に入る。

 

「わざわざクレリア王女同伴で挨拶に来られるとは痛み入る。私がカリファ伯です、殿下。」

 

「クレリア•スターヴァイン王女だ。カリファ伯の勇名は聞いている。コリント卿が評価する軍人としてな。私の事は気はせず、コリント卿と自由に語らうと良い。」

 

「感謝致します、殿下。」

 

俺に向き直るとカリファ伯は言った。

 

「見事な力負けだな。コリント卿は魔神の類か。」

 

見たところカリファ伯は元気そうだった。食事も全て平らげると聞いている。

 

「無論、俺も人間だ。だが、この地の人を守る為に立ち止まる事は許されないだけだ。」

 

「この地の出身ではないだろう?ベルタ王国にこだわる理由がどこにある?樹海か?或いは仲間を投獄されていたからか?」

 

「そうではない。俺がこの地といったのはこの大陸全土だ。俺は民の為にこの大陸を統べるつもりだ。」

 

「大きくでたな。しかしベルタ王国を平らげるのに1年近くは費やしたろう。大陸制覇となると50年は超えるのではないか。」

 

「子や孫の代になっても成し遂げるさ。自信はある。だがカリファ伯が力を貸してくれるなら半分の時間で済むんじゃないか?」

 

リアからは事前にカリファ伯を勧誘する許可は得ていた。ガンツ伯が死に、宰相の命はライスター卿に預ける以上、ベルタ王国の三巨頭で勧誘できるのはカリファ伯しかいない。

 

「まさか、未だに俺を勧誘しているのか?しかし、負けた男だぞ、俺は。それに以前答えた筈だ、武人として節を曲げる事はできん。」

 

「悪いが少し調べさせて貰った。バールケに味方したのは、一人娘の治療法を探す為だそうだな。」

 

カリファ伯は何も答えなかったが、彼の沈黙が真相を雄弁に物語っていた。

 

「バールケが味方に引き入れる為に何を約束したか分かっている。病回復のアーティファクトだ。」

 

「まさか、貴様がそれを所持しているとでもいうのか?」

 

過去、カリファ伯がアレスを使節団の一員として訪問したのも、娘の病の治療法を探す目的だったとエルヴィンの一族を通じて調べがついていた。

 

「いいや、そんなアーティファクトがあるとは聞いた事さえない。だが貴様の娘の症状を聞く限り思い当たる事はある。その考えが正しければ、俺が手術を施せば8割の確率で助かる。」

 

「なん、だと。」

 

「娘に手紙を書け。俺に敗れて降伏したと。そして俺が施す治療を受けるようにと。約束はしないが、放置すればお前の娘は寿命より遥かに若くして死ぬ事になる。もし治療が上手くいけば、カリファ伯に孫が出来るかもしれないな。」

 

「まさかお前、我が娘を狙っているのか?」

 

カリファ伯の反応にリアの視線が背中に突き刺さるのを感じる。ウルズラの降伏を受け入れた際から、どうも女性陣からの風当たりが強いのだ。マズイ、すぐに訂正しておかなくては。

 

「俺とてカリファ伯と親戚付き合いをする気はない。どれほどの美女だろうと俺は手出しせぬと貴族としての名誉に賭けて誓おう。」

 

リアの見ている前で俺が誓いを立てた事に、カリファ伯は満足そうだった。

 

「必ず病を癒すと、そう約束できるか?」

 

「それはない。先ほども8割といった筈だ。それでも治療の為に全力を尽くすと約束はしよう。それでどうだ?」

 

カリファ伯は首を垂れた。

 

「よろしく、頼む。」

 

カリファ伯の喉の奥底から絞り出された声を、俺は確かに聞き取った。

 

「では部下を貴様の娘の迎えにやる。使者に持たせる手紙を書いておけ。手配を済ませたら手紙を取りに来させる。」

 

俺は廊下に出ると、控えさせていたユリアンに声をかけた。

 

「ユリアン、仕事だ。」

 

「はい、アラン様。」

 

「カリファ伯の居城に乗り込め。安心しろ、奴直筆の手紙を持たせる。先に話を通せば諍いにはならない筈だ。作法に従ってカリファ伯の娘を連れ出すんだ。1番いい馬車を持っていけ。護衛も必要になるな。アダーに話して、俺の部隊から50人から100人ばかり連れていけ。1,000人いるんだ、馬に乗れるやつがそれくらいはいるだろう。」

 

「了解しました!」

 

「カトルに話して金貨を何袋か持っていけ。足りなければ商業ギルド経由で連絡しろ。カリファ伯令嬢の事は客人として扱うんだ。失礼のないようにしろよ。高位の貴族女性は付き添いが必要な筈だ。乳母や侍女や護衛はまとめてアレスに連れてこい。アレスに来させるのは治療を施す為だ。罪人でも捕虜でもないから扱いを間違えるなよ。エルヴィンにも声をかけて何人か応援を頼め。俺の命令と伝えてよい。大事な任務だ、しくじるんじゃないぞ。」

 

「そ、そうでしたか。了解しました。」

 

カリファ伯の元に戻ると、ちょうど書き終えた手紙に、紋章付きの指輪で封印するところだった。

 

「出来たか?」

 

「必要な事は書き記してある。留守を守る老臣に渡せ。無用な混乱はない筈だ。」

 

俺に手紙を差し出しながら、カリファ伯が答えた。

 

「では貰っていく。何か欲しいものはあるか?」

 

「それはやはり、酒と女だな。」

 

「どちらか片方の望みなら叶えるが。」

 

「ならば酒だな。今は浴びるように飲みたい。」

 

「持って来させよう。だが、飲みずぎるなよ。程々にな。」

 

退室しユリアンにカリファ伯の手紙を渡すと、リアが疑問を呈した。

 

「アランは本当にカリファ伯が仲間になると思うの?」

 

俺は立ったまま腕組みして思考を巡らせた。

 

「うーん、可能性はあると思うよ。」

 

「それは娘の治療を行うから?」

 

「そうだね。子供の為に生き方を変える親は珍しくないだろう。」

 

「必要性はあるのかしら?アロイス王国は我々だけでも相手にできると思うのだけれど。」

 

「リアの言い分も分かるけど、俺としてはガンツ伯に加えて宰相とカリファ伯をまとめて殺すのはやりすぎだと思う。敵であっても、こちらの味方にならなら優遇する姿勢を示しておきたい。そうでなければ、抵抗が激しくなるだろうからね。」

 

或いは、見込んだ相手は恩を与えて無理にでも仲間に引き込むか、だ。俺達の今回の処置は大陸中の関心を集めている。その振る舞いでこちらの器量が図られる筈だ。狭量な事をしては、今後の進展に差し支えるだろう。

 

「宰相の処遇はライスター卿に委ねると約束しているわ。」

 

「そうだね。だからこそ、俺はカリファ伯に拘るのかもしれないな。また宰相の一族にも出来れば情けをかけたい。実は考えがあるんだ。」

 

俺は心中の考えをリアに打ち明けた。

 

「それは可能なのかしら?」

 

「分からない。でも無駄に争うより残された者に手を差し伸べる方が苦労しないんじゃないかな。その方が無駄な血が流れないと、そう思いたいんだ。」

 

「分かったわ、女神ルミナス様も無駄な血が流れない事をお喜びになるはず。繊細さは必要だけれど、まずは話をしてみましょう。」

 

 

 

 

 

ベルタ王宮の庭にコリント卿からの特使が降り立った。ドラゴンのグローリアと、クレリア王女の側近のエルナ•ノリアン卿である。商業ギルドの通信網を経て下交渉は済んでいた。この話し合いの結果は国内に限らず、近隣諸国の注目を集めているだろう。彼らの集めた情報には、アマド国王がエルナという女性に執心していると記載されているのだろうか?

 

「ノリアン卿、連絡は受けております。よくお越しになりました。」

 

出迎えてくれたのは王都防衛を担うヘルマン•バール士爵だった。

 

「お世話になります。」

 

貴族としての装束に改めたエルナが涼やかに礼をする。エルナが礼をする間に、グローリアは飛び立った。グローリアは、エルナを運び終えたらアランの元に戻る手筈なのだ。

 

「見違えましたな、そのお美しさは変わりませんが。」

 

「コリント卿の従者としてこちらに参りましたのは、特に素性を隠したという訳ではないのですが。余計な軋轢がないように偽る気持ちがなかった、そういえば嘘になりますわ。」

 

「同僚を地下牢に捕えていた城なのだ、警戒された事情は分かっております。さ、陛下がお待ちです。こちらへ。」

 

特に要求された訳ではなかったが、エルナは腰に佩いた剣をバール士爵に差し出した。

 

「ほう、これも良い品ですな。ではお預かりしましょう。」

 

バール士爵も自然な仕草でエルナの魔法剣を受け取った。

 

「陛下、エルナ•ノリアン卿をお連れました。」

 

大広間に通される。エルナは作法に従い、王の前に進み出て跪く。

 

「面を上げよ」

 

エルナとアマド国王の視線が絡み合う。使者であるエルナは、敢えて作法より視線を上げてアマド国王の顔を直視する。

 

「ノリアン卿、久しいな。直答を許す。まずは、使者の要向きを述べられよ。」

 

「ご無沙汰しております。コリント卿は人類スターヴェイク帝国を名乗り、アレスを首都に新たな国を建国されます。アマド陛下にもこの壮挙にご参加頂きたいとの事です。まずは陛下のご存念を問うように、との事でした。」

 

「そうか。余は降伏勧告を受けるものと考えていたが、建国への参加提案ときたか。コリント卿はまだ余の下知に従うつもりがあるのかな?」

 

「それは難しいでしょう。コリント卿は我が主君のクレリア王女を共同統治者と定め、これ以降は最高司令官として振る舞われるとの事ですから。」

 

「大人しく聞いていれば。どのように飾ろうとも、このような話はベルティー王家への冒涜ではないか?」

 

「トリスタン卿、落ち着いてください。コリント卿は元々、アマド陛下への敵意はございません。しかしアマド陛下の勅命を理由に宰相の軍が攻めてこられたのです。それを打ち払ったコリント卿に対し、そちらがなんの歩みよりも示さぬままに国内で睨み合ったままでは埒があきません。この状況を納めてベルティー王家を保全する為に、コリント卿はアマド国王陛下にも建国への参加を呼び掛けられているのですよ。」

 

「トリスタン、良いのだ。控えろ。そちの意見は後で聞く。ノリアン卿、余がその提案を受けたら、どのような待遇となるのかな。」

 

「アマド陛下はベルタ王国国王を退位されて公爵となられます。クレリア王女の縁戚として、王族としての扱いとなり殿下の呼称が許されます。退位されたアマド陛下は引き続きこの宮殿内で国王としての立ち振る舞いも許容されるとの事です。領地はこの王都を含めた一帯となりましょう。」

 

「扱いも領地も今とほぼ変わらぬか。国内貴族の宗主権と王権への執着だけを捨てろ、という事だな。」

 

「はい、ベルティー王家がその地位を保つ事が我らの望みでもあります。この王都はベルタと呼称されます。コリント卿はベルタとアレスを最優先で鉄道敷設すると約束されています。鉄道により都市と都市の距離は縮まります。両都市は栄え、かつてない繁栄を遂げられるとコリント卿がお約束します。」

 

「ふむ、予想していたよりはるかに興味深い話であった。しかし即答出来ぬことは承知されているな?」

 

「はい。コリント卿からは陛下のお気持ちが固まる迄、こちらに逗留して私より良くご説明するようにと申しつけられております。」

 

「ならば、我らも協議するゆえ数日滞在されると良い。それではエルナ•ノリアン卿を国賓と定め、歓迎の宴を催す。さて、ノリアン卿。ダンスを申し込んだら、一緒に踊って頂けるのかな?それともそれはコリント卿に禁じられているのかな?」

 

「私のこの身はまだ誰の物でもございません。今宵、ダンスのお相手を務める事を楽しみにしております、陛下。」

 

 

 

その夜の宴、アマド国王とエルナを中心に舞踏会が開催された。カップル達は、チークタイムとなったのを境にスローテンポの曲に身を任せてチークダンスを踊っている。

 

「さて、これでゆっくりと語らう事が出来ますね。」

 

アマド国王がダンスパートナーのエルナに囁く。

 

「はい。ダンスを申し込まれた時から、陛下はこのタイミングでの密談を希望と推測しておりました。」

 

エルナが囁き返す。

 

「さて、それではまず我が宰相はどうなりますか?」

 

「バールケ侯爵は早々と有罪と定められました。コリント卿の毒殺を企てており、この件では証人もおりますので。余罪の追求を含め、以降の処置はライスター卿に一任されています。恐らくもう生きてはいないでしょう。」

 

「ふむ、彼も一族を皆殺しにされていますしね。ライスター卿の報復の対象となるのも致し方なし、か。」

 

「そういえば、アマド陛下のご親族にもバールケの魔の手が及んだとか。」

 

「その件については詳細は分かりませんね。ルチリア卿の死んだ今となっては、バールケがまだ生きていたとしても本当のことを話す確証もありません。私としては、この命を長らえただけでもう満足ですよ。」

 

「カリファ伯については、娘の病を治す条件でコリント卿が味方するようにと声をかけています。カリファ伯は娘の治療に同意したそうです。」

 

「それは興味深い。私が想像するよりコリント卿の器量はずっと大きいのかな。」

 

「はい。陛下の事も悪くは扱われない筈です。」

 

「貴方に蠱惑的に囁かれると、美しい声の魅力に負けてしまいそうです。コリント卿に協力した場合、私はノリアン卿の色香に惑わされた滅国の王だ、と後世に語り継がれるのでしょうね。」

 

「人類スターヴェイク帝国が大陸を統べた時には、最初に協力した陛下は賢者と讃えられる事になりますわ。」

 

「しかし、もしコリント卿の野心的な企てが失敗したら?」

 

「陛下は引き続きこのベルタを支配する君主のままです。その時は、ベルタ王国の復興を宣言されればよろしいのです。」

 

「なるほど、我が重臣達はこう申しました。『嵐を避けるのは当然です。ベルティー王家にはもう陛下しかおられぬのです。悪い条件ではありません。ここは御身を大切にベルティー王家の血筋を残すことに専念されませ』と。私はその考えに従うつもりです。」

 

「そう決断されたのでしたら、陛下の為にもお慶び申し上げます。」

 

「さて、我が民は私とノリアン卿のロマンスが成就するかを見守っています。ねぇエルナ、コリント卿の望みに合う返答をする場合、貴方は私の伴侶になって頂けるのだろうか?」

 

「残念ですが陛下、私には既に心に決めた殿方がおります。それに私を伴侶になさっては、色香に惑わされた愚かな王であると自ら証明される事になってしまいますわ。きっとクレリア王女が、私よりもっと陛下に相応しい相手をご紹介されると思います。」

 

「そうですか、貴方に袖にされてこの恋が成就せず胸の張り裂ける想いだが、ならばその新たな縁に期待しましょう。」

 

 

翌日、アマド国王の名で退位が宣言され、人類スターヴェイク帝国への参画が発表された。王都の民は無用な戦争が回避された事と、形はどうであれベルティー王家が存続する事を言祝いだ。

 

 

アマド国王の決定を受け、王都ベルタ侵攻に備えて集結していた諸侯の軍は緩やかに解散を命ぜられた。コリント卿とクレリア王女への謁見を果たした貴族は次々に所領に戻って行った。

 

ただし、一部の軍は、アレスとベルタの両都市を結ぶ新鉄道網の軌条敷設を請け負う事になる。区間区間を近隣の貴族に請け負わせ、アレスより運ばれた軌条の敷設は急ピッチで進められた。

 

冬の最中の新年を迎える日、その日がクレリア女王がアレスで即位する日と定められた。来るべきその日、ベルタ公爵アマドを筆頭に人類スターヴェイク帝国の臣民は即位式に参列する為にアレスに集結する事となる。諸侯のが分担して敷設した新鉄道網が、諸侯の速やかな移動を助け、アレスでの式典参加を可能とするだろう。

 

軍の解散前、女王の即位に先んじてコリント卿とクレリア女王の共同統治宣言が発表が公布された。

 

『民の安泰と教育の為に、人類スターヴェイク帝国を建国し、共同統治者のクレリア・スターヴァイン王女を女王として即位させる。』

 

滅国したスターヴェイク王国の王女を女王として擁立するこの宣言は、隣国アロイス王国への宣戦布告にも等しい。内戦集結とこの共同統治宣言により、人類スターヴェイク帝国の建国が大陸中の話題をさらった。

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