【二次小説】航宙軍士官、星を統べる (原作:航宙軍士官、冒険者になる)   作:高坂 源五郎

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Ⅲ 統一戦記 53話 【開幕編】 挙式

Ⅲ 統一戦記 53話 【開幕編】 挙式

 

論功行賞、外交と外征の諸々の手配が一区切りするとスターヴァインでのリアとの結婚式を待つばかりとなった。挙式後、リアと共にスターヴェイク、アロイス、アラム聖国などの新領地を結婚旅行としてお披露目行脚する事になっている。日程的に可能であれば、俺達はセシリオへも足を伸ばす予定になっていた。

 

条件付けによる抑圧は軍事的な状況に限定される、つまり結婚式を前にした俺のソワソワ感は全く解消してくれないのだ。この為、スターヴァイン入りの日取りが迫ってくると『アラン様も意外と落ち着きがない』と周囲に評されるようになっていた。

 

カロットとテリス子爵夫人を送り出した後、ワイバーンに乗って意外な人物が俺の元を訪れていた。

 

「どうした、ダルシム」

 

「折言って、私からアラン様に申し上げたい事がございます。」

 

てっきり何かリアからの指示があったのかと思ったが実はそうではないらしい。リアに許しを得ての来訪とはいえ、独断という話だった。ともあれ重臣中の重臣であるダルシムの話を聞かない訳にはいかない。

 

「それで、改まってどのような要件が?」

 

「まずアダーの事です。自分はルドヴィークの戦いでヤツの世話になりました。ヤツ抜きであの勝利はなかった。アラン様がアダーを追放した事に納得はしておりません。」

 

その話か。当然ながらダルシムとアダーは顔見知りであり、彼を追放した俺の翻意を促す為に来たのだろう。

 

「その事だが、アダーが敵と通じていると本人も認めた。本人にその意図はなかったようだが、祖国に知らせた報告が敵に利用された。漏れたのは俺の周囲の者の名前と顔立ちだ。実害も出た。旧アロイス王宮に潜伏した際、候補生が正体を見破られそうになったそうだ。アダー本人もそのことを認めている。」

 

だが、ダルシムは食い下がった。

 

「ですが、これまでの功績を加味すれば多少の失態も挽回できるのではと。」

 

「その通りだ、ダルシム将軍。だが、アダーの婚約者がわざわざ出迎えに来たのだそうだ。一族を背景とした、ややこしい事情があるようだ。俺としても、彼なりに事情を抱えているなら引き止められないと判断した。追放したというのも対外的な体裁を含めての発表だ。その方が、アダーは祖国でも疑われにくいだろうからな。」

 

「ではアラン様は、いずれアダーの帰参を認められる可能性があると?」

 

俺はダルシムにどこまで伝えるべきか躊躇した。

 

「ああ。『戻れる状況なら戻って良い』とは伝えている。敵味方に分かれれば、何がどう転ぶか分からないが。」

 

大陸を統一した時、全ての敵対勢力は活動を止める事になる。その時は、アダーの貢献に応じて彼や周囲の人間の居場所を作るつもりでいる。だから、この発言は嘘ではないだろう。

 

ダルシムは緊張を解いたように大きく息を吐いた。

 

「それがアラン様のご判断なら、信じます。疑うような真似をしてすみませんでした。」

 

「良いんだ。ダルシム将軍は俺の副官でもある。俺はまだその役割を解いたつもりはない。もし言いにくい事でも、副官として言うべきは気にせず言って欲しい。」

 

久しぶりに副官と言われて、ダルシムは嬉しそうに笑った。

 

「そういえば、カロットの事をクレリア様より聞きましたが。あの色男ぶりなら、大抵の貴婦人はメロメロになると思いますが。まさか年増のテリス子爵夫人相手に本気なのでしょうか。」

 

ダルシムの視点から見ても、余り釣り合いの取れた相手という雰囲気ではないらしい。

 

「それについては当人に聞いてもらうしかないな。俺もイーリスの報告を受けて半信半疑なんだが、イーリスはテリス子爵夫人とも親しい。実のない話ではなさそうだ。まあ未亡人だというし、後のことはリアが事情を聞いて判断するだろう」

 

この問題についてはリアにご注進する以外、俺に出来ることはほぼない。ただテリス子爵夫人は今回の騒動以前に夫を亡くしているのは確実らしい。所領もあるらしく後継者の問題もあって本人が婿を取るなりの裁定は必要だったようだ。スターヴァイン入りしないのは、爵位の継承と後継者選びのややこしさもあったらしい。

 

「リアもテリス子爵夫人の願いを叶えるのにやぶさかではないんだろうが、どうも貴族家の事情が絡んで政治的な問題みたいだからな」

 

「確かに当人達次第とはいえ、両名ともリア様の近臣です。慎重な舵取りが必要ですな。実は私からも同様の件でアラン様にご報告があります。」

 

ダルシムは言いにくそうにしている。アダーの件やカロットの件はどうも話のついでで、実はこらから語られる内容が本題のようだ。

 

「ダルシム将軍の希望なら可能な限り叶えよう。気にせず言って欲しい」

 

「実は、その、アラム聖国の聖騎士であるマルチェロ卿と、その、結婚できないかと。」

 

ふむ。意外な話の成り行きだな。聖騎士でもあるラヴィニア・マルチェロ卿はアラム聖国の代表だ。だがダルシムも今は伯爵の身分だし、人類スターヴェイクを代表する人材である。やや意外な感はあるが、叶えられない願いではないだろう。

 

「凄いじゃないか、ダルシム。お祝いを言わせてくれ。もちろん、俺に異存はない。」

 

そこでふと俺は疑惑を感じた。まさかと思うが、この話はダルシムの一人相撲という事はないよな。

 

「あー、マルチェロ卿にはちゃんと直接伝えて結婚の意思を確認するようにな。」

 

「無論です。しかし私もクレリア様アラン様のお許しを得た上でなければ、ラヴィニアに思いを伝える事も出来ませぬゆえ」

 

そうか。ダルシムなりに生真面目で無骨な対応だったか。

 

「俺としては心から祝福する。この件について俺は最大限の支援をすると思ってくれ。」

 

「ありがとうございます。ではクレリア様のお許しを得た上で、先に進みたいと思います。」

 

意気揚々とワイバーンでスターヴァインに引き上げたダルシムは、翌日には再びアレスに蜻蛉返りして来た。

 

「どうした、ダルシム?」

 

流石に何かアレスに居づらい事情が出来たのかと、俺でさえそう懸念してしまうな。

 

「実はクレリア様から即座のお許しを頂き、ラヴィニアに結婚を申し込んだところ婚姻の約束を取り交わす事となりました。」

 

「凄いじゃないかっ!」

 

良かった。ダルシムが失恋した可能性を危惧したが俺の懸念だったようだ。ダルシムは今、飛ぶ鳥落とす勢いの男なのだ。流石にスムーズに結婚まで漕ぎ着けたようだ。

 

「で、今日はわざわざその報告に?」

 

俺の問いかけにダルシムは、少し言いづらそうに答える。

 

「それが、その、クレリア様がご自身の結婚式に引き続いて私とラヴィニアの結婚式を挙げるが良いと仰せになりました。またラヴィニアも大層喜びまして、是非そうさせて頂きたいと。」

 

「良かったじゃないか。」

 

「それで女性陣の結婚の準備がより大変となりました。テリス子爵夫人は『クレリア様が無事嫁がせるまで私の式は延期します』と宣言される事態となり、皆様が式の準備に邁進されています。」

 

ん、カロットとテリス子爵夫人の件も話が進展しているのか?あちらも結婚するとまでは聞いていなかったが。まあ結婚というものは連鎖するというしな。祖国解放を成し遂げた今だからこそ、先延ばしされていた案件が一気に解消に向かうのかもしれない。

 

ともあれ、俺はリアとエルナを同時に娶る事になっている。結婚についてはいつの間にか『出会った順に式を挙げる』というルールが女性陣の中で制定されていた。

 

スターヴァインでクレリアとエルナと式を挙げた後、時間をおいてアレスでセリーナとシャロンと式を行う事となる。最後はセシリオでウルズラと結婚式を挙げる事になるだろう。

 

これらの準備は正直言って任せ切りになっているし、立ち入るなとも言われている。

 

「ああ、つまり『ダルシムも新郎になるからスターヴァインにはいない方が良い』と、そうリアの判断が出たのか。」

 

「はい、そうなります。」

 

俺にも現状が理解できた。結婚に向けた準備に邁進している姿を女性が男性に見せたくないというのは、理解できる感情ではある。

 

「まぁ良かったじゃないか。当面、こちらはこちらでやっていこう。」

 

ユリアンはセシリオでの食品加工を任せているし、アダーはアレスを去った。カロットもスターヴァイン入りしたとなると、今は俺の周辺に人手が足りない。戦争状態ではないので直ぐに行き詰まる事はないが、ダルシムには久しぶりに筆頭副官として任を全うしてもらおう。

 

 

 

 

士官候補生達からの『ダルシム将軍の講義は惚気話か体力任せの特訓ばかりです』という抗議に、『耐え難い事に皆で耐えて、団結心を得るのも候補生教育だ』と俺が返すのもそろそろ限界となった頃、俺とダルシムが挙式の為にスターヴァイン入りする日となった。

 

ダルシムに候補生教育を委ねて基礎体力をつけてもらう作戦は上手く行ったようだ。共通の敵、憎まれ役を務める事で上手くクラスに団結心をもたらしたらしい。ナノムを通じて内緒話が出来る間柄だと、退屈な授業の合間に親睦は進むらしい。

 

ダルシムも半分は計算してやっている事なのだろうが、俺に対しても終始惚気話を披露する。まぁ、めでたい話なので候補生達には大目に見てもらおう。

 

俺とダルシムの入れ替わりという形で、スターヴァインとアロイスの新領地を忙しく往復していたセリーナとシャロンがアレス入りした。彼女達は俺が不在の間のアレスの統括を担う。ザイフリート子爵はあくまで防衛部隊の指揮官であり、首都の責任者として政府代表の代理はセリーナとシャロンが分担する。

 

「アラン、アレスの事は任せてください」

 

「こちらも式の準備などがありますし」

 

リアとの結婚式に二人は出席しないのかと聞くと、こういうのは行かないのが作法らしい。同時に結婚しない限り、夜の問題が煩雑になるからだそうだ。

 

「次に会うときはいよいよだからって、期待しているから」

 

「楽しみにしててね、アラン。スターヴァインでの結婚式の撮影フィルムも楽しみにしています。」

 

 

 

 

 

後ろ髪を引かれる思いで、ダルシムそして撮影班のテオとカリナさんと共にスターヴァイン入りした。季節は冬から春へと移り変わり、その春もいよいよ深まっている。被害の大きかったと聞くスターヴァインも色彩に溢れていた。

 

建物の外壁は塗り直され、立て直されたり補修された建物も目立つ。国の支給で大量の石灰が下賜されたとの事で、戦争の爪痕を示す建物の壁も全て白く塗り固められていた。名実ともに街が生まれ変わったように輝いて見える。

 

「スターヴァインは今が一番美しい季節です。まさにクレリア様の為に装いを新たにしていますな。」

 

ダルシムが珍しく詩的な台詞を吐く。

 

「だいぶ復興が進んだようだ。」

 

「そう見えますな。こうしてみると先王の御代と変わりありません。アロイスの事が嘘のようです。」

 

今は民が幸福に暮らし、暗い過去を忘れ去ったように見えるな。ロイス卿によるクーデターはそれだけ、民の支持に根ざしたものではなかったという事か。

 

「難民窟が多かったんですが、こうして見ると上手く処理したようですな。」

 

「ああ、スターヴァインは王都があるべき姿を取り戻したように見えるな。」

 

難民を耕地に戻すプロジェクトはスムーズに進行していた。必要ならアレスやガンツをはじめとした都市に収容もできる。

 

「全ては民の平和な暮らしの為にだ。」

 

そういうとダルシムが眩しそうな顔をする。

 

「いいですな、民が平和に暮らせる国は。この国も再び平和を取り戻したのですな。」

 

 

 

 

 

「女王陛下、アラン様をお連れしました。」

 

ダルシムの案内でスムーズに王宮入りした。入り口までわざわざ出迎えに来たクレリアに、ダルシムが奏上する。

 

「苦労をかけたな、ダルシム。あちらの部屋にマルチェロ卿を控えさせておる。早く婚約者にそなたの顔を見せてくるとよい。」

 

リアがそう言葉をかけると、途端にダルシムが相好を崩す。

 

「では失礼して」

 

女王に礼儀を失しないよう注意しながらも、ダルシムは見た事もない速さですっ飛んでいった。

 

「ダルシムはマルチェロ卿にすっかりのぼせ上がっているな。道中も惚気話が多かったよ。」

 

俺の言葉にリアは笑った。

 

「それはこの国がそれだけ平和を取り戻したという事だわ。アランのお陰ね。」

 

俺はリアの案内で王宮を散策した。内戦の痕跡は繕われているが、だいぶ古くなっているな。特に兵を常駐させているとはいえ、もはや存在が明るみに出た隠し通路の存在危うい。そのままにしておくと、いずれ敵に利用されかねない気がする。

 

「隠し通路は不用心だから塞いでしまおうか。アレスから送り出した設備も届いているから、上下水道も新しくしたいな。」

 

「アランがそうしたいのなら、建造物の建て替えなどは好きにしてくれて構わない。」

 

この王宮はそのまま残すが、俺達の生活空間はアレスになる予定だ。しかしリアとのハネムーンをこの地で過ごす以上、手を抜く事は出来ないな。式までは数日の猶予がある。やれる事はやってしまおう。

 

 

 

教皇を乗せた特別列車がスターヴァインに到着した。セシリオ国境からスターヴァイン迄の汽車の延伸はなんとか間に合ったのだ。汽車によるスムーズな移動無くして、教皇の来訪はあり得なかっただろう。

 

この来訪を受けて、俺達の結婚式は教皇猊下直々にとの扱いとなった。イリリカ王国は人類スターヴェイクの1年の中立を評価したのだ。教皇を送り届け、盟約の履行を確実にしたいのだろう。

 

せっかくの役目を奪われたゲルトナー大司教は残念そうにしているが、彼は代わりにアレスでのセリーナとシャロンの式を執り行う事になった。尤も、スターヴァインでも儀式の大半はゲルトナー大司教が担当する。教皇は高齢でもある、臨席するのは名義貸しみたいな話でもある。

 

『ゲルトナー大司教も、これで次の枢機卿に内定したようなものですな』

 

聖職者達の密かな噂話を強化された俺の耳がとらえる。アトラス教会の聖職者にとって繋がりある世俗権力の躍進は立場の強化につながるらしい。人類スターヴェイク帝国の評価が高まる事で懇意にしているゲルトナー大司教がアトラス教会で活躍できるのなら、それはそれで結構な事なのだろう。

 

来席の教会関係者への供物は手厚くしてある。気前のいい結婚式なら、主催者側にもし難があっても多少の粗には目を瞑ってくれるだろう。

 

教皇が臨席し、アラム聖国・イリリカ王国・ザイリンク帝国の使節、そして傘下の主要な諸侯の祝福と皆の祝福を受けて、俺とリアは晴れて夫婦となった。この日は大陸の主要な代表者がスターヴァインで一堂に会した特別な日として長く記憶される事となる。

 

 

 

 

式の後の夜会で話題を攫ったのは、クレリアの親族としてベルタからスターヴァイン入りしたベルタ公爵のアマドだった。祖母が姉妹という“はとこ”の関係性は血縁としではやや遠い存在ではあるが、それを補って余りある程にクレリア女王とは容姿が似通っている。そんな彼の姿がスターヴァイン宮中の驚きをさらったのだ。

 

この女王の血縁であり、旧ベルタ王の彼が独身と知られるや、スターヴァインに集った主要な貴族家の令嬢が文字通り彼の周囲に押し寄せ取り囲んだ程である。

 

「彼女達はアランを目的として各貴族家から送り込まれた筈ですが、早くも標的を切り替えましたね。」

 

ワインを煽りながら、クレリアの横に立つエルナが評する。

 

「その物言い、エルナは少し妬いているのではないか?」

 

リアが笑いながら応じた。

 

「そんな事は。私が結婚を申し込まれたのは過去の事ですし。私は結婚するアランの方が遥かに好みですわ、陛下。」

 

「しかし、アマドが最初にダンスを申し込んだのはそなただったではないか。エルナも満更でも無い様子で踊っていたぞ。」

 

「それは仕方ありません。陛下の親族を無碍にする訳には参りません。それにお互い惹かれあっていたという、ベルタでの世間体も守る必要がございますもの。」

 

 

 

 

 

寝室の中、灯火に映し出されるリアのシルエットは少し震えていた。

 

「寒いかい?」

 

俺はリアの身体に手を伸ばし、剥き出しの背中にそっと触れた。リアに押し当てた手を通じて二人の体温が混ざり合う。リアが意を決したように向き直り、静かに俺に告げた。

 

「アラン、私は貴方の子を身籠る準備はできているわ。」

 

そして言葉を付け足す。

 

「・・・でも、もしアランが私の身体に満足出来なかったら。その時は隣室にアリスタを控えさせています。私は気にしないから、気兼ねせずにアリスタを召し出していいのよ。」

 

俺は、そっとリアを自分の方へ引き寄せた。

 

「俺がリアに満足しないなんて、そんな事がある訳がないさ。俺はずっとこの瞬間を待ち兼ねていたんだ。」

 

「アラン・・・」

 

俺はリアに優しく口づけをした。リアと唇を触れさせるだけで心が満たされた。ずっと心の中に抱えていた乾きに似た何かが、潤い癒されていくのを感じる。

 

濡れた瞳でリアが俺を見上げる。目の前を火花が飛び散るような激しさで俺とリアは愛し合った。これまでも俺とリアは政治的に運命共同体だった。そんな2人が身体でも結びついてしまえば、心まで隠し立てなく全てが繋がるような気がした。

 

 

 

 

 

「・・・どう、アランは私に不満ではなかったのかしら?」

 

激しく愛し合った翌朝、乱れた髪を指で直しながらリアが俺に問いかける。

 

「普段、女王として凛とした顔つきをしている姿を見慣れているからかな。快楽に溺れるリアも可愛らしくて素敵だと、俺はそう思ったよ。」

 

俺の返答に羞恥したのか、まだ薄暗い寝室の中でもリアの顔がさっと紅く染まる。

 

「もう、アランったら。」

 

俺の言葉に昨夜の自分の痴態を思い出したのだろうか、リアは枕に顔を埋めて足をバタバタさせて悶絶しているのが良く分かった。

 

「いいじゃないか」

 

そう言って俺はリアの丸みを帯びたラインを手で撫で、再び誘いをかける。

 

「朝食は少し遅れて行こう。今日はそれでもだれも気にはしないさ。」

 

 

 

 

 

 

 

「では、参りましょうか御大将。」

 

冗談めかしてバルテン子爵がカトルにそう告げる。

 

「自分は準男爵家に叙された父タルスの継嗣に過ぎません。バルテン子爵、プレル子爵より身分の低い立場ですので。」

 

「しかし、コリント卿の側近として今回の大将に抜擢された身ですからな。お役目の続く限りはカトル殿の下知に従いますとも。」

 

バルテン子爵は朗らかにそう言い切った。プレル子爵も同意見だ、というように頷いている。

 

ベルタ・セシリオ以西には大国がない。この為、人類スターヴェイク帝国は戦間期を利用して西に勢力を拡大する事を目論んでいる。アロイスを下した人類スターヴェイク帝国の勢力は本物である。人類スターヴェイク帝国の特使が、軍勢を引き連れて来たとなれば靡く国もあるだろう。

 

目的は武力征服ではない。それは可能だが、費やす時間や資源が無駄であった。統治のコストも馬鹿にならない。目的とするのは人類スターヴェイク帝国を盟主として奉戴した緩やかな連合である。各国の既存の支配層は変えず、ただ帝国への傘下入りを促すのだ。

 

見返りは大きい。鉄道網を軸とする人類スターヴェイク帝国の技術へのアクセスに加え、関税のない商取引。各国の開発の為の資金供与に加えて、各王家の存続と治安維持の為の派兵も含まれる。

 

傘下に入る国が守るべき項目は、帝国法の遵守と、基礎教育の重視、相互の防衛協力義務、その為の往来の自由の保障である。傘下に入る国は軍事的な脅威に晒されない。盟主に税を納める必要さえなく、協定を守れば発展の為の支援をも受けられる。

 

人類スターヴェイク帝国の目的は、この惑星の文明の舵取りである。帝国にとっては地域の安定と繁栄だけが課題である。軍事活動と人材摘要の為には商取引を含んだ往来の自由さあれば良い。旧支配層が温存されようが関係なく、むしろ王家保護を正統性の根拠としていた。

 

つまり双方にメリットがある話であり、それを上手く説明するのがカトルに期待される役回りである。本当はアダーを予定していたのだが、軍を辞めて祖国に帰るとアレスを去った為に計画が頓挫した。それをカトルを主将に再計画したのである。軍事的な脅威は大きくないと見積もられており、各国の特産品という商材を見抜くカトルの眼力が期待されていた。

 

「しかし、主将と言っても自分は軍のことは右も左もわかりません。」

 

「大丈夫です、カトル様。我々がお支えします。私にはエルナ様の下で、大軍を遅滞なく進軍させる役目を全うしております。どうぞご安心ください。」

 

カトルの副官としてつくオデットは、栗色の髪の女性だった。魔法兵であり、直近までエルナの副官を務めた人物である。

 

イーリスの立案した計画を実行しただけとは言え、オデットはエルナの指揮を補佐してアロイス王都まで迅速に大軍を展開出来た堅実な実務能力の持ち主だった。元はベルタ国境警備隊の出身で、樹海で協力相手のガンツ伯が敗れた際に捕虜になった中の1人である。

 

「しかし、私にこんな大役が務まるのでしょうか。」

 

カトルはなおも弱気だった。

 

「何を言われますか。コリント卿と会いに行って直ぐに直接会って話が出来る存在など、妻となられる方々と近衛を除いてこの帝国に10人といないのですよ。」

 

総指揮官たるコリント卿は、臣下といえども簡単に会える存在ではない。バルテン子爵やプレル子爵でさえ、個人的な会話の経験は数えるほどしかない。軍人達は作戦の際か祝勝会の際でないと顔を合わせる機会もないのだ。

 

帝国宰相のイーリスとロベルト、アレスの両ギルド長、ライスター卿父子。一般に知られていないがユリアンやエルヴィン。それに並ぶ存在がカトルである。コリント卿が気軽に会う信頼する顔ぶれの中にいる。

 

コリント卿の冒険者時代を知る古馴染みであり、父子共に側近と見做されている。コリント卿の意図を説明できるカトルの存在感は、本人が考える以上に大きいのだ。

 

「私も、コリント卿と実際にお会いして会話をしたのは一度しかありません。」

 

因みにオデットとコリント卿の会話は、捕虜になった際の『閣下や部下の方は我々の性的なサービスを期待されているのでしょうか?」』という内容だった。軍では出世株の彼女でさえそうなのだから、他国の人間がコリント卿の人となりを知る上でカトルは貴重な情報源なのである。

 

「アラン様によると、この大陸には54の国があるそうです。西方には11ヶ国あります。我々はあまり時間をかけずに、これらの国を巡らなくてはなりません。」

 

カトルが示された期限は最長1年である。しかし可能な限り半年で終わらせるように命じられていた。1ヶ国あたりに割く時間は2週間である。かなりの強行軍が予定されていた。

 

「従わぬ国は我らの入国さえ拒否しましょう。逆に流れに乗りさえすれば、1国2国では孤立するばかり。過半数の支持を得れば、まず勝ちですな。」

 

バルテン子爵の言葉にプレル子爵も応じた。

 

「逆らえば武力行使を示唆されていると考えるでしょう。彼らも穏当な条件の内に、合意するのが皆得策と考えるでしょうね。」

 

幸いにして人類スターヴェイクは西方諸国の反感を買っていない筈である。深刻な利害対立がない以上、形式を踏み王家を尊重すれば労せずして西方諸国の盟主の地位は得られる筈だった。

 

 

 

 

 

「明日の夜からはクレリア様を優先されてください」

 

リアとの結婚式の数日後、俺との式を済ませたエルナは初夜に臨んで俺にそう告げた。

 

「エルナはそれで構わないのかい?」

 

「やはり、クレリア様が一番最初に懐妊されるべきなのです。だから私達の順番は後でよろしいのです。」

 

実は同様の話はセリーナとシャロンからも聞いていた。彼女達は最前線で戦う必要がある。『他に妻がいる以上、当面子供は要らない』それがセリーナとシャロンの2人の出した結論なのだ。

 

「でも、アランと臥所を共にしないとは言いませんよ。私達は夫婦なのです。それに私だって人並みに欲求はあります。」

 

そう言ってエルナは俺にそのプロポーションを見せつけるようにして、ネグリジュを脱ぎ捨て裸身を晒した。

 

「どうですか、私の身体は。」

 

「綺麗だと、そう思う。」

 

エルナの身体は、恐らく妻達の中で一番鍛えられて筋肉質である。

 

「腰から尻にかけてのラインなど、とてもそそられるよ」

 

「もう、アランはどこを見ているのですか。でも、なかなか良い着眼点ですね。」

 

エルナに抱きつかれると、体が反応する。お互いに裸であり、もう教会で式を挙げた夫婦同士なのだ。俺がこのままの状態を維持するのは限界がある。

 

「俺はもう服を着た方が良いんだろうな。これじゃ蛇の生殺しじゃないか」

 

「大丈夫です。妊娠しないで男女が楽しむ方法もあるのですから。」

 

エルナの手が俺に伸びる。エルナの口が俺の耳にある考えを囁く。

 

「とても貴族令嬢の言葉と思えないな。そんな事、近衛勤務で覚えたのかい?」

 

「ええ。私達は貴族家の一員として嫁入りまで貞操を守る必要があります。しかしその一方で、城仕えする者にはこのような類の奉仕を絶対に断れない相手というのもいらっしゃるのです。」

 

いらっしゃる。その言葉が意味するのは明白だった。国王もしくは王子などの王族が相手の場合なのだろう。

 

「それは、エルナは実際にお相手を?」

 

ふと不安に駆られた俺はエルナに尋ねた。

 

「さあどうでしょうね。でも教会のシスターだって、このような知識は必要としていると言われていますよ。」

 

そう言ってエルナは妖しく笑った。

 

「安心してください。アランの妻となったこの私は未通の処女です。女神様への誓いに背いていません。そして今夜のところは、アランと枕を共にしてもまだ自分の純潔を守るつもりでいますから。」

 

その後、俺はしっかりとエルナの奉仕を体験した。色々と検分させられたが、どこまでもエルナは清潔にしていて驚いた。そしてエルナの肢体を堪能し、俺なりにエルナを満足させる事も出来たと思う。そして汗をかき疲れ果てた俺達は、互いの存在に満足して丸くなって眠った。

 

「アランの持ち物は、角度が良くて気持ちいいですね。」

 

エルナにそう評されると『何か比べられたようだな』と思うと共に、その相手に勝てたように感じるのは一体どうしてなのだろうか。




初夜のシーンはR15の規定に沿って直接的な描写は行っていません。
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