【二次小説】航宙軍士官、星を統べる (原作:航宙軍士官、冒険者になる)   作:高坂 源五郎

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Ⅰ ベルタ王国統一記 02話 【樹海戦闘編】野外決戦

ベルタ王国統一記 2 野戦決戦

 

迎撃ポイントはガンツとアレスの中間地点で、ややアレスよりの場所を指定した。ガンツとアレス間は街道を徒歩で5日程度の行程なので、距離はざっと100キロ。街道を馬でゆく場合だと1日50キロ強の移動距離である。騎馬の行程では余裕を持って2日と言った所だ。中間地点は馬で1日の距離なので、午前に出発して夕方近くには予定地点に到着できた。

 

(セリーナ、シャロン、予定ポイントには到着しているな?)

 

(はい、問題ありません)

 

(開戦は明日ですよね、今日は休養に充てます)

 

(休んでくれて構わないが、そちらの方が見通しがいい、見張りは立てるようにしてくれよ、敵軍の到着が分かる方が皆も安心するだろう)

 

((了解))

 

セリーナとシャロンの到着も通信で確認している。この地点で街道は両脇を切り立った崖に囲まれている。この断層崖が俺たちの希望だった。今回はセリーナとシャロンの班に、敵兵を高所から攻撃して援護してもらう。

 

探知魔法があるとはいえ、敵軍を待ち受けるのに見張りなしでは士気に関わるだろう。崖下に布陣した俺たちとしても、上でちゃんと見張ってると思う方が安心できた。

 

崖上の全員に弓を持たせていたし、魔法を使える兵もいる。セリーナとシャロンにはパルスライフルもある。高所から一斉攻撃すれば、敵の先陣は崩れ去る筈だった。パルスライフルを的確に使えば殲滅も可能だろう。ただ弾数の消費が激しすぎるので、それはしない方針だった。使うにしても強敵を狙い撃つ程度の運用にしている。

 

問題は正面攻撃を担当するこちらである。俺とエルナを筆頭にダルシムやヴァルターなど手だれを揃えたが、正面から敵が殺到すると支えきれない可能性があった。馬車で運んだ柵など建ててみたが心許ない。この柵は馬というより馬車の通行を阻む目的である。騎兵や歩兵は横を素通りできるが、馬車がなければ兵糧は運べない。進行を少し遅らせる程度の足止めは可能なはずだった。そこを高所から狙い打てば効果倍増だろう。

 

アレス方面に敵が逃げるようなら見逃して、ガンツ伯ユルゲンを討ち果たそうと指示を出していた。結局のところ、敵兵全てを殺して回る訳にもいかない。指揮官を倒して様子を見るというのが現時点の方針だった。機動力さえあれば、アレスまで騎馬で逃げ切れるという計算もある。

 

「敵の到着は最短でも明日だ、今日はしっかり休んでくれ」

 

見張を立てて街道の脇で休息する。流石に狩りをして料理を作る気になれず、食事は缶詰で済ませる。それでも湯煎したシチューの缶詰は絶品だった。濃い味付けが移動した身体に染み渡る。馬車で運んだパンを配布すると歓声が沸く。なかなか豪華な夕食となった。ただ明日以降も缶詰なので、いずれハムとシチュー以外の新メニューを開発しないと皆も飽きてしまうだろうな。

 

本来なら野営地で狩りや調理に時間を費やす事になった筈だ。野営地に到着してから消費していた時間を削って移動時間を稼げると証明できた。素早く展開できたのも缶詰による軍事活動の革新の成果と言えるだろう。開拓民を引き連れて移動した際の野営地に少し手を入れただけなので、樹海で一から野営地を作る時とは時間のかかり方が比べ物にならない。

 

残念ながら翌日も敵が現れなかった。時間が出来たので、皆で街道を封鎖する馬防柵の改良を行う。ついでに土魔法で街道脇に堀を掘り、掘った土で土壁を構築する。崖から出ても少し逃げ場のない道が続く感じになった。これは高所からの射撃も効果を発揮しそうだった。敵を待ち受けるのにも、壁がある方が都合がいい。皆、着々と整う準備に笑顔を見せている。早く会敵するのが楽しみだった。

 

その夜、仮想空間でセリーナとシャロンを交えて検討を行った。

 

(イーリス、敵軍の様子を見せてくれ)

 

俺達の迎撃ポイントから徒歩で1日足らずの場所。街道上に用意した休憩場所に3,000人の軍勢が肩を寄せ合うようにして入り込んでいた。いや、もう3,000人もいないな。

 

「現在は2463名です。約600名は逃亡もしくは魔物の餌になりました。」

 

アレス到着前に1/5が消えたのか。凄いな。

 

「艦長の指示に従って、ドローンで付近の魔物をガンツ伯軍の方向に追い立てた成果ですね。後は血の匂いに釣られて魔物が増えたようです。」

 

(魔物にしてみればご馳走の山が向こうから飛び込んできたようなものか。今後の商取引に影響するから魔物を排除しないとまずいかな。)

 

(また来るかもしれませんし、当面はこのままで良いのではないでしょうか)

 

(そうそう、防衛策の一環として)

 

シャロンの意見にセリーナも同意する。まぁ魔獣に溢れる樹海に攻めるのは無駄と思わせればこちらの勝ち、なのか。

 

(いずれにせよ、敵の士気は低そうだ。イーリス、明日はこちらの迎撃ポイントまで魔物を誘導して敵軍を追い立ててくれ、こちらでガンツ伯を始末したい。セリーナ、シャロンもそれでいいな?)

 

(はい、問題ありません)

 

(任せてください)

 

「では艦長、明日はそちらに敵軍を追い立てます。くれぐれもご注意を。」

 

 

翌朝は快晴だった。視界良好で敵の動きがよく見えそうだった。昼前にはガンツ伯の軍勢がこちらに追い立てられる事になってる。樹海が俺たちのホームグラウンドとはいえ、魔物に襲われるガンツ伯軍に比べ、のびのびと野営しているだけ、狩りをしているような長閑な雰囲気が漂いつつあった。

 

これから本格的な戦闘になるのだ。真剣な殺し合いをする以上、気合を入れて臨むべきだろう。ダルシムにそれとなく伝えて全員の緊張感を維持してもらう。流石に近衛の隊長だったダルシムはその辺りの呼吸が抜群に上手い。

 

「崖上から連絡です。敵軍接近、とのことです。」

 

崖の上からは矢に文を結んで馬車の屋根に目掛けて撃ち下ろす事になっていた。原始的な通信手段だが仕方がない。指定した馬車の周辺には矢の回収以外では近寄らないので大きな問題はなかった。

 

「来たか。」

 

「総員配置につけ」

 

俺とセリーナとシャロンは仮想ディスプレイ上で敵軍の動きを把握している。しかしそれはそれとして、目に見える距離に敵が来るのは圧倒的な臨場感だった。

 

「エルナ、準備はいいな」

 

「はい」

 

傍のエルナがうなずく。俺とエルナが最初に土壁の上に立って停止を呼びかける事になっていた。問答無用に射ちかかって良さそうなものだが、貴族の私戦にも色々流儀があるらしい。前口上は大事なのだという。

 

それに相手の足を止めさせる事ができ、武器の狙いもよく定まると聞くと合点がいった。そういう事なら試しても損はないだろう。多少なりとも敵の戦意を削げれば儲け物だった。

 

「今です、艦長」

 

イーリスの合図に合わせて立ち上がる。

 

「エルナ」

 

「了解」

 

土壁の上に登り上がった。手助けを受けて何か重いものを抱えたエルナも壁の上に立つ。

 

「アラン・コリント男爵だ。」

 

「護国卿閣下である、控えよ」

 

護国卿の盾を掲げた声の限りにエルナが叫ぶ。敵軍の動きが止まった。

 

先頭の男は目の前の距離にいる。手を伸ばしても届かないが、石を投げれば簡単に当たりそうな距離。イーリスめ、ちょっと近すぎるんじゃないか。

 

敵の指揮官が目の前に現れると思っていなかったのだろう。当然、他にも兵士がいる筈なので周囲を警戒しているようだ。

 

彼らの視界の遥か頭上、崖の上からの射撃はそうそう警戒しても避けられるものではないと思うが。

 

「直ちに立ち去れ。今すぐ去れば命は助けてやる。手向かう気なら容赦はしない。」

 

そう言って俺は魔石を握り締めた左手を高々と振り上げた。この手を振り下ろした時が開戦の合図だった。敵も即答できないというか、判断に迷ったのだろう。確認のために何人か後陣へ駆けて行く。

 

(イーリス、ガンツ伯の位置を)

 

「中央やや前より、青いマントに豪奢な鎧の恰幅の良い男性です。」

 

イーリスによりガンツ伯がハイライト表示される。

 

(イーリス、ガンツ伯の少し後ろを敵の分断位置に指定する、皆に伝えてくれ。)

 

「了解しました。」

 

仮想ウインドウに敵の分断予定ポイントが追加される。よし、これで良いだろう。敵の出方を待ちながらエルナにこっそり話しかける。

 

「エルナ、まさか護国卿の盾を持ってきているとは思わなかったよ。」

 

「ここで使えば敵の戦意を削げるのてばないかと」

 

「流石だ、良くやってくれた。」

 

確かに護国卿には国内の貴族への命令権がある。ガンツ伯には効かないかもしれないが、ガンツ伯が参陣を命じた中小貴族の戦線離脱は狙えそうだった。

 

実際、俺の顔と護国卿の盾を見て脇に避ける部隊が何組かいる。全体から見て少数だったが、護国卿と公然と敵対する意図はないと示す行動に思えた。小部隊の指揮官らしい風貌の貴族と視線が合う。俺は軽くうなずいてみせた。『手向かいしなければ滅ぼさない』という、こちらの意図が通じると良いのだが。

 

(イーリス、セリーナ、シャロン、あの街道を少し脇に避けた小部隊が見えるか。200名くらいの)

 

((はい))

 

(彼らは護国卿に手向かう意思はないようだから攻撃対象から外す、ただし手向かうようなら容赦はしない。他にも離反する連中は同じ扱いでいい)

 

((了解))

 

確認が取れたのだろう。ガンツ伯の直臣らしき騎士がこちらに駆けてきた。

 

「何をしている、敵将を討つ好機。恩賞は望みのままだ、うちかかれ」

 

恩賞と聞いて敵兵が目の色を変える。俺は彼らから見て指呼の間にいる。飛び掛かれば手の届きそうな距離なのだ。俺は躊躇わず、掲げていた手を振り下ろした。

 

俺とセリーナとシャロン、3人が用意していた3発のファイアーグレネードが時間差無しで軍勢に突き刺さる。爆発を受けて文字通り軍勢の中心が吹き飛ぶ。熱と爆音に何事かと敵兵が身構える。出鼻をくじかれ動きが止まる。

 

ガンツ伯のいる位置は外しているが、縦列で進軍していた敵の軍勢は見事に前と後ろで分断された。爆撃を受け爆風で兵士が消し飛んだ後に一つに繋がったクレーターが出来る。

 

(グローリアっ!)

 

咆哮と共に爆心地にグローリアが降り立った。彼女の役目は分断された軍を再合流させない事。爆心地を駆け抜けてガンツ伯に駆け寄ろうとしていた敵兵を見事にガンツ伯から分断する。さらに崖上からはセリーナとシャロンの班の放つ矢や魔法が届き始めていた。俺たちの周囲でも、ダルシム率いる伏兵が一斉に目の前の敵に襲いかかっている。

 

「エルナ、行くぞ、ガンツ伯はあの青マントだ」

 

エルナが素早く土壁を降りて姿をくらませる。だがエルナの移動をサポートした俺は殺到する敵兵に囲まれていた。流石にこの距離に総大将がいると見逃してもらえないらしい。まあ、これも作戦の内だった。土壁を盾に俺が敵の前衛を引き寄せて叩いている間に、エルナ、セリーナ、シャロンでガンツ伯を討つ。

 

人数が少ない以上、敵が前のめりになる瞬間を作る必要がある。その好機を産み出すのが俺の役割だった。

 

人波に囲まれて視界が翳る。俺は目に入る相手に片っ端からライトアローを放っていく。今日の為にグレイハウンドの魔石を多数持参してある。

 

俺の元に敵兵が殺到した。しかしそれを遥かに上回る力で俺たちは敵を圧倒する。

 

(イーリス、ガンツ伯はどうなってるっ?)

 

俺には逃げ場がない。が、ガンツ伯も逃げ場がない筈だった。

 

「間も無くこちらの先陣がガンツ伯を捉えます」

 

イーリスの声に顔を上げると、エルナが率いるヴァルターの班が崖上からの支援を受けてガンツ伯に肉薄していた。

 

ガンツ伯は迫るエルナを迎撃しようと剣を抜く。馬上で立ち上がり、剣を振りかぶった、その瞬間にガンツ伯の頭部は宙を舞う。直前まで存在を秘したエルナのウインドカッターがガンツ伯を襲ったのだ。頭部を失った胴体が血を吹き出しながらドウっと倒れた。それがガンツ伯ユルゲンの最期だった。

 

俺は目の前に迫った敵を魔法剣で切り伏せて声の限りに叫んだ。

 

「ガンツ伯が倒れたぞっ!」

 

「ガンツ伯が死んだぞ」

 

「やったぞ、俺たちの勝利だ」

 

戦場の喧騒に声はそれほど届かない。しかしそのどよめきは確かに戦場を伝播していった。

 

(グローリア、もういい。敵の退路を開け。こちらに移動して、アレスの方に敵が移動しないように塞いでくれ。)

 

咆哮と共にグローリアが飛び上がり移動する。指揮官が討たれ、ドラゴンの移動で退路が出現した。それを理解した敵の軍勢はついに崩れた。

 

敵の波が引いていく。僅かに残った兵がなおも果敢に打ち掛かってくるが、こちらより少ない数の兵など障害にならなかった。問題なく打ち倒す。

 

(勝ったな)

 

「おめでとうございます。艦長」

 

勝利を祝福するイーリスの声が脳内に響く。

 

(セリーナ、シャロン、損害は?)

 

(問題ありません)

 

(こちらも問題ありません、残った敵はどうしますか?)

 

シャロンが問いかけているのは先ほど、優先対象から外した敵だった。彼らと話をつけないと追撃にかかれないだろう。手招きして、周囲の敵味方の位置の把握に努めているダルシムを呼び寄せる。

 

「アラン様、大勝利です」

 

謹直なダルシムも今は流石に顔を綻ばせている。

 

「ダルシム副官、追撃に移る前に一度兵をまとめよう。あそこに敵軍を離脱した一派がいる。俺達は追撃に入る前に彼らと話をつける必要がある。」

 

ダルシムはすぐに真顔に戻った。

 

「かしこまりました。」

 

ダルシムが陣形を整え出すと、背後を守っていたハインツ班長やライスター卿が寄ってきた。

 

「お見事です、アラン様。武神もかくやという見事なお働きでした。」

 

どうやら俺の戦いぶりは彼らにずっと観察されていたらしい。いや、ハインツ班長もライスター卿も剣を抜いている。彼らも彼らで俺の背後を守る為に戦ってくれていたのだろう。

 

「コリント卿が英雄と伺ってはおりましたが、まさかこれほどの武勇と知略を兼ね備えていたとは」

 

ライスター卿も手放しで褒めてくれる。パルスライフルやドローンを駆使すればもっと安全に戦えたかもしれないが、俺としてはここで寡兵で数倍の大軍を倒して自信をつけて欲しかった。当分は手出しされないように徹底的に叩くという意図もある。

 

「こちらの作戦が上手くハマりました。後は、首尾よくガンツ伯ユルゲンを討ち取ったノリアン卿の功績が大きいですね」

 

タイミングよく、ユルゲンの首をぶら下げだヴァルターとエルナがこちらに戻ってくる。

 

「ライスター卿、早速敵の軍勢から離反者が出たようです。彼らと話をつけたいので同行してもらえますか?」

 

「勿論ですとも、コリント卿」

 

 

ダルシムやエルナやヴァルターとも合流して、街道脇の小集団を目指す。今は数が増えて500人強にまで増えている。出自は不明ながらガンツ伯に駆り集められた層が俺たちへの手向かいをやめて合流したのだろう。

 

対するこちらは80人弱だが、グローリアを背後に従えているし、別働隊が崖上をおさえている。崖上の兵力までは分からない筈だ。

 

俺が近寄ると、指揮官らしき人物は剣を高く掲げてから投げ捨てた。俺は了解した様子でうなずいて見せると、ライスター卿と共に数歩前に出てから彼に手招きした。相手に戦う意図がないのなら会談して問題ないだろう。

 

「崖の上からも狙っているし、ドラゴンもいる。おかしな真似はしない事だ。」

 

近づいてきた男に警告を与える。

 

「護国卿閣下の知謀も武勇も間近で拝見させていただきました。手向かうつもりはありません。」

 

そう話す男は俺の傍らに立つライスター卿に目を止めた。

 

「まさか、ヴェルナー•ライスター卿、閣下なのですか。」

 

「おお、そなたはケール男爵」

 

ライスター卿の知り合いだったらしい。話が上手くまとまることを期待しよう。

 

「ライスター卿は摂政のバールケ侯爵に捕えられているところを我々が救出しました。今ではバールケ侯爵を倒す為の同志です、そうですね、ライスター卿」

 

「ええ。国政を壟断するバールケへの報復こそが我が望みです。」

 

ライスター卿が重々しく同意する。良かった、リアの存在を伏せたい俺の意図は上手く伝わっているようだ。

 

「護国卿と先の摂政閣下が同盟されているとは」

 

ケール男爵は何やら感銘を受けている様子だった。

 

「我々としては味方してくれるなら悪いようにしない。ガンツ伯を討ち果たしたのは見ての通りだ。そちらが我々に抵抗できたにも関わらす、ガンツ伯に同心でなかったのは理解している。」

 

「コリント卿は武勇に優れるだけでなく、約束を重んじられる。その事は私も保証しよう」

 

ライスター卿が言葉を添える。ケール男爵はしばし思い悩んでいた様子だった。が、ついにうなずいた。

 

「領地がガンツに近い我々は様々な恩恵を受けています。その為、ガンツ伯を敵に回して立ち行きません。その為、招集に応じたのですが。」

 

聞けば彼らはガンツ近隣の中小領主の連合軍だった。一部は既に逃げてしまったようだが、参戦を強要されたのだという。ガンツ伯は大軍だったので安心していたが、魔物に襲われて日に日に軍の数が減るのを見て嫌気がさしていたらしい。更に護国卿が相手と知らされていなかったそうで、王命を憚って戦線離脱を決めたそうだ。

 

「我々としては降伏しますので、生命の安全を保障して頂きたい。」

 

「手向かわない限り、危害は加えないと貴族としての名誉に賭けて誓おう。」

 

「我らが部隊が降伏を受け入れて頂いた護国卿閣下に手向かいしない事を、貴族としての名誉にかけて誓います。」

 

ケール男爵と誓いを交わす。一応互いに安全は確保した訳だが、彼らがここにいると厄介だな。

 

「我々は残敵の掃討を行う。いずれ血の匂いに惹かれてここにも魔物が来るだろう。我々が離れた後では君たちを守れない。」

 

「そうですよね」

 

やはり魔物の襲撃を懸念しているようだった。

 

「どうだろう、このまま進んで俺の都市であるアレスまで行っては? 騎馬なら1日、徒歩なら2日かからない距離だ。守備軍がいるが、手紙を書こう。城内には入れないが、移民用に城門前には野営地を整備し、野営地内には魔物は入れないように堀で囲ってある。食料を分けるように書いておくので、そちらで俺達の帰還を待ってもらえないか?」

 

ガンツまで戻るルートには魔物もいるし、間違いなく撤退したガンツ伯軍への追撃で戦闘も発生するだろう。不確定要素になりうる彼らに戦場に近づいて欲しくなかった。

 

「降伏を受け入れて頂く上に、安全の確保と食糧提供まで。願ってもないお話です」

 

話はまとまった。以後のケール男爵との歓談はライスター卿に任せて、エルナとダルシムの元に戻る。

 

「彼らは味方につく前提で降伏した。手紙を持たせてアレスに送る。後はあちらの門外の野営地で俺たちが戻るまで大人しく待機してもらう。」

 

素早くダルシムとエルナに情報共有する。

 

「彼らの相手はライスター卿がする。ダルシム副官は皆に食事をさせて追撃の準備を整えさせてくれ。」

 

「かしこまりました」

 

「エルナ、リアに事情を説明する手紙を書いて欲しい。向こうのリーダーのケール男爵に持たせる。エルナの字ならリアは分かるだろう?」

 

「ええ、リア様は私の字はお分かりです。書き方も工夫すれば、手紙の真贋を疑われることはないでしょう。」

 

ダルシムとエルナに手配を任せると、セリーナとシャロンに連絡を取り、同じ説明を繰り返す。

 

(セリーナ、シャロン、食事を済ませたら潰走した敵を追撃して欲しい。俺たちも諸々用事を済ませたら追いかける、次の野営地で合流する形でどうだろう。深追いはしなくていい。)

 

(私達は食事を済ませたのでもう出れます)

 

(缶詰は支度が簡単でいいですね。こちらも全員やる気です)

 

セリーナとシャロンの班は崖上からの攻撃に徹していた。なので、まだまだ余力がありそうだった。

 

(油断して反撃を受けないように注意しろよ、敵の数を減らしながらガンツまで追い立ててやれ)

 

((了解))

 

 

そこまで手配を終え、ようやく俺は負傷兵の看護に向かった。今回は快勝だったので味方には死者も瀕死の重傷者もいない。味方の軽傷者にヒールをかけて回る。問題は遺棄された敵兵達だった。死者もいるし重傷者も多い。

 

(仕方ないな、助けるか)

 

航宙軍士官として、同じ人類に連なる捕虜への医療行為は義務である。俺は敵兵であっても負傷者を見捨てる気になれなかった。重傷者は、捕虜となる宣誓をさせた。その後にヒールをかけてゆく。

 

捕虜の管理はハインツの班に任せる事にした。後方にいたのだし、捕虜になった経験があるので的確に管理してくれるだろう。

 

50名ほどの負傷した捕虜のうち、重篤な8名ほどをヒールで治療する。後の者は時間をかければ治癒するような怪我なので、薬を与える指示を出す。魔石があるとはいえ、流石に俺も余力を残しておかないとまずいだろう。

 

治療がひと段落したのでハムの缶詰と炙ったぱんをバクつきながら、書き上げられたエルナの手紙を読ませてもらう。エルナめ、しっかりとガンツ伯を仕留めたのは自分と書いてリアに自慢しているな。

 

「エルナ、一つ書き加えて欲しい。俺たちはガンツまで行く。2日後のガンツ攻略が今の目標だと。」

 

これだけ忙しかったのに時間はまだ昼前だった。みんな相当早く昼を食べたらしい。まぁ、戦闘を済ませればそれは腹も減るよな。

 

ダルシムと相談して11台ある馬車の4台をケール男爵に渡す。彼には食糧を分ける代わりに捕虜の輸送も依頼した。缶詰を見るのは初めてだそうだが、気を利かせたダルシムが缶詰を振る舞っていたので一度食べてすっかり飲み込んだらしい。捕虜の輸送も快く引き受けてもらう。人数が違うが、分け合えば数日は食いつなげる量の缶詰はあるはずだった。

 

ケール男爵に同行すると志願した馬車の御者には帰るルートの指示を与える。単純な道だから樹海で迷うこともないだろう。

 

敵兵の遺体の埋葬は諦める。流石に今は時間が惜しい。魔物の餌にするほかないだろう。こちらに魔物が集まって、ケール男爵の一行が襲われないなら、それでよしとするしかない。

 

ただガンツ伯の遺体は証明のためにも運んだほうが良いと判断する。馬車に場所を作って頭部と共に遺体を詰め込んだ。

 

さあ準備は全て整った。今からガンツを落としに行こう。

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