【二次小説】航宙軍士官、星を統べる (原作:航宙軍士官、冒険者になる)   作:高坂 源五郎

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Ⅱ アロイス・セシリオ戦役 44話 【動乱編】 ルドヴィークの戦い、再び

Ⅱ アロイス・セシリオ戦役 44話 【動乱編】 ルドヴィークの戦い、再び

 

ルドヴィーク侵攻を担当するアロイス軍の指揮官は蜂起の立役者であった軍務大臣のロイス卿である。旧スターヴェイクの軍部、今のアロイス王国直轄軍というべき部隊が主軸になっている。

 

ロイス卿は少なからず焦っていた。アロイス王国がもう終わりである事を彼は熟知している。所詮は、列強に支配される弱小國の側に過ぎないのだから。そしてそれはロイス卿自身がそう仕向けたのだ。

 

ロイス卿が軍務大臣として確固たる地位を築けたのはジノヴァッツと知り合ったからである。彼の献策通りに事を進めると、何事も上手く進んだ。

 

ジノヴァッツは列強の手先である。そう、ロイス卿はそのことを熟知していた。奴の素性を知りながら、率先して国盗りに加担したのだ。

 

ロイス卿はより大きな勢力を志向する。かつてスターヴェイク王国はアロイスをも従える大きな存在だった。だから憧れた。スターヴェイク王国で軍務大臣となり上を目指した。束の間の安心と満足を得られた。

 

だがその先に列強があった。列強の規模に比べればスターヴェイク王国など二流でしか無い。それを知ったロイス卿の心は大きく揺らいだ。自身の勢力は負け組かもしれない、その事実はロイス卿には耐え難かった。そこでなんとか列強に加担する方法を探し、ジノヴァッツと知り合ったのだ。

 

スターヴァイン王家が憎いわけでも、本心からアロイス王国復興を目指したわけでも無い。ただロイス卿は列強の役に立つために、スターヴェイク王国の看板をアロイス王国に掛け替えただけだ。ジノヴァッツに言われるがまま、ロイス卿はアゴスティーニ侯爵ロートリゲンにアロイス国王の地位を譲りさえした。

 

それも所詮は列強に支配される植民地より、列強本国入りを期待したからに過ぎない。ロイス卿は己の才覚なら、列強の本国でものし上がれると信じていた。

 

だから彼は自身の列強入りをより確実とする為、自らの能力を証明する手柄を欲していた。コリント卿を打ち破るのは困難にせよ、麾下の軍勢でコリント卿の部下に痛打を与えるくらいはして見せねばならない。

 

「閣下、遂にルドヴィークを視界に捉えました。」

 

「シケた城だ、変わり映えしないね。」

 

ロイス卿は麾下の軍をルドヴィーク攻めの為に布陣させながら呟いた。ここルドヴィークはかつて敵を破った栄光の地である。あの時のロイス卿と麾下の軍勢は輝いていた。今はダルシムを相手にあの再現をする他ない。

 

「敵の主将は元近衛のダルシムか、大した男では無かったよ。今は将軍を名乗っているそうだが、近衛は軍人とは言い難い。コリント卿陣営もやはり人手不足と言えよう。」

 

ロイス卿とダルシムは面識がある。と言っても近衛を統括するアンデス団長と比べても軍務大臣のロイス卿の方が格上である。ベルタで名を馳せたカリファ伯でもロイス卿は負ける気はしない。コリントの双子の悪魔は厄介だが、部下の兵は問題なく撃破可能だろう。そうでなくては困る。

 

「どのような障害も踏み潰しなさい。」

 

ロイス卿の指示の元、アロイス王国の最精鋭部隊が英気を漲らせてルドヴィークへの進軍し、包囲を開始した。

 

 

 

 

 

アロイス軍の侵攻を前に、ルドヴィークでは主だった将を集めて会議が開催されていた。参列者は指揮官級であり、ダルシムとヴァルターとアダーの3名である。

 

「敵の主将はロイス卿か。」

 

会議を主催するダルシムが呟く。城内の兵は約2万である。人類スターヴェイク帝国軍が約1万5千。ダルシムとヴァルターとアダー率いるコリント卿の直属軍がそれぞれ5,000だ。残り5,000はスターヴェイク諸侯の軍で構成されており、エルナの実家であるノリアン子爵家もここに含まれている。

 

ロイス卿の麾下は公称3万ではある。が、ルドヴィークの戦い以来、その数を増やしてはいないらしい。それなりに損耗を受け、僅かな割合だが離脱者も出た。

 

離脱者の一部はクレリア女王健在を知ってルドヴィークに駆け込んできている。その為、ダルシム達は思いの外正確にロイス卿の軍勢の動向を掴んでいた。実数としては2万7千前後らしい。

 

「我々より多い。総出で来られると厄介だな。」

 

「だがな。離脱者が出たという事は、敵の士気は萎え始めているようだ。」

 

ヴァルターの発言に、ダルシムはそう返した。

 

「アダー、何か策はないか。」

 

ヴァルターがアダーに尋ねる。ヴァルターのアダーに対する無茶振りも良いところだったが、アダーはすっかり慣らされていた。外様の扱いなど、どこもぞんざいな物である。それに最近では『スターヴェイクの武人は策を好まないのだ』と、彼らと付き合う中で次第に理解するようになっていた。

 

「敵は鋭気に満ちています。まずは硬く守り、疲れてきた所で攻勢に出ましょう。」

 

「ふむ、それが定石か。」

 

アダーの言葉にダルシムも頷く。真冬でいつ吹雪いてもおかしくない。この季節に長躯遠征するのは正気と思えない程だ。3万もの兵をルドヴィーク近郊に到達させるのも大変だっただろう。

 

指揮官の才覚に加え、ロイス卿麾下の兵の練度の高さが伺い知れる。今も数千人の兵は暖を取る為だろう、森に入り悠々と木を木を切り倒しているという。田畑は焼かれたが森は健在である。燃料の補給は障害になりそうにない。

 

ただ2万7千と2万なら兵力差は以前より少ない。前回のルドヴィークでの戦いは4万対6千の戦いだった。それと比べればまともに会戦しても勝負になりそうな数ではある。

 

「だがな、我らスターヴェイクの民は怒りに震えている。引いて守っては昂まった士気が萎える。門を開けて迎え打つ、それでどうだ。」

 

ニヤリと笑ってダルシムがそう切り出した時、ヴァルターもアダーも虚をつかれた。城門と城壁で敵を食い止め、城壁から弓矢で攻撃して数を減らすのが定石なのだ。

 

「おいおい、コリント卿の救援を待つべきではないのか。」

 

「ここで敗れれば洒落になりませんが。」

 

ヴァルターとアダーに反対されながらも、ダルシムは主張を曲げなかった。

 

「我らは簡単には負けない。それだけの兵力を与えられているし、士気も高い。そして何より、クレリア女王陛下の為に我らの手でロイス卿は討たねばならない。この戦に参加できずに果てた戦友の為に、我らにその責務があるのだ。」

 

「よく言った!正面から力で敵をねじ伏せる、スターヴェイクの戦いはこうでなくてはな。」

 

ヴァルターが手を打って賛成する。

 

「しかし、そんな。コリント卿でもないのに可能なのですか、それが?」

 

流石に、アダーはダルシムを止める側に回った。

 

「肌感覚だから説明するのが難しいが、そうだな。」

 

ダルシムは言葉を探して話し始めた。

 

「アロイスの兵とスターヴェイクの兵は、実のところさして強さが変わらない。」

 

「それはつまり、数が多い方が勝つのが道理ではないですか。」

 

早速アダーに反論されるが、ダルシムは挫けずに言葉を紡いだ。

 

「スターヴェイクの諸侯がアロイス側につく可能性はもはやない。それならとうにアロイスで高位高官になっているさ。」

 

スターヴェイクの諸侯はアロイスはダメだと見切りをつけてここにいる。それはスターヴェイク諸侯に対する待遇の問題に留まらない。アロイスには撫民という発想がない為だ。それは国土が荒廃し、民が難民となって国内で生きながらえた現状を見れば分かる。

 

焼け出された難民を救済するクレリア女王の救済は、民の心に希望の火を灯しただろう。

 

そもそも王家のアラム聖国への通敵も無ければ、高らかに歌い上げられた国政の改革案も存在しなかった。全てが、ただ国盗りする為だけの方便だったのである。

 

クレリア女王がアラム聖国を無血で従えたなら、まさに真逆の理由でスターヴァイン王家を処刑した事になる。アロイス王国軍の蛮行ぶりを見ても、正義がどちらにあるかはもう明らかだった。

 

「そうは言ってもアロイスの諸侯は、流石にこちらに与しないでしょう。」

 

「だがアロイスの兵が離脱し、我々につく可能性はあるさ。」

 

兵にも心がある。ロイス卿の麾下にいたのは彼が軍務大臣であった為だ。反乱に加担したのは成り行きという場合も多い。王家や民に対する蛮行を見て心を痛める兵も少なからずいた筈である。

 

「それは、そうかも知れませんが、敵兵が内応するのを待つのはどうにも。」

 

「俺が言いたいのは正義と勢いがこちらにある、という事だ。その正義は既にアロイス兵が無視できぬほどに大きい。だから離脱者も出ている。人が抜けていくのは『あの軍にいてはダメだ』という思いがあるからだ。」

 

正しくないと感じる軍に身を置いて、対峙する敵がが正しいと感じてしまえば兵の士気は下がる。積極的に加担せずとも、戦意が下がり消極的ならば人類スターヴェイクの兵が勝る事になる。

 

「アロイスの標榜する正義を信じられない兵は全力を出せるものではないだろう。腰が引けている。だが我らは全力を出す、その上で限界を超えた力を振り絞る。ここが我らの正念場だからだ。」

 

「アレスが、今はスタンピードに見舞われているからですか。」

 

アレスはスタンピードの渦中である。簡単に兵を出してくれる筈もない。

 

「そうだ。だがアレスの事だけではない。ロイス卿こそが我らの宿敵だからだ。」

 

しんと静まり返った。国王が誰になったにせよ、ロイス卿は反乱の首魁でありスターヴァイン王家を処刑した。クレリア女王の許されざる敵である事は紛れもない。

 

「今はセリーナ殿、シャロン殿は大軍を引き付けて奮闘している。だから別働隊のこちらを我らが叩く。直接支援に出向けぬ我らがここで勝てぬようでは先がない。」

 

本来の敵の規模は3万を遥かに超えて10万近いと推定されている。ルドヴィークに回される兵が3万なのは、セリーナとシャロンが王都近郊で頑張っているからだろう。彼女達の存在がなければ、アロイスは全軍を繰り出してきた筈だ。そうなっていたら、コリント卿の陣頭指揮でも無ければ勝ちづらい。

 

「・・・で、具体的にどうするんだ」

 

ヴァルターが問うた。アダーも沈黙して考え込んでいるのを見て、ダルシムは作戦を開陳した。

 

 

 

 

「ルドヴィークの正門が開いたが、敵が押し寄せる気配もないとは奇妙な事だね」 

 

ロイス卿は部下の報告に耳を疑った。

 

「はい。敵の意図をはかりかねます。」

 

「どうも敵が逃げようとしている訳では無さそうだけれど」

 

少数の側が1戦して去るという戦術はある。大軍の方が常に動きは鈍い点を利用するのだ。だが、ルドヴィークの兵もそれなりに多いと聞いていた。1万を超える兵がいるなら、そういう際どいやり方はしない。そもそも、ダルシムの将器では出来ないだろう。

 

「それにその、持ち場を離れた兵が何名かルドヴィーク内に駆け込んだようです。ですが大きな動きはなかったとの事です」

 

「馬鹿だな、何をやっているんだい」

 

ロイス卿は舌打ちして部下を叱責した。実際は離脱者は数百名に上っていた。隊で離脱したり、兵士数名で離脱したりと様々だったが『偵察に行く』と称して接近した隊が門内に吸い込まれたのを皮切りに、近寄った数名がそのまま門内に消えた。

 

アロイス軍も投降者が出たと気付いてからは、陣内から離れて勝手な接近はせぬように戒めているが、血気盛んな若武者が仕掛けに行ったように見えたので制止しなかったのだという。

 

「まあいい、始まってしまえばもう起こらない事さ。ダルシムと共に死にたいなんて兵は、放置していいでしょう。」

 

「では、このまま一気に攻め寄せますか?」

 

「そうしようか。正門が開いているのは好都合、最強部隊で確保すればいい。ダルシムやルドヴィーク辺境伯残党軍の実力など分かっている事、取り乱す必要もないさ。」

 

ロイス卿は内心の焦りも見せずににこやかに笑うと、麾下の最強の武将を呼び出した。

 

「ボネ、先鋒を頼みます。愚か者共に思い知らせてください。」

 

「承りました」

 

ボネは10人力とも称される巨漢である。重い鎧を着用し、戦場における存在感には定評があった。橋頭堡を確保するような任務でこれまで失敗をした事はない。ボネ直属の兵が500、今回はそこに兵を足して先鋒が5,000となるよう差配した。

 

「では、まずは5,000の精兵で様子を見ますか。」

 

「いいえ。スターヴェイクの兵は正面からのごり押ししか知りません。ここは上回る力でねじ伏せる迄ですよ。」

 

ロイス卿は軽やかに開戦を指示した。通常の会戦においては双方が名乗り合う。あれは互いの正義を示しあって兵の士気を高め.外野の支持を得る為のものだ。だが、ここには外野はいない。

 

ロイス卿としては今更、スターヴェイク国王の処刑の件を蒸し返されても面倒である。ここは実力で押し通るのみ。当事者同士が互いにやり合うだけと分かっている。コリント卿ならまだしも、ロイス卿がダルシムに語る事はない。

 

ボネ率いる前衛に、本陣を構成させる他の兵も続かせる。ボネによる前線突破は確実と見込んで、ロイス卿自身も乗り込む想定である。流石に左翼右翼に部隊は展開するが、中央突破で解決する意思だった。

 

「鎧袖一触にせよ!」

 

先鋒の将であるボネの発令と共に、兵隊が正門内に続々と駆け入る。

 

直轄軍の中でも本陣を構成する5,000程の兵はロイス卿の直轄部隊として良い待遇を受けて来た。先鋒と合わせて10,000の精兵である。流石に忠誠心も高く士気は揺るぎない。両翼の将兵も緩みのない戦いをしていた。

 

続々と進軍する前衛に合わせてロイス卿は正門を潜った。ここまでは拍子抜けするほど順調である。

 

「スターヴェイクの兵とは、これほど脆いものですか。」

 

拍子抜けしたと側近に話しかけたその時である。ロイス卿の目前には倒れ込むボネ率いる前衛部隊の姿が映った。

 

門を潜ると光景は一変した。正門から立ち入った広場が血塗られた戦場となっている。歓声も大半が敵の発する声であり、味方は逃げ惑うばかりである。ロイス卿の直属兵は敵と交戦するではなく、逃げる味方を押し戻していた。総崩れする前衛を、後続の兵が押し留めていたのだ。

 

「放て!」

 

敵将の指示の元に槍が飛ぶ。生半可な速度ではない。その槍は数人の兵を差し貫いた後で、最後の一人を金属鎧ごと城壁に縫い止めた。溢れ出る血飛沫から中の兵が即死しているであろう事は疑いようもない。そんな槍が数百本も飛んでくるのだ。ロイス卿は怖気を奮った。

 

「ボネはどうしたのですっ!!」

 

ロイス卿の言葉に側近が力無く指差す。そこには地に槍で縫い付けられた巨漢の姿があった。動いているのだから息はあるようだが、ああなって終えば怪力を誇ろうとも動けないものなのだろう。懸命に蠢く様は、ピンで止められた虫のように見える。

 

「降伏する者は武器を捨ててしゃがめ。命までは取らんつもりだ。両手を見せてこちらに来い。」

 

ダルシムの声が響く。よく見ると壁沿いに味方の兵が移動している。手に武器を持っていないと両手を上に上げて示す様子から見て早くも降伏したのだろう。彼らは小突かれながらもスターヴェイク諸侯の兵の中に埋没していった。

 

「なんなのです、これは。」

 

「閣下、一度後退して立て直しを。」

 

側近がそう進言する間にも後続の兵は門内に入ろうと押し寄せて来た。

 

「下がれ、下がれ。ロイス卿が後退する、皆下がれ。」

 

声を張り上げる側近にようやく後続の兵は停止した。しかし道を開けるまでに至らないのは、意思が後方の兵まで伝達されるのに時間のかかる為だろう。

 

門内にロイス卿が立ち止まり、降伏する兵が逃れさってロイス卿周囲には僅かな隙間が生じた。

 

「皆、何をしている、正門前に集結せよ。」

 

襲撃を警戒してロイス卿周りに兵を呼び集める。

 

「バカな、やめなさい。密集すれば飛槍の餌食となりますよ。」

 

混乱を極める現場はそう言っても無駄である。兵はロイス卿の周囲に結集した。それはロイス卿を守る動きというより、攻撃し続けようとすれば身が危ういという自己防衛反応に近い。アロイス軍の攻勢は完全に停止した。

 

残るのは敵と肉薄して白兵戦を行う事で生き残りを図る最前線の兵と、その背後の死者と負傷者の山である。

 

後続の兵が絶たれて前線の兵が孤立し始めた。今下がれば前衛部隊は完全に見捨てる事になる。しかしながら敵陣は分厚い。またロイス卿が前進すべきなのかという問題もある。ロイス卿は素早く決断を下した。

 

「ここで敵を破ります。前進あるのみ。」

 

予定外の痛手は受けたが、敵はけして格上の強さではない。兵の強さは互角と見た。ならば敵の前線を食い破れば良いだけである。

 

ロイス卿は素早く腹を括った。ロイス卿は自ら剣を抜き放ち陣頭に立つ。白兵戦となれば飛槍は使えないはずである。肉薄した前衛部隊が健闘しているのが良い証左であった。

 

 

 

 

 

「ほう、立て直されたか。」

 

ヴァルターは城壁の上から戦局の推移を見守っていた。門内に引き入れた敵をアダーの隊の飛槍で始末する序盤の戦術は当たった。敵の先鋒を喰い破った。しかしロイス卿は素早く立て直した。流石はかつてスターヴェイク王国の軍務卿だっただけはある。

 

白兵戦になれば飛槍は使えない。一進一退の攻防が続いていた。城壁からの支援も行っているが、元々そこまで城壁に頼った戦いをしている訳ではない。

 

「アロイスを倒すには後衛を脅かすしかない。出来るかな,それが。」

 

ルドヴィーク出身の兵の多いヴァルターの隊は、機を見てアロイス後衛を崩す役割を担っていた。戦局を決定づける役割だが、未だ勝機を掴めずにいる。アロイスの左翼右翼の武将は手強く隙を見せないのだ。用兵に関してはヴァルターと同等か格上に近い。

 

「俺も良い所を見せねばならんが、なかなか好機が掴めんな。」

 

ガッツリとアロイス軍と対峙した形となり、ヴァルターは城壁の防衛の支援に追われた。

 

 

 

 

焦りを抱えるのはダルシムと対峙するロイス卿だった。敵の防衛網を突破しようと、アロイス側は酷い消耗を強いられているのだ。実力も人類スターヴェイク帝国の方がやや有利だった。序盤の先鋒潰しもあるが、魔法剣を装備した手だれが多い。硬い鎧も物ともせず、ロイス卿の計算を乱した。

 

「小賢しいですね、人類スターヴェイクは!」

 

ロイス卿は頼みの綱の重装甲の騎士がなす術もなくやられるのに切歯扼腕した。

 

アランが与えた魔法剣を装備したサテライトのメンバーは大半がこの戦場に結集している。クレリアの近衛隊長代理を務めるケニーの班を除き、今はダルシムとヴァルターの麾下にいた。今回、作戦としてその殆どを正門前に集結させていた。

 

「我らアラン様の元でベルタを統一したのだ。まだまだこんなものではなかったわ。」

 

ハインツ班長が気を吐く。

 

「魔法剣はサテライトの名誉の象徴かと思いましたが、まさかこう使うとは意外でしたな。」

 

ブルーノ副班長が応じた。彼らは本来、エルヴィンがもたらした魔法剣の配布対象ではなかったのだが、クレリア女王戴冠に先立ち直々に魔法剣を贈られていた。

 

サテライトの100名は歴戦の勇士であり、その武勇と装備はアロイス側の追随を許さない。ゆっくりとだが、勝利の天秤は人類スターヴェイク側に傾いていった。

 

日はまだ高い。しかし冬の事、傾けば一瞬である。夜になって戦い続ける事はできない。ルドヴィークを支配する人類スターヴェイク側は問題は少ないが、攻め手のアロイス側は相当不利になる。撤退したらしたらで追撃を受けるだろう。アロイス側は決め手を欠いていた。

 

戦場では稀に場を沈黙が支配する瞬間がある。全力の闘争は案外と長くは続かない。両軍が息をつき、間合いを探り合う瞬間がある。

 

「主将同士の決闘で形をつけようではありませんか。」

 

そんな静かな間を掴んで、ロイス卿の声が響いた。『この戦い、どう始末をつけるのですか』と、ロイス卿はアロイスの左翼と右翼の将からの無言の圧を掛けられていた。それに対するロイス卿なりの解決策の提示である。

 

正門を突破するだけ有利な形に持ち込めてはいるのだ。それでアロイス軍が突破できないなら、そもそも野戦でも勝てないとロイス卿は言いたい。が、指揮官である以上、落とし所を用意するのは彼の役目だった。

 

「私はこの戦の勝敗を賭けて決闘を申し出ます。人類スターヴェイクに戦士たる矜持があるのなら受けてみなさい。」

 

 

 

 

戦闘が停止した。兵達を休ませたい、いや、自分を休ませたいのは皆同じである。

 

「その決闘、受けて立とう。」 

 

決闘を止められなかったアダーが『コリント卿とクレリア女王にどう報告しよう』と頭を抱え込む中、ダルシムが前に進み出た。

 

 

 

 

 

それぞれの陣営の兵が半円を形どって主将の2人を囲む。中央のロイス卿とダルシムは剣を掲げて一礼した。

 

ダルシムは魔法剣を使う。対するロイス卿は見事なミスリルの鎧を身に纏う。装備の優劣は甲乙をつけ難い。そして何合撃ち合っても、2人の技量は伯仲していた。

 

「ダルシム、貴方も強くなりましたね。見違えました。」

 

ダルシムの剣技は驚くほどの上達を見せていた。格下と認識していた相手の剣技の冴えにロイス卿は舌を巻いた。

 

こうして声をかけたのも、このままでは埒があがない為だ。話しかけて息を整えつつも、勝敗がつかない事を理由に勝負を有耶無耶にするのがロイス卿の腹積りである。

 

「これも全てアラン様のお陰よ。」

 

剣を構えて油断しないまま、ダルシムが短く回答する。以前の彼は大技しか知らなかったが、今は細かい動きにも対応するだけでなく、的確な小技で追い討ちをかけてくる。正直、ミスリルの鎧がない剣の腕だけの勝負なら、もうロイス卿は負けているだろう。

 

「それ程の英雄なのですか、コリント卿は。」

 

ロイス卿には後悔がある。スターヴェイク王国を裏切った事などは何のことはない。が、しかし勝ち馬を間違えた後悔はある。この大陸で最も勢いがあるのはアラン・コリント率いる人類スターウェイク帝国に他ならない。

 

ロイス卿は大陸随一の勢力に所属したかった。他の何者にも勝る組織で、高位を得る事。そんな自分の野望が成就したと確信した行為によって、ロイス卿の夢は絶たれていた。

 

スターヴァイン王家の処刑。これが悪手だった。まさか復讐心を抱くクレリア王女をアラン・コリントが救い上げてスターヴェイク王国の復興を志向すると思わなかった。

 

(アラン・コリント、あの男こそ大陸を統一する能力を持った稀代の英雄だというのに、何故私は先に彼に巡り合わなかったのでしょう。)

 

ロイス卿は無能とはほど遠い。武勇も知略も政治も優れた万能の天才である。スターヴェイクの軍務大臣になったのは実力だったし、野心を抱かねばコリント卿の陣営に招かれるだけの資質を備えている。完璧に一歩及ばないだけの男。そのロイス卿の見識は、アラン・コリントが大陸統一を志向すれば成功する可能性が高いと睨んでいた。

 

だが、妻の父母兄を処刑した者にアラン・コリントが容赦する筈ない。聡明なロイス卿はコリント卿が許しても、クレリア女王とその臣下がロイス卿の首を要求すると聞かずとも分かっていた。バールケ侯爵の首はライスター卿に渡されたでは無いか。彼の首もまたバールケ侯爵の再現として復讐成就の象徴となるだろう。

 

なぜ、コリント卿はスターヴェイク王国が崩壊する前に世に現れなかったのか。単なる部下でしか無いダルシムでさえ、これ程の役割と成長を見せている。ロイス卿自身がコリント卿の信任を得たなら、成し遂げられない事などなかっただろう。ロイス卿は夢を実現しようと踏み出した結果、自らそれをブチ壊しにしたという懊悩の中にいた。

 

「アラン様とクレリア様の御代は輝かしい。ロイス卿はアレスを見た事が無いのが残念だな。あれこそ世界の首都となるべき都市だ。」

 

「ほう、樹海なんぞに築いた都市ですか。スタンピードで既に壊滅したと聞きますが。」

 

敵味方大勢の兵が会話を聞いている。少しでも敵の士気を下げる為に、ロイス卿は敢えて話題にした。

 

「我らでさえ最近になって知り得たスタンピード発生の情報を、貴様らがどうして知っている。」

 

ダルシムの眼光がロイス卿を見据える。

 

「はてさて、忘れましたね。」

 

ロイス卿はすっとぼけた。こちらが有利な点を指摘できて大助かりである。この会話も無駄ではなかった。そう考えた時、ダルシムがニヤリと笑った事に気が付かされた。

 

「ならば、最新のアレスの情勢も伝えておこう。アレスは健在よ。アラン様の肝入りの仕掛けで魔物は罠に飛び込み大量に死んでいるそうだ。当分、肉には困らないそうだぞ。ギルドの通信は希少な部位を買い求める大量の買い注文でごった返しておるわ。」

 

「何と、スタンピードを封じ込めたとでもいうのですか。本当なら偉業。ますますコリント卿に興味が湧きましたよ。」

 

「ふふふ、俺ですらこのような大役をアラン様クレリア様に仰せつかった。出世にしか興味のない貴様としては『仕える相手を誤った』と、さぞ悔しい事だろうな。」

 

ダルシムの言葉は正に図星であった。腹を立てたロイス卿は無言でダルシムに斬りかかった。だが、簡単にいなされる。

 

「そのペラペラと動く舌を、頭ごと切り取ってやりましょうか。」

 

ロイス卿が神剣流の構えを取る。こうなったら大技を振るってダルシムを屠るつもりだった。

 

「待っていたよ、その構えを」

 

ダルシムも神剣流の使い手である。だが、神剣流ではコリント流に勝てないと思い知らされていた。特にこの大技はコリント流の良い餌食である。

 

ダルシムの魔法剣が煌めく。軽い接触でも魔法剣の威力かダルシムの力量か、ロイス卿は大きく態勢を崩される。

 

「しまっ・・」

 

後悔の言葉を言い終わる前に、ロイス卿は首をダルシムの魔法剣で刺し貫かれていた。

 

「斬れずとも素早い攻撃で相手の態勢を乱す、これぞコリント流の真骨頂よ。」

 

ダルシムはそういうと、剣を引く。鮮血がロイス卿の首元から溢れ出した。既にロイス卿は致命傷を負った。通常、これ以上の追い打ちはしないが、この男はスターヴァイン王家の仇敵だった。

 

「あの世で両陛下、そしてアルフ王子によくよく詫びるのだな。」

 

そう言い終えると同時に、ダルシムの斬撃がロイス卿の首を切断し、その頭を宙に飛ばした。

 

 

 

 

 

「見事なものでしたな。」

 

ヴァルターは決闘の開催を受けて、城壁を降りてアロイス軍の左右両翼の将と会談していた。

 

「ホフマン殿、フォーゲル殿、我らの主将のダルシムがロイス卿に勝利した。では約束を守って頂こうか。この戦、我々の勝利だ。」

 

「確かに。これ以上の手向かいは無用と考える。我らは降伏いたそう。」

 

「我らの麾下の兵は降伏させる。ロイス卿の兵はどうなるか、おそらく直々の約束を本陣の兵達も聞いていた筈だ。我らに従うと思うが。」

 

ホフマンの降伏の言に賛同しつつ、フォーゲルは本陣や後衛の兵に言及した。

 

「承知した。武装解除すれば貴殿と部下達の降伏を受け入れよう。反乱の首魁のロイス卿は討ち取ったのだ、女王様も嫌とは言わん筈だ。」

 

ヴァルターに降伏が受け入れられた事に、アロイス側がホッと安堵した空気が流れる。この後、追い討ちを警戒しながら冬の陣所に駆け戻り、減った兵で戦い抜く器量も意思も両将には無かったのだ。

 

「では、我らの剣を受け取ってくれい。」

 

鞘ごと差し出される2人の剣を、ヴァルターは無造作に両手で受け取って、そのまま上に掲げた。見守っていた人類スターヴェイクの兵が歓声を上げる。右翼や左翼を構成していたアロイスの軍兵は項垂れながらも、命長らえる事に感謝する様子だった。

 

アロイス本陣でも説得に応じた兵は続々と武器を投げ捨てる。第二次ルドヴィークの戦いは、こうして人類スターヴェイク帝国の勝利で終わった。

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