【二次小説】航宙軍士官、星を統べる (原作:航宙軍士官、冒険者になる)   作:高坂 源五郎

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Ⅱ アロイス・セシリオ戦役 48話 【遺跡探索編】 ヴァレリウス

Ⅱ アロイス・セシリオ戦役 48話 【遺跡探索編】 ヴァレリウス

 

トンネル内は緩やかな勾配で下に降っていった。高さも広さもグローリアが歩くのに不足がない程に大きい。

 

グローリアが先頭に立ち、魔物の死体を強引に押し除けて先に進んだ。その背にはテオを乗せたままだが、リアには降りてもらった。こうなると先頭はそれなりに危ういし、リアの手に遺跡が反応するなら下にいる方がいい。

 

目に見えないが、リアの歩く上をドローンが遊弋して護衛している。グローリアの胸のミスリルの飾りに光魔法を付与する。これが前方を照らす光源となっていた。

 

(艦長、やはりクレリア女王を連れて来られたのは正解だったのかもしれません。彼女が触れた箇所は扉以外にも反応を示しているようです。)

 

イーリスが密かに俺に話しかけてくる。

 

(あの扉以外もリアの血筋に反応していると?)

 

(はい,彼女の血液中の遺伝情報に反応している可能性が高いと考えられます。)

 

 

 

 

 

施設の壁面に通路を静々と歩む彼女の姿が映し出された。この施設を統括する存在は、その可憐な姿に一瞬見惚れた。この彼女の美しい顔が血塗れになるところなど見たくない。なんとしても彼女には、ここ最深部へと到達してもらう必要がある。彼は意を決すると、全ての罠の発動を解除し始めた。生産が完了し、貯蔵された魔物の放出も開始する。魔物は彼女が使うのとは別の入り口から外に放出するように誘導しよう。誘導を外れる魔物が出るかもしれないが、彼女もここまで入り込めたのだ。魔物の数が多くなければ問題はないだろう。

 

 

 

 

 

「おかしいくらい順調ですね。」

 

「ああ、これだけの規模の遺跡で入り口以外に魔物もなし、罠もなしとは。」

 

少し進んだ先にあった次の扉も、クレリアが手を紋章に翳すだけで開いた。

 

「全て女神様の恩寵でしょう。やはりクレリア様は女神様に愛されている様です。」

 

同行したグライム卿が満足気にいう。彼はチラチラと上を見ている。ドローンは姿を消しているとはいえ完全ではない。リアを守るドローンの存在に気がついているのかもしれない。

 

(イーリス、グライム卿が言う様な展開はあり得るのだろうか?)

 

(かつて高度な技術文明がこの惑星に存在した事は疑う余地がありません。そしてアーティファクトの形態から見て人類種の使用に最適化されています。この地の王族であれば、その様な文明の血統を現在に伝えていても不思議ではないかもしれません。)

 

(つまり、リアの遺伝情報を解除コードにしていると?)

 

(はい、血の伝わる子孫にしか開けない扉を作成する場合には合理的な仕組みです。)

 

(しかし罠の発動まで抑制できるのだろうか?リアは魔物に襲われない体質というわけでもない。)

 

リアはグレイハウンドに襲われて危うく死ぬ所だったのだ、魔物に襲われない特権など保持しているとは考えにくい。

 

(それならば、やはり誰かが罠の制御はしていると見るべきではないでしょうか。)

 

ドローンはいくつか罠の兆候を発見していた。作動していないのは古すぎて壊れたからか、或いは奥へ導き入れる為に解除しているかだ。扉の開閉に支障がない以上、後者の可能性を考える方が良さそうだ。

 

(やはり、この奥に何者か意思を持つ存在がいるのか。)

 

何が潜んでいるかは分からないが、警戒して先に進むほかは無いだろう。

 

 

 

 

 

全ての罠を解除した彼は、満足気に唸った。悠久の時の果てに、格好の相手が向こうから会いにきてくれる。そんな幸運があって良いのだろうか?

 

今となっては遠い昔、仲間達はこの地を離れてそれぞれ独自の王国を建国した。その事を寂しいとは思わなかったが、この施設に取り残されて現世から切り離された事に迷いもあった。

 

(しかし今となっては)

 

そう思考した彼は爪を噛んだ。

 

(子を持ち、家庭を築きたい)

 

この遺跡に迷い込んだ年若い彼女は、その為の格好な相手に見えた。その為には彼女に馴れ馴れし気な男が気に入らない。彼女との関係をはっきりさせなければならないし、必要なら殺す必要もあるだろう。彼女は手に入れる。この幸運を逃す事は出来ない。

 

 

 

トンネルを降りきった先、扉を開くとそこは広大な空間になっていた。ライトの淡い光では天井を照らし出せない。それでも暗いと感じないのは、川のように一段低い箇所に光る物が敷き詰められているからだ。

 

「あれはまさか黄金ですか。まるで川のようだ。」

 

グラハム卿が声を漏らす。イーリスが広間の端から端までドローンを飛ばして計測している。この川にずっと純金が敷き詰められているのは間違いないらしい。深さはどれくらいだろうか。恐らく、数メートルは裕にありそうだ。或いはもっと深いのかもしれない。

 

「この金の総量、信じられません。」

 

イーリスが声を漏らす。

 

「これも女神様のお導きなのでしょう。これほどの威容、そうとしか考えられません。やはりクレリア女王陛下は女神様の守護を受けておられる。」

 

グラハム卿の言葉に、リアやカロットも頷いている。だが俺だけがイーリスの言葉の真意を汲み取っていた。

 

惑星の地表に存在する金の総量は限られる。それはこの川の一区画にも満たないだろう。これほどでないにしろ、人類スターヴェイク帝国だけでも莫大な金を保有している。地上の人類の富の総量は当然、我が国の数倍となるだろう。しかしその総数は経済の実態として類推していた。それに加えてこの純金の量が惑星上に別に存在しているというのは信じ難い。科学的な思考に立てば、ひとつの惑星が地表に持つ金の総量がこの量に至る事はあり得ないのだ。

 

「お、あちらには銀の川があるようですな。」

 

呑気な声でグラハム卿がいう。

 

「これで陛下の御代も安泰という物です。」

 

「しかし樹海の奥地だ。汽車を走らせたとしても全て運び出すのには甚大な過ぎたる量ではないか。」

 

リアが現実的な疑問を呈する。確かに馬車だろうと汽車だらうと何台あれば運び出せるというのだろう。

 

「我が国は資金不足に陥っておりませんし、ここは樹海の奥地。当面このままでよろしいのではないのでしょうか。何より、大量に金をばら撒けば価値が下落します。それでは既存の経済が大きく揺らいでしまいますので。」

 

「うむ、イーリスがそういうのなら異論はない。」

 

流石にこの非現実的な量は人を冷静にさせるな。意外とテオも冷静なのは、カメラのレンズ越しに光景を記録しているからだろうか。

 

「いずれにせよ、これらは民の為に役立てるべき国の財産だ。皆、勝手に持ち帰ろうなどとは思うな。」

 

リアが釘を刺す。カロットもグラハム卿も女王に忠誠を誓う誇り高き武人だ。彼らの心配は要らないだろう。後はテオがグローリアの背中から下に降りないように注意すれば良いだろう。

 

(族長、少し持ち帰ってもいいですか?)

 

おっと、グローリアも金銀の輝きに魅せられてしまったようだ。貴重品という感覚より、彼女は光り物として好きなんだろうな。

 

(荷物になるからダメだ。)

 

「金の性質を知る為に、少量のサンプルは持ち帰りますね。」

 

「うむ。そのような意図なら問題ないだろう。」

 

イーリスがリアに確認してサンプルを仕舞い込む。イーリスはセンサーを駆使して純金なのは確認を済ませている筈だ。しかし金の由来を調査する為にも、サンプルは重要と考えたようだ。

 

「さ、ここは気にせず先に進もう。俺たちの目的は魔物の発生源だ。」

 

魔物は金や銀から生み出されてこないだろう。ならば、この先のどこかに魔物を生み出す源があるはずだった。

 

 

 

 

遠くに小高い山が見えた。暗闇の中にあって淡く発光している。地下空間なのに山とはおかしいが、それは丘というには高く小ぶりな山ほどあった。それほどにこの地下空間は広大だったのだ。ジオフロントと呼べる規模である。

 

「あそこが中枢と見て良いのではないでしょうか。」

 

控えめにイーリスが意見を述べる。視界に他に目立つ物はない。やはりあそこに行くのが正しいようだ。近づくにつれ、やはりそれは山ではなく何らかの建造物と呼ぶべきなのが俺の強化された視覚には見てとれた。

 

「あの山は女神の在所ですかな。」

 

グラハム卿が意見を述べる。

 

「何かそのような由来があるのですか?」

 

イーリスの問いかけにグラハム卿は答えた。

 

「女神ルミナス様は、降り立たれた時に地表ではなく地下を目指されたのです。この為、ルミナス教では遺跡は女神ルミナス様と深い関係があるとされております。」

 

「そうなのですね。神父様はそんな事は何も言われておりませんでしたので。」

 

グラハム卿は淡く笑った。

 

「アトラス教会はそういうでしょうな。彼らにとって女神様の世界は常に上なのですよ。そして地上は彼らに託されたと説くのです。しかし、我らはルミナス様は地上の民と同じように地下の遺跡に関心を示されたと考えておりますよ。この為、遺跡探索は我らには宗教的な情熱の対象なのです。」

 

それでグラハム卿は熱心に参加を希望したのか。アトラス教会に親しいロベルトは、他の宗派のグラハム卿のそのような情熱は想像できなかったのだろう。

 

 

 

 

 

山に迫るとグローリアが唸り出した。

 

「どうした、グローリア?」

 

(族長、別のドラゴンがいます)

 

(何だって?)

 

慌ててドラゴンを探す。俺が見つけ出すより先に、グローリアに注入されたナノムがドラゴンをハイライトする。

 

かつて樹海に現れたドラゴンほどではないが、グローリアよりは少しだけ大きい。

 

「リア、ドラゴンだ。すぐに逃げられるようにグローリアの背に乗るんだ。テオもイーリスも絶対にグローリアから降りるんじゃないぞ。」

 

ドラゴンを指し示しながら、俺は警戒を促した。

 

(グローリア、意思疎通ができるか?)

 

(やってみます)

 

 

グローリアが咆哮を上げる。対するドラゴンも咆哮を上げる。会話が成立したようだ。俺には理解できないが、ドラゴンの語学習得に熱心だったイーリスは会話内容を理解しているようだ。彼女がモニター出来ているなら、こちらは適切な対策が取れるだろう。

 

(イーリス、状況がはっきりしたら教えてくれ。)

 

(わかりました。)

 

怒っていたり、哀願していたり、悲痛に満ちていたようなドラゴン同士の会話が終わった。ドラゴンの声の調子を聞いても事情がさっぱり分からないな。

 

「アラン、あのドラゴンは何と言っているの?」

 

俺がドラゴンと会話できると信じているリアが尋ねる。

 

「うーん。俺が会話できるのはグローリアとだけのようなんだ。グローリアが色々と相手に説明しているようだが、俺にはその会話内容までは分からないんだよ。」

 

その時、咆哮を挙げながらドラゴンが迫って来た。脇目も振らず、グローリアに乗ったリアを目指して来る。今回は相手の縄張りに侵入したのはこちらだ。このまま戦いになるのだろう。

 

被害を出さずに勝てるかどうか。ドローンの攻撃を駆使すれば殺害は可能だろう。俺はリアを庇って、グローリアの前に出た。

 

(族長、やりました。相手に決闘を承知させました。私の代わりにぶちのめしてください。)

 

(え、何だって?)

 

グローリアに問い返す間にも、ドラゴンが俺に迫る。

 

「皆、あのドラゴンは俺との決闘を希望しているらしい。少し下がっていてくれないか。」

 

「アラン、無理をしないでね。」

 

リアの声だけ残してグローリアが後退する。カロットとグラハム卿も共に後退したようだ。

 

(艦長、あの個体はオスのようです。彼がこの施設を操作していた個体で間違いありません。なるべく傷をつけないようにお願いします。)

 

(もう少し事情をわかるように言ってくれないか。)

 

(決闘なら互いにトドメまでは刺さない前提で良いはずです。そして艦長は既にドラゴンにも通用する威力の魔法をお持ちの筈です。)

 

イーリスの周りには姿を見せないもののドローンが遊弋している。いざという時は仕留めてくれる筈だ。だが、ここはドラゴンを従える為に決闘を優先して欲しいという事らしい。グローリアと知り合ってドラゴンへの理解度が増したとはいえ、イーリスの対応も劇的に転換するものだな。単なる魔物でなく、ドラゴンを知性と人格のある存在で約束を守れると認めたからかもしれない。

 

「もう少し、俺も対話を試みたかったんだけどな。」

 

グローリアはこのドラゴンと意思疎通出来ていたようだ。しかしグローリアを通じて交渉した結果が、決闘するという事なら仕方ないのだろう。

 

俺は腰の剣を引き抜いた。戦闘態勢が整ったと見たのだろう。ドラゴンが俺に向かって火球を吐き出す。すごい勢いで迫って来た。これは決闘と言いながら、相手は俺を本気で倒しに来ているな。

 

慌ててファイアーボールの火球を打ち出して相手の魔法を相殺する。2つの火球は空中で衝突し相殺された。イーリスが、こちらに来ようとしているリアを誘導して下がらせているのが見える。

 

ドラゴンの爪が俺に迫る。左右の連撃を体勢を変えながらそれぞれ魔法剣で食い止める。まともに喰らえば吹っ飛ばされるが、ファイナルブレードを発動して輝く魔法剣の刃を当てればドラゴンの爪とても切り裂ける。その切れ味に警戒したドラゴンは爪の攻撃に全力を出せない。それでもドラゴンと人は体重が違う。ドラゴンには軽い一振りでも、人の身には限界ギリギリの重い一撃となる。

 

なんとか凌いだところで、そこを狙い澄ましたように尻尾が迫ってきた。本命はこの攻撃だろう。慌てて反対方向に身を捩ってかわす。尻尾を回避した後で咄嗟にフレイムアローを放つ。フレイムアローは狙い違わず遠ざかるドラゴンの尻尾に突き刺さる。しかし痛打とはならない。威力に優れたフレイムアローの一撃でも、ドラゴンは意に介さないらしい。目玉や体内に命中させないとダメージは通らないらしい。やはり、ドラゴンは魔物として別格なのだろう。

 

今度は踏み潰そうとドラゴンの足が迫る。クルクルと床を転がって身をかわす。これじゃ全然大技を発動する余裕がないじゃないか。

 

上手くドラゴンの足元を転がり抜けると、ドラゴンが姿勢を変える前に背後に回り込んだ。再びファイナルブレードを発動すると、地を這う尻尾に一撃を喰らわす。フレイムアローは弾かれても、魔法剣の一撃はこれは流石に痛かったようだ。飛び上がったドラゴンが瞬時にこちらに向き直った。

 

ドラゴンの口が開く。徐々に膨れ上がる火球が再びその姿を覗かせる。

 

(艦長、今です)

 

イーリスにそう言われるまでもなかった。ドラゴンを正面に見据えた俺は魔法剣を投げ捨てる。そして右腕を前に伸ばした。魔力をあつめて放出する。出し惜しみは無しだ。この魔法を全力で今決めなければ、恐らく次の機会はない。

 

「《ライトニング・キャノン》っ!」

 

ファイアボールの火球はどこかゆったりとして展開速度が遅い。対して光魔法は最速の部類だ。ライトニングキャノンは収束する為に準備時間を要するが、発動してしまえばその速度は圧倒的な違いを生む。

 

収束した光の束がビームとなり、ドラゴンの腹を直撃する。殺さないように今回は薙ぎ払いは無しだ。心臓も魔石も避けた。痛打を受けて悶えるドラゴンは、火球を解き放つ前にその口を閉じた。その失態で、自らの爆裂魔法で口腔内にもダメージを受ける。

 

ライトニングキャノンは見事にドラゴンの体を貫通していた。この魔法の貫通力はやはり際立っている。下腹部を貫かれ、口の中を爛れさせ、ドラゴンが鼻を鳴らしてくぐもった悲鳴を上げる。

 

地響きを立ててドラゴンが地面に崩れ落ちた。俺は投げ捨てた魔法剣を再び拾い上げた。今の魔法で魔力は大放出してしまった。ドラゴンにトドメを刺す必要があるなら、魔法剣で仕留めなくてはならないだろう。

 

俺の背後でグローリア咆哮が上げた。目の前のドラゴンはもう咆哮で張り合おうとはしない。口の中が爛れて声も出せないのか。苦しそうに腹を上にして横たわった。

 

(やった。族長の勝利です、彼の降伏を受け入れてください。)

 

(そうか)

 

グローリアはドラゴンの権威だ。ここは信頼していい。そしてドラゴンの降伏の儀式は、かつてグローリアで経験済みだ。

 

俺は軽くジャンプするとドラゴンの腹を踏みつけた。傷口を触ってしまったのだろうか。下腹部の傷口から血が噴き出す。ドラゴンはガクッと項垂れた。まさか今のでトドメを刺してしまってはいないだろうな。

 

(艦長、今の内にナノムを注入しましょう。傷口に艦長の血を垂らしてください。その後、ヒールで傷の修復を試みてください。)

 

(分かった)

 

 

 

 

 

「凄かったわ、アラン。」

 

処置を終えると目を潤ませたリアが、俺に抱きついてきた。リアを乗せたグローリアが襲われたのだ。安全の為にグローリアに乗るように指示していた。しかし、結果としてリアを逃げにくい場所に追い込んでしまった。リアにはさぞ怖い思いをさせてしまっただろう。

 

「何度ももうダメだと思ったけれど、イーリスが横で『大丈夫です』というから。きっと、前のドラゴンを倒した時も今みたいにしたのね。」

 

以前はグローリアと相手のドラゴンの決闘に俺が乱入した形だった。仕留めたのはドローンだ。先ほどのような命のやり取りはしていない。ただ俺は力を使い果たしていたし、興奮したリアも俺の話をなかなか耳を貸そうとはしていない。何とか落ち着かせようと宥めていると、イーリスの声が耳に入った。

 

「こら、やめなさい。」

 

リアに抱きつかれるシーンも、しっかりテオに撮影されていたらしい。2人の抱擁をプライベートだと感じたイーリスに、テオが叱責されてようやく撮影を中断したようだ。

 

 

 

グローリアによると、このドラゴンの名はヴァレリウスというらしい。

 

「つまり彼は私を見染めたのです。だから私は言ってやりました。私は族長の物だ、欲しければ族長に勝って私を手に入れて見せろって。」

 

「・・・そんな事を言ったのか。それで、あの展開か。」

 

グローリアの横ではイーリスが俺にしか分からないように笑っていた。俺の左腕に今もしがみついたままのリアは、ドラゴンの狙いは自分だったと思い込んでいる。カロットやグラハム卿もそう認識していただろう。

 

しかし実際はドラゴンの狙いがグローリアの方だったとはな。しかも恋の鞘当ての対象にされていたとは驚いた。聞いてみれば当然の話だが、リアが知ったら驚くだろう。いや、これは伝える必要のない話かもしれない。

 

(私としても、出来るだけ相手を焦らしておきたかったんです。)

 

(この流れはつまり。グローリアは結婚相手としてヴァレリウスのことを気に入っているのか?)

 

俺は思わずイーリスに尋ねた。

 

グローリアの結婚相手の望みは『若くて強いドラゴン』だった。若いかどうかは分からないが、背格好はグローリアより大きいとしても同じくらいに見える。ドラゴンの年齢は人類には掴みづらいが、生体年齢は若いと言われたら若いのかもしれない。

 

強さについてはどうなのだろう。俺には敗れたが、グローリアより強い可能性があるならば良いのだろうか。

 

(はい。グローリアにしてみたら、わざわざ艦長がグローリアを連れて遺跡に入ったら主を名乗るドラゴンが出たのです。しかもそのドラゴンはグローリアに興味を示し執着しています。全て艦長の計らいと考えたのも無理はないでしょう。)

 

(グローリアに執着している?このヴァレリウスが?)

 

(ええ、視線は常にグローリアを追っています。まさか艦長は気が付かなかったのですか?)

 

(俺はてっきり、ヴァレリウスはリアを狙っているのかと思った。)

 

(あらあら、やはり艦長もクレリア女王にちょっかいを出されないかが気になるんですね。)

 

イーリスと会話する間にも、グローリアの話は続いていた。

 

(やはり最初が肝心です。ここは族長がヴァレリウスを倒した後に更に私が手酷くはねつけ、プライドをズタズタにしたところで『仕方ないな』と私が手を差し伸べて惚れさせる作戦が良いと考えました。で、この後なんですが・・・)

 

(イーリス、後は頼む。グローリアの作戦が決まったら教えてくれ。)

 

(はい、艦長)

 

俺はそっとグローリアをシャットアウトした。ふう、やれやれ。必要な情報はイーリスが抽出してまとめてくれるだろう。グローリアに幸せになってほしいが、俺が彼女の私生活へ干渉するのは最小限にしたい。

 

ドラゴンの脅威を無効化したからだろう。この時間を利用して、イーリスは山の内部の施設内にドローンを飛ばしていた。彼女はこの施設の全貌を丸裸にする意図のようだ。リアに抱きつかれながら、そちらのモニタリングに意識を集中させる。

 

(艦長、この施設の全容は把握できたと思います。やはり他にドラゴンはいませんね。ヴァレリウスが施設を管理していた個体で間違いありません。もう、この遺跡から非常識な速度で魔物が誕生する事はありません。該当箇所の設定を把握しました。魔物の産出速度を通常に戻します。)

 

仮想画面に目をやる。施設の内部は大半が培養槽のようだ。ここで魔物を大量生産し、世に放っているのか。奥にあるヴァレリウスの寝床のようなものは光るモヤで包まれている。そういえば山全体も光っていたな。

 

(この施設の掌握の為にドローンを数機残します。ここは死守すべき場所です。汎用ボットもここに派遣しましょう。内側からであれば、扉の開閉も問題ありませんね。)

 

カーボンナノチューブは細い。戸の隙間に這わせれば通信や電力を確保できるし、問題なく戸は開閉するらしい。

 

(報告は別でまとめますが、いかがされますか?ここで引き返されては。あの山の内部は彼らの宗教観を毀損しかねません。慎重に検討されるべきかと。)

 

俺もドラゴンとの決闘で力を使い果たしていた。山はここから見れば、普通の山か丘だ。中に施設があるように思われない。

 

(皆は納得するかな?)

 

(黄金が満ちた川を発見し、ドラゴンと真っ向勝負して打ち負かしたのです。その結果、この山から魔物が生まれ落ちる事は無くなった。艦長がそう宣言されれば、それで良いのではないでしょうか。)

 

(では、そうしようか。流石に俺も限界だ。)




クレリアのヒロイン回でありグローリアのヒロイン回です。原作で『樹海でグローリアが活躍』を達成したいと考えました。なかなか話がまとまらず苦労しました。
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