【二次小説】航宙軍士官、星を統べる (原作:航宙軍士官、冒険者になる)   作:高坂 源五郎

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Ⅲ 統一戦記 78話 【間話④】 再編

Ⅲ 統一戦記 78話 【間話④】 再編

 

スター級重巡洋艦[アイネイアース]が多数の小型艦を引き連れてアサポート星系にワープアウトした時、既に到着地では幾度かの防衛戦が行われた後だった。

 

ワープ航法は瞬間移動ではない。どうしても移動から到着までに時間を要する。大半の乗員はコールドスリープで一瞬の移動だったように錯覚しても、最低でも数日間の無視できぬ月日の経過がある。

 

人類銀河帝国の防衛網は、既にバグスによりズタズタにされている。人類は、一部の有力な工廠を有する星系に艦隊を優先的に振り分けた。しかしそのように縮小した防衛網の構築と維持にさえ、人類は躍起になっていた。

 

バグスのテクノロジーは人類銀河帝国に遅れをとっており、タイムラグはバグスの方が大きい。ワープの移動時間や戦力配置の最適化で、航宙軍は全てがギリギリの所で踏み止まっていた。

 

「諸君らの着陣を歓迎する」

 

そんなアデル政府の高官の歓迎の言葉以上に艦隊の将兵を感動させたのは、バグスの侵略を数度にわたり食い止めた星系が実在した事だった。

 

「見ろ、爆撃された形跡がなく都市は無事だ。」

 

艦隊のクルー達は、アサポート星系の無事な姿に安堵した。人類の生活を支える経済活動は、この星系では揺るぎなく続いていた。

 

軍艦の建造も最先端の工廠で急ピッチで進められていた。保存食に耐えた後では、差し入れられた生鮮食品も嬉しかった。人類が文明に求める物、その全てがまだアサポート星系にはあった。何より多くのクルーの家族が、無事な姿で惑星で暮らしていた。

 

艦橋でも、人類銀河帝国にようやく帰還できたとの思いから安堵した空気が流れている。そんな中で、サーラ副長がアイネイアースのカース艦長に囁いた。

 

「惑星は無事なようですが、大型艦の姿はありませんね。確認してもギャラクシー級戦艦は星系内に存在しません。スター級重巡も本艦以外に無しとはかなり戦況が厳しいのでは」

 

「歓迎ぶりを見るに、我々は戻って正解だったのだろうな。」

 

FTL通信はワープ航行中でも送受信可能である。バクスと接敵する前にアップデートを実行した艦船の方が多かったのだろう。それに最新のバグスの戦術は、大型艦から標的として執拗に狙ってくる。一度数的劣勢に立てば、艦隊の消耗は加速してしまう。

 

艦内に侵入された場合に撃退は難しく、艦の放棄や爆破も視野に入る。艦隊の総数で劣勢に立った人類は再生産が間に合わず、急速にその生存圏を減らしつつある。

 

「第三惑星上では降下したバグスの駆り出しも行われているようです」

 

バグスに素手で対抗できる宙兵の存在はどこも引っ張りだこだった。侵入された場合の最後の砦であると同時に、惑星からバグスを駆逐する決め手でもある。

 

「やはり、これまでに襲来した敵に多数のBG-X型の戦列艦が含まれていたようだな。他の星系の支援の為に大半のスター級重巡洋艦を送り出した後で、虎の子のギャラクシー級とスター級が沈められたのはバグスの戦列艦と相打ちにさせたからのようだ。」

 

カース艦長が惑星管理AIから提供された過去の防衛戦のログを遡る。これまでこんな人類圏の深奥にバグスの侵入を許した事はない。それだけ深刻な事態だった。これではこの星系の防衛網はもう存在しないに等しい。

 

「おっと。本艦は防衛司令長官の座乗艦に任命されたようだ。司令官がシャトルでお越しになる。皆、気を引き締めるようにな。」

 

 

 

 

 

アサポート星系の防衛司令長官はカルラ・アイローラ中将だった。アイローラ中将は、今回の一連の戦闘で星系を守り切った事で“不敗”の二つ名を将兵から綽名されるほど評価が高く、戦歴は華々しい。彼女の名を聞いて奮い立たない兵は、今の人類銀河帝国には存在しないだろう。

 

連絡艇(シャトル)に乗って現れたアイローラ中将は、骨折した腕を攣った痛々しい姿だった。それは無理からぬ事である。司令官が新たな座乗艦を必要とするのは、元の艦が沈んだ事を意味するのだから。ナノムに修復させるにしても、怪我の治癒は相応の時間はかかるものなのだ。

 

カース艦長とサーラ副長からの挨拶に答礼するのもそこそこに、アイローラ中将は本題を切り出した。

 

「あなた達には手短に言うわ。駐留艦隊には艦が足りない。でもそれ以上に熟練したクルーが絶対的に不足しています。」

 

アイローラ中将の発言に、喜びの余韻を漂わせていた艦橋内に衝撃が走った。

 

「現時刻を持って、この艦隊のクルーを全員一階級昇進させます。そして新たな艦に割り振り直します。」

 

艦を最小限コントロールできる程度の熟練スタッフを残し、艦隊の構成員はより多くの艦に分散する。それはもはや人員さえ、防衛戦における消耗品と見なされている事を意味している。一隻の沈没で、熟練したクルーを全喪失する事態はもはや許されないのだ。

 

バグスは大型艦に群がる。アイローラ中将はそれを利用して自身の座乗艦に敵を誘き寄せ、艦載AIに自爆させて敵のBG-X型の戦列艦を一網打尽にしたのだとという。

 

敵総数の多さから、第三惑星への降下は許してしまったが地上の防衛隊も数が多い。軌道上からの支援攻撃も実施して、惑星上でのバグスの活動は食い止められているとの話だった。

 

「[イリアス]のクルーを救出してくれた事には感謝します。優秀なギャラクシー級のスタッフは、最優先で主力艦に回されます。これから我々は艦隊戦力の充実を行い、戦況を立て直します。」

 

従来の人類銀河帝国の艦艇運用は『敵に勝る艦種をぶつけて質で相手を凌駕する』を基本原則としてきた。主力艦がギャラクシー級戦艦とスター級重巡洋艦なのは、これらの艦種のみが性能でバグスの艦船を凌駕出来るからだ。

 

その為、プラネット級の軽巡洋艦はあまり使われて来なかった。優先して退役させる対象となって来たのは、建造コストがスター級とさして変わらない為だ。コストは同等で、バグスの艦艇に対する戦績はスター級より遥かに低かった。

 

人員や維持のコストに至ってはスター級と変わらない。それならスター級を増産するのが正解である。だが艦の総数が不足すれば、そんな贅沢も言えなくなる。

 

アデル政府は、退役させたプラネット級軽巡洋艦を多数保持している。大半は兵装を外してモスポール処理されているが、そのように保管されていたものは全て復元させる。これらはかなりの旧式艦だが、今は艦の数を揃える事こそが全てだった。

 

「自分が艦長でありますか。」

 

「自分も艦長ですか。」

 

「え、私が副長。」

 

昨日まで駆逐艦の艦長だった者は一律でプラネット級軽巡洋艦の艦長に異動となった。後釜として、駆逐艦の副長が駆逐艦の艦長に昇任する。その更に後釜の副長級は、艦隊士官であれば手当たり次第に任用された。

 

艦長と副長を補佐する艦隊クルーに至っては、補充人員の大半が士官学校の生徒である。各艦の艦橋クルーは経験者2名が定数となり、3名も経験者を積んだ艦は“優遇されている”と言われた。

 

航宙軍に追加された戦力は旧式のプラネット級軽巡洋艦に留まらない。戦力の大半は接収した貨物商船に光子魚雷の発射管を搭載した改造艦だった。主だった下士官はAIによる士官教育を経て、これら貨物商船改造艦の運営責任者とされた。

 

サテライト級駆逐艦の下位に分類されるこれらの艦種は総称してアステロイド級と呼称される。これらアステロイド級の艦艇で戦力の嵩上げを行い、光子魚雷の数で対抗するのが防衛戦の骨子となる。人類は掻き集められるだけの戦力を掻き集めた。これはまさに、人類の生存を賭けた総力戦だった。

 

 

 

 

 

「明るい材料もあります。現在、アデル政府が改装空母を急ピッチで建造中です。おそらく、あと数日で実戦に投入できるでしょう。カース中佐、いえカース大佐は艦隊旗艦の艦長として改装空母に転任となります。」

 

「空母、でありますか。」

 

カース艦長が尋ねた。人類銀河帝国にこれまで空母という艦種はなかった。ギャラクシー級戦艦こそが永らく宇宙艦の花形だったのだから。

 

空母と言っても既存の軍艦の艦載機の大半は艦に搭載された上陸艇(エアシップ)と少数の連絡艇(シャトル)である。まともな対艦攻撃能力など期待できないだろう。空母と名乗って、どのような艦載機を保持するというのか。

 

「空母の等級はエーテル級です。艦載の上陸艇(エアシップ)連絡艇(シャトル)には全て機雷を積んで敵艦に突っ込ませます」

 

「なるほど、AIによる特攻機を搭載するのでありますか」

 

「いいえ、今は人よりもAIこそが貴重です。だから有人機なのですよ。特攻機のパイロットは惑星防衛の為に志願した民間人を選抜しています。」

 

アイローラ中将の口調は表面上は穏やかでも中に厳しさを湛えている。アデル政府による特攻機運用の決定が覆る事は無いのだろう。

 

「艦隊の士官も士官学校の生徒が主軸です。下士官も皆、急増の士官としてアステロイド級などに振り分けられています。特攻機のパイロットに至っては民間人だ。どうしてそこまで?」

 

カース艦長が疑問を呈する。

 

「もはや質で対抗できない以上、数で対抗するしかないからです。」

 

アイローラ中将の回答は明確だった。そして付け加えた“もう人類銀河帝国にはギャラクシー級の戦艦は残存していない”と。

 

「ギャラクシー級の圧倒的管制力が失われた今、艦隊が質で凌駕する事は困難です。」

 

「もう、この戦争はそんな段階になっているのでありますか。」

 

カース艦長は絶句した。ついこの間まで、人類はバグスを相手取って互角に戦いを展開していたではないか。

 

「母星の位置を掴めない以上、我々はずっと総力戦を実施していただけです。その実態は長い防衛戦でした。そして、ついに我々の守備が破られる日が来たというだけです。」

 

「一体、何があったのですか?」

 

アイローラ中将はため息をついた。

 

「艦隊本部のある、惑星アデルの惑星管理用AIがハッキングされました。バックドアを突かれたのです。」

 

「ええっ、バグスは遂にハッキングという概念を得たのですか。」

 

敵性技術の研究は互いに実施している。同じ人類種でも体系の異なるテクノロジーの理解は容易ではないが、バグスの技術は生体の機能に依存したものが多く人類には理解し難い。

 

一方でバグスは捕らえた人間を飼育しているという噂があった。数年前に会話可能なバグスの個体が確認されている。

 

「ハッキング手法の詳細は不明ですが、上位権限認証が悪用されたと考えています。」

 

AIにも等級がある。より上位のAIは高性能で権限も強い。現在最高の戦艦であるギャラクシー級に搭載されている艦載AIこそが単体性能では人類の持つ最高性能であり権威である。

 

「失礼ながらギャラクシー級の艦載AIのハッキングなど、我々人類でも困難ではないかと考えます。」

 

サーラ副長も思わず口を挟んでいた。

 

「それが、どうも政府が意図的に設置したバックドアがそのままになっていたようです。」

 

カース艦長もサーラ副長も絶句した。AIは何重もの安全策により正当な権威に従うようにプログラムされている。パスワードによるバックドアによる裏口など本来あってはならないものだ。そんなものは、どう転んでも個人の欲望を満たす為の犯罪の手口にしかならない。

 

「艦載AIがセキュリティを更新してもバックドアがその対象外になっていれば何の意味もありません。・・・納得しました。」

 

AIは上位権限を信用する傾向がある。もし仮にインストールパッケージを精査させても、この脆弱性はAIの認識の外にある。見えない脆弱性は対処出来ないだろう。

 

「しかし、それはまた何という愚かな事を上層部はしてしまったのですか。」

 

人類がバグス相手に一千年戦い続けて来たのはAIによる人類知の結集と運用が鍵である。それだけ、AIを欠いた人類は脆い。その優位をぶち壊すのが、バックドアの設置だろう。

 

「幸い、ハッキングされたとしてもAIは積極的にバグスに加担する事はありません。人類愛はAIの基本原則です。そして既存のバグスのハッキングにスター級以上は対抗可能です。ギャラクシー級を欠いた以上、当面はスター級を軸に運用する事になります。」

 

ギャラクシー級のAIこそが今最も必要なのですが、と付け加える。

 

「しかし僚艦がアップデートしたファイルは明らかに人が関わった痕跡を感じさせました。」

 

この種の技術にはAIの専門家であるサーラ副長が疑問を投げかける。

 

「バグスに内通した、もしくは捕らえられて強制的に働かされている人類がいるのでしょう。その中にバックドアを知っていた者、もしくは発見した者がいた筈です。まさか自ら進んで協力する者がいると考えたくはありませんが、自分が助かる為にそのようにバグスに与する選択をした者がいたのでしょうね。」

 

これまではAIに任せる事で、人類は優勢を保ってきた。人類がAIを全面的に信用的に信用できない状況は作業効率に限っても大幅に低下させる事になる。

 

「人類滅亡の危機です。スター級重巡アイネイアースが生き残ったのは幸運でした。撃破された記録がなく、行方不明扱いのギャラクシー級戦艦やスター級の重巡洋艦の記録が存在しています。きっとまだ数隻はこの災禍を生き残り、人類の危機に駆けつけてくれるでしょう。それでは、空母エーテルリンクの完成までよろしく頼みます」

 




次回に第三部の総括をして、それ以降は第四部となる予定でいます。
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