【二次小説】航宙軍士官、星を統べる (原作:航宙軍士官、冒険者になる)   作:高坂 源五郎

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Ⅱ アロイス・セシリオ戦役 47話 【遺跡探索編】 夜間飛行

Ⅱ アロイス・セシリオ戦役 47話 【遺跡探索編】 夜間飛行

 

アレスでスタンピードが発生してから、初めて日が沈んだ。夜に入ると太陽嵐の影響が和らいだのだろうか。近隣に配備されていたドローンが一斉に息を吹き返した。それだけではない、『ピリピリする』と言っていた症状が緩和されたのだろう。グローリアの意識も回復した。

 

(族長、お腹空きましたー)

 

(グローリアは何ともないのか?)

 

(そうですね。スタンピードの間は昼に意識がなく、夜に活動するのはいつも通りですよ?)

 

スタンピードで、ドラゴンが一種の興奮冗談になるのは間違いないらしい。ドラゴンやワイバーンなどの空を飛ぶ魔物の場合、意識が戻るととんでもない所に行っていた、なんて事もあるのだという。

 

そのような気分の波はかつてはドラゴンが生息域を広げるのに一役買っていた事もあるようだ。しかしそれは遠い昔の事。基本的にはスタンピードの荒れ狂う昼は寝て過ごす、それが今の時代のドラゴンやワイバーンの一般的な過ごし方のようだ。

 

幸い魔物の肉に不足はない。グローリアが運び込まれた肉を堪能している間に、俺はイーリスと手早く意見交換を行なった。

 

(ナノムは体調を維持しようとする。だから、グローリアの覚醒状態を無理に維持してしまったのかもしれないな。)

 

(はい。ナノムは人用に調整されていますから、ナノムの注入で苦しみが持続した可能性はありますね。)

 

(確かにスタンピードで、ドラゴンに人が襲われるとも聞かなかった。)

 

ドラゴンはこれまでスタンピードに適応して生きてきたのだ。スタンピード発生でも、ドラゴンが人に迷惑をかける事がないのならそれで問題ないのだろう。

 

(グローリアの経験則からも日没で解消するのなら、太陽嵐が原因と考えて良さそうですね。)

 

イーリスがベルタで買い込んで取り込んだ書籍の中には、太陽の観察記録が混じっていたらしい。冒険者ギルドが提出した過去のスタンピードの記録と照合すると、やはり一定の相関関係が認められた。

 

(太陽嵐が魔石の活動に影響を与えている可能性もあります。ですが、この点はまだ資料が限られており、更なる研究が必要ですね。これまで魔石はエネルギー源としか考えていませんでしたが・・・)

 

(魔物の体内で産生されるものだから、独特のプロセスがあるのだろうな。グローリアのプロセスはナノムが記録している筈だ。何か変化があれば掴めるんじゃないか。)

 

魔石は魔物の体内で生涯をかけて育てると、グローリアも言っていた。生成プロセスの詳細が分かるとしても先の話だろう。

 

(ところで、呼びかけに応じた近隣のドローンは全て帰還させているんだろう?)

 

(ええ、太陽嵐が激化した時に備えてソフトウェア面だけでも対策を施さなければいけませんから。)

 

ドローンの機能回復は大きな前進だった。しかし遠隔運用ができず、日中の運用は危うい。

 

(こうなると、本当にミスリルで太陽嵐の対策できるかが気になるな。)

 

夜間だけでもドローンが使える見通しが立ったのはありがたいが、遠隔で使う事はできないし太陽嵐の影響を遮断する必要がある。やはり昼夜問わずに使えるよう対策をしないと成り立たないだろう。

 

(ドローンのシールド対策はパルスライフル以下だなんて、軍用品としては対策が甘いんじゃないか?)

 

自立兵器なのに、装備品のパルスライフルに比べてドローンのシールド性能が低いのは気に入らない。だが、イーリスに言わせれば軍用銃と比較して構造的に複雑なのは当然らしい。

 

(それだけ自立式の兵器は複雑な工程を処理しているのです。それにこのような場合、特注品を用います。汎用品はどうしても整備性や生産性が優先されます。)

 

(確かに高コストになって配備数が減れば、それは本末転倒か。)

 

(ええ。このモデルは本艦の就航に合わせて配備された最新モデルです。旧型であれば惑星突入成功をこれほどの数の機体が成し遂げられなかったでしょう。今回も太陽嵐の影響で活動を急停止したのに、復旧した各機体に顕著な不具合は発生していません。)

 

難破した今では見る影もないが、《イーリス・コンラート》は最新鋭の戦艦だった。装備面も恵まれていたのだろう。バグスとの戦争中にあっても、本国の工廠はよく品質を保っている。

 

(これは帝国新教会に感謝すべきなんだろうな。)

 

(そうですね。少なくとも私のモデルは、帝国新教会の意向が強く働いて現行の形で実装されています。)

 

(そうだったな。もし再び人類銀河帝国に復帰できる日が来たら、帝国新教会には一度礼を言いたいところだ。)

 

俺の方も陽のある内に宿題を果たした。ミスリル板の調達だ。数を調達するとなると苦労があったが、意外な所に大量の在庫を抱えていた。

 

(紋章用のミスリル板という形態ならアレスにも大量の在庫があるようだ。ベルタ公爵アマドからの献上品だ。『あちらに置いてあってももう使わないから』ということらしい。実際には買取としたようだが、これで上手くドローンの主要部をシールド出来ないだろうか?)

 

(どうでしょうね。機体重量が増すのは避けたいのですが。)

 

(ミスリルは軽いし、セリーナやシャロンを乗せて運べる位の余力があるんだ、大丈夫じゃないかな。)

 

イーリスの反応は肯定的だったので、復旧したドローンに対策を施す事にする。ドローンの存在を明るみに出すわけにはいかないので、作業は俺が徹夜で行う他なかった。

 

そんな複雑な作業ではない。土魔法による型から固定具を作成し、ドローンに装着するだけだ。イーリスのデザインから起こした型に、溶鉱炉で金属を流し込んで貰った。

 

溶鉱炉は24時間稼働しているし、あそこの職人は俺の風変わりな依頼に慣れている。完成したミスリル遮蔽板はなかなかの出来だった。ドローン用に加えて、グローリアの装備用も用意した。

 

「本当に効果あるのでしょうか?」

 

イーリスはやや懐疑的だった。俺は見切り発車を承知しつつも、とにかく前倒しで数を揃える事にこだわった。ドローンは重要な戦力である。いつ必要となるか分からない。みこみがあるなら、そなえて損はないはずだ。

 

ドローンはその性質的に、軌道上からの誘導がないと単独運用は厳しい。しかしドローンによる支援の有無は他国との戦争でも重要な差別化ポイントなるだろう。

 

 

 

 

 

爽やかな夜明けを迎えた。ドローンは特に不平不満を言わずに新装備を受け入れた。本来、ドローンは太陽光で充電する。それを遮断するのは兵器としての完全性に影響するらしい。が、それはそれとして日が昇っても、ドローンの活動に影響はなかった。

 

(太陽嵐に起因する異常を感知した時に、紋章を太陽の方向ににつけるようプログラム完了しています。ドローンの上部はミスリルで覆われたのです。特に昼は天地をひっくり返さぬよう徹底させます。)

 

今回の加工でドローンの透明化には支障が出るようだ。本体は透明になれるのだが後付けのミスリルの板までは透明にできないのだ。

 

(下から見る限りは透明化は維持されます。高度を下げなければ大丈夫でしょう。)

 

今回は急場凌ぎだからこれで行く。いずれドローンの内部に組み込んで中核部品だけ保護するミスリルのシールド材を完成させなければならないだろうな。

 

(成功だな。やはりミスリルで防げば、日中も安定運用出来そうだ。セリーナとシャロンの所までこのまま飛ばせないか?)

 

俺はイーリスに尋ねた。

 

(太陽光パネルで発電しながらでないと航続距離に不安があります。今の形では、人が取り外しをしないと太陽光パネルの展開は難しいでしょう。それに通信は未だ不通です。こちらが誘導できないと、途中で迷子になる可能性が高いでしょう。)

 

(やはりその点は、商業ギルドの通信機の方が優秀なのか。)

 

(あの通信方式については、いずれ構造を解析しましょう。あれは我々の通信に組み込むべきなのかもしれませんね。)

 

(通信の秘匿さえ担保出来るなら是非そうしたいな。君のリソースをその為の開発に割くのは難しいか?)

 

イーリスは深くため息をついた。

 

(現状を鑑みれば必要性は理解できます。暗号化さえ施しておけば運用面での支障はない筈です。ギルドの使用する帯域とは別に軍用の帯域を指定すれば、不可能ではないでしょう。)

 

ドローンの復旧は我々を大いに勇気づけた。ただ、グローリアはメディカルスキャナーで特定した魔石の周囲にミスリル板を取り付けても眠ったままだった。この為、俺は少し仮眠を取る事にする。

 

(太陽嵐の数値は現時点で昨日と同水準です。今日は昨日をやや上回る規模と予測します。しかしグローリアのナノムを見る限り、体内の数値は改善しています。このままグローリアが目を覚ませば、問題なしと見做して良いでしょう。)

 

(了解した。俺は少し仮眠を取らせてもらう。)

 

スタンピード発生から長い1日だった。部屋に戻ると冷え切ったベッドに潜り込んだ。床で寝るのが当たり前の宙兵隊の生活に慣れると、柔らかいベッドというだけで安眠できる。

 

身体が人肌の温もりを求めているような気もした。抑圧されていても、微かな身体の渇きを感じる気がする。或いはこれは身体ではなく心の問題なのだろうか。人の体温に温められる経験をした後に、冬場の独り寝るは淋しく感じる。

 

アロイス王国を相手にした戦争を終えれば、リアと結婚式をあげる予定だ。そうなればもう一人で眠る事もなくなるのだろうか。こんな日を懐かしく思う日が来るのかもしれない。懊悩してしまうと寝付けないかと思ったが、睡眠の不足している身体はシーツが温まりだすと一瞬で夢のない深い眠りに導いてくれた。

 

 

 

 

 

(起床時間です)

 

ナノムの通知にビクッとする。確認すると1時間ほど仮眠を取れたようだ。やれやれ、寝不足を訴えたい所だが、セリーナやシャロンは最前線で戦ってくれている。エルナにもオルト村からセシリオ経由でアロイス方面に進むよう指示を出した。皆が大変なのだから、こちらも文句を言ってはいけないだろう。こちらはこちらで解決しないといけない問題点がまだ山積みだ。

 

イーリスに確認した所、やはりグローリアは問題ないようだ。やれやれ、ようやくこれで次の段階に進めるな。

 

アレスに対するスタンピードの被害発生は食い止められた。しかしながらアレスが樹海の中に位置する以上、魔物の群れに囲まれている現状は兵糧攻めにあっているようなものだ。

 

尤も魔物の肉が労せずして入手出来ている。なので、厳密には兵糧攻めとは意味合いは少し異なる。まぁ、『人は魔物の肉だけを食べて生きていける訳ではない』だ。以前サイラスさんに言われた言葉だが、これではきっと栄養バランスが偏ってしまうだろう。

 

 

 

 

 

朝食を終えたら士官候補生達を送り出す。彼女達は昨夜で基礎魔法の習得は終えたと報告を受けていた。上昇中もイーリスによる講習は続けられる。一度軌道上の《イーリス・コンラート》にドッキングして装備を整え、降下を開始する事になる。

 

「士官としての訓練半ばで戦場に送り出すのは申し訳ない。だが君達なら問題なくセリーナとシャロンの両コリント中尉を救援できるはずだ。」

 

セリーナとシャロンの支援は彼女達に任せよう。本人達は不在ながら、セリーナとシャロンは中尉に昇進させた。候補生を通じて2人に伝わる手筈になっている。

 

「はい、支援は私達にお任せください。」

 

候補生を代表してユーミが敬礼して応える。ミッション達成の成功報酬はもう彼女達からヒアリングし確約してある。

 

報酬はユーミは宙兵隊の拡充とその指揮官の地位。カーヤは貴族としての地位と邸宅。ユッタは航空戦力の拡充とパイロットの職。マリーは科学的知識を探究出来る技術担当としての地位と専用の作業場か。個人への現物支給に近いのはカーヤだけか。残りの姉妹はキャリア形成に願いを使うらしい。おっとルートは変わっているな。『兄の軍籍離脱と相応しい職の世話』か。何だか色々とイーリスの関与が疑われるな。まぁ、彼女達の志望を無難な所に着地させてくれたのだろう。

 

習得を指示した幾つかの魔法は、未習得がそれなりに出た。それでもヒールの習得に全員が成功したのは喜ばしい。やはりセリーナやシャロンのヒール習得に用意したプログラムが功を奏したな。パルスライフルとヒールの組み合わせは強力だ。これならまず不安はない。

 

イーリスの義体と2人で敬礼して見送った。可能な限りの装備と魔石は持たせて、魔石からの魔力注入も可能にしてある。対峙する敵の数も対応範囲内だった筈だ。今回の増援は念の為だし、全権委任状を持たせた。きっとうまくやってくれるだろう。

 

 

 

 

午前に開催したスタンピード対策会議はだいぶ和やかな空気で始まった。報告の内容も魔物の食肉化の進捗と獲得した素材の配分の話に終始する。都市の防御機能が動作していると判明して皆安心している。この為、『いつスタンピードが終息するか』に話の焦点が絞られた。魔物の素材は樹海から産出される商品である以上、売り捌くにしても潮時があるのだろう。出荷停止による品不足は相場の上昇と市場の期待に繋がる。だが過度に出荷が滞れば、市場の熱気が冷めていき、今度は買い叩かれる弊害はあるのは理解できる。

 

「これまでの実績では、スタンピードはどれくらい続くのですか?」

 

商業ギルド長のタラスさんが冒険者ギルド長のケヴィンさんに尋ねる。

 

「短くとも1週間は続きます。最長ですと1ヶ月は続くかと。」

 

皆一斉にこちらを見た。アレス建造の土地選定の責任は俺にある。都市の安全性という課題を達成したのは皆分かっているが、それはそれとして1ヶ月も首都封鎖では人類スターヴェイク帝国が立ち行かなくなると心配しているのだ。

 

一度だけの事ならば良いが、今後もこれが状態化するのはも困る。1日目にしてもう既に『ガンツに遷都すべきでは?』などという意見も出始めているのだから。これがまだ2日目だから良いが、1週間経過しても見通しも立たないでは不安になるだろう。

 

「冒険者ギルドからの報告で、魔物の発生する方角が突き止められたと思う。地面から魔物が湧き出す場所だ。そこを調査すれば何か分かるかもしれないな。」

 

「危険すぎます。流石に冒険者を派遣するのは、ギルド長として反対させていただきます。」

 

ケヴィンさんはキッパリ断って来た。組織の長としては評価できる。もう少し冒険して欲しい気はするが、俺はゴリ押しする気はなかった。

 

「そうだな。ここは俺が調査に出向こう。」

 

「なんとアラン様直々にですか。大丈夫なのですか?」

 

ロベルトが心配そうな顔をする。

 

「大丈夫だよ、ロベルト。グローリアも連れて行くつもりだから。ただ、グローリアによるとスタンピードの影響は日中に高まるらしい。安全の為に夜に行く方が良いらしいから、仮眠をとって今夜発つつもりだ。」

 

今朝は仮眠をとったとはいえ、候補生達の見送りもあったしまだ睡眠は不足してある。仮眠をとってから夜間に樹海に向かうのは良い案と思えた。

 

俺が『グローリアを連れて行く』と述べた言葉に反応したのはリアだった。俺を見て「大丈夫なの?」と言葉を発せずに口を動かす。

 

会議の参加者の中では、リアだけは『グローリアがスタンピードの影響を受けた』と知っていた。心配していたのだろう。

 

俺は力強く頷いて見せた。グローリアだけでなく、ドローンの準備も完了している。二段構えの構成なら、樹海の奥地に踏み込んでも、まず問題がない。

 

「それなら私も行くわ」

 

高らかにリアが宣言した。その言葉に、ロベルトは文字通りひっくり返った。

 

「殿下、いえ陛下。樹海の奥底は危のうございます。しかも真冬の夜に行かれるなど。」

 

「アレスだって魔物の群れに囲まれているわ。それにアランにグローリアまでいる。地上最強の2人に守って貰えるはずよ。毛皮を着込んで暖かくしておけば、問題ないのではないかしら。」

 

「それは、そうかもしれませぬが。」

 

ロベルトはチラチラと俺を見ている。俺から止めてほしいのだろう。

 

俺はリアの気持ちも何となく分かる。建国以来、リアと俺が2人でどこかに出かける機会が激減している。

 

祖国解放の為の戦争中だからやむを得ないという事情もあるが、アレスが魔物に囲まれた今はある意味全ての責任を解き放たれたようなところがある。形ある貢献を俺と共に為しておきたい、そんなリアの気持ちも伝わってくる気がした。

 

「こう見えてイーリスは技術の専門家だ。だからイーリスも連れて行くつもりだ。リアが同行しても、まず大丈夫じゃないかな。」

 

「なら決まりね。私はイーリスと違って剣も魔法も使える。それに何となく今回は私が行く方が良いと思うの。そういう予感がするわ。」

 

俺もロベルトの説得に回った。

 

「大丈夫だ。グローリアと空を飛んでいくし、俺もついている。何か見つけても、あまり深入りするつもりもない。」

 

「アラン様が離れられる瞬間もあるやもしれません。そういう事なら、ぜひ近衛もお連れください。」

 

相談の結果、グローリアと共に移動する6人の顔ぶれが決まった。俺とリア、ケニーとカロット、イーリスとテオである。

 

冒険者ギルド長のケヴィンさんも同行を希望したが却下した。何か見つけた場合、国家の命運を左右する秘密が含まれている可能性は大いにあり得る。彼は別に遺跡の専門家というわけではないのだろうし、機密性が高い何かが発見された場合は冒険者ギルドにも秘密にしたい。

 

テオの同行を主張したのはイーリスだった。遺跡の様子は後世に残すべき、というのである。

 

(イーリスの義体にも録画機能は搭載されているんじゃないか?)

 

(記録の手段は多い方が良いでしょう。こちらの電子機器が不調になった際、原始的なフィルム撮影の方が正確に実態を記録できる可能性があります。)

 

リアもテオもグローリアから降りないという条件で、会議のメンバーが同意した。撮影した内容については検閲するというか、非公開を原則とするべきだろうな。

 

いずれにせよ単体でグローリアに勝てる存在など、そうは存在しないだろう。もう一体ドラゴンを連れてこないと話にならない。スタンピードが発生している渦中とはいえ、俺達の行き先にドラゴンがいる可能性はさして高くないと踏んでいた。

 

 

 

 

だが、出発前にちょっとした問題が生じた。アラム聖国からの特使であるグライム卿が強硬に同行を希望したのだ。

 

「私もクレリア女王陛下の護衛役として同行させてください。」

 

どうもクレリアの翻心を促そうとロベルトがグライム卿に相談したところ、藪蛇だったという事らしい。グライム卿は武芸の腕は立つし、なんと言ってもミスリルの鎧で身を固めている。この先に何が待っているか分からないが、ミスリルの鎧を着用しているのがリアだけというのは俺も気になっていた。

 

具体的な予定はないが、ミスリルの鎧を着用した男手があると役に立つかもしれない。それにアラム聖国のアロイス方面への派兵の為に彼は尽力してくれた。その代表の願いを無碍にはできないだろう。

 

「リア、どうしようか?」

 

出発の間際であまり時間をかけたくない。ここはリアに決めてもらおう。それが和を乱さないだろう。

 

「それではケニーの代わりにグライム卿に同行させよう。ケニーの班は丸ごと残して休息に充てられる。」

 

「陛下、お言葉ですが私は休息などせずとも大丈夫ですが。」

 

慌てたようにケニーが口を挟む。

 

「慣れない近衛隊長代行で苦労をかけている。アロイス方面に出向く際には、そち達が頼りだ。今はその準備を整えてほしい。」

 

「・・・承知いたしました。」

 

デリケートな問題だが、リアがうまく捌いてくれた。これで顔ぶれが固まったな。

 

「では皆、樹海の奥底に乗り込むぞ。」

 

同行できずガッカリ顔のケニーを尻目に、俺たち6人はグローリア共に樹海へと飛び立った。

 

 

 

 

 

 

闇夜をグローリアと共に飛翔する。イーリスは今回の作戦行動で策を練っていた。有線の通信ケーブルである。カーボンナノチューブは強靭だ。飛翔するドローンに搭載してこれを繰り出して行く。こうすればドローンやイーリスの義体の信号が途切れる心配はない。

 

(夜間は比較的通信も安定するだろう。そこまでする必要があるだろうか?)

 

(確かにこの義体はスタンドアローンでも動作するように改良を加えました。しかしドローンを活用する演算力はこの義体では不足します。そして仮に遺跡が存在した場合、有線で内部に侵入する方が確実ですし、解析速度に大きな差が出ます。)

 

(分かった。なら、そうしよう。)

 

今回はリアもいるし、完全なる非戦闘員のテオも連れて行く。ドローンを活用しないで済めば良いが、完全武装で臨むべきというイーリスの主張は否定できないな。

 

 

 

 

問題の場所は夜だからだろうか。魔物がいた痕跡が感じられない。しかしドローンによる観測は精密である。昼に魔物で溢れていた場所なのは間違いなかった。

 

グローリアと共に降り立ってみたものの、周囲は静かだった。スタンピードの影響で魔物が増えているとはいえ、昼間と異なり魔物達も狂乱状態ではない。

 

ナノムのセンサーには周囲に多数の反応がある。しかしこちらの様子を伺いながらも仕掛けてこないのは、グローリアの存在があるからだろう。やはり夜の魔物は冷静なのだ。ドラゴンを相手に、自ら勝てない勝負を仕掛ける事はないらしい。

 

「皆は、グローリアと共にいてくれ。場所を探してくる。」

 

俺は素早く地面に降り立った。目立つ木にライトの魔法をかける。周囲が照らし出された。グライム卿もグローリアから降りて俺の隣にいる。手筈と違うがやる気の表れなのだろう。まぁ、彼はミスリルの鎧を着用している。魔物が仕掛けてこない限りそうそう危険はないだろう。

 

「何もないし、魔物もいないわね。この時間は眠っているのかしら?」

 

「いや、辺りに気配はある。グローリアを警戒しているからだと思う。リアは、くれぐれもグローリアから離れないでくれ。」

 

周囲には姿を消したドローンが多数遊弋している。通信用のケーブルを引っ張ってきたとはいえ、グローリアより飛翔速度も速い。仮設のミスリルの紋章板を追加した箇所も、下からは見えない事もあり全く気にならなかった。

 

茂みの中を注意深く捜索する。すぐにトンネルの入り口を塞いでいそうな扉を見つけた。これがトンネルの口径なのだとしたら大きい。グローリアでも楽に入れるだろう。

 

「ここまで大きいものは初めてみましたが、やはりこれが遺跡の入り口のようですな。」

 

傍らのグライム卿が口を出す。彼はアラム聖国内で遺跡を探索した事があるらしい。経験者の存在は実に心強い。イーリスが色々と話を聞いていたが、どうもアラム聖国遺跡は主要な品は全て運び出されて空の遺跡のようだ。それでも一般的な遺跡の立体構造の情報が得られたのは大きい。

 

「遺跡は大抵は4方向に入り口を設けてあります。東西が大きく、南北の入り口が小さい。これは大きさも包囲的にも西向きの入り口でしょう。」

 

西向きの入り口なら日が出ても影響が出るのはかなり遅くなると期待できる。ここを探索するのが良さそうだ。しかし、扉は全く開く気配がないな。

 

「遺跡は通常、資格のある人間にしか開く事が出来ません。この辺りに紋章があり、紋章に有資格者が触れると開く事が出来るはずです。」

 

なるほど。グライム卿と俺が代わる代わる触れてもまるで反応がなかった。

 

「イーリス、降りてきてくれないか。」

 

やはりイーリスでもダメだったようだ。イーリスが触れば、何か内部構造を察知出来ないかと期待したが、そういうものでもないらしい。どうにか開く方法はないものか。

 

「ここに触ればいいのかしら?」

 

リアがグローリアから滑り降り、俺の横に降り立った。

 

「陛下、危のうございます。」

 

下に降りて周囲を警戒していたカロットが慌ててリアの背後を守っている。

 

「大丈夫、グローリアから離れてはいないわ。そうでしょう?」

 

言いながら近づいて来たリアが扉の紋章に触れると、紋章が光を放った。ゴゴゴゴコ、扉が地響きを上げて開き始める。ナノムのセンサーが反応した。

 

「リア、すぐにグローリアの上に戻るんだ。」

 

警戒するグローリアが咆哮を上げる。開いた扉から溢れ出した先頭の魔物を俺の魔法剣が両断した。グレイハウンドだ。扉の隙間からグローリアが火球を放つ。扉の先のトンネル内で着弾した爆裂魔法は充満していた魔物を吹き飛ばした。しかし、溢れ出る魔物はまだまだそんな数ではない。このままでは、魔物の群れに呑まれる。

 

「グライム卿、カロット、リアに魔物を近づけるな!」

 

「承知した!」

 

俺の横でグライム卿が剣を振るう。カロットは無言でリアの背後を固めた。グローリアもいる。リアも剣も魔法も使える。リアにすぐに危険が及ぶ事はないだろう。

 

「アラン、気をつけて。」

 

俺に向かってきたオークをリアのフレイムアローが撃ち落とす。凄い数だ。

 

「ごめんなさい、こんな事になるなんて。」

 

「リアのせいじゃないさ。」

 

考えてみれば簡単な話だ、扉の中には外に出ようと魔物が待機していたのだ。扉を開けば溢れ出る。扉の先の様子など、魔物は知る由もない。ドラゴンがいようが外に出ようとする後続に追われて殺到しているのだ。

 

「皆、少し時間を稼いでくれ。ここは大技を使う。」

 

「了解!」

 

俺の声にリアが反応する。爆裂魔法は有効だろうが、トンネルの端まではきっと届かない。ドローンの攻撃は撃ち漏らした敵の撃退に有用だが、トンネル内に侵入してないからトンネル内を蹂躙するのには足りない。

 

パルスライフルを乱射すれば切り抜けられるだろうか?どうだろう。やはり、パルスライフルの貫通力には限界がある。俺には何かトンネルの奥底まで届く強烈な火力が必要だった。

 

元々、以前から新しい魔法が必要と考えていた。フレイムアローに対するファイアボールのような、より魔力を込めて導き出される高火力の一撃。

 

基軸となる魔法はライトアロー。強化するのはそう、何物にも遮られない貫通力だろう。グレネードのように爆発するファイアボールと異なり、破壊力を一点に収束する。魔法のイメージが湧いた。ナノムに指示を出して魔力を込める。この一撃ならば、どうだ。

 

「《ライトニング・キャノン》っ!」

 

俺が前に翳した手から光の柱が放出される。何本ものライトアローを収束した、圧倒的なビームの束がトンネル内を駆け抜ける。ビームの束は文字通り魔物を薙ぎ払った。闇夜を閃光が覆った。魔物の絶命する音が反響する。そして、静寂が訪れた。

 

俺は魔石を取り出した。次の敵に備えて魔力を回復しなければならない。魔力を吸い終えた魔石を地面に放り出して初めて、皆が俺に注目している事に気がついた。グローリアさえ、畏怖の籠った目で俺をみている。

 

「アラン様、凄い。」

 

テオが歓声を上げた。流石に今のシーンはテオも撮影していなかったようだ。暗かったし突然の戦闘でもあった。フィルムで撮影するのは限界があっただろうな。

 

「アラン、今の魔法は何なの?」

 

リアがやけに静かな口調で尋ねた。リアもカロットも今の魔法に驚いているようだ。

 

「俺がライトアローを使えるのは知っているだろう。この状況を何とかしなくてはならないと考えたから、思い切り威力を強化したライトアローを放ってみたんだ。」

 

「なんと、そのような魔法があるとは。この目で見なければ信じられいない所です。」

 

グライム卿が感嘆の声を漏らす。

 

「いやはや、コリント卿が爆裂魔法を再開発した魔法の天才と聞いておりましたが。まさかこれほどの実力をお持ちとは驚きました。」

 

グライム卿は魔物の血で汚れた剣を拭うと鞘に収めた。その剣は魔法の輝きを帯びていた。彼はミスリルの鎧だけでなく、魔法剣を所持しているのだろう。

 

「今の魔法でトンネル内の魔物を駆逐できたのかもしれませんね。静かになりました。」

 

トンネル内を覗き込み、冷静に観察していたイーリスの言葉に、皆も我に返ったようだ。ようやく落ち着いた様子で、被害の確認に入る。突然のことで慌てたが、怪我をした仲間はいないようだ。魔物の襲撃を受けたのがミスリル鎧で身を固めていたのが無関係ではないたろう。

 

「深入りはしない約束だったが、せっかくだし少しこの先を覗いて帰らないか?」

 

被害の軽さに勢いづいた俺の言葉に、リアが頷いて同意する。

 

「そうね。ここまで見事に魔物を殲滅できたのなら中がどうなっているか見てみたいわ。皆への土産話にするにしても、このままだと収まりが悪いもの。」




1話として書き上げた物が分量的に分割となった関係で、明日も更新となります。
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