【二次小説】航宙軍士官、星を統べる (原作:航宙軍士官、冒険者になる)   作:高坂 源五郎

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Ⅲ 統一戦記 74話 【対イリリカ戦争編⑦】 決着

Ⅲ 統一戦記 74話 【対イリリカ戦争編⑦】 決着

 

降伏した敵兵に足を触れられ、ルート少尉は倒れて動かなくなった。彼女に指揮された兵達は、“何か異常があったのでは”と怪しみ訝しむ。何かそう、毒のような物を使用した攻撃が行われたのではなかろうか。

 

彼らはルート少尉と共に倒れている降伏兵を蹴り飛ばして排除し、ぐるりとルート少尉を取り囲むと心配そうに見守った。毒ならば対応は急務だ。しかし、士官の身体にはみだりに触れられない。流石に転倒したというだけでは、指揮下の兵が女性士官の鎧を剥ぐ理由にはならない。

 

タイツ状の衣服の上から脛当てを装備する華麗な貴族式の魔法鎧装着方法と異なり、人類スターヴェイク帝国軍の魔石式のパワードスーツは関節部に隙間がある。その隙間は、ミスリルの鎖帷子と綿の分厚い鎧下を着用する事で守られている。

 

これはパワードスーツのパワーアシスト機能の為だ。魔物の骨とバネを利用した外骨格式に改められている為、関節の可動域が広く設定されている。だからこそ、パワードスーツの関節には隙があるのだ。

 

骨格と装甲が上から覆い被さる構造の為、立ち会う敵が槍や剣では攻撃しづらい位置にある。だが、下から関節に手を潜り込ませれば、鎧下と靴下の隙間から装着者の素肌に触れることさえ可能だろう。

 

このような大きな隙が許容されているのは、パワードスーツ着用で文字通り強くなれるからだ。敵に接近させるような展開はまずない。総司令のコリント卿は力強く軽快に動けるパワードスーツ実現のために、多少の粗は許容した。

 

そのような粗を抱えての運用となった背景として、回復魔法(ヒール)の存在も大きい。致命傷を負っても、即死でなければ身体は癒せるのだ。また宙兵や候補生以上に注入されたナノムも、毒物への効果的な対策となる。その上でトイレのような小用を足す為の着脱性能も考慮すると、利便性重視でこのような形になった。

 

心配そうに見守る兵に囲まれて、倒れていたルート少尉がむくっと起き上がる。意識を飛ばしていた時間は短い。それは兵がこの先どうしようかと、顔を見合わせていた 1分に満たない僅かな時間に過ぎなかった。

 

「大丈夫、なんでもないわ。ただ驚いただけ。降伏した者の移動を続けさせなさい。」

 

「はっ」

 

“元貴族のお嬢様が、よく分からない男に触れられて硬直していただけか。”この事態をそう受け止めた兵達に、安堵の気配が広がる。兵達に両腕を捕まれ、ルート少尉が兵達に助け起こされる。

 

「こいつはどうしましょうか。気絶したようですが?」

 

「きっと、いい女に触れられて満足したんだろう」

 

下卑た笑い声が上がる。コリント卿の規律は厳しいとはいえ、男社会の意識はそう簡単に変わらない。

 

「体調の悪い者は、他の降伏兵に運ばせなさい。速やかにこの遺跡から彼等を退出させるのです。」

 

重ねてルートが指示する。少し混乱した事態は急速にあるべき姿に正常化されていった。

 

 

 

 

「イザークの姿は、どこにもないか。」

 

俺の問いかけに、コントロールルームの包囲を担当したカーヤ少尉が応える。

 

「はい。こちらで確認した限り、これまで降伏した兵の中にも紛れてはいなかったようです。この後には遺跡のコントロールルームを残すだけです。」

 

そんな俺達の様子を、もう一人の補佐役であるルート少尉は興味深そうに眺めているだけである。

 

扉が閉ざされたコントロールルームの入り口は、既に味方の兵に囲ませていた。他の大遺跡を見てきた俺にはわかる。ここは大広間と異なり、物が多いので中はニ十人も入ればいっぱいの部屋である。

 

ただ、その背後には更に倉庫として使われる部屋がある。そちらに食料を用意してあれば、長期の滞在も可能だろう。

 

「これはコントロールルームに立て籠ったかな。」

 

敵に立て篭もられるのはあまり好ましい状況ではない。この大遺跡は堅牢さからも重要性からも、物理的に大遺跡を破壊して突破するのは難しい。加えてこの世界にはウォーターの魔法があり、水の補給は事実上無制限に近い。食料が続けば、中に立て籠もれる期間は相当長くなる。

 

勝敗が覆るような事はないだろうが、対策としてそれなりの人間を貼り付けておくとなると消耗するだろう。この場で足踏みすることは何より完全勝利に対しての寸止め感が強く、足元を見た新たな抵抗勢力の誕生など予期せぬ事態を引き起こしかねない。

 

「ルート少尉、君は何か気がついた事はあるか?」

 

俺は彼女に水を向けてみた。

 

「そうですね。」

 

教師に教室で指名された生徒のように、ルート少尉は滑らかに意見を陳述する。

 

「中の者達は、可及的速やかに降伏するべきです。コリント卿の大陸統一はもう間近であり、決着はつきました。」

 

突如勢いよく喋り出したルート少尉の声とその内容に、カーヤ少尉がたじろいでいる。この大音声は味方の兵に聞かせる為か?

 

いや、コントロールルーム内の敵兵にまで声を届けようかとするほど大きい。それも声量を調節するのが下手な子供のような抑揚の乏しい大きな声である。

 

「速やかに降伏したなら、統一実現の偉大な瞬間に華を添える事が出来るのです。閣下も降伏した者を悪いようにはされないでしょう。」

 

まるで彼女のその言葉に呼応するように、大遺跡の扉が内側から開き始めた。

 

「コリント卿、私は降伏する。」

 

そう声をかけてから、武器を携えずに中から姿を現したのはバルスペロウである。彼は忽ち警戒にあたっていた兵たちに取り押さえられ、床にねじ伏せられた。

 

「カーヤ少尉。構わずコントロールルーム内に突入しろ。彼の事は俺とルート少尉で対応する。」

 

「了解」

 

短く返事をしたカーヤが、この機会を逃すまじと兵を取り纏めてコントロールルームの占拠に乗り出す。カーヤの指揮する兵達が、開かれた扉からドヤドヤとコントロールルームに乗り込んた。

 

「もう、中には誰もおらんよ」

 

その様子を見たバルスペロウが誰に告げるともなしに言う。

 

「イザークはどこにいる?」

 

「その答えを言う事は、私には禁じられている。これはサイヤン帝国の民に課せられた強制力だ。コリント卿なら、そのような呪いにも似た力のイメージを持てるのではないかな。」

 

(ルミナスの、あの謎の支配力と似た類か)

 

イザークはルミナスの使徒として神話に名を残す人物である。それだけ高い地位であり、支配する為の手立ては用意していたのだろう。

 

バルスペロウとは一度だけだがアレスで顔を合わせた事がある。統一を決めたこちらの力を思い知ったからか、バルスペロウは以前よりもこちらに好意的に見えた。あるいは素直になったという事だろうか。

 

「君のように降伏した者については聖女ルミナスにその処置を委ねるつもりだ。ただ、スターヴェイク王国で反乱を扇動した者に対しては、その罪は問う事になるが。」

 

バルスペロウは沈黙していた。スターヴェイク王国について語る事が何もないか、或いは有罪だからこそ口をつぐんでいるのか。どちらにせよ、沈黙されると彼の思惑は判別しづらかった。対象が何も言葉を発しなければ、その内容が嘘か真実か判定する材料さえ存在しなくなるのだ。

 

 

 

 

 

カーヤはコントロール内に踏み込んだ。コントロールルームの中は、バルスペロウが語ったように誰もいなかった。カーヤのナノムのセンサーにもまるで反応がない。カーヤは周囲に警戒の兵を立たせると、更に奥にある倉庫内部へと残る部下を突入させた。そして自身は大遺跡を操作すべくコンソールに向き直る。大遺跡の掌握こそが急務なのである。

 

ルートとカーヤが士官候補生教育を受けた際、遺跡の管理手法についてもイーリスの薫陶を受けている。彼女達はユーミの宙兵隊訓練、ユッタのパイロット訓練、マリーの専門家教育に代わる対象として大遺跡の技術の取り扱いを学んだ。

 

人類スターヴェイク帝国における最高の専門家はあくまでイーリスである。しかし来るべきこの日、最後の大遺跡を占領して人類スターヴェイク帝国のシステムに組み込む為の準備は整えてあった。

 

カーヤが持っているクリスタル、それはイーリスが用意したプログラムを大遺跡に注入するデバイスとなる。

 

イーリスからこのようなコンソールに仕掛けるトラップの類は色々存在すると聞かされている。イーリスと異なり、彼女の知識の範囲は狭い。何か予期せぬ仕掛けがあれば、すぐお手上げになってしまうのだ。

 

「女神ルミナス様、全てがうまくいきますように。」

 

そう祈りの言葉を口にしてから、カーヤは大遺跡のコンソールを操作を開始した。

 

 

 

 

 

(遺跡の完全掌握を終えました。しかし、イザークと思しき人物はコントロール内にも倉庫内にもいません。)

 

(よくやった)

 

俺は外部に連絡を取る為に、兵と共に大遺跡の外に向かった。遺跡内部に接続されたアンテナを設置していない以上、戻らねば近傍でも大遺跡内外の通信は困難なのだ。ルート少尉が俺の後に続く。

 

カーヤ少尉の大遺跡掌握成功は大きかった。これまでイーリスが担ってきた部分を、候補生として一から教育した士官が成し遂げたのだ。

 

孤児を集めて学校で学ばせ、選抜して士官教育を行う。その全ての積み重ねの上に今回の成功がある。そう考えると、何やら感慨深い。

 

最後の大遺跡の占拠により、軌道上の〈イーリス・コンラート〉は安泰になった筈である。しかし今は感慨に耽るより、イザークを取り押さえなければならないだろう。奴を野放しにしては、こちらが枕を高くして眠る事など出来るはずがない。どのような能力を隠し持っているか、知れたものではないのだ。

 

大遺跡を出てた事で、外部との通信状態が回復したのを確認する。

 

(セリーナ、シャロン。そちらに送り出した捕虜の中にイザークが紛れている可能性が高い。コントロールルームの警備用を除き、偵察ドローンをそちらに振り分ける。捕虜の中にイザークが潜んでいないか捜索してほしい。」

 

((了解しました))

 

ふと気がつくと、ルート少尉がすぐ横にいた。

 

「カーヤは、まだ戻りませんか。」

 

そう言いながらルート少尉は、俺の表情を覗き込むようにして小手を外した素手で俺の頬に触れようとする。違和感を感じて、すんでのところで俺は彼女の動きを回避した。兵が見てるのだ。作戦行動中に、いや、いつであれ部下にそのような行為をさせる気はない。

 

彼女は俺の妻でも婚約者でもないし、馴れ合いは兵の士気にも関わる。イザークを未発見の今、兵を弛緩した空気にさせるわけにはいかない。俺に媚びるような彼女を叱責しようとして口を開きかけて、俺は彼女を見て何か奇異な感触を抱いた。

 

いつからルート少尉はこんな馴れ馴れしい真似をするようになった?彼女は貴族令嬢とした育てられた。軍人にスカウトしたのは俺だが、今の彼女の男に媚びた振る舞いはどこか強烈な違和感を感じる。ルート少尉の真意を探ろうと、距離を保ちながら彼女の瞳を覗き込む。

 

上手く形容出来ないが、俺を見返すルートの瞳の中には確かに彼女がいて何かを懸命に訴えかけていた。しかしそんな様子を見せたのはほんの一瞬だった。彼女はすぐに表情を取り繕う。

 

もう、この場にいる彼女は俺の知るルート少尉ではない。何かルート少尉とは異なる異様な者が彼女に取り憑いている。どこかそんな奇異な印象を俺は抱いてしまった。

 

総司令としての権限を行使する。彼女のナノムに介入し、必要な措置を講じる。彼女の履歴を辿った。いつからだ、いつから彼女はおかしくなった?

 

降伏者に触れられて転倒した記録をナノムが表示する。そうか、ルート少尉が何かに感染させられだとしたら、きっとこれがきっかけだったのだろう。

 

「すまない、疲れていたようだ。」

 

ルート少尉にはそう声をかけて微笑む。ルート少尉も俺に微笑み返す。そして彼女は俺の頬に手を伸ばし、そっと俺に触れた。

 

そして何も起こらなかった。

 

そうと分かると、彼女は先ほどまでの穏やかで余裕に満ちた表情を一変させた。顔に張り付けていた媚びた表情を取り去り、その奥の醜悪な本性を剥き出しにする。その表情の変わり方は、ルート少尉の中に別の人格が生じたと疑わせるのに十分だった。

 

何も言わず、彼女はパルスライフルを構えると俺に向けて狙いを定めた。突然魔道具を操作する彼女の姿に、兵が訝しむ声を上げる。俺は手を振って兵達の騒ぎを鎮めた。俺が魔法を使えば制止出来るだろう。だが、今は彼女が何をするか見届ける必要がある。

 

ルート少尉だった存在は、もう俺への憎悪を隠さずに剥き出しにしている。しかし、俺には彼女に恨まれる覚えはない。

 

彼女は候補生として功績を立て、俺はその褒章を与えた。あの時、兄に格好の仕事が見つかって彼女は心底喜んだように見えたのだ。もし俺に恨みを抱いているなら、あの時にあのような表情を見せただろうか。

 

「ルート少尉、君は一体どうしたんだ?」

 

「やはりお前は異常なのだな。私に触れられて入っていけない、触れた感触さえない対象はお前が初めてだ。」

 

底冷えするような寒気を感じさせるしゃがれ声。発せられる声は間違いなくルート少尉の物だが、語り口はイザークのものである。

 

「お前は、イザークか!?」

 

「流石に聡いな。だが、永遠にお別れだ。お前を撃ち殺し、クレリア女王にでも宿るとしよう。」

 

ニヤリ、とルート少尉が口を歪める。

 

「待て」

 

もう少し情報を引き出そう。俺がそう声をかけてもイザークは止まらない。勝利を確信した奴はパルスライフルの引き金を引く。ルート少尉の肉体を利用する事で、安全装置は突破される。収束したレーザーパルスが銃口から放たれ、イザークの目の前で俺の肉体はズタズタに引き裂かれて消失した。

 

「・・・満足か?」

 

今度は背後から俺が声をかけると、イザークは慌てた様子で振り向く。そして闇雲に銃を乱射し始めた。パルスライフルの放つ閃光が虚空に吸い込まれる。銃口を避けようと兵が慌てて頭を下げる。

 

「コリント、貴様どこにいる。今のは幻か?」

 

「ナノム、司令官権限を行使する。ルート少尉のナノムに指示して彼女を拘束しろ。ルート少尉は見ての通り錯乱し、上官に危害を加えようとしている。何らかの外部操作を受けていると判断する。」

 

ルート少尉に注入したナノムは即座に了解し、彼女の神経伝達を阻害して拘束した。パルスライフルを投げ出した彼女は跪かされ、両手両足を地につく。

 

「君の行動に異常を感じてから、念の為に俺の姿は仮想表示させていた。本物のルート少尉なら即座に現実ではないと気がついた筈だが、ナノムを知らない存在だと仮想表示とは見抜けなかったようだな。」

 

イザークに乗っ取られたルート少尉は、これまで俺が見せた仮装表示に従い虚空に向けて攻撃をしていたのだ。

 

肉体を乗っ取っても、知覚する能力は肉体側に依存する。そして以前、ルミナスはお茶会の場で“ナノムは彼女達の文明には存在しなかった”と俺に語っていた。

 

ならばイザークもナノムの存在を知るはずがない。俺が付け入る隙がそこにあった。ナノムは軍事用である。本来は個々人の身体操作は本人の意思に基づく必要がある。だが、身体を損なわない範囲での拘束などは司令官の権限により行える。

 

これは最初にグローリアを捕縛した際に行ったのと同じ措置だ。しかし士官の拘束の実行には、一定の根拠が必要になる。無条件で司令官に行使されて良い権限ではないからだ。だから見定める為に“上官に銃を向け躊躇なく発砲した”事実を確認した。これはナノムによる拘束を実行する要件を満たす。

 

仮装表示の操作については、予めルート少尉を含め全員にナノム注入時点で了解を取っていた。これも本来はイーリスなど艦載AIや指揮官や同僚士官がナビゲーションする為の表示権限を付与する仕組みだ。

 

実体にどれだけ近づけるかは、設定者の裁量次第だ。利用者が注意深く観察すれば、それが仮装表示だと分かる。しかし真に迫った映像を初めて見る者には、実物との違いは全く判別出来ないだろう。

 

「お怪我は?」

 

「閣下、問題ありませんか?」

 

周囲の兵達が口々に俺に問う。ルート少尉が錯乱したので、俺が措置をしたように見えた筈だ。

 

「ああ、問題ない。ルート少尉はイザークに幻覚を見せられたようだ。拘束したから不安はないが、誰も彼女に触れないようにな。少し離れていてくれ。」

 

「かしこまりました!」

 

兵達に安堵した空気が広がる。ルート少尉が降伏兵に触れられて倒れて以来の異常が修復され、事態が正常化される匂いを感じたのだろう。

 

しかしルート少尉はどうしよう。彼女を殺す選択肢は無いものとして考える必要はあるが、それだとイザークを封じ込めるのには限界がありそうだ。

 

「イザークとは、実に厄介な敵だな。」

 

俺は頭を振ると、出来る事から始めた。

 

(ユッタ少尉、上陸艇(エアシップ)を飛ばして軌道上の〈イーリス・コンラート〉に通信封鎖の終了を指示してくれ。コントロールルームはカーヤ少尉が占拠した。)

 

イーリスの健在は前回の飛行で確認済みである。コントロールルームを占拠した以上、この場にイーリスを呼ぶ。

 

(了解しました)

 

待機していた上陸艇(エアシップ)が飛翔を開始する。知りたがりのイーリスは必ずこちらをモニターしている。上陸艇(エアシップ)の行き先が判明すれば、イーリスの方で必要な対応を取るだろう、

 

ルミナスのいるアレスは流石に遠い。〈イーリス・コンラート〉の中継無くして通話は出来ない。

 

まずはルミナスとイーリスを交えて対処法を練ろう。この二人がいれば、ルート少尉に取り憑いたイザークの処置という難問さえも対処可能だろう。

 

 

 

 

 

「お呼び出しに従い参上しました。」

 

冗談めかしたイーリスが俺の前で膝をつき頭を下げる。イーリスの背後には護衛としてのマシラを従えたルミナスも立っていた。

 

通信回復は早かった。イーリスは予め艦内で通信アンテナを組みあげていたのだろう。安全確認さえできれば、惑星全体を覆う通信環境が再開されるまで一瞬だった。イーリスの義体もルミナスも、転送門さえ開通すればすぐ呼び出せる。

 

ルミナスへの状況説明までイーリスに任せてしまえば、ルミナスを連れたイーリスが現場に乗り込むまでには二十分も消費していない。そこからイーリスがバルスペロウへの尋問などを行い、トータルで一時間ほどを費やしていた。セリーナとシャロンからは厄介な捕虜の問題に対処中と連絡があった。

 

「イーリス、今はそんな事をしている気分では無いんだが。早速だが、結論を出たのなら教えてくれないか。」

 

ルート少尉未だにナノムに拘束され、地に四つん這いに伏せている。こちらの動きを悟られ無いように、視覚と聴覚も遮断した。その結果、ルート少尉の口からは、「苦しい」だの「助けてください」と言った哀願悲痛な声がしていた。イザークの差し金と分かっていても、こちらが措置した結果でもある。罪悪感を感じずにはいられない。

 

口の動きの制御も切り離せるが、ナノムを常にモニターしていないと異常をこちらが検知できずに窒息するリスクもある。異常を見過ごさない為の保険も兼ねて、口の制御はそのままにしていた。

 

この場の兵はルート少尉の異常行動を見ていたからこちらを疑うようなことはないが、この様子では後々ルート少尉がやりにくくなるだけだろうな。

 

イーリスがルート少尉の状態を再確認してから話し始める。

 

「まず、今のイザークは精神体であると意見の一致を見ました。精神体を宿した肉体は、皮膚の接触した対象の肉体を乗っ取る能力を得ます。精神融合を果たせば対象の肉体を乗っ取り精神侵略する能力を失いますが、その肉体本来の精神は死亡します。」

 

「つまり、まだルート少尉の精神は生きているんだな?」

 

「はい。」

 

イーリスが頷く。彼女の返答は短い。それはイザークを一番確実に始末する方法が、ルート少尉の肉体ごと葬り去る方法だからなのだろう。

 

「ではルート少尉を救出し、イザークの息の根を止める方法はあるか?」

 

「ルミナスやアウジリオ少尉とも相談し、捕虜からも意見聴取しました。可能性のある方法が二つ存在します。」

 

「聞かせてくれ。」

 

「一つはイザークを従える道。閣下がイザークを生かしておかれるのなら、この私の義体のような肉体を彼に提供されれば良いでしょう。」

 

「それは難しいだろうな。」

 

イザークが今も平穏無事なのはルート少尉の肉体を人質にしているからだ。俺とイザークは相容れないし、イザークとてそれは同様だろう。

 

そもそも、義体の育成にはそれなりに時間がかかる。その間、ルート少尉の肉体を占有させ続けるのでさえ問題がある。この問題は速やかに解決する必要がある。

 

「ええ,私とルミナスも同意見です。イザークは滅ぼされるべきでしょう。その場合、イザークの抱え込んだ秘密は全てこの世から消え去ります。」

 

イザークの抱える秘密が消え去る。それは何を意味するのだろうか。スターヴェイク王国転覆の意図、〈イーリス・コンラート〉が大破させられた理由、そもそもを辿ればイザークがルミナスの死後に何をしてきたかもだ。

 

「そもそも、ルミナスは若くして死んでいたな。」

 

「ええ、彼女の死の真相にもイザークの関与があったのかもしれません。しかし我々がそのような大昔の出来事をイザーク本人から聞き出す必要があるのでしょうか。」

 

そう俺に問いかけるイーリスは、最初のふざけた様子とは打って変わって真剣な様子である。俺はルミナスの方に視線を向ける。今は何も発言していない。しかし俺の決断次第でルミナスの出方もまた変わるのだろう。

 

イザークから秘密を聞き出そうとすれば、ルミナスと敵対する選択肢もあるのかもしれない。ルミナスの姿はどこか俺に話しかけられるのを拒むようなそんな素振りに見える。

 

「このまま、眠らせたままにした方が良い真相もあるということか。」

 

イーリスは何かしらの情報や感触のようなものを掴んでいるのだろう。それは事実というよりら彼女の高度な演算力による推論に近い。その上で、ルミナスとの関係を維持するのなら伏せたほうが良いとそう判断しているようだった。

 

「そもそもイザークに何かを語らせた所で、それはイザークから見た真相でしかありません。」

 

嘘は嘘と見抜けるかもしれない。しかしそこから真相を追求するのは難しい。そして知ってしまえば無視できない厄介な真実というものも存在する。

 

これは今は忠実な兵となったアロイス諸侯にも当て嵌まる話だ。かつての秘密を知られているとしれば、彼らも安泰ではいられないかもしれないと不安に駆られかねない。

 

敵を味方に為すのは綺麗事ではない。過去の言動を詮索するより、過去は全て闇に葬り去る方が良い事も多々あるのだろう。必要な事柄に絞り込めと、そういう事か。

 

「真相とやらを追求する気はない。兵器の完全掌握を行い、艦が同じ攻撃に晒される可能性を排除する。イザークがスターヴェイク王国に仕掛けた謀略が繰り返されないよう、首謀者を処罰する。大遺跡を掌握し、人類スターヴェイク帝国の物とする。その三条件が達成されれば、こちらはそれでいい。」

 

「賢明なご判断です。」

 

イーリスが俺の宣言にホッとした表情を見せる。ルミナスは表情を変えないが、心なしかその周囲の空気が緩んだ気がした。少なくともこちらの決定を聞き、緊張が緩和したのを感じる。この対応で正解だったのだろう。

 

「大遺跡の完全掌握は出来た筈だな。例の兵器の管理権の掌握はどうなっている?」

 

「はい、こちらで制御権を確立しました。問題ありません。」

 

「どうやった?」

 

「事情を知る捕虜が、彼の見た見た全てを話してくれました。ルミナスの権限により、この捕虜はイザークの課した制約が上書きされましたから。」

 

「バルスペロウか。」

 

イーリスが黙って頷き肯定する。

 

「バルスペロウからはこのような兵器の提供も受けました。」

 

イーリスが鳥に似た兵器を仮装表示させる。サイヤン帝国の大型のドローンだろうか。

 

「透明化する機能は持ちませんが、ミスリルを用いた装甲は偵察ドローンとは段違いの強度です。この為、偵察ドローンの保持する火力では破壊困難です。色々な思惑から稼働させなかったようですが、実戦投入していればこちらの偵察ドローン群は大いなる被害を受けたでしょう。」

 

「敵は、そんなものまで用意してあったのか。」

 

イザークがこれを利用しなかったのは、俺の肉体ごと全戦力を乗っ取る策を重視していたからだろう。ルート少尉が相手だから見抜けた。しかし、初手で使われていたら対策できなかった可能性は高い。

 

「この鳥型ドローンで上空を固められたら苦戦していたな。」

 

実際のところ、人類スターヴェイク帝国が野戦において連戦連勝なのは敵の布陣を文字通り直接見ているからだ。偵察ドローンによるリアルタイム観測を妨害されれば、野戦で敵に敗れる展開もあり得ただろう。この鳥型ドローンは、戦闘に限ればこちらのドローンを上回る可能性を秘めている。

 

「探知性能はどれくらいだろう?」

 

「こちらの偵察ドローンは魔素を用いた探索の遮蔽は行なっていません。この鳥型ドローンは魔素の濃度を把握可能です。透明化させて光学的に捉えられなくても、魔素を弾くドローンは容易に位置を特定され兼ねません。」

 

「偵察ドローンの全滅もあり得たか。」

 

「ええ、恐るべき兵器です。イザークが艦長の体を乗っ取れると判断した為、こちらの戦力を温存する方針で幸いでした。」

 

「さて、それではイザークを始末する方法について聞かせてもらおうか。」

 

「それは私から説明するわ」

 

それまで様子見を決めていたルミナスが、ようやく前に進み出た。イザークの措置という試練を超えた事で、ようやくこちらに心から協力する姿勢を見せた。そんな素振りに見えた。

 

 

 

 

 

ルミナスが示唆した対処方法はシンプルなものだった。コップ一杯の毒薬も、大海に混ぜればその効力を失う。それと同じように、イザークの意識を複数の人間に同時に拡散させれば良いのだという。

 

「十人を同時に相手にすればイザークは意識を保てずに無害化出来る。百人も同時接続させれば十分でしょう。」

 

百人が手を繋ぎ合った状態で、その中の誰かがイザークに触れれば良いのだという。

 

「それでイザークは自我を保てずに崩壊します。」

 

「イザークの意識の残滓はどうなる?」

 

「こちらの中にはイザークの意識は何も残らないわ。彼の記憶は一瞬だけ解放される。それは人のアルバムを一瞬だけ見るようなもの。説明されなければ、何を意味するイメージかも分からないわ。そしてそれを見た者も、夢を忘れるように見た光景をすぐに忘れていくでしょう。」

 

金貨一枚を褒賞に、兵から志願者を募る。大勢が志願したのは、少なからずルート少尉が支持されていたからと思いたい。金貨に釣られたわけではないだろう。

 

「では、始めようか。」

 

百人の人間がひと繋がりに手を繋ぐ。それは異様な光景である。しかしどこか平和的な光景でもある。

 

 

 

 

 

「イザーク、もう聞こえるはずだ。最後にお前に話がある。」

 

アラン・コリントの声が聞こえる。聴覚と共に視力も戻ってきた。イザークが今肉体に入り込んでいる小娘との精神融合を果たさないのは、この最後の交渉の為だった。

 

融合して全てがイザークとなれば、人質は消滅して交渉の余地はなくなる。だが人質さえ抱えておけば、交渉の余地は常にある。イザークの知識はこの惑星を支配する上で有用な筈である。交渉が成立する余地はゼロではなかった。

 

「いいだろ、アラン・コリント。話がしたいなら、まずは我が要求を伝えよう。」

 

「イザーク、聞こえますか。」

 

提案を遮るその声に、イザークは確かに聞き覚えがあった。イザークは狼狽えた。それは次々と精神を融合して新たな肉体に乗り換えて来た彼が、久々に見せた狼狽だった。

 

「そんな、まさか。」

 

ルミナスがイザークの視界の前に姿を表した。

 

「イザーク、お前のこれまでの忠勤には感謝しています。しかし、お前は祖国を滅ぼした者たちへの復讐を私に強要した。そして私が人並みに平凡な人生を過ごす事を、お前はけして許さなかったわ。」

 

「ルミナス、さ、ま」

 

「これまでずっと、お前が私に植え付けた復讐心と罪悪感が私を苛んで来た。お前の手で女神にまで祭り上げられた私に、他の在り方はもう許され無いのだろうと。」

 

ルミナスが黙ってイザークの手を握る。ルミナスの身体にイザークの精神が流れ込み始める。まだ会話を続けていたい。

 

「私は、貴女を、ただ」

 

イザークは目の前の皇女をただ庇護し、特別な存在としたかったのだ。ルミナスがこの惑星のアトラス王子との結婚を選択した時も、やめさせようと八方手を尽くした。それが行きすぎてのルミナス殺害だったのだが、イザークは後悔していなかった。

 

ルミナスは死して女神となり、イザークは使徒としてルミナスの代弁者たる地位を確立した。ルミナスは死後に祭り上げられて初めて、イザークにとって完璧なサイヤン帝国の象徴となったのだ。

 

イザークとてサイヤン帝国復活のために最善は尽くした。来るべきルミナスの復活に備えて肉体と精神を保存したのだ。だがルミナスは、女神に昇華させたイザークの功績それすらも拒否しようというのか。

 

「私は新たな夫と添い遂げて見せるわ。私が平凡で居られるのは、非凡な男の隣にいる時だけとようやくそう理解したのだから。」

 

ルミナスとイザークの手が接続された刹那、ルミナスを認識したイザークは引き離されるのを拒否しようとした。彼はサイヤン帝国復活の日がなんとしても見たかった。だが、そのまま強い流れに引かれてイザークの精神が次の肉体へと溶け出す。

 

「お別れよ。」

 

イザークの精神はルミナスの肉体を離れ去っている。ルミナスの最後の言葉はイザークには届かない。だがイザークの精神はルミナスから去る際に、わずかな幻影をルミナスの中に映し出していた。

 

かつてのサイヤン帝国の帝都、堂々たる尖塔に囲まれた都市の姿にルミナスは涙した。イザークがイリリカ王国で摩天楼を建設して再現しようとした光景は、このような尖塔に囲まれたありし日のサイヤン帝国の再来だったのだろう。

 

 

 

 

 

百人が手を繋ぎ、先頭のルミナスがイザークと接触する。電気のような光がルミナスの手からマシラの手、その背後の兵へと百人の繋がれた手を順々に伝達されていく。

 

最後の者まで光が到達すると、ルミナスが地に座り込む。そしてゆっくりと立ち上がった。

 

「・・・大丈夫よ、終わったわ。」

 

ルート少尉の脳波を測定しているイーリスが、俺の方を向いて頷いている。

 

「イザークの意識の消失を確認しました。もうイザークは蘇る事はないでしょう。」

 

「もしまだイザークが潜んでいても、こちらには分からないんじゃないでしょうか?」

 

恐る恐ると言ったら様子でカーヤ少尉が尋ねる。

 

「簡単よ、誰か別の人間が今の私達に触れてみればいい。」

 

カーヤ少尉が百人の最後の兵の空いた手を握る。何も起こら無い。今度はルート少尉の手を握る。やはりもう何も起こらなかった。

 

「・・・もうこれで済んだのか?」

 

「ええ、済みました。手間をかけさせたわね。」

 

振り切ったような笑顔でルミナスが微笑む。イリリカ王国とザイリンク帝国の首都はいずれも占領した。大陸の主要国は人類スターヴェイク帝国の会盟(アライアンス)に加わり、大遺跡は全て確保した。

 

ようやくだ。ようやく我々は人類銀河帝国へ帰還する準備を整え終えたのだ。

 

 

 

 

ジノヴァッツはイザークの支配を免れた。イザークがアラン・コリントの肉体を乗っ取ろうとしたのはジノヴァッツにとって行幸だった。

 

精神体が他の肉体に乗り移れば、支配されていた元の肉体は本来の精神を取り戻す。小隊指揮官の小娘にイザークが乗り売った事で、ジノヴァッツの肉体は捨てられた。肉体をイザークに捨てられたが故に、ジノヴァッツとしての人格はこうして復活する事ができたのだ。

 

アラン・コリントとイザークの決着になど、ジノヴァッツはつゆほども興味がなかった。どちらが勝つにせよ、自分の肉体を取り戻す以上に価値のある勝利はない。今ならばジノヴァッツに注目する者はいない。この最後の戦いを生きて終えられる。

 

イザークが肉体を離れてすぐに肉体の支配権は取り戻せた。だがまだ視界も聴覚も朧である。降伏したイリリカの兵に運ばれて、大遺跡の外に出る間に徐々に体の感覚が蘇ってきた。

 

肩をイリリカの兵士に支えられ無理矢理に歩きながら大遺跡を出て、ジノヴァッツは外の空気を深々と吸う。

 

再び自分の肉体で吸う外の空気は甘かった。その時、ジノヴァッツはこれまで彼を運んできた兵士に背後から短剣で刺された。神経が蘇ったばかりで鋭敏な感覚に激痛が走る。

 

「・・・再会できて本当に良かった、ジノヴァッツ様」

 

「タネン・・・。」

 

振り返ると、ジノヴァッツを貫いた短剣を握りしめていたのはイザークと共に小娘の前に跪いたかつての腹心の部下である。

 

昔、そうセシリオ王国を使嗾してジノヴァッツのアロイスとは別の戦線を形成させた時、セシリオのモレル大将軍の交渉を任せた部下がこのタネンだった。

 

「これはモレル大将軍からの挨拶です。」

 

ザクザクと八つ当たりするようにタネンがジノヴァッツの背を切り刻む。タネンに刻まれながらもジノヴァッツは記憶を探る。

 

肉体を乗っ取られた後、イザークはセシリオにいたはずのタネンの復帰を疑いもせずに受け入れていたのだ。人類スターヴェイク帝国に尻尾を振らなければ、到底祖国に帰り着け無い位置にいたはずなのにである。

 

「これで私も勝った側に回れます。モレル大将軍に拾われて、本当に運が良かった。」

 

「タネン、お前はモレルに騙されているぞ。ニ、ゲ、ロ」

 

死を間近に控えたジノヴァッツの頭脳は冴え渡る。モレル大将軍には、タネンを生かすつもりなどないだろう。ジノヴァッツがかつてタネンをそうしたように、タネンはジノヴァッツを始末する為の使い捨てに出来る駒でしかないのだろうから。

 

「モレル大乗軍はジノヴァッツ様こそ、イリリカ随一の脅威と見抜いておいででした。そんな貴方を始末できるのは私しかいない。それで私は遣わされたのです。大人しくしていてくださいね。今、楽にして差し上げますから。」

 

タネンの操る鋭利な短剣がジノヴァッツの首の下にあてられる。それはかつてジノヴァッツがタネンに仕込んだ短剣による暗殺術であった。

 

滑らかな動きで研ぎ澄まされた刃が横に引かれる。タネンの短剣はジノヴァッツの頸動脈と気道を一息に切り裂く。鮮血が溢れ出した。大きく切り割かれて、ジノヴァッツの首がまるで別の生き物のように音を上げる。

 

苦しい、息が出来ない。傷口からは血が溢れ出して止めようがない。傷口を押さえてジノヴァッツが地に倒れ込む。騒動に何事かと駆けつける兵隊に、短剣を握りしめたタネンが宣言する。

 

「私はモレル大将軍の配下だ。大将軍の指示により、この敵を討ち取った!」

 

この場にいるのはアロイス諸侯の兵である。味方でありはするが、この地に派遣されていないセシリオの大将軍の名を出されて戸惑った。指揮官であるセリーナとシャロンが呼ばれる。その間にも、武器を振るったタネンは拘束される。

 

「ひどい怪我ね」

 

シャロンは裂かれた捕虜を見て眉を顰めた。まだ息があるのが不思議である。このまま見過ごせば、即座に消える命だろう。

 

「傷口が多い。でも私達が二人同時に回復魔法(ヒール)を使えば救えるかもしれ無い。」

 

「試す価値はあるわ。この男は何か重要な事を知っているのだろうから。」

 

「時間がないわ、やりましょう。」

 

セリーナとシャロンの放つ温かな光がジノヴァッツの全身を包み込む。こうしてジノヴァッツは敵の手に落ちながらも、一命は取り留める事になる。

 

 

 

 

天幕の中、仰向けに寝かされていたルート少尉は意識を取り戻した。

 

「ここは?」

 

そう言って起き上がりかけると、記憶が一気に蘇って来た。

 

「・・・私、どうしてあんな事、信じられない。」

 

肉体を乗っ取られていたとはいえ、何をしたかは全て鮮明に記憶していた。

 

「あんな風にコリント卿を誘惑しようだなんて。しかも兵達の前で。」

 

よりにもよって総司令に媚を売って近付こうとしていたのだ。あの時は本気で、この肉体の魅力で総司令を落とせると、そう考えていたのだ。

 

しかも拘束されてからはさらに酷かった。口が動くのは良いことに、ありとあらゆる内容の事を口走っていたのだ。

 

「・・・もう、お嫁に行け無い。」

 

羞恥心で顔を紅潮させながら、ルート少尉は外に出る勇気を持てずにずっとその場で身悶えしていた。

 




バルスペロウは本来ここで死ぬ予定でした。実は死亡シーンも先に書き上げていたのですが、なぜか話がそちらに繋がりませんでした。話の流れ的に大遺跡のコントロールルームに立て篭もり、中から戸を開ける存在が必要になった為です。

ジノヴァッツの末路も、部下の裏切りに合う形と最初から決めていました。タネンはその為に用意した存在ですが、バルスペロウが生き残ったのでセットで復活しました。
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