【二次小説】航宙軍士官、星を統べる (原作:航宙軍士官、冒険者になる)   作:高坂 源五郎

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Ⅲ 統一戦記 75話 【間話①】 崩壊

Ⅲ 統一戦記 75話 【間話①】 崩壊

 

人類銀河帝国政府が崩壊したこの数ヶ月間は悪夢の連続だった。ギャラクシー級戦艦[イリアス]が率いる赤色艦隊第二百二十二艦隊は、警戒中の探索領域で突如出現したバグスの攻撃部隊に蹂躙された。

 

「馬鹿な、バグスの出現表示など何処にもなかったぞ」

 

艦隊司令兼ギャラクシー級戦艦[イリアス]艦長のシンプソン准将は呻いた。

 

「艦隊司令、これは艦載AIが異常を起こしています。バグスは既に本艦に横付けし、内部への侵入を開始しました!」

 

副長の報告に、シンプソン准将は艦内の様子をモニターで確認する。確かにバグスの侵入警報が点灯し、侵入したバグスが暴れ回る様子が確認できていた。

 

「宙兵隊を集めろ、システムは渡せない。重要セクターは何としても死守するんだ。」

 

ギャラクシー級戦艦[イリアス]の艦載AIによるセンサー表示上は『周囲に敵影は無い』と表示されていた。しかし、その敵のいない筈の空間からバグスが突如奇襲してきたのだ。これで艦内に大混乱が生じない方がおかしい。

 

「表示が更新されました。敵影多数!」

 

「友軍誤射に注意だけして、全火砲を叩き込め!」

 

旗艦は艦隊内の全艦艇とリンクしている。特定の座標を攻撃するよう指示を下せば、麾下の全艦がそれに従う。その結果、バグスの戦列艦でも瞬時に蒸発させるほどの大爆発が巻き起こる。

 

「バグス艦の撃沈、確認できません。」

 

「目視しろ、何か痕跡があるはずだ。」

 

「何も、何もありません。」

 

攻撃を仕掛けた宙域にはなんの痕跡もなかった。ギャラクシー級戦艦[イリアス]は確かに敵の襲撃を受けている。その一方で敵が存在すると示唆された場所には、艦橋から目視した限りでは実際には敵の姿など無かった。

 

「僚艦に伝えろ、そちらからバグス艦の位置を報告せよと。」

 

「ダメです。全艦オフラインです。本艦の通信アンテナは既にバグスに破壊されたと思われます。」

 

バグス艦の早期破壊に失敗し、情報まで封鎖された。今も続々と艦内に後続を送り込まれている。この致命的な状況に、艦隊司令のシンプソン准将の背を冷や汗が伝った。

 

 

 

 

 

その頃、赤色艦隊第二百二十二艦隊内でこの問題の解決の糸口に気づいた艦があった。艦隊に六隻配備されているスター級重巡洋艦の中の一隻である。

 

先の一斉攻撃の際、[アイネイアース]は旗艦の指示外のバグス艦への攻撃も並行して行っていた。艦に取りつこうと接近する敵の迎撃は、艦長の権限範囲である。浮遊するバグス艦の残骸から、この標的は破壊出来たのは明らかである。

 

僚艦もそうする筈だと思い込んでいたのだが、気がつけば大型艦は全てバグスの接舷を許していた。

 

「艦長、旗艦[イリアス]からの情報共有が突如オフラインになりました。その結果、本艦の艦載AI[アイネイアース]のバグスの表示が全て正常と判明しました。どうやら、バグス艦影をAIが視認できているのは艦隊で本艦だけのようです。」

 

スター級重巡洋艦[アイネイアース]のサーラ副長は、緊張した面持ちでキャプテンシートのカース艦長に報告した。

 

「了解した。各艦に繋いでくれ。」

 

「回線、繋ぎました。」

 

「こちらスター級重巡洋艦[アイネイアース]、本艦の艦載AIは敵バグスを視認している。繰り返す、本艦はバグスを認識している。[イリアス]がオフラインになった現在、本艦のセンサー共有を受け入れられたい。早急に立て直す。」

 

「こちら[プシケー]、[アイネイアース]了解した。共有ありがたい。」

 

「こちら[レプティネ]、了解。」

 

「[ナウシカアー]、了解。共に戦います。」

 

少なくない僚艦は謝意と共にカース艦長の提案を受け入れた。しかしそれらは全てバグスの一次標的を免れたプラネット級軽巡洋艦やサテライト級駆逐艦といった小型艦である。依然、旗艦[イリアス]からの応答はない。そしてギャラクシー級やスター級の他の指揮官は先任順の争いをしていた。

 

「カース、貴様それは越権行為だぞ。」

 

ギャラクシー級戦艦[アンドロマケー]のテイラー艦長からカース艦長はそう詰られた。彼は戦艦の艦長であり先任である。シンプソン准将の次席指揮官は自分だと自負していた。

 

「テイラー艦長、目の前の危機に対処する為だ。必要ならこの戦闘後にどのような処罰も受け入れよう。今は艦隊の生き残りが最優先だ。」

 

「貴様の指揮は受けん。バグスと[イリアス]は既に相打ちになったのだろう。今は私が艦隊を立て直す。その言葉を覚えていろよ。貴様はこのまま退役だ。なんなら銃殺刑に・・・」

 

テイラー艦長が脅し文句を全て言い終わらぬ内に、ギャラクシー級戦艦[アンドロマケー]が爆散した。バグスの侵入を艦載AIが検知した為に自沈プログラムが作動したのだ。

 

バグスによるスター級重巡洋艦[テオ]の鹵獲未遂事件以来、艦載AIの行動指針はアップデートされた。エンジンや艦橋、メインフレームへのバグスによる侵入を検知したら即座に自沈するようになっている。それにはもちろん艦載AIの警告と避難誘導がセットの筈である。

 

「艦載AIが気がつかず警告を発しない内に、[アンドロマケー]は艦の内部の重要区画まで侵入されたのでしょう」

 

艦載AI[アイネイアース]の声にカース艦長は力無く頷いた。

 

「そうだろうな、テイラー艦長はバグスに侵入されている認識もなければ、自爆する意思など微塵もなかった。」

 

バグスとの艦隊戦は砲戦が主流であり、内部に侵入を許すような展開はまずない。だから通常は何段階も手前の段階で警告が発せられる。今回のように艦橋がバグスの接近に気つかないうちに侵入され、結果として艦が自爆するのはもはや自沈プログラムの悪用と言っていい。

 

「センサーを共有した艦には、センサー未共有の僚艦の監視にあたらせろ。バグス艦の接近を食い止めるのだ。本艦は、旗艦[イリアス]の救援に向かう。」

 

残るギャラクシー級は旗艦しかいない。だが旗艦のギャラクシー級戦艦[イリアス]には、既に複数のバグス艦がヒルのように張り付いていた。

 

「・・・今こちらに接近しているのは、スター級重巡洋艦[アイネイアース]か?」

 

接近する事で[アイネイアース]は[イリアス]との通信が回復した。バグスが取り付く際に優先的に[イリアス]の通信アンテナを破壊していたのだろう。それに伴い深刻な通信出力の低下を招いていたらしい。艦と艦が接近する事で、どうにか信号の受信条件を満たしたのだ。

 

今回のバグスの戦術は、旗艦を優先的に通信圏外に追いやる意図を持っている。その事に気がついたカース艦長はゾッとした。以前よりこちらの組織構造を把握し、的確な対処をしているのだ。

 

「はい、[アイネイアース]のカース艦長です。本艦の艦載AIは正常です。バグスを正しく識別しております。失礼ながらこちらで艦隊を立て直しバグスに対処しております。」

 

「それは良かった。カース艦長、君を後任の艦隊司令に指名する。本艦に何かあれば指揮を取り、艦隊を救いたまえ。」

 

既に残存する大型艦は[イリアス]と[アイネイアース]のみである。スター級はギャラクシー級より船体規模が小さい。内部にバグス侵入を許すと、そのまま持ち堪えられず次々と爆散した。

 

わざわざ指名せずとも、カース艦長が引き継ぐ事に決まっている。その時カース艦長は気がついた。バグスに通信アンテナを破壊された艦隊司令のシンプソン准将は、[アンドロマケー]をはじめとした僚艦の轟沈をまだ知らないのだ、と。

 

「艦隊司令、[アイネイアース]よりそちらに宙兵隊を乗り組ませます。今しばらく持ち堪えてください。」

 

この事態を打開すべく、カース艦長は提案した。恐らく優秀なクルーがバグスの侵入に素早く気がついたから、乗り組んだ宙兵隊の展開に成功して[イリアス]は自沈せずに踏みとどまっているのだ。

 

今なら2艦の宙兵隊を組み合わせれば[イリアス]は守れるかもしれない。だが、カース艦長の提案に応えた艦隊司令のシンプソン准将は淡く笑った。

 

「[アイネイアース]の救援には感謝する。だが宙兵隊の報告によると、メインフレームまで隔壁一枚まで迫られたようだ。乗員には脱出を指示した。そちらの回収を頼みたい。だが、まずは君の艦もこちらの自沈に巻き込まれないように距離を取りたまえ。」

 

「ならば、閣下も早く本艦に移乗してください。」

 

艦隊司令は頭を振ってその提案を拒否した。

 

「アップデート後、AIの挙動が信頼できなくてね。私が残って指揮をしないと、[イリアス]が最後まで指示通り動くと確信が持てない。不意を突かれると脆いモノだな、ギャラクシー級の戦艦も。」

 

そこで通信が切断された。[イリアス]からクルーを乗せた脱出ポッドが続々と発射される。カース艦長も[イリアス]の自爆予想範囲を外れるように指示をした。周辺のバグス艦を艦隊の火力を駆使して排除していく。敵の姿が見えていれば、バグスの旧式艦の寄せ集めなど怖くはない。

 

数分後、内部に侵入したバグスが[イリアス]の重要区画のいずれかに到達したらしい。バグスの艦と離脱の遅れた味方の脱出ポッドを道連れにして[イリアス]が自沈した。

 

「・・・残るバクス艦の排除を進めろ。」

 

「味方艦に取り憑いた敵艦以外は殲滅を完了しています。味方艦に取り憑いた敵艦も、[イリアス]の自沈で全滅しました。」

 

信頼するサーラ副長の報告に、カース艦長はようやく警戒を緩めた。ハンカチを取り出すと、顔から吹き出す汗を拭う。

 

「終わったのか、まさかこんな事が現実に起こるとはな。」




人類銀河帝国側の戦況を四日間連続でお送りします。
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