【二次小説】航宙軍士官、星を統べる (原作:航宙軍士官、冒険者になる) 作:高坂 源五郎
ベルタ王国統一記 3 ガンツ無血開城
セリーナとシャロンは残敵を掃討しながら大きく先に進んでいた。騎馬の2部隊に両側面を挟み込まれて魔法を打ち込まれると敵はさらに潰走した。身動きできない者、戦意のない者は捕虜として投降した。投降した捕虜はアレス方面に少しでも移動させ、後続の我々が武装解除して馬車に収容した。騎馬なのでセリーナとシャロンには予め昨日今日の食糧は持たせているが、それにしても2人の追撃はとんでもなく早かった。
ガンツとアレスの間は徒歩で全5日の行程だ。中継地点の野営地は4ヶ所用意している。実際は中間地点に騎兵用の野営地を用意するべきなのかもしれないがまだ未整備だった。いずれは伝令用の宿舎が必要になるだろうな。
野戦を行ったのは二つの都市のほぼ中間地点である。ガンツとの間には2ヶ所の野営地がある。セリーナとシャロンは勢いに乗ってガンツ最寄りの野営地まで進んでいた。多少の捕虜も同行させたらしい。勢いに乗るとは恐ろしい。
セリーナとシャロンが1つ目、俺率いる本隊が2つ目、アレスを目指すケール男爵の隊が3つ目の野営地にいる計算だった。1つ目と2つ目の野営地は共に騎馬では1日でガンツに着く距離であった。明日は俺がアレスから率いて出た全軍がガンツに着く事になる。
(セリーナ、シャロン。進みすぎじゃないのか。)
(ごめんなさい、アラン)
(まだいける、まだいけるとなってしまって)
予定外ではあったが、修正可能な範囲だった。それに俺たちが野営地を押さえれば敵は野宿するしかない。野営地は堀と土壁で囲っている。それだけ準備をした場所でも、この2日間彼らは魔物に襲われて数を減らしてきたのだ。野営地なしで樹海の夜を過ごすのは無謀な企てと言って間違いないだろう。
(グローリアに今日明日の食料を持たせてそちらの野営地に行ってもらおう。捕虜の反乱や夜襲のリスクが減るはずだ)
(分かりました、艦長)
(アラン、ありがとう)
(グローリア、よろしくね)
セリーナとシャロンが口々に感謝を述べる。捕虜が増えて今夜から食料が足りなくなる計算もしていなかったようだ。明日にはガンツ前で合流する。こちらはこれで良いだろう。
(敵が辿り着けそうな野営地はこちらで全て押さえた。これはお手柄だと思う。油断だけしないように注意して、後は数の減った敵をしっかり料理しよう)
(((はいっ!)))
難題はまだまだ控えていた。しかし流石に今日はしっかり眠ってもバチが当たらないだろう。探知魔法があるとはいえ、見張りの増員と捕虜の警戒をダルシムにしっかり頼んでおかなくては。
薄暮の中、ダルシムとエルナを呼び出す。
「ダルシム、ヴァルター、エルナ、少し良いかな」
「はい、アラン」
「はい、アラン様」
「先行したセリーナとシャロンは無事でいると思うが、捕虜を取っているとなると食料が心細いかもしれない。グローリアに食料を持たせてセリーナとシャロンのところに送りこむつもりだ。」
「グローリアはそんな事もできるのですか!」
「ああ、おそらく一つ先の野営地で間違いないと思う。グローリアが野営地に止まれば、突出した先発隊が敵に襲われる心配はないはずだ。」
「なるほど食料の支度をさせます。」
「ダルシムは食料の支度を終えたら、包ませてくれ。グローリアに運んでもらうから厳重に頼む。その後は、見張のシフトを組んでほしい。」
「分かりました。見張の方は問題なく進めてあります。」
「ありがとう。それは助かる。残りの我々はハインツ班長の管理している捕虜の問題を対処しよう。」
「分かりました、お供します。」
ヴァルターとエルナを従えて捕虜の様子を見に行く。ガンツ伯との戦闘で得た捕虜はケール男爵と共にアレスへと送った。それ以降の追撃で投降した捕虜は手足を縛って馬車で運んでいる。特に報告は受けていないがまだ重症者もいるはずだ。手足を縛ったままだとトイレの心配もある。垂れ流しはお互いに望んでいないだろう。
ハインツ班長は捕虜をかなり的確に管理してくれていた。トイレを希望する場合は、拘束を解いているという。縛り方にも問題ない。
「ただ、捕虜専用の隔離場所が欲しいのですが」
「分かった。土魔法で簡単な囲いを作ろう」
捕虜のいる区画を示す為の低い土塀を用意する。視線を遮る程ではないが、捕虜と監視する者の境界が出来た。捕虜専用のトイレも男用を幾つかと女用を設置する。馬車から水瓶を運び込んでウォーターの魔法で水を満たす。
雨は気にしないで良いだろう。今日の気温ならむしろシャワーのように感じられるはずだ。
「ハインツ班長。天幕を置いていく。もし雨が降るようなら捕虜達の上にかけてやってくれ、溝を作っておくから地面に水が流れ込む事もないはずだ」
「分かりました」
「女性兵が多いようだ、やけになった兵に暴行などされないようにしっかり取り締まってくれ。もちろん味方の兵からもだ。風紀の乱れをリアは許さないだろうからな。」
「はい、心得ています。部下にもリア様の名汚すような真似はさせません。」
水瓶は好評で捕虜が殺到する。柄杓は2つしか無いので交代で使わせるが、捕虜は仲間だけあって上手く融通しあって水を飲み合っているようだ。トイレの不安も解消すると水は飲みたくなるだろう。危うく捕虜の虐待になるところだった。野営地なので手の拘束は仕方ないだろうが、環境は改善しないとな。
水瓶の水がすぐ飲み尽くされそうだったので、ウォーターの魔法で追加する。
「ヴァルター、もう一つ水瓶を持ってきてくれないか?いつでも回収できるから、明日発つ時はこのまま置いていこう。」
「分かりました」
傷の重そうな捕虜にはヒールをかける。建前上、ヒールをかけるのには目を瞑る必要があるのでエルナには周囲を警戒してもらった。
治療を終えて捕虜を眺めながらしばしぼんやりする。何かし忘れたことは無かっただろうか。
そんな俺に横に立ったエルナが話しかけてきた。
「アランのおかげで今日は勝てたわ」
「皆のおかげだよ、それにエルナはお手柄だったね。ガンツ伯ユルゲンを討つ大殊勲だ。本当に見事だったよ。」
俺に褒められてエルナは嬉しそうだった。
「ありがとう、アラン。」
突然エルナに抱きつかれる。耳元で興奮するような内容の言葉を囁かれる。水瓶に夢中の捕虜達の影に隠れて周囲に気づかれていないが、エルナの大胆な行動にはドギマギさせられた。
「リア様のお許しが出ないと、この先に進めないけれど•••」
そう言いながらエルナは俺の両頬を包み込むと、そっと俺の唇にキスをした。
「•••私もこの先に期待しています、アラン」
翌朝は平穏無事にやってきた。魔物の襲撃もなく、捕虜の反乱もなく、ただ淡々とガンツを目指すのみ。街道に倒れて助けを求める行き倒れのような敵兵を捕虜として馬車に収容しながら進む。街道上は念のためドローンに警戒させていた。その為、街道で野宿しても魔物に襲われずに済んだ敵兵士もそれなりに多い。無論、敵の大きな集団には逆に魔物をけしかけている。
(イーリス、敵の集団はどうなっている?)
やはり昨日は疲労であまり頭が回っていなかったのだろう。敵集団の位置を俺が把握するのを忘れていた。イーリスが警戒していたから異変があれば通知された筈だが、指揮官として自ら確認して把握しておくべきだった。
「3集団ほどに緩やかに分裂したようですが、皆ガンツを目指しています。最も大きい集団が昨夜セリーナとシャロンの野営地を襲撃する構えでしたが、グローリアの存在を知って断念したようです」
危なかったな。グローリアがいなければ深追いしたセリーナとシャロンは手痛い反撃を受けていたかもしれない。グローリアをセリーナ達に合流させるアイディアに感謝しよう。食料輸送を解消する苦肉の策だったのだが。
(イーリス、今回の活躍で作戦後にグローリアを1階級昇進させよう。記憶しておいてくれ。)
「了解しました、艦長」
セリーナとシャロンの隊はいつの間にか敵の主力を追い抜いていた。いや、敵が野営地を襲おうと後退したからだろうか。いずれにせよ野営地が確保できなかった彼らは,追撃をかわし水を求めて街道より少し奥に入っていたのだ。
結果として騎兵の我々も今日はこのまま街道を制して横道に逸れた敵に先行する事になるだろう。こうなると敵より先にガンツを押さえたい。少なくとも追い散らした敵がガンツに立て篭もるのを阻止するべきだろう。
ガンツをどう攻めるか、これが難問だった。俺達にチャンスがあるとすれば、ガンツの人間にもこちらの人柄をよく知られている事だろう。初対面の相手と違い、交渉に齟齬は出にくい筈だ。交渉を試す価値はあるかもしれない。
ガンツのあの城壁に対して少人数での力押しは難しいだろう。しかし権威をうまく使えば、ガンツの支配を認めさせる事ができるかもしれなかった。その為にも、ガンツは無傷で占領する必要があった。
我々がガンツに到着したのは午後の早い時間だった。捕虜の関係で予想以上に食料の消費が早い。馬車で捕虜を運ぶには好都合だったが、やはり短期決戦にする必要がありそうだった。
既に到着していたセリーナやシャロンの隊と合流してガンツ前に陣取る。イーリスに頼んで、ガンツ内にろくな兵数が残っていない事は把握していた。ギード隊長を筆頭になけなしの守備兵が城門を抑えているだけだ。
「ダルシム副官!」
「はい、アラン様」
「ちょっとガンツに挨拶をして来ようと思う、付き合ってくれないか。」
「お供します」
「俺が戻るまでは指揮官はセリーナだ、いいな、皆」
「はい」
(セリーナ、シャロン、ここは頼む。)
((了解))
俺はガンツに取引を申し出るつもりでいた。結局のところ交易の為にアレスはガンツを、ガンツは樹海の富を必要としている。元々、俺はガンツの中では知られた存在である。武力に頼らずとも折り合える可能性は高いと踏んでいた。
「やあ、ギード隊長」
「ご、護国卿閣下」
城門のギード隊長は跪くべきか困惑していた。主人であるガンツ伯が俺を討ち果たそうと軍勢を発したのだ。ただ、これは王命のない私戦。であるならば俺の護国卿としての地位はそのままのはずだった。
「今は急いでいる。跪かなくていい。取り急ぎガンツの主要な人物と話をしたい、商業ギルド長と冒険者ギルド長をここに呼び出してくれないか。断られるならそれはそれで構わないが。」
最悪ガンツを攻めるという意図が伝わるだろうか。いや、やはり俺は貴族となってもガンツの人々に敵対したくないな。
「こちらも今回の事態に困っているんだ。頼むよ、ギード隊長」
俺の口調にギード隊長が態度を軟化させた。
「閣下の要望を部下に両ギルド長に伝えさせます。お約束できるのはそれだけです。」
「分かった。城門から見えるあの辺りで待つ。安全は保証すると伝えてくれ、俺としては君達と事態の収拾を相談したいだけだ」
「そのお言葉は必ず伝えさせます。」
俺はガンツのギルド長達の出方を待ちながら、ダルシム副官と麾下の配置について話し合った。
「セリーナ殿とシャロン殿の両翼の働きぶりは素晴らしいものでした」
ダルシムが褒め称える。確かにその通りだ。移動に優れた騎兵という特性に魔法という火力を備えている。更に上空からの正確な位置測定と、リアルタイム通信まで行っているのだ。魔石による魔法発動で魔力切れを起こしにくいのもかなり手強いと感じさせている筈だ。
セリーナとシャロンの挟み撃ちは文字通り敵の主力陣を溶かす威力を発揮していた。指揮官を失ったとは言え、追撃戦がここまで一方的な展開になったのもセリーナとシャロンの分隊が示したポテンシャルの高さによる所が大きい。
「双子だから、お互いの意図が伝わりやすいんだろう。後はやはり、皆の熟練度が高いからじゃないかな。それが優れた連携を産んでいると俺は思う。」
ダルシムはサテライトのメンバーが褒められて嬉しそうだった。サテライトのメンバーの兵士としての質の高さは極めて高い。並の兵では高度な指示に従えていないだろう。魔法も使えて馬に乗れて、というのは簡単に得られる資質ではないのだ。有利な状況だったとはいえ、少数の味方で圧倒的な数の敵を相手に冷静に指揮に従うのも困難だろうと思う。
「やはり、あの鍛錬が効きましたな」
「確かにその通りだ。あれで一体感が得られたし皆強くなった。いや、まだまだ強くなるぞ」
成果が目に見えるのは良い物だな。ダルシムと話をしていると城門から数名出てこちらに向かってくる。ギルドの関係者だろう。
遠目にもシルエットからサイラスさんとケヴィンさんと分かった。ギード隊長の姿もある。それぞれ供を1名ずつ連れているようだ。全部で6名か。俺とダルシムが2名で来たので合わせてくれたのかもしれない。
「やあ、お呼びだてしてすみません。」
当事者しかいないならフランクな口調で構わないだろう。俺もサイラスさんと本音で話すのに、貴族の口調では言いたいことを正確に伝える自信はない。
「護国卿閣下」
「アラン、どうなってるんだ一体。」
ケヴィンさんは丁寧に挨拶してくれるが、サイラスさんもこちらの意図を汲んだのか、最初からいつもの口調だった。いや、元々本音で話すつもりしかなかったのだったのだろう。傍にはナタリーさんもいる。
「礼儀は取っ払ってざっくばらんに本音で話しましょうか。ガンツ伯が樹海に攻めてきましてね。せっかく作った都市を壊されるわけにはいきません。立ち去るよう伝えましたが、聞き入れてもらえないので、討ち果たしました。」
「マジかよ、3000人以上いたぞ」
皆驚いている。まぁ、3000人の軍勢が100人程度の俺たちに潰走させられたら普通は驚くかな。
「嘘ではない証拠に、この後すぐに城門にガンツ伯の遺体を届けます。商業ギルドは食糧の保存施設がありますね。遺体を冷やして腐らないように預かったり出来ませんか?」
「可能だとは思うが。」
「ガンツ伯本人か分かる状態を維持したい、費用は先々払うので商業ギルドで保管をお願いします」
「分かった、いいだろう」
「それでこの先の話です。ガンツ伯が死んだ今、ガンツの管理が宙に浮きます。俺としては樹海の産品の売却にガンツが必要です。ガンツも樹海の富が必要です。ここは手を組みませんか。」
「というと、どのような提案になりますか?」
興味深そうにケヴィンさんが口を挟む。ギード隊長は口を開かないが、ちゃんと内容を理解している様子だ。
「無理な事は言いません。今回はガンツ伯と俺との私戦です。ただ俺は未だ護国卿の地位にいます。国王陛下の覚えめでたいという事です。」
実際にそこまでアマド国王との関係に万全の自信がある訳ではなかったが、まぁ妙に気に入られているのは嘘ではない。開拓に成功したら辺境伯にという話もある。それを伝えても良いかもしれない。
「俺は開拓が成功した暁には辺境伯の地位を陛下直々に約束されています。ガンツ伯が攻めてきたのも、俺に樹海の開拓に成功されて辺境伯になられると目障りだったんでしょう」
今の所は、俺の説明に皆納得しているようだった。
「俺たちは樹海の開拓者、冒険者ギルド、商業ギルド、衛兵隊と立場は違いますが、ガンツが樹海の富で潤う今の状況を続けたい、違いますか?少なくとも俺には樹海の品を捌く為にガンツが必要なんですよ。」
今の所、反論の声は上がっていなかった。皆黙ってこちらの話を聞いている。
「俺は護国卿としてガンツを襲う敵があれば討ち果たします。ガンツを庇護下に置くということです。ただし、ガンツの中の事には口出ししません。冒険者ギルド、商業ギルド、衛兵隊でこれまで通り運営して欲しい。いずれガンツの扱いについて王命が下るまでの間は、ですね。その条件で俺たちのガンツの入城を認めて欲しい。どうですか。」
「前例のない事ですが•••」
ケヴィンさんが考え込んでいる。
「単刀直入に言う、税の事はどうなる。」
「そうですね、俺達はあくまで客です。ガンツの税に手をつけません。ギルドの方でガンツ伯の後継者に報告していた内容をそのまま踏襲してください。そこから衛兵隊の給与など街の運営に必要な経費を支払いましょう。残りはガンツ伯の後継者の取り分として商業ギルドで保管してください。」
「税の取り扱いをギルドに一任してくれるなら、うまくやれると思う。国王陛下の認めた後継者に領地が引き継がれるまで代理人が保管するのも王国法に叶うはずだ」
「衛兵隊としては給与が支払われ、任務内容は変わらず、それが護国卿の命令であるから従えという言うお話なら異論はありません。」
ギード隊長の回答は持って回った言い方だったが、実益と大義名分の両方立つようにしてくれれば部下を説得するという意味だろう。
「ガンツ伯が討たれたのは分かりましたが、3,000名の軍団が全て滅ぼされた訳ではないのではないですか。戦闘についてはどうなってるのでしょう。」
ケヴィンさんから質問を浴びる。やはり今後の戦闘の有無が気になるか。まぁ、護国卿に従う姿勢を示すにしても戦闘に巻き込まれるのは彼らも本意ではないだろう。
「はい、俺の目下の懸念はそこです。俺としては敵軍の生き残りにガンツに入られるのはごめんです。ガンツと自由に取引できないのも困る。敵の生き残りは樹海を彷徨ってぼろぼろです。指揮官もない、食べ物もない。そんな軍勢が街に入ってガンツに立て篭もられると今の混乱が引き伸ばされます。」
ガンツ伯が死んだ今、配下の軍勢の危険度が高いのはこの場にいる全員が分かっているだろう。
「こちらで敵がガンツに入るのを阻止します。」
俺の提案にサイラスさんが素早く賛同してくれた。
「アラン、こちらとしては王命あるまでギルドで街を切り回す案に賛成だ。実際、これ以上の波風は立てずに済ませるにはそれしかないだろう。ただし、ガンツ伯の軍勢がガンツ入りしたらこの話は成立しない。そこは分かっているんだろうな。」
「ええ、問題ありません。それじゃ、先ほどの条件で俺の庇護下に入る事に賛成してくれますね。」
「略奪や暴行などトラブルは困りますよ」
ケヴィンさんが懸念を示すが、もう大分乗り気な様子だった。
「もちろんです。俺たちは王命があるまではガンツの客です。必要なものに対しては正当な支払いをするし、部下に法は守らせますよ。街の防衛に関する事柄は護国卿としても譲れませんが、商売がこれまで通りならギルドの行う街の統治に口出しはしません。どうでしょう。」
「少し相談する時間が欲しい」
ガンツの主要人物達は少し離れた場所に移動して相談を始めたがすぐにまとまったようだ。
「提案を受け入れる」
代表してサイラスさんが宣言する。ケヴィンさんも、ギード隊長もうなずいている。よし、まとまったな。
「良かった。ガンツ伯の遺体を届けます。関係者に見せるのは構いませんが、遺品の保管はお願いします。証拠の品を無くしたくない。」
「そこは心得ている。流石にガンツ伯が生死不明だと色々ややこしいからな。俺たちできちんと保管しておいてやるよ」
「複雑ですが、街の人間としては統制のとれていない大軍に街に押し入られる事態は避けたい」
「ガンツ伯が亡くなられた以上、護国卿の指示に従うべきと考えます。」
俺はガンツの主要人物と会談を終えた。商業ギルドも冒険者ギルドもギルドの中立を理由に俺達のガンツ占領を容認する構えだった。ただしガンツ伯軍を打ち破る事が条件である。
課題は他にもある。形式的な事柄、儀礼的な事柄、王国への建前、利害の調整。だが都市と都市の結びつきが手を携える方針が決まった今、他は瑣末な問題だった。
ダルシムと部隊に戻る。
「会談はどうでしたか?」
出迎えてくれた八班班長のケニーに質問される。
「ガンツは戦闘では中立だ。敵のガンツ入城を阻止すれば以後はギルドがガンツを管理する形で話をつけた。ここを乗り切れば、ガンツは俺の庇護下に入る。まぁ、中の税金なんかはギルドに任せるから自由に出入り出来るだけでこれまで通りの関係に近いな。」
「それは良かった、ガンツを攻めると聞いた時はどうなるかと思いました」
「形としては王命があるまで俺達がガンツを支配する形になる。アレスの防衛を考えるとガンツを確保する意味は大きい。今はそれで十分だろう。そうだケニー、そちらの班で城門の衛兵隊のギード隊長にガンツ伯の遺体を届けてくれ。」
「分かりました。」
ガンツ伯の遺体の引き取りが無事終わると後は敵の出方を見定める待機の時間となった。そんな中、午後も遅い時間に敵がようやく姿を見せた。
敵軍も樹海を出て広い場所で野戦を狙う流れだった。密かに軍を整え直したのだろう。再編を終えた敵軍が顔を見せる。なんだかんだでその数は1,000人に近い。
(イーリス、敵は何名だ?)
「863名です、艦長」
3,000名はいた敵が今はそれだけになっていた。しかしまだ、俺達の9倍近い数がいる。油断できる相手ではない。
(武装や食糧事情はどうだろう?)
「樹海を彷徨ったにしては武装状態は悪くありません。死者の装備を剥いで再武装した可能性があります。食糧事情も短期間の事ですのでそこまで悪くないかと。魔物の肉は飲食可能ですし、乗馬の肉も飲食可能な筈です。あれだけの集団です、指揮官さえ優秀ならそのような対処は可能です。」
樹海で贅肉を削ぎ落とされた精鋭集団というわけか。マズいな。負けないにしても、戦うと思わぬ痛手を被る必要がある。しかもガンツ伯が死んだ今、彼らに戦うべき理由は乏しい。なんとかそこに付け込めないだろうか。
「ダルシム副官、使者を送ってくれ、こちらが押さえた敵の負傷兵でいい。捕らえた馬を与えてこう伝えさせるんだ。『ガンツを諦めて立ち去るなら、追撃はしない』と。残りの負傷兵も解放させるし、必要ならこちらで受けて入れ治療も行う。」
使者の志願者を募る。手頃な負傷兵を選んでヒールで回復させる。使者を乗せた馬が敵陣へ消えていく。俺は使者の様子を見守った。
この話が通ればここで今回の私戦は終わる。敵は戦意も食糧も不足しているはずだった。俺が100人率いているだけなら躊躇なく攻撃されていただろう。でも、我が軍の背後にはドラゴンのグローリアが控えている。騎兵を揃えていたし、両翼が連携すると凶悪な威力を発揮する。敵はそれをどの程度の戦力と見積もるのだろうか。全てはそこにかかっている。
全員で敵陣を見つめていると、敵軍はゆっくり後退りした。そして向きを変えると悠々とした足取りで丘を降りていった。
「敵が撤退を選択しました。受入れを約束した負傷者や女性兵士がこちらに向かいます。」
交渉を監視していたイーリスからの報告が入る。少人数の集団が分離し、送り出した使者と共にこちらへ降りてくる。あれは受け入れを表明した負傷兵の集団だろう。それは間違いない撤退だった。敵はガンツを諦めて去ることを選択したのだ。今回の私戦は終わった。
「さあ、ガンツに入城しようか」
歓声を上げる部下を率いて、捕虜を受け入れた俺はガンツへの再入城を果たした。