【二次小説】航宙軍士官、星を統べる (原作:航宙軍士官、冒険者になる)   作:高坂 源五郎

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Ⅰ ベルタ王国統一記 06話 【王都請願編】王都急行

ベルタ王国統一記 6 王都急行

 

昨夜は捕虜解放後にガンツの拠点で簡単な祝勝会を開いた。ガンツの首脳陣とは暫定合意していたので襲われる心配は特にしていなかった。

 

連日戦闘を潜り抜け緊張を強いられたのだ。さしたる被害が出なかったのは幸運以外の何物でもない。彼等にはホームくらいでは勝利に浸って欲しかった。交代で風呂にも入ってもらう。

 

(シャロン、セリーナ。俺たちだけは警戒に当たろう。酒はほどほどで頼む。)

 

((了解!))

 

少し飲んでも酒はナノムが分解してくれる。館の周囲はイーリスがドローンで警戒してくれた。ナノムのセンサーもある。

 

「本格的な祝勝会はアレスに戻ってからだ。皆飲みすぎないようにな」

 

ダルシム副官は弁えているようだ。一次会でお開きになった。流石に皆疲れていて今夜は睡眠を優先したいのだろう。解放した捕虜がガンツ市内で騒乱を起こす可能性も考慮して警戒はしておかなくては。

 

 

夜明け前、俺は目を覚ました。しばし物思いに耽る。俺達はガンツを実行支配した。しかしガンツの支配を維持できないとダメだろう。喧嘩に勝っただけではおそらく維持のコストが高くなりすぎる可能性が高い。法的な裏付けと内戦状態の一時的な終了が必要だった。

 

(イーリス、バールケ宰相とカリファ伯の軍勢の現在地は?)

 

「バールケの軍勢はようやく、領地を出発しました。カリファ伯の軍勢は1週間の行程の残り2日間です」

 

手始めにカリファ伯の軍勢がガンツに到着するな。だが俺にはバールケの軍が出発したニュースの方が気になっていた。

 

「イーリス、バールケ軍勢の出立の詳細を教えてくれ。」

 

バールケは領地の軍勢が出立した報告が来ない事に苛立って自領に戻ったらしい。現在は自ら軍を率いてガンツを目指し進撃中との事だった。

 

「バールケの領地との位置関係はどうなるんだ?」

 

王都からガンツが4週間の距離である。バールケの領地からガンツは3週間の距離との事だった。

 

(恐らく本来はカリファ伯の行動予定が正しいのか。ガンツ伯は早すぎて、バールケは色々と遅すぎたんだな)

 

バールケの出立遅延の理由は分かっている。エルヴィンが遅延工作に努めたからだろう。しかし予定通りに軍事作戦を展開できるカリファ伯は優秀なのかもしれない。

 

今分かっている限りにおいては、ガンツ伯よりカリファ伯の方が優秀な軍事指揮官という前提に立つ方が良さそうだ。ガンツ伯もそこまで無能な指揮官ではない。戦争は数という基本に忠実だった。素早く行軍もしている。樹海という条件でなければこれほどの大勝は収められなかっただろう。

 

(今後の軍事的課題はカリファ伯の撃退だな)

 

カリファ伯の軍勢は俺たちより多い。しかしガンツは自陣営の城という認識で接近している筈だ。アレス侵攻どころか基地となる予定のガンツが陥落した今、彼等の行動は変化するのではないだろうか。ガンツの城壁とグローリアの支援があれば互角以上の戦闘が可能だろう。

 

(先日去らせたガンツ伯の軍、あれに居残られると厄介だったな)

 

カリファ伯軍に吸収されると厄介な戦力になっていた筈だ。

 

 

 

ガンツ入城から一夜明けた朝、俺はクランのホームで会議を招集していた。今回の会議は今後の展開についてのものだった。参加者はガンツ伯の迎撃を決めた時とほぼ同じだが、アレスに残留したリアとロベルトを除いた全員の顔がある。

 

「さて、皆、お疲れ様。」

 

冒頭で全員の奮闘を労う。クランのホームは変わりないが、一夜明けて皆勝利の実感とガンツを我が物にしたという実感を感じ始めたようだった。

 

「ガンツ伯の軍の対処は完了したと言っていいと思う」

 

敵軍が去る所を目撃していた皆は満足そうだ。

 

「ただガンツ伯と同盟していたカリファ伯の軍が残り2日の距離に迫っているようだ。人数は800名ほどだ。引き続き警戒が必要だ。」

 

新手の存在に皆一様に心配そうな表情になる。

 

「アラン様、今度こそガンツの城壁に篭って戦うのですか?」

 

ダルシムが質問を投げかける。確かに皆その点は気になるよな。

 

「その可能性はある。だがガンツ伯が死んだ今、カリファ伯にはガンツを攻める大義名分がない。そして彼等はガンツで補給する前提で移動してきた筈だ。こちらの戦力も把握できていないだろう。アレス攻略の前提だったガンツが落とされているのを知った時、諦めて撤退する可能性がそれなりに高いと思う。」

 

皆、納得した様子だった。

 

「当面、ガンツの防衛に全力を尽くす。ここを守ることが、アレスに防衛にもつながる筈だ。ただ、いつ攻められるか分からないのは皆不安だろう。商売にも影響する。俺としてはこの内戦に幕を引きたい。」

 

ハインツ班長が発言する。

 

「コリント卿、具体的にどうされるのですか。」

 

そういえばハインツ班長はアレス到着時に開催した会議に出ていないんだな。

 

「以前会議で出た案だが、国王陛下に事情を説明しよう。こちらは攻められた側だ、やむを得ぬ事情でガンツ伯を討ったと、そう伝えるのはどうだろうか。護国卿の地位に加え、王のお墨付きがあれば問題は無くなるはずだ。」

 

少なくとも宰相の派閥も次の機会を待つ気になる筈だ。

 

「商業ギルドが既に中立的な報告をしているのは昨夜確認しました。今回の事はガンツ伯に非があるという説明は一定の理解を得られましょう。しかしそれは王都で申し開き出来てこそ。王都へは片道で1ヶ月はかかります。しかも王都はバールケが支配しております。」

 

そう、時間と距離が問題だった。しかし俺たちは既にその問題を解決する方法を知っていた。俺が次に何をいうか予測しているヴァルターやケリーがハインツが驚くだろうと予測してニヤニヤとしている。

 

「実はハインツ班長、ドラゴンのグローリアは6人まで人を乗せて飛ぶことが出来るんだ。クランのメンバーは皆、乗ったことがあるんだよ。」

 

ハインツがあんぐりと口を開けた。サテライト班長では唯一グローリアと飛んだ経験のない班長なので驚いている。

 

「それで、ドラゴンに乗るとどれほど早く王都につけるのですか?」

 

確かにそこは気になる点だった、しかし俺はイーリスやセリーナやシャロンとこの点は既に入念な検討をしていた。

 

「王都に行くのは半日、と言ったところだ。朝出れば昼、昼出れば夕方には着く。つまり1日で往復ができる筈だ。」

 

おお、とどよめきが走る。移動距離の速さが予想外だったのだろう。

 

ドラゴンは飛ぶ鳥を捕まえる速さを誇る。概算だが1日の馬での移動距離の3倍を1時間で出せる。しかも空路は川などの障害物は関係ない。直線を移動できるので陸路より速い。徒歩で1ヶ月かかる距離なら総延長が約750キロで、ドラゴンなら5時間弱といったところだ。

 

過去にグローリアは問題なく王都に到達している。問題があるとしたらむしろ王都についてからだが、そちらはなんとかする自信があった。

 

「という事情で俺としては王都へ請願に行くつもりだ。6人乗れる計算だが、ガンツ伯の死体を運ぶ。ガンツ伯軍の捕虜から証人も2人運びたい。俺も当然行くので残り2人だ。同行してくれる者はいるか?」

 

王都で囚われの身だったライスター卿はダメだろう。俺としては宮中の作法にも詳しいエルナやダルシム副官を連れて行きたかったが、ガンツに残ってもらう方がいいかもしれない

 

「ヴァルター。どうだろう?」

 

「せっかくのお誘いですがアラン様、私はどうも空が苦手で」

 

そうだった、ヴァルターは最悪の飛行を敬遠していたのだ。死体を運ぶので男手が欲しかったが、王城に到着しさえすれば召使いも衛兵もいるだろうから諦めるか。

 

「エルナ、頼めるかな」

 

「構わないわ、アラン」

 

セリーナは残留指揮官、ダルシムをその副官に指名したので残りの1人はシャロンになった。 

 

俺以外にイーリスやセリーナとやり取り出来るシャロンがいる方が良かったし、エルナもシャロンも戦力として一流だ。この3人にグローリアがいれば王都で遅れを取ることもまずないだろう。女性の側近を連れて行く方が警戒されにくいという計算もあった。

 

「それでは行ってくる」

 

会議を終え次第の出発を宣言した。今出れば午後の早い時間に着く。うまくいけば今日中にガンツに戻ることができるだろう。

 

ガンツ伯ユルゲンの死体は麻袋に入れた。流石に死んでしまったからでは、ヒールを使っても首と胴体は繋がらなかったのだ。首は一応専用の箱があるそうなので手配して収めた。

 

鎧も着せたままだが本人確認もあるから仕方ないだろう。麻袋にはかき集めた氷を入れて氷漬けにしてあるが、半日ならギリギリ保たせられるかもしれない。

 

2名の捕虜は地位の高かった者を充てよう。宿にセリーナとシャロンに候補を探しに派遣する。すると意外な立候補者が現れた。ガンツ伯の家宰のデニスだ。捕虜達と面談していたらしい。捕虜に面会禁止は言い渡していなかったのでそうなるか。流石にガンツ伯陣営も手回しが早い。

 

「ユルゲン様のご遺体を王都に運ばれるなら我らも同行させてください。」

 

もう1人は捕虜となる前は護衛役だったそうだ。ベンジャミンと名乗る。確かに乱戦の中でガンツ伯近くでその姿を見た記憶がある。適役かもしれない。

 

「王都に行き証人となれば陛下の取り調べが終わるまで戻れないだろう。俺達は請願が終わり次第ガンツに戻る。王都に残る形になっても構わないのか?」

 

「はい、我らはそれが望みです」

 

デニスが明言する。俺を見るデニスの視線には敵意がある。確かに敵である俺達に占領されるガンツに居続けるより、ガンツ伯の遺体と王都に去る方がいいか。デニスからは敵に協力する姿勢を良しとしないようにも感じられた。

 

(艦長、この2人はガンツ伯家でも間違いなく高位にあるようです。指揮官級を逃す事になりますが宜しいですか?)

 

(構わないさ。ガンツに居座って抵抗運動されるより、王都で解放して、その間にこちらがガンツの支配を固める方が都合がいい。後継者候補が多い方が互いに争う可能性もある。)

 

証人として俺達に有利な証言をさせるように約束させようか。いや、無駄だな。彼らは敵であり、証言すべき事実も変わらない。我々は自らの力でやっていくべきで、ガンツの統治に敵の手まで借りる必要はないだろう。

 

「分かった。受け入れよう。ガンツ伯の後継者に仕えるといい。」

 

何も言わずにデニスは深々と頭を下げた。思いの外手間取ってしまったが出発の準備は整った。さあ、出かけるとしよう。

 

 

グローリアの鞍は拠点に保管してある。門外まで見送りに来てもらい、グローリアを呼ぶと鞍を取り付ける。俺とエルナ、シャロン、デニス、ガンツ伯の護衛のベンジャミン、ガンツ伯ユルゲンの死体で6人となった。

 

グローリアに魔石を与えてから飛行開始だ。

 

(グローリア、イーテン伍長が先導するから王都まで頼む)

 

(分かりました!)

 

グローリアは力強く羽ばたくと、俺たちを乗せて飛翔を開始した。

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