【二次小説】航宙軍士官、星を統べる (原作:航宙軍士官、冒険者になる) 作:高坂 源五郎
ベルタ王国統一記 5 捕虜解放
ガンツのギルド巡りを終えて宿に戻った俺は捕虜を食堂に集めた。治療と武装解除はもう終わっている筈だ。捕虜は皆、食堂の床に座らせる。拘束はしていないので、ダルシムが完全武装した部下を率いて威圧する意図で睥睨している。
「諸君、俺が護国卿のアラン•コリントだ。不安だろうから俺が諸君の処遇を説明しよう。」
特に驚きの反応はない。流石に俺の顔はもう知られていたか。
「君達は名目上は捕虜としている。だが本隊が撤退する中、治療を目的として負傷兵を引き受けたのが実態だ。武器は預からせてもらったが、約束通り治療は行った。こちらは降りかかった火の粉を払っただけの事。ガンツを去るなら拘束する意思はない。」
驚きの声だろう、微かなどよめきが広がる。
「ただ、夜も近くなってガンツを放り出されても困惑するだろう。ガンツを出るまでは敵対的な行動を取らないと名誉に賭けて誓約すれば、宿に移動してもらう。3日間はこちらで宿泊費も出す。ちなみに男女は別の宿にしてある。こちらとしても3日間は宿で大人しくしてもらう方が都合がいい。宿への移動も固まって動いてもらう。そうでなければ脱走と看做して拘束する。何か質問があるかね?」
「この拠点で拘束されるのではなかったのか?そう説明を聞いていたが。」
俺は正直に答える。
「想定より捕虜が多かった。宿を確保できるか分からなかったので仮の処置で準備をしていた。だが商業ギルドが宿を手配してくれた。今夜の食事はここ拠点で準備させている。こちらで食べてくれて行って構わない。明日以降は宿で出す。ただ決められた物を規定量食べてもらうだけだ。酒や良い食事が必要なら自分で支払って頼め。こちらは関知しない。」
「行動は自由なのか?」
「敵対的な行動や法を犯さない限りは自由だ。申し出があればガンツを去るのも構わない。行動は良識に任せるが、強盗や殺人は論外だ。必要であれば拘束するし処罰もする。大人しくしていてくれ。俺達なら簡単に武装解除した君達を制圧できる実力があるのは分かっているだろう。ガンツの街も我々には好意的だ。我々以外の支援は期待しない方がいい。」
「武器は返してもらえるのか?」
「街を去る場合は、申告してくれ。城門まで送り、そこで武器を渡す。魔物の前に素手で放り出すつもりはない。ガンツにいる間はこちらで武器は預かる。」
「馬は返してもらえるのか?」
「馬はダメだな。回収した馬は戦利品としてこちらで預かる。後から『あれは俺の馬だ』と言われても面倒だしな。特に報告は受けていないが、捕虜になった際に馬と共に投降した者がいれば検討はしよう。こちらの人間が確認している場合に限りだ。他に質問は?」
捕虜同士でヒソヒソ話をしているが、これ以上の質問はなさそうだな。
「何か用事があれば副官のダルシムに伝えてくれ。」
そう言って俺はダルシムのことを指し示す。
「ダルシム副官が俺に取り次いでくれる筈だ。何もなければ食事の支度をする。一旦、広場に出て待機していてくれ。」
食事と聞いて捕虜達はゾロゾロと外へ向かう。腹を空かせているのだろう。厨房から出る匂いが空腹を刺激する。
「案外、大人しくしていますな」
ダルシムに話しかけられる。
「みんな腹を空かせているから食事と聞いて目の色を変えたね」
捕虜に反抗の気配がないのはいいことだった。治療と食事の提供が効いているのだろう。解放予定なのだし、武器もないので様子を見ようというところか。
「ダルシム副官には迷惑をかけるが、よろしく頼む」
「問題ありません、お任せください」
ダルシムは笑顔でどんと胸を叩いてみせた。ダルシム副官は頼もしいな。
サリーさんに確認すると用意できたものから運べるそうなので、机を立食形式に整えて食事を運び入れてもらった。
「捕虜達を中へ、食事させよう」
ダルシムに指示を出して捕虜を中へ導き入れてもらう。捕虜が食べ物に殺到しそうになるのをダルシムと班員が威圧する。
「大人しく一列に並べ、数はある。必要なだけ取って食べろ。まだ食べたければ列に並べ直せ。」
立食形式に多少の混乱を見せながらもダルシムの尽力で列が形成されている。みんな大人しく従っているようだ。
「アラン、ちょっといいですか?」
セリーナに呼び出された。
「女性捕虜が話があるそうなの。」
セリーナとエルナが背後に2人の女性を連れている。兵士にしては小柄だ。恐らくは魔法使いなのだろう。
「何かな?」
「あの、失礼ですが閣下や部下の方は我々の性的なサービスを期待されているのでしょうか?」
セリーナもエルナも怖い顔をして俺を睨んでいる。宿で男女分ける事で却って勘繰られてしまったのか。
「いや、合意の上であってもガンツにいる間は風紀の乱れを許すつもりはない。俺は勿論、部下や捕虜、街の住人にも君達に手出しをさせるつもりはないし、そう言った提案がもしされたらこちらに伝えてくれ。厳正に対処する。」
「私達も望んでではありませんが、閣下のお求めならば身体を差し出すようにと仲間から言われています。それで待遇が良くなるのならと。
あの、その路銀も足りなそうなのです。」
まずいな、やはりこういう問題は起こるか。むしろ早めに言ってくれてよかったのかもしれない。
「路銀の事は日を改めて相談しよう、配慮はすると約束する。身の危険を感じるならガンツで保護してもいい。帰郷に時間がかかってもいいなら仕事も世話しよう。部下は女性が多い。君たちに無体な真似はさせないように守ってくれるはずだ。身の安全や待遇改善の為に性交渉する必要は一切ない。」
「アラン、私達で交代で女性の宿を見張るわ」
セリーナが宣言する。エルナも頷いている。それがいいかもしれないな。
「それでは無理のない範囲で頼む」
すんなりと女性捕虜の宿の護衛が決まった。
「我々の食事はどうしましょうか?腹が減っているので目の前で食べられると」
ケニーが訴えてきた。捕虜の食事はそのうち終わるはずだが、外の店ももう営業が終わるかもしれない。しまったな。
「サリーさんに相談してみる」
「お供します」
2人して厨房に向かう。サリーさんに相談すると意外な返事だった。
「実は今日は祝宴を上げられるかとご馳走を用意していたんです。捕虜の方は簡単な物を出していますので、この後にご用意できますが」
やったな。
「サリーさん、外に食べに行くと言っていたのに助かります。用意してください。」
「捕虜を追い出したら祝杯を上げられますね」
「ケニー、班長達にそれとなく伝えてくれ。それぞれの班には班長から連絡する形で頼む」
「分かりました」
「(セリーナ、シャロン、外に食べに行くのは取り止めだ。サリーさんがご馳走を用意してくれたようだ。)」
「(やった)」
「(了解しました)」
カトルを呼び寄せてカリナさんへの連絡を頼んだ。捕虜の移送に人を割くのはやめにしよう。宿か商業ギルドから出迎えの人を出してほしいと依頼した。
捕虜達の武器は取り上げたし、城門も閉まっている筈だ。そもそも魔物が潜むガンツ近隣でわざわざ野宿する必要は捕虜としてもないだろう。自由に帰れるとなると、3日間は宿で体力を回復させようと考える筈だ。少なくとも俺ならそうする。
宿から迎えが来ると、食事を終えた捕虜はそれぞれ散っていった。